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㉔奇跡と幸福

 あたりがすっかり真っ暗になるまで、有さんと惺、あたしは探したけれど、結局お母さんは見つからなかった。これ以上は逆に危険だということで、捜索隊も含めその日は終了となった。
 森田さんには帰ってもらい、お父様とお母様はいつも使っているという寝室に入った。有さんと惺、あたしはリビングのソファで毛布に包(くる)まっている。
「菜乃果さんは、ベッドで寝て」
 眠れないのか、しばらくするとお母様が降りてきてそう気遣ってくれたけど、あたしはここに居たいのだと断った。
 
 早朝、まだ朝靄(あさもや)が立ち込める中、あたしは別荘の庭に出た。
 9月末は、避暑地ではもう完全に秋だ。ひんやりとした大気の中で、周囲を見回す。
「菜乃果」
 有さんも、庭に出てきた。
「結局、眠れなかったな」
 そう言って、有さんはあたしの肩を抱く。その温もりを感じながら、あたしは一点を見ていた。
「ねぇ、有さん。考えたんだけど」
「なんだ?」
「お母さんが向かうとしたら、どこだろう?」
 有さんは答えない。それはそうだ。それがわかれば、そこを探すはずだ。
 あたしは、前方に広がる小高い丘を指さして言った。
「有さん、あそこへ行こう。あそこなら周囲が見渡せる。昨日みたいに闇雲に山林や沢地を探しても、範囲が広すぎるもの。今日はあそこで、お母さんが行きそうな場所をまず考えてみよう?」
 有さんはちょっと難しい顔をして考えていたけれど、やがて「わかった」と頷いた。

 そして見晴らしよく開けすぎていたため、昨日は捜索していなかった小高い丘で、大きな木の根元にうずくまるようにして眠るお母さんを有さんとあたしは発見した。
 まるで魔法のような、でもあっけないほどの、奇跡だった。


✵ ✵ ✵

 病院に運ばれたお母さんは、とても衰弱していた。右手首を骨折し、左足首にヒビが入っていた。とても痛かったはずなのに、どうやってあの丘まで辿り着くことができたのか。
 か細く冷たくなり、痛々しく患部が腫れあがった身体をベッドに横たえ、いまは少し苦しそうに胸を上下させている。
「心臓が、かなり弱っています」
 もともとあまり丈夫ではなかった上に、精神的に追い詰められてからはいっそう身体が弱り、とくに心臓に問題を抱えていたらしい。
 お医者様の言葉に無言で頷いた有さんは、お母さんのベッドの傍に座ると、包帯が巻かれていない方の小さな手を取った。
 ひくり、とお母さんが反応して、ゆっくりと眼を開けた。
「あ、き、ひと?」
 有さんの眼が驚きに見開かれる。
「…と、透子さ…いや、お母さん。いま、なんて?」
 天井に向けられていたお母さんの眼がゆらりと揺れて、今度は有さんの方を向く。
「あき…ひと。暁仁、なの、ね?」
「っ、お母さん!」
 これまで有さんのことを「仁さん」と、お父さんの名前で呼んでいたお母さんが…。驚きとどう表現していいかわからない感情に、あたしの胸は潰れそうだった。
 それからお母さんは、また天井の方を見て、虚空に両手を伸ばす。
「じ、ん、さん。仁、さん。ああ、迎えに来てくれたのね。やっと、やっと来てくれた。仁さん」
 その手を、有さんが掴む。まるで、お母さんをこの世に繋ぎとめるかのように。
「仁さん、暁仁よ。暁仁が見つかったの。仁さん、あたしたちの子供、宝物よ」
「お母さん…」
「ああ、ほら、見て。似てるわ、仁さんに。理知的な瞳、品のある薄い唇、彫刻のような鼻梁、ああ何もかも、骨格まで仁さんにそっくりよ」
 佐伯仁という画家の、若い頃の写真をあたしは見たことがある。ネットで探したら、すぐ見つかるほどの高名な人だったし。とくに海外から帰り、注目されはじめた頃の写真は、姿形が有さんを彷彿させるものだった。
 佐伯仁という人の方が、有さんより少し骨太で眼光が鋭い。でも有さんの骨格が似ているのはわかるし、有さんのクールな眼と長い睫毛はお母さんの涼やかな瞳ともそっくりだ。
「仁、さん。やっと、やっと…これで一緒にいられるのね。嬉しい、仁さ、ん」
 お母さんは再び虚空に手を伸ばすと、ぞっとするほど美しい顔で微笑んだ。
 あたしは、この世のものとは思えないほど透明な美しさに息を飲むと同時に、何故だか涙がひと筋流れた。
 お母さんから眼を離さずにいたはずの有さんが、ゆっくりとあたしの方を見るとその涙に唇を寄せた。有さんの唇は微かに温かくて、あたしをもっと切なくさせた。


✵ ✵ ✵

 大きな物音に目を覚ました透子は、ぼんやりと窓の方を見やった。
 微かに意識が朦朧(もうろう)として、身体は鉛のように重かった。そろそろと身を起こそうとするが、自分の身体なのにいうことを訊かない。いったいいまが何時なのかわからないが、窓から陽の光が射し込んでいるから夜でないことはわかった。
「じ、ん、さん?」
 大切な人がいない、いつからだろう?どこへ行ってしまったのだろう?
 急に悲しく不安な思いが込み上げて来て、透子は拗ねた子供のように布団を頭からかぶった。

「どうしたの、透子?」
 そのとき、大切な人の声がして、透子は今度はがばりと布団を剥いだ。
「透子、ここだよ」
 声のする方を見ると、愛しい人が、生涯でたった独り愛した人が、窓の外で微笑んでいた。
「仁さんっ」
「ああ、そうだよ。僕だよ、透子」
「仁さん…なの?」
「そうだよ、透子。迎えに来たよ」
「迎えに?」
「ああ、遅くなってごめんよ。でも、ちゃんとこれからは一緒にいられるから」
「ほんとう?」
「本当だとも。たくさんのことを片づけてきた、キミのために」
 透子は嬉しくなって、ベッドから起き上がる。さっきまで鉛のようだった身体は、いまは羽のように軽い。透子は窓に駆け寄った。
 窓が自然に開いて、愛しい人が透子へ手を伸ばす。
「さあ、行こう、一緒に。これからは思う存分、透子の絵を描くよ。透子だけを描くよ」
「あたしの、絵を、描いてくれるの?」
「ああ、僕が描きたいのは透子だけだ。キミだけが、僕の創作意欲をかきたてる」
 手を伸ばすと、愛しい人がしっかりと自分を抱きとめた。
 そしてふたりで飛んだ、空高く。
 ふわりふわり、風に乗って、ふたりは小高い丘の上に降り立った。
「見てごらん、透子」
 愛しい人が指さした先には、見たこともない美しい風景が広がっていた。小さな赤い三角屋根の教会、その上の空には天使たちが舞っている。真っ白な薄いドレスを着た女の人が竪琴を弾いていて、ピンクの頬をした子供たちが鈴の音のような声で歌っていた。
 草をはむ羊の傍には、羊飼いの少年が寝転び、その傍らに毛むくじゃらの牧羊犬がのんびり寄り添っている。
 空には虹がかかり、花の雨が降り、小川は金色だった。
「きれい…仁さん、きれいだわ」
「あそこで、透子とふたりで暮らすんだよ」
「素敵…」
「ずいぶんと遠回りをしてしまったけれど、僕たちの運命は決まっていたんだ。そしてその運命通りに、出逢ってしまった」
「ええ、出逢ってしまったわ。あたしたち」

 時折眼を覚まして、お母さんが幸せそうに語る内容を繋ぎ合わせると、そういうことだった。そのお母さんの恍惚とした表情を見て、有さんはやっと安堵した顔になった。
 お母さんは、そのとき、そしていま、とても幸福なのだと実感できた。その紛れもない事実が、あたしたちに不思議な感動をもたらした。




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  • Date : 2017-04-12 (Wed)
  • Category : アイス
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