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578

⑮初めてのはじまり

  前期試験が終わると、いよいよ留学がもうすぐだという実感が湧いてくる。 夏休みに入るとすぐに両親の元へ帰り、2週間ほど家族で過ごした。それから東京へ戻り、留学でしばらく逢えないからと有さんにたっぷり可愛がられ…いや、苛められた。 そして知花ちゃんをはじめ女子4人、男子2人、引率の井上真紀子先生、マイク・ケンドリック先生の8人で、初めての留学&海外へとあたしは旅立った。✵ ✵ ✵ 成田を午前便で立ち、夕刻... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> <br /> 前期試験が終わると、いよいよ留学がもうすぐだという実感が湧いてくる。<br /> 夏休みに入るとすぐに両親の元へ帰り、2週間ほど家族で過ごした。それから東京へ戻り、留学でしばらく逢えないからと有さんにたっぷり可愛がられ…いや、苛められた。<br /> そして知花ちゃんをはじめ女子4人、男子2人、引率の井上真紀子先生、マイク・ケンドリック先生の8人で、初めての留学&海外へとあたしは旅立った。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 成田を午前便で立ち、夕刻にヒースロー着、そこから地下鉄(チューブ)に乗って約2時間後、あたしたちは大学の寮に到着した。<br /> アメリカやカナダ留学組はホームスティだけれど、イギリスは寮だと訊いて、知花ちゃんとあたしは楽しみにしていた。ホームスティだとアットホームな代わりに、滞在先の家族と合わない場合はせっかくの留学が残念な思い出になることもあると訊いた。その点、寮は現地の大学生気分を味わえるし、なんだか合宿気分でワクワクする。<br /> 寮の部屋はそれぞれ個室、6畳ほどの広さに机とベッド、本棚とロッカー、小さな冷蔵庫があるだけのシンプルだけど機能的な造りだった。<br /> 通常は正規留学生のための寮だけど、留学生たちが一時帰国したり入れ替わったりする夏休みの間は、あたしたちのような短期留学生や学会等に出るために滞在する研究者が空いている部屋を利用できるらしい。<br /> この大学の卒業生でもある引率のケンドリック先生が、近くにある〈キャロット〉というお店を教えてくれた。そこでは日本食の食材や調味料、お惣菜やおにぎり、お弁当なども置いているらしい。<br /> またインド料理の店と中華料理の店、日本の居酒屋みたいな店が徒歩圏だと言う。<br />「時差があるから、みんなもう眠いでしょう?でももう少し我慢して、現地時間で就寝しなさい。それが時差ボケにならないコツよ」<br /> そう井上先生にアドバイスされて、時差だけでなく疲れもあるみんなは、今夜は外食ではなくサンドイッチなどがテイクアウェイできる近くのコーヒーショップや〈キャロット〉で夕食を調達することにした。<br /> 割り当てられた個室で荷物を整理しつつも、もうすでにマックス眠い。でもふらふらする頭を何とか叱咤激励して、食堂へ行く。<br />「今日は大目に見るけど、明日からは日本語禁止よ」<br /> そう言う井上先生とケンドリック先生、短期留学の仲間たちと夕食をとった。<br /> そして早々に個室に引き上げると、現地時間の9時にはもうベッドに倒れ込むようにして寝てしまった。<br /><br /> <br /> 朝7時に目覚ましが鳴る。<br /> まだ眠り足りない気はするけど、昨日のようなふらふら感がない。あたしはベッドから勢いよく起き上がると、思い切り伸びをした。さあ、初日がはじまる。<br /> 夕べはシャワーも浴びずに寝てしまったので、早速シャワー室へ行く。皆も同じだったのか、シャワー室はすでに混んでいた。交代で入ろうとしたところで、髪を拭きながら個室のシャワーから出てきた知花ちゃんに会う。<br />「グッモーニング、ナノカ」<br />「グッモーニング、チカチャン」<br /> そう挨拶し合って、なんだかくすぐったい気分になって顔を見合わせて笑った。そう、今日から日本語禁止。チカチャン、は呼び名と言うことでOKだよね?<br /> シャワーを浴び終えたら個室に戻り、髪を乾かしながらオレンジジュースとクロワッサンで慌ただしい朝食。<br /> それから8時半には1階ロビーへ集合、初日はみんなで登校する。大学は寮から徒歩10分もかからない、授業は9時から開始だ。<br /><br /> 最初の授業は、なんとテストだった。オーラル総合試験60分と、文法など基本的な筆記試験60分。結果は午後までには出るそうで、この結果によってクラス分けされるのだそうだ。キビシイっ!<br /> その後、昼まではこの大学とロンドンの歴史や簡単な生活案内、質疑応答も交えたアットホームな時間を過ごす。<br /> お昼は、英国の学食というのを初めて体験した。ここで食べたポークビーンズの味は、素朴でとてもおいしくて忘れられない味になる。日本に帰ってからもこの味を探したけれど、どんなに探しても同じ味には出会わなかった。有名なフィッシュ&チップスが学食にまであるのは、さすが英国だなと思った。味は…まあまあ、かな?<br /> <br /> 午後の授業がある教室の前に行くと、クラス分けの紙が貼り出されていた。知花ちゃんと女子2人はAクラス、男子2人とあたしはBクラス…軽くショックだ。<br /> でも日本人同士で固まらないようにと事前に井上先生に注意されていたから、かえってよかったかもとあたしは気分を切り替えた。<br /> Bクラスのメンバーはあたしたち日本人が3人、他にイタリア、ドイツ、マレーシア、韓国などからそれぞれ1~2名ずつで計12名の少人数制。さぁ、これからが本番、がんばらなくちゃ。<br /> <br /> 初日から結構みっちり勉強させられて、おまけに宿題もたっぷり出されて寮へ帰った。アイスミルクティを飲んで少し休んでから、早速宿題にとりかかる。2時間うんうん唸ってから、気分転換に食堂を覗いてみることにした。<br /> 知花ちゃん、帰ってるかなぁ。<br /> 食堂へ向かう途中で、なにやらいい匂いが鼻腔を捉えた。<br />なに?カレー…?<br /> 日本のカレーにはない、かなりスパイシーな感じがするけど、これは間違いなくカレーの匂いだ。<br /> 食堂に併設されたキッチンを覗くと、背の高いガタイのいい男の人の背中が見えた。<br /> あたしの気配に気がついたのか、その人が振り向く。<br />「ハイ」<br /> 浅黒くて目の大きな人が、少しはにかみながらそう挨拶してくれた。<br /> 30代後半くらいだろうか?日本人でも年齢が予測できないあたしは、外国人ならなおさらわからない。もしかしたら、あたしが感じるより若いのかも、外国人なだけに…。<br />「チャイニーズ?」<br /> その人が訊く。<br />「チャイニーズ デハ アリマセン。ニホンジンデス」<br /> とあたしは緊張しながら英語で答える。<br />「ボクハ セネラ・ヘーテラム………、スリランカ」<br /> ファミリーネームが長くて聞き取れなかったけれど、セネラと言う名前でスリランカ人だということはわかった。<br />「ナノカ・サワグチ、タンキ リュウガクセイ デス」<br /> そう言うと、セネラと言う人はにこりと笑って、またカレーの鍋に向き直った。<br /><br /> その後も、カレーの匂いが食堂からするたびに、ああセネラだと思うようになった。セネラの夕食は、いつもカレーだった。<br /><br /><br />「ナノカ!」<br /> 知花ちゃんの声に振り向くと、なにやら荷物を一杯抱えた彼女が、一人の女の子と並んで立っていた。<br />「ハイ、ナノカ。ユウゴハン マダ デショ?」<br /> 知花ちゃんと一緒の子は、中国からの留学生だと言う。同じAクラスで、すぐに友達になるなんて正直、知花ちゃんは凄いと思った。<br />「ハジメマシテ ナノカ。アタシハ ヨウ ヤーウェン(楊 雅文)ト イイマス」<br /> 小柄で真っ黒なストレートヘアを無造作に後ろで一つにした、意志の強そうな眼が印象的な女の子だった。<br />「ヤーウェンガ ユウゴハン ツクッテクレルッテイウカラ ザイリョウ カッテキタノ」<br /> ヤーウェンはこの夏が終わったら、英国の別の大学へ正規留学を目指すそうで、調理器具持参で来ていた。<br /> また、ヤーウェンは苦学生だった。最初の授業で、彼女が机の上に堂々と出したのは、チラシでつくったノートだったそうだ。そして教授の質問に真っ先に独りで全問正解してしまって、Aクラスのみんなの度肝を抜いたらしい。その様子はさながら教授とヤーウェンのバトルのようで、感動した知花ちゃんは絶対この子と友達になろうと思ったのだそうだ。<br /> お金を節約したいから自炊すると言ったヤーウェンに、知花ちゃんは食材費を持つことを提案した。だからこの留学期間中は、食材費を知花ちゃんとあたしが持ち、ヤーウェンが本場中国の家庭料理をつくることで話がまとまった。<br /> ヤーウェンは早口だった。もの凄いスピードでまくしたてるチャイニーズ訛りの英語に、あたしはついていくのに苦労したけど、知花ちゃんはすぐに慣れた。<br /> ともあれ、こうしてあたしたち3人は、短い間だったけれど、貴重な友情を育むことができた。<br /><br /> 平日は勉強漬けだったけれど、週末は知花ちゃん、ヤーウェンと3人で森みたいに広大な公園や人気だというマーケットに出かけた。<br /> 緑豊かな公園ではベンチや芝生に直に座ってくつろぐ人たちを真似て寝転んだり、愛くるしい姿のリスに癒された。マーケットではお店を見て回るだけでなく、ホットドッグを買って食べたり、大道芸人の楽しいパフォーマンスに拍手を送ったり、露店でドキドキしながら値切ったりした。値段交渉がダントツに上手かったのは、ヤーウェンだ。彼女はいつも堂々としていて、負けない姿勢を貫いた。<br /> なにもかもが初めてで、身体中の細胞1コ1コが覚醒しっぱなし状態みたいで、刺激的で新鮮だった。<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2016-01-31 (Sun)
  • Category : アイス
577

⑭移ろいゆく季節

 ワンルームマンションから駅へ向かうには、2通りのルートがある。大通りへ出て交通量の多い道をまっすぐ行くルートと、ちょっと遠回りにはなるけれど小さな児童公園を経由するルートだ。梅雨のこの季節、急いでいないとき、あたしが好んで通るのは後者のルートだ。 それは児童公園を囲むように、色とりどりの紫陽花が咲いているから。 紫陽花のもっとも有名な花言葉は、おそらく『移り気』だと思う。でもその正反対とも言える... <br /> <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">ワンルームマンションから駅へ向かうには、2通りのルートがある。大通りへ出て交通量の多い道をまっすぐ行くルートと、ちょっと遠回りにはなるけれど小さな児童公園を経由するルートだ。梅雨のこの季節、急いでいないとき、あたしが好んで通るのは後者のルートだ。<br /> それは児童公園を囲むように、色とりどりの紫陽花が咲いているから。<br /> 紫陽花のもっとも有名な花言葉は、おそらく『移り気』だと思う。でもその正反対とも言える花言葉もあることは、意外に知られていないのではないだろうか。<br /> 遥か鎖国の時代、国外追放された外国人が、愛した日本人女性を想って紫陽花を祖国に持ち帰った。そこから生まれた花言葉が、『辛抱強い愛情』だという説がある。<br /> 同じ花なのに正反対の花言葉を持つ紫陽花を見ながら、人の心は『変遷』と『不変』がコインの裏と表のように表裏一体なのではないかと思う。何かのきっかけで、ほんのちょっとの違いで、裏が出たり表が出たりするのではないか。<br /> <br />「あ、いけない。急がなきゃ」<br /> 紫陽花を見ながらそんなことを考えていたあたしは、時計を見て、時間にそれほど余裕があるわけではないことに気づいた。<br /> あたしには詳しいことはわからないけれど、惺が書いた研究論文がなかなか権威のある賞をもらったらしい。今日はそのお祝いを兼ねて、一足早い惺のお誕生会が氷川家で行われる。<br /> 有さんはもちろん、知花ちゃんや早乙女君も招待された。T大の惺の同級生たちも来るらしい。<br /> <br /> それから、少し前に瑞希さんが無事に退院したと訊いた。長い入院だったけれど、だいぶ体調は改善されたらしい。良かった。<br /> 瑞希さんの快気祝いも少し前にあって、有さんや祥子さんは野島家に集まったそうだ。有さんに後から聞いた話では、瑞希さんはあたしにも来てもらいたいと言ったけれど、母親である野島教授は眉をピクリと上げただけで了承しなかったのだそうだ。当然だ。<br /><br /> そして、りこさんがなんと婚約した。相手はりこさんより3つ上で大学病院勤務の産婦人科医。りこさんの気が変わらないうちに、早く結婚させたいと、家族(主に母親)が躍起になっているらしい。気が強いけれど、真っ直ぐで実は愛情に溢れた りこさんの幸せを願うばかりだ。<br /><br /> 季節が移ろうように、人の気持ちも未来へ、先へ先へと進む。ゆっくりと、あるいはとても速く。変わらないものはないのだという思いに、少しセンチメンタルになってしまうのは、きっと梅雨の季節だからだと思う。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 有さんが、惺のお祝いの会の帰り道、言った。<br />「菜乃果、俺はマンションを買おうと思う」<br />「マンション?」<br />「ああ」<br /> 有さんが長い大好きな指で、あたしの髪を弄ぶ。雨のせいで、今日の髪はいつもよりちょっとだけウェーブが強い。<br />「いまだって、素敵なマンションに住んでるのに?」<br />「あそこは賃貸だ」<br />「家賃を払い続けるのが、もったいないから?」<br /> 庶民のあたしの疑問に有さんはくすりと笑うと、こめかみに長い指で間接キスを落とした。傘を傾けて背の高いその人を見上げると、どきりとするほど真剣なまなざしがそこにあった。<br />「将来、菜乃果と一緒に住むためのマンションを買おうと決めたんだ」<br /><br /> 将来、一緒に住む…。<br />それは、いつ?<br /> 急に雨足が強くなる。移ろう季節は、雨だって気まぐれだ。<br /><br />「だって、あたし、これから就活…」<br />「わかってる。いますぐに、どうこうしようという訳じゃない。ただ、菜乃果と一緒に暮らす棲み家をつくっておく。それは俺の覚悟で安心材料だ」<br /><br /> 覚悟と、安心材料…。<br /> それは、有さんも移ろう季節に何かを感じてるっていうこと?<br /><br />「一緒に探してくれるか?」<br />「マンション?」<br />「ああ。ふたりで住むための部屋だ、一緒に探さなければ意味がない」<br /> それはとてもワクワクすることのはずなのに、なぜだか実感が湧かない。戸惑い気味のあたしを安心させるように、有さんは傘を持っていない方の手を繋ぐ。<br />「菜乃果。実際に一緒に暮らすのは、就職が決まってからでいい」<br />「待ってくれるの?」<br />「当たり前だ」<br /><br /> でも、それは早くても1年以上先で…。<br /> 大丈夫、有さんとあたしは変わらない。変わるわけがない。<br /> だけど少し心細くなって、繋いだ手を強く握る。<br />「…嬉しい」<br />「そうか、よかった」<br /> <br /> スクランブル交差点は、今日も大勢の人が行き交う。色とりどりの傘を差しながら早足に歩くレインコートやレインブーツを身につけた人々は、たまたまこの場所と時間に偶然に居合わせただけの人だ。<br /> だけどその中に、何かの必然が潜んでいたとしても、いまそのことに気づく人は恐らくいないのだ。<br /><br />「あ」<br /> スクランブル交差点の正面にある巨大な電光ビジョンを見上げるようにして、有さんが小さく叫んだ。<br />「佐伯 仁が亡くなった」<br />「誰?」<br />「さえき じん、高名な日本画画家だ」<br />「そうなの?」<br /> 有さんは頷きながら、電光ビジョンに流れるニュース速報をしばらくじっと見ていた。<br /><br /> ~数々の名画と功績で知られる日本を代表する画家、佐伯 仁さん死去。74歳。通夜、告別式は…~<br /><br /> 鼻腔の高い、少し神経質そうな、でもとても整った知的な横顔。初めて見るのに、なんだかとても印象に残る。<br />なぜだろう? 誰かに似ている気がする。<br /> その横顔はすぐに消えて、彼が描いたのであろう重厚な色調の絵画が映し出される。<br /> きっと、気のせい。誰に似ているかなんて、結局わからなかった。<br /><br />「凄い、遺産数十億円か?だって」<br />「へー、この爺さん、何やってる人?」<br />「画家?とか出てなかったっけ」<br />「画家ってそんなに儲かるのかよ?」<br />「知らなぁ~い」<br /> 今度は若い男女の、そんな会話が耳に入ってくる。<br /><br />けれどもやがて次のニュースが賑やかな効果音とともに流れ、興味を失った人波が再び流れていく。<br /> それに呑まれるように流されるように、あたしたちも歩を進めた。<br /><br />「佐伯 仁、菜乃果は知らないか?」<br />「うん」<br />「そうか。美術に興味がなければ、日本画界の巨匠もそんなものか」<br />「ごめんなさい」<br />「謝ることはない。別に知らなくたって、いいさ」<br /> 有さんが、何でもないことのように微笑む。<br /><br /> そう、この世には知らないことが沢山あるのだ。知らなくていいことも、知りたくないことも。<br /> だけどやがて知らなければならないことは、宿命という理不尽な名のもとに、突きつけられる日が来るのだ。<br /><br /> その日、夕方から急に強くなった雨は、日付が変わるまで激しく降り続いた。</span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2016-01-23 (Sat)
  • Category : アイス
576

⑬贅沢と等身大

 表参道の裏小径を入ったところにあるフレンチレストランは、木立と門がある隠れ家的なお店だ。テラス席からは5月の緑美しい中庭が見渡せ、外界から隔絶されたような錯覚を起こさせる。 テーブルとテーブルの間は程よく離れていて、隣の席の会話が気にならないのがいい。テラス席はもちろん店内は、品のいい予約客で満席だった。「ランチのお任せコースにしておいた」 そう言う有さんは、薫風と初夏の光に包まれた瀟洒なレスト...  <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">表参道の裏小径を入ったところにあるフレンチレストランは、木立と門がある隠れ家的なお店だ。テラス席からは5月の緑美しい中庭が見渡せ、外界から隔絶されたような錯覚を起こさせる。<br /> テーブルとテーブルの間は程よく離れていて、隣の席の会話が気にならないのがいい。テラス席はもちろん店内は、品のいい予約客で満席だった。<br />「ランチのお任せコースにしておいた」<br /> そう言う有さんは、薫風と初夏の光に包まれた瀟洒なレストランのテラス席が良く似合う。お客さんたちの中でも、おそらく一番子供でこの雰囲気にそぐわないあたしは、ちょっとだけ有さんに申し訳なく思う。<br /> そんなあたしの気持ちを察してか、有さんが今日のワンピース姿を褒めてくれる。<br />「菜乃果は色が白いから、アイボリーのワンピースが映えるな。俺の可愛い仔猫は、今日は都会に迷い込んだ妖精みたいだ」<br /> 歯の浮くようなセリフをさらっと言って、有さんが長い指であたしの頬を撫でる。まるで5月の風のような優しさで。<br /><br /> ランチコースはアミューズではじまってスープ、サラダ、魚料理と肉料理、デザートとドリンクまでついた贅沢な内容だった。焼きたてパンはフランスパンとロールパンの2種類。<br /> シェフは本場フランスの2つ星レストランで修業した方だとかで、素材の味を引き出す大胆で天才的な味つけと、日本人の美意識に訴えかける繊細で美しい盛りつけで、いま雑誌でもかなり話題になっている。<br /> ランチでもなかなか予約が取れないお店なのに、「ちょっと仕事関係にツテがあってね」という有さんの人脈に恐れ入る。<br /> そんな贅沢な一皿一皿を味わいつつもぺろりと平らげたあたしを、有さんが楽しそうに見る。<br />「食欲旺盛だな、菜乃果」<br />「うん。でも、さすがにお肉もお魚もっていうコースはお腹いっぱい。はぁ、おいしかったぁ」<br />「それは、よかった」<br /> 会計はテーブルで、なんだかヨーロッパのレストランみたいな雰囲気だ。<br /><br /> 豪華なランチの後は、有さんと恋人手つなぎで目的のショッピングビルへ。海外のこだわりの品々を扱うお店の並びに、高そうなバッグやカバンを置いている店があった。<br />「どのくらいの大きさがいいかな」<br /> そう言う有さんの隣で、スーツケースにつけられた価格表示を見て、あたしは驚いた。知花ちゃんが教えてくれたネットのスーツケースの、なんと3倍以上の値段だった。<br />「た、高いよ」<br /> 小声でそう言って、有さんのサマージャケットの裾を引っ張る。<br />「そんなことはない、妥当な値段だ」<br /> 上質なスーツ姿の男性スタッフが、にこにこしながら有さんの応対をしている。<br /> 最初は価格にビビリ気味のあたしだったけれど、有さんが指し示したスーツケースに眼を奪われた。<br />「か、可愛い」<br /> それはアイボリーの地に、ベルトや取っ手の部分が茶色になっているスーツケースだった。一番ベーシックなのがその色の組み合わせで、薄茶に赤、クリーム色に水色、ピンクにベージュといったキュートなタイプも。<br />「ピンクなんか、可愛いじゃないか」<br />「目立ちすぎだよ」<br /> そう尻込みするあたしに、男性スタッフや優しくアドバイスする。<br />「空港では到着すると、沢山のスーツケースがベルトコンベアに乗って次々出てきます。同じような色や形だと、探すのに苦労することもあるんですよ。ですから逆に目立つくらいでも、よろしいかと思いますよ。とくにお客様のようにお若い可愛らしい方なら、ちょっとくらい大胆なデザインでもきっとお似合いです」<br /> 淀みない営業トークともっともなアドバイスに感心していると、有さんが肩にそっと手を置きながら言った。<br />「デザインは、気に入ったんだろう?」<br /> うん、とっても! ちょっと高いことを除けば。<br /> 有さんを見上げるようにして、あたしはこく、と頷いた。<br />「個性的な色のコンビもいいが、やはり菜乃果にはアイボリーが似合うな」<br />「そうですね、今日のワンピースもとてもよく似合っていらっしゃいますし。やはり恋人のことは、パートナーが一番よくご存じです」<br /> 軽妙にあたしと有さんの両方を持ち上げながら、男性スタッフはさらに満面の笑顔になった。<br />「じゃあ、これでいいか?菜乃果」<br />「…いいの?」<br /> 逆に訊くあたしの頭を撫でると、有さんはスタッフに言った。<br />「このスーツケースに似合う、ショルダーバッグはありますか?」<br /> げ、まだ買うの?<br /> もういいよ、とジャケットの裾をさらに引くあたしに有さんは余裕で微笑んで見せて、男性スタッフに目顔で合図する。<br />「もちろん、ございますとも。こちらへどうぞ」<br /><br /> 結局スーツケースだけでなく、モノグラムがお洒落で軽くて旅行にぴったりなショルダーバッグと、お揃いのパスポートケースまで有さんは買ってしまった。<br /> 総額を見て青くなるあたしに、有さんはブラックのカードで支払いを済ませる。一括払いって、やっぱりお金持ちだなぁ。<br />「初めての海外旅行だろ?俺が一緒に行けない分、今日買ったものを持って行ってくれ。留学中もこれを見るたびに、俺を思い出すんだぞ」<br /> どんだけ束縛するつもり? そう思ったけど、やっぱり好きな人のそんな執着は嬉しい。<br />「有さん、ありがとうございます」<br /> あたしは素直に、頭を下げた。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> ダンスサークルの仲間が集まる学食のエリアで、知花ちゃんや早乙女君とお昼を食べる。<br /> 知花ちゃんやあたしのように留学へ行かない同学年の話題は、すでにはじまっているキャリアセンターによる就職ガイダンスだ。<br /> 夏休み中にインターンシップ体験を目指す仲間もいて、その話を小耳にはさみながらちょっとだけ焦る。<br />「早乙女君は、インターンシップにエントリーするの?」<br />「ううん、僕はもっぱら公認会計士試験の準備」<br />「公認会計士!?」<br /> 早乙女君から初めて訊く言葉に、知花ちゃんもあたしも驚く。<br />「うん、ウチの大学は課外講座で会計士試験対策講座があるから、まずそこからはじめようと思ってる」<br />「凄い、乙女。公認会計士って、確か国家資格だよね?」<br />「うん」<br />「でさ、お給料はいいの?」<br /> 知花ちゃんは現実的だ。<br />「うん、まあ。悪くはないよね」<br />「へえ」<br />「早乙女君て、会計士目指してたんだ。なんか意外」<br /> なんだか急にしっかりした感じに見えはじめた早乙女君に、あたしはそう言った。<br />「そぉ?だって僕の父親、会計士なんだよ」<br />「そうなのぉ!?」<br /><br /> 3年になって、みんな将来のことを少なからず真剣に考えはじめている。まだ、自分がどんな職業に就きたいかもハッキリしないあたしは、気持ちだけ焦るばかりだ。<br /> 有さんには、絶対就職するって宣言したくせに、明確な青写真がちっとも見えてこない。<br />それにどんなに贅沢で華やかな大人の世界を、有さんという素敵な恋人を通して見せてもらえても、等身大のあたしは将来を不安に感じるまだ何者でもない独りの女子大生だ。<br />「惺は、やっぱ大学院かな?」<br /> まだ何者でもないけれど、将来は確実にただ者ではなくなる感じがする金髪の元同級生を思い浮かべながら、そう訊いたあたしに早乙女君が頬を染めながら答える。<br />「そりゃあ、氷川君の目指すのは研究者だから。大学院に進むのだって、苦も無く実現するでしょ」<br /> だよなぁ、あのお父さんの子供で、あのIQだ。何の心配もいらない、進むべき道も明確だ。<br />「知花ちゃんは、どんな職業に就きたいの?」<br /> ちょっと心細くなって訊ねたあたしに、知花ちゃんは知花ちゃんらしい答えをする。<br />「いまは、あたしたちは留学!それ一本に絞ろう!!」<br />「そ、そうだね」<br /> そう答えたものの、なんとなく心が落ち着かない季節の真っ只中にあたしたちは居た。</span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br /><br />
  • Date : 2016-01-17 (Sun)
  • Category : アイス
575

⑫ささやかな共通点

「コーヒー」 今日も三代目が仕立ての良さそうなスーツに身を包み、朝のベーカリーショップにやって来た。 内藤さんが言う通り、シワひとつない糊のきいたワイシャツとブラントものっぽいネクタイ、そしてスーツの下の胸板が厚いせいか日本人ぽくない着こなしだ。 ただいつもと違うのは、疲れているのか、ちょっと眉毛の間を指で押さえながら注文する声にも張りがない。「なんだか、疲れてるっぽかったですね」 いつものように... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br />「コーヒー」<br /> 今日も三代目が仕立ての良さそうなスーツに身を包み、朝のベーカリーショップにやって来た。<br /> 内藤さんが言う通り、シワひとつない糊のきいたワイシャツとブラントものっぽいネクタイ、そしてスーツの下の胸板が厚いせいか日本人ぽくない着こなしだ。<br /> ただいつもと違うのは、疲れているのか、ちょっと眉毛の間を指で押さえながら注文する声にも張りがない。<br />「なんだか、疲れてるっぽかったですね」<br /> いつものように嬉々として三代目の応対をした内藤さんに、小声でそう言う。<br />「そうねぇ。でも、気だるげな仕草も、なんだか色っぽいわぁ。夕べ、がんばっちゃったのかしらぁ?」<br />「え…」<br />「いやぁん、沢口さん。エッチな想像しちゃった?」<br /> そう仕向けたの、内藤さんですよね?あたしは純粋に、仕事で疲れてるのかもって意味で言ったんですけど?<br /><br /> あたしたちの勝手な想像も知らず、三代目は今日もタブレットを睨んでいたけれど、きっかり40分でベーカリーショップを出て行った。<br />「あれ?」<br /> 三代目が座っていた席の向かいの席に、あたしは封筒が置かれたままになっていることに気がついた。きっとトレイを片づける際にいったん置いて、忘れてしまったのだと思った。しっかりしている風に見える三代目だけど、今日はやっぱり相当疲れている感じがした。<br /> 内藤さんも気づいて、すぐに席に封筒を取りに行く。その封筒を持ってくると、内藤さんは、あたしに向かってそれをずぃと差し出した。<br />「20代、追いかけて。はい、全力疾走!」<br />「あ、はいっ」<br /> 内藤さんの勢いに負けて、封筒を受け取るとベーカリーショップを走り出た。<br /> 駅構内は通勤の人々で混んでいて、三代目の姿はすでに見えない。いつも出て行く方向から、おそらく北口の方だと当りをつけたあたしは、周りを見回しながら小走りに人混みをぬって行く。<br /> そして北口のロータリーの方から、慌てたように走ってくる三代目の姿を見つけた。どうやら忘れたことに気がついて、戻ってきた様子だ。よかった、きっと大事なものだったんだろう。<br /> あたしは封筒を掲げながら、三代目に小走りに近づいた。三代目も気づいたようで、明らかにほっとしたような様子でこちらに駆けてくる。<br />「ありがとう、追いかけてきてくれたんだ」<br /> 意外に温かな声で、正面から視線を合わせると三代目が言った。驚いた、眼を合わせたなんて初めてだし、こんな温かな声音をしていたなんて…。<br />「あの…どうぞ」<br /> 差し出した封筒を受け取ると、三代目は心底ほっとした表情になった。<br />「いや、助かったよ」<br />「よかったです。じゃあ」<br /> そう言ってベーカリーショップに戻ろうとするあたしに、三代目が言った。<br />「お礼しないと…キミ、名前は?」<br />「お礼なんて、いいです」<br /> そう言うと、ぺこりと頭を下げて三代目に背を向けて歩き出した。<br />「いや、でも…」<br /> 三代目がさらにそう言うのが聞えたけれど、あたしは振り向かなかった。当然のことをしたまでだし、お店のお得意様だし。<br /> そして、それが三代目に会った最後だった。<br /> その日が、あたしのアルバイト最終日だったからだ。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 5月の連休明け早々には、短期留学の説明会が大学で行われた。<br />「たった3週間だから、短期留学と言うより語学研修よね」<br /> 知花ちゃんはそうサラッと言うけど、あたしは結構緊張しながら先生の説明を訊いた。まあ、知花ちゃんの場合、本当は近藤君と同じくもっと長期で行きたかったのだけど、それにはお金と覚悟と本当の実力がいる。<br />「ね、ライダー先生のゼミだけでなく、語学学校も通った方がいいかな?」<br />「今更じたばたしても、遅いよ」<br /> アメリカよりイギリスの大学の方がレベル的には高いと訊いて不安を隠せないあたしに、度胸のある知花ちゃんは平然と言う。<br />「それより、英国行くならブリティッシュの発音に慣れとかないと。ライダー先生はアメリカ人じゃん、リスニングテープ訊きまくるしかないわね」<br />「そ、そっか」<br /> 発音の違いまで気が回らないよぉ、と喉まで出かけた言葉を飲み込む。<br />「ま、ブリティッシュ・イングリッシュの方が訊きやすいけどね」<br />「う、うん」<br /> なんか知花ちゃん余裕だな。<br /> どうしよ、やっぱイギリスじゃなくてアメリカにしようかな。でも、知花ちゃんと一緒にイギリス留学目指して、頑張ってきたわけだし…。<br />「あ、そうだ。菜乃果、スーツケースもう買った?」<br />「ううん、まだ。知花ちゃんは?」<br />「ネットで安いとこ見つけたんだ。色や大きさのバリエーションも揃ってるよ」<br /> 話しが早くも英語力強化から脱線しているけど、やはり女子はそういう旅支度関係も気になるのだ。<br />「わ、どこのサイト?」<br />「後で、URL送っとくね」<br />「うん、ありがと」<br /><br /> 知花ちゃんにはそう答えたけど、スーツケースは有さんがお誕生日のプレゼントも兼ねて買ってやろうと言ってくれている…んだけど。<br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> ということで、週末は有さんと一緒にお買い物。<br /> 一番の目的はもちろんスーツケース探しだけど、久しぶりの表参道デートは気分が弾む。土曜の原宿~表参道~青山はお洒落な人達が多かった。日本人はもちろん様々な国の人たちの姿だって、いまどきめずらしくもない多国籍エリアだ。<br />「まずは、昼飯だ」<br /> 有さんも上機嫌で言う。1週間前までは「本当に留学行くのか?」って往生際悪く言い続けてたのに、やっと納得したらしい。<br />「フレンチのテラス席、予約しておいた」<br />「わ、凄~い!」<br />「持つべきものは?」<br />「おいしいお店を知っている年上の彼氏?」<br /> あたしの答えにちょっと気難しい顔をして、有さんは鼻を摘み上げた。<br />「い、痛いよ」<br />「わかっているくせに、素直に答えないからだ」<br /> はい、はい。<br />「お洒落なお店知ってて、生活にも態度にも余裕があって、カッコよくてクールな大人の恋人」<br /> く、と今度は有さんが笑う。<br />「盛り過ぎだが良くできました、と言いたいところだけれど、もう一つ抜けている」<br />「なに?」<br />「わかってるだろ?」<br /> 大体、想像はつきますが…。<br /> 背の高い有さんが、その上体をあたしの方へ少し傾けて耳元で囁いた。<br />「菜乃果のいいところを知り尽くしている、エッチの上手い恋人だ」<br /> ぞく、と躰と心が反応してしまった。予測してたことなのに、有さんの悪戯っぽい眼と甘く低い声は反則だ。<br />「菜乃果、顔が赤いぞ」<br /> さらに有さんは嬉しそうに言う。<br /><br /> そう言えば…とあたしは不意に思い出してしまった。<br /> 間近で見た三代目も、ずいぶんと背が高かった。たぶん、有さんの方が高いけど。<br /> それに声もどちらかというと低くて、大人の色香があった…な。<br /> 似てるのかな、有さんと三代目。<br /><br />「何を考えている?」<br /> 覗き込む有さんの眼が、ちょっと訝し気に不機嫌な色を湛えている。<br />「あ。留学、そう、英語力ついて行けるかなって思って」<br />「不安なら、やめるか?」<br />「や、やめないよ!」<br />「はは、冗談だ」<br /> 有さんが機嫌の戻った表情で、あたしの頭を撫でる。その大きな温かな手に、心がほっこりする。<br /> やっぱり似てなんかいない。ほんのささやかな共通点で、有さんとデートしているのに三代目のことを思い出してしまった自分を反省した。<br />「ね、お腹空いた」<br /> あたしは反省をそんな甘えた言葉に隠して、有さんの腕にぶら下がった。</span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2016-01-10 (Sun)
  • Category : アイス
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〈3〉ウルリピ食堂

  朝ご飯にフルーツを食べて広場の噴水をシャワー代わりにしたアクアとシンラは、この街をもう少し探索してみることにした。 急ぐ旅ではないし、この街は豊かで活気があって、人々が比較的優しい。アクアのオッドアイを見ても、一見 獰猛(どうもう)そうなシンラを見ても虐げる人はいなかった。「今日は、昨日と反対側に行ってみようよ」 なんだか楽しいことが起こりそうな予感がして、アクアは気分が高揚した。 元気で晴れ...  <br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br /> 朝ご飯にフルーツを食べて広場の噴水をシャワー代わりにしたアクアとシンラは、この街をもう少し探索してみることにした。<br /> 急ぐ旅ではないし、この街は豊かで活気があって、人々が比較的優しい。アクアのオッドアイを見ても、一見 獰猛(どうもう)そうなシンラを見ても虐げる人はいなかった。<br />「今日は、昨日と反対側に行ってみようよ」<br /> なんだか楽しいことが起こりそうな予感がして、アクアは気分が高揚した。<br /><br /> 元気で晴れやかなアクアと対照的に、シンラは少し元気がない。<br />「どうしたの?」<br />「何でもない」<br />「朝ご飯も柑橘オレジを一個食べただけだし…。食欲ないの?大丈夫?」<br /> 自分よりふた周りも小さなアクアにそう心配されて、シンラはぽっ、と顔を赤らめた。なんだか恥ずかしくなったのだ。<br /><br /> 俺が心配されてどうする。このチビを守ってやるのが男じゃないか、年上じゃないか。<br /><br /> いつしか、シンラの中にそんな想いが芽生えはじめていた。<br />「おぅ、行くぞ!今日は昨日と反対方向を散策するんだろ?」<br />「うんっ!」<br /> 張り切って飛び跳ねたアクアに気づかれないように、シンラはそっとため息をついた。<br /> シンラの心配事、それは…。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 陽が暮れてあたりが夜の闇にすっぽりと包まれると、アクアはいつものようにシンラの天然の羽毛布団にご機嫌で抱きついた。<br /> その日は散々歩いたから疲れたのだろう、アクアはシンラの胸にすっぽりと収まるとすぐにくぅすぴと可愛い寝息を立てはじめた。<br /> 相変わらず寝相の悪いアクアが落っこちないようにと、両前足で抱え直そうとしたそのときだった。<br /> っく! こ、これは、どうしたことだっ!!!<br /> 思わず叫びそうになって、慌ててシンラはぐっと全身に力を入れて何とか耐えた。アクアを抱く腕にもつい力が入ってしまったようで、アクアはもぞりと動くと「んんむぅ」と不満そうな声を上げた。<br /><br /> いかん、いかん、落ち着け、俺。<br /> これは2度目じゃないか、今度は両後足ではないが…。<br /><br /> そう、アクアを抱くシンラの両前足の先が、人間のような5本指の手になっていたのだ。<br />「ここ数日は変化がなかったから、油断していたな」<br /> ぼそり、とシンラは呟いた。<br /><br /> いったい何が起こっているのだろう、俺の身体に。<br /> こんな現象は、長老からもほかのコーダ達からも訊いたことがない。広い世界を旅している漆黒なら、知っているだろうか。今度会えたなら、訊いてみよう。<br /> この手は、また朝起きたら、元通りに戻っているよな?前のように。そうでなければ、困る。気持ち悪いし、不自由だ。それに、アクアを驚かせてしまうだろう。<br /> この人間の様な手は、絶対に、今夜ひとときの間だけだ。頼む、そうであってくれ。<br /><br /> シンラは眼を固く閉じて、そう願った。<br /> そして目を再び開けると、自分の不可思議な両手をじっと見た。<br /> シンラは5本の指で、アクアの髪を恐る恐る撫でてみた。ちょっとクセのあるセピア色の髪が、さらさらと指の間を流れていく。その感触は、甘酸っぱくて心地よい。<br /> 次に人差し指で、アクアの頬にそっと触れた。<br /><br /> やわらかい、こんなに痩せているのに、なんてやわらかいんだ。<br /><br /> シンラはもう一度、アクアをぎゅぅと抱き締めると、その安心したような寝息を確かめた。<br /><br /> おやすみ、アクア。俺の可愛い、唯一の相棒。いい夢を見られるといいな。〈雲あめ〉を腹いっぱい食べられる夢、とかな。<br /> <br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「シンラ~、遅いよ。早くぅ」<br /> 考え事をしていたら、後れを取ってしまった。シンラはぴゅぅと風のようなスピードで、相変わらず飛び跳ねるように歩いているアクアを追いかけた。<br /> 広場から出発して、昨日とは反対側の道を進んでしばらく行くと、大きな建物や教会があった。仕事にでも向かうのだろうか、老若男女が往来を行き来している。初等学校があって、校庭では数人の子供たちが追いかけっこをしていた。<br />「この辺りは、きっとこの街の中心だね」<br /> アクアはそう言って、行きかう人の数が増えて賑やかさをました街を眺めた。<br /> シンラとアクアが人通りの多い大通りの角を曲がると、突然、いい匂いがふたりの嗅覚を捉える。思わず顔を見合わせ、その匂いの正体を知りたくて、少し足早になった。<br /><br /> 〈ウルリピ食堂〉と看板を掲げた店は、朝からなかなか沢山の客が出入りして繁盛していた。<br />店先の黒いボードには、メニューらしきものが白い字で書かれている。<br /><br /> *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*<br /><br /> 揚げパンとお粥の朝食 25ガロ <br /><br /> ⇓ 持ち帰りもできます<br /> ギヤの肉のサンドウィッチ 35ガロ<br /> 揚げパン1本 7ガロ<br /> 白パン1個  5ガロ<br /> 腸詰1本   13ガロ<br /> ギヤの肉1串 15ガロ<br /><br /> *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*<br /><br /> 入口の横では、大きな出窓の先で串に刺したギヤの肉や、細長い赤茶色をした棒が焼かれていて、いい匂いの正体はどうやらそれらのようだった。<br /> アクアは思わずふらふらと、大窓の下へ近づいた。<br />「いらっしゃい!」<br /> 大柄な小母さんが大きな声でそう言うと、じゅぅといい音と香ばしい匂いをさせている赤茶色の棒を、炭火の横に突き立てた。<br />「その…それ、なんですか?」<br /> おそるおそる訊ねたアクアを、小母さんが怪訝そうな顔で見る。<br />「腸詰だよ、知らないのかい?」<br />「え、っと。何かの肉ですか?」<br />「トンの肉をミンチにして、腸に詰めたものだよ」<br /> トンの肉…訊いたことがある。確かギヤよりも高くて、お金持ちしか食べられない肉だ。ごくり、とアクアの喉が鳴った。<br /> そのとき。<br />「なんだよ、お前。腸詰も知らないのかっ?」<br /> いきなりの声に驚いて振り向くと、半袖シャツに半ズボン、坊主頭の男の子が腰に手を当ててアクアを不躾にじろじろ見ていた。<br />「女のクセに、汚い格好して。どうせ金なんか持ってないんだろ、貧乏臭いなっ」<br />「こら、サブッ!」<br /> ずけずけと物を言う男の子に、小母さんが怒鳴った。<br />「まぁた、寝坊かいっ。さっさと学校行きなっ!遅刻だろう!!」<br />「だって、母ちゃん。コイツ…」<br />「女の子をコイツ呼ばわりするんじゃない。それに苛めるんじゃないよっ」<br /> サブと呼ばれた男の子は、バツが悪そうに頭をひとかきすると、走りだした。その背中に、母ちゃんと呼ばれた小母さんが叫ぶ。<br />「こらっ、行ってきますはっ?」<br /> 小母さんの叫び声は、男の子に聞こえたかどうかわからなかった。<br />「で?買うのかい?」<br /> 小母さんが、アクアに視線を戻して訊ねた。<br />「いいえ」<br /> アクアは小さく答えると、すごすごと大窓の下を離れた。<br />「腸詰1本、13ガロだって。全財産はたいても買えないや」<br /> 照れたように笑うアクアが不憫でならない。シンラは元気づけるように言った。<br />「大丈夫だ、いつかきっと買える。俺が…食わせてやる」<br /> どうしてそんなことを言ってしまったのか、わからない。でもそれはシンラの本心だった。<br /><br /> どうにかして、いつかきっと、食わせてやるから。<br /> 俺が、アクアに。腸詰でも、サンドなんとかでも。<br /></span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=731039844" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=731039844&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
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⑪名前も知らない三代目

 明けましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いいたします。 4月になって、あたしは無事に大学3年生になった。「あ、今日も来た。やっぱ、いつ見てもカッコいいねぇ、三代目は」 早朝のベーカリーショップでのアルバイトで、最近毎朝のように見かける男性が今朝もやってきた。 それを密かに心待ちにしているのは、バイト仲間の内藤和江(ないとうかずえ)さんだ。バイト仲間と言っても、40代とおぼしき彼女にはクリ... <span style="color:#00CC66"> 明けましておめでとうございます。<br /> 今年もよろしくお願いいたします。</span><br /><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> 4月になって、あたしは無事に大学3年生になった。<br /><br />「あ、今日も来た。やっぱ、いつ見てもカッコいいねぇ、三代目は」<br /> 早朝のベーカリーショップでのアルバイトで、最近毎朝のように見かける男性が今朝もやってきた。<br /> それを密かに心待ちにしているのは、バイト仲間の内藤和江(ないとうかずえ)さんだ。バイト仲間と言っても、40代とおぼしき彼女にはクリーニング店を経営する旦那さんと2人のお子さんがいる。お嬢さんが高校に入学し、朝食やお弁当をお父さんと一緒につくるようになったのを機に、内藤さんは念願だったベーカリーショップでのアルバイトを始めたのだそうだ。因みに、息子さんは中学2年生。<br /><br />「念願、だったんですか?」<br />「そうよぉ。だって子供が生まれてからずっと主婦、おまけに稼業はクリーニング屋だから、旦那と四六時中、顔を合わせてるでしょ。どんな大恋愛の末に結婚した夫婦だって、さすがに飽きるわよ」<br /> 屈託のない内藤さんの話は、いつもとても面白い。<br />「大恋愛だったんですか?」<br />「あら、そうは見えない?もう、手に手を取って駆け落ちしかねないくらいの大恋愛だったのよ。幸か不幸か、反対する人が誰もいなかったから、すんなり結婚しちゃったけど」<br />「あはは」<br /> ウケて笑ったあたしに、ちょっと気を良くしたような顔をして見せてから、内藤さんは続けた。<br />「それにさぁ、ここの制服、可愛いじゃない?アルバイトって言う口実がなければ、この年で堂々と着れやしないわよ」<br /> 確かに膝丈でウエストが絞ってある黒ワンピースは、白い襟と短めフリルの白エプロンがアクセントになっていて、清楚でとても可愛い。その制服を、少しはにかみながら嬉しそうに着ている内藤さんは、それ以上に可愛く感じるのだけど。<br />「あと、イケメンのビジネスマンが多いから、目の保養になるじゃない?」<br /> ビジネス街の駅構内にあるこのベーカリーショップは、ビジネススーツをびしっと着こなした有能そうな男性や、若いサラリーマンが利用することが多い。もちろんフレッシュなOL風女子や、素敵な仕事できそう年上女子も来るけど。<br /> そんな中でも内藤さんイチ押しなのが、毎朝のようにやってくる三代目(=内藤さん命名)だ。<br /> なんで三代目かと言うと、いま大人気のダンス&ボーカルユニットでボーカル担当のひとりに雰囲気が似ているからなんだとか。確かにあまり笑わないクールで無口な感じと、鍛えられた肉体(内藤さん弁「洋服着てたって、アタシの眼はごまかせないわ」だそう)で着こなすスーツ姿は見る人を引きつけるオーラを持っている。ならグループ名ではなくて、そのボーカリストの名前をモジればいいのにと思うのだけれど、そうじゃないところがざっくりした内藤さんらしくて逆にウケる。<br /><br />「お早うございます。いらっしゃいませ」<br /> 内藤さんがとっておきの営業スマイルで、三代目にそう言った。<br />「コーヒー」<br /> 三代目がいつものように、パンを乗せたトレイをレジに置いてそう言った。<br />「店内でお召し上がり、でよろしいでしょうか?」<br /> 慣れた感じで訊ねる内藤さんに、無言でこくりと頷く三代目。<br /> 会計をしてコーヒーとパンを乗せたトレイを持った三代目は、たいがい右側の二人用テーブル席に座る。そこでビジネスバッグからタブレットを取り出すと、何やら難しい顔でチェックをはじめるのだ。ベーカリーショップで過ごす時間は、ほぼきっかり40分。おそらく9時が始業なのだろう、それより少し前にタブレットを仕舞うと店を出て行く。<br /><br /> ベーカリーショップの忙しさがひと段落したところで、内藤さんが言った。<br />「三代目はきっと独身ね。あんないい男なのに、もったいない」<br />「なんで、独身だってわかるんですか?」<br /> そう訊くあたしに、内藤さんは当然!といった顔でこう続ける。<br />「だって奥さんがいたら、あんないい男のこと、朝食も食べさせないで出社させるわけがないでしょ?」<br />「共働きかも」<br />「ないわね」<br />「どうしてですか?」<br />「いつもぴしっと糊の聞いたワイシャツを着てるから。あれは自宅でアイロン掛けてないわ、クリーニングに出してるわね」<br />「奥さんがいたって、ワイシャツくらいクリーニングに出すんじゃ…」<br />「三代目は、どう見たって30代になるかならないかでしょ?その若さでもし共働きだったら、奥さんは貯金したい時期なわけよ。女って意外にケチだから、ワイシャツはクリーニングに出さなくていい、洗って干すだけでアイロンもいらない形状記憶タイプにするわね。もうっ、ワイシャツをもっとクリーニングに出してくれたら、ウチだってもっと儲かるのに」<br /> 話しが多少、脱線するのはいつものことだ。<br />「へぇ~、なるほどぉ。そうですねぇ」<br /> さも感心したように相槌を打つ、だって内藤さんの話は面白いから。<br /> 内藤さんは気をよくして、さらに話す。<br />「それに三代目のスーツ見た?あんな上質のスーツをあの年齢でとっかえひっかえ着られるのは、独身貴族かとんでもない金持ちよ」<br />「とんでもない金持ちかも」<br />「とんでもない金持ちなら、毎朝こんなベーカリーショップで朝食とらないでしょ?お手伝いさんか執事がいるわよ。それに出勤前にプライベートな朝の時間を使って仕事のメールや案件らしきものをチェックするあたり、有能で野心家でもあるわね」<br /> 内藤さんが腕を組んで、探偵みたいに確信したような表情で断言する。お手伝いさんはともかく、執事はドラマの見過ぎな気もするけど、面白いので放っておく。<br /><br />「こ・ん・なべーカリーショップで悪かったね」<br />「ひ、ひえっ」<br /> いつの間にか傍に来てあたしたちの話を訊いていたらしい店長が、いきなり声を掛けたので、内藤さんは驚いて首を竦めた。<br /> それを可笑しそうに横目で見てから、店長は言った。<br />「沢口さん、もう時間でしょ?あがっていいよ」<br />「あ、はい」<br /> 今日は2限から。でも、もう出ないと間に合わない。<br />「そうだ、沢口さん。もうすぐ、バイト終わりなんだね」<br /> そう、3年になったあたしは夏休みに短期留学を控えている。その準備もあるし、秋からはいよいよ就職活動がスタートする。そんな事情もあり、バイトを減らすことにしたのだ。<br />「すみません、わがまま言って」<br />「しょうがないよ、学生は勉強が本分だしね。ちょっと寂しいけど」<br /> そう言って微笑んでくれた店長にぺこりと頭を下げると、あたしは私服に着替えるためにスタッフルームへ向かった。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 私服に着替えてバイト先を出て、地下鉄駅へ向かう。大学のある駅方面の電車を待ちながら、あたしはふと視線を感じて顔を上げた。<br /> ホームの反対側に、あの人、そう1時間半ほど前にベーカリーショップを出て行った三代目が立っていた。商談先へでも行くのだろうか、何か大きな紙袋を2つ下げていた。<br /> 一瞬、視線が合った気がしたけれど、すぐに電車が入って来てあたしはそれに乗った。車内は混んでいて、反対側のホームが見えない。<br /> 騒がしいベルの音がして、プシュ―と扉が閉まると電車は走り出した。<br /><br /> やだな、あたしったら。<br /> 三代目がこっちを見てる訳ないのに。<br /> 毎朝ベーカリーショップへやって来ても、三代目はレジにいるスタッフの顔をまともに見たことがない。内藤さんがどれだけ渾身の笑顔を見せても、三代目の視線はいつも斜め下か上を見ている。<br /> 別に気取っていたり、バカにしている感じではない。ただ必要のない関わりを避けるかのような、自分の世界に入って来るのを許容する人をきちんと選別しているような…。<br /> きっとそれが大人のビジネスマン、仕事のできる男なのだろう。<br /><br />「そういうクールなところ、なかなか心を許さない感じもいいのよねぇ」<br /> 内藤さんが乙女のように夢見がちの瞳でそう言ったのを思い出して、あたしは周りに気づかれないように口許を抑えながらクスリと笑った。<br /> あのベーカリーショップでのアルバイトも、あと1か月程。それ以降は、まじで勉強しないと。短期留学とはいえ、ついていけるだけの英語力をちゃんと身に着けられるだろうか。少し不安になって、あたしは自分を勇気づけるように前を向いた。<br /> 留学の事でいっぱいいっぱいになったあたしの脳裏からは、三代目のことはいつしか自然にさらりと消えてなくなっていた。<br /><br /></span></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br /><br />
  • Date : 2016-01-02 (Sat)
  • Category : アイス
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