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484

㉒ライムライト

 密度の濃い時間を5月の別荘地で過ごして、あたしたちはまたそれぞれの日常へと帰った。 静かに紡がれる静寂の時空間から、喧噪が渦巻く都会へと戻って、一瞬あの別荘での時間は幻ではなかったのかと錯覚しそうになる。それくらい幸せで、異次元な感覚だった。 でもちゃんと現実だったんだと、あたしはスマホに収めてあるいくつもの写真を眺める。その中に1枚だけある、逆光になってしまった1枚。ハレーション気味の中で有さん... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br /> 密度の濃い時間を5月の別荘地で過ごして、あたしたちはまたそれぞれの日常へと帰った。<br /> 静かに紡がれる静寂の時空間から、喧噪が渦巻く都会へと戻って、一瞬あの別荘での時間は幻ではなかったのかと錯覚しそうになる。それくらい幸せで、異次元な感覚だった。<br /> でもちゃんと現実だったんだと、あたしはスマホに収めてあるいくつもの写真を眺める。その中に1枚だけある、逆光になってしまった1枚。ハレーション気味の中で有さんとあたしが幸せそうに微笑んでいて、それはいっそう非現実的な世界へ迷い込んでいたかのような気分にさせる。<br /> 不確かな幸福を確実にするかのように、あたしはあの別荘地で撮った写真を次々と見続けた。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /> <br /> 母親から小包が届いた。<br />今週の土曜日は、あたしの二十歳の誕生日だ。<br />段ボールを開けると、一番上に『二十歳のお誕生日おめでとう』と書かれたメッセージカードと、リボンがかけられた包装紙。それを開けると、可愛い宝石箱型のオルゴールが顔を覗かせた。<br />蓋を開けるとあたしの大好きな曲、チャップリンの名作『ライムライト』のテーマ曲が流れてきて、中には可愛いピエロのペンダントが入っていた。<br />映画好きの父が教えてくれた『ライムライト』は忘れられない映画の一つで、名シーンの数々をいまでも鮮やかに思い出させるこのテーマ曲も大好きだ。この映画がキッカケでピエロもとても好きになったし、オルゴールはその音色になぜか小さい頃から心惹かれて手回しを中心に少しずつコレクションしている。<br />そんな娘のことをちゃんとわかってくれている両親からのプレゼントが、たまらなく嬉しい。オルゴールは母から、ペンダントは父からの贈り物。すぐに「ありがとう」と電話をかけた。<br />小包にはそのほかにも、タッパーウェアに入ったお母さんお得意の筑前煮、転勤先の地方都市の銘菓や珍味、果物や紅茶の缶なんかが入っていて、その愛情に涙が滲む。『ライムライト』を聴いて、ちょっぴりセンチメンタルな気分になったみたいだ。<br /><br />金曜日は大学で、知花ちゃんや近藤君、早乙女君が思い思いのプレゼントをくれた。<br />知花ちゃんと近藤君からは、ふたりで選んでくれたといういま人気の自然派コスメブランドのボディミルク。ラッピングを開けて歓声を上げたあたしに、知花ちゃんが小声で囁く。<br />「めっちゃ、いい匂いだから。ホント、悩殺級のいい匂いだから。くらくらすること、ヤラれること間違いなしっ!」<br /> 知花ちゃんの方が興奮気味にそう囁いて、あたしの眼の前で「頑張れ!」とガッツポーズをつくってみせる。<br /> え~、なにを頑張れってことですか?ヤラれるって、どっちの意味ですか?<br />ったく、知花ちゃん、近藤君とつき合うようになってから、天然具合とエロ具合に磨きがかかってますけど?<br /> それは近藤君のせいだよね?と近藤君をじと、と見たら「?」な顔されたけど。<br />そして早乙女君がくれたのは、手づくりクッキー。アーモンドを乗せたのやチョコチップ入りなど数種類が、それぞれ袋に入れられて可愛いリボンで結ばれていた。<br />「よかったら、彼と一緒に食べてね」<br />これだよ、乙女の正統派プレゼント&コメント。見習おう、あたしたち。<br /><br />そしてもちろん、有さんが一緒にお祝いしようと言ってくれた。プレゼントを銀座に買いに行こうと言われたけど、それよりも初めて一緒にお酒を飲めることが嬉しい。<br />「酔ったらどうなるのかな?菜乃果は」<br />「飲んだことないから、わかんない」<br />「全然?コンパとかでも?」<br />「うん。ウチのサークル、そういうことには厳しいの。活動停止とかになったら、ヤだから。それにもともと、みんなお酒はあんまし呑まないの。太るもとだし、コンパでは呑むより歌って踊るの」<br /> そっか、と言って有さんは笑った。そして、ちょっとエッチな表情になって囁いた。<br />「じゃあ、菜乃果のお酒初体験は俺とだな」<br /> はい、よろしくお願いします。これまでも、いろいろ初体験させてもらってますから。ちゅーとか、拘束とか、お仕置きとかも含めて…って、あたしも知花ちゃんのことエロいだなんて言えないな。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /><br /> 土曜の昼過ぎ、有さんと一緒に銀座へ向かう途中、彼のスマホが鳴った。<br />「会社からだ」<br /> 有さんが電話で誰かと話している。その様子で、なにかトラブルがあったとわかる。<br />「菜乃果、悪い。1時間だけ、どこかで時間潰してくれるか?」<br />「大丈夫なの?」<br />「ああ。取りあえず内容を確認して、スタッフに指示を出してくる」<br />「もし時間がかかりそうなら、遠慮なく電話してね。買い物はいつだっていいもの。遅くなりそうなら、あたし帰って待ってるから」<br /> 有さんは嬉しそうに目を細めると、頭を撫でて言った。<br />「いい娘(こ)だ。でも大丈夫だ、菜乃果の二十歳の誕生日なんだから。大事な記念日なんだ、なんとしても1時間で終わらせてくるよ」<br /> そう言って、銀座駅であたしたちは取りあえず別れた。<br /><br /> 1時間、もしかしたらもう少しかかるかも。どこで時間をつぶそうかな?<br /> ぶらぶらとウインドウショッピングをしばらくして、あたしはハタと気づいた。<br /> そうだ、久しぶりに…。<br /><br /> 懐かしい径(みち)を辿(たど)る。約半年前の冬、毎週末のように行き来したルート、ときには有さんと並んで歩いた径だ。あのときふたりで見たきらきらと美しかった街の灯りを思い出したら、なぜだか『ライムライト』のあの曲とチャップリンのメッセージが頭の中に浮かんだ。<br /> 『生き、苦しみ、楽しむんだ。 人生は美しくすばらしい』<br />有さんとふたりで生きている、いま、そしてきっとこれからも。そう思ったら、心が躍って向かう足取りが軽くなる。<br /><br /> 大通りからちょっと入った裏通りの道は、凍えるような冬と違って、新緑のいまは街路樹が眩しいくらいに青々と薫風に揺れている。<br /> アルバイトの最終日、祥子さんは言ってくれたっけ。<br />「経験豊かな年上の女は、いろんな相談に乗ってあげられるかもよ?」<br /> ふふぅ、相談じゃなくて、今日はお礼と報告かな?<br /> 二十歳になったこと、有さんとつきあっていること。もう有さんに訊いて知っているかもしれないけど。<br /> いまも変わらぬ、ステンドグラスがはめ込まれた艶のある木製のドア。ゆっくりとそのドアを開けたあたしは、道化(ピエロ)が自分だったなんて想像もしていなかった。</span></span><br /><br /><br /><span style="color:#00CC99">第2章はこれで終了です。<br />第3章『翻 弄』はGW明けくらいからお届けできればと思いますが。。。<br />もう少しかかるかもしれません。スミマセン(*´ω`*)<br />皆さま、楽しい連休を~!!!</span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-04-24 (Fri)
  • Category : アイス
483

㉑隠れ家レストランの夜

「用意はできたか?菜乃果」 あたしが贈ったアイスブルーのシャツにダークグレーの細身のパンツ、薄いクリーム色のカジュアルジャケットを着た有さんがめちゃめちゃカッコいい。こんなにずっと一緒に居たのに、初デートみたいにどきどきする。 それに比べて、あたしは大丈夫?レストランに連れて行ってもらえるから、大人で素敵な有さんに釣り合うように、精いっぱいお洒落したんだけど。「これでいい?」 濃い緑のワンピースは... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br />「用意はできたか?菜乃果」<br /> あたしが贈ったアイスブルーのシャツにダークグレーの細身のパンツ、薄いクリーム色のカジュアルジャケットを着た有さんがめちゃめちゃカッコいい。こんなにずっと一緒に居たのに、初デートみたいにどきどきする。<br /> それに比べて、あたしは大丈夫?<br />レストランに連れて行ってもらえるから、大人で素敵な有さんに釣り合うように、精いっぱいお洒落したんだけど。<br />「これでいい?」<br /> 濃い緑のワンピースは、水色とレモン色を組み合わせた小さな幾何学模様が散っているお気に入りのもの。スカート部分はコクーンタイプで、膝より少し上のミニ。夜は肌寒いので、淡い水色のカーディガンを羽織った。<br /> そんなあたしを目を細めるようにしてみると、有さんは言った。<br />「可愛い、とても可愛いよ。菜乃果」<br /> それからあたしの手を取ると、その掌に、小さな箱を乗せた。<br />「プレゼントだ」<br /> プレゼント? あたしの誕生日は、5月の後半。もしかして…。<br />「バースデー・プレゼント?」<br /> 眼を輝かせて訊いたあたしに、有さんは優しく笑って首を振る。<br />「バースデー・プレゼントは、一緒に選ぼう。これは、その…」<br /> 有さんは、めずらしくちょっと間を置いてから言った。<br />「俺は贈りたいと思ったときに、菜乃果にプレゼントを贈る。記念日とか関係なく」<br />「いいの?あたし、そんなに返せないのに」<br /> 有さんはあたしの頭に手を置くと、ぽんぽんと軽く叩く。<br />「菜乃果の喜ぶ顔が、俺にとっては一番のお返しだ。それより、ほら開けてみて」<br />「うん」<br /> 綺麗な箱に可愛く結ばれたリボンをほどき、上蓋をぱこ、と開ける。中には、ティアドロップ型のパールのピアスが入っていた。<br />「わ、可愛い」<br />「つけてごらん」<br /> 有さんがそう言うので、大急ぎで洗面室に走っていって鏡の前でそれをつけて、また走って有さんの待つリビングに戻った。<br /><br />「どう…かな?」<br />「よく見せて」<br /> 有さんはそう言うと、あたしの頬を両手で包んで上を向かせた。そして、長い長いキスをする。ようやく離してくれたときには、あたしは顔を上気させて、眼には涙が滲んでいた。有さんとつきあうようになってから、心が躰が感じると涙が滲む。なんだかそんな風に調教されてしまったみたいだ。<br /> あたしの呆けた半開きの唇と涙の滲んだ眼を満足そうに眺めると、有さんは言う。<br />「よく似合う。ティアドロップ型のピアスは、泣き虫の菜乃果にぴったりだ」<br /> 泣かせるのは、いつだって有さんなのに。そんな言葉を飲み込んで、あたしは有さんの腕を取る。<br />「エスコートをお願いします、ご主人様」<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 隠れ家レストランは、別荘からタクシーで10分ほどの近さだった。有さんは今夜は飲みたいって言ったし、あたしはまだ免許を持っていないからタクシー。<br /> 灯りの少ない公道の先に、ぬくもりのある橙色の光がレースのシェードから窓の外へ零れていた。入口には小さな黒板が掲げられていて、本日のおすすめメニューが書かれている。<br />「何がおいしいの?」<br />「鉄板だが、ハンバーグだ。セーヌというコースがおすすめだ」<br /> 有さんのチョイスは、いつだって間違ったことがない。んふ、楽しみだなぁ。<br /> いらっしゃいませ、と言う声に迎えられて店内に入る。カフェエプロンをした30代くらいの女性が、店内奥の予約席と書かれたテーブルへ案内してくれた。<br /> ワインリストとドリンクメニューを差し出しながら、その女性が言った。<br />「氷川様…確か土岐様の…」<br />「ええ、お久しぶりです」<br /> そう答えた有さんに、彼女はそれ以上詮索することなく、丁寧にお辞儀をして去っていった。<br />「よく来るの?」<br />「まあ、昔はね。土岐のお祖母様のお気に入りだったから」<br /> ふうん、なんか上流な感じ?でもこのレストランは、高級というよりはアットホームな雰囲気で居心地がよくて落ち着く。<br /> 有さんは、赤の何とかというフランスワインを頼んだ。あたしは、アイスロイヤルミルクティ。<br /> <br /> 最初に、お皿でコーンポタージュスープが運ばれてきた。カリカリのクルトンが浮いていて、一さじ口に入れたら、なんとも言えない深い味わいが広がった。これは絶対、手間暇かけた手づくりだ。<br /> スープを飲み終わる頃に、ミニサラダと細長いお皿に盛られたオードブルが来た。サラダは普通にレタスときゅうりとオニオンスライス、ミニトマトなのにびっくりするほどおいしい。このドレッシングのせいだな、きっと。オードブルはエスカルゴと鴨のスライス、チーズを乗せたクラッカーの3点。エスカルゴのガーリックバターが、おかわりしたくなるほど美味だった。<br /> それからメインのハンバーグ。デミグラスソースを纏ったそれは、丸々ころんとした形で、カリッと焼けた表面にナイフをそっと入れると肉汁がじゅわりと出てきた。思わず、ごくりと喉を鳴らしてしまう。<br /> パンかライスかと訊かれて、ずっと李人さんのおいしいパンばかり堪能していたあたしはライスを頼んでしまった。やっぱり日本人は、米でしょう。有さんも同じ気分だったのか、ふたりともゴマを散らしたライスで、ジューシーなハンバーグを心ゆくまで味わった。<br /> まじ、おいしい。高級レストランとは違った、でも日本人の味覚にどんぴしゃりの第1級の洋食屋さんだ。<br /> デザートは、プチケーキとアイスクリームとフルーツの盛り合わせ。食後のコーヒーはエスプレッソを頼んだ有さんに倣って、ちょっと苦さに顔をしかめながらそれでもおいしく頂いた。<br />「ご満足いただけましたか、姫?」<br /> ワイン1本くらいでは酔わない、お酒に強い有さんがそう言っておどけて見せた。<br /> もちろん、もう大満足!<br />「幸せっ」<br /> そう言ったあたしの頬を、有さんが嬉しそうに突いた。<br />「幸せって言葉は、俺とのアノ時間以外は禁止だ」<br /> どんだけ俺様? どんだけ独占欲強いの? <br /> でも、そんな俺様が大好きだから。あたしは素直に「はい」と頷いて、さらに嬉しそうなご主人様の顔を見つめる。<br /> そうして、独占欲の強いご主人様と、ちょろい籠の鳥はまたタクシーで別荘へと戻った。<br /><br /> 明日は早朝の出発になるので、あまり夜更かししないでベッドに入ったけれど、なんとなく眠れない。有さんもそうだったのか、あたしたちはぴったりと躰を寄せ合ってここ数日間の楽しかった思い出話をした。<br />「ったく、菜乃果が今朝、脱走するなんて思いもしなかったよ」<br />「脱走だなんて、ちょっと朝の散歩に行っただけなのに」<br />「いや、あれは脱走だ。俺もナメられたものだ」<br />「ナメてないよ」<br />「舐めるか?」<br /> もうっ、と有さんの胸を軽く叩く。それ、おやじギャグっぽいから。しかも、エロおやじの。<br /> そう思ったけど、口に出したら大変なことになるので、あたしは心の中でぺろ、と舌を出した。<br />「あ、そうそう。今朝、草むらになんか動物がいたよ」<br />「どんな動物だ?」<br />「姿は見えなかったからわかんないけど、ざざざって逃げてった。狸かな?」<br />「危ないな、猪とか蛇だったらどうする?」<br />「あ、それはあたしも思った。ちょっと怖かった」<br /> 思い出したあたしは、ぶるりと震えて首を竦めると、有さんに縋りついた。<br />「ここには熊だっているんだぞ。人里に下りて来たこともあるらしい」<br />「ホント?」 <br /> あたしはギョッとして、有さんの顔を見上げる。本当だ、と有さんがあたしを見て、その長い指で頬を撫でる。<br /><br />「そうだ、動物だけじゃないぞ。ここには怖い伝説があって、人喰い妖怪が…」<br /> そこで、有さんが突然話すのを止めて窓の方を見るから、あたしはいっそう縋りついてしまう。<br />「ど、どうしたの?…ね、有さん」<br />「…菜乃果、窓のあの影…」<br /> あの…影?<br /> あたしはとてもじゃないけど窓の方なんか見れなくて、悲鳴を上げて有さんに縋りついた。<br />だめ、だめ、止めて。あたしはとんでもなく怖がりなのだ。幽霊の話とか、残酷な話が大嫌い。人喰いサメとか血が大量に出る映画も嫌い、お化け屋敷にだって入ったことがない。高校の文化祭でお化け屋敷に無理やり入れようとした男子とは、1週間口を利かなかったくらいだ。<br /> わー、ぎゃー、とパニックを起こしたあたしの背中を有さんが撫でる。<br />「嘘だよ、冗談だよ。菜乃果、案外、臆病なんだな」<br /> じょ、冗談?酷いっ!<br />「酷いよっ!あたしホントに怖かったんだからっ。もう、有さんなんか大嫌いっ!!」<br /> 有さんの胸をマジ叩きして抗議した。有さんは余裕で笑いながら、その手を掴む。<br />「ははは、ごめんごめん」<br />「ごめんじゃないっ」<br /> 不貞腐れて背中を向けたあたしに、有さんが面白そうに言う。<br /><br />「菜乃果、大っ嫌いだったら、別々に寝るか?」<br /> え?<br />「ああぁ、菜乃果に嫌われたみたいだ。じゃあ、俺は階下(した)のソファででも寝るとするか」<br /> そう言って本当にベッドから出ようとする有さんのパジャマを、必死で掴んだ。<br />「やっ、ダメ。独りにしないでっ!」<br /> 情けないけれど、もう半泣きだ。<br />「お願い、お願い、有さん。独りは嫌っ。こ、怖いよぉ」<br /> くくく、と有さんが笑う気配がする。もしかして、意地悪した?でも、有さんのパジャマを引っ張って、隣に戻ってくれた有さんにぎゅぅと再びしがみつく。<br />「ははは、菜乃果。これからもし菜乃果が勝手な行動をしたり、俺の言うことを聞かなかったら、怖い話をするっていう手があるな」<br /> やっぱり…ワザとだ。<br />「ヤダ…」<br />「ん?」<br />「言うこと…ちゃんと…訊くから。…ぐ、ぐずっ」<br />「本当か?」<br /> 鼻を啜りながら、こくこくこくと何度も頷いた。わりと、マジに、必死で。<br /> 有さんは、そんなあたしの頭を撫でて嬉しそうに言う。<br />「いい娘(こ)だ、菜乃果。可愛いよ」<br /> もうっ、悪魔だ。上機嫌の悪魔に、それでもあたしは頼るしかなかった。</span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-04-23 (Thu)
  • Category : アイス
482

⑳脱走とご主人様

 チュニチュニチュニチュニ。  ヒューヒューヒュン。 訊き慣れない野鳥の声に、眼が覚めた。何時だろうと、壁際の時計を見る。 6時少し前、有さんはまだ眠っている。それを起こさないように、あたしはそっとベッドから抜け出た。物音を立てないように、気をつけて着替えをする。 忍び足で階下に降りると、やはり音を立てないように気をつけながら玄関の鍵を開けた。外に出ると、再び慎重に鍵穴に燻金色の鍵を差し込んだ。か...  <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">チュニチュニチュニチュニ。 <br /> ヒューヒューヒュン。<br /> 訊き慣れない野鳥の声に、眼が覚めた。何時だろうと、壁際の時計を見る。<br /> 6時少し前、有さんはまだ眠っている。それを起こさないように、あたしはそっとベッドから抜け出た。物音を立てないように、気をつけて着替えをする。<br /> 忍び足で階下に降りると、やはり音を立てないように気をつけながら玄関の鍵を開けた。外に出ると、再び慎重に鍵穴に燻金色の鍵を差し込んだ。<br />かちゃりという微かな音に、しばし身を固くする。大丈夫、屋敷内から物音はしない。有さんは、きっとまだ熟睡している。<br />石畳を踏んで広い庭に出ると、あたしは思い切り伸びをして、ひんやりと新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。<br />ああ、気持ちがいい。<br /><br />今朝はちょっとした冒険をすることにしたのだ。だって有さんは、丸2日間、あたしを閉じ込めっぱなし。隠れ家的なレストランはおろか、周辺散策にすら連れて行ってくれない。もちろん大好きな有さんと、ベタベタぐずぐずイチャイチャしているのは楽しい。<br />でもね、今日が最終日なんだよ?明日の早朝には、また東京へ帰るんだもの。<br />軽い悪戯心で、あたしは過保護な檻の中から脱走することに決めた。<br />別荘の敷地内から、独りで初めて外に足を踏み出す。なだらかな細い径(みち)を下ると、広めの公道へ出た。<br />歩いても歩いても見えるのは緑と花だけ、人も車も通らない。<br />「数メートル先には隣の別荘があるって言ってたのになぁ。逆方向へ来ちゃったのかな?」<br /> なんだか、どんどん緑が鬱蒼としてくる気がして心細さを感じはじめた頃、急に径が開けた。小高くなった少し先に、可愛らしい赤い三角屋根が見える。<br /> あ、なんかある。やっぱり別荘かなぁ?可愛い雑貨屋さんとかだったら、嬉しいんだけどなぁ。その方向に一歩踏み出したところで、傍らの雑草の中からごそりと動く音と気配がした。<br /> な、なに?狸…とか?へ、蛇じゃないよね?大の苦手なんですけど。<br />ちょっと緊張して立ち止まって様子を窺う。向こうも警戒しているのか、気配と音が消えた。そぅっと茂みから距離を取ろうとした瞬間だった。ざざざざと激しい音がして、何かが茂みの奥から森へと疾走して行った。<br />「う、うゎあ~っ」<br /> 思わずあげた大きな声が、こだまして聞えた。手に汗を握って、冷や汗をかいていた。<br /><br /> やばい、やっぱり独りだと不案内だし、怖い。引き返そうとしたところで、ポケットのスマホが鳴った。<br />「菜乃果っ!」<br /> 切羽詰まったような有さんの声が聞えてきた。思わず安心して、情けない声を出してしまった。<br />「有さぁ~ん」<br />「どうした。何かあったのか?いまどこだっ?」<br /> 冷静な有さんがめずらしく焦っているのを耳にして、逆にすとんと開き直ってしまった。<br />「ううん、大丈夫。何もないよ」<br />「いまどこだ。すぐに帰ってきなさい!」<br /> 声がちょっと怒っている。まず~い、お仕置きとか言われたらどうしよう。今度は別な意味でビビリながら、あたしは来た径を戻った。<br /><br /> 別荘に繋がる細い径の入り口で、左右を何度も見ながら待っている有さんが見えた。そしてあたしの姿を見つけると、怖い顔で大股で近づいてくるから、思わず逃げそうになってしまう。そんなことをしたら後が怖いので、恐る恐る近づいて行った。<br />「菜乃果っ!」<br /> 有さんががば、といきなりあたしを抱きしめた。ぎゅぅと力任せに抱きしめられて、苦しくてさらにビビったけれど、いま抵抗するのはマズイ、たぶん。<br />「眼が覚めたら、菜乃果がいなくて。悪夢かと思った」<br /> そんな大袈裟な、と思ったけれど、怖いのと責任を感じたのとで素直に謝った。<br />「ごめんなさい」<br />「だけど…良かった」<br /> 有さんが心底ほっとしたようにそう言うから、あたしはまた申し訳なくなって。タレ目をさらにタレさせてもう一度謝った。<br />「おいで」<br /> そう言う有さんに手を引かれて、別荘の中へ戻った。<br /> だけどリビングのソファにあたしを座らせた有さんの顔が、急に意地悪になる。さっきまで安心したように優しい表情だったのに…。<br />「どういうつもりだ」<br />「だって」<br />「だって、は禁止だと言ったはずだ」<br />「全然、外に出してくれないから…」<br /> 上目づかいで有さんの表情を窺いながら、あたしは小さな声で言い訳する。<br />「だからって独りでこっそり出かけるなんて…心臓に悪い」<br /> 有さんがまだ怒った顔で言って、あたしの鼻をぎゅぅと摘んだ。い、痛いよ。<br />「連れてってくれと、お願いすればいいだろう?」<br />「お願いしたもん」<br />「そうだったか?」<br />「一度、外へ行きたいって言ったら、いまは駄目だって…」<br />「いつだ?」<br /> え…。最初の晩、ベッドの中で…。あれ、お願いするタイミング間違えた?<br />「覚えてないの?じゃあ、もう一度お願いする。周辺を歩いてみたい、隠れ家レストランにも連れてって欲しい」<br />「勝手に出歩いておいて、お願いが通ると思ってるのか?」<br /> そ、そんなっ。<br />「もうっ。最初から、連れてくつもりなんかないんじゃないっ」<br /> そう言ってむくれるあたしの顔を見て、やっと嬉しそうに笑った有さんが言った。<br />「やっと、わかったか」<br /> え~~~~!<br /> ふふ、とさらに悪魔の笑みを浮かべた有さんが言う。<br />「なぁ、菜乃果。これから菜乃果が俺を満足させたら、夜は隠れ家レストランへ連れてってやろう」<br /> どうやって、なんて訊くまでもないよね?<br /> しょうがないので、ちょっと涙眼になりながらも、あたしはこう言うしかなかった。<br />「わ、わかった。頑張ってみる」<br /> そうか、と上機嫌で笑うと有さんは、その大きな手であたしの頭を撫でた。<br />「いい娘(こ)だ、菜乃果。だけど、その前に朝食にしよう」<br /> <br /> 生みたて卵のオムレツと、こんがり焼けたトーストと、フレッシュな野菜と果物のジュースはおいしかった。…けど、これから乗り越えなければならない難題と試練がなければ、あたしはもっとこの朝食を楽しめたと思う。<br /> 朝食後は、お風呂で有さんを泡々にして洗って、恥ずかしくて自分が嫌になるくらい「好き好き大好き」を連発して、自分史上最大限の甘えと媚びとシナをつくって頑張った。<br /> そんなあたしを面白そうに眺めながら、有さんは「まだまだだな」なんて意地悪を言う。<br /> それでも寝室の出窓から、何度見ても心を奪われる美しいオレンジ色のグラデーションが夕空を染める頃、有さんはやっとこう言ってくれた。<br />「ちょっとは反省したみたいだから、連れてってやろう。な、菜乃果?」<br /> あのですね、ずっと閉じ込めていたことへの反省はなしですか?そうでなければ、あたしだって脱走なんか企てなかったのに。<br /> もちろんそんな不満はおくびにも出さず、あたしは殊勝な顔で有さんにこう告げた。<br />「はい、ありがとうございます。ご主人様」<br /> 因みに、ご主人様発言はなかなか効果的だったようだ。ほっ。</span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-04-22 (Wed)
  • Category : アイス
481

⑲紅い星

R15くらい(しかもかなり後半)だと思いますが、苦手な方はお気をつけて。。。(*´ω`*)「うわぁ~」 李人さんが持ってきてくれた包みを有さんが開けてみせてくれて、あたしは思わず歓声を上げた。 焼きたてのいい匂いがするまだ温かな数種類のパン、瓶入りのパテ、大きなハムの塊と、ソーセージは真っ赤なヤツと白いもの、緑の香草みたいなのが入ったピンク色の3種類。「どれも旨いことは、俺が保証する」 有さんが満足そうに頷... <span style="color:#00CC99">R15くらい(しかもかなり後半)だと思いますが、<br />苦手な方はお気をつけて。。。(*´ω`*)</span><br /><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">「うわぁ~」<br /> 李人さんが持ってきてくれた包みを有さんが開けてみせてくれて、あたしは思わず歓声を上げた。<br /> 焼きたてのいい匂いがするまだ温かな数種類のパン、瓶入りのパテ、大きなハムの塊と、ソーセージは真っ赤なヤツと白いもの、緑の香草みたいなのが入ったピンク色の3種類。<br />「どれも旨いことは、俺が保証する」<br /> 有さんが満足そうに頷いてから、あたしの鼻を人差し指でぽんと叩く。<br />「急にお腹が空いてきちゃった」<br />「はは、現金だな、菜乃果は。じゃあ、急いでスープを仕上げよう」<br />「はぁい」<br /> 有さんとカリフラワーのミルクスープを温める。冷蔵庫でよく冷やしたパリパリの野菜サラダと、李人さんが持ってきてくれたハムやソーセージ、パンをお皿に盛った。<br /> シンプルだけど、飛びきり贅沢な別荘地の食卓が出来上がった。<br /> 眼の前では、暖炉の火が少し肌寒くなった大気をゆっくりと温めてくれている。いいなあ、ロマンチックだ…と独り感動していると、有さんが突然吹き出す。<br />な、なに?どうしたの?<br />「菜乃果、やっぱりミルクスープに飾り切りの人参は面白すぎる」<br /> ぶすぅ。それを訊いて、あたしは思いっきり不服そうに頬を膨らませる。<br />「だって、有さんがこれでいいって」<br /> そう抗議したものの、乳白色の洋風スープの中に顔を覗かせている、和風の煮物にぴったりの飾り切りされた人参をあらめて見て、ついあたしも吹き出してしまう。<br /><br /> <br /> 夕食づくりのお手伝いで、有さんに人参を切ってと言われて、あたしは張り切った。春休みに両親のもとへ行ったときに、人参の飾り切りを母に教えてもらったのだ。何に使うかを確認しないで、調子に乗ってせっせと人参を梅の花みたいに飾り切りにしていたら、頭上の斜め上から視線を感じた。<br />「?」<br />「何してるんだ?菜乃果」<br />「え?だって人参切ってって、有さんが…」<br />「その前に、俺はなんて言った」<br />「え?え~と、スープをつくるからって…あっ!」<br /> 目の前に転がっている、たくさんの梅の花型の人参をあたしはあらためて見て焦った。<br />「…菜乃果」<br /> う…有さんの顔が見れない。<br />「菜乃果」<br />「な、なに?」<br /> ほんの少しの沈黙の後、有さんが言った。<br />「料理、上手になったな」<br /> え? 思わず有さんを見上げて、意地悪な笑顔に捕まった。<br /> くくく、と有さんが笑い出す。細長い躰を2つ折りにして、ついに大爆笑したのだった。<br /> 酷いっ! 失礼だよっ!!<br /><br /> <br /> そんな数時間前のことを思い出してしまった。<br />「やっぱ、梅の花はミルクスープには似合わないよね。次は星型とかハート型にするから」<br /> 苦笑しつつもはぁ、とため息をついたあたしに有さんが言った。<br />「いや。人参はこれからも梅の花にしてくれ。ずっとだ、俺の傍で永遠に菜乃果は梅の花型の人参をつくってくれ」<br /> 突然そんな甘い言葉を言うなんて、反則。照れ隠しに、あたしはぷりっぷりのソーセージに齧(かぶ)りついた。<br />「ホント、これスパイシーでおいしい。ねぇ、有さん。李人さんは、いつから此処で暮らしているの?」<br /> 照れ隠しの延長で、そう訊いたのに…。<br />「李人に興味を持つな」<br /> え、そういうこと意味で訊いたんじゃないんだけど。<br />「なんで?」<br />「なんででもだ」<br /> じゃあ、会わせなきゃなきゃいいのに。<br />「李人も興味を持たない。自分たちの世界以外は」<br /> やっぱり、籠の鳥は女の人なんだね?そんな狭い、ふたりだけの世界で生きていけるものなの?<br />「淋しくないのかな?」<br /> そう訊ねたあたしを抱き寄せると、有さんは言った。<br />「大丈夫だ。李人は、いま満たされている。たった一つの、だけど全世界と言えるものを手に入れたんだから」<br /> 有さんの温かな胸に頬を寄せて、その愛しい顔を見上げる。<br />「そうでなければ、僕は生きてはいないって言ってたね?」<br />「ああ。そうだろうな」<br /> 有さんにはわかるの?李人さんのその言葉の意味が、その心情が。<br /> とうとう有さんはあたしの膝の上に抱き上げて、ぎゅうと抱きしめた。<br />「俺も同じだから」<br /> え?<br />「菜乃果は、もう俺の唯一で、全世界だ」<br /> こんなドジで、頼りない、甘えてばかりのあたしが?<br />「ともすれば、俺も菜乃果を籠の鳥にしてしまいたい衝動を覚える。だから、李人と俺は似ているんだ」<br /> なんだか恐ろしいことを、再び言われた気がする。それと同時に、たまらなく甘ったるい告白をされた気も。<br /><br /> 不思議だ、別荘地というこの特別な空気感がすべてを許容してしまう気がする。先の見えない、でも魅惑的な霧の中を彷徨うみたいに、引き返せない気がした。<br /> 思わずぶるりと身を震わせたあたしの顔を、有さんが覗き込む。<br />「寒いか?菜乃果」<br /> ううん、と首を振って有さんに縋りつく。<br /> 暖炉の燃える音だけがする怖いほどの静寂の中、あたしは有さんの首に両腕を回して言い続けた。<br />「有さん、ずっと一緒にいてね?ずっとだよ、約束だよ?」<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 昼間見た出窓からの風景は、いまは無数の星あかりに変わっていた。いまにも降ってきそうな星々が、思いのほか近い夜空で瞬いている。<br />「きれい…」<br />「ああ。この夜空を、菜乃果に見せたかった」<br /> あたしたちが東京で見ていた夜空は、嘘っこのような気がした。こんなにたくさんの星々のきらめきを、あたしたちは知らずに都会で暮らしている。<br /> 自然が与えてくれた極上の時間、此処でしか味わえないひっそりと、でもキラキラとした至福。そんな空間に有さんとふたりだけという事実に、素直に感動する。<br /> 有さんが言った通り、ふたりを隔てるものは何もなくて、ただ魂が寄り添っているのを感じる。繋がっていないのに、とても繋がっている不可思議な感覚。<br />「有さん…」<br />「菜乃果、もっとひとつになろう」<br /> これ以上ひとつになれないはずなのに、さらなる高みに有さんはあたしを連れて行くことができる。ううん、きっとそれができるのは有さんだけ。<br /><br /> さらさらと肌触りのいい洗い立てのシーツの上に、有さんがあたしの髪を梳き流す。<br />「この髪一本一本まで、すべて俺のものだ」<br /> その言葉で、有さんがあたしの自由を奪う。心も躰も、もう有さんの言いなり。あたしの魂は、あたしのものであって、あたしのものではない自分を俯瞰(ふかん)から眺めている。<br />「有さんのもの?すべて?」<br />「そうだ」<br /> 有さんが、右の胸の頂を少し強めに摘んだ。<br />「っい…」<br /> ぷくりと主張しはじめたそれを、有さんが口に含む。反対側の頂は、掌でやわやわと擦られて、足の間からじわりと蜜が滲むのを感じた。<br /> 有さんのキスは、優しく強くあたしの躰を降りて行って、無数の星を散らす。それは朝になっても消えない、紅い星だ。消えてはまた新しく生まれる、ふたりの世界にだけある星でもある。<br /> この紅い星が、ずっとずっとあたしたちの守護星になればいい。そう思ったら、ひと筋涙が零れた。涙に滲む眼で、出窓の空に銀色に瞬く本物の星々を見つめる。<br /> 繰り返される執拗で甘やかな愛撫の中で、いつしかあたしは星の中に溺れる。そして夢か現(うつつ)かもわからないほどの快感に翻弄されながら、一瞬だけ流れ星を見た気がした。その星は、鋭く闇を切る小さな紅い星だった。<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-04-21 (Tue)
  • Category : アイス
480

⑱夜の来訪者

  激しく一度だけ交わって、有さんはめずらしく、すとんと眠りに落ちてしまった。 そりゃそうだ。ゴールデンウイークとはいえ、後半の休みを確実にするために、連日かなり無理をして仕事をしてくれたらしい。はっきりとは言わないけれど、土曜の夕刻に見た有さんの顔には、くっきりとクマと疲れが見て取れた。 もともと忙しい仕事なのに。仕事には妥協しない人なのに。どれだけ、疲れていることか…。「明日、早朝の出発なんて... <span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><span style="font-size: medium;"> <br /> 激しく一度だけ交わって、有さんはめずらしく、すとんと眠りに落ちてしまった。<br /> そりゃそうだ。ゴールデンウイークとはいえ、後半の休みを確実にするために、連日かなり無理をして仕事をしてくれたらしい。はっきりとは言わないけれど、土曜の夕刻に見た有さんの顔には、くっきりとクマと疲れが見て取れた。<br /> もともと忙しい仕事なのに。仕事には妥協しない人なのに。どれだけ、疲れていることか…。<br />「明日、早朝の出発なんて大丈夫?」<br /> 心配で心配で、そう何度も訊くあたしの頭を撫でながら有さんは言った。<br />「ああ。そのかわり今夜は我慢してくれるか?」<br /> それじゃ、あたしがいつも盛(さか)って強請(ねだ)ってるみたじゃないか。そう思ったけれど、疲労の色濃い有さんをせめて笑わせたかったから、あたしは頬を膨らませながら言った。<br />「しょうがないなっ。じゃ、たまには我慢する」<br /> 有さんは心底可笑しそうに笑うと、やがてすぅと眠りについた。<br /><br /> そのときの寝顔より、少し顔色がいい。<br /> ほっとして、あたしは隣に眠る骨格がしっかりしているけれど繊細さが漂う寝顔をじっと見つめた。繊細さの気配は、きっとこの長い睫毛だと思う。そして薄くて形のよい唇が、少し淋し気だ。その唇に指を伸ばしかけて、止めた。いまはただ、ゆっくりと安心して眠ってほしかった。<br />「ぅん…」<br /> 有さんの手が無意識に伸びてきてあたしを抱く。長い足を絡めてくる。<br /> ねぇ、あたしは有さんの抱き枕ですか?<br /> ふぅ、と安心したような吐息を聞いて、きゅんと切なくなる。このひとを、心の底から癒したいと強く願った。きっと何をされても、あたしは許してしまう。もうあたしの心は、有さんという鎖にがんじがらめにされているんだ。でも、それが少しも嫌じゃない。むしろ、もっと縛りつけてほしい、奪ってほしい。<br /> 寝室の出窓から眺めた薄曇りの空があまりにも綺麗で、あたしは訳もなく涙が出た。有さんのことが、この世で一番大事で大好きだと思った。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /> 出窓から眺める空が水色から茜色に変わった頃、有さんがぱち、と眼を開けた。<br />「ずっと隣に居てくれたのか?」<br /> 顔を覗き込んだままのあたしに、有さんが訊く。<br />「うん。鼾、かいてた」<br />「ホントか?」<br />「ううん、嘘」<br /> こら、と頭を強く抱き込まれて、胸に押しつけるから窒息しそうになる。<br /> ふぐぐぐ。く、苦しいよ。とんとんと有さんの胸を叩いて抗議する。<br />「あはは。菜乃果、鼻がつぶれちゃったな」<br />「えっ」<br /> 慌ててあたしは、自分の決して高くはない鼻を擦る。<br />「嘘だよ」<br /> もうっ、仕返しだね?有さん。<br /> だけど可笑しくなって、ふたりで笑い合う。ふふ、こんな何でもないことがとびきり楽しい。きっと別荘地効果なんだと思う。いつもと違う場所、日常から遠く離れた空間。<br /><br />「おっと、ところでいま何時だ?」<br /> 有さんが思い出したようにそう言って、枕元のスマホを手にした。<br />「もうすぐ6時」<br />「菜乃果、起きよう。夕食の準備だ」<br /> いきなり有さんがそんなことを言う。焦らなくても、まだ時間はたっぷりあるのに。<br /> でもその理由は、夕食の準備を一緒にはじめてすぐにわかった。<br /> 訪ねてくる人などいないといっていた別荘の、玄関チャイムが鳴った。<br />「?」<br /> 怪訝な顔をしたあたしを見下ろしながら、隣に立つ有さんが言った。<br />「お、来たみたいだ」<br />「誰?」<br />「ん?」<br /> 面白そうに微笑んで玄関に向かう有さんに、あたしもついて行く。<br /><br /> 有さんが開けた玄関の先に、ギリシャ彫刻のように美しいオトコの人が立っていた。大きな荷物を抱えて。<br />「李人(りひと)」<br /> 有さんがそう名前を呼ぶと、ギリシャ彫刻を少し細身にしたようなその人が肩まであるゆるウエーブの髪を揺らして微笑んだ。<br />「やあ、有。久しぶり」<br />「入って」<br /> 有さんが玄関に、李人と呼ばれた異邦人のような人を招き入れる。<br />「これ、頼まれたもの。持ってきた」<br />「おお、ありがとう」<br /> そう言う有さんに微笑んだ李人さんの眼が、やがてゆっくりとあたしに向けられた。<br /> 李人さんは、まるであたしのことをよく知っているかのように、親しげな優しい眼で見つめてくる。<br /><br />「この娘(こ)か?」<br />「ああ、菜乃果だ」<br /> それまで呆然と李人さんの不思議な美しさと醸し出すオーラに見惚れていたあたしは、慌てて自己紹介をする。<br />「あ、えっと。は、初めまして、沢口菜乃果です」<br /> にっこりと精霊のように微笑む李人さん。<br />「菜乃果、彼は栢木李人(かしわぎりひと)。俺の大学の同級だった男だ」<br />「初めまして」<br /> 李人さんがそう言って、また長い髪を揺らした。それから李人さんは、持ってきた荷物を受け取った有さんに言った。<br />「オーダーのハムとソーセージのほかに、新作のパテと焼き立てのパンも持ってきた」<br />「パンも焼くようになったのか?」<br />「ああ、時間はたっぷりあるから」<br /> 有さんが、まだぼぅっと李人さんの不思議さに呑まれているあたしを見下ろして言う。<br />「菜乃果。この世捨て人みたいな男は、こう見えて有名なイラストレーターで画家だ」<br /> そうなの? 驚いたあたしは、再び李人さんをまじまじと見る。<br /> そんなあたしに、李人さんはふわりと微笑むと言った。<br />「こう見えて?はは、相変わらず口が悪いな、有は。菜乃果さんにはどう見えるかわからないけれど、僕はただの手づくり工房の職人さ」<br /> じゃあ、帰るよと背を向けかけた李人さんに、有さんが再び声を掛けた。<br />「李人」<br /> 優雅な仕草で振り返る李人さん。<br />「お前の、籠の鳥は元気か?」<br /> 李人さんが形容できないくらい妖艶な瞳になって、有さんと同じような薄い唇の口角を上げた。<br />「ああ。そうでなければ、僕は生きてはいない」<br /> 頷いた有さんと、李人さんの眼の中には、お互いへの深い理解の色があった。不思議な関係、とてもよく似たふたり…それは外見ではなく、纏っている宿命のようなものが。<br /> そして李人さんは、暗闇と別荘地の空気に消えるように去って行った。<br /><br />「籠の鳥?」<br /> 少し不安気に訊いたあたしの頭を、有さんが安心させるように撫でた。<br />「ああ。李人には美しい声で啼いてあいつを癒してくれる、この世で唯一の大切な大切な鳥がいる」<br /> それはきっと、言葉通りの〈鳥〉ではないだろうと、なんとなくわかった。<br /> なぜか背中に羽根まで生えた、華奢で優美な髪の長い女の子を想像してしまった。美しい李人さんに似合う、純真無垢なフェアリー(妖精)…。<br /><br />「そうでなければ、僕は生きてはいない」<br /><br /> 李人さんの妖しく切なげな言葉が、耳の奥でリフレインしてなかなか消えなかった。<br /></span></span><br /><br /><span style="color:#00CC99">この李人さんの物語は、<br />別の機会にでも書けたらいいな、<br />と思っています。(*´ω`*)</span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-04-20 (Mon)
  • Category : アイス
479

⑰別荘地の鳥

 R15くらいだと思うので、限定記事にはしません。でも、エッチシーンが苦手な方はご注意を (*´ω`*) ゴールデンウィークの後半の日曜日、有さんの車で氷川家、いや正確には土岐家の所有する別荘へ向かった。渋滞を避けようと早朝出発したお蔭で、比較的酷い渋滞に巻き込まれることもなく目的地へ辿り着いた。 東京より半月ほど遅い、まだ晩春と言える大気がひんやりと肌に心地いい。瑞々しい緑のグラデーションの中に、歳月を...  <br /><span style="color:#00CC99">R15くらいだと思うので、限定記事にはしません。<br />でも、エッチシーンが苦手な方はご注意を (*´ω`*)<br /></span><br /><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> ゴールデンウィークの後半の日曜日、有さんの車で氷川家、いや正確には土岐家の所有する別荘へ向かった。渋滞を避けようと早朝出発したお蔭で、比較的酷い渋滞に巻き込まれることもなく目的地へ辿り着いた。<br /> 東京より半月ほど遅い、まだ晩春と言える大気がひんやりと肌に心地いい。瑞々しい緑のグラデーションの中に、歳月をしっとりと重ねた、それでいてよく手入れされた美しい洋館が見えた。<br />「着いたよ、菜乃果」<br /> わぁ、初めての別荘地、それにおとぎ話みたいな素敵な洋館。弾む気持ちのままに有さんを見上げたら、嬉しそうな瞳にぶつかった。<br />「嬉しいか?」<br />「うんっ」<br /> 有さんに手を引かれて、よく手入れされた庭の中を進む。色とりどりの春の花々やグリーンの中に、苔生(こけむ)した車輪やうさぎのオブジェがさり気なく置いてある。<br />「綺麗な庭…。花壇も可愛い。あ、あそこのベンチに天使が座ってる」<br /> ロマンティックなガーデンの演出の一つ一つに、いちいち眼を奪われて反応してしまう。そんなあたしの姿を、満足そうに眺めながら有さんが言った。<br />「管理人が、ちゃんと手入れしてくれているからな。菜乃果が気に入ってよかった」<br /> そうなんだ、別荘って維持するのもきっとお金がかかるんだろうなぁ。またまた庶民な考えが頭をよぎる。でも、本当にうっとりするほど素敵なガーデンだった。<br /><br /> 燻金色の鍵を差し込んで、有さんがかちゃりと玄関の扉を開けた。<br /> 室内の空気は、埃やカビの匂いがすることもなく新鮮だった。きっとあたしたちが来る前に換気をしてくれたのだと思った。<br /> 広い居間に入ると、ふかふかの、でも重厚な色彩の絨毯が敷いてあって、クラシックな猫足のソファとサイドテーブルが点在している。<br />「うわぁ、暖炉がある」<br /> 思わずその前に走り寄ったあたしに、有さんが楽しそうに笑う。<br />「東京と違って、この時期でも夜はまだ急に冷えてくるから、点けてみよう」<br />「ホント?」<br />「ああ。ちゃんと薪も用意してもらってある」<br />「凄いっ!素敵」<br /> テンションが上がり過ぎて感動にうるうるしているあたしを、「おいで」と有さんがキッチンの方へ誘う。<br /><br /> 大好きなインテリア雑誌のヨーロッパ特集で、見たことがあるようなタイル仕上げのキッチンだった。銀色の大きな冷蔵庫の扉や引き出しを、有さんが次々開ける。<br />「ほら、見てごらん。頼んでおいた食料品も、ちゃんと入れておいてくれてある」<br /> 有さんの背中越しに中を覗くと、大きな冷蔵庫の庫内は何かわからない包みや箱入りの物、真空パックや瓶詰、ワインやミルク、お茶などの飲み物、野菜に果物でいっぱいだった。<br /> 凄い、たった3泊4日なのにこの量?どこにも全然出かけないで、別荘の中だけで過ごす気だろうか?<br />「あのぅ…近くにレストランとか、可愛いお土産屋さんとかないの?」<br /> 不安と、それから好奇心もあって訊くあたしに、有さんが怖いくらい優しい表情で言った。<br />「ないことは、ない。でも今回の目的は観光じゃないんだよ、菜乃果」<br />「そうだけど…」<br /> 閉じ込めて俺の好きにすると言った、有さんの言葉を思い出す。あれ、本気だったのかな?まじだとしたら、ビビるんですけど…。<br /> ちょっと悄気(しょげ)気味のあたしを、後ろから有さんが抱いた。<br />「小さいけれどおいしい、隠れ家的なレストランがある。そこへは連れて行ってもいいぞ」<br />「ホント?」<br />「ああ。だけど、それは菜乃果次第だ」<br /> あたし次第…それって、どういう意味?<br /> ふ、と有さんは何かを企んでるみたいに笑うと、さらに強く抱きしめた。<br />「こっちを向け、菜乃果」<br /> 腕の中でくるんとあたしを回転させると、有さんは今度はその胸にあたしを抱き込む。顎を掴んで上を向かせると、覆いかぶさるように口づけしてきた。<br />「まず、菜乃果を味わい尽くすのが先だ。どう過ごすかを考えるのは、それからだ」<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 別荘の浴室は、2階にあった。しかもバスルームの先にもう一つ、ガラス張りにして露天風呂風に設(しつら)えた円形のジャグジー風呂まである。<br /> 樹木が目隠しするように生い茂ってはいても、外から見えそうであたしは焦った。<br />「大丈夫だ、菜乃果。外からは見えない特殊ガラスにしてある」<br /> そうなの?<br />「風呂は作り直したばかりだからね。設備も新しいだろ?」<br /> 土岐家の家族も、氷川家の皆も、お風呂は大好きなのだそうだ。<br /> 外からは見えないという言葉に安心して、あたしは有さんに導かれるまま露天風呂風の浴槽にそっと足を入れた。そのあたしを、有さんが後ろから抱く。<br /> 有さんの筋肉質な胸に頭を預けて、ガラス張りの窓からの景色を楽しんだ。<br /><br /> 広葉樹の葉陰から木洩れ日が差し込み、光の粒が浴室の中で戯れている。見上げた空はどこまでも高く澄んでいて、遠くで鳥の鳴き声がした。<br /> 陽の高いうちからお風呂に入ることはこれまでもあったけれど、こんな開放的な窓があって明るい外の景色が見渡せると、なんだかイケナイことをしているみたいで恥ずかしくなる。<br />「どうした、菜乃果。のぼせたのか?」<br /> 恥ずかしさに頬を染めたあたしを、有さんが怪訝な表情で覗き込んだ。<br />「ううん。だってまだ、こんな陽が高いのに…」<br />「後ろめたいのか?」<br />「うん、ちょっと」<br /> くく、と有さんは笑うと、いきなりあたしの胸を大きな手で包んでやわやわと揉みだす。<br />「もっと後ろめたい気分にしてやろう」<br />「やっ…。もうっ、有さんの意地悪」<br />「なに言ってる。ここはもう喜んでるぞ?」<br /> 有さんのイケナイ手は、次にあたしの秘芯をするりと撫でる。<br />「よ、喜んでなんかっ」<br /> 慌てて身を捩ると、有さんがくっと声を上げる。<br /> あ…。右のお尻に感じてしまった、硬くそそり立つ大きなモノ。<br />「おいで」 <br /> 有さんが湯船からいきなり上がると、あたしの手を引く。<br /> 立ち上がらせたあたしを抱き込むと、有さんは首筋に舌を這わす。耳朶を嬲りながら、あたしのお尻をぎゅぅ掴んだ。<br /> 勝手が違うお風呂で、捕まるものを探して泳がせたあたしの手を有さんが掴んだ。<br />「ここは不安定だから、続きはベッドだ」<br /> <br /> 寝室もお風呂と同じ2階にあって、大きなバスタオルに包まれたまま、あたしは有さんに運ばれた。<br /> あたしをベッドに下ろした有さんが、寝室にある出窓のレースのカーテンを開けた。そこからも、まだ明るい空と爽やかな緑が見える。<br />「野鳥がいる」<br /> そう言いながら、有さんがベッドに、あたしの上に乗ってくる。<br />「見物されながらは、初めてだろ?」<br />「どうしてっ、そういうことを言うのっ」<br /> 涙眼になったあたしを、有さんが確信犯的な眼で見る。<br />「そんなの、もうわかってるだろ?」<br /> わかってる。あたしを恥ずかしがらせるため。泣かせるため。<br /> そう思ったら、また涙がぼゎと溢れてきた。<br />「いい娘(こ)だ。俺の、俺だけの籠の鳥」<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-04-19 (Sun)
  • Category : アイス
478

⑯甘い不安

「ゴールデンウィークは、ウチの別荘へ行こう」「別荘!?」 驚いた、氷川家には別荘があるらしい。さすが大学教授のお父さん、お金持ち、庶民のウチとは大違いだ。「違うよ、菜乃果。母の父親、つまり祖父が建てた別荘だ」 有さんのお母さんのお父さん、つまり母方のお祖父様はヤリ手の実業家だったらしい。なるほど、あの品のいいお母さんはもともと良家のお嬢様だったわけね。つくづくランクの違いと、生まれ育ちの違いを感じ... <br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">「ゴールデンウィークは、ウチの別荘へ行こう」<br />「別荘!?」<br /> 驚いた、氷川家には別荘があるらしい。さすが大学教授のお父さん、お金持ち、庶民のウチとは大違いだ。<br />「違うよ、菜乃果。母の父親、つまり祖父が建てた別荘だ」<br /> 有さんのお母さんのお父さん、つまり母方のお祖父様はヤリ手の実業家だったらしい。なるほど、あの品のいいお母さんはもともと良家のお嬢様だったわけね。つくづくランクの違いと、生まれ育ちの違いを感じる。有さんホントに、あたしなんかでいいのかなぁ?<br /> <br /> 有さんの部屋で、ソファの上で有さんに膝抱っこされながら、クール・フェイスをまじまじと見る。<br />「ん?どした、菜乃果」<br />「別荘なんて持ってる知り合い、有さんが初めて」<br /> 有さんは楽しそうに笑うと、あたしのおでこにキスをした。<br />「家族で別荘に行こうと言われても、楽しみだったのは小学生の頃までだった。でも今回は違う。心が躍るっていうのは、こういう感覚を言うんだろうな」<br /> 有さんが、そんなに楽しみにしてくれているのがなんだか不思議だった。ほけっとした顔で有さんを見ていると、訊ねられた。<br />「菜乃果は、楽しみじゃないのか?」<br />「楽しみっていうか…初めてだから、実感が湧かない」<br /> それは本心だった。別荘って、どんな構造になっているのだろう?映画やドラマでしか見たことがない、それもほんの一部分だけ。そこでお金持ちの人たちが、どんな風に過ごすのか、どんな楽しみ方をするのかもわからない。<br /><br />「ずっと、菜乃果といられる。菜乃果とふたりだけで」<br /> 今度は唇に軽くキスしながら、有さんが熱っぽい瞳を向けてきた。<br />「いまだって、ふたりきりでいるじゃない?」<br />「まったく、菜乃果は…」<br /> 有さんがちょっとあきれ顔で、あたしの頬を摘む。<br /><br />「菜乃果、窓を見てみろ」<br /> そう言われて、あたしはリビングダイニングの窓から見える都会の景色を改めて眺める。<br />「すぐ目の前に、ビルや雑踏や騒音がひしめいているだろ?だけど別荘地は違う。窓から見えるのは庭の樹木や花、鳥や虫たち、都会とは異なる色の空や太陽、無数の星々や神秘的な月だ。風も光も空気も色が、匂いが違う。一番近い別荘だって数メートル先で、訪ねてくる人はいない。自然に囲まれた静寂な空間に身を置くと、人は自分という不確かな魂の存在や生きている不思議をより強く感じるようになるんだ。そんな隔絶された別世界に、菜乃果を閉じ込めて俺の好きにする。きっと菜乃果を、もっともっと感じて識ることができる。どうだ、わくわくしないか?」<br /> 閉じ込めるなんて、好きにするだなんて物騒なことを、意地悪な眼で楽しそうに言われて、あたしは首を竦めた。<br />「わくわくっていうか…怖いよ」<br /> 怖がればいい、と有さんはさらに楽しそうに笑う。それからいきなり深いキスをされて、躰が仰け反る。<br />「あんっ…ふ」<br /> 甘い苦しさから解放されて息を整えると、あたしは大好きな有さんの形のいい三日月の唇を指でなぞりながら訊いた。<br />「じゃあ。有さんのことも、もっと感じて識ることができる?」<br />「ああ。そして、もっともっと俺たちは深く繋がれる」<br /> やっぱりそれは、少し怖い気がした。嬉しい気持ちも、もちろんあるけれど。<br /><br />「なんだか、不安」<br /> ぽつりと呟くように言った言葉に、有さんが眉をひそめる。<br />「なにが不安なんだ?」<br /> わからない、わからないけど、漠然とした不安が心の底にしんしんと積もる。まるで森の奥にひっそりとある湖の底に沈んだ、忘れ去られた伝説にみたいに。<br /> だけどその伝説は暴かれる季(とき)を静かに待っていて、やがて誰かが大事な有さんを連れ去ってしまう気がする。<br /> 何故だろう、自分でもひんやりとしたこの不安の正体がわからない。<br /><br />「きっと…」<br />「ん?」<br />「初めての、大人の、恋だから」<br />「うん」<br />「きっと…幸せすぎるから」<br /> たぶん、不安げな眼で有さんを見てしまったんだと思う。<br />「菜乃果、何も心配しなくていい」<br />「ホント?」<br />「ああ」<br /> 有さんがあたしを膝の上から降ろして、今度はソファにそっと寝かす。覆いかぶさって、たくさんの優しいキスを落とす。キスは優しいのに、その眼はやっぱりちょっと意地悪で、もう条件反射のようにぞくぞくが背筋を走るんだ。<br />「だけど、菜乃果。菜乃果の恋は、まだまだ子供だ」<br /> 酷い。<br />「それに、菜乃果。幸せすぎるなんて、欲がなさすぎる」<br /> そんなこと。<br /> 有さんの長い大好きな指が、あたしの髪を優しく梳く。あたしの少し栗色の髪は、有さんの指に絡めとられてくるんとウエーブを強くする。<br />「子供みたいに、いっぱい俺に甘えていろ。そうしたら、もっともっと菜乃果を幸せにしてやる」<br />「…有さん」<br /> 甘い言葉に心と躰の奥がきゅんとなる。なんでだか、涙が滲む。<br />「いい泣き顔だ。そうだな、甘やかす前にまずは菜乃果を思い切り啼かすとしようか」<br /> 有さんはとても楽しそうにそう言って、木綿のワンピースの中へ手を忍ばせる。<br />「あ…」<br /> もう濡れているのがわかってしまった、有さんもあたしも。<br /><br /> 彼は、13コも年上の大人の恋人。<br /> 意地悪で甘やかしてくれて、不安と幸福と、快感と苦痛を同時に与えることができる愛しい悪魔。<br /> とても背の高い、背伸びしても心の距離がなかなか追いつかない、そんな素敵な大人のオトコ。<br /> きっとこの恋に溺れている。でも、もっと溺れたいと思ってしまう。<br /> あたしの胸に顔を埋めて、深く息を吸い込んだ彼が切ない声で命令した。<br />「ああ、菜乃果。お前だけだ、この世界でお前だけができるんだ。 だから何度でも俺を、天国と地獄へ連れて行け」<br /> <br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 5月になった。<br /> 5月生まれのあたしは、春から初夏へと移ろうこの季節が好きだ。<br /> 大学の中庭の樹々は薫風に揺れて、眩しい陽光に緑の葉脈を誇らしげに広げている。<br /> 通学路の途中にある家で飼っている猫の白い胸毛みたいな雲が、ふわりと皐月晴れの空に漂っている。<br /> 酷暑の前の、ひとときの清涼。熱をはらんだ息苦しい季節に備えるための、儚い休息。<br /> 明日が、次の季節がどうなるのか、誰にもわからない。それを希望だと胸ふくらませるのか、未知と恐れるのか、5月は迷う季(とき)でもあるのだ。<br /><br /> ハタチになるほんの少し前の、10代最後の5月をもうすぐ有さんとふたりきりで過ごす。大人になったら、もっと上手に恋ができるんだろうか。いまはまだ、有さんに甘えているだけの、翻弄され気味の幼い恋人だけど。いつか有さんの隣に堂々と立って、お似合いだって思ってもらえる女性になれるんだろうか?<br /> そして、いつかって、いつ?<br /><br /> …教えて、誰か。 お願い。<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-04-18 (Sat)
  • Category : アイス
477

⑮いろいろ胸ふくらむ春

  4月になった。 有さんは母校G大の非常勤講師となり、本業のアートディレクターという仕事の方ではいくつかメジャーな賞を取り、またいっそう多忙になったようだ。 知花ちゃんと近藤君、早乙女君とあたしは揃って無事2年生になった。  入学式が終わって、ガイダンス中のいまは各クラブの新入生勧誘の時期でもある。 あたしたちダンスサークルでも、就職活動に本腰を入れなければならない4年生が実質引退となり、新しいメ...  <br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> 4月になった。<br /> 有さんは母校G大の非常勤講師となり、本業のアートディレクターという仕事の方ではいくつかメジャーな賞を取り、またいっそう多忙になったようだ。<br /> 知花ちゃんと近藤君、早乙女君とあたしは揃って無事2年生になった。<br /> <br /> 入学式が終わって、ガイダンス中のいまは各クラブの新入生勧誘の時期でもある。<br /> あたしたちダンスサークルでも、就職活動に本腰を入れなければならない4年生が実質引退となり、新しいメンバーを勧誘しようとみんな張り切っていた。<br /> 知花ちゃんとあたしは、体育館で行われるパフォーマンスの案内チラシを持って、新入生に配りまくっていた。<br />「ね、ダンス好き?ウチのダンスサークルの踊り、見に来ない?」<br /> ダンス自体が人気だから興味のある娘(こ)は多いんだけど、ダンスサークルの数も種類も多いから各部、新入生獲得に必死である。<br />「男子はいないんですかぁ?」<br /> サークル活動をしながら恋もゲットしたい女子たちにそう訊かれて、知花ちゃんとあたしは顔を見合わせる。若干1名、生物学上の男子はいるけど、その説明は非常に微妙だ。<br />「ウチのダンスサークルは、男女いるよ?」<br /> 学祭で同じステージで踊った別のサークル部員に、狙っていた新入生をぞろっと攫われて、知花ちゃんとあたしは肩を落とした。<br /><br />「休憩しよっか」<br /> 知花ちゃんと中庭のベンチで熱いペットボトルのお茶を飲んでいるところに、近藤君がやって来た。<br />「知花」<br /> い、いま、知花って呼んだ?<br />「あ、理史」<br /> さ、さとしぃ~!?<br /> いつの間に、名前で呼び合う仲になってんのぉ???<br />「ちょっとゴメンね、菜乃果」<br /> そう言うと、知花ちゃんは近藤君と少し離れた場所でなにやら立ち話をし出した。その姿がめちゃ、ラブラブだ。知花ちゃんが近藤君の腕をさり気なく触ったかと思うと、近藤君が知花ちゃんのさらさらヘアを耳に掛けたりしている。<br /> なんだ、なんだ、その自然で甘~いスキンシップは!さては、ふたり~…。<br />「じゃ」<br /> 近藤君は知花ちゃんに名残惜しそうに手を上げると、あたしの存在はまるっと無視して去っていった。その後ろ姿を見送る知花ちゃんからは、これまでの男らしさがなくなって、120%恋する19歳だ。<br /> <br />「ごめんね、菜乃果」<br /> 戻って来た知花ちゃんは、幸せなひとときの名残りに頬をほわんと染めている。<br />「知花ちゃん…」<br />「な、なに?」<br />「あたしに報告することあるでしょ?近藤君のことで」<br /> 直球ストレートに訊いたあたしに、知花ちゃんはなんと、豪快特大ホームラン級の答えを放った。<br />「う、うん。実はね…ウインナーじゃなくて…う、馬並みだったの」<br /> 恥じらいに頬を染めて、あたしの耳元で囁く知花ちゃん。<br /><br /> …は?<br /> <br />「や、やだっ。菜乃果ったら、なに言わすの?もう、バカぁ~!」<br /> さらに顔を真っ赤にして、あたしの肩をばしばし叩く知花ちゃん。<br /> 痛いよ、痛いったら。<br /> もう、知花ちゃん。あたしが訊きたかったのは、ふたりがつきあうことになったのかってことで。なにも近藤君のサイズを、あけっぴろげにカミングアウトしてほしかったんじゃないよぉ。<br /> で、でも。そうか、馬並み…。ま、馬ヅラだけに、ウインナーじゃ…ね?<br /> よ、よかったね、知花ちゃん…。<br /><br /><br />「沢口さぁ~ん、長倉さぁ~ん」<br /> そう呼びながら、遠くから手を振っている早乙女君の姿が見えた。<br />「もうすぐ、はじまるよ~。ウチのパフォーマンスぅ~」<br />「わかったぁ、すぐ行くねぇ」<br /> 早乙女君にそう答えて手を振ると、あたしは知花ちゃんに言った。<br />「行こっか、知花ちゃん」<br />「うん」<br /> そう答えるなり、もう知花ちゃんはポニーのように軽快に走り出していた。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> ぶるるんぶるんと、迫力ある動きをする新副部長の胸に釘づけになったのは、知花ちゃんとあたしだけじゃない。<br /> 体育館でウチのサークルの3年生によるパフォーマンスを見ていた全員、中でもとくに男子の視線を一身に浴びているのが佳絵先輩だ。副部長になるだけあってダンスは上手いし、大きな胸に引き締まったウエストのナイスバディで、顔も日本人離れした目鼻立ち。<br /><br />「い、いいなぁ」<br /> 思わずそう呟いて隣を見ると、知花ちゃんが何やら真剣な顔で体操をしている。両手を胸の前で合掌するみたいに合わせたり、上体を前屈みにしてあげた両腕を鳥の羽ばたきみたいに動かしたり…。ダンスのストレッチとは明らかに違う動きに、あたしは思わず訊いてしまった。<br />「どしたの、知花ちゃん?肩こり?」<br />「はぁ?」<br /> 知花ちゃんは体操を止めて、あきれ顔であたしを見た。<br />「だって、ヘンな体操してるから」<br /> 知花ちゃんはいかにも不本意という顔をして、あたしの肩をがしっと抱くと耳元で囁いた。<br />「これはね、ネットで調べた豊胸体操っ!」<br /> ほ、豊胸体操!?<br /><br /> 思わず知花ちゃんの胸と、皆の注目を浴びている佳絵先輩の大きな美乳を見比べてしまった。ついでに、自分のささやかな胸にもそっと視線を下げる。<br /> そんなあたしと、あたしの胸をちらと見ながら、知花ちゃんは小声で訊く。<br />「ところで菜乃果、あんたってAカップ?」<br />「ななな、なに失礼なことっ。Aはないでしょ、Aはっ」<br />「ふ~ん。じゃ、B?」<br />「ち、知花ちゃんこそ、び、Bカップくらい?」<br />「なっ、あ、あたしはC…」<br /> あ、知花ちゃん、いま眼を逸らしたね。見栄張ったでしょ、Cなんて。<br /> そんな目くそが鼻くそに対抗するようなやりとりをしているあたしたちの耳に、聞こえてきたのは…。<br /><br />「ダンス、すっごいカッコよかったですぅ!でも、佳絵先輩ってナイスバディで羨ましいっ!とくにその美乳、何カップあるんですかぁ?」<br /> 圧巻のパフォーマンスを終えて、後輩のみんなに囲まれ憧れの視線を向けられた佳絵先輩が、まんざらでもない顔で言った。<br />「うん?たいしたことないよ、Fカップくらい?」<br /> え、え、え、Fカップぅ~!?<br /> 知花ちゃんとあたしは、顔を見合わせて固まった。19年間生きてきて、そんなカップのブラを眼にしたことすらなかった。<br />こうしてはいられないっ。互いに眼でそう言って大きく頷き合った知花ちゃんとあたしは、慌ててさっきの体操を揃ってはじめた。<br /><br /> 愕然とするあたしたちを知ってか知らずか、サークルの仲間は続けて佳絵先輩に聞いている。<br />「いいなぁ、どうしたら巨乳になれるんだろ。豊胸体操とかしてみようかな」<br />「やめときな。あれ、大胸筋は鍛えられるけど、胸が大きくなるわけではないらしいよ」<br /> ぎく。<br /> 知花ちゃんとあたしは、再び固まった。豊胸体操は効果なし、じゃ、いったいどうしたら?<br />「ま、あたしのは遺伝だから。でも胸大きいとダンスのとき邪魔だし、肩こりもするのよ」<br /> 佳絵先輩が巨乳さんにしかわからない贅沢な悩みを余裕かました顔で語る姿に、知花ちゃんとあたしは再びがっくりと肩を落とした。<br /><br /> そこへやってきた早乙女君。<br />「長倉さんも、沢口さんもどうしたの?さっき、ヘンな体操してたよね?肩こり?」<br /> うぎぃ~、うるさいっ。貧乳の悩みは、いくら女子力が高い乙女な早乙女君にだってわかるまいっ!<br />「してないよ!」<br /> きっぱり言い切る知花ちゃん。<br />「え?だって、さっき…」<br /> 不思議そうに続ける早乙女君の胸ぐらを、知花ちゃんが掴む。<br />「だから、し・て・な・い!さっき乙女が見たのは、幻っ!!いいねっ」<br /> あわあわしながら、こくこく頷く早乙女君を残し、あたしと知花ちゃんは再び新入生勧誘チラシを持って中庭へ出た。<br /><br />「ね、知花ちゃん。急にどうしたの?胸大きくしようとしたりして…」<br />「菜乃果ぁ~」<br /> 知花ちゃんが縋るような眼であたしを見る。 ??<br />「や、やっぱさ、オトコの人って、挟まれたいって思ったりするのかな?」<br /> 挟まれたい?何を?   ……あ。<br /> つまり、あれですか?いや、でも馬並みを挟むって、かなりの巨乳じゃないと…。<br />「まぁ、まだ子供の菜乃果には、なんのことかわかんないか」<br /> よしよしと、あたしの頭を撫でる知花ちゃん。<br /> ち、違っ!あたしだってあたしだってあたしだって!!<br />「あれ?顔真っ赤にしてるってことは、意味はわかってんの?」<br /> 余裕顔の知花ちゃんが、憎らしい。<br /> でも近藤君のために、豊胸体操まで調べる知花ちゃんが可愛い。<br />「ふ~んだ。恋する乙女は知花ちゃんだけじゃないんだよっ」<br />「え~」<br /> 有さんも、有さんも…挟まれたいって思ったりするのかな?思うって言われても、挟めないけど…。う、うぇ~ん。<br /><br /></span></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-04-17 (Fri)
  • Category : アイス
476

⑭有さんなんか大っ嫌い

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  • Date : 2015-04-16 (Thu)
  • Category : アイス
475

⑬ホワイトデーの暗雲

  バレンタインデーに続いて、今年は奇跡的にホワイトデーも土曜日だ。 突然、りこさんに踏み込まれてちょっとした修羅場?だった涙のバレンタインから、もう1か月も経ったんだな。有さんとの時間を、あたしは上手に重ねてこれてるかな? 土曜日は一緒にお買い物をして、夕食は人気のイタリアンのお店を有さんが予約しておいてくれた。食事の前に有さんがホワイトデーのプレゼントとして買ってくれたのは、とっても可愛いハン... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> <br /> バレンタインデーに続いて、今年は奇跡的にホワイトデーも土曜日だ。<br /> 突然、りこさんに踏み込まれてちょっとした修羅場?だった涙のバレンタインから、もう1か月も経ったんだな。有さんとの時間を、あたしは上手に重ねてこれてるかな?<br /><br /> 土曜日は一緒にお買い物をして、夕食は人気のイタリアンのお店を有さんが予約しておいてくれた。食事の前に有さんがホワイトデーのプレゼントとして買ってくれたのは、とっても可愛いハンドバッグ。その日持っていたバッグは包んでもらって、早速それを手にイタリアンレストランへ行った。<br /> ちょっと頑張ってお洒落をしてきたから。真新しい可愛いバッグを持って、大人で素敵な恋人にエスコートされて、その夜のあたしはすっかり舞い上がってしまった。<br /> 有さんの隣に居て、おかしくないかな?背伸びしてる風に見えないかな?自信のない自分を励ますようにバッグをぎゅぅと握って、背の高い有さんを見上げた。<br />「可愛いよ、菜乃果」<br /> ホント?<br /><br /> レストランでのおいしい食事も終わって、高層ホテルの最上階のバーで有さんはお酒を、あたしはノンアルコールのカクテルを飲んだ。<br /> うん。バレンタインデーと違って、今日はハッピーな恋人同士の時間を過ごせそう。よかった。<br /> 帰り道、お酒も飲んでいないのに幸福な熱に浮かされたような気分で、あたしは有さんの腕にぶら下がった。<br /><br /> 大好きだよ、有さん。<br /> 世界中で一番、これ以上好きになれる人なんてきっといないくらい。<br /> それは幸せな、幸せな夜だった。<br /> その幸せが、ずっと続くはずだったのに。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「え?いま、なんて言ったの?」<br /> 翌朝、と言ってももう昼近くに起きたあたしたちはお揃いのバスローブを着て、お風呂から出たばかりだった。<br /> キッチンでコーヒーを淹れながら有さんがとても自然に言った言葉に、あたしはティーカップを持ったまま固まった。<br />「だから、4月から母校の大学で教えることになった」<br />「G大で?突然、どうして?」<br />「突然じゃない。もう大分前から、教えるならどうしてG大にしないんだと野島教授にうるさく言われてたから」<br /><br /> それって…いつから、決まってた、ことなの?<br /><br /> コーヒーカップを手にした有さんが、ソファに、あたしの隣に座った。そして呆然としているあたしに気づいて、顔を覗き込みながら言った。<br />「どうした?菜乃果」<br />「それ…G大で教えることが決まったの…いつ?」<br /> 一瞬躊躇して、それでも有さんはさり気ない声で言った。<br />「去年の夏には決まってた」<br /> 去年の夏?あたしたちが出逢うより、前…。<br />「ウチの大学の非常勤講師を辞めることは?それは、いつ決まったの?」<br />「菜乃果…」<br /> 有さんがコーヒーカップをローテーブルに置いて、あたしの手からもティーカップをそっと取る。<br />「ねえ、教えて。いつ?」<br /> ふぅ、と有さんはため息を一つつくと言った。<br />「G大が決まるのとほぼ同時に、ウチの会社の有能な若手を後任として紹介した」<br /> それも…あたしたちが出逢う前の、9月よりも前の出来事。<br /> じゃあ、じゃあ。<br /> あたしのために、ウチの大学の非常勤講師を辞めたんじゃ…なかったんだ。<br /><br /> …当たり前だ。大事な仕事を、オトコの人が簡単に辞める訳がない。社会的責任だってあるのに、たかが恋なんかのために、高々(たかだか)女子大生一人のために…。自惚れてた、あたし、恥ずかしい。でも…。<br /><br />「菜乃果?」<br />「嘘つき…」<br /> 自惚れていた自分が、穴があったら入りたいほど恥ずかしいのに、口をついて出た言葉は、有さんを非難するような言葉で。<br />「嘘は、ついた覚えがない」<br /> 有さんが落ち着き払った声で言って、それがあたしをいっそう混乱と羞恥に陥れた。<br />「そんなっ。だって、あのとき、大学を辞めたって…」<br />「それは、嘘じゃないだろ」<br /> じゃあ、あたしが勝手に勘違いしただけだったの?あたしのために大学を辞めたって…。<br /><br /> ぶわり、と涙が出た。<br />「菜乃果、何故泣く?」<br /> わからないの?嘘つかれて…ううん、あたしが勝手に勘違いしただけだ…。<br /> でも、あたしのせいで大学を辞めさせたって思わなければ、あの夜は…あっただろうか?<br /> なかったかも、しれない。<br /> そしたらいま、つきあっていないかもしれないのだ。<br /> あたしの自惚れた都合のいい勘違いが、運命の分かれ道だったってこと…?<br /><br />「菜乃果」<br /> 有さんがとても甘い声で囁いて、あたしを両腕に囲う。<br /> バカで早とちりなあたしの誤解をなんでもないことにしてしまおうとするその腕から、乱暴に抜け出ると立ち上がった。<br /> さすがの有さんも驚いた表情になって、硬い声で言う。<br />「突然、どうしたんだ?」<br /> 自惚れ屋の、勘違いオンナ、それがあたし。いま嫌と言うほどわかった。悲しいのか苦しいのかバカバカしいのか、よくわからない感情が波のように押し寄せてきて、あたしの心に意固地な壁が出来上がる。<br /><br />「帰る」<br /> 有さんの表情が、険しくなった。<br />「何を言ってる?」<br />「帰るって言ったの」<br />「何故?」<br />「勘違いだったから、間違いだったから」<br /> また、涙が溢れてくる。頬がひくひく痙攣したようになって、嗚咽のようなものが込み上げてくる。<br />「何が間違いだったって言うんだ?」<br /> わからないの?ううん、有さんはわかっているはずだ。大人だもの、頭のいい仕事のできる人だもの。<br />「わかってるくせに…」<br /> 有さんが呆れたように首を振るから、ますます意固地な壁が高くなる。<br /> だから言ってはいけないと思っている言葉を、とうとうあたしは口にしてしまった。<br />「有さんと、有さんと、こうなったことっ!」<br /> 躰を震わせ、嗚咽しながらあたしは悲鳴のような声を上げた。<br />「…菜乃果、本気で言っているのか?」<br /> 怖い顔の有さんが立ち上がって、あたしの腕を掴んだ。振り払おうとするのに、余計に力が加わって痛いくらいだ。<br />「離してっ」<br />「離さない」<br />「有さんなんか、有さんなんか、大っ嫌いっ」<br /> 幼い混乱した思考のまま、あたしはさらに叫んだ。<br />「そうか」<br /> 無表情になった有さんが、あたしを突然抱き上げた。<br />「きゃぁあ!」</span></span><br /><br /><br /><span style="color:#00CC99">このふたり、イベント(バレンタインとか)あると<br />ひと悶着ある運命みたいデス(´-ω-`)<br />↑<br />そうしてるの、作者。。。。て、てへ?(*´ω`*)<br /></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-04-15 (Wed)
  • Category : アイス
474

⑫それぞれの恋

 ダンスサークルが合宿している旅館は、もう何年もお世話になっているところだそうだ。あたしたち1年生は初めてだけど、先輩たちは旅館の女将さんや板前さんたちとも顔見知りだ。 ここを合宿の常宿にしている理由は2つある。それは料理がおいしくてリーズナブルなことと、宿から歩いて10分の距離に町営体育館があって、そこを町民価格で特別に借りられることだ。 午前と午後3時間ずつ、あたしたちはこの体育館で汗を流す。新し... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> ダンスサークルが合宿している旅館は、もう何年もお世話になっているところだそうだ。あたしたち1年生は初めてだけど、先輩たちは旅館の女将さんや板前さんたちとも顔見知りだ。<br /> ここを合宿の常宿にしている理由は2つある。それは料理がおいしくてリーズナブルなことと、宿から歩いて10分の距離に町営体育館があって、そこを町民価格で特別に借りられることだ。<br /> 午前と午後3時間ずつ、あたしたちはこの体育館で汗を流す。新しいステップを覚えたり、チームで振付を考えたり、それぞれの踊りを批評し合ったり。<br /> それが終わると自由時間。温泉に入ったり、テニスをしたり、近くの海や公園を散歩する人や部屋でのんびりゲームやおしゃべりを楽しむ人などそれぞれだ。<br /><br /> 女子だけのメンバーの中に、たった一人だけ参加している男子の早乙女君は最初こそ奇異な目で見られたけど、意外に板前さんたちと仲良くなって厨房の手伝いまでさせてもらっている。<br /> 知花ちゃんと厨房を覗いてみると、誰に借りたのか割烹着姿で楽しそうに野菜を洗っていた。熱心にお手伝いしながらも可愛がられている様子の早乙女君に「頑張って」と声を掛けて、知花ちゃんとあたしは海へ出掛けた。<br /> 風はまだ冷たかったけど、3月初旬の陽射しは暖かく、近くではもう早咲きの桜が咲いているそうだ。<br />「でも、意外だったな」<br /> そう言う知花ちゃんを、なにが?と言う表情で見る。<br />「菜乃果には、あんな大人とつきあう勇気なんかないと思ってた」<br />「それは…実は、いまもあんまりない」<br />「え~、ダメじゃん、それ」<br /> 勇気を出す前に、どうしてだかつきあってしまうことになったけど、でも少しだけ覚悟はできている。ちゃんと有さんの全部を受け止めたいっていう。<br />「ね、アイス…じゃなかった氷川先生、優しい?」<br /> う~ん、どうかな?優しいかと問われれば…<br />「ううん。結構、意地悪なんだよ」<br />「へ~。なんだか、かえってラブラブみたいで、それも悔しいっ!」<br /> 知花ちゃんがそう言って、あたしの首に右腕を巻きつけて抱え込んだ。く、苦しいよぉ~。<br /><br />「げほっ。と、ところで、知花ちゃんはどうなの?近藤君と」<br />「え?」<br /> あれ、いまちょっと誤魔化そうとした? 怪しい! <br />「キッズ英会話スクールで、一緒にバイトしてるんでしょ?」<br />「う、うん」<br /> ? 赤くなってる、この知花ちゃんが。ますます怪しい。<br />「もしかして、コクられた?」<br /> ぼ、と真っ赤になった知花ちゃんが、こく、と頷いた。<br />「うゎ~、まじ?そ、それで?つきあうことにしたのっ?」<br /> 自分のこと以上に興奮する。軽く舌を噛みながら、あたしは知花ちゃんに訊いた。<br />「まだ、返事はしてないの。この合宿が終わったら逢うことになってて、そのときに答え聞かせてって…」<br /> おおおぉ、いい感じじゃないか。もちろん、OKだよね、知花ちゃん?<br /> もじもじ説明する知花ちゃんの横顔を見ながら、あたしはそれで、それで?と眼で次の言葉を促す。<br /><br />「どしたら、いいと思う?菜乃果ぁ~」<br /> いや、もう答えは出てるんじゃないの?いつもの男らしい知花ちゃんらしくないぞっ。<br />「迷ってるの?なんで?」<br />「いい人だとは思うんだけど…」<br /> うん。<br />「優しいとは思うんだけど…」<br /> うん、うん。<br />「凄く好かれてると思うし…」<br /> うん、うん、うん。<br />「でも…あたし、自分の気持ちがよくわからなくて」<br /> そっか…。<br />「嫌いじゃ、ないん、でしょ?」<br /> そう訊くあたしに、知花ちゃんは逆に質問してきた。<br />「菜乃果はどうなの?氷川先生のこと、もの凄く好きだって思ったからつきあうことにしたの?」<br /> どうなんだろう?なんだか、アワアワしているうちに捕まって、気がついたらとっても好きになっていた。<br /> 近藤君も、もう少し強引でもいいのかもしれないな。女の子は、意外に強引なのに弱いし。相手の気持ちを考えすぎるのも、良し悪しだ。<br /><br />「ね、知花ちゃん、もうキスした?」<br />「な、なに言ってるの?まだつきあってもいないんだよ!」<br />「近藤君と、キスできそう?それとも嫌?」<br />「え…」<br /> 知花ちゃんが一瞬固まって、それから考え込んだ。<br />「い、嫌じゃないかも…」<br /> そうなんだ。なら、きっと大丈夫。ゆっくりはじまる恋もある。ゆっくり育まれていく想いも、きっとあるから。<br /> 赤くなって俯いている知花ちゃんが可愛くて、あたしはその肩を抱いて言った。<br />「お似合いだと、思うよ?」<br />「な、なんかっ。菜乃果、上から目線っぽい!なによっ、自分はもうつきあってるからってっ!」<br /> いつもの強気を取り戻して照れまくっている知花ちゃんが、ますます可愛い。<br />「がんばれぇ~」<br />「だ、だからっ!もう、菜乃果のばかっ!!」<br /> はい、はい、知花ちゃん。照れないの、ふふぅ。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 楽しかった3泊4日の合宿が終わって、あたしは惺に報告するために待ち合わせた。早乙女君もつきあってくれて、新しくできたカフェで3人で会った。<br />「おお、菜っ葉、久しぶり。っうっ、ハァ~くしゅ!」<br /> 席に着くなり、盛大にくしゃみをした惺。<br />「花粉症?」<br />「ああ。ぐずっ。今年からはじまったみたいだ」<br />「マスクした方がいいよぉ」<br />「俺の美学にあのカラスの嘴(くちばし)みたいなマスクはない、って…ハァあ~くショぃっ!」<br /> いやいや、その前に連続オヤジ系くしゃみと、鼻水ずるっの方が美学にないでしょ。<br /><br />「はい、氷川君」<br /> 早乙女君が水筒を手渡すから、訊いてしまった。<br />「それ、なに?」<br />「花粉症に効くお茶」<br /> へ~、そんなのあるんだ。てか、相変わらず甲斐甲斐しいな、早乙女君。惺の彼女、いやおかんみたい。<br /> 惺は水筒を「おう」と受け取って、中身のお茶を飲んだ。<br /> ウエイトレスさんがやって来てちらりとそれを見たけど、とくに何も言わずに3人分のオーダーをとって行った。<br /><br />「で?」<br /> と、いきなり本題に入ろうとする惺。<br /> て、照れるんですけど…。<br />「う、うん。えっとぉ、す、すっかり春らしくなったね」<br /> いや、じゃなくて…。<br />「はぁ?」<br /> わ、わかってるよ、惺。本題ね、本題。<br />「あのぅ…」<br /> 意を決して言おうとしたところへ、ウエイトレスさんが飲み物を持ってきた。惺と早乙女君は仲良くコーラ、あたしは相変わらずミルクティ。<br /> 取りあえず、ミルクティ飲んどこ。まだ熱いそれに口をつけたところで、惺がいきなり言った。<br />「どう、兄貴は?」<br />「ぶっ!」<br /> ミルクティ、軽く吐き出してしまった。ついでに、お約束のようにむせる。げほげほげほげほ、ゲホッ。<br />「あ~あ、きったないなぁ、菜っ葉」<br />「だって、いきなり…」<br /> 涙目になって、まだむせながら惺を睨む。<br /><br />「よろしく頼むよ」<br />「え?」<br />「兄貴」<br />「あ、あの?」<br /> と惺を改めて見たら、とてもいい笑顔で大きく頷いてくれた。<br /><br /> 惺…ありがと。<br /> これで報告は終わった、んだよね?<br /> いままでのように、変わらず、惺はあたしのこと、ちゃんとわかってくれてる。あれこれ、ぐずぐず、説明下手なあたしが言わなくても、一瞬でわかり合えるのが惺の良さだ。<br /> うん、本当にありがと。あたしの、永遠の弟。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「あれで、よかったの?氷川君」<br />「ああ」<br />「ホントに?」<br /><br />「なぁ、乙女。俺、後から生まれてきたくせに、兄貴の居場所とっただろ?」<br />「そんなことないでしょ?それに、それは氷川君のせいじゃないし」<br />「うん、母親のせいでも父親のせいでもない。でもたとえそれが不可抗力だったとしても、事実は事実だ」<br />「…」<br />「兄貴を含めて、ウチの家族みんな大人でさ。誰もが優しすぎた。その優しい嘘を一人で必死に暴いてくれちゃってたのが、りこちゃんだ。もちろん、りこちゃんはそんなつもりないさ。ただ兄貴のために頑張っただけなんだけど、思いっきり逆効果で…」<br />「なんか…わかる」<br />「だから俺、兄貴が菜っ葉とつきあってることを、りこちゃんから訊いたときは、むしろもの凄く嬉しかったんだ。りこちゃんには、なんであたしが泣いてるのに嬉しそうなのっ!て責められたけど。嬉しくて、ニヤニヤが止まらなかった」<br />「…氷川君」<br />「ただそこに居るだけで幸せな気分にしてくれる、縁側の猫みたいな菜っ葉が兄貴の居場所になってくれた。たぶん唯一の、生涯の。あの兄貴が、きっと初めて本気で欲した居場所なんだと思ったら。俺、ホントに嬉しくってさ」<br /><br />「氷川君が本心から嬉しいなら、僕も嬉しい。…でもね」<br />「ん?」<br />「気づいてる?ふたりが惹かれあった本当の理由」<br />「本当の理由?」<br />「うん、縁側の猫だからじゃなくて。…氷川先生がSで、沢口さんがドMだからだよ」<br />「えぇえっ!?」<br />「ふふ、氷川君、案外ウブなんだね♡」<br />「お、おい、乙女。お前、なに言って。うゎっ、どこ触って…お、おい、こらっ!」<br />「氷川く~ん♡」<br />「や、やめろっ!乙女、早まるなっ!!」<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-04-14 (Tue)
  • Category : アイス
473

⑪女子ピロートーク

「ぎょ、ぎょぉえ~~~~~!?」 最新ダンス事情のDVDを見て盛り上がっている「わ~、きゃ~」の声と明らかに異質な声を上げたのは、知花ちゃんだ。 ダンスサークルの合宿の初日、食堂兼広間で27名の部員たちは海外アーティストや国内のダンスイベントの熱いダンスに夢中になっていた。 一組のチームのパフォーマンスが興奮のうちに終わり、次のチームの紹介映像が流れているときに、あたしは知花ちゃんの耳元で囁いた。「あ... <br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">「ぎょ、ぎょぉえ~~~~~!?」<br /> 最新ダンス事情のDVDを見て盛り上がっている「わ~、きゃ~」の声と明らかに異質な声を上げたのは、知花ちゃんだ。<br /> ダンスサークルの合宿の初日、食堂兼広間で27名の部員たちは海外アーティストや国内のダンスイベントの熱いダンスに夢中になっていた。<br /> 一組のチームのパフォーマンスが興奮のうちに終わり、次のチームの紹介映像が流れているときに、あたしは知花ちゃんの耳元で囁いた。<br />「あ、あのね。実はあたし、氷川先生と…アイスとつきあうことになったんだ」<br />「へ?」<br /> 知花ちゃんが、ほけっとした表情であたしの方を見たから、良く聞こえなかったのかと思ったんだ。<br />「だから、アイス…つまり氷川有さんとつきあって…」<br /><br /> ………。<br /> ………。<br /><br /> 無言で見つめ合うこと数秒。それから知花ちゃんの両眼がくわぁっと開いて。<br />「ぎょ、ぎょぉえ~~~~~!?」<br /> 皆が賑やかに盛り上がっている中でも、その叫びはその場の全員を注目させるのに十分すぎるほどだった。<br /> ち、知花ちゃん。そんなに驚かなくても…。<br />「どしたの、知花?」<br /> 副部長が思わず、DVDを途中で止めて訊く。<br />「あ、いえ。すみませんでしたっ」<br /> 真っ赤になって謝る知花ちゃんに小突かれて、あたしも青い顔で慌てながら周りの部員たちに何度もへこへこ頭を下げた。<br />「ぎょえ、とか言うパフォーマンスだったっけ?」<br /> 首を傾げながら副部長はDVDを再びスタートさせ、部員たちもまた最新のカッコいいダンスに熱中し出した。<br />「…こそこそこそ。もう、菜乃果ったら、びっくりするじゃない」<br />「…ひそひそひそ。ごめん、知花ちゃん、詳しくは今夜、女子ピロートークで」<br /><br /> DVD鑑賞もひと段落すると、あたしたちは温泉につかって、それから再び賑やかに夕食となった。<br /> 今夜のメニュー、海の幸のブイヤベースを食べながら部長が訊く。<br />「ホントに知花と菜乃果は、乙女と同室でいいの?」<br /> そうなのだ。ダンスサークル黒1点の早乙女君は、いくら女子力が半端なく高いとはいえ、生物学上は男子で部屋割りがまだ決まっていないのだ。<br /> いっそのことあたしたちと同室で、と部長と副部長は言ってくれたけど、早乙女君の方が恐縮しまくっている。その泳ぐ眼を見て、知花ちゃんが男らしく言い切った。<br />「部長、やっぱ乙女はあたしたちと同室で。同級生だし、あたしの衣装を手伝ってもらったのがキッカケで部員になったんだし」<br /> いいの?と乙女が縋る眼で知花ちゃんを見る。それに力強く頷いて、知花ちゃんは言った。<br />「ね、菜乃果!」<br />「うん、もちろん」<br /> 乙女と同室になることは何の問題もない。もしかしたら一緒にお風呂にだって入れるかも、とそのときのあたしは呑気に思っていた。<br />「ホント?長倉さん、沢口さんっ」<br /> 祈るように両手を組んでうるうる眼を向けてくる早乙女君にそう言われたら、断るという選択肢はないでしょう。<br />「あはは。わかった、OK!うん、よかったね、乙女」<br />「はいっ」<br /> <br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 知花ちゃんを真ん中に、川の字にお布団を並べた。いよいよ、女子ピロートークの開始である。<br />「なんか、菜乃果が仰天報告あるらしいよ」<br /> そう水を向けてくれる知花ちゃんが、有難い。それでもなんだか恥ずかしくて、どこからどう話したらいいか、わかんないんだけど。<br />「仰天報告?」<br /> 早乙女君が、気を遣って食いついてくれた。<br /> ほら、と催促するように知花ちゃんがあたしの方を見て頷く。<br />「あ、あのね。あたし、氷川先生と、氷川有さんと……つきあうことになりましたっ」<br /> 敬語になってしまった、緊張してるのか?あたし。<br />「そう、おめでとう」<br /> 知花ちゃん越しに、にっこりと微笑んで祝福してくれる早乙女君。<br />「うぇえ~、それだけぇ~?」<br /> 再び素っ頓狂な声を上げたのは、ド天然 知花ちゃんだ。<br />「うん、そうなると思ってた」<br /> そ、そうなの?なんで?早乙女君。<br />「ちょ。どこをどうすれば、あの冷血アイスと、子供の菜乃果がつきあうだろうって発想になるのよっ」<br /> びっくりしすぎて早乙女君の方に前のめりになる知花ちゃん。冷血アイスと、子供の菜乃果は失礼発言だって気づいてる?<br />「お似合いじゃない」<br />「ど、どこがっ」<br /> だから知花ちゃん、失礼だって。親友でしょ?<br /><br /> やがて、はっとした知花ちゃんは恐る恐るあたしの方を見て言い訳した。<br />「あ、いや。釣り合わないって言ってるわけじゃないよ?なんか、ふたりでいるシーンが想像できないっていうか…」<br /> それが、釣り合わないって言ってることなんだよ?知花ちゃん、超正直。まあ、そこがいいところでもあるから、いいけど。<br />「そんなことないよ。なんか陽だまりの猫みたいな沢口さんと、冷たいって誤解されがちな氷川先生。クールな先生を、沢口さんがほんわか包んでるシーンが、僕は想像できるよ」<br /> 早乙女君、顔が火照るようなことサラッと言うね、キミ。<br /> その言葉に、知花ちゃんがう~んと考え込んだ。<br />「うん、まあ。そう言われてみれば。アイスもクールって言えば、なんかいい男のようにも思えてくるし。ぼーっとしてる菜乃果は、ほんわかって言えば癒し系と取れないこともないし…」<br /> え…知花ちゃんの評価は、ぼーっとしてる女だったの?おいおい、親友~。<br /><br />「あ、あの。それからね。氷川先生、今年度で非常勤辞めたから。もう、あたしたちの先生じゃなくて…」<br />「ななな、なぬぅう~~~!?」<br /> ち、知花ちゃん。だから何度も言うけど、その驚き方は止めようよ。それにもう深夜だし、も少し小声でお願いします。<br />「もしかして、それ」<br /> 早乙女君が、優しくて深い理解を示すような眼で見つめてくる。なんか、いろいろ人生経験してる、のかな?<br />「沢口さんと、堂々とつきあうため?」<br /> 凄い、よくわかったね。<br />「…う、うん」<br />「うおぉおおおぉ~!?」<br /> ち、知花ちゃん、だから、ね。<br /> 知花ちゃんが突然、枕にガバッと顔を埋めた。それをくすりと笑って見やってから、早乙女君が訊く。<br />「沢口さんが頼んだの?」<br /> まさか、オトコの人にたとえ非常勤でも大事な仕事を辞めてなんて言えない。<br />「ううん。でも、先生と生徒じゃつきあえないって、最初断ったの」<br />「そしたら、辞めてくれたんだ」<br />「う、うん。そういうつもりじゃなかったんだけど…」<br /> 年始に突然、両親の転勤先である街にまで来て告げられたことは内緒だ。もちろんその後、ホテルの部屋でいたしてしまったことも。<br /><br />「凄いね」<br /> え?<br />「氷川先生、本気なんだ。仕事辞めてもいいっていうくらい、沢口さんのこと…」<br />「狡~い、菜乃果ぁ!先越すなんてぇ~」<br /> 知花ちゃんが今度はがば、と枕から顔を上げて叫んだ。<br /> ご、ごめん、知花ちゃん。一緒の時期に彼氏ができたらいいねって言ってたのにね。<br />「それに…いいなぁ。大人でカッコいい彼で」<br /> あ、あれ?冷血漢じゃなかったっけ…。<br />「しかも菜乃果のために仕事まで辞めるなんて。く~、想われてんなぁ~、いいなぁ」<br /> そう言われると嬉し恥ずかしい。辞めさせちゃったのは、いまでも申し訳なく思っているけど…。<br />「氷川君に、報告した?」<br /> そう訊く早乙女君に、あたしは首を振った。<br />「惺は…有さんから、訊いてるかも」<br />「沢口さんから、言うべきじゃない?」<br />「そうかな?」<br /> 早乙女君が、やっぱり優しい笑顔でこっくりと頷いた。</span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-04-13 (Mon)
  • Category : アイス
472

⑩激しさとせつなさの狭間

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  • Date : 2015-04-12 (Sun)
  • Category : アイス
471

⑨拘束のはじまり

公私ともにまだバタついていますが、取りあえず再開っス(*´ω`*)へなちょこなりに、がんばりマス。「ブログ村」現代小説 注目記事ランキング1位、は、初めてだぁ~~~!!読んでくださっている皆様、ありがとうございます<(_ _)>「お父さんが、淋しがってるわよ」 母からそんな電話があって、ダンスサークルの合宿の前に、両親のもとへ2週間ほど帰った。絶対に面と向かって淋しいなんて言う父じゃないけど、照れ屋で娘に... <span style="color:#00CC99">公私ともにまだバタついていますが、取りあえず再開っス(*´ω`*)<br />へなちょこなりに、がんばりマス。<br />「ブログ村」現代小説 注目記事ランキング1位、は、初めてだぁ~~~!!<br />読んでくださっている皆様、ありがとうございます&lt;(_ _)&gt;</span><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br />「お父さんが、淋しがってるわよ」<br /> 母からそんな電話があって、ダンスサークルの合宿の前に、両親のもとへ2週間ほど帰った。絶対に面と向かって淋しいなんて言う父じゃないけど、照れ屋で娘に甘い父が好きだ。<br />「お母さん、料理教えて」<br />「あら、どうしたの?彼氏でもできた?」<br /> 母のジョークに、父の顔がちょっと引き攣った。<br />「ち、違うよ。お節だって手伝ったじゃない。それでお料理もなかなか楽しいなって思って」<br />「そう?」<br /> 何気なく訊く母の表情を、深読みしてしまう。<br />「それに…ほら、一人暮らしだと栄養バランスが…。いい機会だから、自分のご飯くらいつくれるようになりたいなって…」<br /> 言い訳みたいに言う娘の言葉をどう取ったのかわからないけど、母は涼しい顔で言う。<br />「じゃあ、菜乃果がいる間は娘の手料理が食べられるわね。よかったわね、お父さん」<br /> そう言われて、テレビを見ていた父の顔がちょっと嬉しそうに綻ぶ。<br /> ごめん、お父さん、お母さん、嘘ついて。でも、まだ恥ずかしくて言えない、凄く素敵な大人の彼ができたなんて…。しかも一回りも違うって知ったら、なんて言うだろ。ちょっと…怖い?<br /><br />「じゃあ、今夜は茶わん蒸しでもつくる?」<br />「わ、大好物!」<br /> あ、あれ?でも独り暮らしの部屋には蒸し器なんてないし、買ったとしても大きくて邪魔になるな。でも、いいや。茶わん蒸しは沢口家全員の好物だもの。<br />「あとは、そうね。簡単だけど、ちょっと豪華に見えるミートローフにしよっか」<br />「うんっ」<br /> わぁ、お母さんのミートローフは種にお豆腐を入れるからヘルシーで柔らかくておいしいんだ。中に人参とかといんげんを入れて、彩りも綺麗だし。有さんにつくってあげたら、喜ぶかなぁ。<br /> そんなことを考えていたら、顔がニヤケていたらしい。<br />「彼氏につくってあげるときも、ちょっとご馳走っぽくっていいでしょ?」<br /> げ…お母さん、超能力者ですか?娘の心、読まないでくださいっ。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 3週間ぶりに、有さんに逢える。心が浮き立って、つい足取りが軽く弾む。<br /> 東京へ帰って、一番楽しみにしていたのはやはり有さんとの時間だ。<br /> 金曜の夜、きっと今夜も仕事で遅くなる有さんの部屋へ向かった。週末、なるべく休日出勤しないで一緒に過ごしたいからと、有さんは平日かなりハードに仕事をしているらしい。<br />「なんだか、悪いよ。有さんが躰を壊したら困るし。無理しないで」<br /> と言ったら、逆に不服そうに訊ねられてしまった。<br />「なんだ、菜乃果は週末、ずっと一緒に居たくないのか?」<br />「そういう意味じゃなくて」<br /> わかっているくせに、困らせようとしてる?そんな意地悪も、もうすっかりふたりの中では気持ちを確かめあう甘い時間だ。<br />「いままでは、休みの日も癒されなかった。でも、菜乃果といると安らぐ。平日少しくらい無理したって、俺がそうしたいんだ」<br /> 安らぐ…かな?結構ハードに汗かいてますが…とは言えなかった、さすがに。<br /> <br /> いつものように、有さんの大きなシャツを借りてベッドに潜り込む。独りじゃ広いベッドはなんだか淋しくて、有さんの枕を抱き枕がわりにぎゅぅと抱きしめる。<br /> 月灯りが綺麗だったから、レースのカーテンだけ閉めた窓から金色の光が零れている。同じ月を、有さんも見ている気がした。<br /><br /><br /> さらさらと髪を撫でられるのが夢現の中にも心地よくて、ん~んと伸びたあたしの腕の中から枕が消えた。代わりにボディソープのいい香りと優しい体温が、滑りこんできた。<br />「ゆ、う、さん?お帰りなさい」<br /> 枕より硬くて大きくて愛おしい存在に、ぎゅぅと抱きつきながら言う。<br />「3週間ぶりだ」<br /> 有さんがそう言って、耳朶を食む。それがくすぐったくて、眼を瞑ったまま首を竦めて笑う。<br />「起きないつもりか?」<br /> 髪をかき上げるようにして露わにされた、敏感なうなじを有さんの唇が這う。<br />「3週間も俺を放っておいて、寝たふりはさせないぞ。菜乃果」<br />「だって」<br /> やっと目を開けて、3週間ぶりの逢いたくてたまらなかった顔を見上げる。<br />「菜乃果、だっては禁止だ」<br />「…どうして?」<br />「どうしてもだ。菜乃果のだっては言い訳にすらなっていないのに、可愛すぎて腹が立つ」<br /> 変な論理だ。今夜の有さんは、少し機嫌が悪い。仕事で何か嫌なことでもあったんだろうか?<br />「有さん、機嫌悪い」<br />「当たり前だ。3週間も放っておいたくせに、寝たふりだ」<br /> 本当に怖い顔をして見せる有さんの腕の中で背伸びして、口づける。<br />「それで許してもらおうなんて、甘い」<br />「ん…じゃ、どうすればいいの?」<br /> ふ、と意地悪な顔で笑って、有さんがベッドから起き上がる。<br /><br />「菜乃果にプレゼントがある」<br /> プレゼント?<br /> 有さんはボクサーパンツ一枚でベッドから抜け出ると、ナイトテーブルの脇に置いてあった袋から何かを出した。<br /> ほら、と差し出すものを、月灯りが妖しく照らす。<br />「可愛いだろ?」<br /> そう訊かれて思わず「…可愛い」と言ってしまったけど…。<br /> 月灯りが照らし出したもの、それはヒョウ柄ファーのふわふわとした輪っかだ。それが一つならシュシュだけど、生憎と輪っかは二つあって、金属とチェーンで繋がれていた。<br />「可愛いから、きっと菜乃果に似合うと思ったんだ」<br /> 有さんがそう言いながら近づいてきて、あたしの腕を取るとヒョウ柄ファーの手錠を嵌(は)めた。<br />「思った通りだ、可愛いから菜乃果によく似合う」<br /> そこでやっと、あたしは有さんが「可愛い」を何度も言う訳に思い当った。<br /> 拒否するタイミングを、巧妙に奪ったんだ。狡いよ、ホントに、有さんは。<br /><br />「…酷い」<br />「なにが酷い。3週間も放っておいて、逢いたかったの一言もない菜乃果の方がよほど酷いだろ」<br />「だって」<br />「だって、は禁止だ」<br />「あたしだって、逢いたかったよ」<br /> 有さんが、手錠で繋がれたあたしの両手を頭上で拘束する。<br />「逢いたかっただけか?」<br />「え…」<br />「言えよ」<br /> 何を?と訊こうとして止めた。訊いたら、もっと意地悪を言われるに決まってる。<br />「強請(ねだ)れ、菜乃果」<br />「…ん、キス」<br /> ちゅ、と軽いタッチを唇に落として、有さんは言う。<br />「キスだけか?」<br />「有さんが…」<br />「俺が?」<br />「欲しい」<br />「俺の何が?」<br />「…全部」<br /> 有さんは苦笑しながら、首を振った。<br />「上手く逃げたな」<br /> 逃げてなんか。だって、本当のことだもの。<br /><br />「逢いたかった、凄く凄く。大好き、有さんが。世界で一番、ううん、宇宙で一番」<br />「ったく、菜乃果。お前の心と躰を確実に拘束する鎖は、いったいどこで見つければいいんだ」<br /> 有さんの眼が、妖しく輝いて細められた。眼鏡を外した眼の奥はちょっと危険な熱を帯びていて、あたしの躰の奥をじゅんと熱く刺激する。<br /> これからきっと長い長い夜が、地平線をオレンジ色の朝焼けが染める頃まで続く。<br /> そして…いまは可愛いだけの拘束が、いったいどこまで続くのか、どんな風に変容していくのか、あたしたち自身にすらまだわかっていなかった。<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-04-11 (Sat)
  • Category : アイス
470

⑧涙のバレンタイン 4

 あまりにも淡々と、有さんはその生い立ちを語ったから。 何と言っていいか、咄嗟に言葉が浮かばない。それなのに、有さんの方があたしを気遣ってくれるなんて。「ごめん、菜乃果。こんな話を訊かせて」 そして有さんは、まだ呆然と言葉を探しているあたしの頭を撫でた。「いきなりこんなシリアスな話されても、どうしていいかわからないよな?」 訊かせてって言ったのはあたしなのに。どんな思いで、有さんは語ってくれたんだ... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> あまりにも淡々と、有さんはその生い立ちを語ったから。<br /> 何と言っていいか、咄嗟に言葉が浮かばない。それなのに、有さんの方があたしを気遣ってくれるなんて。<br />「ごめん、菜乃果。こんな話を訊かせて」<br /> そして有さんは、まだ呆然と言葉を探しているあたしの頭を撫でた。<br />「いきなりこんなシリアスな話されても、どうしていいかわからないよな?」<br /> 訊かせてって言ったのはあたしなのに。どんな思いで、有さんは語ってくれたんだろう。そう思うと、胸の奥がきりきりと痛む。訊いたことに後悔はない、でももっと上手に訊けたんじゃ…。<br />「惺は…知ってるの?」<br /> 違う、そんなこと言いたかったんじゃなくて。なのに自分の口が勝手に、回り道の言葉を紡ぐ。<br />「ああ。惺が中学に上がったときに、両親が話した。でも頭のいい惺は、薄々感じていたらしい」<br /> あり得ることだ、惺なら。<br />「そして両親が惺に本当のことを話した後、俺は家を出て独り暮らしをはじめた」<br /> え…。<br /> 何とも言えない表情になっていたのだろう、そんなあたしの頬を両手で包むと、有さんはちゅ、と軽いキスをした。<br />「俺は25歳になっていたし、仕事も忙しくて深夜帰りや泊りもあったから。独り立ちする、ちょうどいい機会だったんだ」<br /> 有さんは、ちょっと照れたように笑って続けた。<br /><br />「だけど、血は争えないというか。惺は見事に、父親のDNAを受け継いでいたな。まず3歳でいきなり九九を暗唱して、周りを驚かせた。誰が教えたんだと訊いたら、近所の小学生が苦労して覚えているから自分も真似てみたら、1日であっさりマスターしたらしい」<br />「…凄い」<br /> って、そんなことに感心してる場合じゃなくて。<br />「父親は面白がって、惺が小学生になると興味を持ったものはどんどん与えていった。年齢もレベルも関係なく。惺は傍から見ていても面白いほど、膨大な知識を難なく吸収していった。数学も物理も、惺にとってはゲームと同じだ。遊び感覚で難問を解いていく惺を見て、周りは天才児だと騒いだよ」<br /> そう、だろうな。<br />「だけど久しぶりに家に帰って、高校生になったばかりの惺を見たときは驚いたな」<br /> なるほど、茶髪、ピアス姿になっていたわけね。<br />「反抗期かと思ったら、そうじゃないらしい。同じような格好の不良っぽい仲間たちが、母のつくったおやつを旨そうに食べながら一緒に勉強しているのは、なかなか興味深い光景だった。まあ、あの恰好は惺なりのバランスの取り方なんだなと思ったよ」<br /> 有さんは、さも面白そうに思い出し笑いをしながら話すから、あたしの気持ちも次第に明るくなっていく。<br /><br />「りこは…」<br />「…え」<br /> 有さんの表情から、唐突に笑顔が消えた。<br />「俺が氷川家の養子だってことを、早くから知っていた。何しろ、りこの父親は産婦人科医でウチの母親の主治医だったから。だからあいつは、惺が生まれてからしょっちゅう家に遊びに来ては、俺を家族の中心にしようと必死だった」<br /> そう…だったんだ。<br />「だけど、あの性格だろ?必死すぎてストレートすぎて、空回りするんだ。有さんは絵が上手い、手先が器用で料理が得意なのもおばさまにそっくりだとか、取ってつけたように言うんだ。初めは迷惑だった、余計なおせっかいが苦痛でたまらなかったよ。でも、りこの一生懸命さに母親がまず救われたんだ。血が繋がっていないことを隠すのでも、負い目に思うのでもなく、ただひたむきに想えばいいのだと、りこに教えられたそうだ」<br /> 氷川家で、まるで自分の家のように振る舞っていたりこさんと、それを慈愛に満ちた眼で見ていた有さんのお母さんの姿が思い出された。<br /> そうだったんだ。りこさんは、あたしなんか太刀打ちできないくらい、有さんの歴史を見つめてきてたんだ。とても大きな、健気な愛情で。<br /><br />「だから、俺は自分の小さなわだかまりを恥じて、初めて母親の絵を描いた」<br /> もしかして…それがあの後ろ姿の絵?<br />「だけど、わだかまりを捨てきれなかったんだろうな。俺が描いた絵は銀賞だった。金賞を取った絵は、母親の笑顔を正面から描いた実に堂々とした作品だった。審査員の講評が忘れられないよ。俺の絵が銀賞だった理由は、技術的には上手いが子供らしい素直さや明るさに欠けるというものだった」<br /> そして有さんは遠い眼をして言った。<br />「見透かされていたんだ。俺の矮小な、屈折した心を」<br />「そんなことないっ!」 <br /> あたしはいきなり有さんに抱きついて叫んだ。<br />「そんなことないよっ。その審査員はみんな馬鹿なんだよ。有さんの心の繊細さとか優しさとかを理解できずに、理解しようともせずに、子供はこうあるべきっていう都合のいい型にはめたいだけなんだ!」<br />「菜乃…菜乃果?」<br /><br /> とうとうあたしは堪え切れずに、その日一番の号泣をした。なんだかとても悲しくて、心が冷たくなって、でもそんな自分の心なんかどうでもよくて。<br /> 有さんの心をあったかくしたいのに、あたしが泣いてちゃダメじゃんって思うのに、涙が止まらない。<br />「ごめんなさい、ごめんなさい」<br />「菜乃果、なんで謝る?」<br /> わからない、わからないよ。有さんにこんな辛い話をさせてしまったこと、その有さんに何もできない自分、有さんを見つめてきた家族、そしてりこさん。<br /> それぞれが必死で有さんを想ってきたのに、あたしが一番ダメだ。足りな過ぎて、子供すぎて、情けなくて、嫌になる。<br /><br />「菜乃果、俺は本当の両親の名前も顔も知らない。教会の前に捨てられていた俺を、そこに併設する孤児院のシスターたちが育ててくれた。子供を捨てる親だ、どんな事情があったのか、どんな親なのかもわからない。もしかしたら犯罪者かもしれ…」<br />「違うよっ。絶対、違う。きっとなにか特別な事情があったんだよ。有さんの、有さんの本当の両親が酷い人なわけがない。だって有さんは、こんなに素敵で理知的でカッコいいんだからっ」<br /> 躰を震わせながら、それでも有さんの顔を真っ直ぐに見てあたしはそう言った。涙はもう、恥ずかしいくらいどんどん溢れてきて、酷い顔だろうと思ったけど、そんなこと関係なかった。ただただ、有さんを力づけたかった。<br /> 優しい声で有さんが、あたしの名前を呼びながら涙を舐めとる。<br />「菜乃果、こんな俺でもいいか?」<br /> どんな有さんでも好き、大好き。<br /> 言葉にできない想いを真っ直ぐな視線に乗せて、あたしは何度も何度も頷いた。<br />「ずっと、不安だった。俺のルーツは、心の拠り所はどこなんだって。俺は、望まれて生まれ来たのか?この世の存在する価値はあるのかって」<br />「…有さん、有さんがいなきゃ、あたし…」<br />「居てもいいか?菜乃果の傍に、菜乃果だけのために」<br />「あたしはっ、こんなにも、有さんのことっ、必要としているから」<br />「菜乃果、ずっと一緒にいてくれ。俺の唯一の信じられる拠り所になってくれ。菜乃果が、菜乃果だけが俺の真実ならそれでいい」<br /> その言葉にますます涙が止まらなくなって、あたしは有さんが困ってしまうくらいに泣き続けた。</span></span><br /><br /><br /><span style="color:#00CC99">スミマセン、数日更新お休みしますm(__)m<br />たぶん、2~3日くらいです。</span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-04-07 (Tue)
  • Category : アイス
469

⑦涙のバレンタイン 3

 りこさんは、最期は泣きながら帰っていった。 あの強く見えたりこさんの涙に、あたしは逆にショックを受けた。むしろありったけの罵詈雑言を投げつけられた方がよかった。 有さんが駅までりこさんを送って行って、1時間が過ぎた。駅まではたった10分ほどだというのに。だけどたった1時間で、りこさんのこれまでの有さんへの恋情に幕が下ろされるわけがない。 そう考えたら、今日は有さんの部屋に図々しくいることなんてできな... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> りこさんは、最期は泣きながら帰っていった。<br /> あの強く見えたりこさんの涙に、あたしは逆にショックを受けた。むしろありったけの罵詈雑言を投げつけられた方がよかった。<br /> 有さんが駅までりこさんを送って行って、1時間が過ぎた。駅まではたった10分ほどだというのに。だけどたった1時間で、りこさんのこれまでの有さんへの恋情に幕が下ろされるわけがない。<br /> そう考えたら、今日は有さんの部屋に図々しくいることなんてできない、帰るべきなんじゃないだろうかという気がしてきた。<br /> だから有さんが部屋に戻ってきたときには、あたしはきちんとお化粧をして身なりを整え、帰り支度をしていた。<br />「菜乃果…、どうした?その恰好…」<br />「今日は帰ろうと思って」<br />「何故?」<br />「だって」<br /> りこさんの涙を見てしまったから。傷つけたのはあたしだ、それも途方もなく。たとえそれが故意でないとしても、自分のせいであんなに人が取り乱したのを見たのは初めてだった。<br /><br /> それに…有さんにだって、心の整理が必要なんじゃないの?<br />「菜乃果、居てくれ」<br /> 有さんが、あたしの両肩を大きな手で掴んだ。<br />「でも…」<br />「りこのことは、謝る」<br /> 違う、謝ってほしいんじゃない。そうじゃなくて。<br />「俺のことが…嫌いになったか?」<br /> 有さんが、少し苦しそうな声で言った。<br /> 嫌いになるわけがない。こんなに好きで好きで堪らないひとのこと。<br /> あたしは、黙って頭を振った。<br />「じゃ…どうして?」<br /> だって自分だけ、ぬくぬくと有さんの傍にいるなんて…。<br />「りこさんに、悪い…から」<br />「りこのことは、俺のせいだ。菜乃果は少しも悪くない」<br /> 有さんはそう言うと、あたしを半ば強引にソファに連れて行って座らせた。そして膝に乗せるように抱きかかえると、おでこにキスを落とした。<br />「菜乃果、もう一度訊く。俺が、嫌いになったか?」<br /> また頭を振るあたし。<br />「じゃあ、俺が好きか?」<br /> どうして、そんな当たり前のことを訊くの?切な気に瞳を伏せる有さんが愛おしくてたまらなくなって、あたしはその首に縋りついて言った。<br />「大好きに、決まってる」<br />「じゃあ、今夜もここに居て。これからも、ずっと変わらず俺の傍にいて」<br />「有さん…」<br /> 涙が零れる。いままで堪えてきた涙が、一気に。<br /> あたしは有さんの腕の中で、躰を小刻みに震わせながら嗚咽した。<br />「悪かった、菜乃果。こんな想いをさせて、泣かせてしまって」<br /><br /> 有さんに優しく背中を撫でられながら、あたしの心を占めていたのはただ一点だった。<br /> りこさんが言った、あの言葉。<br /> 有さんのすべて。 有さんが、たった独りで抱えてきた歴史。<br /> 泣いてるだけではだめだ、ちゃんと大人にならなくちゃ。そうでなければ、有さんはそのすべてを、歴史をあたしに教えてなどくれないだろう。<br /> 好きってことは、それを全部受け止める覚悟があるってことでしょ?りこさんに、その覚悟があるのかと突きつけられているんだ、いまあたしは。<br /> まだぐずぐずと零れそうになる涙を、必死で堪えてあたしは有さんを見上げた。<br />「教えて…」<br />「…なにを?」<br />「有さんの、すべて。独りで抱えてきた歴史」<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /> <br /> 5歳になったばかりの暁仁(あきひと)は、いつものように孤児院の広間で無心に絵を描いていた。<br />「まあ、なんて上手なんでしょう」<br /> 女の人の優しい声がして、暁仁は絵を描く手を止めて顔を上げた。<br /> シスターの隣に、初めて見る綺麗で温かな笑顔の女性がいた。そしてその後ろに背の高い、とても賢そうな額と眼をした男の人。<br />「ええ、暁仁はいつも絵を描いているんです。そして本当に上手なんですよ」<br /> そう言って褒めたシスターに女の人は満足げに頷くと、暁仁の隣にしゃがんで声を掛けた。<br />「絵を描くのが好きなの?」<br /> 女の人は、とてもいい匂いがした。春の花のような、夏の果実のような甘く優しい匂いの人に突然声を掛けられて、暁仁はとても困った。<br /> 何て答えたらいいんだろう…。<br /> そのときシスターが助け舟を出してくれた。<br />「暁仁、思ったままに答えていいのですよ」<br /> いつも一緒にいるシスターにそう言われて、暁仁はちょっと小首を傾げると言った。<br /><br />「画用紙が、描いて、描いてって言うんです」<br /> それは正確ではなかったかもしれない。<br /> 誰かが「暁仁。嬉しいとき、悲しいとき、淋しいとき、怒りたくなるときは、その気持ちを絵に描くんだ」と教えてくれたのだ。それは誰だったか、思い出せないけれどちょっと神経質そうな瞳をした男の人だった。<br /> その人は、いつも真っ白な画用紙の中からそう言う。だから5歳の暁仁には、「画用紙が言う」としか表現できなかったのだ。<br />「まぁ…」<br /> 暁仁の答えに、女の人は口を手で覆った。<br />「この子は、頭のいい子なんです」<br /> そう言うシスターに、それまで無言だった男の人が初めて口を開いた。<br />「頭だけでなく、感性も優れているようだ」<br />「あなた…」<br />「キミがいいのなら。キミと同じ、絵を描くことが好きな子供なら、僕たちの子供にきっとなれる」<br /> そうして暁仁は、氷川侑久(ゆきひさ)と星華(せいか)の養子になった。<br /> 氷川星華は子供ができにくい体質で、夫婦は結婚して6年たっても子宝に恵まれなかった。数々の努力と苦悩の末に、ふたりは養子を迎えることを選んだのだ。<br /><br />「今日から、あなたの名前は氷川有よ」<br /> そう告げられて、戸惑いと違和感があった。でもそれを口にはしなかった、してはいけない気がした。氷川有…新しく与えられた名前を、そっと口の中で転がして幼い心は決心した。<br /> 僕は、今日から氷川有として生きるんだ。このいい匂いがする優しいお母さんと、大きくてとても頭の良さそうなお父さんの子供として。<br /><br /> そして有が氷川家に引き取られて8年目、13歳になる年に氷川家にありえないはずの奇跡が起こった。<br /> 夫婦に子供ができたのだ。生まれた子供はのちに物理学者である父のDNAを余すところなく受け継ぐ天才児、惺と名づけられた。<br /><br /></span></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-04-06 (Mon)
  • Category : アイス
468

⑥涙のバレンタイン 2

「おはよう」 眩しいほどに明るい太陽の光が、もう決して朝早くないことを教えている。オーガンジーのロールカーテン越しに差し込むキラキラした光彩の中で、有さんがふわりと微笑んでいた。 それに一瞬見惚れて、はっと気がついた。自分が裸だってことに。「あ、あ、おはよゴザイマス」 夕べの、いや明け方までのことが脳裏に浮かんで、一気に羞恥で体温が上がる。「どうした?胸元まで真っ赤だ」 有さんが意地悪にそう言って... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">「おはよう」<br /> 眩しいほどに明るい太陽の光が、もう決して朝早くないことを教えている。オーガンジーのロールカーテン越しに差し込むキラキラした光彩の中で、有さんがふわりと微笑んでいた。<br /> それに一瞬見惚れて、はっと気がついた。自分が裸だってことに。<br />「あ、あ、おはよゴザイマス」<br /> 夕べの、いや明け方までのことが脳裏に浮かんで、一気に羞恥で体温が上がる。<br />「どうした?胸元まで真っ赤だ」<br /> 有さんが意地悪にそう言って、また笑う。<br /> それから羽毛布団をちょっとずらして、視線で何かを指し示す。そこにはきっと紅い印が咲いていることを、もう経験からあたしは知っている。<br />「昨日は、躰中につけた」<br />「えっ」<br /> 慌てて羽毛布団に潜って、自分の躰のあちこちを確認する。<br /> ホントだ、上半身はもちろん、お腹にも大腿にもたくさん散っている。<br />「お尻にも背中にもつけたぞ。見えないだろうけど」<br /> 布団の中に潜ったまま、有さんを恨めし気に見つめて無言の抗議をする。<br />「ははは。なんて眼で見るんだ。いいだろ、どんなにたくさんついてたって俺しか見ない」<br />「だけど…」<br />「それとも、他に誰か見るヤツがいるのか?」<br /> 意地悪、ホントに意地悪。<br /> 有さんはさらに嬉しそうに笑うと、布団に潜ったあたしを引っ張り上げ、キスをした。<br />「菜乃果、俺のものだ。俺のものに、俺の印をつける。なんの不都合がある?」<br /> ない、けど。でも、そこから行為の記憶と感覚がまざまざと蘇って、恥ずかしいんだもん。<br /><br />「お、もうこんな時間だ。菜乃果、お腹空かないか?」<br /> 枕元の時計を見ると、11時5分前だった。<br />「わ、ホントだ」<br />「それともこの際だから、もう一度してからにするか?」<br /> もうっ、これ以上無理だから。<br />「け、結構ですっ」<br /> 慌ててベッドの下に落ちていたシャツを見つけて拾うと、布団の中でそれを着た。<br />「シャワー、先にいい?」<br />「ああ」<br /> ベッドに裸でゆったりと腰掛けながら、有さんが言う。気だるげなそのシルエットが、とても綺麗だと思った。<br /> シャワーを浴びて出ると、有さんが温かいミルクティをつくってくれた。<br />「じゃあ、俺も浴びてくる」<br /> マグカップを両手で包みながら、窓の外を眺める。7階からの眺めは、遮るものが少なくて開放感に浸れる。有さんが出してくれた洗い立てのアイボリー色のシャツが、素肌に心地いい。素足をソファに投げ出したまま、暖かい空間でまだ肌寒い都会の空を見上げた。<br /> 有さんがバスルームから髪を拭きながら出てきた。そんな何でもない仕草が、とてもカッコいい。あたしと色違いの白いシャツは肌蹴たままで、グレーのスウェットを腰履きにして、腹筋と贅肉のないお腹とおへそがセクシーで直視できない。<br /> 有さんはあたしと違って、コーヒー派だ。すぐにキッチンから、挽きたての豆の香りが漂ってくる。<br /><br />「昼は、何をつくろうか?」<br />「何が、できるの?」<br /> そうだな、と呟いて冷蔵庫を覗く有さんの後ろから、あたしも中を覗く。<br />「カルボナーラでもつくるか」<br />「できるの!?」<br /> 驚いて訊いてしまった。凄いよ、カルボナーラって難しくないの?<br /> 有さんがシャツのボタンを留めて、エプロンを掛けたときだった。インターホンが鳴ったのは。<br />「はい」<br /> 宅配便でもきたのかという表情で、有さんがインターホンの受話器を取る。<br /> その受話器から、微かだけれどはっきりと元気のいい声が聞えた。<br />「有さぁ~ん!りこっ!おばさまが、お料理持ってけって!」<br /> り、こ、さん?どきりとしたあたしに、有さんがちょっと眉をひそめ、それから安心させるように微笑んだ。<br />「大丈夫だ、受け取ったら帰ってもらうから」<br /> ホント?届けただけで、本当に帰ってくれる人?<br />「菜乃果は、ここに居て」<br /> 有さんはエントランスのキーを解除すると、あたしをリビングに残し、玄関へ向かった。<br /><br /> 玄関から、トーンの高いりこさんの声がする。有さんの低い声は、くぐもってよく聞こえない。<br />「じゃ、教えてっ。これ、誰の靴?」<br /> そう叫ぶりこさんの声に、あたしはギョッとした。<br /> あ、マズイ。あたしの履いてきたブーツ、玄関に出しっぱなしになっている。<br /> それから、「りこっ!」という有さんの割と大きな声がして、足音が近づいてくる。<br /> どうしよう…。<br /> 寝室のドアを見てそこへ逃げ隠れるのを一瞬躊躇したあたしの眼の前で、リビングのドアが勢いよく開け放たれた。<br /> <br /> きっちりとお化粧をして、上質のムートンのコートを着たりこさんがあたしを睨むようにして立っている。<br />「りこ」<br /> りこさんを追うように、有さんもリビングに入って来た。<br />「誰、この娘(こ)?」<br /> りこさんは不機嫌そうにそう言うと、持っていた結構大きな荷物をテーブルの上にドンと置いた。<br /> 外出用の化粧をして隙のないお洒落な装いに身を包んだりこさんと、起き抜けの隙だらけの素顔で男物のシャツを羽織った素足のあたしとでは、最初から勝負にならない。おまけにどんな状況かが、丸わかりの恥ずかしい格好だ。<br /> 容赦なく注がれるりこさんの真っ直ぐな非難めいた視線にも、あたしはすっかり気圧されていた。<br /> おろおろと何も言えずに視線を泳がす情けないあたしを、有さんが背中に隠した。視界が広い背中に遮られて、少し安堵したのも束の間。有さんのその行為が、りこさんの怒りに火を点けたようだった。<br />「あ、あなたっ。そうだわ。あのとき、有さんの家にいた…。惺の友達じゃないっ。何よっ!最初から有さん狙いだったわけ?」<br /> 違う、違う、誤解ですと言いたいのに、声が出ない。<br />「りこ、違うんだ」<br />「何が違うのっ?」<br />「俺が好きになったんだ、菜乃果を」<br /> <br /> ………。<br /> 沈黙が、肌に痛い。あたしはいっそう、身を縮めた。<br /> どれくらい続いただろう、居たたまれない沈黙はほんの数秒だったのだろうけど、あたしに罪悪を感じさせるのには十分だった。<br /> りこさんは、有さんをずっと好きだった。それはあの日、氷川家で誰もが感じた事実だった。その、ふたりの紡ぎ続けてきた時間に割り込んでしまった…。<br /> やがて沈黙はやはり、りこさんによって破られた。<br />「出てきなさいよ、有さんの後ろから。そんな風に隠れてるなんて…卑怯よっ」<br />「りこ…」<br /> 有さんの手が背中のあたしを守ろうとするかのように動いたけれど、あたしは心を決めてりこさんの前に情けない姿を自ら晒した。<br />「ふうん…」<br /> りこさんが値踏みするように、あたしを見る。その視線が有さんのシャツから見え隠れする、あたしの大腿の紅い印を見つけてしまうのではないかとはらはらした。<br />「この娘(こ)、幾つなの?」<br />「惺と同い年だ」<br /> りこさんの綺麗に形づくられた眉が上がった。<br />「まだ、19歳ってこと?」<br />「今年、ハタチになる」<br />「有さんと、13歳も違うじゃないっ」<br /> りこさんが、あたしたちの年の差を正確に指摘した。<br />「なんで?有さん、まだ子供じゃないのっ」<br /> 子供という言葉が心に刺さる。そう、大人の有さんに比べて、どんなに背伸びしてもあたしは子供。その引け目を、りこさんが女の勘で容赦なく暴く。<br /><br />「あなたっ!」<br /> りこさんが燃えるような眼で、あたしを見ている。<br />「どうやって、つけ入ったの?あたしの大事な有さんに」<br /> つけ入るんて…。そう言いたいのに、唇が震えただけで。<br />「りこ、違うと言っただろう。むしろ、俺が…」<br /> 有さんの言葉を、りこさんの悲鳴のような声が遮る。<br />「どうして、どうしてなの?有さん。私、ずっと有さんを見てきた。有さんだけを見てきた、物心ついたときからずっと。それは、有さんもわかっていたはずでしょ?それなのに、それなのにどうしてっ…こんな、こんな娘(こ)が、有さんの部屋にいるの?我が物顔で…酷い、酷いよっ」<br /> 一気に捲し立てるりこさんに、有さんも言葉が見つからない様子だった。<br />「りこ、わかってくれ。俺は、りこを妹だと…」<br />「やめてっ!」<br /> りこさんが首を激しく振って、再び有さんの言葉を遮った。そして、あたしの肩を掴むと激しく揺すぶった。<br />「なによっ!あなたみたいに気楽に生きてる小娘なんかに、有さんのすべてを、彼がたった独りで抱えてきた歴史を受け止められっこない!絶対にっ。自惚れないでっ!」<br /> 有さんの…すべて? たった独りで抱えてきた…歴史?<br />「りこ、止めるんだ」<br /> 有さんが、低くて静かな、でも逆らうことを許さない声で言った。</span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-04-05 (Sun)
  • Category : アイス
467

⑤涙のバレンタイン 1

私的にはR15くらいだと思うので、限定記事にはしていません (*´ω`*) 今年のバレンタインは、奇跡的に土曜日だ。 そしてあたしは本命の彼と言うのに、人生で初めてバレンタインのチョコをあげるのだ。もうそれだけで、自分の中では一大イベントになっている。「金曜日はたぶん遅くなるから」 そう言って、有さんは合鍵を渡してくれた。合鍵なんてもらうのも初めてで、あたしのテンションは早くも上がりまくり。「金曜中に帰れ... <span style="color:#00CC99">私的にはR15くらいだと思うので、限定記事にはしていません (*´ω`*)</span><br /><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> 今年のバレンタインは、奇跡的に土曜日だ。<br /> そしてあたしは本命の彼と言うのに、人生で初めてバレンタインのチョコをあげるのだ。もうそれだけで、自分の中では一大イベントになっている。<br />「金曜日はたぶん遅くなるから」<br /> そう言って、有さんは合鍵を渡してくれた。合鍵なんてもらうのも初めてで、あたしのテンションは早くも上がりまくり。<br />「金曜中に帰れないかもしれないから、先に寝てなさい。でも週末はおいしいものを一緒につくって、楽しもう」<br /> バレンタインのチョコの外に、あたしはアイスブルーのシャツを買った。お店で偶然見つけて、もう一目惚れだった。絶対、有さんに似合う!<br /> 有さんの家に週末泊まりに行くようになって、あたしの寝間着はいつも有さんの大きなシャツだ。でもこのアイスブルーのシャツは、有さん専用にしてもらいたかった。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵ <br /><br /> 有さんの匂いが微かに残るベッドに、独り潜り込む。<br /> 淋しいけど、それはセンチメンタルな甘酸っぱさを伴った胸が締めつけられる感情で。だって彼は必ず帰ってくるから…切ない期待感が、幸せでくすぐったい。<br /> 有さんのいないスペースに、泳ぐように転がってみる。ベッドサイドの灯りを一つだけ残して、薄暗闇に目を凝らす。しんとした早春の冴え冴えとした空気感が次第に降りてきて、羽毛布団に鼻まで埋めた。<br /> まだお仕事なのかな。何時くらいに帰って来られるんだろう?<br /> すぐに温まったふわふわの布団の中で、ちょっとだけ寝つけない寝返りを繰り返すうちに、あたしの意識は薄闇に溶けていった。<br /> <br /> ん…。<br /> 温かな腕に抱き込まれる感覚がして、あたしは身を捩った。<br /> 唇に柔らかな感触が、ふわりと落ちた。<br />「…ゆ、う…さん?」<br /> ゆっくりとベールを脱がされるように覚醒しはじめた意識が、ボディソープのとてもいい香りを拾う。その香りの主を確かめるように、あたしは両腕を首に回す。<br />「有さん…お帰りなさい」<br /> 薄暗闇の中でも、有さんが嬉しそうに微笑んだのがわかった。空気が優しく揺れたから。<br />「お帰りなさい、か。…いいな」<br /> そうか、有さんは独り暮らしだ。誰もいない部屋に帰ってくる気儘(きまま)と言う名の隙間風、「お帰りなさい」と言ってくれる人がいない自由と言う名の空白は、あたしにもわかる。<br />「うん、お帰りなさい。待ってた、嬉しい」<br /> 有さんが、首に抱きついたままのあたしの髪に唇を寄せたのがわかった。<br /><br />「菜乃果のお帰りなさいは、湯たんぽみたいだ」<br />「湯たんぽ?」<br />「ああ。自然で、温かくて、懐かしくて、心地いい」<br />「じゃ。有さんをもっとあっためてあげる」<br /> あたしは有さんをベッドに引っ張り入れて、その躰に両足を巻きつけるとぴったりと密着した。有さんがそんなあたしの背中に手を回して、ぎゅぅと抱きしめてくれた。<br />「お仕事お疲れさま、いま何時なの?」<br />「ああ、もう午前3時になるかな?」<br /> そんなになるの?いつもこんな時間までお仕事してるの?<br />「じゃあ、眠いでしょ?ゆっくり休まなきゃ」<br /><br />「それが…」<br /> 有さんの自嘲気味の声が、頭上でした。<br />「菜乃果…」<br />「なに?」<br />「ダメか?」<br />「…え」<br /> ダメか?の意味が、正確にわかってしまった。どうしよう…。<br />「疲れてるんじゃないの?」<br />「逆に神経が冴えて、眠れそうにない」<br /> あたしは有さんの首に回した両腕を解いて、その顔を覗き込んだ。<br /> 眼鏡を外した切れ長の眼。睫毛がオトコの人なのに長くて、理知的な双眸に愁いの影をつくっている。それがいつも、とてもセクシーだと思うのだ。<br />「眠れそうにないの?」<br />「ああ」<br />「…困ったね」<br /> ふ、と有さんは笑うと、あたしの頬を長い指で撫でた。<br />「俺は困らないけど、菜乃果は困るか?」<br /> ううん、とあたしは頭を振った。<br />「大好きだから、困らない」<br /> くっ、と有さんがおかしそうに笑う。<br /><br />「そうか、困った娘(こ)だ。ますます眠くなくなった」<br /> そう言ってあたしの頭を撫でると、長い長いキスをした。舌が両唇をなぞって、痺れて溶けてしまいそうになるほど気持ちいい。<br /> いっぱいいっぱい、欲しい。全部全部、有さんで満たしてほしい。隙間なく、溢れるくらいに、溢れても止めないで。<br /> 素敵なキスのお返しに、あたしも有さんの唇を舌でなぞる。そして、ふふぅと笑った。<br />「…っ、菜乃果。後悔するぞ」<br /> 有さんがバスローブを乱暴に脱ぎ捨てて、あたしが着ているシャツの下に手を入れる。<br /> 後悔なんかしない、いつだって。そんなことする余裕がないくらいに、有さんはあたしを翻弄するんだ。ねえ、そうでしょ?<br /> シャツの上から赤く膨らんだ胸の頂を、鳥が木ノ実を啄(ついば)むように刺激されて、小夜啼鳥(ナイチンゲール)のように啼いたのはあたしの方だ。<br /> 有さんはあっという間にシャツをたくし上げて、それであたしの両手を拘束してしまう。両手首に絡まった有さんのシャツが皺になってしまうのが気がかりで、あたしはそれを腕から抜こうとした、だけなのに。<br />「こら、抵抗しない」<br />「だって、シャツが皺になっちゃう」<br />「シャツの1枚や2枚、破けたってかまわない」<br /> そう言うと有さんはシャツではなく、あたしの薄いパンティをびりりと破いた。<br />「あ…」<br />「大丈夫だ、俺好みのエロ可愛いやつを何枚だって買ってやる」<br /> あたしの秘処を覆っていたパンティの小さな布が、あっさりと取り去られる。<br />「そうだな、抵抗されるのもたまにはいいかもしれない。菜乃…これから、お前を犯すよ。男の剥き出しの本能がどれだけものか、わからせてやる」<br /> ぞくりとするようなセリフを吐いて、有さんはいきなり激しくあたしに覆いかぶさった。<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-04-04 (Sat)
  • Category : アイス
466

➃料理上手な彼

 エプロン姿の有さんが、なんだか新鮮で見ているこっちの方が照れてしまうのは何故だろう。 ワンショルダーの胸当て付きなんてカッコいいエプロン、初めて見た。有さんは、本当にさり気なくこだわりがある大人なんだなぁ、と思う。こんなお洒落で素敵な人が、どうしてあたしなんかとつきあってるんだろう?考えれば考えるほど不思議で、自信がなくなってしまう。「…? 菜乃果?」「え?」 考え事をしていて、有さんの言葉を拾...  <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">エプロン姿の有さんが、なんだか新鮮で見ているこっちの方が照れてしまうのは何故だろう。<br /> ワンショルダーの胸当て付きなんてカッコいいエプロン、初めて見た。有さんは、本当にさり気なくこだわりがある大人なんだなぁ、と思う。こんなお洒落で素敵な人が、どうしてあたしなんかとつきあってるんだろう?考えれば考えるほど不思議で、自信がなくなってしまう。<br />「…? 菜乃果?」<br />「え?」<br /> 考え事をしていて、有さんの言葉を拾い損ねてしまう。<br />「ドレッシングは何がいい?」<br />「…えっと」<br />「シンプルにフレンチ、わさび風味の和風、ごま風味」<br />「わさび風味の和風…でも生ハムに合う?」<br />「合うよ、たぶん」<br /> 有さんはそう言うと、小さめのボウルにオリーブオイルと日本酒、わさび、お砂糖、レモン汁なんかを目分量で加えて小さな泡だて器のようなもので攪拌していく。え、手づくり?凄い…。<br /> そのボウルの中身を大好きな長い綺麗な指で梳くって、あたしの口元に持ってくる。<br /><br />「舐めて」<br /> その言い方が、なんだかさっきまでの行為を思い出させて恥ずかしい。<br />「ん?なに、顔を赤くしてるんだ。いま、なに考えた、菜乃果?」<br />「な、なんにも」<br /> 慌てて目の前の指を、ぱく、と咥えた。<br /> 有さんの指があたしの口内でゆっくり遊んでから出て行った。そのエロティツクな刺激にどきどきして、味なんかわかんない。<br />「どう?」<br />「え、と。おいしい、と思う」<br /> そんなあたしに有さんは、ふ、と笑うと今度はあたしの指をボウルに入れてドレッシングを掬うと、自分の口に持っていった。<br /> ゆっくりと舐めてからあたしの指を、口から抜く。そしてその指をちょっと眺めると言った。<br />「いかにも料理はしないって指だ」<br /> そう、今日のあたしのネイルは2色を使ったフレンチでストーンとパールをあしらったお気に入りのスタイル。久しぶりに有さんに会うから気合を入れて可愛くしたんだけど、まさか一緒に料理をつくることになるとは思わなかった。まあ、あたしはお手伝い程度だけど。<br />「でも菜乃果らしくて、可愛いよ」<br /> 余裕でそう言う有さんに、拗ねてしまう。<br />「っど、どうせ…」<br />「うん、わさびはもう少し効かせたほうがいいな。えーと、それじゃあ、菜乃果にもできること頼もうかな。フランスパン、これくらいの幅で切ってくれる?あ、可愛い指切るなよ」<br /> も、もうっ。<br /><br /> 完全にむくれながら、それでも言われた通りにフランスパンを切る。有さんがそれにバターを塗って、アルミホイルの上に並べていく。<br /> それをオーブンレンジに入れてから、レタスとベビーリーフを洗っている。<br />「それ、なぁに?」<br /> 有さんが引き出しから出した見慣れないものに、思わずそう訊ねる。<br />「これか?野菜の水切り器だ」<br />「へぇ」<br />「菜乃果の家にはなかったか?」<br /> なかった。有さんの家にはあったんだ。<br />そもそも生ハムのサラダなんか、ウチでは出てきたことがない。だいたいポテトサラダかマカロニサラダ、ほうれん草の胡麻和えとか、おひたし系が多かったなぁ。<br />氷川家とウチとじゃ、なんか家庭環境も上流階級とド庶民って感じ?<br />「ドレッシングはかけないの?」<br />「食べる直前にかけたほうが、おいしいんだ」<br /> ふ~ん、いろいろ勉強になります。と同時に自分のダメさ加減が嫌になる、とほほ。<br /><br /> オーブンレンジからパンとバターが温まったいい匂いがしてきて、ビーフシチューもいい感じに湯気を立てはじめている。<br /> 有さんは、オーブンレンジから出したフランスパンに、ニンニクの断面を擦りつける。あたしも手伝おうと手を出すと、熱いからと遮られた。<br /> そのかわりにベビーリーフとレタスときゅうりをボウルで混ぜて、ドレッシングで和えるように言われる。<br /> しゃかしゃかしゃかしゃか、ボウルの中で野菜たちが踊っているのが楽しい。それから大きなお皿にこんもり野菜を持って、その上に生ハムを、まわりにトマトを飾った。<br /> 有さんは、籐の籠に紙ナプキンを敷いて、ガーリックトーストを盛りつける。それから深めのシチュー皿にビーフシチューをよそって、生クリームを垂らした。<br /> うわぁ、お店みたいに出来上がった。嬉しい、おいしそう。<br /><br />「いっただきまぁ~す!」<br /> 両手を合わせ元気にそう言って、ビーフシチューをスプーンで掬った。<br />「お、おいしい。これ、ホントに市販のルー?」<br />「ああ、隠し味に赤ワインと味噌、トマトピューレを使った」<br /> へー、なんかいちいち、恐れ入りました状態だな。お、お肉が柔らかくておいしい、高いな、これ絶対。<br /> かりりと音を立てて、ガーリックトーストを齧る。<br />「ニンニク、強すぎなかったか?」<br /> 頭をぶんぶん振って、ガーリックトーストを口いっぱいに頬張りながら、おいしいことを伝えた。<br /> 生ハムのサラダも、わさびがもの凄くいいアクセントになっていて、和風と言うよりはちょっと無国籍な爽やかさだ。<br /><br />「有さんは独りでも、いつもこうしてお料理してるの?」<br /> いつもコンビニが御用達のあたしは、情けなさに眉毛を下げながら訊いた。<br />「休みの日だけだ。平日は仕事で残業が多いから、外食とかコンビニばかりだろ?栄養バランスは大事だって、母親に小さいときから言われてきたから」<br /> ふ~ん、そう言えば氷川家のお母さんも料理上手だものね。<br />「有さんの料理上手は、お母さん似なの?」<br /> なんの含みもない質問だったのに、なぜか有さんの顔が曇った気がした。あれ、どうしたの?あたし何か、マズイこと訊いた?<br />「…どうかな?」<br /> 有さんはめずらしく言い淀んで、でもすぐに笑顔になって言った。<br />「菜乃果は、いつもどうなんだ?」<br />「ご飯?」<br />「ああ」<br />「…学食とコンビニのお世話になってます」<br /> 仕方ないので正直に答えた。だって、このネイルでもうバレバレだから。<br />「全然、つくらないの?」<br />「だって。…独りだと無駄になるから…」<br /> 本当だけど、言い訳っぽくて、俯く。<br />「じゃあ、これからふたりのときは、一緒につくろう」<br />「ホント!?」<br /> 嬉しい。憧れだったんだ、好きな人と一緒にキッチンに立つの。<br />「大丈夫かな、あたし」<br />「大丈夫、俺がちゃんと教える」<br /> その言葉に、あたしは爪を短く切ってネイルはやめることを密かに誓った。<br /><br />「ところで、春休みの予定は?」<br /> そう、大学に入って初めての春休み。一番のイベントは、ダンスサークルの合宿だ。だからその費用のために、またアルバイトが必要。<br /> 実は春休み後も継続できそうなバイトとして、カフェベーカリーでの早朝スタッフというのを見つけていた。早起きは辛いけど、火・木以外の平日はダンスサークルの活動があるし、週末は有さんに逢いたい。<br /> カフェベーカリーでのバイト以外に、外国人観光客が多いエリアのショップスタッフというのも見つけた。本当は知花ちゃんとふたりで申し込みたかったのに、知花ちゃんは近藤君の紹介で、一緒にキッズ英会話スクールのスタッフをやるのだそうだ。近藤君、攻めてるなぁ。応援してるよ、がんばって。<br />「接客しながら、英会話もスキルアップするかもしれないでしょ?」<br />「そんなに、いろいろバイトしないといけないのか?」<br /> 有さんが、ちょっと厳しい顔をして訊く。<br /> だってウチ、庶民だし。自分で出来るところは、自分でなんとかしたい。<br />「うん。春休みはダンスサークルの合宿があるし。それに3年になったら海外語学研修にも行きたいから、お金を貯めておきたいの」<br />「ダンスサークルの合宿?男子もいるのか?」<br /> 有さんの眉が吊り上がって、怖い眼になる。<br />「ううん。女子だけのサークルだから」<br />「学祭では男子も踊ってただろう」<br />「あ、あれは違うチームの男子。うちのサークルは女子だけだもん」<br /> そう言い切ったあたしは、そのときすっかり忘れていた。うちのダンスサークルに、サークル内のどの女子よりも女子力が高い、踊れない衣装係のメンバーがいたことを。<br /> 早乙女君は、中身はどうあれ生物学的には男子だったのだ…。<br /><br />「そうか」<br /> 有さんは納得したように言うと、書斎に消えた。そして戻ってきたときは、白い封筒を手にしていた。<br />「これ…」<br />「うん、菜乃果が弁償すると言って渡してくれたお金だ。そっくりそのまま入っている」<br /> 封筒をテーブルにおいて、あたしのほうに差し出す有さんの手を止めた。<br />「ダメだよ、これは。ケジメだから」<br />「ケジメ?」<br />「うん」<br /> 受け取れない。あたしが壊しちゃった眼鏡の代金、こうなったからってうやむやにするのは良くない。<br />「変なところ、真面目なんだな。菜乃果は」<br /> 有さんがそう言って、今度は封筒をあたしの手の中に押し込んだ。<br />「まだ二十歳にもならない女の子に、こんな大金払わせるのは大人の男じゃない。俺の面子のために、受け取ってくれ」<br />「…有さん」<br /> そんな風に言われたら、何も言えなくなってしまう。<br /> その言葉をそのとき、あたしは有さんの優しさだと信じて疑わなかった。<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-04-03 (Fri)
  • Category : アイス
465

③たくさん、たくさん

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  • Date : 2015-04-02 (Thu)
  • Category : アイス
464

➁イヤらしい顔を見せて

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  • Date : 2015-04-01 (Wed)
  • Category : アイス
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