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9月30日の更新はR18です

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  • Date : 2015-09-30 (Wed)
  • Category : 未分類
550

⑩眼を閉じて躰を開いて

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  • Date : 2015-09-30 (Wed)
  • Category : アイス
549

〈2〉煮物と恩返し

「やあ、待たせたね」 お祖父さんが、包みを二つ持って再び現れた。「ウチの婆さん特製の煮物と、こっちはパンだ」 お祖父さんが差し出した包みの一つには大きな陶器のボールがあって、そこから温かそうな湯気とおいしそうな匂いが漂っている。「うわぁ」 それを覗き込んだ思わずアクアは、思わず正直な感嘆の声を上げてしまった。それを嬉しそうに見ると、お祖父さんはもう一つの包みを差し出す。「こっちは白パンだ。ふかふか... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br />「やあ、待たせたね」<br /> お祖父さんが、包みを二つ持って再び現れた。<br />「ウチの婆さん特製の煮物と、こっちはパンだ」<br /> お祖父さんが差し出した包みの一つには大きな陶器のボールがあって、そこから温かそうな湯気とおいしそうな匂いが漂っている。<br />「うわぁ」<br /> それを覗き込んだ思わずアクアは、思わず正直な感嘆の声を上げてしまった。それを嬉しそうに見ると、お祖父さんはもう一つの包みを差し出す。<br />「こっちは白パンだ。ふかふかでおいしいぞ」<br />「一度だけ、食べたことがあります!」<br /> 眼をきらきらと輝かせてアクアがそう言うと、お祖父さんの表情が逆に曇る。<br />「一度だけ…。たった一度しか、食べたことがないのかい?」<br /> あ、と思ったけれど、言ってしまった言葉はもとに戻らない。<br />「ウチ、貧しかったんです」<br />「そうか、じゃあ、たんとお食べ。ウチの孫も、お嬢ちゃんみたいに食べ物の前で眼を輝かせてくれるといいんだが。最近は、あまり食べなくなってね」<br />「そうですか…」<br /> なんだか申し訳ない気がますますして、アクアは眉を下げた。<br />「さ、持って行って冷めないうちに食べなさい。煮物の器は返さなくていいから、いっぱいあるから」<br /> お祖父さんが、しゅんとしたアクアに包みを渡した。<br /><br />「ありがとうございます」<br /> そう言って深々と頭を下げたアクアは、ちょっと迷ってから訊ねた。<br />「あの…この樹はずっとこの庭にあるんですか?」<br />「ん?ああ、ノキの樹かい?大きいだろう、ワシが子供の頃からあるからもう樹齢何年になることか」<br />「もうすぐ、花粉の季節ですよね?」<br />「ほう、よく知っているね」<br /> お祖父さんがちょっと怪訝そうな顔をしながら、それでもにこりとした。<br />「あの…この樹の花粉、お孫さんに良くないと思います」<br />「そうかい?でも、その前に綺麗な花が咲くんだよ。孫はそれを見るのが好きで…」<br /> お祖父さんが突然、「あ」と言った。<br />「花粉の季節…そう言えば、いつも孫は…」<br /> 何か思い当ることがあったようだ。<br /> それからちょっと真剣で怖い顔になって、お祖父さんはアクアに詰め寄った。<br />「なぜ、なぜ、お嬢ちゃんはこの樹の花粉が孫に良くないと思うんだ?」<br />「あのっ、あの…。あ、あたし、捨て子で、拾ってくれたじいじとばあばに育てられたんです。そのじいじが…教えてくれたんです」<br /> アクアは嘘をついた。<br /> でもシンラが言ったことが本当だったら、この樹の花粉がお孫さんの命を奪うことになるかもしれないのだ。アクアも必死だった。<br />「お、お医者様に相談してみてください。それでもし…」<br />「この樹を切れば、孫の病気が治るというのか…」<br /> お祖父さんは、さらに真剣な思案顔になった。<br />「もしかしたら、もしかしたらなんです。だから、お医者様に…」<br /> アクアは急に不安になった。もし、この樹を切ってもお孫さんが良くならなかったら…。それに花粉はすでに体内にかなり蓄積しているだろうし、もう遅いのかも…。でもそれはさすがに、お祖父さんには言えない。<br /> おろおろしているアクアのシャツの裾を、シンラが噛んで引っ張った。<br /> 振り向くと、シンラの眼が「もう行こう」と言っている気がした。<br />「あ、あのっ。これ、ありがとうございました」<br /> 大木を見上げ、まだ難しい顔をしているお祖父さんにまたぺこりと頭を下げると、アクアはシンラとともにその場を去った。<br /><br /><br /> 広場に戻ると、シンラとアクアはベンチでお祖父さんから貰った包みを開けた。<br /> 野菜や肉団子が入った煮物は、まだ湯気をほんのり立てていた。お祖父さんが一緒に入れてくれたスプーンでがんも芋を掬って、シンラの眼の前にずぃと差し出す。<br />「お前が先に食え」<br /> シンラがそう言った。<br />「大丈夫だよ、がんも芋は食べたことあるでしょ?」<br /> さらに鼻先にずぃとスプーンを差し出されて、シンラはちょっとがんも芋を睨んでから、ぱくと口に入れた。<br />「どう?」<br /> アクアがシンラの顔を覗き込みながら訊く。<br />「う、旨い」<br />「ホント?」<br /> 嬉しそうにそう言うと、アクアもがんも芋を口に運んだ。<br />「わぁ、ホントだ。凄くおいしい」<br /> 次にアクアは、肉団子をスプーンに乗せて差し出す。<br />「これは、なんだ?」<br />「肉団子」<br />「肉団子?」<br />「うん。たぶん、ギヤの肉」<br /> シンラが眼を白黒させる。<br />「魚だけでなく、ギヤも食うのか?」<br />「うん、普通に食べるよ。まぁ、ウチは貧乏だったから、年に1度くらいしか食べられなかったけど」<br /> シンラがまたスプーンの上に乗った肉団子を、さっきより真剣に凝視している。<br />「大丈夫、おいしいから」<br />「…先に、食ってみろ」<br /> 警戒しているシンラが可愛い。だから、アクアはちょっとからかってみた。<br />「なぁに?シンラ、初めて食べるから怖いの?なぁんだ、コーダって案外意気地がないんだね?」<br /> シンラのたてがみが、ぶぉっと広がる。ちょっと怒ったみたいだ。<br />「い、意気地がないだと?こんなもの、こんなもの、へっちゃらに決まってるだろ!」<br /> シンラが大きな口を開けて、がぶりとスプーンに噛みついた。鋭い歯が当たって、がちっと金属音がする。<br />「どう?」<br /> <br /> ど、どうって…。なんかこう、魚とは違う、はむっとした感じ?一気に飲み込んでしまったから、味はイマイチよくわからなかったが、舌に残る濃い脂の存在が動物の肉だと主張している…気がする。<br /> <br /> 長い大きな舌を出して、口元を舐めたシンラに、アクアが楽しそうに言った。<br />「ふふ、おいしいでしょ?初めての肉団子」<br /> それから白いパンを出して、こちらも仲良く分け合いながら食べた。白いパンはお祖父さんが言った通り、ふわふわでほんのり甘くて、昔アクアがじいじとばあばのために買ったものより上等な気がした。<br /> 陶器のボールに残った汁まで、残さず舐めるように平らげると、アクアはお腹を擦りながら言った。<br />「はぁ、お腹いっぱい。こんなに食べたの、初めてだぁ」<br /> <br /> そうか、とシンラも嬉しくなった。<br /> 腹いっぱい食べたことなど、いままでなかったのだろう。だから16歳なのに、こんなに痩せていて小さいのだな。<br /> これからも腹いっぱい食べさせてやりたいが、ふたりぼっちの旅では、おそらく空腹を感じることのほうが多いだろう。<br /> <br />「星が綺麗だ」<br /> アクアはそう言うと座っていたベンチを降りて、シンラの隣に座った。くっついているとお互いの体温と鼓動が感じられて、淋しくない。アクアはシンラの太い首に両手を回して、もふもふの毛の中に顔を突っ込む。少しケモノ臭い、でもほんのり甘い匂いをこっそり深呼吸する。<br /><br /> 安心する。これは、信じていい存在の匂いだ。<br /><br /> ふはっとシンラの毛の中から鼻先を出すと、今度は甘えたように額を擦りつけながらアクアは言った。<br />「ねえ、シンラ」<br />「なんだ?」<br />「あのお祖父さんのお孫さん、良くなると思う?ノキの樹を切ったら」<br /> う~ん、とシンラが考え込む。<br /> その様子を見て、アクアが焦ったように訊く。<br />「え、え?良くならないの?あたし、嘘伝えちゃった?」<br /> シンラは、慌てるアクアの頬を落ち着かせるように舐めた。それから長いシッポをアクアの背中からその小さな身体に巻きつけた、安心させるように。<br />「花粉がこれ以上蓄積されるのは、防げるだろうな」<br />「元気にはならないの?」<br />「本人の体力次第だな」<br />「え、でもっ。原因がわかれば、お医者様が直してくれるよね?」<br /> 真剣なアクアのオッドアイが、シンラを見つめる。<br />「そもそも、原因を突き止められなかった医者だからな。それに治す薬が手に入るかどうか」<br /> アクアが、シンラからぱっと飛び跳ねるように身体を離した。<br />「治す薬が、あるの?」<br /><br /> <br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 翌日の早朝、シンラとアクアは来た道を戻り、小さな自然公園の中にいた。<br />「それだ、紅ダミの実だ」<br /> シンラが、とても小さなごつごつとしたイボみたいなものをつけた紅い実を見て言った。<br />「その実を白くなるまで乾燥させて、潰して粉状にして飲ませれば体内に溜まった花粉を浄化してくれる。自然界の叡智だ、人間がまだ知らない」<br />「この紅い実が、白くなるの?」<br /> 毒々しいまでの赤とごつごつしたイボのようなものに覆われた実を、アクアは信じられない気持ちで見た。<br />「ああ、白くなったのが乾燥の合図だ」<br /> アクアはそこにあるったけの紅ダミの実を、綺麗に洗った陶器のボールに採って入れた。昨日、煮物がたっぷり入っていたボールは、今度は紅ダミの実でいっぱいになった。<br />「それくらいでいいだろう」<br /><br /> 信じてくれるだろうか…。<br /> 一抹の不安を覚えながら、シンラとアクアはお祖父さんの家の前にいた。<br /> アクアは紅ダミの入ったボールを入れた包みを、そっと門の蔭に置いた。包みには持っていた鉛筆で、こう書いた。<br />『これは紅ダミの実です。この実が白くなるまで良く乾燥させたら、潰して粉にしてお孫さんに飲ませてみてください。身体の中に入った花粉を綺麗にしてくれます。樹を切ることも忘れずに。信じてください、お孫さんが早く良くなりますように』<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=731039844" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=731039844&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br /><br />
548

⑨うさぎと豹

「俺は、うさぎか?」 そう有さんが不服そうに言うから、あのクリスマス・プレゼントは瑞希さんが有さんの目の前で開けたのだとわかった。「瑞希さん…元気だった?」 瑞希さんがうさぎを見て何と言ったかを訊きたかったのに、口をついて出た言葉はそれと違って。「ああ」 有さんは、あたしの頬を右手で軽く撫でると言った。「あのときは混乱していてごめんなさい、と伝えてくれと言われた」「ホント?瑞希さん、ホントにそう言... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br />「俺は、うさぎか?」<br /> そう有さんが不服そうに言うから、あのクリスマス・プレゼントは瑞希さんが有さんの目の前で開けたのだとわかった。<br />「瑞希さん…元気だった?」<br /> 瑞希さんがうさぎを見て何と言ったかを訊きたかったのに、口をついて出た言葉はそれと違って。<br />「ああ」<br /> 有さんは、あたしの頬を右手で軽く撫でると言った。<br />「あのときは混乱していてごめんなさい、と伝えてくれと言われた」<br />「ホント?瑞希さん、ホントにそう言ったの?」<br />「ああ」<br /> そっか…よかった、のかも。あのとき瑞希さんはあまりにも体調が悪くて、自分でもどうしようもないほど不安だったのだろう。あのとき瑞希さんが言ったことは本音だったのかもしれないけど、それにまた薄いベールをかけられるほどに回復したということなのかもしれない。<br /> ごめんなさい、瑞希さん。<br /> あたし、どうしても有さんだけは譲れない。どんな卑怯な手を使っても、と言った有さんと同じくらい、いまのあたしは有さんに執着してる。<br /> 有さんがいない世界は、もうあたしが生きる世界じゃないの。ごめんね、瑞希さん。<br /><br />「……?」<br /> 考え込んでいたあたしは、有さんの言葉を訊き逃してしまった。<br />「え?」<br />「だから、俺はうさぎなのか?」<br /> 有さんがそう言って、あたしの鼻を摘んだ。<br />「い、痛いよ」<br />「俺の話を上の空で聞いているからだ」<br /> 図星だ。照れ隠しに有さんに抓られた鼻を擦りながら、あたしは言った。<br />「えっと、有さんは、有さんは…そうだなぁ。しなやかで、カッコいい豹かな?」<br />「こら」<br />「な、なに?」<br />「持ち上げたってダメだ」<br /> ちょっと顔をしかめて怖い声を装っているけど、豹っていうイメージは有さんにとって満更でもなかったみたいだ。<br />「俺にプレゼントは?」<br /> もううさぎには拘らずに有さんはそう言って、長い手足の中にあたしを閉じ込める。たぶん有さんは察している、瑞希さんとあたしの間にあったこと。そしてそれを根掘り葉掘り訊き出さないでいてくれるほどに、彼は大人なのだ。<br /><br /> そんな大人で素敵な大切なひとために、あたしが選んだのはベストだ。ニットではなくて、3つ揃えのスーツの下に着るような布帛のベスト。後身頃がグレーで、前身頃が黒地に臙脂と紺と金色の幾何学模様が施されたモダンなやつ。ショップのウインドウで一目惚れした、これを着たマネキンが有さんに見えたくらいに。<br />「あたしと、コレ」<br /> 冗談めかして言った言葉に、有さんがびっくりするくらいに嬉しそうな反応を見せた。<br />「菜乃果だけでも、俺はよかったのに」<br />「だって、もうあたしは有さんのものだから。2度上げるのはズルくない?」<br />「まだ、本当の意味で手に入れていない」<br />「本当の意味?」<br />「ああ。紙切れ1枚だけど、法的に拘束力のあるものだ」<br /> まただ、まだ無理って何度も言ったのに。就職活動の履歴書に、既婚って書かせる気?それはもの凄く、不利なのに。<br /><br /> 有さんの言葉は軽く無視して、あたしは言った。<br />「開けてみて?」<br /> 有さんのしなやかで長い指がリボンと包装を解き、箱をあける。男の人なのに丁寧で色っぽい仕草に、なんだかどぎまぎしてしまう。有さんの指先は、いつだって器用で繊細だ。<br /> その長くてしなやかで美しい指が一瞬止まって、有さんがちょっと感嘆したような声をあげる。プレゼントに見入る瞳の色に、ほっとする。<br />「気に入ってもらえた?」<br />「もちろんだ、凄く洒落ている。気に入ったよ」<br />「ホント?」<br /> 有さんが来ていたカーディガンを脱いで、シャツの上に早速ベストを羽織る。<br />「わ、似合う。これ着てたイケメンのマネキンより、有さんの方が100倍カッコいい!」<br />「そりゃ、どうも」<br /> めずらしく有さんはそうおどけて言うと、あたしを自分の大腿の上に抱きあげた。有さんを跨ぐように座らされて、唇に軽くキスされる。<br />「俺からのプレゼンとは、俺とコレだ」<br /> 有さんがさっきのあたしのセリフを真似るように言って、またキスをする。今度はさっきより、少し長く。<br />「開けていい?」<br /> 有さんの隣に、ソファの上に置いてある包みを見ながら、あたしは訊ねる。<br />「その前に、なんだと思う?」<br /> A4サイズくらいの割に薄い箱を見て、あたしは考える。<br />「う~ん、やっぱり洋服とか?」<br /> その箱は、アクセサリーや小物のサイズではない、と思う。<br />「身につけるもの、という意味では半分当たっている」<br /> 何かを企んでいるような有さんの表情に、ちょっとだけ妖しい予感がする。<br />「膝の上から降ろしてくれないと、箱、開けられないよ」<br /> あたしはそう言うと、有さんの手をむずかるように逃れて大腿の上から降りた。<br /> 箱を開けているあたしの耳元で、有さんが甘く言う。<br />「なぁ、菜乃果。菜乃果もちゃんと身に着けて見せてくれるだろう?」<br /> ますます妖しい予感がして、あたしは有さんの方を見ずに少し乱暴に包装を解く。<br />「そんなの、わかんない。開けてみなきゃ」<br /> そう言ったあたしの手を、有さんの大きな手が掴んだ。<br />「ちゃんと身に着けて見せるって、約束するまで開けちゃダメだ」<br />「っい、意地悪っ。見てからじゃないと、約束できないもん」<br />「何故だ。菜乃果からのプレゼント、俺はすぐに身に着けて見せただろう?」<br /> 有さんが楽しそうに、ますます意地悪な表情になって言い張る。<br />「だ、だって。有さんの場合は…」<br />「俺の場合は?」<br /> ますます嬉しそうに言うと、あたしの耳朶をひらりと舐める。<br />「っ、もうっ。ダメッ!」<br /> 顔が火照ってたまらない。有さんを横目で窺うと、笑いを堪えながらもゾクリとするほど艶っぽい瞳に捉えられる。<br />「手伝ってやろう」<br /> 有さんがあたしを後ろから抱きかかえるようにすると、包みをかさかさと外す。<br />「ほら、開けて」<br /> 促されるままに箱の蓋を開けて、あたしは絶句した。<br /><br /> 中に入っていたのは、黒い繊細なレース使いの優雅なガーターベルトだった。黒の網タイツと、やっぱり黒の小さな小さな紐つきパンティ。<br /> フランスの女優になら似合いそうなエロ大人っぽいそれを、あたしが着こなせると思うの?<br /> 戸惑って、尻込みするような眼を向けたあたしの頬を有さんがまた嬉しそうにくすぐる。<br />「早速、身に着けてくれるんだろう? 菜乃果」<br /> そう耳元で囁くと、有さんは確信犯的にあたしのうなじに舌を這わす。<br />「っく…」<br />「誘うような声を上げるな」<br />「ち、違っ!」<br /> 有さんの左手はあたしの左胸を軽く揉んでから、ざっくりしたニットの中へしゅると滑り込んだ。<br />「き、きゃ…」<br />「温かそうで、可愛いニットだが、いまはいらない」<br /> 有さんは下に着たTシャツごと、ニットを一気に脱がせる。ブラもさっさと取り払われて、あたしは思わずささやかな胸を両腕で隠す。<br />「今更…」<br /> 有さんがあの余裕の笑みを浮かべて、胸を隠した両腕を外させた。何度こうされても慣れない。恥ずかしさから有さんの顔をまともに見られなくて、あたしは眼を瞑って横を向く。<br /> 有さんはそんなあたしを抱き上げて、ベッドへ運ぶ。ベッドの上にそっと下ろすと、短く命令した。<br />「そのまま。動くなよ」<br /> これから起こることが容易に想像できて、あたしの頬と躰は早くも火照りだして身の置き所がない。<br /> 有さんは黒いガーターベルトと網タイツ、紐パンを手に寝室に戻ってくる。そしてそれをベッドの端に置くと、まずサイドチェストを開けた。そこから有さんが取り出したのは、黒いアイマスクだ。安眠のためでは、もちろん、ない。<br /> 有さんは楽しそうに薄い唇の口角を上げて、宣言した。<br />「さあ、菜乃果。創造力と楽しく戯れる時間だ」<br /><br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-09-23 (Wed)
  • Category : アイス
547

恋愛心理テスト【10円玉】

連休と言うことで、連続して【恋愛心理テスト】など(*´ω`*)はい、今日はコレです。【心理テスト】自販機で10円玉が落ちて転がりました。あなたは?A.そんなドジしないB.気にしないC.取れそうなら拾うD.絶対拾うmaoちゃん「あたしは、もちAよ。だぁれがそんなドジすんのょっ(*`^´)=3」↑そもそも自販機で買えない。お金だってもってないし。。。灯凪田テイル「あたしはDだなぁ。がんばって探して、拾うん(〃▽〃)」では、あなた... 連休と言うことで、連続して【恋愛心理テスト】など(*´ω`*)<br /><br />はい、今日はコレです。<br /><br /><br /><br />【心理テスト】<br />自販機で10円玉が落ちて転がりました。あなたは?<br />A.そんなドジしない<br />B.気にしない<br />C.取れそうなら拾う<br />D.絶対拾う<br /><br /><img src="http://blog-imgs-1.fc2.com/emoji/2009-03-17/369100.gif" alt="" border="0" style="border:0;" class="emoji">maoちゃん<br />「あたしは、もちAよ。だぁれがそんなドジすんのょっ(*`^´)=3」<br />↑<br /><s>そもそも自販機で買えない。お金だってもってないし。。。<br /></s><br /><img src="http://blog-imgs-1.fc2.com/emoji/2009-01-23/348307.gif" alt="" border="0" style="border:0;" class="emoji">灯凪田テイル<br />「あたしはDだなぁ。がんばって探して、拾うん(〃▽〃)」<br /><br /><br />では、あなたは?<br /><br />・<br />・<br />・<br />・<br />・<br />・<br />・<br /><br /><br />【結果】<br />過去に恋人からもらった物へのこだわりがわかる<br />A.すぐ手放す<br />B.過去は過去<br />C.使い続ける<br />D.丁寧に保管<br /><br />https://twitter.com/renai_l<br /><br /><img src="http://blog-imgs-1.fc2.com/emoji/2009-03-17/369100.gif" alt="" border="0" style="border:0;" class="emoji">「あら、当たってる。でも元カレもプレゼントも多すぎて、いちいち覚えちゃいないゎあ~(・∀・)ケケ」<br />↑<br /><s>大うそ</s><br /><br /><img src="http://blog-imgs-1.fc2.com/emoji/2009-01-23/348307.gif" alt="" border="0" style="border:0;" class="emoji">「う、うゎあ~。捨てるに捨てられず、かといって使うこともできず、<br />コソッと隠してるかもぉ~:(´◦ω◦`):」<br /><br /><br />ま、あまり気にせず。楽しんでいただければ。。(*´ω`*)<br />
546

恋愛心理テスト

【診断メーカー】に続いて、【恋愛心理テスト』でも遊んでみましたぁ~\(^o^)/【テスト問題】合コンで好みのタイプの人が少し離れた席にいます。どんな態度をとる? 1何も言わずに見つめる 2隣の席に行く3気にしない素振りで別の人と盛り上がる灯凪田テイル「あ、あたしは1番かなぁ(*´ω`)」maoちゃん「ふん、アタシは3番ね(`・ω・´)」皆さんは?結果は…・・・・・【結果】悪女度がわかります1悪女度 0%2悪女度30%3悪女... 【診断メーカー】に続いて、【恋愛心理テスト』でも遊んでみましたぁ~\(^o^)/<br /><br /><br /><br />【テスト問題】<br />合コンで好みのタイプの人が少し離れた席にいます。<br />どんな態度をとる? <br />1何も言わずに見つめる <br />2隣の席に行く<br />3気にしない素振りで別の人と盛り上がる<br /><br /><br /><img src="http://blog-imgs-1.fc2.com/emoji/2009-01-23/348307.gif" alt="" border="0" style="border:0;" class="emoji">灯凪田テイル<br />「あ、あたしは1番かなぁ(*´ω`)」<br /><br /><img src="http://blog-imgs-1.fc2.com/emoji/2009-03-17/369100.gif" alt="" border="0" style="border:0;" class="emoji">maoちゃん<br />「ふん、アタシは3番ね(`・ω・´)」<br /><br /><br /><br />皆さんは?<br />結果は…<br />・<br />・<br />・<br />・<br />・<br /><br /><br /><br /><br />【結果】<br />悪女度がわかります<br />1悪女度 0%<br />2悪女度30%<br />3悪女度100%<br /><br />https://twitter.com/renai_l<br /><br /><br /><img src="http://blog-imgs-1.fc2.com/emoji/2009-01-23/348307.gif" alt="" border="0" style="border:0;" class="emoji"><img src="http://blog-imgs-1.fc2.com/emoji/2009-03-17/369100.gif" alt="" border="0" style="border:0;" class="emoji">「ぬぅわっ!Σ(゚□゚(゚□゚*) あ、当たってる。。。」<br /><br />
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⑧クリスマスのお願い

「どうした、菜乃果。今週は元気がないな」 土曜日、有さんの部屋でいつもより沈みがちなあたしに、彼がそう言った。 瑞希さんのお見舞いに行ったことは伝えたけれど、瑞希さんが言った言葉は、有さんに伝えられずにいた。「ううん、何でもない」 ソファに座ってぼんやりとミルクティーを飲んでいると、コーヒーを手にキッチンから出てきた有さんが隣に座る。「菜乃、こっちを見なさい」 有さんの声が逆らうことを許さないから... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br />「どうした、菜乃果。今週は元気がないな」<br /> 土曜日、有さんの部屋でいつもより沈みがちなあたしに、彼がそう言った。<br /> 瑞希さんのお見舞いに行ったことは伝えたけれど、瑞希さんが言った言葉は、有さんに伝えられずにいた。<br />「ううん、何でもない」<br /> ソファに座ってぼんやりとミルクティーを飲んでいると、コーヒーを手にキッチンから出てきた有さんが隣に座る。<br />「菜乃、こっちを見なさい」<br /> 有さんの声が逆らうことを許さないから、あたしは素直に大好きなひとの眼を正面から見つめる。<br />「俺が、なにかしたか?」<br /> 有さんの眼から視線を逸らさずに頭を振った。<br />「じゃあ、落ち込むようなことが何かあったのか?」<br /> どうして、わかってしまうのだろう。<br /> 今度は、彼の眼を真っ直ぐに見られない。<br />「有…さん」<br /> あたしは、隣に座る有さんの首に両手を回して抱きついた。<br /> ちょっと驚いたような気配がしたけれど、有さんは黙ってあたしの背中に両手を回した。<br />「有さん、大好き」<br /> 有さんの首筋から愛用しているシャンプーとボディソープと、彼自身の匂いがする。大好きで安心する匂いに、鼻の奥が何故だかじんとする。<br />「有さんのこと、世界で一番好き。有さん以外にこんなに好きになったひと、いない」<br /> それは、とても正直な気持ちで。いつもなら恥ずかしくて言えないホントの気持ちが、今日はするすると口をついて出る。<br />「どうしたんだ?」<br /> 有さんが怪訝そうにそう訊きながら、でも頭を優しく撫でてくれる。<br /> この手を、ずっと離さなくていいよね?有さんの温もりをずっと感じていても、罪じゃないよね?<br /> 鼻の奥が、また痛いようなつんとした感覚があって、あたしは慌てて涙を堪える。<br />「なんでも、ない」<br /> そうか、と有さんはさらに優しく今度は頭だけでなく背中までをゆっくりと撫でる。小さな子供をあやすみたいなその仕草に、ずっと甘えていたい気持ちになる。<br />「いいものだな」<br /> ? なにが?<br />「気まぐれな仔猫に、こうして甘えられるのも悪くない」<br />気まぐれじゃないよ。いつも意地悪な有さんが、絶対に言うことを訊かせるくせに。逆らうことなんて、許さないくせに。<br />でも今日は、いつにもまして、あたしの心は大好きな人に従順だ。<br />「甘えてて、いい?」<br /> ふ、と有さんは笑うと言った。<br />「ああ、いくらでも。飼い主に甘えるのは、飼い猫の特権だ」<br />「ときどき、噛みつくのも特権?」<br /> あたしはそう言うと、有さんの首筋に軽く歯を当てる。<br />「ああ。噛みついた飼い猫にお仕置きするのも、飼い主の特権だからな」<br /> いつものようにそう意地悪を言うけど、有さんはいつもと違って今日は抱きしめたままでいてくれる。<br />「にゃあぁ~ん」<br /> あたしは思いっきり甘えた声で、有さんの腕の中で鳴いた。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />まだ11月だというのに、街では華やかなイルミネーションが早くもクリスマス準備へと気持ちを急かせる。<br />去年のいま頃は、有さんに悪戯に乱される気持ちを抱えたまま、初めての本当の恋心に気づかずにいた。今年は、有さんと迎える初めてのクリスマスになる。<br /><br />「クリスマスは、どうする?」<br /> 有さんが訊く。<br /> 今年のイブもクリスマス当日も、平日だ。だからきっと、彼は仕事で忙しいはず。<br />「イブもクリスマスも関係なく、残業でしょ?」<br />「まあ、そうだが。23日の祝日は、仕事を入れないつもりだ」<br />「大丈夫なの?」<br />「ああ、菜乃果と迎える初めてのクリスマスじゃないか」<br />「じゃあ、お願いがある。訊いてくれる?有さん」<br />「ふ。我儘な仔猫のお願いだ、内容を訊いてみないとな」<br /> 有さんがちょっと難しい顔でそんなことを言うけど、機嫌がいいのがわかる。だから、その機嫌を損ねないように、あたしは慎重に言葉を紡ぐ。<br /><br />「瑞希さんの、お見舞いに行ってほしいの」<br />「一緒にか?」<br /> 少し怪訝な顔になった有さんに、どきどきしながらあたしは続ける。<br />「…えっと。できれば、有さん独りで」<br /> 有さんがいきなりあたしの顎を、くっと右手で掴んだ。顔を上げさせられて、正面から眼を覗き込まれる。どきり、として思わず眼を逸らしてしまった。<br />「菜乃果、ちゃんと俺を真っ直ぐ見ろ」<br /> 嘘は許さない、有さんの眼がそう言っている。<br />「何故、わざわざクリスマスに、そんなことを言う」<br />「クリスマスじゃないよ、イブの1日前」<br />「菜乃…」<br /> 有さんが、わからないなというように首を振る。<br />「瑞希のお見舞いは、23日じゃなくてもいいだろう?」<br /> ダメだから、お願いしている。それをどう説明したらいいか、難しい。<br />「その日に、瑞希さんに渡してほしいものがあるの」<br /> あたしは、真剣な顔で食い下がった。<br />「菜乃果も一緒に行って、渡せばいいだろう」<br /> それじゃ、ダメだ。むしろ最悪だ。<br />「ねえ、有さん。瑞希さんはクリスマスなのに、あの無機質な病室でひとりなんだよ?そんなの、あたしだったら耐えられない。あんなに優しくて、綺麗で、儚げで…とっても素敵なひとなのに、神様はどうして意地悪するの?世界中の子供たちがプレゼントをわくわくしながら待ち望んで、恋人たちが一緒にいるだけで幸せな気分になれて、家族が一緒においしい食卓を囲む日に、瑞希さんだけが病室のベッドの上だなんて不公平!」<br />「ひとりじゃないと思うが…」<br />「それは野島教授や、お見舞いに来る人はほかにもいるだろうけどっ」<br /> なんとかして有さんにわかってほしくてあたしは一生懸命だったけれど、哀しいかな説得力には欠けている自覚がある。<br />「なぁ、菜乃果」<br /> 有さんが、あたしをそっと抱き寄せる。その大人の優しさと温もりに、泣きたくなる。<br />「この間、瑞希のお見舞いに行ったんだろ?そのとき…なにかあったのか?」<br /> あたしは弱弱しく頭を振った。もし顔を見られていたら、嘘をつき通す自信がない。でも有さんは、抱きしめたままでいてくれた。<br />「それは菜乃果の本心なのか?」<br /> 本心だった。どうしても有さんにその日に、瑞希さんのお見舞いに行ってほしい。<br />「うん」<br />「そうか」<br /> 有さんはあたしを抱きしめていた手を離すと、両肩に手を置いた。<br />「まったく気まぐれで、我儘な仔猫だ」<br />「…じゃ。訊いてくれるの、お願い?」<br />「ああ」<br />「ありがとう、有さん!大好きっ」<br />「ったく。初めてのクリスマスに、俺たちにとって大事な日に、別の女のところへ行くように頼むなんて…」<br /> 有さんが呆れたような、困ったような顔になって、あたしの右頬を人差し指で突く。<br />「ごめんなさい」<br />「まぁ、いいさ。だけど菜乃果、夜は一緒だぞ?」<br /> もちろん! あたしは、大きく頷いた。<br />「で、何を渡してほしいんだ?」<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> クリスマスのイルミネーションが華やかに光り輝き、ハッピーな音楽が聞こえる街で、あたしは瑞希さんへのプレゼントを探していた。<br /> 具体的なイメージはなくて、いろんなショップをただただ迷いながらうろついていた。<br /> アクセサリーでもないし、軽くて温かなガウンでもない、本でも音楽でも絵画でもない。なにか瑞希さんの心が満たされるもの、そっといつも寄り添ってくれて、守ってくれる気持ちになれるもの。それは、いったいなんだろう?<br /> そのなにかが見つからなくて、諦めかけていたあたしの眼に小さな白いものが映った。<br />「あ…」<br /> それは掌に乗るくらいの、可愛いうさぎのぬいぐるみだった。そのうさぎはふわふわと心地よく癒される手触りで、そして銀縁の眼鏡をかけていた。<br /> 有さんのイメージは、うさぎじゃない。むしろ、しなやかな四肢を誇る精悍な豹といった感じだ。でも眼鏡をかけたそのうさぎは、可愛いのになんだか理知的で思慮深く見えた。<br /><br /> きっと、気に入ってくれる。<br /> なぜだか、そんな気がした。<br /><br /> あたしは、眼鏡をかけたそのうさぎを買い求めて、クリスマスのラッピングをしてもらった。<br /></span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-09-20 (Sun)
  • Category : アイス
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第2章 1番目の街-ダヤンダ 〈1〉市場と広場

  その街の空気は、明るい活気に満ちていた。 赤い三角屋根の可愛らしい家が建ち並び、家々のベランダには洗濯物がはためき、庭には樹や花が植えられていた。 夕食の買い物にでも行くのだろうか、石畳の途を籐の籠を下げた小母さんや子供連れの若いお母さんが歩いていた。「市場とか、あるかもしれないね」 アクアはシンラにそう囁くと、買い物へ向かうらしき人たちと同じ方角へ歩を進めた。 ひたひたひた、シンラの足音が石... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> <br /> その街の空気は、明るい活気に満ちていた。<br /> 赤い三角屋根の可愛らしい家が建ち並び、家々のベランダには洗濯物がはためき、庭には樹や花が植えられていた。<br /> 夕食の買い物にでも行くのだろうか、石畳の途を籐の籠を下げた小母さんや子供連れの若いお母さんが歩いていた。<br />「市場とか、あるかもしれないね」<br /> アクアはシンラにそう囁くと、買い物へ向かうらしき人たちと同じ方角へ歩を進めた。<br /> ひたひたひた、シンラの足音が石畳に響く。<br /> ざっとんたたん、アクアはスキップしたり跳ねたりしながら陽気な足音を立てる。<br /> 一軒の家の庭で、比較的大きな犬が「うぉん」とシンラに向かって吼えた。<br />「がぁう、おん」<br /> シンラが答えるように吼える。<br />「なんて、言ったの?」<br />「咆哮に意味はない。アイツは、よぉ新顔って挨拶しただけだ」<br />「ふぅん。シンラは何て言ったの?」<br />「おお、なかなかいい街だなってテレパシーを送っておいた」<br />「テレパシー!?」<br />「ああ。コーダ同士はテレパシーで意思疎通する。異種間でも、できる相手とできない相手がいるが、アイツの思っていることは伝わった」<br />「へぇ」<br /> 感心したように、アクアはシンラを見た。シンラがちょっと得意そうに尻尾をゆらんと大きく振った。<br /> <br /> 思った通りだった。<br /> シンラとアクアはこじんまりとした、でも新鮮な食材が豊かに並んだ市場へ着いた。野菜や果物、肉、魚、乾物や調味料らしきものを売る店、食器や雑貨を並べた店、衣服や帽子、靴を売る店もあった。<br /> そのうちの一店から、何やら甘い匂いが漂ってくる。アクアは思わず、眼を細めてそのいい匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。<br />「はぁ、いい匂い。これ、何の匂いだろう?きっとお菓子だよね?」<br />「お菓子?」<br />「うん、甘くておいしいものだよ。そっか、シンラは食べたことないか」<br /> 魚も初めてだったみたいだし、きっと肉やお菓子も食べたことないんだろうな、とアクアは獣獣(けものけもの)した精悍なシンラの姿を改めて見た。甘いお菓子を初めて食べたら、このちょっと怖い顔はどうなるんだろうと思ったら、なんだか可笑しくなってアクアはくすりと笑った。<br />「なにが可笑しい?」<br /><br /> ちょっと不機嫌そうに言うシンラも、可愛いな。<br /><br /> そう思いながら、アクアは甘い香りに誘われるようにその店先へ歩いた。<br /> 〈雲あめ 1本 7ガロ〉と書かれた紙が店先に貼ってあって、細い棒にふわふわとした白い雲みたいなものが巻きつけてある。<br />「雲あめ?」<br />「ああ、甘くて旨いぞ」<br /> 雲あめをガラス張りの機械のようなものの中でつくりながら、熊みたいな親父が答えた。<br />「1本7ガロだ。買うか?」<br /> アクアは首を振った。<br /> いまアクアの薄汚れた布袋に中にあるのは、12ガロ。それが全財産だ。この先、旅を続けることを考えると、お菓子に7ガロも払えないのだ。<br />「ふん、冷やかしなら店の前からどいてくれ」<br /> 親父は途端に不機嫌になって、追い払うようにアクアに向かって手を振った。<br /><br /> ちょっとしょんぼりして木陰に入ったアクアに、シンラが周りに聞こえないように小声で言った。<br />「金、ないのか?」<br />「12ガロある。でも、それ旅の全財産なんだ」<br />「そうか」<br /><br /> 買ってやりたい、あの甘い匂いを放つ〈雲あめ〉ってやつを食べさせてやりたい。<br /><br /> 小さな子供のように所在無げなアクアを見つめながら、シンラはそう思った。しかしコーダのシンラは金など持っていないし、食べさせてやることはできない。<br /> そっと両耳を下げたシンラを見て、アクアが元気に言った。<br />「でもね、大丈夫。匂いは、タダ、だよ」<br /> そう言って眼を瞑ると、アクアは両手を広げて大きく深呼吸した。<br />「はぁ、いい匂い。甘くて、やさしくて、おいしい匂いだ」<br /> アクアに倣って、シンラも眼を瞑って深呼吸する。<br />「ああ、ホントだな。うん、お腹いっぱいだ」<br />「あはははは」<br /> アクアが満面の笑顔で笑った。<br /> そう、ふたりでいれば、匂いだっておいしい。一緒に深呼吸しただけで、幸せな気分になれる。<br /><br /> 〈雲あめ〉のほかにもおいしそうな匂いが立ち込める市場を抜け、また家々が立ち並ぶ通りを進むと噴水のある広場に出た。<br /> 夕暮れときのそぞろ歩きを楽しむ老人や、犬を散歩させる人達、ボールやお皿のようなものを投げて遊ぶ子供たちの姿がある。<br />「これから、俺はあまりしゃべらないようにするからな。人の言葉を話すことは、お前以外には内緒だ」<br /> シンラがそう囁いた。<br />「うん」<br /> アクアは慎重に頷いた。<br /> 犬よりもずっと大きい、狼のようで狼でもないシンラの姿に、遊んでいた子供の一人が興味を示した。<br />「ねぇ、お姉ちゃん。それ、狼?」<br />「違うよ。コーダっていう生きものだよ」<br />「ほぉ、これがコーダか!話に訊いたことはあるが、見るのは初めてだ」<br /> 近くを歩いてたお祖父さんが、杖を支えに立ち止まった。<br />「お姉ちゃんのペットなの?」<br /> 子供たちが集まって来た。<br />「違うよ、友達」<br />「友達?」<br />「うん」<br />「あれ、お姉ちゃんの眼、変わってるね?」<br />「ホントだ、右と左で色が違うよ」<br /> 子供たちの正直な言葉に、シンラが庇(かば)うようにアクアに寄り添った。大丈夫だよ、という風にアクアはシンラの首を撫でる。<br />「ほぉ、ワシはオッドアイというのも初めて見たな」<br /> お祖父さんがそう言って、アクアの顔を覗き込んだ。<br />「お嬢ちゃんは、どこの家の子かな?」<br /> お祖父さんにそう訊かれて、アクアはちょっと戸惑った。<br />「西の方から来ました。シンラと、この友達のコーダと一緒に旅してるんです」<br />「なに!?子供が一人でか?」<br />「一人じゃないです、シンラと一緒です」<br /> ふーむ、とお祖父さんは顎に手をかけて考え込んでいる。<br /><br /> 遠くで、子供の名前を呼ぶお母さんの声が聞える。<br />「あ、お母ちゃんが呼んでいる。帰らなきゃ」<br />「うん、あたしも。ばいばい」<br />「おぅ、また明日な」<br /> 子供たちがそれぞれの方向へ駆けだしていくのを、アクアは見つめた。<br /><br /> ほんの少し感傷的なるのは、きっと夕暮れどきのせいだ。<br /> あたしにはシンラがいる、淋しくなんかない。<br /><br />「なぁ、お嬢ちゃん」<br /> アクアたちと同じように子供たちを見送ったお祖父さんが言った。<br />「今夜はどこへ泊る気だい?」<br />「まだ、決めてないです」<br /> 本当はこの広場で野宿すると決めているが、シンラとのふたり旅でも驚く老人にそれは言えなかった。<br />「腹は、減っていないか?」<br /> 大丈夫です、と答えようとしたアクアのお腹が、かわりにぐぅ~と答えてしまった。きっとさっきおいしそうな匂いを散々嗅いだせいだと思いながら、アクアは顔を赤らめた。<br />「ははは。素直なお腹で、大変よろしい」<br /> 老人は人の良さそうな笑顔を見せた。<br />「なぁ、お嬢ちゃん。ウチには病気の孫がいるから、コーダを連れたアンタを泊めてはやれないが食べ物なら少し分けてやれる」<br />「…え」<br />「ついてきなさい」<br />「でも…」<br />「ウチの婆さんがつくる煮物は、最高だぞ」<br /> アクアのお腹が、またぐるぅと鳴った。<br /><br /> 杖をつきながらも危なげない足取りで進むお祖父さんに、シンラとアクアは従った。10分ほど歩くと、随分と立派な門構えのお屋敷と言ってもいいほどの家に着いた。<br />「ここ?こんな立派な家がお祖父さんのウチなの?」<br /> 驚くアクアに、お祖父さんは申し訳なさそうに言う。<br />「ああ、部屋はいくつかあるし泊めてやりたいんだが、さっきも言ったように孫が病気でね。ちょっとしたことで咳と高熱が止まらなくなる。医者によると動物の毛も良くないらしい。それに孫はお嬢ちゃんと同じくらいの年だから、万が一、お嬢ちゃんにうつってもいけないからね」<br />「そうですか。どんな病気なんですか?」<br /> 同じくらいの年と聞いてなんだか他人事とは思えずに、アクアは心配そうな顔をしてお祖父さんに訊いた。<br />「それが…原因不明の病なんだよ」<br /> お祖父さんは悲し気に首を振った。<br />「そう…ですか」<br /> 訊ねたことを少し後悔しながらアクアがシンラを見やると、シンラは大きなお屋敷の庭に生えている立派な樹をじぃと見上げていた。<br />「ちょっと待っていなさい」<br /> お祖父さんは微笑んでそう言うと、家の中へ消えた。<br /><br />「シンラ、何見てるの?」<br />「原因はコレかもしれない」<br />「え?」<br />「咳と高熱の原因だ」<br />「コレって、この樹?」<br />「ああ。これはノキと言って、年に2回大量の花粉をまき散らす。子供がその花粉を吸うと、稀にアレルギー性の咳と高熱を出すことがある」<br />「そうなの!?」<br />「おまけに体内に入った花粉は蓄積して、症状は徐々に悪化すると言われている。ちょっとしたことで咳や高熱が出ると言っただろう?それは様々なアレルギー物質に弱い体質になっているということだ」<br />「じゃあ、この樹をこのままにしておいたら…」<br />「最悪の場合は、呼吸困難と高熱で死に至ることもある」<br />「…そんな」<br />「それにもうすぐ、次の花粉の季節だ」<br /> ………。<br /> どうしたらいいだろう。お孫さんの病気がもし、シンラの言う通りこの樹のせいだとしたら?<br /> それをあたしのような見ず知らずの子供が言っても、信じてもらえるだろうか…。</span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=731039844" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=731039844&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br /><br />
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診断メーカー【シルバーウィーク】

皆さま ご機嫌よろしゅぅ(*´ω`*)さて、「シルバーウィーク」がはじまりますね。ということで、診断メーカーで遊んだ結果をご報告~~♪🎶◆沢口 菜乃果のシルバーウィーク19日:エロくなる20日:エロくなる21日:エロくなる22日:エロくなる23日:喘ぐhttp://shindanmaker.com/562795◆氷川 有のシルバーウィーク19日:カラオケ20日:カラオケ21日:カラオケ22日:カラオケ23日:お金と声が枯れるhttp://shindanmaker.com/562795主... 皆さま <br />ご機嫌よろしゅぅ(*´ω`*)<br /><br />さて、「シルバーウィーク」がはじまりますね。<br />ということで、診断メーカーで遊んだ結果をご報告~~♪🎶<br /><br /><br />◆沢口 菜乃果のシルバーウィーク<br />19日:エロくなる<br />20日:エロくなる<br />21日:エロくなる<br />22日:エロくなる<br />23日:喘ぐ<br />http://shindanmaker.com/562795<br /><br /><br />◆氷川 有のシルバーウィーク<br />19日:カラオケ<br />20日:カラオケ<br />21日:カラオケ<br />22日:カラオケ<br />23日:お金と声が枯れる<br />http://shindanmaker.com/562795<br /><br /><br />主人公2人は、ピンポイントな結果。<br />菜乃たんは、どんだけエロくなるんでしょー。<br />やっぱ、作者が作者だからなぁ。。(>_<)<br />有さんは、むしろカラオケ嫌いの設定です。<br /><br /><br />では、気分を変えて。。。<br /><br />◆灯凪田テイルのシルバーウィーク<br />19日:ピンクの一頭身に遭遇<br />20日:麦わらの海賊に遭遇<br />21日:性別が逆転<br />22日:痴漢で捕まる<br />23日:19日に戻る<br />http://shindanmaker.com/562795<br /><br />◆maoちゃんのシルバーウィーク<br />19日:背が伸びる<br />20日:エロくなる<br />21日:黄色い髪の忍者に遭遇<br />22日:デート♡<br />23日:19日に戻る<br />http://shindanmaker.com/562795<br /><br /><br />会ってみたいぜ、ピンクの一頭身!<br />こうしてみると、maoちゃんが一番まともでしたぁ~(*´▽`*)<br /><br />皆様、では楽しいシルバーウィークを~~ (^^)/~~~<br /><br /><br /><br />~追記~<br /><br />「安保法案」はアメリカの「銃社会」に似ている。<br />抑止力のつもりが、制御不能に陥りかねない。<br />自然と未来は人間の自惚れた想定内を、いともあっさり、遥かに超える。<br /><br />一度はじめたら後戻りできないことがあることを、<br />人間はどうして歴史から学ばないのだろう。<br /><br /><br /><br /><br />
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〈7〉珍道中ちぅ

 だから、お前。女の子だろ…。 澄んだ気持ちのいい溜まりで全身を洗ったアクアが、またもや何の躊躇もなく素っ裸をシンラの前に晒す。 それから徐(おもむろ)にボロボロの布袋をゴソゴソしだすと、中から使い古した水筒を出した。「ここの水、とってもおいしいからちょっと貰っていこう」 そう言うと、水筒の蓋をぱこと開けて、アクアは小さな滝の下へ当てた。小さな水筒はあっという間に、水で溢れる。「ああ、おいしそう!... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br /> だから、お前。女の子だろ…。<br /><br /> 澄んだ気持ちのいい溜まりで全身を洗ったアクアが、またもや何の躊躇もなく素っ裸をシンラの前に晒す。<br /> それから徐(おもむろ)にボロボロの布袋をゴソゴソしだすと、中から使い古した水筒を出した。<br />「ここの水、とってもおいしいからちょっと貰っていこう」<br /> そう言うと、水筒の蓋をぱこと開けて、アクアは小さな滝の下へ当てた。小さな水筒はあっという間に、水で溢れる。<br />「ああ、おいしそう!」<br /> アクアはそう言うと、水筒の水をごくごく飲みはじめた。<br /> 素っ裸で、腰に手を当てて、シンラの前で仁王立ちして。<br /><br /> お、お前っ。<br /> なんて男らしいポーズで水飲んでんだっ。<br /> 隠せ、恥じらえ、少しは俺(オス)の眼を意識しろっ。<br /><br /> シンラの眼の前で、ささやかな2つの膨らみが水を飲むたびに上下する。そっと目線を下げると、髪と同じセピア色の小さな小さな茂みが風に揺れた。<br /><br /> ごく…。<br /> や、やばい、聞こえたか?<br /><br /> 息を止めて凝視するシンラの視線に、やっとアクアが気づいた。<br />「やだ~、シンラのえっちぃ。どこ見てんのぉ、やっぱえろオヤジぃ」<br /><br /> え、えっちって、お前っ!<br /> 恥じらいもせず、すっぽんぽんで眼の前に立ったのはお前だろっ。<br /> そ、それに俺はオヤジじゃないっ。何度も言うが、19歳だっ。<br /> は、花も恥じらうチェ、チェリーボーイだっ…て、俺は何考えてるんだろう。<br /><br />「はぁ…疲れた」<br /> 混乱の末、何故だか疲労感を覚えて、シンラは耳としっぽを情けなく下げるとアクアに背を向けた。<br /> アクアは脱いだ服を着ると、シンラの肩に小さな手を置いた。<br />「ごめん、シンラ。えろオヤジは言い過ぎだった。怒った?」<br />「べ、別に…」<br />「ほんと?よかったぁ!」<br /> あっという間に嬉しそうな顔になったアクアの身体から、ソプの花の香りだけではない、甘い良い匂いがする気がシンラはした。<br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 森と渓流を過ぎると、なだらかな湿原に出た。<br /> 花弁が一つしかない白い花が無数に咲く間を縫うように、古い木の渡しが続いていた。<br />「この白い花は、なんていうんだろう?」<br /> アクアが、愛らしく小首を傾げて訊いてきた。<br />「想途草(そうずそう)、と俺たちコーダは呼んでいる」<br />「想途草?」<br />「ああ。遥か昔、恋人への一途な想いを残したまま死んだ女を哀れに思った神様が、その想念を花にかえたと言われている。その花は恋人の家から見渡せる沼辺に咲き誇り、いつまでも心の慰めになっていたそうだ」<br />「…そう、なんだか可哀想なお花なんだね…」<br /> 続けて何か言いたげにしたアクアだったが、ちょっと悲し気に目を伏せると押し黙ってしまった。<br />「昔話だ、というかおとぎ話のようなものだ。現実の話ではないと思う」<br /> 慰めるように言うシンラに、アクアはまた笑顔を見せると言った。<br />「この花には、なにか効能?みたいなものはないの?」<br /> 今度は、シンラがちょっと黙り込む番だった。<br />「どうしたの?シンラ」<br /> 怪訝そうに訊くアクアに、シンラは鼻に皺を寄せて見せた。<br />「花にはないが、球根は猛毒だ」<br />「…も、う、毒?」<br />「ああ。だから人が滅多に訪れない、生活しにくい湿原に咲くのだろう。泥に覆われていれば、空気中に拡散することもないし」<br /><br /> こんなに儚げで美しい花なのに…。<br /> 悲しくて、ロマンティックな伝説を持つ花なのに。<br /><br />「愛する気持ちというのは、一歩間違えば狂愛になりかねない。大切にしたいと思う気持ちと、殺してまでも独占したいと思う気持ちが共存している、そんな花なのかもしれないな」<br /> シンラはそう言ったが、その言葉の意味をアクアが理解できたかどうかは、わからなかった。<br /> 理解してほしいような、まだ理解などしてほしくないような。複雑な想いのシンラに、青ざめたアクアがひっそり笑って見せた。<br />「まだ知らないことがたくさんあるんだね、この広い世界には。でもシンラと一緒なら、怖くないよ。行こう、この先へ。北へ、北へ」<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> やがてどこまでも続いているような湿原が、突然終わった。<br /> いま、シンラとアクアの眼の前には2本に分かれた道がある。右の道の遥か先には、重厚な石垣のようなものが見える。左の道に続くのはこんもりとした丘で、その先は見渡せない。<br />「どっちの道を行く?」<br /> シンラがアクアに訊いた。<br />「どっちにしよう…」<br /> アクアが迷う。<br />「お前が選べ」<br />「え~。それでもしヘンな街とかだったり、もの凄い断崖絶壁とかが待ってて先に進めなかったりしたら、あたしのこと責める気でしょ?」<br />「お、俺がそんなセコい男に見えるか?」<br /> 心外だ、というようにシンラが銀色の豊かなたてがみを逆立てる。<br />「ん~、やっぱりシンラが決めてよ」<br />「よし。でももしも、期待通りの場所でなくても俺を恨むなよ」<br />「恨まないよ。でも、ばーか、ばーか、シンラのばーか、ぐらいは言うかも」<br /> <br /> く…。<br /> なんてヤツだ。ま、まぁ、いい。<br /> こいつは、まだ毛も生え揃っていないくそガキだからな。<br /> いや、エロい意味ではなく。言葉が意味する通りの…。<br /><br />「あはは、冗談だったら。シンラ、いま真に受けたでしょ?」<br /> アクアがにっこり笑って、シンラの髭を引っ張った。<br /><br /> おい、こら、止めろ。俺の神聖なレーダーを、引っ張るなっ。<br /> それになんか、ちょっと痛ギモ…。<br /><br /> それからアクアはちょっと考えるそぶりを見せていたが、やがてポンと手を叩いた。<br />「そうだ!ジャンケンで決めようよ。勝った方が選んだ道を行く、それなら恨みっこなしでしょ?」<br />「よ、よしっ。お前はどっちの道を選ぶ?」<br />「う~ん、左っ!」<br />「よし、じゃあ、俺は右だ」<br /> 真剣な面持ちで、シンラとアクアは向かい合った。<br /> そして、声を揃えて言った。<br />「ジャンケンポ~ン!!」<br /> <br /> …………。<br /> …………。<br /><br />「あ、あの…シンラ。それ、グー?」<br />「パーだ」<br />「うそ、グーにしか見えない」<br />「な、なんだと。よく見ろ、ちゃんと爪を出して全部開いてるだろ」<br />「え~、嘘くさい」<br />「お、お前なぁ。コーダに二言(にごん)はないっ!」<br />「武士かよ」<br />「な、なんだと?」<br />「わかった、わかった。じゃあ、引き分けね。じゃ、もう一度」<br />「よ、よしっ!」<br /><br />「ジャンケンポ~ン!!」<br /> <br /> …………。<br /> …………。<br /><br />「あ、あのさ。シンラ、それ」<br />「今度は…グー、だ」<br /> アクアが、にんまりと笑った。<br />「わーい、わーい、勝ったぁ!」<br /> <br /> かくして、ふたりぼっちの行く先は左の道に決まった。<br /><br /><br />「ねえ、シンラ。因みにチョキは出せるの?」<br />「お、おぅ!」<br /> アクアの眼の前に、シンラは右前脚を出して見せた。よぉ~く見ると、鋭い爪が2本だけぬぅと覗いている。<br />「器用だね」<br />「ふふん」<br /> シンラが、ちょっと得意そうな表情になった。<br />「でも…めっちゃ、わかりにくい」<br />「う、うるさいっ!」<br /> 急に足早になったシンラをちょこまかと追いかけながら、アクアは思った。<br /><br /> 楽しい、シンラとの旅はなんて楽しいんだ。<br /> あはははははは。<br /> じいじ、ばあば。こんなにお腹の底から楽しい気分になったのは、3人で初めて2つの白パンを分け合って食べたとき以来だよ。<br /></span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=731039844" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=731039844&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
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〈6〉滝つぼダイブ

  朝陽の眩しさに揺り起こされて、アクアはもふもふのベッドの中で眼を覚ました。銀色で天然のベッドから顔を上げて、その上に続く顔を見るとシンラは眼を閉じてまだ眠っているようだった。 ぴんと張った髭が陽の光に煌いて、改めて見ると精悍な中にも繊細さが漂っている。「おはよう、お寝坊さん」 アクアは、細くて硬い髭の一本をそっと引っ張りながら、そうシンラに囁いた。 その瞬間、シンラが片眼を細く開けた。「何をし...  <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br /> 朝陽の眩しさに揺り起こされて、アクアはもふもふのベッドの中で眼を覚ました。銀色で天然のベッドから顔を上げて、その上に続く顔を見るとシンラは眼を閉じてまだ眠っているようだった。<br /> ぴんと張った髭が陽の光に煌いて、改めて見ると精悍な中にも繊細さが漂っている。<br />「おはよう、お寝坊さん」<br /> アクアは、細くて硬い髭の一本をそっと引っ張りながら、そうシンラに囁いた。<br /> その瞬間、シンラが片眼を細く開けた。<br />「何をしている?」<br /> アクアは慌てて髭を引っ張っていた手を引っ込めると、豊かなたてがみに覆われたシンラの首に抱きついた。<br />「おはよう、よく眠れた?」<br /> 無邪気に覗き込む明るいオッドアイに、シンラの表情がほころぶ。<br />「ああ、お前は?」<br /> 自分の胸から落っこちそうになるほどに熟睡していたアクアに、訊くまでもないことと思いながらもシンラはそう訊ねた。<br />「うん、とってもよく眠れたっ」<br /> ぴょんとシンラの胸の上から飛び降りると、アクアは爽やかな朝の空気を深呼吸しながら両手を突き上げて伸びをした。<br /> そんな様子をほほえましく思いながら、シンラはアクアに気づかれないようにそっと自身の足を確かめた。<br /><br /> 足、俺の足、どうなった?<br /><br /> 恐る恐る自分の後ろ足を見ると…戻っていた、元のケモノの足に。<br /> ふぅ~と大きな安堵の息を吐いたシンラに、アクアは元気に叫んだ。<br />「シンラ!あたし、お腹が空いた~」<br />「よし、朝食のフルーツを採りに行こう」<br /> 四季の変化があまりなく、年中春か秋のような過ごしやすい気候のこの辺りは、様々なフルーツや木の実の宝庫だ。もっと北へ行けばどうなるのか、行ったことがないからわからないが、取り合えず食料のフルーツには事欠かない。<br /> <br /> 朝食にそれぞれ1本の黄色いバナバナと柑橘オレジを食べたシンラとアクアは、旅の途中の食料として、両手に抱えきれないほどのフルーツを採った。それをアクアがオッドアイの眼力で米粒ほどの大きさにし、肩にかけていた布の袋の中に入れていく。<br />「お芋も、採ろうよ。落ち葉の中で焼くと、おいしいよ」<br /> アクアがそう言うので、フルーツよりも保存の利く紫長芋とがんも芋も同じように縮小して袋に入れた。<br />「重くないか?」<br />「うん、全然」<br /> ずいぶん入れたが、さほど膨らんだ様子もない袋を見て、シンラは安心した。本当なら袋はアクアでなく自分が背負ってやりたいが、どう工夫してもシンラの背では収まりが悪くてずり落ちてしまうのだ。<br /><br /> お腹が膨れると、アクアは水浴びがしたいと言い出した。<br />「髪も身体も洗いたい」<br />「じゃあ、この渓流を下ってみるか?遠くで滝らしい水音がする。滝つぼでもあれば、天然の水風呂とシャワーだ」<br /> うわぁ、と好奇心いっぱいの眼をしたアクアが、早速行こうとシンラを促す。鳥のさえずりが緑の森に木霊する中を、一頭と独り、いやふたりは歩いた。<br /><br /><br /> 不思議だな、もの凄い勇気を振り絞ってはじめた独り旅だったのに。<br /> シンラといると、楽しくてしかたない。<br /> 大きくて頼りになるし、あの銀色のもふもふはあったかで安心する。<br /> ちょっと俺サマっぽいけど、意外に可愛いところもあるし。<br /><br /> 渓流の周りにはきれいな花やその蜜を求める蝶、不思議な形をした小石などがあって、<br />その一つ一つにアクアは眼を奪われてしまう。<br />「うわ、シンラ見て。あの蝶、凄くきれいな模様だよ。あ、この小石、星の形をしてるっ!」<br />「おい。立ち止まってばかりじゃ、いつまでたっても水浴びできないぞ。置いて行くぞ」<br />「え~、ケチ。待ってよ、シンラ」<br /> そう言った途端に、アクアは再び小さな白い綿のような花を見つけて立ち止まる。<br />「あっ、これソプの花だ!」<br />「ソプの花?」<br />「うん、見てて」<br /> アクアは小さな花を幾つか摘むと、手の中でコロコロ丸めて、その手を渓流に浸けた。するとアクアの細く小さな指の間から白い泡のようなものがぷくぷくと溢れはじめた。<br />「なんだ、それは?」<br /> 怪訝そうに近寄っていたシンラの鼻先に、アクアはアワアワの手を近づけた。<br />「…いい、匂いがする」<br />「うふ、そうでしょ?これで顔や髪や身体を洗うと、つるつるになっていい匂いになるんだよ」<br /> アクアがちょっと得意そうにそう言った。<br />「そうか、それは知らなかった。俺たちはこの花をワタワタと呼んでいて、一度乾燥させてから水に浸けておくと、殺菌作用がある水になる」<br />「そうなの?!」<br /> アクアのオッドアイが、驚いたように見開かれた。太陽の下で、きらきらと無垢に輝くそれが眩しくて、シンラは思わず目を細めた。<br /> <br /> なんてピュアな、無邪気な光なんだ。神秘的で淋し気に見える夜とはうって変わって、穢れのない心の中まで覗けるようだ。<br /><br />「?…シンラ?」<br />「あ、いや。これはちょうどよかった。水浴びするなら、沢山採って行こう」<br />「うんっ」<br /> アクアが小さな花を5つ6つ摘んで、それから背負った布の袋の中に入れた。<br />「それだけでいいのか?」<br />「うん、使う分だけでいい。乾燥させても、水に浸けておく入れ物がないから。捨てちゃうんじゃあ、花が可哀そうだよ」<br />「そうか」<br />「うん」<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> ごぉおおおお~。<br /> 滝が轟音を上げて、滝つぼに落ちていた。あたりの空気はひんやりと心地よく、水飛沫(みずしぶき)が霧のように辺りを潤している。<br /> 眼を瞑ると、何故だか心が癒されて、すうっとした気分になる。<br />「はぁ、気持ちいい」<br /> しっとりと清涼な空気を深呼吸して、アクアはそう呟いた。<br />「アクア、大滝の真下は危険だ。こっちに溜まりが出来ている」<br /> シンラの視線の先を追うと、一番小さな滝が岩の窪みに緩やかな波紋をつくっていた。<br />「うわぁ~、最高!」<br /> それを見たアクアは嬉しそうに叫ぶと、あっという間に裸足になって、それから着ていた服を次々脱ぎはじめた。<br />「お、おい…」<br /> <br /> お前、一応、女の子だろ。<br /> 俺はコーダとはいえ、一応オスだ。<br /> ちょっとは恥じらうとか、隠れるとかって、オイッ!<br /> 5秒ですっぽんぽんかよ…。<br /><br />「ひゃっほー、気持ちいいっ。シンラぁ、シンラも早くおいでよっ」<br /><br /> い、いや、俺は…。<br /><br /> しばしウロウロと躊躇したシンラは、アクアから少し離れた滝つぼへダイブした。<br /> ザッバ~ン!<br /> <br /> 冷たい水がやけに心地良いのは、身体が火照るせいではないよな?<br /><br /> シンラはひとしきり滝つぼの中で泳ぐと、ザバンと水面に顔を出した。<br />「もうっ、びっくりしたぁ。シンラが上げた水飛沫でびしょびしょだよぉ」<br />「どうせ、全身洗うんだからいいだろっ」<br /><br /> いきなりダイブしたシンラにびっくりしたけど、水飛沫とお陽様の光の中にきらきらした銀色の姿は、ちょっとカッコよかったなぁ。<br /> なのに水の中から鼻づらを出したシンラに文句を言うと、途端に拗ねた子供みたいな表情になって、なんだか可笑しい。<br /><br />「あははははは」<br /> アクアは、声を出して笑った。<br /> 何もかもが、可笑しくて、幸福だった。<br /></span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=731039844" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=731039844&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
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⑦暗 雲

 学祭が終わってから、あたしは再び瑞希さんの病室を訪れた。 今日のお見舞いに持参したのは学祭で披露したステージの動画と、早乙女君が特別につくってくれた3連鶴のぬいぐるみ(?)だ。他力本願な感じがしないでもないが、「教えて」と言ったあたしに早乙女君は「僕がつくったほうが早いでしょ?」という最もな理由で快く引き受けてくれたのだ。 3つの鶴はそれぞれ布地が違って、それがとても可愛い。1番上は白地に赤い水玉... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br /> 学祭が終わってから、あたしは再び瑞希さんの病室を訪れた。<br /> 今日のお見舞いに持参したのは学祭で披露したステージの動画と、早乙女君が特別につくってくれた3連鶴のぬいぐるみ(?)だ。他力本願な感じがしないでもないが、「教えて」と言ったあたしに早乙女君は「僕がつくったほうが早いでしょ?」という最もな理由で快く引き受けてくれたのだ。<br /> 3つの鶴はそれぞれ布地が違って、それがとても可愛い。1番上は白地に赤い水玉、2番目がシンプルに紺色、3番目が黄色と水色のチェックだ。<br /> その早乙女君作、まるでプロがつくったかのような3連鶴を、掌に載せて瑞希さんが言った。<br />「まぁ、可愛い。沢口さんて、器用なのね」<br />「あ、これ。あたしがつくったんじゃないんです。早乙女君ていう男子に頼んでつくってもらったんです。不器用なあたしには、こんな可愛くつくるの、とても無理」<br /> あたしの率直な告白に、瑞希さんの顔がほころぶ。よかった、今日の笑顔はこの間より元気そう。<br />「男の子なのに、器用なのね」<br />「はい。早乙女君は、ウチのサークルの専属衣装係でもあるんですよ」<br /> まあ、と瑞希さんが目を丸くして驚く。<br /> あたしは早乙女君のお母さんが手芸の店をやっていること、それを手伝ったりしている早乙女君がもともと女子力が高いこと、そのせいで高校時代からのあだ名が「乙女」であることなどを、面白おかしく話した。<br /> 瑞希さんはその話に一々頷きながら、とても楽しそうに笑ってくれた。<br />「ああ、楽しい。沢口さんのお友達は、面白い個性の子ばかりなのね」<br /> まあ、中でも強烈な個性なのが、有さんの弟でもある惺なんだけど。<br />「そう。その早乙女君は、惺君のお友達でもあるのね」<br /> 瑞希さんは、一度だけ惺に会ったことがあるそうだ。有さんと一緒に画廊の祥子さんを訪ねてきた惺に、たまたま野島教授と一緒に画廊に来ていた瑞希さんは会ったらしい。<br />「その頃はまだ高校生だったかしら。制服姿で金髪で…後でT大に入ったと母から訊いてちょっと驚いた」<br />「まぁ。高校時代につるんでた不良たちと、見た眼的には変わらないですからね。あれでIQ140超えだなんて、詐欺っぽいですよね」<br />「ふふ、ホントね。でもちょっと話しただけだけど、明るくて思いやりがあって素直な子だと思った。人を外見で判断してはいけないわね」<br /> 瑞希さんは楽しそうに笑いながら、ふぅと肩で小さく息をした。いつもより良く話す瑞希さんの、その小さな変化にあたしは気づけなかった。<br /><br />「あ、そうそう、瑞希さん。これ、この間の学祭で、あたしたちが踊ったときの動画なんですけど…」<br /> あたしはスマホに収めていた動画を、瑞希さんに見せた。<br /> 瑞希さんが、興味深そうに身を乗り出してスマホの画面を覗く。<br />「まぁ、凄い…。こんなに激しく踊るの?」<br /> 瑞希さんは感心したようにそう言って、スマホの画面を食い入るように見る。<br /> だからあたしは、ますます調子に乗ってしまった。<br />「スローなナンバーもあるんですよ。ほら、これはあたしの親友で、知花ちゃんていうんですけど。彼女は小さい頃からモダンバレエを習っていたから、踊りが正確で綺麗なんです」<br /> 瑞希さんが、ひゅぅとまた肩で息をした。<br />「でね、あたしたちが踊った曲。はじまりの衣装はレインコートなんですけど、途中から早変わりで黒のビスチェとスキニーに…」<br /> 瑞希さんが、胸に手を当てて俯いている。少し青ざめた表情から、笑顔が消えていた。<br />「み、瑞希さんっ!?」<br />「だ、だいじょ、ぶ、よ」<br /> 額にうっすらと汗を浮かべながらも、気遣って笑顔を見せようとする瑞希さんに焦る。どうしよう、あたし調子に乗っておしゃべりして、瑞希さんに無理をさせてしまった?<br />「瑞希さん、ナースコールしましょう」<br />「だいじょ…うぶ、だから」<br />「と、取りあえず、横になってくださいっ」<br /> あたしは、瑞希さんをべッドに寝かせると、ナースコールと手に取った。<br />「ま…待っ…て」<br /> ナースコールを押そうとするあたしを、瑞希さんが制止しようと手を伸ばす。<br />「でもっ!」<br /> <br />「あ、あなたは…何でも…持って、いる」<br /> え?<br />「ボーイ…フレンドも、親友も…。は、ぁ。楽しいっ…学園、生活…も」<br />「わかりましたから、瑞希さん。お願い!もう、話さないでっ」<br /> でも瑞希さんは、この細い腕のどこにそんな力が残っているのかと思うほどの圧力で、ナースコールを持つあたしの手首を握った。<br />「け、健康も。…ぅ。み、未来も、きっと…はぁ、ゆ、夢も」<br />「瑞希さん…」<br /> あたしは手首を握る瑞希さんの手をそっと外すと、ナースコールを押した。<br /><br />「はい」<br /> 看護師さんがすぐに応答してくれた。<br />「すみません。瑞希さんが、野島さんが苦しそうで」<br />「すぐに行きます」<br /> てきぱきとしていながら落ち着いた看護士さんの声に少しホッとして、あたしは瑞希さんの顔色を確認した。さっきより、さらに青ざめている。<br />「ごめんなさい、瑞希さん。あたし、調子に乗って、瑞希さんに無理をさせてしまいました」<br /> 自分が情けない。あたしは泣きそうになりながら、瑞希さんにそう謝った。<br />「…瑞希、さん?」<br /> 瑞希さんは今度は赤い顔で、はぁっと息を吐く。熱が出てきたのだろうか。<br />「だ…か、ら…お願い。あなたの持っている、も、の…た、った一つで、いい。私に…ちょ、う、だい」<br /> 瑞希さんが彷徨う瞳で、それでもあたしを見つけて言った。<br />「ひ、氷川…せ、せん、せい…を。それだ、け、で…いい、から。そしたら…ぅっ、私に、もっ…生きるっき、き、ぼうが…」<br /><br /> 看護師さん二人が、バタバタと病室に入って来た。<br /> ベテランらしい看護士さんがベッドに近づいて瑞希さんの額に手を当てると、すぐにもう一人の看護士さんに点滴の指示を出した。<br /> 一気に慌ただしくなった病室を、あたしは邪魔にならないようにそっと後にした。<br /><br /> あなたは、何でも持っている。<br /> あなたの持っているもの、たった一つでいいから、私にちょうだい。<br /><br /> 瑞希さんん声が、病室を出たあたしを追ってくる。病院の外まで追いかけてくる。<br /><br /> 氷川先生を。それだけでいいから。<br /> そうしたら、私にも生きる希望が…。<br /><br /> その声から逃げるように早足になったあたしは、バス停につくまで、自分が泣いていることに気づかなかった。<br /> やがてやってきたバスに乗る。座席に座って、胸を抑えた。どこかわからない場所が、とても苦しい。深呼吸をしようとするのに、はぁはぁと浅い息しかできない。<br /> あのとき、バレンタインのとき、隙のないお化粧と完璧な装いをした りこさんに正面から睨みつけられても、あたしはたじろぎながらも何処かで強い気持ちを保っていられた。<br /> でも「生きる希望」とまで言った瑞希さんに、いまあたしの心は激しく動揺していた。瑞希さんの永年の想い、これからも続くであろうたった一つの恋、もしかしたら一生に一度かもしれない。<br /> まるで自分の命を削るように、必死であたしの手首を掴んで懇願した瑞希さんの表情が、消えてくれない。<br /> どうしよう、どうしたらいい?有さん。<br /> 瑞希さんから、生きる希望を奪っているのは、紛れもなくあたし。<br /> 瑞希さんが心の奥底に大切にしまっていたはずの想いを訊いてしまって尚、あたしは平気な顔で奪い続けていられるの?<br /> だけど、でも、有さんは…有さんとあたしは。<br /> あたし…瑞希さんに何をしてあげられるのだろう?もしかしたらそう思うことすら、健康で能天気に毎日を過ごしている人間の傲慢なんだろうか。<br /> <br /> 情けないほど千々に乱れる心を嘲笑うかのように、バスの車窓の先にはいつしか黒い雨雲が広がりはじめていた。<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-09-13 (Sun)
  • Category : アイス
538

⑥片見月

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  • Date : 2015-09-12 (Sat)
  • Category : アイス
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〈5〉異 変

 かさり。 頭上から聞えた微かな葉音に、眠りに入ろうとしていたシンラの意識が呼び戻された。注意深く耳を澄まし、暗闇と生い茂る葉陰に眼を凝らすと、闇よりも濃い濡れた二つの輝きに気がついた。 ふふふ、やっぱり。「この世の森羅万象を、何世紀にも渡って見届けてきたその眼に、いま何が映っているのだ?」「ほぅほぅほぅ。その森羅万象の謎のひとつ、人の言葉を操る銀色のコーダが、人間の子を愛おしそうに抱いている摩訶... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br /> かさり。<br /> 頭上から聞えた微かな葉音に、眠りに入ろうとしていたシンラの意識が呼び戻された。注意深く耳を澄まし、暗闇と生い茂る葉陰に眼を凝らすと、闇よりも濃い濡れた二つの輝きに気がついた。<br /><br /> ふふふ、やっぱり。<br /><br />「この世の森羅万象を、何世紀にも渡って見届けてきたその眼に、いま何が映っているのだ?」<br />「ほぅほぅほぅ。その森羅万象の謎のひとつ、人の言葉を操る銀色のコーダが、人間の子を愛おしそうに抱いている摩訶不思議を目撃しているところだ」<br /><br />「漆黒!」<br />「久しぶりだな、シンラ」<br /> 漆黒という名のとおり、羽も嘴も眼も真っ黒な1羽のふくろうが、高い枝からシンラたちのすぐ上の枝へひらりと飛び移ってきた。<br />「近くで見ると、子供?いや、少女か?」<br /> ククク、とシンラはアクアを起こさないように、そっと笑った。<br />「初対面で、俺も同じことをこの子に言ったら、憤慨されたぞ。子供ではなく16歳だそうだ、性別は女だ」<br /> 漆黒は丸い眼をさらに見開いて、頭をくるりと一回転させた。<br />「16歳には見えないほど、小さいな。発育不全か?」<br /> また、クククとさらに可笑しそうにシンラは身体を小刻みに震わせた。シンラの胸のモフモフに心地よさそうに埋もれていたアクアが、う~んと身を捩る。その姿を愛おしそうに眺めてから、シンラは漆黒を見上げて言った。<br />「発育不全て、どこを見て言っている?」<br />「その身体の小ささや、薄さ、あどけない寝顔はどう見ても、もうすぐ大人になる16歳には見えないぞ」<br /> そうか、とシンラは胸からずり落ちそうに眠りこけている小さな身体を、両前足で元に抱え直した。<br /><br />「その子、名はなんと言うのだ?」<br />「アクアだ」<br />「アクア?」<br /> めずらしい名だな、という眼をした漆黒にシンラは真面目な顔で言った。<br />「いまは眠っているからわからないだろうが、この子の眼は独特だ。右眼がアクアブルー、左眼がレモンイエロー、つまりオッドアイだ」<br />「なるほど、それでアクアか」<br />「おそらく、な」<br /> 漆黒が木の枝から乗り出すようにして、幸せそうな顔をして熟睡しているアクアを覗き込んだ。<br /><br />「それにしても」<br />「ん?」<br />「コーダの仲間の中でも孤高で稀有な存在だったお前が、人間の女の子と一緒にいるとはどういう風の吹き回しだ?」<br /> 面白そうに漆黒にそう訊ねられて、シンラは気まずげに鼻にしわを寄せた。<br />「互いに、〈のけもの〉だからだ」<br />「お前は〈のけもの〉じゃない、いい加減わかってるだろう」<br />「俺は〈のけもの〉でいいさ。しかし、この子は捨て子で、血の繋がらない祖父と祖母に育てられたらしい。貧乏で、学校へもろくに通わず、この独特の眼のせいで苛められっ子だったそうだ。やがて唯一の家族といえる祖父母も亡くなって、本当の親や家族を探すために独り旅に出たと言うんだ。こんな、まだ子供にしか見えない、小さな女の子がだ。放っておけないだろう?」<br /> シンラはそう言うと、自分の両前足の中の小さな存在を覗き込んだ。<br /> <br /> 大丈夫、何の気配も感じずに、熟睡している。胸の辺りがなんだかあったかいのは、アクアの体温のせいばかりではなさそうだ。胸の中まであったかくて、なんとも言えない気分になる。<br /><br /> 初めて出逢った守りたいと思える存在を戸惑いながらも受け入れている親友を、漆黒はまじまじと見た。そう、シンラと漆黒は種を超えた親友だった。<br /><br />「それより、どうしてここに居るんだ?漆黒」<br /> アクアをじっと見つめていたシンラが、はたと気づいたように顔を上げた。<br />「久しぶりに親友の顔を見に〈コーダの棲む森〉へ帰ったら、シンラは北へ、ユートピアを探しに旅立ったと長老に言われたんだ」<br />「それで、俺を探してくれたのか?」<br />「まあ、また旅に出る途中だったからな」<br /> 漆黒が、大きな羽を広げて伸びをした。<br />「今度は、どこへ行くんだ?」<br />「風の向くまま、気の向くまま、かな」<br />「そうか。じゃあ、もし昔、オッドアイの子供が攫(さら)われたって話をどこかで訊いたら、どの街かを教えてくれないか?もしかしたら、この子の生まれた街かもしれない」<br /> シンラが真剣な眼で漆黒に頼んだ。<br />「その子は、捨て子じゃないのか?攫われて、捨てられたのか?」<br />「真相はわからない。でもこの子の家族には生きていてほしい、この子のことを待っていてほしいんだ」<br />「わかった」<br /> 漆黒は思慮深い眼で大きく頷くと、羽を広げた。<br />「シンラ、無事で良い旅を。お前も、その子も探し物を見つけられることを祈ってるよ。また、どこかで会おう」<br />「ああ、漆黒も気をつけて」<br /> 真っ黒なふくろうは、あっという間に夜闇に紛れて行った。<br /><br /><br /> シンラは夜空を見上げる。<br /> 相変わらず金の絨毯を広げたような眩しい星空で、しんと静まり返った空間に狼たちの遠吠えが聞える。狼たちの気配は遥か先で一定距離を保ったままで、シンラの野生のアンテナにテレパシーすら届けてこない。<br /> <br /> ふと、両後足の先に違和感を感じて、シンラは顔をしかめた。アクアを起こさないように首を捩ると、自身の足の先を見る。<br /><br /> っ!<br /> なんだ、これは!何が起こったんだ。<br /><br /> シンラは思わずそう叫びそうになって、慌てて堪(こら)えた。<br /> 恐る恐る、もう一度、自身の足先を見る。<br /> 両後足の先に、なんと5本の指が生えていた。<br /><br /> こんな、こんなことって…。<br /> これじゃあ、これまでのように駆けられないじゃないか。人間のように2足歩行するのか?立ち上がって、ほかはコーダの姿のままで?<br /> 無様だ、そんな姿、耐えられない。いや。そもそも2足でなど歩けるのか?<br /> しかもなぜ、突然。いままで、こんなことはなかったのに。なぜだ、なにが原因なんだ?<br /><br /> 不安が、足の先からぞわぞわと全身に上ってくる。どうしていいかわからなくて、シンラは軽くパニックになった。<br /><br /> 落ち着け、取り合えず、落ち着くんだ。<br /><br /> そう自分を励ましてみるものの、なんの解決策も思い浮かばない。<br /> 結局、不安と混乱を抱えたまま眠れぬ夜を過ごしたシンラは、夜が明けるほんの少し前に、突如強い睡魔に襲われて眠りへと落ちていった。<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=731039844" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=731039844&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
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〈4〉初の共同作業です

「うわぁあ~、冷たいっ。気持ちぃ~い!」 裸足になったアクアが、渓流にパシャパシャと入っていく。川は深くはないが、流れの速い個所があるから、シンラは眼が離せない。「ねぇ、魚がいるよ」 そんなシンラの心配をよそに、アクアは透き通った川面を覗き込む。魚はアクアの両足の間をするりと抜けて泳いで行って、思わず歓声を上げてしまう。「うわぁ~、いまに右足に触って行ったよ。くすぐったい、捕まえたいなぁ」「意味な... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br />「うわぁあ~、冷たいっ。気持ちぃ~い!」<br /> 裸足になったアクアが、渓流にパシャパシャと入っていく。<br />川は深くはないが、流れの速い個所があるから、シンラは眼が離せない。<br />「ねぇ、魚がいるよ」<br /> そんなシンラの心配をよそに、アクアは透き通った川面を覗き込む。魚はアクアの両足の間をするりと抜けて泳いで行って、思わず歓声を上げてしまう。<br />「うわぁ~、いまに右足に触って行ったよ。くすぐったい、捕まえたいなぁ」<br />「意味なく捕まえてどうする」<br /> シンラの言葉に、アクアはきょとんとした表情になる。<br />「意味あるよ。食べたら、おいしそう」<br />「く、食うのか?」<br />「うん、だってお腹空いた。シンラも、お腹空かない?一緒に、魚を捕まえて食べようよ」<br /> 今度は、シンラがきょとんとした表情になった。<br />「俺は、魚は食ったことがない」<br />「えぇえ~、本当?じゃあ、絶対食べてみるべきだよ、すんごくおいしいよっ」<br /> にこっと無邪気な笑顔を見せるアクアに、シンラは言った。<br />「俺は、魚は食わない。と言うか、コーダは果物や木の実を主食とする生き物だ」<br />「えぇっ、そうなの?そんなオオカミみたいな顔してるくせに?」<br />「顔は関係ない」<br /> むぅ、とシンラの表情が不機嫌になった。<br /> アクアは渓流から川べりに上がると、そんなシンラの傍へ来て言った。<br /><br />「じゃあ、あたしも果物でいい。どんなフルーツが、シンラは好きなの?」<br /> そう素直に問われて、シンラはあたりを見回した。<br /> 渓流に沿って続く森には、豊富な果物や木の実がありそうだった。<br />「少し、森の奥に入ってみよう」<br /> アクアは草で足の水を払い、脱いでいた編み上げ靴を再び履くと元気に頷いた。<br /><br /> 森へ入ってすぐに、シンラは並びそびえる大木の傍で足を止めた。<br />「ちょっと待ってろ」<br /> と言うと、くるりと大木に背を向け、後ろ足で思い切り蹴った。<br /> ざざざざざっ、ごとん、どん、ごろ。<br /> 堅そうな大きな実が2つ落ちてきた。<br />「うわっ」 <br /> 驚いて飛び下がるアクアを尻目に、シンラは今度はその実の一つを蹴って大木に当てた。見事命中した木の実は、ぱこ、と真ん中からふたつに割れた。<br /><br />「おいで」<br /> と呼ぶシンラに続いて、アクアはその実に近づき割れた半分を手に取った。<br /> 中から、白いミルクのようなとろりとしたものが流れ出た。<br /> シンラが前足で器用に半分になった実を抑えて、長い舌でその実をずるりと舐めた。それを見て、アクアも同じように恐る恐る舌で中身を掬うようにしてみた。<br />「っ!」 <br /> アクアの眼が真ん丸になったのを嬉しそうに確認して、シンラは訊いた。<br />「どうだ、旨いだろう?」<br />「お、おいしいっ。濃くて甘ぁ~いミルクみたいだ」<br />「ヤコの実だ」<br /> シンラが自慢げに鼻をヒクつかせるのが、なんだか可愛い。<br /><br /> 半分に割れたヤコの実を残らず堪能して、アクアは言う。<br />「ねぇ、このもう一つの実、どうするの?」<br />「割って食ってもいいが、旨い果物はほかにもある」<br />「このまま、放っておくの?」<br />「持っていけないだろう」<br /> アクアは肩から斜め掛けにした袋を眼で示して、シンラに言った。<br />「これに入れて、持っていきたい。だっておいしいし、旅の途中でいつもこんな森があるとは限らないし」<br /> アクアが持っている袋は、どう見ても大きなヤコの実が入る大きさではない。無理に入れたら、破けてしまいそうだ。<br />「その袋には、とても入らないだろう」<br /> 呆れたような顔をするシンラに、アクアはウインクをすると花が咲いたように微笑んだ。それから突然真剣な眼になると、ヤコの実をす、と睨んだ。<br />「え…」<br /> 驚いたことに、シンラの眼の前で成犬の頭ほどもあるヤコの実が、小豆大に変化した。すたすたすた、とアクアはその小豆大になったヤコの実に近づくと、拾い上げて斜め掛けにした袋の口から中へ落した。<br />「ね?」<br /><br /> ね? じゃないだろう。お前、何をしたんだ。<br /> お前のその不思議なオッドアイの力なのか?<br /><br /> いまだ唖然とした顔をしたままで、シンラが口を開いた。<br />「お前の、そ、その眼は、他にもなにかできるのか?」<br /> ん? と悪戯っ子のような表情でシンラを見ると、アクアは小首を傾げた。<br />「知りたい?」<br /><br /> なに、小悪魔ちっくに首傾げてるんだ。<br /> そりゃ、知りたいに決まってるだろう。<br /><br /> こくこくと頷くシンラに、アクアは言った。<br />「魚を獲るのを手伝ってくれたら、教えてあげてもいいよ?」<br /><br /><br /> <br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 人生、いやコーダ生初の魚獲りに、シンラは奮闘していた。<br /> ばっしゃばっしゃと渓流に入り込み、前足の鋭い爪で魚を引っかけようとする。最初こそ上手くいかなかったが、コツがわかると面白いように魚は爪に引っかけられ川べりに放られた。<br />「もういいよ、十分だよ、シンラ」<br /> 7尾の魚が、川べりの地面でビクビクしている。アクアはそれを拾い上げ、1尾1尾、上手に木の小枝に差していった。<br /> シンラとアクア、初の共同作業です…的な?<br /><br /> シンラが黙って見ていると、アクアはこんもり持った落ち葉をぐるりと囲むように、小枝に差した魚を地面に差し立てていく。<br /> それからシンラの眼の前で、またアクアがあの真剣な眼になった。<br /><br /> ぼっ。<br /> 驚いたことに、落ち葉に火が点いた。その下にある木の枝にも火は燃え移って、小さな焚火が魚を炙りはじめた。<br /> 次第に香ばしい、なんとも言えないおいしそうな匂いが立ちはじめる。<br /><br />「お前、火を熾(おこ)せるのか」<br /> うん、とアクアは嬉しそうに頷くと、魚をくるりと反転させて反対側も焼けるようにしている。<br /><br /> じゅぅじゅぅじゅぅ。<br /> 魚から脂が落ち始めて、さらにいい匂いが鼻腔をくすぐる。食べ頃を教えるかのように、やがて焚火は赤い炭火になった。<br /> アクアが、枝に差した魚をシンラの前にずぃと差し出す。<br />「ね、食べてみて?」<br /> <br /> 人生初、いやコーダ生 初の魚…。<br /><br />「あ、シンラは猫舌?…イヌ科だから…犬舌?」<br /> 初の焼き魚を緊張した面持ちで凝視するシンラをよそに、アクアは呑気に訳わからないことを言っている。<br /><br /> ぱく。<br /> 勇気を奮って、シンラは目の前に差し出された焼き魚に食らいついた。<br />「っ!」<br />「あ、やっぱり熱かった?」<br /> 口をもごもご、眼を白黒させているシンラに、アクアはそう言うと焼き魚をふぅふぅし出した。<br />「さぁ、これで少しは熱くなくなったかな?はい、どうぞ?」<br /> <br /> 驚いた。熱いが、火傷するほどじゃない。<br /> だが、初焼き魚は甘くなかった。ジューシーでもなかった。<br /> なんか、こう、はむっと脂っぽくて。…野生の味?<br /> <br />「不味い?それともおいしい?」<br /> ひと口食べたきり、ものも言わなくなったシンラを、アクアが心配そうに覗き込む。<br /> シンラは眼の前に再び差し出された魚を、ぱく、ともう一口頬張った。<br /> それを見たアクアは、嬉しそうにはしゃいだ声を上げた。<br />「わ、やっぱり、おいしいでしょ?焼き魚、気に入った?シンラ」<br /><br /> ま、不味くはない。 おいしい?…かもしれない。<br /><br /> 結局、その日の夕食として、アクアは4尾、シンラは3尾の魚を平らげた。<br /><br /><br /> ちっこいクセに、よく食うな、アクアは。<br /> しかも、俺より1尾多い。<br /><br /> はぁ~、満腹ぅ。<br /> こんなお腹いっぱい食べたの、久しぶり。<br /> シンラとの旅って、案外悪くないかもっ。<br /> モフモフの寝床も最高だし。<br /> んんん、今日はいっぱい歩いたから、眠ぅ…。<br /><br /> <br /> 丸くなって木の根元で眠る1頭と独りを、遥か木の上から黒い二つの眼が見降ろしていた。<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=731039844" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=731039844&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
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⑤ハッピー・バースディ

  有さんのお誕生日がやってきた。 この日のために、あたしはバースデーメニューの猛特訓。絶対に失敗しないよう、頑張った。  一度など、惺と早乙女君に試食してもらったくらいだ。自分で食べてるだけだと、だんだんわからなくなってくるし。男子目線(都合のいいことに女子目線も含む)で、正直な感想をお願いした。 メニューは、ミートローフ(母直伝、沢口家の定番メニューだ)、茶わん蒸し(事前調査で有さんの大好物&... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> <br /> 有さんのお誕生日がやってきた。<br /> この日のために、あたしはバースデーメニューの猛特訓。絶対に失敗しないよう、頑張った。<br /> <br /> 一度など、惺と早乙女君に試食してもらったくらいだ。自分で食べてるだけだと、だんだんわからなくなってくるし。男子目線(都合のいいことに女子目線も含む)で、正直な感想をお願いした。<br /> メニューは、ミートローフ(母直伝、沢口家の定番メニューだ)、茶わん蒸し(事前調査で有さんの大好物&あたしも大好き!)、ほうれん草のおひたし(身体にいいし、日本人はおひたしでしょ!)、ブロッコリーと小海老のサラダ(そうは言ってもサラダも欲しい)。<br />「なんか、和洋折衷な感じ?」<br /> と早乙女君が言う。こら、小首を傾げるな、女子かっ!<br />「でもさ、なんか母親のご飯っていう感じがしていいよ、これ」<br /> 惺が、茶わん蒸しを掬いながら言う。<br />「そうだね、沢口さんっぽいメニューだし」<br /> そ、それは褒め言葉か? 違う気が、する。<br /> なんとなく肩を落としがちになりながら、ふたりに訊く。<br />「イ、イベントぽくないってこと?」<br />「う~ん」<br /> ミートローフを食べながら、考え込んでいる早乙女君にあたしは言った。<br />「で、でも、ほら。ミートローフはご馳走っぽい感じがするでしょ?」<br /> 簡単だけど、そうは見えないメニューだからって、母親に言われたのは内緒だ。<br />「おいしいけど…」<br />「け、けど?」<br /> とっても不安な気持ちで、あたしは早乙女君の次の言葉を待つ。<br />「デミグラスソースは市販?」<br /> あ、当たり前だろっ。つくれないし、つくったとしてもめっちゃ時間がかかる。<br />「ダ、ダメ?市販だと…」<br />「ううん。市販のを使うなら、赤ワインで一度煮込むと味がランクアップするから」<br /> そ、そうなの?早乙女君、どんだけ女子?<br />「わ、わかった。ありがと」<br /> 惺が、ほうれん草の上にのっけた鰹節を、箸でいじっているのが気になる。<br />「なんか、気になることある?」<br /> 惺が、ちらっとあたしの方を一度見てから、またほうれん草のおひたしを突きながら言う。<br />「あのさ、菜っ葉。兄貴、おかか苦手だと思うよ」<br /> え?そうだった? <br />「で、でも出汁とるときは、いつも昆布と仕上げの鰹節で…」<br />「うん、それは出汁の話。おひたしにかけるおかかは、なんだか木の皮食ってるみたいだって言うんだよ」<br /> ぎょぇえええ~、ど、どうしよう。<br />「それは、氷川君ちが、いい鰹節使ってるからじゃない?パックのこれだと、木の皮まではいかないよ」<br /> ど、どうせ。安物の鰹節です。<br />「そうかぁ?」<br />「でも、いいアイデアがあるよ」<br /> にっこり笑ってそう言った早乙女君が、女神に見える。どうぞ、女神さま。迷える子羊に何かいいアイデアを。<br />「沢口さん、海苔ある?」<br /> え、の、海苔? そ、そうか、鰹節の代わりに乗っけるのか。<br />「え、え~と。味つけ海苔でいい?」<br /> 仕送り女子大生、お金のないときの非常食。ご飯に海苔、または卵で2杯はいけます。ニッポン人は、米だろ~!<br />「うん」<br /> 慌ててキッチンに走り、味つけ海苔を持ってくる。<br />「はい」<br />「ありがと」<br /> 早乙女君はビニール袋に小分けされている5枚入りの海苔から2枚を取ると、ほうれん草を適量取り、海苔の上に乗せた。<br /> え?千切ってかけるんじゃないの?<br /> それから2枚の海苔で器用にほうれん草をくるくると巻いて、小鉢の上に立てた。<br />「ほら、できた」<br />「おうっ」<br /> 惺が思わず感心したような声を上げた。<br /> ただの、ただのほうれん草のおひたしが、小料理屋の小鉢にでもありそうな一品になった。<br />「これを3つ位並べると、ちょっと見栄えがいいでしょ?」<br /> す、凄いよ、早乙女君。<br />「べ、勉強になりますっ」<br /> あたしはマジで早乙女君に頭を下げた。<br />「あはは。でもさ、菜っ葉。俺は、それ以外はこのままでいいと思うよ。茶わん蒸しはちょっとスが立ってるし、ブロッコリーは茹で過ぎだし、ミートローフにつけあわせた人参もジャガイモも面取りしてないけど、なんかこう…うん、あったかい」<br /> そ、それってダメダメってことじゃん。傷つくなぁ、とほほ。<br />「そうだね、なんだか家族の帰りを待ってるご飯って感じ」<br /> お誕生日のお祝いメニューじゃなくて、ね。<br />「うん。兄貴、もしかしたら本音を言うと、毎日食べたいのはこういうメニューなんじゃないかな?」<br />「ほ、ホント?」<br />「そうだね。お母さんのご飯じゃなくて、お料理修行中の奥さんが頑張ってつくった新婚家庭のご飯って感じがしなくもない」<br />「え」<br /> 照れるんですけど。しかもバカ正直に顔を赤らめてしまっている、あたし、たぶんいま。因みに修行中という言葉は、サラッと流した。<br /><br /> だけど、惺と早乙女君の愛ある正直なアドバイスのお蔭で、スが立たない茶わん蒸しと、茹で過ぎないブロッコリーのサラダと、見栄えのいいほうれん草の海苔巻きおひたしと…星型人参&真ん丸お月様みたいなジャガイモのつけ合わせができた。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「星と、お月様だよ」<br /> つけ合わせの人参とジャガイモを見て笑う有さんに、あたしはそう言って胸を張った。<br />「うん、可愛いな」<br />「茶わん蒸しも、スが立ってないでしょ?」<br />「ああ。どれもこれも、おいしい」<br /> ほっ、よかった。<br />「だいぶ、練習したのか?」<br />「ぶっ」<br /> お味噌汁を噴いてしまった。<br /> 因みに、今日のお味噌汁はなめことお豆腐です。<br />「わ、ごめんなさい」<br /> 慌てて口元をティッシュで拭う。<br />くくく、と有さんが笑いを堪えながら肩を震わしている。<br />もう、そんなに可笑しいですかっ?<br />「ははは、菜乃果。図星だったのか?」<br />「だって」<br />「ん?」<br />「おいしくつくりたかったから」<br /> ちょっとムクれながら、ミートローフをお箸で突くあたしに有さんが言った。<br />「ありがとう」<br /> …え?<br />「俺のために練習してくれて。こんなに頑張ってくれて」<br />「有…さん」<br /> 嬉しかった、素直に嬉しかった。ちゃんと気持ちが伝わったことが。<br />「菜乃果のご飯はあったかいな。心がぽかぽかする。毎日、こんな夕食が待っているとしたら、残業ができなくなるな」<br />「あは。そうしたら、困っちゃうね、有さん」<br /> 有さんの仕事は忙しい。残業は日常茶飯事なのだ。<br />「いや、週末が待ち遠しくなる、と言うべきか」<br />「いまでも待ち遠しいよ。だって有さんのレパートリーはおいしものばかりだし、教えてもらって一緒につくるのは楽しい」<br />「そうか」<br /> 有さんは、サラダのブロッコリーを箸で摘んだ。今日のブロッコリーの茹で加減は、自分でも絶妙だと思う。<br />「あったかいよ、本当にこんなあったかい食事は何年ぶりだろう」<br />「有さん、独り暮らしが長いから」<br />「いや、それが理由じゃないな。あのとき以来の…」<br /> 有さんはそう言うなり、ちょっと黙ってしまった。<br /> 有さんの胸になにが去来したのか、訊かないね。だって、お誕生日だもの。お誕生日は、幸せな記憶を塗り重ねる日だよ。<br /><br />「あ、そうだ。食後のケーキもあるよ」<br /> 明るく言ったあたしに、有さんの顔にも笑顔が戻った。<br />「つくったのか、ケーキ?」<br />「あ、酷いっ!いまワザとでしょ。ケーキなんて、まだつくれないもん」<br /> あははは、と有さんが笑うから、イーッしてやった。<br /> よかった、有さんも明るい笑顔だ。<br /> そして、プレゼントはお揃いのペンダント。ブランド品でも何でもないそれを、有さんは嬉しそうにつけてくれた。自分の首と、あたしの首に。<br />「菜乃果、今日の最期のプレゼントは、もちろんアレだろ?」<br /> 有さんの言葉に、顔が熱くなる。<br />「有さん、その発言、オヤジっぽい」<br />「なんだと?」<br /> 有さんが、わざとらしく眉を吊り上げた。眼の色が意地悪になる。<br /> だから負けずにあたしも言った。<br />「リボンもつける?」<br />「ああ。リボン以外はいらない」<br /> てことは、裸エプロンならぬ、裸リボン…。<br />「有さんのエロ大魔神!」<br />「言ってろ」<br /> 楽しかった。ふたりでたくさん笑い合った夜だった。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「ねぇ、氷川君」<br />「なんだよ、乙女」<br />「辛くないの?」<br />「なにが?」<br />「わかってるくせに」<br /><br />「別に」<br />「ウソ!」<br />「ホントだよ。菜っ葉の手料理を、兄貴より先に食べられるんだから役得だろ?」<br />「でも…」<br />「なに?」<br />「一番おいしくできたのは、氷川先生が食べるんだよ?」<br />「バカだな、乙女。失敗作につき合うのだって、楽しいじゃん。菜っ葉のやつ、あんな必死になちゃってさ。いろいろ、2度おいしいんだよ」<br /><br /><br />「…もしかして、氷川君…ドM?」<br />「ち、違うよっ。なに言ってんだ、乙女っ」<br />「うっふぅ、やっぱそうだ」<br />「違うっ、断じて違う!」<br />「あのね、氷川君」<br />「な、なんだよ」<br />「僕、ちょっとSっ気があることに、最近気づいたの」<br />「×○▽※Θ§Ω×◇!!!!」<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-09-09 (Wed)
  • Category : アイス
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〈3〉似た者同士

  モフモフの毛が温かくてやわらかい。 頬に触れ、鼻をくすぐる銀の胸毛に、アクアは顔を思い切り突っ込んだ。微かなフルーツの匂いに少し獣臭が加わっているけど、悪い匂いではない。むしろ安心できる癒される匂いだ。 とても幼い頃、ばあばに抱かれて眠りについた夜よりも、この銀の毛の温かさと柔らかさは遥かに満たされた気分になるから不思議だ。 独りぼっちじゃない、と思える。やっと、逢えた気さえするのは何故だろう... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> <br /> モフモフの毛が温かくてやわらかい。<br /> 頬に触れ、鼻をくすぐる銀の胸毛に、アクアは顔を思い切り突っ込んだ。微かなフルーツの匂いに少し獣臭が加わっているけど、悪い匂いではない。むしろ安心できる癒される匂いだ。<br /> とても幼い頃、ばあばに抱かれて眠りについた夜よりも、この銀の毛の温かさと柔らかさは遥かに満たされた気分になるから不思議だ。<br /><br /> 独りぼっちじゃない、と思える。やっと、逢えた気さえするのは何故だろう。 <br /><br /> そう思いながら、アクアは銀のモフモフの揺りかごから顔を上げて夜空を仰ぐ。<br />「凄い星だ、きれい」<br /> 胸元で丸まっていた小さな塊がゴソゴソ動く気配がして、シンラも眼を開けた。そして同じように夜空を見上げる。<br />「ああ、今夜はひと際、空気が澄んでいるようだ」<br /> 夜空一面に瞬く星は、まるで黄金の絨毯だ。とても数えきれないほどの無数の星が、大小の美しい輝きを天空から惜しみなく注いでいる。<br /><br />「こんな野外で寝るのははじめてだろう?怖くはないか?」<br /> シンラは銀のたてがみと胸毛の間から覗く、小さな儚げな存在に訊いた。<br />「怖くない、何故だか。シンラと一緒だからかな?」<br /> そう小首を傾げるアクアに、ふいに熱い感情が沸き上がり、シンラは戸惑う。<br /><br /> 独りぼっちが当たり前だった、のけもの扱いに慣れていた。そう、そのはずだったのに、自分以外の存在から感じるぬくもりの、この愛おしさはなんだ?<br /> 一緒…シンラが生きてきて、数えるほどしか訊いたことのない言葉。もう一度、もう一度、言ってほしい、その小さなぷくりとした唇で。<br /> こんな些細なことに心がざわめくなんて、俺もまだまだ弱いな、とシンラは自嘲する。<br /><br />「眠れそうか?」<br />「うん、シンラと一緒なら」<br /> 星の光に浮かぶ白い顔が、心底嬉しそうに笑った。<br /> <br /> 困ったものだ、とうとう旅することになってしまったようだ。この少女と、一緒に…。<br /><br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 日がとっぷり暮れる数時間前…。<br /><br />「着いてこないでっ!」<br />「別に後をつけているわけではない。お前が、俺の前を歩いているだけだ」<br />「だって、北へ行くんだもの。この道しかないから」<br />「俺も、北を目指していると言ったはずだ。この道しかない」<br /><br />「じゃ、いいっ」<br /> アクアは突然、道端にしゃがむと編上げ靴の紐を直しはじめた。<br /> シンラは、それを横目で見ながらすたすたとアクアの傍を通り過ぎる。<br /> シンラが通り過ぎたのを確認してアクアは再び歩きはじめたが、なんのことはない、前後が入れ替わっただけだ。<br /> シンラがしばらく無言で歩いていると、後ろでアクアが鼻歌を歌いながら1本の長い草をタクトのように振って上機嫌で歩いている気配がする。<br /><br /> まぁ、いいか、とシンラは少し歩を速めた。<br /> 独りで旅するアクアはまだ子供にしか見えず、しかも女の子だから心配だったが、余計なお世話だったようだ。<br /> 先を急ぐ旅ではないが、夜になる前に食料がある次の森へ辿り着きたかった。<br /> 風を切るように普段の速度になったシンラと、アクアの距離はあっという間に離れた。微かに水の匂いを感じて、シンラはこの先に小川か渓流があることを察知した。<br /> 喉を潤し、運が良ければ水辺の花の蜜にありつけるかもしれない、とシンラがさらに足を速めたときだった。<br /><br />「うぎゃあぁぁああ~」<br /> ドサッという音に続いて、叫び声がかなり後方から聞えて来た。<br /> やれやれ、とシンラは立ち止まると後ろを振り返った。<br /> 遠くで、豆粒サイズのアクアが、どうやら尻もちをついているようだ。<br /><br />「どうしたんだ?」<br /> ものの一分も経たないうちに、再び眼の前に現れたシンラを、アクアはぽかんと見つめた。<br />「おい、どうして尻もちなんかついてるんだ?」<br /> まだ呆気にとられたまま、アクアは道端の茂みを指さした。<br />「?」<br /> アクアが指さした方向には、何も驚くようなものは見当たらない。<br />「何か、いたのか?」<br />「へ、蛇が…」<br />「大蛇か?毒蛇かもしれないな」<br /> そう表情を険しくするシンラに、アクアは真っ赤になり、それからバツが悪そうに親指と人差し指で大きさを示して見せた。<br />「こんくらいの…」<br />「なっ…。5センチにも満たないヤツじゃないか」<br /> あきれ顔のシンラに、今度は心外だとばかりに頬を膨らませながらアクアが言った。<br />「だって、だって。蛇、怖いんだもん。ちっちゃいとき、噛まれたんだもの」<br />「そうか、悪かった。それは怖かっただろう。痛かったのか?」<br /> 急に優しくなったシンラに、アクアがまたもじもじし出した。<br />「どうした?」<br />「痛かったかは、わかんない。…だって、噛まれたの、じいじだから…」<br />「なっ!」<br /> シンラの眼がくわ、と見開かれる。一転怖い表情になったシンラに、アクアは子供のように必死で言い訳した。<br />「だって、だって、だって。蛇に噛まれたって言ったじいじの顔が真っ青で、凄く心配で怖かったんだもん」<br /><br /> ふぅ、とため息をつくとシンラはアクアに言った。<br />「蛇なんて、大小うじゃうじゃいるぞ。もっと怖い危険な動物だって、これから先に出会うかもしれない。それなのにこれくらいでビビッて、独り旅が訊いて呆れる」<br /> もっともすぎるシンラの言葉に、アクアは下を向いたまま黙り込んでしまった。<br /><br />「なぁ」<br /> とシンラは、悄気てしまったアクアに再び優しい声を掛けた。<br />「なに?」<br /> やっと立ち上がりながら、アクアはそんなシンラを訝し気に覗き込む。<br />「驚かなかったな、お前」<br />「え?」<br />「俺が、人間の言葉を喋るのを訊いても」<br /> それは、とアクアが小首を傾げる。<br />「だって、シンラもあたしの眼を見て驚かなかったから」<br /> アクアブルーとレモンイエローの眼が、神秘的に煌めく。<br />「そうか」<br />「そうだよ」<br /> <br /> 確かに特異な眼だと思いはしたが、さほど驚かなかった。<br /> そんな人間がいてもおかしくない、こんな俺がいるように。<br /><br /> そう思って、受け入れるのに何の戸惑いもなかったあのときの自分を、シンラは思い出した。<br /><br /> 俺たちは、似た者同士かもしれないな。<br /><br />「もう少し行くと、小川か渓流がある。喉を潤しに行くか?」<br /> 不愛想に言ったシンラの言葉に、2つの貴石のようなオッドアイが嬉しそうに輝いた。<br />「うんっ、行く!」<br /><br /> こうして、新しい旅ははじまった。<br /> 独りぼっちから、ふたりぼっちの。</span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=731039844" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=731039844&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
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〈2〉 アクアの生い立ちと旅立ち

 アクアは、母を知らない。父も、兄弟姉妹がいるのかどうかもわからない。「や~い、捨て子、捨て子。気味の悪いオッドアイっ!」 物心ついたときから、そう言われて仲間外れにされて育った。 アクアを拾って育ててくれたのは、ばあばとじいじだ。「アクアはねぇ、あの樫の木の根元に置かれていたんだよ。きっとお前は、とても裕福な家に生まれ、大切にされていた赤ん坊だったに違いないよ。だから悪い誰かが、身代金欲しさにお... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br /> アクアは、母を知らない。父も、兄弟姉妹がいるのかどうかもわからない。<br />「や~い、捨て子、捨て子。気味の悪いオッドアイっ!」<br /> 物心ついたときから、そう言われて仲間外れにされて育った。<br /><br /> アクアを拾って育ててくれたのは、ばあばとじいじだ。<br />「アクアはねぇ、あの樫の木の根元に置かれていたんだよ。きっとお前は、とても裕福な家に生まれ、大切にされていた赤ん坊だったに違いないよ。だから悪い誰かが、身代金欲しさにお前を攫(さら)ったんだね」<br /> 皆に苛(いじ)められて悄気(しょげ)かえっているアクアの頭を撫でながら、いつもばあばはそんな話をしてくれた。<br />「そうさ。だからいつか、大金持ちの両親が迎えに来るよ。そしていまは貧乏でも、お前はやがて立派なお屋敷のお姫様になるんだよ」<br /> じいじもそう言って、いつも優しく慰めてくれた。<br />「それはいつ?」<br /> 幼い頃のアクアはお姫様という言葉に心ときめかせ、その日を夢見たものだ。だけど次第に、それがばあばとじいじの優しい嘘だと気づくようになった。<br /> だから、アクアはその話をされるたびに、ばあばとじいじにこう答えるようになった。<br />「アクアは、お金持ちの両親なんかいらない。ばあばとじいじのウチの子だもん」<br /> そんなとき、ふたりは決まって嬉しそうな悲しそうな複雑な表情で、アクアを見るのだった。<br /><br /> それにしても、このオッドアイは独特だ、とアクア自身も思う。<br /> 右眼がアクアブルー、左眼がレモンイエロー。<br /> こんな眼をした人間は、アクアのまわりには一人もいなかった。気持ち悪がられ、〈のけもの〉にされるのも無理はない、明らかに異端児だ。<br /> <br />「不思議な眼だね。でも私は訊いたことがあるよ、オッドアイを持った子供は不思議な力を持つと。それは異端児などではなく、選ばれた特別の人間だと。だからアクア、いいかい?決して自分を〈のけもの〉だなんて思ってはいけないよ」<br /> 教会の牧師様はそう言った。<br /> 貧乏で文房具も買えず、周りの子供からも仲間外れにされていたアクアは、学校は3日で辞めてしまった。その代り教会のお掃除をして、牧師様に読み書きや計算を教えてもらっていた。<br /> 牧師様は、ときどき掃除や勉強がよく出来たご褒美だと言って、1ガロをくれた。10ガロで、白いふわふわのパンが2つ買える。だからアクアはそれを決して使わず、大切に貯めた。いつか、ばあばとじいじのために使うんだ、と思いながら。<br /><br /> アクアが11歳の冬に、ばあばが病気で死んだ。<br /> 身体が千切れてしまうんじゃないかと思うほど、辛くて痛くて苦しかった。アクアは3日3晩、わんわん泣いた。人の死を、それもとても大切な人の死を初めて体験したせいもあるだろう。じいじは涙をだらだら流しながら、アクアの頭を撫でてくれた。<br />「ふたりきりになってしまったな、アクア。でも、強く生きよう。そう、強くな」<br /> それから家の仕事はアクアが頑張ってやった、炊事、洗濯、掃除でもなんでも。畑仕事をするじいじが少しでも楽になるように頑張った。<br /><br /> そしてアクアが16歳になったばかりの春、じいじが病で倒れた。<br />「アクア、もしかしたらじいじはもう治らないかもしれない」<br />「嫌だよ、じいじ、そんなこと言わないで」<br /> アクアは必死にそう言ってじいじの看病をしたが、じいじは日に日に衰えていった。<br /> ある日、少し具合がよくなったのか、じいじは薄い夜具の上に身を起して座り、アクアを呼んだ。<br />「アクア、お前に伝えておかなければならないことがある」<br />「なに?じいじ」<br /> じいじは家にたった一つだけある家具と呼べるもの、引き出しが沢山ついた箪笥を指さした。<br />「アクア、あの箪笥の一番上の引き出しを、この鍵で開けてごらん」<br />「?」<br /> 言われた通りにアクアが引き出しを開けると、中には真っ白で柔らかそうな布が入っていた。<br />「アクア、それをこっちへ持っておいで」<br />「はい」<br /> なんだか大切に扱わなければならない気がして、アクアは両手でそれを捧げ持つようにして、じいじの前に座った。<br />「これはアクアを拾ったときに、お前が来ていたおくるみだよ」<br /> じいじが、丁寧にたたんであったそれを広げた。<br />「ここに、紋章があるだろう?これはきっと、お前が生まれた家の紋だと思う。このおくるみの上質さから言っても、お前はきっと良い家柄の生まれだ」<br /> アクアは、驚いてじいじをまじまじと見た。<br /> それから広げられたおくるみに施された、金糸銀糸や朱糸を使った紋章に視線を移した。王冠を乗せた細やかな細工の台を一対の羽が囲んでいる。繊細にして重厚、手の込んだ刺繍は確かに格式と価値を感じさせる。<br /> アクアは自分の心が、期待と諦めのせめぎ合いの末に震えるのを感じた。<br /><br /> じゃあ、じゃあ、いつか誰かが迎えに来るって、お姫様になれるって話はばあばとじいじの優しい嘘じゃなかったの?つくり話でも、お伽噺でもなかったの?<br />でも…いままで誰も迎えに来なかったんだ。もしかしたら望まれない子だったのかも、本当に捨てられたのかもしれない。だって、この眼だもの…。<br /><br />「アクア、お前は強い子だ。もし、じいじが死んだら、このおくるみを持って本当の両親を探す旅に出なさい」<br />「死ぬなんて言っちゃヤダ、じいじ。ヤダよ、じいじは死なない」<br /> 涙をいっぱい溜めて震えるアクアの頭を、いつものように優しく撫でながらじいじは言った。<br />「人はいつか、必ず死ぬ。いま、じいじはそのときが来たんだよ。だから、泣かないで悲しまないで、お前の本当の幸せを見つけるんだ。その手で、しっかりと掴むんだよ。できるな、アクア?」<br /> アクアは、嫌々をするみたいに首を激しく振った。<br />「嫌だよ、じいじ。アクアを置いて逝かないで。独りは嫌だ、怖いよ、じいじ」<br />「アクア」<br /> じいじが強く、静かな声で言った。<br />「運命に、人は逆らえない。でもお前なら、立ち向かっていくことができる。なぜなら、アクアは選ばれた特別な子だから」<br /> アクアの不思議な瞳を優しいまなざしで覗き込みながら、じいじはもう一度言った。<br />「アクア、選ばれた特別な子。このオッドアイがそれを証明する日が、必ず来る」<br /><br /> そしてその夜遅く、じいじはばあばの元へ旅立った。<br /> 最後まで譫言(うわごと)のように「北へ、北へ」と言いながら。<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=731039844" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=731039844&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
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第1章 ふたりぼっち  〈1〉出逢いと〈コーダの棲む森〉

〈プロローグ〉ソウルシン。 この世にたった独りだけいると語り継がれる魂の片割れ、真実の相手。そんなもの、生まれながらの〈のけもの〉にいると思うか?俺は……思わないね。✵ ✵  ✵〈本 編〉「オ、オオカミ?」「子供? ん、オンナか?」 なぜか、そのオオカミは人の言葉を喋った。 まず、そこにツッコむべきだとわかってはいたが、少女は「オンナか?」の方に反応してしまった。「見ればわかるだろっ、オンナだよ!」 ... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br />〈プロローグ〉<br /><br /><br /><br />ソウルシン。 <br /><br />この世にたった独りだけいると語り継がれる<br />魂の片割れ、真実の相手。<br /><br />そんなもの、生まれながらの〈のけもの〉にいると思うか?<br /><br />俺は……思わないね。<br /><br /><br /><br />✵<br /> ✵<br />  ✵<br /><br />〈本 編〉<br /><br />「オ、オオカミ?」<br />「子供? ん、オンナか?」<br /><br /> なぜか、そのオオカミは人の言葉を喋った。<br /> まず、そこにツッコむべきだとわかってはいたが、少女は「オンナか?」の方に反応してしまった。<br /><br />「見ればわかるだろっ、オンナだよ!」<br /> 少女に負けず、オオカミも言った。<br />「俺はオオカミじゃない。コーダという生きものだ」<br /><br /> 銀色の豊かなたてがみを風に揺らし、フォレストグリーンの眼をした大きなコーダという生きものが、小柄な少女を上から下まで舐めるように見た。<br /><br /><br /> 12、いや13歳くらいか? 顔は眼が大きくて愛くるしいが、痩せていて貧弱で、みすぼらしい服装をしている。セピア色の髪はツインテールの三つ編みにしているから、なるほど女の子のようだ。それにしても…この眼はなんだ、初めて見る…。<br /><br /><br /> やがてコーダの視線が、ある一点でひた、と止まる。<br />「発育不全だな」<br /> 少女は思わず、その視点の先にあるものを両腕で覆い隠した。<br /><br /><br /> な、ななな、なに、いきなり人の胸にダメ出ししてんだ、こいつはっ。<br /> そ、そりゃあ、あんまり大きくない胸だけど、それでもあんまりだっ。<br /> しかも、しかも初対面でそんなセクハラトークかますなんて、<br /> もしかしてこいつ、えろオヤジ?<br /> う~ん、ケモノだけに年齢がよくわかんないよ?<br /><br /><br />「こ、こら、どこ見てんだ。このセクハラえろオヤジ・オオカミ!」<br />「オヤジじゃない、こう見えて19歳だ。それに何度も言うが、オオカミじゃない、コーダだ」<br /> やけに冷静に返してくるコーダに、顔を真っ赤にして憤慨しながら少女は無い胸を張った。<br />「ふん。わたしだって、も、もう少し大人になったら、ちゃんと…」<br /><br /> ふーん、と尚も一頭のコーダはその小さな姿をさらに不躾に眺めた。<br />「母親が大きいからと言って、遺伝するとは限らない」<br /> ますます憤慨するかと思った少女の眼が、すぅと下を向く。<br />「?」<br /> どうした? と訝しがるコーダの眼の前で、少女は降ろした両手の拳を握りしめている。心なしか、伏せた睫毛が震えていた。<br /><br /><br />「母親は知らない、父親も。捨て子だから」<br /><br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「待て、子供が独りでどこへ行く気だ」<br />「ほっといて、子供じゃない。16歳だ」<br /><br />「名前は?」<br />「…アクア」<br />「そうか、俺はシンラだ」<br /><br /> とても16歳には見えないアクアが、洋服と同じく薄汚れた小さな袋を肩から斜め掛けにして早足で歩く。懸命に小さな足を動かしちょこちょこ進むアクアに、余裕で並び歩きながらシンラは続けて訊ねた。<br /><br />「どこから来た?」<br />「西の貧しい小さな村から」<br />「そうか。俺は、南の〈コーダが棲む森〉からだ」<br />「へぇ」<br /><br />「…それで、どこへ行く気だ?」<br />「どこだって、いいでしょ?」<br />「こんな子供が、いや少女が独りでどこへ行くのか、気になるのは当たり前だろう」<br /> アクアは急に立ち止まると、シンラを正面から見て言った。<br /><br />「あんたこそ、シンラこそ、どこへ行くの?」<br />「俺か?俺は俺のような〈のけもの〉ばかりが共に暮らすというユートピアを探しに行くんだ」<br />「〈のけもの〉?」<br />「ああ」<br /> アクアの他人を寄せつけないような気配が、少し和らいだのをシンラは感じた。<br /><br />「あたしはね、あたしが生まれた街へ。きっといるはずの両親や家族を探して、北へ」<br /> シンラの耳が、銀色のたてがみからピンと伸びた。<br />「偶然だな、俺も、北へ行く」<br /><br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /><br />〈コーダが棲む森〉。<br />それはうっそうと生い茂る樹木に覆われた深い森で、多種多様な果物や木の実、薬草に恵まれた動物たちの楽園だ。様々な鳥や動物、爬虫類や昆虫が生息し、その中でも約2000頭のコーダが暮らす森として知られている。<br />一見、オオカミに似て獰猛そうに見えるコーダは、実は果物や木の実を主食とし肉は食べない。群の仲間同士のコミュニケーションは主に『テレパシー』で、鳴き声や咆哮(ほうこう)はそれに付随する感情表現だ。<br />そして、ごくごく稀にシンラのような異端の存在が生まれる。<br /><br />『アイツは、人の言葉が喋れる』<br /> いつの頃からか、そんな噂がコーダの仲間内で囁かれはじめ、それと同時にシンラを見る眼と取り巻く温度が変わりはじめた。<br /><br /> 長老は言った。<br />『シンラ、お前が人の言葉を話すことは、いまはまだ噂だ。しかし、それが事実である以上、いつかは周知の事柄となるだろう。仲間同士はまだいい、お前を敬遠するだろうが利用も攻撃もしない。だが、そのことをこの森にやってくる人間に知られてはならない。人間に知られれば様々な利害や欲望の渦に巻き込まれて、その果てに我々の楽園である〈コーダの棲む森〉が荒らされてしまうことは歴史が証明している。だからもしそうなったら、お前はこの森を出て行かなければならない』<br /> シンラは長老に問うた。<br />『そのとき、俺はどこへ行けばいいのですか?』<br /> シンラの祖父でもある長老は、慈愛に満ちた眼で告げた。<br />『ごく稀に、お前のように異端の者が生まれる。そんな者たちが共に暮らすユートピアが、遥か北の地にあるそうだ。そこではコーダも人間も、鳥も動物も皆少しずつ変わっていて、だがそれ故に認め合う不思議な世界だそうだ』<br />『世界は広いな。俺以外にも〈のけもの〉はいるという訳か』<br /> シンラの言葉に、長老は悲しげに頭を振った。<br />『お前は〈のけもの〉ではない。その地へ行けば、お前はお前自身の存在価値に気づくだろう』<br /> <br /> 俺の存在価値?<br /> そんなものあるのか?<br /> 特殊でなくてよかった、ごく当たり前のコーダとして仲間とケンカしたり、助け合ったりして暮らしたかった。<br /> 避けられるのではなく、ただ、ただ同じ群れの中で笑っていたかった。<br /><br /> そんなシンラの心を読むように、長老は愛しい孫の眼を真っ直ぐに見つめながら言った。<br /><br />『この世に、生まれてこなければよかった者などいない。すべての命は等しく、意味と価値を持って、現世に生を受けたのだ』<br /><br /><br /> やがて、そのときはやってきた。<br /><br /> 〈コーダが棲む森〉は、人間たちを受け入れてきた森だ。豊かな実りを、コーダはこの森のすべての生き物、そして人間たちと共有してきた。<br /> ある日、一人の男の子が家族から離れて、森の奥深くへ入り込んだ。そして、沢山のキノコを見つけた。<br />「うわぁ、キノコだ。こんなにいっぱい!お父さ~ん、お母さ~ん、キノコをたくさん見つけたよ!」<br /> 男の子は歓喜の声を上げた。遠くで、母が何か言う声が聞えた。<br />「よおし、いっぱい採っていって、皆をびっくりさせよう」<br /> 男の子が見つけたキノコは、食用ではなく薬用だった。なんの知識のないものにとっては、毒になりかねない。<br /><br />「それは毒キノコだ、採ってはいけない」<br /> 思わず、シンラはそう言っていた。<br />「え?」<br /> 男の子はきょろきょろとあたりを見回すが、声の主がわからない。首を傾げながら、再びキノコに手を伸ばそうとする。そのキノコはまさに旬の時期で、薬にもなるがいまは毒性の強い胞子を盛んにまき散らしていて、運悪く小さな子供の肺にでも入ると大変に危険だった。<br /> だから、シンラはもう一度、今度は男の子の眼前へ行って警告した。<br />「それは毒キノコだ、毒性の強い胞子が多量に舞っている。いますぐ、ここを離れろ」<br /> いきなり眼の前に現れて、自分と同じ言葉を話すコーダに男の子は驚愕した。<br />「ひっ。コ、コーダがしゃ、喋ったぁ~!!お母さんっ、お父さんっ、助けて~」<br /><br /><br /> 長老は言った。<br />『とうとう、その季(とき)が来てしまったようだ。シンラよ、ユートピアを目指すのだ』<br /><br /><br /></span></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=731039844" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=731039844&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
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のケモノ、

〈あらすじ〉オオカミに似て非なる銀色のたてがみを持つ獣・コーダ。そのコーダの群れからある理由により異端視された孤高の〈シンラ〉。捨て子という生い立ちと不思議な身体特徴から異端児扱いされた、選ばれた特別な少女〈アクア〉。互いの不可思議な力で助け合いながらの旅は、ときどきコメディときどきキュンぬく。「俺がお前を守ってやる」「このモフモフがあればなにも怖くない」やがてシンラの身体に異変が…。種を超えて唯... <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/img/201509061546520ea.jpg/" target="_blank"><img src="http://blog-imgs-82.fc2.com/o/t/o/otonaasabi/201509061546520eas.jpg" alt="のケモノ、" border="0" width="216" height="240" /></a><br /><br /><br /><br />〈あらすじ〉<br /><br />オオカミに似て非なる銀色のたてがみを持つ獣・コーダ。<br />そのコーダの群れからある理由により異端視された孤高の〈シンラ〉。<br /><br />捨て子という生い立ちと不思議な身体特徴から異端児扱いされた、<br />選ばれた特別な少女〈アクア〉。<br /><br />互いの不可思議な力で助け合いながらの旅は、ときどきコメディときどきキュンぬく。<br />「俺がお前を守ってやる」「このモフモフがあればなにも怖くない」<br /><br />やがてシンラの身体に異変が…。<br />種を超えて唯一無二の存在だと気づくまでの、<br />異世界ならぬ別世界ラブ・ファンタジー。<br /><br />○初ファンタジー ○もふけも2度目まして ○ふたりぼっち ○しっぽは抱き枕? ○ハッピーエンド ○R15 ○R18未定?<br /><br /><br /><br />第1章 ふたりぼっち<br /><br />〈1〉<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-531.html" target="_blank" title="出逢いと〈コーダの棲む森〉">出逢いと〈コーダの棲む森〉</a> 〈2〉<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-533.html" target="_blank" title="アクアの生い立ちと旅立ち">アクアの生い立ちと旅立ち</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-534.html" target="_blank" title="〈3〉似た者同士">〈3〉似た者同士</a> 〈4〉<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-536.html" target="_blank" title="初の共同作業です">初の共同作業です</a><br />〈5〉<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-537.html" target="_blank" title="異 変">異 変</a> 〈6〉<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-541.html" target="_blank" title="滝つぼダイブ">滝つぼダイブ</a> 〈7〉<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-542.html" target="_blank" title="珍道中ちぅ">珍道中ちぅ</a> <br /><br />第2章 1番目の街-ダヤンダ<br />〈1〉<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-544.html" target="_blank" title="市場と広場">市場と広場</a>  〈2〉<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-549.html" target="_blank" title="煮物と恩返し">煮物と恩返し</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-574.html" target="_blank" title="(3)ウルリピ食堂">(3)ウルリピ食堂</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-591.html" target="_blank" title="〈4〉形見とコーダの役割">〈4〉形見とコーダの役割</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-592.html" target="_blank" title="〈5〉算術と反省">〈5〉算術と反省</a><br /> <br />
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➃困惑の果て

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  • Date : 2015-09-06 (Sun)
  • Category : アイス
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「アイス」と新ファンタジー

「アイス」本日16時にこっそり予約投稿しました。(*´ω`*)ご無沙汰してしまってすみません。でも不定期。。。あゎわ。また新ファンタジー「のケモノ、」も予約投稿しています。「ムーン」さん「アルファ」さんでは灯凪田テイルのペンネームになっています。どうそ、よろしくデスm(__)m ... 「アイス」本日16時にこっそり予約投稿しました。(*´ω`*)<br />ご無沙汰してしまってすみません。<br />でも不定期。。。あゎわ。<br /><br />また新ファンタジー「のケモノ、」も予約投稿しています。<br />「ムーン」さん「アルファ」さんでは<br />灯凪田テイルのペンネームになっています。<br /><br />どうそ、よろしくデスm(__)m <br /><br />
  • Date : 2015-09-06 (Sun)
  • Category : 未分類
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