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【R18限定記事について】
男のひと目線の描写じゃなく、女子目線でホントのところを描きたいでつ お読みいただくには、パスワードを入力いただくか下記URLからどうぞ 「小説家になろう」グループ内 R18女性向小説サイト「ムーンライトノベルズ」 灯凪田テイルのXマイページへ移動します。 http://xmypage.syosetu.com/x1507h/
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㉓個性も花火も繚乱!

  建ってまだ3年目だという新しいマンションの503号室、そこが安藤さんの住まいだった。 インターフォンを押す有さんの少し後ろで、ちょっと緊張しはじめる。だって、有さんが毎日お仕事している会社の人たちに会うのは初めて。お仕事関係の人たちも多かったというこの間のパーティーより、身構えてしまう。ちゃんと、しなきゃ。「はい」「氷川です」「ああ、有。開いてるから、勝手に入って来て」 ずいぶんとラフな応答の声が...  <br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> </span></span><span style="font-size: medium; font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">建ってまだ3年目だという新しいマンションの503号室、そこが安藤さんの住まいだった。<br /> インターフォンを押す有さんの少し後ろで、ちょっと緊張しはじめる。だって、有さんが毎日お仕事している会社の人たちに会うのは初めて。お仕事関係の人たちも多かったというこの間のパーティーより、身構えてしまう。ちゃんと、しなきゃ。<br /><br />「はい」<br />「氷川です」<br />「ああ、有。開いてるから、勝手に入って来て」<br /> ずいぶんとラフな応答の声がして、有さんが苦笑する。<br />「ったく、小梅らしいな」<br /> ドアを開けた途端、廊下に続く扉を隔てた先から賑やかな声と笑いが漏れ聞こえてくる。<br />「あ、あれ?遅くなっちゃった?」<br />「いや、そんなことはない。約束の5分前だ」<br /> 玄関で靴を脱いで、念のため玄関を施錠した有さんに続いて、廊下を進む。<br /> 有さんがリビングに続くと思しき扉を開けると、賑やかな声がいっそう大きくなった。<br />「いらっしゃぁ~い!」<br />「氷川さ~ん、俺ら、もう1時間も前から来てて酒盛りっスよ」<br />「お前は、飲み過ぎなんだよっ!」<br />「はいはい、柿の種こぼさない」<br /> すでに出来上がった、あるいは冷静なツッコミなど楽しげな声に迎えられて、あたしは有さんの背中から恐る恐る中を覗き込んだ。<br /><br /><br />「可愛いわねぇ、浴衣姿。あらぁ、かんざし、金魚?」<br /> そう言ったのは、菅原利樹(すがわらとしき)さんというヘアメイクさん。同僚の方ではなく、よく仕事をする外部スタッフさんだそうだ。男らしい名前に反して、若干、オネエ言葉な気がするけど…。<br />「いやぁ、驚いたっス。氷川さんが彼女連れてくるなんて」<br /> と言ったのは鈴木要(すずきかなめ)さん、有さんの3コ後輩のデザイナーさん。顔立ちがはっきりしていて…というよりは濃くて、テルマエロマエにガチで出演できそう。<br />「ほんと、どういう心境の変化だか」<br /> 冷静にそう言ったのは、北条和丸(ほうじょうかずまる)さんという同期のデザイナーさん。名前が名前だけに、品がいいというか良家のお坊ちゃん的お顔立ちなのが密かにウケる。<br />「有、ビールでいい?えっと、彼女はなに?」<br /> さばさばと単刀直入に訊いてきたのが、ここの持ち主である安藤小梅さん、有さんの同期のコピーライターさん。というか、女子は彼女だけなので当然そうだろう。<br /><br />「え、えっと。沢口菜乃果です」<br /> 小さな声で、取りあえず自己紹介してみる。<br />「あっそう、よろしく。で、なに?」<br />「え…」<br />「飲み物」<br />「あ、えっと…」<br /> あわあわしていると、有さんが助け舟を出してくれた。<br />「ノンアルコール、なにがある?」<br />「麦茶とアップルジュース」<br />「菜乃果、どっちがいい?」<br />「む、麦茶でお願いします」<br />「わかった」<br /> 黒髪でショートカット、小柄なあたしよりもさらに小柄で細い安藤さんは、飄々とした感じでキッチンに消えた。その後ろ姿を見ていたら、赤い矢絣の足袋を履いていることに気づいた。服装は黒いTシャツに黒いサブリナパンツ、カフェエプロンは渦巻になったモノトーンの和柄で、なんだか歌舞伎座かなんかの裏方さんみたいだ。見たことないけど…。<br />「はい、麦茶」<br />「あ、ありがとうございます」<br />「はい、ビール」<br />「おお、サンキュ。あ、これ、つまみ」<br /> 有さんが手提げ袋を安藤さんに渡す。<br />「ありがと。早速、出そう」<br />「て、手伝います」<br /> 再びキッチンに戻る安藤さんの後を追う。<br /><br /> キッチンのテーブルで、お重を開けた安藤さんが「わぁお」と言う。<br /> 2段のお重は、料亭のお花見弁当もかくやと思うほど様々な料理が美しく彩りよく並べられていた。<br />「これは、このまま出した方がいいね」<br />「そうですね」<br /> それから大きなジップロック3つに入れられているものを確認する。<br /> 一つ目は蟹のサラダ、2つ目は海老や根菜のフライ、3つ目はちらし寿司だった。<br />「これも、このままでいっか。ウチ、そういえば大皿なかったわ」<br /> 安藤さんがさっぱりとした口調で言う。<br />「そ、そうですね」<br /> 結局、それらの豪華でおいしそうな料理はそのままリビングに運ばれて、全員の歓声と喝采を浴びることとなった。<br />「うわぁ~、氷川さんが来てくれてよかったっス。今年は大ご馳走だ~」<br /> 鈴木さんが、両手を上げて喜んでいる。<br />「そうねぇ、いつもはフライドチキンとカワキものが酒の肴だったものねぇ」<br /> 菅原さんがしみじみ言う。<br />「酒が飲めればいいやつらが、なにを言う」<br /> 安藤さんが一喝する。<br />「まあ、冷房つきの特等席で花火を観られるだけでも、小梅に感謝しなきゃね」<br /> お公家さんのように優雅に言った北条さんに、安藤さんが頷く。<br />「わかれば、よろしい」<br /> なんだか、面白い人たち。<br /> この間のパーティーと違って、緊張がするすると溶けていって、なんだか楽しい夜になりそうだ。<br /><br /> 安藤さん家のリビングはフローリングに畳スペースがあって、そこが少し高くなっていて掘りごたつのように座れるスタイルだ。そしてその中央に置いてあるのが円形のテーブル、というか昔ながらのちゃぶ台だった。<br /> ちょっと大きめサイズのちゃぶ台は、なんと特注だという。<br />「なんで、ちゃぶ台なんだよ」<br /> そう言う北条さんに、安藤さんは澄ました顔で言う。<br />「畳、ちゃぶ台、花火。これ、憧れだったんだ。日本人の心だろ」<br />「でもねぇ、マンション購入の最大の決め手が、年に一度の花火大会を楽しめるからなんて。小梅ちゃんらしいわよねぇ」<br /> 菅原さんが、年上の安藤さんを小梅ちゃん呼ばわりする。<br />「黙れ、菅原。毎年喜んで欠かさず来ているのは誰だ」<br /> きゃ、と可愛らしく首を竦めた菅原さんに、早乙女君の面影を重ねる。<br />「ほら、そろそろはじまる」<br /> 有さんがそう言って、みんなの視線がリビングの窓に向けられた途端、最初の花火が上がった。<br /><br /> どーん!<br /> 花火大会の開幕を告げるかのように、夜空に大輪の赤い花が咲く。<br /> 続いて、しゅるしゅるしゅると銀色の光が闇の中を駆けあがって来て、パチパチパチと弾けたと思うと沢山の流れ星を振り撒く。<br /> 今度は最初より小さな花が、黄、青、緑、銀色、赤と続けざまに彩った。<br />「うわぁ~」 <br /> 感動のあまり、ため息が出てしまう。<br /> 隣で有さんがふ、と笑ったのがわかった。<br /> だけど、あたしの眼は次々上がる多彩なパノラマサイズの花火に釘づけた。<br /> ひとしきり華やかな開幕を告げる花火が続いていたけれど、新しい仕掛けをするためか小休止になったようだ。<br />  <br />「やっぱ、最高っスね。混雑もない冷房の効いた、酒とつまみつきの此処で観る花火は」<br /> 鈴木さんがもう何杯飲んでいるのか、赤い顔をしながら焼酎のソーダ割りをごくごく流し込む。有さんのお母さんがつくったお重から筑前煮をぱくりと頬張った。<br />「でしょ?あたしの選択に間違いはなかった。感謝しろ、みんな」<br /> 安藤さんもそう言いながら、こちらは日本酒とフライドチキンを堪能している。<br />「凄い、贅沢ですねっ!」<br /> あたしもつい興奮してしまって、思わずそう言う。<br />「ふうん、彼女、花火好きなの?」<br /> 北条さんがそう言いながら、新しいグラスに氷とウイスキーを入れた。<br />「はいっ、大好きです」<br />「お酒と一緒に楽しむと、もっと好きになるよ?」<br /> そう言って、ウイスキーのロックを差し出したのを、有さんが横から受け取った。<br />「和丸、菜乃果は酒に弱い。これは俺が貰う」<br />「やぁあん、仲良しぃ」<br /> 菅原さんがそう言いながら、有さんとあたしに、サラダやフライを取り分けてくれる。やっぱ、早乙女君と同じで甲斐甲斐しい。<br />「あ、ありがとうございます。こ、氷、もっと持ってきますね」<br /> 気が利かないなりに気を利かせて、あたしはキッチンに立とうとする。<br />「手伝おう」<br /> と言って、有さんも立ち上がる。<br />「大丈夫だよ」<br />「いや、ビールも持って来ようと思って」<br /> そんなあたしたちに、鈴木さんがひゅぅ~と口笛を吹いた。<br /><br />「どうだ、菜乃果。来てよかったか?」<br /> 製氷室を開けて、氷を手桶風のこれまた和風のアイスペールに補充する。大皿はないって言ったけど、手桶風のアイスペールとかちゃぶ台とか、こだわるところにはちゃんとこだわっているのが安藤さんらしい。小梅という可愛らしい名前とともに、あたしは安藤さんが会ってすぐに好きになった。<br />「うん、みんな良い人ばかりだね」<br />「そうだな、それぞれ少しずつ変わっているが、基本は信頼できるいいやつばかりだ」<br />「有さんは、幸せだね。こんないい人たちばかりと仕事できて」<br />「いい人ばかりじゃないが、ここにいる連中は間違いなく気のいいやつばかりだ」<br />「嫌な人もいるの?」<br />「当たり前だ。気を遣うクライアントも、キツい上司も、一筋縄では行かない連中も大勢いる」<br />「やっぱり、そうなんだ」<br />「ほら、そろそろ次の花火があがるぞ」<br /> そう言いながら額にかかった前髪を長い指で直してくれた有さんと、再びリビングに戻った。</span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-07-26 (Sun)
  • Category : アイス
517

㉒浴衣と金魚と花火

  氷川家のリビングにいる。「まあ、よかったわ。菜乃果さんに、とってもよく似合う」 上機嫌で浴衣を着つけてくれているのは、有さんのお母さんだ。 しかも浴衣も帯も、小物一式に至るまで全部、お母さんのものをお借りしている。「へぇ。馬子にも衣裳、菜っ葉にも浴衣とは、よく言ったもんだな」 有さんと一緒に覗きに来た惺が、憎らしいことを言う。「ふ~んだ、そんなことわざ知らないからっ」 い~っと、惺に顔をしかめ...  <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br /> 氷川家のリビングにいる。<br />「まあ、よかったわ。菜乃果さんに、とってもよく似合う」<br /> 上機嫌で浴衣を着つけてくれているのは、有さんのお母さんだ。<br /> しかも浴衣も帯も、小物一式に至るまで全部、お母さんのものをお借りしている。<br />「へぇ。馬子にも衣裳、菜っ葉にも浴衣とは、よく言ったもんだな」<br /> 有さんと一緒に覗きに来た惺が、憎らしいことを言う。<br />「ふ~んだ、そんなことわざ知らないからっ」<br /> い~っと、惺に顔をしかめて見せる。<br />「もう、惺ったら。女の子に意地悪言わないの。どう、有?この浴衣、まるで菜乃果さんのために誂えたみたいに良く似合うと思わない?」<br /> 有さんの母さんが貸してくださった浴衣は、ごく薄いクリーム色に大胆に墨で百合が描かれていて、なんとかという有名な作家さんの作品だそうだ。<br /> そんな高価そうなもの、最初は辞退したのだけれど、それなら新しい浴衣を新調すると言われて、もの凄く悩んだ結果、お借りすることにしたものだ。<br />「菜乃果には少し大人っぽい気がしないでもないけど、浴衣だとちょっと背伸びした感じがまた色っぽくていいものだな」<br />「そうでしょ?」<br /> 有さんの感想に、お母さんが満足そうに頷く。<br /><br />「ほれ、菜っ葉」<br /> 着慣れない着物姿と、三人の視線にもじもじしているあたしに、惺がなにかを差し出す。<br />「? なに?」<br /> 条件反射のように出した手に、惺はぽんと、細長いものを乗せた。<br />「これ…」<br />「うん、偶然見つけたんだ。菜っ葉にプレゼント」<br /> それは、べっ甲色の柄に透明なとんぼ玉がついたかんざしだった。とんぼ玉には赤い金魚が描かれていて、とっても可愛い。<br />「わ、可愛い。どこで見つけたの?」<br />「ん?どこでだっていいだろ?それより、ほら兄貴、菜っ葉につけてやってよ」<br /> 有さんが、あたしの手からかんざしを受け取ると、アップにした髪に差してくれた。<br />「鏡、見てきていい?」<br /> 嬉しくなってそう訊くと、有さんが頷いたから、あたしは洗面室へ走るように向かう。<br /> 大きな鏡に、上質な作家物の浴衣を着つけられた自分が映っている。<br /> もしそれだけだったら、身の丈に合わない格好におろおろしてしまったと思うけど、ちょっと小首を傾げると見えた。あたしらしい、等身大のハタチに良く似合う、可愛い金魚のかんざし。<br /> それを認めて、あたしはほぉぅと息を吐いた。<br /> うん、大丈夫。もう落ち着かない気分にはならない。赤い金魚がくれた自分らしさをもう一度確認して、あたしはリビングへ戻った。<br />「どう、似合う?」<br /> おどけてポーズを決めたあたしに、惺がピースサインを見せながら言った。<br />「おう、いいよ。だけど、やっぱ出目金の方にすればよかったかなぁ」<br />「出目金はヤダ。こっちがいい」<br />「そうかぁ?」<br /> いつもの調子でふざけ合うあたしたちに、お母さんが言う。<br />「さあ、行ってらっしゃい。菜乃果さん、有」<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 今夜は、花火大会だ。<br /> それも混み合う会場ではなく、有さんの同僚の方のお家へ行くのだ。なんでもリビングの窓の正面に、花火が見えるらしい。<br /><br />「凄ぉ~い!」<br /> その話を訊いたとき、あたしは歓声を上げた。<br />「特等席だね!」<br />「ああ、冷房つき、酒つき、つまみつきの特等席だ」<br /> 有さんと同期に、安藤小梅さんというコピーライターがいるらしい。<br />「そいつは諸々変わってるんだけど、数年前にマンションを買ったんだ。そのマンションに決めた理由が、リビングの窓の正面に花火大会の花火が上がるということだったんだ」<br />「へぇ。でも、それ変わっているというより、こだわりがあって贅沢なんじゃ」<br />「ん?菜乃果は、そう思うのか?」<br />「うん、だって毎年夏が楽しみじゃない。あたしも花火大好きだから、わかるなぁ」<br />「そうか」<br /> 有さんは嬉しそうにそう言って、あたしたちは安藤さんのマンションにお邪魔することに決まったのだ。<br /><br /><br /> 氷川家を後にして歩く道すがら、ゆるくアップに結い上げた栗色の髪に挿してある金魚のかんざしに有さんがまた触れた。<br />「どうしたの?ちゃんと挿さってない?」<br />「いや、惺は良く知っているな、と思って」<br />「何を?」<br />「ん?そうだな、菜乃果が喜ぶもの、とか」<br />「だって、高校時代からのつき合いだもの。弟みたいな元同級生だし」<br />「…そうか」<br /> 一瞬、何か言いたそうにした言葉を飲み込んで、有さんはちょっとらしくない優しい笑顔を見せた。<br /><br />「ねえ、そう言えば」<br />「なんだ?」<br />「どうして、あたしだけ浴衣なの?」<br /> 今日の有さんは、いつもの休日スタイル。チェックのシャツに洗いざらしのジーンズ、もちろんそんなシンプルな格好でもびっくりするくらい素敵なんだけど。<br />「俺まで浴衣は、やり過ぎだろう」<br />「やり過ぎ?」<br />「ああ、10代20代のカップルじゃない。同僚に冷やかされるのは、ご免だ」<br /> ふふ、つまり照れくさいってことだね?<br />「でも、あたしは連れて行ってくれるんだ?」<br />「ああ、菜乃果が花火が大好きだって言うから、ぜひ見せたいと思った。それに今日集まるやつらは、みんな気心が知れた連中ばかりだ。パーティーのときのように、菜乃果を苛(いじ)めるヤツはいない」<br /> もしかして…気づいてたんだ。トイレでのこと、彼女たちがあたしに何か言ったってこと。隠した涙の痕も、気づいた?<br />「…有さん」<br />「ん?」<br />「大好きっ!ありがとう、有さん!」<br /> あたしはそう言って、有さんの腕に甘えるように縋った。<br /><br /><br /> 安藤さんのマンションがある駅に向かう電車は、花火大会ということもあって混み合っていた。<br /> 様々な年代の恋人たち、ご夫婦らしき人たち、子供連れの家族、男女の仲間たち。浴衣姿も当然、多かった。<br /> 賑やかで興奮混じりの雰囲気の電車に揺られて、有さんとあたしは下町情緒あふれる街に降り立った。<br /> もう辺りはオレンジ色の夕陽を見送るように薄暗闇のベールが降りはじめていて、家灯りもぽつんぽつんと点在している。日中の暑さがまだ残る径を、有さんと並んで歩く。<br /> 有さんの手には、お母さんが持たせてくれたお重などが入った帆布製の手提げ。<br />「大丈夫?重くない?」<br />「大丈夫だ。みんなウチの母親の料理を楽しみにしているみたいだ」<br /> それはそうだろう、お母さんはとびきりお料理上手だ。<br />「あたし、手ぶらじゃマズくない?」<br />「今日集まるメンバーは、それぞれ担当が決まってるみたいだ。酒担当とか、つまみ担当とか、肉係とかいろいろ」<br />「肉係?」<br />「ああ。小梅は、マンションの持ち主な、自他ともに認める肉食だから」<br /> 少し先にコンビニがあるのを見つけて、あたしは言った。<br />「あたしも何か、持っていく」<br />「菜乃果は、これでいいよ」<br /> 有さんが、手にしている手提げ袋をちょっと持ち上げる。<br />「それは、有さんのだもの。あたしも、お礼の気持ちを持っていきたい」<br />「じゃあ、お酒はいくらあっても困らない連中ばかりだから、買っていくか?」<br />「うんっ」<br /> コンビニでビールや焼酎などを買って、あたしたちは再び安藤さんのマンションを目指した。<br /> リビングの窓一面に上がる花火、うわぁ、マジで楽しみだぁ~!<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-07-25 (Sat)
  • Category : アイス
516

㉑涙の味の現実

「ほら」 有さんが出来たてのパスタと、フルーツを乗せたお皿を持ってきてくれた。「わ、おいしそう」 大好きな魚介のパスタに思わず表情を緩めていると、有さんに軽く頬をつねられた。「痛いよ」 つねられた意味はわかっているけど、勇気を出してそう抗議する。「ふ。そんな可愛い顔して見せてもダメだ。浅野と何を話した?」「だから、世間話?」「菜乃果」 有さんの声が怖い。ちょっと首を竦めて、パスタを頬張る。「ちゃん... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br />「ほら」<br /> 有さんが出来たてのパスタと、フルーツを乗せたお皿を持ってきてくれた。<br />「わ、おいしそう」<br /> 大好きな魚介のパスタに思わず表情を緩めていると、有さんに軽く頬をつねられた。<br />「痛いよ」<br /> つねられた意味はわかっているけど、勇気を出してそう抗議する。<br />「ふ。そんな可愛い顔して見せてもダメだ。浅野と何を話した?」<br />「だから、世間話?」<br />「菜乃果」<br /> 有さんの声が怖い。ちょっと首を竦めて、パスタを頬張る。<br />「ちゃんと、具体的に、逐一(ちくいち)内容を報告しなさい」<br /> 今度は命令口調。具体的に、逐一って…。<br />「エラい人たちって、どうして子供にもわかる言葉で話さないのかな、とか」<br /> この広い会場で、たった一人だけ同じことを思ってる人がいたっていう言葉は、なんとなくマズイ予感がしたので飲み込んだ。<br />「アメリカの、政治家?あれ、大統領だったかな?とにかくそういう人たちみたいにって、浅野さん言ってた」<br />「それが浅野の本心だと、思ったのか?」<br />「う、うん」<br /> え、違うの?<br /> ふぅ、と有さんがため息をつく。<br />「甘いな。やはり菜乃果は物事の表面しか見ていない。社会に向いてない」<br /> どうして、そうなるの?<br />「浅野が言ったような考え方、生き方は確かにある。それは認めよう。だが少数派だ、そして成熟した社会では生きにくい。浅野だって、それくらいわかってるさ」<br />「じゃ、じゃあ、なんでっ」<br /> ちょっとムキになりかけたあたしを、有さんはひと睨みで黙らせる。<br />「それに菜乃果は、すぐにわかりやすい方、楽な方に流される。社会に出すのがますます心配だ」<br />「そ、そんなことないっ」<br /> にやり、と人の悪い笑みを浮かべて、有さんが言う。<br />「そんなに社会性を身につけたいのなら、俺が鍛えてやろうか?」<br /> ど、どうやって?不吉な予感がする、いや、それしかしない。<br />「け、結構ですっ」<br />「それから?それから何を話した?」<br /><br />「あ、あと、アルバイトしないかって」<br /> 言ったその場で後悔したけど、遅かった。有さんの眼が、本気で怖くなった。<br />「まさか、受けたわけじゃないだろうな?」<br />「まさか。もうすぐ大学はじまるし、授業もサークルもあるし」<br /> 有さんの眼がちょっと優しくなって、あたしの髪を撫でながら言った。<br />「いいか、菜乃果。あいつは、名うてのプレイボーイだ」<br />「えっ」<br /> 嘘でしょ?あの奇抜な風貌と、愛嬌はたっぷりあるけどあまりイケメンとは言えない面差しを思い出しながら、あたしは心底驚いた表情を見せたらしい。<br /> 有さんが、相当びっくりしているあたしを、面白そうに見ながら言った。<br />「プレイボーイがイコール、イケメンだとは限らないんだぞ。あいつは口が上手い、人の興味関心があるものを探るのも早い。いつの間にか相手の懐にするりと入り込んで、ガードを外させる。菜乃果が話しやすい、興味を持ちそうな話題を見つけることなんか、あいつにとったら朝飯前だ。あれはある意味、天性の才能だ」<br />「そ、そうなの?」<br /> 確かに気さくで話しやすかったし、面白い人だった。異性として意識する前に、あっという間に年齢の壁も超えた口の利き方をしてしまった気がする。<br />「で、でも悪い人には見えなかったし…」<br />「悪いヤツではない。しかし使い方次第では、詐欺師にもなれる能力を持っている。まあ、それは本人も自覚していて、いまのところ仕事の交渉とオンナ関係に使われているだけだけどな」<br /> あまりのことにポカンとしてしまったあたしに、有さんがさらに言う。<br />「菜乃果は、人を見る眼もないな」<br />「そ、そんなっ。酷いよ」<br />「すぐに騙されて、丸め込まれて、簡単に心を許してしまう」<br />「あ、浅野さんて…」<br /> そんな人なの? ホント?<br />「アルバイトなんて、どんな危険が潜んでいるか」<br />「だ、だから断ったし」<br />「あいつの事務所は、あいつ一人だけだ。つまり…」<br /> …つまり?<br />「菜乃果を、あらゆる危険から守るのが俺の役目だ」<br /> そうまで言われてしまうと、返す言葉がない。 <br /> でも、ホント?本当に、浅野さんはそんな人なの?そうは見えなかった、けど。<br /><br />「まあ、浅野に限らず、狼がうじゃうじゃいる荒野に、世間知らずのウブな仔ウサギを放り出したい男はいないだろ?」<br />「ちゃんと…自分で。自分の身くらい…」<br /> やっとそう言ったのに、有さんは目の前の現実を意地悪に突きつける。<br />「じゃあ、夏休みの間だけって言われていたら、菜乃果はバイトの話、断っていたか?」<br /> そ、それは…受けていたかもしれない。<br /> だって知らない世界、興味がある。カメラマンのアシスタントなんて、楽しそうだし。<br />「ほらな」<br />「な、なにも言ってないよ」<br />「ちゃんと顔に書いてある。それを俺がわからないとでも思ったか」<br /> 有さんには、もうどうしたって勝てない。悔しいけど、完全降伏。<br />「わかったよ」<br /> すっかり悄気(しょげ)てしまったあたしの背中に手を回すと、有さんは耳元で囁いた。<br />「さあ、もう帰ろう。これ以上、俺の大事な仔ウサギをこんな場所には置けない」<br />「帰っちゃって、いいの?」<br />「ああ、もう充分に野島教授の顔は立てた。こんなパーティーより、俺の仔ウサギをちゃんと躾けて可愛がる方が大事だ」<br /> ぞくりとするほど艶っぽい光を、その意地悪な瞳に湛えて有さんは笑った。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵  <br /><br />「ごめんね、ちょっと待ってて」<br />「ああ」<br /> 帰る前にトイレに行きたくなってしまった。<br /> 有さんにはソファのあるホワイエで待ってもらって、あたしはすぐ近くの化粧室へ向かった。<br /> 用を済ませて個室を出ようとしたそのとき、化粧室に何人かが入ってくる気配がした。<br /><br />「まったく、あの女子大生には驚いたわ」<br /> その言葉で、ドアを開けようとしていた手が止まった。<br /> 声と話し方に、聞き覚えがあるような気がする。<br />「ホントよね、氷川さんがあんな娘(こ)選ぶなんて」<br />「なんか、頭悪そうだったわね」<br />「あらぁ、でもJ大の英文科でしょ?そこそこ優秀じゃないの?」<br />「やぁあだ、知らないの?百花。J大って言ったって、最近じゃあピンキリらしいわよ。私たちの頃とは違うわよ」<br />「ふうん。でも、ま。社会に出たら、確実に足手まといになるタイプね」<br />「そうそう、すぐに男に頼る、媚びる」<br />「ちょっとしたことで泣く、責任逃れする」<br />「そのくせ、言い訳だけは一人前ってヤツ?」<br />「まったく。そういうオンナが、私たち働く女全体の評価を下げていると思うと、ホント腹立つ!」<br />「いい加減な腰掛け気分で働かれたら迷惑なのよ」<br />「そうそう、最初っから男の庇護の下で何もできないオンナ、守りたくなるオンナを演じていればいいのよ。そういうことにかけては、才能ありそうじゃなかった?」<br />「あはは、そうね」<br /><br /> 何故だか、身体が震えた。怒りではない、あまりにもっともな意見で、自分が情けなかった。世間が自分を見る目が、自分で思っている以上に厳しく、そして的確なのだと思い知った。そう思い知ったのに、至らなさ加減にずんと落ち込む。情けなくて、涙が滲む。<br /> だめだ、これじゃあ。いまのままじゃ、社会人としてどころか有さんのパートナーとしても失格だ。<br /><br />「あら?早苗、誰かいるみたいよ」<br />「あら、ホント。やぁねぇ、私たち、ついホ・ン・ネ、言っちゃって」<br />「さ、行きましょ。壁に耳あり、障子に目あり。ああ、怖っ」<br /> 二人の足音が遠ざかるのを確認して、あたしはそっとドアを開けた。<br /> 鏡を見て、泣いてしまったことが悟られないかを確認する。ちょっと赤い鼻を、水に濡らして絞ったハンカチで冷やす。<br /> それから、もともと薄い化粧を、ほんの少しだけ直した。<br /><br />「菜乃果」<br /> 化粧室から出ると、有さんがソファから立ち上がるのが見えた。<br /> 本当に背が高い。サマージャケットをカッコよく着こなして、肩の力を抜いた、それでいてTPOをしっかり押さえたスタイル。<br /> ポケットチーフとシャツの色がさり気なく揃えてあることに、あたしは今更ながら気づいた。素敵な大人、仕事ができる社会的地位も実力もある人…。<br />「どうした?」<br /> 背の高い素敵な人が、大好きな低い声で訊く。<br />「ううん、何でもない」<br />「そうか」<br /> 有さんはそう言って、あたしの眼の下に軽く触れた。<br />「帰ろう」<br />「はい」<br /><br /> その夜、あたしを激しく何度か抱いたその素敵な大人のオトコの人は言った。<br />「いいか、菜乃果。何度でも言うぞ。菜乃果を泣かせていいのは、この世で俺だけだ。いままでも、これからも」<br /> いつものベットの中で、すっかり慣れ親しんだ体温と肌の感触に包まれながら、あたしは心の中で問うた。<br /><br /> いいの? 本当にいいの? あたしなんかで。 有さん?<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-07-19 (Sun)
  • Category : アイス
515

⑳慌てるふたり

「そう言うあなたこそ、幾つで何してる人なんですか?」 重ね重ね失礼だとは思うけど、そう訊かせてしまう気安さみたいなものを、その人は持っていた。惺に似ている、と思ったのも要因かもしれないけれど。「俺?31歳、カメラマン」 31歳、有さんより2コ下かぁ。でも、もっと子供っぽく、もとい若く見える。 いや、有さんが大人っぽく見えるというべき?まぁ、落ち着いていてカッコいいから…って、いやん、脳内で惚気(のろけ... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br />「そう言うあなたこそ、幾つで何してる人なんですか?」<br /> 重ね重ね失礼だとは思うけど、そう訊かせてしまう気安さみたいなものを、その人は持っていた。惺に似ている、と思ったのも要因かもしれないけれど。<br />「俺?31歳、カメラマン」<br /> 31歳、有さんより2コ下かぁ。でも、もっと子供っぽく、もとい若く見える。<br /> いや、有さんが大人っぽく見えるというべき?まぁ、落ち着いていてカッコいいから…って、いやん、脳内で惚気(のろけ)ちゃった。。。<br />「ちょっと、おたく。なに、赤くなってニヤケてんの?」<br /> お、おっと、イケナイ。<br />「え、えっと、カメラマンさん、ですか。野島教授の教え子さんですか?」<br /> 年齢通りに見えないという点はスルーして、あたしは訊いた。<br />「いや。俺、大学出てないから。専門学校で写真の勉強して、氷川さんてディレクターに運よく拾ってもらって、出版社の仕事とか紹介してもらったの」<br />「有さん、に?」<br />「え?ちょっと女子大生、氷川有のこと知ってるの?」<br /> 知ってるも何も、よ~く知ってます。いろいろ、隅々?きゃ。。。って、イケナイ、イケナイ。<br />「え、え~と…あたし、今日、氷川有さんと一緒に来ました」<br />「あんだってぇ~」<br /> アンタは志村○んか、とツッコミたいのをまた我慢して、あたしは居住まいを正した。<br /><br />「沢口菜乃果と言います、初めまして」<br /> だいぶ話した後の「初めまして」だったけど、あたしはそう言って頭を下げた。<br />「あ、そうか。まだ名乗ってなかった。俺、浅野一真(あさのかずま)と言います。初めまして」<br /> 浅野さんも同じように律儀に頭を下げたのが、いままでと違って可笑しかった。<br /> それから浅野さんは「へ~」と言いながら、あたしを改めてまじまじと見る。<br />「あのさ、もしかして親戚?社会科見学とか?」<br /> また、社会科見学かよっ!どんだけあたしは、有さんと釣り合わないんだよっ。<br />「ち、違います。あの…その、つまり」<br /> 彼女です、なんて言いにくくって、あたしは顔が火照る。<br /> そんなあたしを面白そうに見ながら、浅野さんは言った。<br />「あ~、わかった。もしかして、彼女?」<br /> 言いにくい事実を言われて、逆にあたしはほっとしながら、こくっと頷いた。<br />「えええ~っ!まじ?嘘だろっ?」<br /> おいおい、冗談は“彼女”の方だったのかよっ。<br /> 思わずちょっとムッとした顔で、浅野さんを見ながらあたしは言った。<br />「…あ、あたしが彼女だったら、そんな驚くほどおかしいですか?」<br /> 浅野さんは慌てたように、早口でまくしたてる。<br />「あ、いやいや、そうじゃないって。ほら、氷川さん、クールだから派手にモテるタイプじゃないけど、その分憧れの対象っていうか。知的で冷たいあの感じの、隠れファン多いのよ?なのに浮いた噂はほとんど訊かないし、もしかしたらゲイ?とか勘ぐられてて…あ¨、」<br />「大丈夫です。そのテの話、訊いたことありますから」<br /> そうは言ったものの、ゲイ発言にはちょっと憮然とした態度を隠さないことにする。<br />「だけど、い、いやぁ、違った訳だ。よかった、よかった」<br /> どこがいいんですか、と目顔でツッコむ。<br />「でも、まさか、あのスキのない知性派がロリとはねぇ」<br /> は? はぁぁああ~~?<br />「ロ、ロリって…」<br /> あたし、そんな幼く見える? ショックだ。<br /> 軽く落ち込んでしまったあたしに、浅野さんは楽しそうに言う。<br />「わかりやすいね、女子大生。ロリは言い過ぎだった、謝るよ。だけど、あまりに若くて驚いたのは確か。えっと、何歳差?」<br />「13です」<br />「うわ、一回り以上じゃん」<br /> だから?今度は、非難する目で浅野さんを睨む。<br />「ははは、ホントわかりやすいなぁ、女子大生。思ってることが、すぐ表情に出る。バカ正直、嘘がつけない。いいね、気に入った」<br /> は? 気に入った?<br />「ねえ、女子大生。俺の事務所でアルバイトしない?」<br />「アルバイト?」<br />「うん。電話番したり、仕事のオファーを調整したり、スケジュールを管理するアシスタント探してたんだ。あ、あとこれまでの仕事のデータ整理。もう、溜まりに溜まっちゃって。俺、整理とか管理とか、事務的な作業苦手なのよ」<br /> うん、見るからに苦手そう。<br />「それって、平日の日中ってことですよね?」<br />「うん、そうだけど?」<br />「せっかくですけど、無理です。夏休み、もうすぐ終わりだし、大学があるので」<br />「大学、テキトーにサボれないの?」<br />「いや、それはちょっと…」<br />「なんだ、真面目なんだな」<br />「いえ、フツーです」<br />「そお?要領よくやりゃ、大丈夫だよ」<br /> 浅野さんが平然とした顔で、鼻をほじる。こら、レディの前で、鼻くそ弾くな。<br />「無理です、サークルもあるし」<br />「なんだ、融通効かないなぁ。氷川さんのロリは」<br /><br /><br />「誰が、誰の、ロリだって?」<br /> 不意に低い不機嫌そうな声がして、振り返れずに固まった浅野さんの表情が傑作だ。おまけに2度目の鼻くそを弾いた指を宙に浮かせたまま、必死に目顔であたしになにか訴えかけてくるから、とうとう吹き出してしまった。<br /> そんなあたしまで軽く睨むと、有さんは言った。<br />「なにを、親密そうに話していたんだ」<br /> あれ?ちょっと、マジで怒ってる?<br />「いやいやいやいや、親密だなんて、とんでもない」<br /> やっと有さんの方を振り向いた浅野さんが、つくり笑顔を貼りつけたまま、首と手を同時に振るから、ゼンマイ仕掛けの人形みたいで笑いを堪えることができない。<br />「なぁ、女子大生。笑ってないで、アンタも何とか言ってくれよ」<br /> お腹を抱えて笑うあたしを、浅野さんが恨めしそうに見てそう言った。<br />「菜乃果、笑ってる場合じゃないぞ」<br /> 有さんの声が、ぴしゃりとあたしの笑いを封じ込める。<br />「ご、ごめんなさい。浅野さんはむしろ、独りで心もとなかったあたしの相手をしてくれてただけ」<br />「そうそうそう」<br /> 浅野さんが我が意を得たりとばかりに、何度も頷く。<br /> そんな風に浅野さんを庇うあたしも、有さんは気に食わないと言った態度で、交互にしばし睨んでいた、けど。<br />「まあ、いい。浅野、菜乃果の相手をしてくれてありがとう」<br />「えっ」<br />「なんだ?」<br />「い、いや、氷川さんがありがとうって…」<br />「俺だって、礼ぐらいは言う」<br />「いや、そうですけど。なんか、妙に低姿勢というか…」<br />「なんだって?」<br />「いやいやいやいや、なんでもっ」<br /> 浅野さんはまた慌ててそう言うと、あたしたちから一歩距離を取ってへこっと頭を下げた。<br />「じゃ、じゃあ、氷川さん。俺、失礼しますっ」<br /> 踵を返して立ち去ろうとした浅野さんの背中に、有さんが言った。<br />「ああ、浅野。今後俺がロリとかゲイとかいう噂を訊いたら、その火元はお前だって思うことにするから」<br /> ひっ、とばかりに首を竦めてから、無理やり聞こえていない風を装うと、浅野さんは早足に去って行った。<br />「もう、有さんたら、意地悪なんだから。お仕事関係の人なんでしょ?浅野さんは」<br /> 浅野さんの後ろ姿を見送りながら、笑顔でそう言ったあたしに、有さんの冷たい声が聞えた。<br />「菜乃果、そんな余裕を見せてていいのか?」<br />「え…」<br />「浅野と、何を、話してたんだ」<br /> 射るような有さんの眼に慌てふためくのは、今度はあたしの番だった。<br /></span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-07-18 (Sat)
  • Category : アイス
514

⑲浮いてるふたり

  出版記念パーティーは、当然のことながら主役である野島教授の挨拶からはじまった。 それから出版社の重役や高名な日本画画家、G大の名誉教授などの祝辞が続き、日本語であるはずの言葉が、よくわからなかったり難解であったりするたびに、社会人と女子大生の壁を感じてしまった。 それが少しショックで、無口になってしまったあたしの肩に、有さんの大きな手が触れた。「どうした、菜乃果?」「…あ。なんか、世界が違うなぁ...  <br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> 出版記念パーティーは、当然のことながら主役である野島教授の挨拶からはじまった。<br /> それから出版社の重役や高名な日本画画家、G大の名誉教授などの祝辞が続き、日本語であるはずの言葉が、よくわからなかったり難解であったりするたびに、社会人と女子大生の壁を感じてしまった。<br /> それが少しショックで、無口になってしまったあたしの肩に、有さんの大きな手が触れた。<br />「どうした、菜乃果?」<br />「…あ。なんか、世界が違うなぁって思って」<br />「世界が違う?」<br />「うん。日本語のはずなのに、言っていることが1/3くらいわからなかったの」<br />「それは、美術の知識がないからだろう」<br />「そうじゃなくて」<br /> どう言ったら、上手く伝わるんだろう。あたしは一生懸命、自分の中にあるボキャブラリーと格闘した。<br />「なんか、使う言葉が、違う?」<br /> ふ、と納得したように有さんは微笑むと、あたしの髪を撫でた。<br />「それは菜乃果でなくとも、多くの学生が社会に出たときに痛感する壁だ。新聞を読んだり、先輩たちがどういう言葉を選んでいるかを注意深く訊いているうちに次第に慣れてくる」<br /> それとも、と有さんはちょっと意地悪な眼になって続けた。<br />「社会へ出るのが、怖くなったか?俺は、それでもいいぞ」<br /> いや、こんなことで怯むわけにはいかない。<br /> ここいる人たちのレベルまではいけないとしても、父が言うように“普通に”自立した人間になるのだ。<br />「普通に、ちゃんと、働ければいいもん」<br />「普通に?」<br />「うん」<br />「菜乃果の普通って、なんだ?」<br /> う~ん、なんだろう。<br />「菜乃果は、なりたい職業はないのか?」<br /> 正直に言うと、まだない。有さんのように専門職にもつけないだろうし、せめて英語がときどき役に立つくらいの普通の仕事に就きたい。<br />「いまのあたしの力で、何になれるかわからないもの。専門知識も、自慢できるスキルもないし」<br />「そんなことはない」<br /> そう言って、有さんは背の高い身体を屈ませるようにして、あたしの耳元で囁いた。<br />「俺を歓(よろこ)ばせる才能は、世界一だ。だから菜乃果の適職は、法的にも俺のモノになることだ」<br />「もうっ」<br /> なんだか、いっそう取柄なんかないって言われたみたいで、あたしはふくれっ面で有さんの鳩尾あたりを拳で突いた。<br />「ははは、怒るな。可愛すぎるだろ。パーティー会場で襲いたくなったらどうする?」<br /> 相変わらず有さんは、余裕で憎たらしいことを言う。<br /><br /> そうしているうちに中央の大きなテーブルに、銀器に入った様々な料理が次々運ばれてきては並べられた。<br /> いい匂いが会場に立ち込め、人々の視線と関心がそこへ向けられる。どんなにクラスの高い人、著名な方々でも、基本的なところは同じなんだなと、ほんの少しほっとする。<br />「菜乃果、持ってきてやろう。ここで待っていなさい」<br /> 有さんはそう言って、人々の間をするりと優雅に通り抜けて行く。大勢の中でもひと際背の高い有さんは、見失うことがない。<br /> そんな有さんを見ていたら、トレイに飲み物を乗せたホテルスタッフさんがやって来て、飲み物を勧められた。<br />「彼の分もいいですか?」<br />「どうぞ」<br /> 有さんにはビールを、あたしはウーロン茶をもらった。本当はウーロン茶は苦手なのだけど、ソフトドリンクはオレンジジュースとウーロン茶しかなかった。<br /> なんで日本茶がないのかなぁ、日本なのに。それとアイスティーとか、はと麦茶系もあると嬉しいんだけどなぁ。<br /> その代りアルコールの入った飲み物は、ビールに赤と白のワイン、ジントニック、日本酒、焼酎とウイスキーはソーダ割り、ロック、水割りがあるそうだ。なんだか、不公平。<br /> そう思っていると、両手にお皿を持った有さんが戻って来た。<br />「有さん、ビールで良かった?」<br />「ああ、ありがとう。ほら、菜乃果、おいしそうだぞ」<br /> パーティーは立食形式だけど、集う人々の年齢や社会的ランクを考慮してか、会場の壁伝いにぐるりと椅子が置いてある。また立食式の小さなテーブルも点在していて、そのひとつに有さんはお皿とフォーク、紙のおしぼりを置いた。<br />「わ、おいしそう」<br /> こういう場所でガッツイては恥ずかしいとわかっているのだけど、つい声が上擦った。<br /> だって、綺麗な桜色のローストビーフサラダや、可愛いゼリー寄せ、豆と海老のカクテルなど普段食べられないものばかりが並んでいたのだ。<br />「ここのホテルは、料理に定評があるんだ」<br />「そうなの?」<br />「ああ。それに祥子が選ぶところは、いつでも間違いがない」<br /> そっかぁ、祥子さんも、有さんも、こういうところでのパーティーや会合にはきっと慣れているんだろうな。<br /><br />「ところで」<br /> とあたしはずっと気になっていたことを言った。<br />「瑞希さん、大丈夫なのかなぁ。お母さんの大事な出版記念パーティーを欠席するくらい、体調悪いって」<br />「ああ、心配だな。もともと身体が弱いから」<br />「詳しい状態はわからないの?」<br />「ああ、パーティーの席だし、野島教授もゲストを心配させるような話題には触れたくないだろう。まあ、出席すれば、瑞希も娘として参加者に挨拶しなければならないだろうし、そういうパーティーは予想以上に疲れるものだから、大事を取ったのかもしれないな」<br /> そうだといいけど、それならいいけど。<br /> 瑞希さんとは、本当に友達みたいに話してみたかったな。距離を縮めるいい機会だと楽しみにしていたから、残念だし心配になる。<br /><br />「氷川さん」<br /> 有さんが、男女の小さな集団の一人に呼ばれた。<br />「仕事関係でお世話になっている人たちだ。菜乃果、ちょっと挨拶してくる。ここで、大人しく待っていなさい」<br />「はい」<br /> そう答えけれど、知り合いが一人もいない場所で取り残されるのはちょっと心細い。料理の追加を取りに行く勇気もなくて、あたしはぽつんとウーロン茶を飲むしかなかった。<br /><br />「食わないの?」<br /> いきなりそう声を掛けられて、あたしはその声の主を見た。<br /> うわ、なんてこの場にそぐわない人なんだろう。みんなドレスアップしたり、それなりにTPOを意識した格好をしているというのに、この人は…。<br /> 膝の抜けたダメージジーンズに先のとんがった革靴、白いシャツを無造作に羽織って、胸元にはどくろのペンダント、両耳に複数のピアスをしていて、髪は銀髪で前髪の先だけ緑色。呆気にとられつつも、あたしは思わず惺を思い出してしまった。<br />「なんか、浮いてるよ、オタク」<br /> いやいや、その言葉、そのままお返しします。しかも、初対面でなんて失礼な。<br />「いや、あなたこそ」<br /> こっちも初対面で失礼だけれど、何故か自然にそう言わせてしまう雰囲気をその人は纏(まと)っていた。<br />「そうか?これでも、リキ入れてきたつもりなんだけど」<br /> その人は心底そう思っている様子で、自分の恰好を改めて見ている。<br />「…どこが、ですか?」<br /> 割とマジにそう訊いてしまった失礼なあたしに、その人は気分を害した様子もなく答えた。<br />「だってこのジーンズ、ビンテージもので俺が持ってる中で一番高いし。シャツは、コージ山田の1点ものだぜ。知ってる?コージ山田」<br /> あたしはぶんぶん頭を振った。知らない、そんなファッションデザイナー。<br />「そっかぁ、あいつもまだまだだな。あ、コージ山田って、俺の高校時代の友達」<br /> 知るわけないだろってツッコミたいのはぎりぎり抑えたけど、たまらず吹き出してしまった。<br />「あれ?可笑しい?はは、そうだよな。でもキミ、正直だな。ますますこの場に、似合わない」<br />「似合わなくて、悪かったですね」<br /> あたしは笑いを必死で堪えながら、そう言った。<br />「あれ?これ、褒め言葉だぜ?ここにいる連中の多くは、本音言わないだろ?だから正直を丸出ししてると、浮いて見えるんだよ」<br />「あ、あたし、丸出ししてます?」<br /> 驚いて、慌てて訊ねた。<br />「うん。だってさ、さっきの祝辞、訊いた?まるで外国人が話してるみたいに、言ってることわかんなくなかった?もっとさ、子供でもわかる簡単な言葉で話すべきなんだよ。アメリカの政治家みたいにさ」<br /> いた。<br /> あたしと同じ感想を持った人が、この場に、たぶん一人だけ。<br /><br />「は~、よかった」<br />「ん?なにが?」<br />「言ってることがわかんないの、あたしだけだって思ってたんです」<br />「そんなことないよ。ほとんどの人はテキトーに訊き流しているか、わかったフリしてるだけだよ」<br /> まあ、そんなこともないだろうけど。でも、ちょっとだけ社会の壁が低くなった気がした。<br />「でも、なんでそんな難しい言葉を使うんでしょう?」<br /> この人になら正直に訊けるし、正直に教えてくれる気がした。<br />「中身がないからだよ」<br />「えっ」<br />「つまり、張りぼて、上げ底。なんとか言い回しで形つくんないと、中身が薄いことがバレバレになっちゃうからさ」<br />「そ、そうなんですか?」<br />「って、キミさ。随分、若くて可愛いけど、幾つ?」<br /> 初対面で年齢訊かれてもまったく嫌な気がしなかったから、あたしはするする本当のことを答えた。<br />「ハタチです」<br />「ぶっ!」<br /> さらに失礼なことに、その人はビールを噴いて慌てて手の甲で拭った。<br />「ハ、ハタチ!?え、え?何してる人?」<br />「え~と、大学生ですけど?」<br />「え、G大?もしかして教え子?パーティーのお手伝い?」<br /> お手伝いだったら、こんなところでこんな格好で、ウーロン茶は飲んでないだろう。ちゃんとした裏方の恰好で、きっちり仕事しますよ。<br />「いえ、J大の2年です。教え子でも、お手伝いでもありません」<br /> その人はまた驚くと、あたしをじぃっと見て考え込みながら言った。<br />「…もしかして、迷子?」<br /> だから、なんでやねん!<br /></span></span><br /><br /><span style="color:#00CC99">スミマセンm(__)m<br />今週も日曜の更新はありません。</span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-07-11 (Sat)
  • Category : アイス
513

⑱パーティーは大人の世界

  上質なカウチや飾り棚を備えたホワイエのある、ホテルのバンケットはもうすでにたくさんの人が集っていた。 高級そうなサマースーツに身を包んだ年配の男性や、スマートな身のこなしが板についているビジネスマン風の人たち、刻まれた皺も美しい丁寧に自分磨きしている女性、涼やかな顔で和服を着こなしている良家の奥様らしき方、仕事ができそうなパンツスーツの女性たち、個性的なファッションの自由業らしき人々。 集って... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> <br /> 上質なカウチや飾り棚を備えたホワイエのある、ホテルのバンケットはもうすでにたくさんの人が集っていた。<br /> 高級そうなサマースーツに身を包んだ年配の男性や、スマートな身のこなしが板についているビジネスマン風の人たち、刻まれた皺も美しい丁寧に自分磨きしている女性、涼やかな顔で和服を着こなしている良家の奥様らしき方、仕事ができそうなパンツスーツの女性たち、個性的なファッションの自由業らしき人々。<br /> 集っている年代、職業は様々でも、共通しているのは、それぞれがいわゆる勝ち組に属しているということだろう。<br /> 社会なんかまだ何も知らない女子大生を圧倒するには十分すぎる雰囲気に早くも飲まれながら、あたしは有さんの背中に隠れるように会場へ入った。<br /> ちらりちらりと送ってこられる視線が「なに、あの場違いな子供は?」と言っているようで、いっそう身を小さくする。<br /><br />「氷川センセ!」<br /> 数歩進んだところでそう声を掛けられた有さんが急に立ち止まったので、あたしはその背中に鼻をぶつけてしまった。<br /> 「大丈夫か?」と振り向いた有さんに、取りあえずこくこくと頷いておく。<br />「氷川センセったら!」<br /> クスクスという笑い声混じりで、再び有さんを呼ぶ声が聞えた。<br />「その呼び方は、止めろ」<br />「あらぁ、だって。野島教授たっての希望で、いまや母校G大の先生じゃないですか」<br />「G大の先生と言ったって、非常勤講師だ」<br />「あら?氷川先輩、後ろにいる方は?」<br /> やばい、見つかった…て、かくれんぼじゃないし。あぁ、ここは有さんに恥をかかせないためにもちゃんとご挨拶しなきゃ。<br /> そう思いながらもガチガチに固まっているあたしの肩を、有さんがそっと押した。<br />「菜乃果。野島教授の教え子で、俺の後輩の木村百花(きむらももか)さんと出口早苗(でぐちさなえ)さんだ」<br />「初めまして。さ、沢口菜乃果です」<br /> 緊張して、ちょっと噛みながらもあたしはそう挨拶した。<br />「初めまして、木村です」<br /> そう言った女性は、さらりとした黒髪を肩まで伸ばし、濃いグレーのパンツスーツを格好よく着こなしている。<br />「彼女は、出版社で編集の仕事をしている」<br /> 有さんがそう紹介してくれる。うん、いかにも仕事できそうな知的オーラがバンバンだ。<br />「どうも、出口です」<br /> もう一方の女性は、大胆な花柄のワンピースに白いサマージャケットで、ちょっと帰国子女のような香りがした。<br />「出口さんは、美術品を扱う会社でバイヤーをしている。3か国語を操る国際人だ」<br /> うわ、英文科なのに英語すら思うように操れないあたしとは、大違いだ。英語専攻だなんて、言いたくないな。<br />「で?こちらの可愛いお嬢さんは?」<br /> 木村さんと出口さんは、当然のようににこやかにあたしの紹介を有さんに促す。<br />「J大の2年生だ」<br />「女子大生っ!?まあ…」<br /> 出口さんが、綺麗に描いた眉を上げて驚いている。<br />「えっと…社会科見学?」<br /> 木村さんが、艶のあるストレートヘアをかき上げながら、訊ねる。<br />「はっ、社会科見学か」<br /> そう言って有さんは笑うけど、あたしは早くも背中に冷や汗をかいていた。<br />「氷川先輩の教え子?そう言えば、J大でも教えてましたっけ?」<br />「いや、もう教えていない。それと彼女は教え子じゃなくて、俺のパートナーだ」<br /> まあ、元教え子のような感じですけど…と内心恐縮するあたしの眼の前で、木村さんと出口さんは息を飲んで口をあんぐりと開けた。<br /> “あんぐり”というのは、まさにこう言うことなんだな、と妙に感心していると、木村さんがまさかの発言をした。<br /><br />「…冗談ですよ、ね?」<br /> え…冗談にされた?<br />「や、やだ。百花、失礼よ…ね?」<br /> 誰に確認しているのか、出口さんの反応もイタイ。<br /> そっか。あたしはこんなにびっくりされた上に、冗談だと思われてしまうほど、有さんと釣り合わないのか。自覚していたこととはいえ、何気にショックがじわじわと効いてくる。<br />「冗談じゃないよ、本当だ」<br /> 涼しい顔でそう言い切る有さんに、ふたりはまた驚いて顔を見合わせた。<br />「そ、そうですか。か、可愛い彼女ですね、氷川先輩」<br />「え~と、女子大生ってことは専攻は?」<br /> う…キタ。<br />「英文科だ」<br />「まあっ、きっと優秀なんでしょうね。じゃあ、将来は英語を活かした職業に就きたいのかしら?」<br /> 出口さんが余裕の笑みの中に、社交辞令のようなことを言う。<br /> こんなぽわんとした、ちょろい女子大生が優秀に見える訳がない。<br />「い、いえ。あたしは…」<br /> 社会的にもちゃんと認められた、自信に満ち溢れた2人の女性の前で、あたしはさらに小さくなった。<br />「菜乃果は引っ込み思案で。キミたちのように、社会で活躍できる性格じゃないんだ」<br /> 有さんがやんわりと、庇ってくれる。<br />「ま、まあっ」<br /> 愛おしそうに見つめて、あたしの頬を撫でる有さんの姿に、今度は木村さんと出口さんが固まる番だった。<br />「おっと、野島教授がこっち見ている。まず、今日の主役に挨拶してくるよ。また、後で」<br /> 有さんは絶妙のタイミングでそう言うと、また驚くというより呆れ顔の2人を残して、あたしの肩を押した。<br /><br />「ああ、氷川君。来てくれたのね。早速だけど、話があるの」<br /> あたしの方をちらっと見ただけで、あっさり無視した野島教授が有さんを隅に促す。<br /> 無視されたことにかえってほっとしているあたしに話しかけてくれたのは、祥子さんだ。<br />「まあ、沢口さんも来てくれたのね。ありがとう」<br />「い、いえ。あたしなんかが来る場所じゃないのに、スミマセン」<br /> へこへこ謝るあたしに、祥子さんが裏表のない綺麗な笑顔を見せる。<br />「なに言ってるの。有がとても幸せそうにエスコートしてくるから、みんな誰だ?って顔で沢口さんのこと見てたわよ」<br /> 祥子さんの言葉が信じられなかったけど、あたしは緊張から身体が火照った。たぶん顔は真っ赤になっている気がする。<br />「それに今日の恰好、とても可愛いわ」<br /> そう言う祥子さんこそ、アイボリーのワンピースに対のジャケットで、大人っぽさと品のいい妖艶さが見事だ。<br />「もしかして、有が選んだ?」<br /> なんでわかるんだろう。そう思いながら、今日の自分の恰好を改めて確認する。<br />「沢口さんに似合うもの、沢口さん以上に知ってるみたいね。でも…」<br /> と祥子さんは小首を傾げて悪戯っぽい眼になるから、あたしはますます余裕がなくなって焦る。<br />「え…なにか、ヘンですか?」<br /> そんなあたしに、クスリと笑って見せてから祥子さんは言った。<br />「一つだけ、有の誤算よ。こんなに可愛い姿をみんなに見せたら、嫉妬する人やちょっかい出そうとするヤツがいないとも限らないわ」<br />「ま、まさか」<br />「あら、ホントよ。うふふ」<br /> 祥子さんはきっと、あたしの緊張をほぐそうとしてくれたんだ。このひとは美人で頭が良くて優しいだけじゃなく、人間としての器も大きい。<br /> 敵わない、でも、こんな女性になりたい。あたしは感謝しつつ、心からそう思った。<br /><br />「菜乃果」<br /> 有さんがやっと帰って来た。<br />「ふふ、ふたりとも楽しんで」<br /> そう言って野島教授のもとへ戻って行こうとする祥子さんを、あたしは引き留めた。<br />「あ、あのっ。スミマセン祥子さん、お忙しいのに。今日、み、瑞希さんは?」<br /> 瑞希さんの名前を訊いた途端、それまで快晴の空の様だった祥子さんの顔が微かに曇った。<br /></span></span><br /><br /><br /><span style="color:#00CC99">大変申し訳ありませんが、明日の更新はありません。<br />え? ゆっくりいつまででも休めって?<br />い、いやん(*´ω`*)</span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-07-04 (Sat)
  • Category : アイス
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