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【R18限定記事について】
男のひと目線の描写じゃなく、女子目線でホントのところを描きたいでつ お読みいただくには、パスワードを入力いただくか下記URLからどうぞ 「小説家になろう」グループ内 R18女性向小説サイト「ムーンライトノベルズ」 灯凪田テイルのXマイページへ移動します。 http://xmypage.syosetu.com/x1507h/
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①調教されてる?

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  • Date : 2015-03-31 (Tue)
  • Category : アイス
462

㉗ロストヴァージンのその後で

 ホテルの外へ出たら、空と雲がオレンジ色の美しいグラデーションに染まっていた。 まだ明るいうちから有さんと裸で抱き合っていたことが、いまさらながら恥ずかしい。「送るよ」 という有さんに、家の一本前の道まで送ってもらった。「もし、家族に見られたら何て言っていいかわからないから」「そうしたら、ちゃんと挨拶するよ。それにもう暗くなったから、家に入るところをちゃんと見届けたい」 そう言って家の前まで送ろう... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> ホテルの外へ出たら、空と雲がオレンジ色の美しいグラデーションに染まっていた。<br /> まだ明るいうちから有さんと裸で抱き合っていたことが、いまさらながら恥ずかしい。<br />「送るよ」<br /> という有さんに、家の一本前の道まで送ってもらった。<br />「もし、家族に見られたら何て言っていいかわからないから」<br />「そうしたら、ちゃんと挨拶するよ。それにもう暗くなったから、家に入るところをちゃんと見届けたい」<br /> そう言って家の前まで送ろうとする有さんに、ちょっと頑固に遠慮した。有さんは笑いながら、わかったと言ってやっと帰ってくれた。<br /><br /> 深呼吸してから、意を決して玄関を開ける。<br />「あら、お帰りなさい。遅かったわね、迷子になったんじゃないかって心配したわ」<br /> 母の明るい声が、キッチンから聞えた。<br /> 振り向いた母の顔を、なんだかまともに見られない。<br />「? 菜乃果、手を洗って夕飯の支度手伝って?」<br /> 母と、いや父とも、いつものように夕飯の食卓を囲める気が全然しない。<br />「お母さん…」<br />「どうしたの?」<br />「ちょっと、怠いの。食欲もないし、寝ていい?」<br /> 母が驚いたような顔をして近づいてきて、おでこに手を当てた。<br />「やだ、寒い中にずっといて、風邪でも引いたんじゃないの?ん…熱は、ないみたいだけど。でも大事を取って寝なさい。後でホットミルク持ってってあげる」<br /> ごめんなさい、お母さん。<br /> 心の中でそう母に謝って、あたしは自分の部屋へ行った。パジャマに着替えてベッドに潜り込む。<br /> さっきまでホテルで有さんとベッドにいたことが、なんだか嘘みたいだ。でもそれは現実だと、躰にいまも残る痛みが教えてくれる。<br /> もう、あたしヴァージンじゃなくなったんだ。そう思ったら、つぅーと涙が頬を伝った。これは何の涙?<br />「菜乃果」<br /> ドアが開く音がして、あたしは慌てて布団に顔を埋めて涙を拭った。<br />「はい、体温計。一応熱、計っときなさい」<br /> 母が差し出す体温計を受け取って口に咥えた。<br /> あたしの様子がいつもと違うことを、母は体調が優れないせいだと思っている。ごめんなさい、お母さん。<br /> ピ、となった体温計を母が取る。<br />「う~ん、37度丁度か。これから熱が上がると困るから、薬飲んどきなさい」<br /> そう言って、母はホットミルクとともに風邪薬を差し出す。あったかいミルクをふぅふぅしながら飲んで、風邪薬も流し込んだ。<br />「ゆっくりお休みなさい」<br /> 母が優しく微笑んで、部屋を出て行った。<br /><br /> ごめんなさい、お母さん。<br /> それは嘘をついたことへの「ごめんなさい」なのか、もうヴァージンでなくなったことへの娘としての気持ちなのか、自分でもわからない。<br /> いや、きっと両方だ。<br /> ヴァージンでなくなった事実が、いまさらながらじわじわと心に重く沁みてくる。<br />お腹の奥には、有さんの分身が出て行ってからも痛みとは別の存在感が不思議なくらい残存していて、まだそこにいるみたいだ。躰の空洞感が、心の隙間に言いようのない感情を注ぎ込んでくるみたいで身震いした。<br />&#160;後悔なんかしていない。有さんの肌はとても気持ちよくて、抱きしめられているだけで確かに幸せだと感じた。初めて知った快感も、その後の激痛も、ちゃんと覚えておきたいと思う。<br /> でも、でもやっぱり涙が出る。<br /> 女の子にとって、初体験はやっぱりとても重大事件。<br /> 何度も布団の中で寝返りを打って、その夜なかなか眠れないままに、あたしは有さんの大好きなキスを思い出していた。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> それから2日後に、東京へ戻った。<br /> 駅のホームでは、有さんが待っていてくれた。その顔を恥ずかしくて、まともに見られない。何て言っていいかもわからない。<br />「お帰り」<br /> それなのに有さんはなんの動揺もない声でそう言って、あたしのキャリーケースに手を伸ばす。<br />「かして」<br />「だいじょぶ、です」<br /> 小さな声でそう答えたけれど、意に介さず有さんの手にあたしのキャリーケースは移った。<br />「家へ」<br /> そう促されてやっとあたしは、今日の有さんが会話が短いことに気づいた。もしかして、有さんも照れてる?それなら…。<br /> JRから地下鉄に乗り継ぐ間中、あたしたちは無言だった。日曜の午後の電車は、いろんな年代の恋人たちがいて、その中で少なくともあたしは恋愛ほやほやの初心者だ。<br />&#160;甘い視線の会話も、自然に指を絡めるラブラブな雰囲気も、声を潜めて笑い合う親密さもない。ぎこちなく緊張したまま流れる窓の景色を見ていたら、ふいに有さんが高い背を屈めて耳元で囁いた。<br />「何を考えてる?」<br /> はっと見上げた有さんの眼が、優しいけど少し不安気だ。<br />「…何も」<br /> ううん、それは嘘。もう隣に入る有さんのことで頭がいっぱいなんだ。あの夜のこと、これからのこと、大人な有さんと釣り合うか自信が全然持てない子供の自分、余裕がないくらいにあたしの心の中で大きくなってしまった愛しい存在。<br /> <br /> 有さんのマンションは都内の15階建ての7階、入口がオートロック式でまだ新しい。ぴぴぴと暗証番号を押して、有さんが部屋の中へ招き入れてくれた。<br /> 白い壁とベージュのドアやフローリングが、ナチュラルで心地いい2LDK。大きな窓と観葉植物が印象的で、あたしの部屋とは違った意味でシンプルだ。そしてセンスが良くて、大人のオトコの人の部屋っていう雰囲気。<br /> 広めのリビングにぼぉ~っと突っ立ったままでいたら、後ろから突然抱きしめられた。<br />「よかった…」<br /> よかった?<br />「菜乃果が、ちゃんと俺の部屋へ来てくれた」<br /> どういうこと?<br />「あれから心配だった。菜乃果が…」<br /> あたしが?<br />「…後悔していたらって」<br /> 驚いて振り向いた。有さんが抱きしめていた腕を緩めて、今度はあたしの背中を優しく抱く。<br /> 電車の中で見たあの不安気な眼の意味って…もしかして。<br />「後悔なんかしてない。どうして、そんなこと言うの?」<br /> ふ、と安心したように有さんは眼を優しく細めた。<br /> 導かれるままに、白い革張りのソファに有さんと座る。長い手足に包み込まれるように抱かれて、子猫の気分になる。<br />「一回り以上も年が違うんだ。菜乃果から見たら、俺はおじさんなんだろうなって思ってる。まだ二十歳にもなっていない女子大生と…つい、心配になった」<br /> おじさんじゃない、有さんは素敵な大人のオトコのひと。<br />「あたしも心配だった。有さんから見たら、子供に見えるんだろうなって。有さんの周りには、きっと素敵な大人のオンナのひとがいっぱいいるんだろうなって」<br /> 有さんはその胸にあたしをいっそう深く抱き留めて、頭に顎を乗せた。<br />「俺の世界にはもう、菜乃果しかいない。いや、菜乃果しか眼に映らないんだ」<br />「ほんと?」<br /> 有さんが、優しいキスを落とす。何度も何度も、いろんなところに、楽しそうに。そしてソファに押し倒されて、上から抱きしめられる。<br />「あ、あの、あのね」<br />「?」<br />「今日は…まだ」<br /> そう言って有さんの眼を見たら、恥ずかしくて顔が上気する。<br />「…まだ、痛いの」<br />「わかった。今日はいっぱいキスして、こうしていよう」<br /> 有さんの心地よい重みに酔いながら、いっぱいいっぱいキスをし合う。<br /> ねぇ、有さん。もうあたしの眼にも、有さんしか映らなくなったみたい。</span></span><br /><br /><br /><span style="color:#00CC99">第1章は、これで終わりです。<br />第2章は、開始早々R18続きマス(●´ω`●)</span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-03-30 (Mon)
  • Category : アイス
461

㉖午後の陽射しの中で

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  • Date : 2015-03-29 (Sun)
  • Category : アイス
460

㉕媚薬と悪魔

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  • Date : 2015-03-28 (Sat)
  • Category : アイス
459

㉔ステーションホテル

 冬休みになった。 転勤族の父と母が現在住む地方都市は東京から新幹線で1時間ちょっと、今年はそこで初めてのお正月だ。1度訪れただけであまり馴染みのないその街へ、あたしは降り立った。 過ごす場所や家は変わっても、両親と過ごすお正月は変わらない温かさだ。留学中の兄は、航空運賃の割高な年末年始は帰ってこない。そもそも毎年帰ってこられないから、母は少し淋しそうだ。 父と一緒にイキのいいお刺身が手に入るという...  <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">冬休みになった。<br /> 転勤族の父と母が現在住む地方都市は東京から新幹線で1時間ちょっと、今年はそこで初めてのお正月だ。1度訪れただけであまり馴染みのないその街へ、あたしは降り立った。<br /> 過ごす場所や家は変わっても、両親と過ごすお正月は変わらない温かさだ。留学中の兄は、航空運賃の割高な年末年始は帰ってこない。そもそも毎年帰ってこられないから、母は少し淋しそうだ。<br /> 父と一緒にイキのいいお刺身が手に入るという評判の魚屋へ買い出しに行き、母と一緒におせちをつくった。<br /> この街には友達もいないから、誰かと初詣に行く予定もなくて、あたしは両親と家でのんびりゆっくり過ごした。<br /> <br /> 3日の昼過ぎ、メールが届いた。<br /> 表示された送り主の名前を見て、あたしは驚いた。<br />〈氷川 有〉…。<br />なんで?登録した覚えがない。<br />しばらく考えて、はたと思い当った。惺だ、惺に違いない。だってそれしか可能性は考えられない。メアド変えたからなんて、嘘ついたな。<br />〈逢えないか?〉<br /> 明けましておめでとうも何もなく、なんて単刀直入。らしいと言えば、らしい気もするけど。<br />〈いま、東京じゃないんです〉<br />〈知ってる。いま駅前のMTステーションホテルにいる〉<br /> え、なんで?ここまで来たってこと?わざわざ?この街にいることも、惺に訊いたの?<br />〈行きません〉<br />〈来るまでラウンジで待っている〉<br /> だから、強引なんだってば。わざわざ来たからって、行くわけないでしょ。約束もしてないし、そもそも来てなんて頼んでないし。<br />〈行きませんから。待たないでください〉<br />〈それでも、ずっと待っている〉<br /> じゃ、待っていればいいんだ。行かないから、絶対!ほんと絶対、行かないんだから。<br /><br />「お母さん、ちょっと買い物に行ってくる」<br />「そう?ここじゃ友達もいなくて、退屈だものね。行ってらっしゃい、あまり遅くならないのよ」<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 悔しい、来てしまった。<br /> だって、人を待ちぼうけさせて平気でいられるほど、肝が据わっていない。どっちかっていうと、小心者だ。それも、かなり…。<br /><br /> MTステーションホテルは、駅に隣接する中ランクのビジネスホテルだ。まだお正月ということで華やかな装いの人が多いラウンジに、あたしはアイスの姿を見つけた。<br /> 長い脚を組んでいるその人がいるテーブルへ、戸惑いつつも近づく。横に立ったあたしの気配に、アイスが顔を上げた。<br />「やぁ」<br /> 少しも驚いた様子がないのが癪に障る。まるで来ることを、確信してたみたいだ。<br />「突っ立ってないで座れば?」<br />「ご用件は?」<br /> 突っ立ったままぶっきら棒に言う失礼なあたしを気にするでもなく、アイスはまた言った。<br />「座ってから、話すよ」<br /> しょうがないから、渋々あたしはアイスの眼の前に座る。<br /> ウエイターさんが恭しく、オーダーを取りに来た。アイスがコーヒーを飲んでいるのをちら、と見てから注文する。<br />「ミルクティをお願いします」<br /> ふ、とアイスが笑う。そして思い出したように言った。<br />「そうだ、明けましておめでとう」<br />「おめでとうございます」<br /> 条件反射でそう答えたけど。そうじゃないでしょ。<br /> 話しって何?なんでここにいるの? 訊きたいことはあるけど、自分から話を切り出すと負けな気がして、あたしは無言のまま所在無くお水を飲む。<br /> そうしている間に、頼んだミルクティが運ばれてきた。<br /><br /> 唐突に、アイスが言った。<br />「大学、辞めたから」<br /> え?<br />「正確に言うと、来年度からもうキミの大学の非常勤講師ではなくなる」<br /> え、え? <br />「今日は、それを伝えに来た」<br /> なんで?なんで? 何を言ってるの?<br /> すぐには理解できなかった、アイスの言っている言葉が。<br /> 辞めたって大学を? どうして?<br />「だから、もう俺とキミは、先生と生徒じゃない」<br /> アイスはそう言うと、あたしを真っ直ぐに射抜くように見つめてきた。<br /> あり得ない、普通そんなバカな選択、大人はしないよ。だって仕事だよ?本職があるとはいえ、社会的な責任だって…そんな簡単に放棄できるものではないことぐらい、大学生のあたしにだってわかる。<br />「嘘…」<br />「わざわざ嘘をつくために、年明け早々、ここまで来たりはしない」<br /> じゃあ、ホントなの?<br /> 先生と生徒じゃなくなるために、大学を、オトコの人にとったらきっと大事な仕事を辞めたって言うの?<br />「なっ、なんでっ!」<br /> アイスの考えが全然理解できなくて、思わず悲鳴のような声を上げてしまったあたしを、周りにいる何人かが不審気に見ているのを感じた。<br />「あ、あたしっ…そんなことっ…頼んでなんか」<br /> 華やかなラウンジに集う人々の視線を感じて、あたしの混乱に拍車がかかる。<br />「落ち着いて」<br /> アイスが静かにそう言って、ミルクティのカップ&ソーサーをあたしの方へ少し押す。<br /> だけど、落ち着くことなんてできなくて。あたしは涙目になって首を振りながら、自分を両腕で抱きしめた。<br /> わかってる、わかってる、ますます怪訝に思われる変な態度だってこと。でも、でも…。<br /> そんな様子を見かねたように、アイスが言った。<br />「場所を変えよう」<br /> <br /> アイスに抱えられるようにして、エレベーターに乗った。14階で降りて、長い廊下を呆然としながら歩く。<br /> 4016と書かれた部屋のキーを、アイスはカードをかざしてカチャリと開けた。<br />「入って」<br /> 言われるままに、部屋の中に入る。<br /> ちゃんと訊かなきゃ、ちゃんと整理して話さなきゃ。<br />「座って」<br /> アイスが一つある独り用ソファに、あたしを座らせた。そして自分は、ベッドに腰掛けた。<br />「悪かった」<br /> 何が?<br />「驚かせたみたいで」<br /> 驚くよ、だって。まるで、まるで、仕事辞めたのがあたしのせいみたい。あたし、そんなこと頼んでないのにっ。<br />「あたし…そんなつもりで言ったんじゃ…」<br />「わかってる。俺の独断だ、キミにはなんの関係ない」<br />「でも…」<br /> あたしが不用意に言ってしまったからだ…。きっと、あたしのせい。<br />「だけど、これだけは事実だ。もうすぐ、俺とキミは、先生と生徒じゃなくなる」<br /> 先生と生徒でなくなったら…。<br />あのときあたしが必死でつくった防波堤を、アイスが目の前であっさり壊してみせたのがわかった。<br /><br />「だから、沢口菜乃果さん。もう一度、キミの答えを訊きに来た」<br /> 唖然としたまま、ベッドから立ち上がるアイスを見ていた。スローモーションのような動きを、どこか現実的じゃないみたいに感じながら。<br /> アイスが、独り用ソファに腰掛けているあたしの前で跪(ひざまず)いた。<br />「キミが俺のものになってくれる可能性があるのなら、大学を辞めることくらいなんでもない」<br /> 狡い、このひとは狡猾な大人だ。そんな風に言って、後ろめたい気持ちにさせようとしている。だから、騙されちゃダメ。必死に心の中でそう抗(あらが)った。<br /> でもそんな経験値の少ない足掻きは、いとも簡単に封じ込められてしまった。<br /> アイスはあたしの頭を優しく撫でると、ゆっくりと2度目のキスをした。</span></span><br /><br /><br /><span style="color:#00CC99">昨日の後書きで、紛らわしいこと書いてしまったみたいで<br />第1章が終わりだと思った方、ゴメンナサイ(*´ω`*)<br />も少し、続きます。。。<br />あ、あと明日の更新は〈R18限定記事〉になります。<br />閲覧の方は、このblog左側の『R18限定記事について』<br />をお読みくださいねん(´▽`*)<br /></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2015-03-27 (Fri)
  • Category : アイス
458

㉓これでいいんだ

 日常が戻って来た。大学生としての、当たり前の日常。 あたしの周りにいるのは、賑やかなダンスサークルの先輩や仲間、知花ちゃんや早乙女君、近藤君をはじめとしたクラスメート。 何でもないことに笑い転げ、ふざけ合ったりからかい合ったり、同年代の恋を応援したり、きっと過ぎてしまえばいい思い出になることに真剣に悩んだり、学んだりサボったり、授業中居眠りしたり、授業に遅れそうになったり…。そう、あのときのよう... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> 日常が戻って来た。大学生としての、当たり前の日常。<br /> あたしの周りにいるのは、賑やかなダンスサークルの先輩や仲間、知花ちゃんや早乙女君、近藤君をはじめとしたクラスメート。<br /> 何でもないことに笑い転げ、ふざけ合ったりからかい合ったり、同年代の恋を応援したり、きっと過ぎてしまえばいい思い出になることに真剣に悩んだり、学んだりサボったり、授業中居眠りしたり、授業に遅れそうになったり…。そう、あのときのように…。<br /><br /> 大人の街でのアルバイトは、期間限定のちょっとした背伸び。垣間見た大人の世界とオトコの人は、もう2度と通ることのない交差点。<br /> あたしの世界と、アイスの生きる世界は交わらない。だから、さよならって言った。ちゃんと言えた。言えたはずなのに、唇が寒い。だって冷たいはずアイスの唇は、とても熱かったから。思い出しても仕方ないことなのに。忘れてしまいたいのに。<br /><br /> それでも、季(とき)はちゃんと過ぎて行って。ちゃんとちゃんと、規則正しく、時間と季節が移ろっていく。<br /><br /> 23日は、近藤君の家の近くにあるという教会へ行った。<br /> 神父さんは、60代くらいのイギリス人だった。知花ちゃんと早乙女君とあたしに、とてもゆっくりとした英語で話しかけてくれた。近藤君と話すときはナチュラルスピードで、本当に彼は英語が上手いんだなぁと改めて思った。<br /> 傍らの知花ちゃんを見ると、ちょっと見直した的な視線を送っていて、近藤君はこの姿を知花ちゃんに見せたかったのかなぁなんて思った。<br /> 早乙女君は、星型のクッキーをたくさん焼いてきていて、お母さんたちに喜ばれていた。子供たちにはフェルトでつくった動物や天使なんかの人形が大好評で、奪い合うようにお気に入りを手にしていた。<br />「はい、これ。沢口さんに」<br /> 早乙女君は、そう言って丸くなって眠るフェルトの猫をくれた。<br />「あたしに?ありがとう!」<br />「近藤君には、これ」<br />「え…馬?」<br /> ちょっと面食らった近藤君を見て、知花ちゃんとあたしは笑った。<br /> そう言えば、近藤君はいい意味で男らしい馬づらだ。<br />「ねぇ、乙女。あたしには?」<br /> そう催促する知花ちゃんに、早乙女君は近藤君より一回り小さな馬を渡す。<br />「え…これ?」<br /> 怪訝そうにする知花ちゃんに、早乙女君は言った。<br />「うん、ポニー。元気な長倉さんにぴったりでしょ?」<br /> 耳の所に可愛いお花をあしらったポニーを、早乙女君は近藤君の馬と並べて見せる。<br />「ほら、お似合い」<br /> その瞬間、近藤君が顔を真っ赤にしてめっちゃ嬉しそうな表情になった。知花ちゃんはムッとした表情で、早乙女君の手からポニーを奪い取る。<br /> あれ?知花ちゃん、照れてる?なんだか、耳が赤いよ?<br /><br /> 24日のイヴは、ダンスサークルの彼氏いない女子たちで『踊るdeショー&パーティー』。知花ちゃんもいる。近藤君、来年こそ頑張れ。<br /> もちろん早乙女君も。うん、女子だからね。<br /> こんな風に、こんな風に、日常が過ぎていく。これでいいんだ、これで。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />〈今日の夜、ヒマ?〉<br /> 惺からメールが来た。<br /> 惺の母さんがつくったクリスマスのご馳走を、持ってきてくれるらしい。知花ちゃんは、25日の今日は家族でクリスマスだ。だから惺と早乙女君とあたしの3人で、あたしん家で食べることになった。<br /> ちょっと嬉しかった。だって、これで淋しくないもん。<br /><br /> 惺とは、あたしのワンルームマンションがある最寄り駅で待ち合わせた。<br />「おお、菜っ葉ぁ~、乙女~!」<br /> 惺がクリスマスツリーみたいな派手な格好で、両手に凄い荷物を持ってやってきた。<br />「重かったでしょ、氷川君」<br /> 甲斐甲斐しく、惺の荷物を持つ早乙女君。<br />「また、ずいぶん持って来たねぇ」<br />「うん、お母さんがあれもこれも持ってけって言うからさ」<br /> あたしも荷物の一つを持ちながら、惺に訊く。<br />「イヴはデートだった?」<br /> 早乙女君が、ちら、と惺の表情を窺う。あ、ごめん。愚問だったね、早乙女君。<br />「大学の仲いいやつらで集まってパーティー」<br />「ふうん」<br /> ビミョーな答えだな、さすがIQ140超え。<br />「菜っ葉たちは踊って騒いだんだろ?」<br />「うん」<br /> ま、早乙女君情報だね。<br />「今日は、家族でお祝いしなくていいの?」<br />「家族で?」<br /> 惺が、あたしの言葉を拾う。そんな意味じゃないよ、アイスのこととか気にしてないよ。<br />「ま、もう子供じゃないからね」<br />「まだ、大人でもないじゃん」<br /> あたしたちの成人式は、来年だ。<br />「ぼ、僕ん家は、クリスマスとかいつもバラバラ。お姉ちゃんは友達と遊びに行くし」<br /> 早乙女君がフォローのつもりだろうか、フォローになってないことを言う。<br /><br /> そんなこんなで、ワンルームマンションに着いた。<br />「おぉ、これが菜っ葉の部屋かぁ」<br /> 小さなキッチンとユニットバス、あとはワンルームにベッドと机しかない狭い部屋だ。<br />「狭くてごめん」<br />「なんか、シンプルな部屋だな。もっとぬいぐるみとかあるのかと思った」<br /> 惺がきょろきょろ見回すから、なんだか恥ずかしい。<br />「あんま、見ないでよ。狭いから、なるべく物は置かない主義なの」<br /> それでも折り畳み式のテーブルをベッド下から出して、早乙女君には机の前の椅子を勧める。惺とあたしは、ベッドに腰掛ければいいよね?<br /> 途中コンビニで買ってきた飲み物を出し、コップとお皿を持ってくる。戻ってくると、早乙女君がもう惺のお母さんのご馳走をテーブルと机に並べていた。<br />「うっわぁ~!相変わらず、豪華ぁ~」<br /> 思わず歓声を上げる。<br />「なぁ、菜っ葉。お前、痩せた?」<br /> 惺が鋭いことを言う。食欲がなくなった2週間ほどで、2キロ痩せた。<br />「おいしそうだよ、沢口さん。氷川君も、食べよ」<br /> 早乙女君が、にっこり笑う。<br />「おぅっ!菜っ葉もいっぱい食えよ」<br /> 3人で他愛もないことを話しながら、惺のお母さんがつくってくれたご馳走を食べた。<br /> アイスは、今日も仕事だろうか。そう思ったら、せっかくのご馳走の味がわからなくなった。だからあたしは、夢中で食べた。おいしい、おいしいを繰り返しながら。<br /> 飲み物を追加しようとキッチンに立ったあたしに、惺が言った。<br />「菜っ葉、お前のスマホ、どこ?」<br />「ん?そこのカバンの中」<br />「出していい?俺、メアド変えたんだ」<br />「そ?いいよ」<br /> 飲み物を持って戻ると、惺があたしのスマホをまたカバンの中に戻していた。<br /><br />「じゃな。菜っ葉、おやすみ」<br /> 2時間ほど、楽しく飲んで食べて、惺と早乙女君は帰っていった。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「氷川君、沢口さんのスマホに登録してたの、誰のアドレス?」<br />「ん?俺のだけど?」<br />「氷川君のアドレス、変わってないでしょ?」<br />「あはは、バレた?」<br />「それって…」<br />「ま、どうなるか、先のことはわかんないけどな」<br />「いいの?だって氷川君、高校のときから沢口さんのこと…」<br /><br />「…なぁ、乙女」<br />「?」<br />「俺と菜っ葉は、姉弟だ。これまでも、これからも」<br />「そんな、わかんないでしょ?」<br />「わかるんだよ。菜っ葉の中に、俺が異性だって認識がないことぐらい」<br />「……」<br />「それにさ、恋愛は終わることもあるけど、友情は終わらせないことができるだろ?」<br />「……」<br />「菜っ葉も、乙女も、永遠に俺の大事な友達だってことだよ」<br />「氷川君…」<br />「たとえ菜っ葉に好きな人ができたとしても、乙女に彼氏ができたとしても、俺たちの友情は永遠に変わらない。それじゃ、ダメか?乙女」<br />「…ひ、氷川君」<br />「バカ…泣くなよ」</span></span><br /><br /><br /><span style="color:#00CC99">第1章がこんなに長くなるとは、<br />自分でも思いませんでした(*´Д`)<br /><br />ちょっと息切れしていますが、がむばりまっす!<br />R18まで、あともう少し…(*´ω`*)</span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-03-26 (Thu)
  • Category : アイス
457

㉒雨の夜の答え

 俺のものになりなさい。 そんな強引で俺様な言葉を放っておいて、あの夜、アイスはおでこに軽く唇を寄せただけだった。あたしの唇は欲しい感触を掴み損ねて、淋しさと寒さに震えた。 そしてアイスはこうつけ加えて、帰って行った。「どういう意味かわかるね?返事は来週、訊くよ」 子供のあたしにだってわかる。恋愛初心者のあたしにだって、それがどういうことか。 つまり、つきあうってことだよね? まさか、躰を求められ...  <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">俺のものになりなさい。<br /> そんな強引で俺様な言葉を放っておいて、あの夜、アイスはおでこに軽く唇を寄せただけだった。あたしの唇は欲しい感触を掴み損ねて、淋しさと寒さに震えた。<br /> そしてアイスはこうつけ加えて、帰って行った。<br />「どういう意味かわかるね?返事は来週、訊くよ」<br /><br /> 子供のあたしにだってわかる。恋愛初心者のあたしにだって、それがどういうことか。<br /> つまり、つきあうってことだよね? まさか、躰を求められただけとか愛人契約なんて意味じゃないよね?お互い独身なんだし。やっぱり、もっとわかりやすく言ってほしかった。「つきあって」で、それでいいのに。<br /> うじうじと恨みがましく思いながら、それでもあたしは一つの答えを出した。それはきっと、唇にキスされなかったことも後押ししたんだと思う。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> アルバイト最終日の日曜は、朝から冷たい雨が降っていた。<br /> 画廊もティールームも、お天気のせいかお客さんがいつもより少ない。ティールームの窓を洗う冬の雨を眺めながら、自分の決心を何度も確かめた。<br /> 答えは、それでいいよね?気持ちは、かわらないよね?<br /><br /> 18時少し前に、店長の西田さんが言った。<br />「じゃあ、もう今日はあがっていいよ、沢口さん」<br />「はい。…あの、お世話になりました」<br /> あたしはエプロンを外して、店長に深くお辞儀をした。<br />「なんだか、淋しくなるなぁ」<br /> カウンターから、調理担当の山形さんが顔を出して言う。<br />「山形さんも、いろいろありがとうございました」<br />「また、遊びに来なよ。ケーキセットご馳走するから」<br /> そう言う山形さんに、店長も続けた。<br />「そうだよ、今度はお客さんとして来ればいい」<br /> 優しかったふたりに、あたしはもう一度お礼を言って深く頭を下げると、ティールームを後にした。<br /> 画廊に戻って、事務所へ祥子さんを訪ねる。<br />「祥子さん、とてもお世話になりました」<br />「ああ、ホントに今日が最後なのねぇ。なんだか残念」<br /> そう言ってもらえて幸せだ。あまり役に立たない、世間知らずの女子大生だったのに。<br />「また、遊びにいらっしゃい」<br /> 祥子さんが優しく微笑む。<br />「はい」<br />「それと。経験豊かな年上の女は、いろんな相談に乗ってあげられるかもよ?」<br /> ちょっとおどけて言う祥子さんは、大人で綺麗だった。<br />「はい、ぜひお願いしたいです」<br /> あたしはそう言って、祥子さんにも深々と感謝を込めてお辞儀した。<br /><br /> 画廊を出ると、当然のようにアイスが待っていた。<br /> あたしのショルダーバッグの中には、祥子さんからもらったばかりの約2か月分のアルバイト代が入っている。画廊を出る前に、そのうちの7万円を白い封筒に入れた。壊した眼鏡代と、これまでご馳走になってしまった食事代。これで足りるだろうか?<br /> アイスの顔を真っ直ぐ見て、あたしは彼に近づいて行った。<br />「お疲れさま」<br />「今日、アルバイト代をいただきました。だから壊した眼鏡の代金と、これまでの食事代を…」<br />「何を焦ってるの?」<br /> いきなり早口で言ったあたしの言葉を、今日も余裕のアイスの声が遮る。<br />「まず、どこか落ち着けるところへ入ろう」<br /> 夜になって雨脚は弱まってはいるものの、傘を差したままで話し続けていることはできない。今夜は、もう一つ大事なことをアイスに告げなければならない。<br /><br /> その夜、アイスが連れて行ってくれたのはビルの地下にあるダイニングバーだった。<br /> からん、と音をさせてアイスがステンドグラスから灯りが漏れるドアを開けた。<br />「いらっしゃいませ」<br /> カウンターでグラスを拭いていた背の高い人が、こちらを見て言う。<br />「やぁ、アレン」<br />「あれ?氷川さん、めずらしいね。日曜の夜、しかもこんな早い時間に」<br />「奥のテーブル、いい?」<br />「どうぞ。どこの席でもご自由に」<br /> 金髪でびっくりするくらいカッコいい、ハーフと思しきそのバーテンダーが言った。<br /> アイスに促されるままに、奥のテーブルに進む。お客さんは、まだ一人もいない。背の高いスツールに腰掛けると、アイスは言った。<br />「この店が混みだすのは、もっと遅い時間なんだ。だから、ここなら静かにゆっくり話ができる」<br /> バーなんて初めてで、きょろきょろと落着きなく店内を見回していると、アレンと呼ばれたバーテンダーがお水とメニューを持ってきてくれた。<br /> ちらり、とあたしを見るけど、何も言わずに去っていった。<br />「ダイニングバーだから、食事もできる。お腹、空いただろう?」<br /> あたしは、首を振った。<br />「今日は、お話をするために来ましたから」<br />「どうした?」<br />「なにがですか?」<br />「表情が、硬い」<br />「いつもと同じです」<br /> そんなあたしをじっと見ながら、アイスは飲み物を訊ねる。<br /> メニューの一番後ろに載っているソフトドリンクの中から、あたしはジンジャエールを選んだ。<br /> やってきたバーテンダーに、アイスはジンジャエールとウイスキーソーダを頼んだ。<br />「あとサンドウィッチ」<br /> そう言うアイスに、アレンという人が言った。<br />「生ハムとクリームチーズ、卵と野菜、ツナとオニオン、ホットサンドはチーズとハム。どれがいい?」<br /> アイスがあたしの顔を見るから、アレンと言う人もその紺碧の眼をあたしに向ける。<br />「な、生ハムとクリームチーズ」<br />「了解」<br /><br /> バーテンダーが行ってしまうと、再び沈黙が訪れる。それに耐えきれなくて、あたしはバッグから白い封筒を出すとテーブルの上に置いた。<br />「なに?」<br />「なにって…。眼鏡の代金と、これまでの食事代です」<br /> そう言ってアイスの前に、封筒を押しやる。<br />「な、7万円入っています。これで、足りるでしょうか?」<br /> やれやれ、と言った表情でアイスが頭を振る。<br />「弁償してほしいなんて、最初から言ってないはずだけど」<br /> バーテンダーが、飲み物を運んできた。<br /> アイスの眼の前に置かれた琥珀色の液体が、どうしても思い出させてしまう。あの、ウイスキーの残り香が漂うキスを。それを消し去るように、あたしは慌ててジンジャエールを飲む。そして、むせた。…嗚呼、今夜もカッコ悪い。<br />「慌てるからだ」<br /> アイスが自分のハンカチを差し出す。<br /> まだケホケホとむせながら、若干涙目でそれを拒否してバッグを探る。ポケットティッシュを出して口元と眼を拭い、鼻も噛む。激辛ラーメンのときに、これ以上の失態を見せているから、鼻を噛むくらいもう恥ずかしくない。<br />「受け取ってくれないと困ります」<br />「何故?」<br />「だって」<br /> バーテンダーがサンドウィッチを運んでくるのを認めて、アイスが言った。<br />「ヘンに思われるから。取り合えず、いまはしまって」<br /> アイスに促されて、迷いながらも封筒をバッグにしまう。<br />「おまたせしました。ごゆっくり~」<br /> バーテンダーがウインクしながらそう言って去ると、アイスは言った。<br /><br />「それより、今日は答えを訊きに来た」<br /> キタ、と思ってあたしは眼を閉じた。からんと、氷の音がする。アイスが余裕でグラスを傾けているのがわかった。<br />「あれは、つきあえという意味ですか?」<br /> 覚悟して眼を開けると、あたしはアイスを真っ直ぐに見て訊ねた。<br />「ほかに、どういう意味がある?」<br /> なんだか、押し問答してるみたいだ。全然、いいムードなんかじゃない。<br /> アイスがまたウイスキーソーダを飲みながら、あたしをじっと探るように見つめてくる。<br />「じゃ、じゃあ。お、お断りしますっ」<br /> い、言った。言えた、あたし。<br />「何故?」<br />「だって」<br />「だって?」<br />「あたしたちは、先生と生徒です」<br /> アイスが一瞬、ぽかんとした。<br />だ、大丈夫。変なことは言っていない。いや、むしろ真っ当なことを言っているはずだ、あたしは。<br />「え、え~と。それが断る理由?」<br />「はい」<br /> アイスがしばし、考え込む。次に何を言うかどきどきしながら、あたしはジンジャエールを一口飲んだ。喉が渇いて仕方ない。<br />「規程では、どうだったかな?」<br />「大学の規程でオーケーでも、あ、あたしがダメなんですっ」<br /> <br /> 高校時代、とても素敵な女性の先輩がいた。ボーイッシュで、スポーツ万能で成績もよくて、共学なのに男子よりも女子生徒の人気を攫(さら)っていたくらいだ。<br /> あたしはとくに夢中になっていたわけではないけれど、サバサバした言動を好意的に思っていた。<br /> そしてある日、見てしまった。<br /> 理科室で、その先輩が理科の先生とエッチしているところを。偶然だったけれど、一瞬だったけれど、先輩が制服から胸をさらけ出してスカートをまくりあげられて後ろから突かれているのを目撃してしまった。<br /> そしてその残像は、しばらく気持ち悪いもの、イヤラシイものとしてまだ16歳だった心に巣食った。だから、先生となんて…考えられない。<br /><br />「先生と生徒って、気持ち悪いんです。これはもう、生理的な問題なんです」<br /> あたしはそう言って席を立つと、バッグからもう一度封筒を出してテーブルの上に置いた。<br />「失礼します」<br /> ちょっと怖い光を湛えた眼のアイスをもう一度正面からちゃんと見て、あたしは頭を下げると薄暗いダイニングバーを出た。<br /> 頭を上げた瞬間に、琥珀色のグラスとアイスの薄い唇が見えた。<br /> さよなら、先生。さよなら、あたしのファーストキス。</span></span><br /><br /><br /><span style="color:#00CC99">前作で登場した人物が出ていますが、<br />とくに深い意味はありません。(*´ω`*)<br />ほんの、出来心?デス。てへ。。。</span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-03-25 (Wed)
  • Category : アイス
456

㉑キスの理由

 画廊オープン前の掃除をしていると、祥子さんが近寄ってきて言った。「アルバイトも来週で終わりなのね、沢口さん」「あ、はい」「2か月なんてあっという間ね」「はい。雇っていただいてありがとうございました」「あらあら、淋しくなるようなこと言わないで。まだ、来週もあるのよ」「はい。でも、今年ももう残り少なですね」「そうね、光陰矢のごとしねぇ」 速い速い、とおどけたように言いながら祥子さんは事務所に消えた。... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> 画廊オープン前の掃除をしていると、祥子さんが近寄ってきて言った。<br />「アルバイトも来週で終わりなのね、沢口さん」<br />「あ、はい」<br />「2か月なんてあっという間ね」<br />「はい。雇っていただいてありがとうございました」<br />「あらあら、淋しくなるようなこと言わないで。まだ、来週もあるのよ」<br />「はい。でも、今年ももう残り少なですね」<br />「そうね、光陰矢のごとしねぇ」<br /> 速い速い、とおどけたように言いながら祥子さんは事務所に消えた。<br /><br /> いつもと変わらず11時にオープンした日曜日の画廊は、忙(せわ)しなさを増した師走の外界と隔離されているかのように静かだ。<br /> しんと、セピア色の空気感が漂う空間で、あたしはもう何度目かわからない物思いにふける。<br /> 思い出してしまうのは、アイスのあのキス。ファーストキスが、こんなにも心を乱すものだなんて知らなかった。突然すぎて、イメージしていた軽いちゅぅとは全然違って…。<br /><br /> それに、あのキスは何故?どんな意味があるの?<br /> キスっていうのは、つき合いだしてお互いのことをちゃんと知って、好きっていう気持ちをふたりが確認してからするものじゃないの?アイスとあたしは、まだつきあってすらいないのに。お互いのこと、まだ全然知らないし。アイスの気持ちだって、何を考えているかわからない。そして、あたしの気持ちは…。<br /> でも一番戸惑うのは、またあのキスを体験してみたいという自分自身の焦がれるような思いだ。なんでだろう?合意のないキスだったのに。不意を衝いて奪うような行為に、むしろどうしてあたしは怒っていないの?<br /> わからない、混乱する。混乱の海に深くあたしを投げ込んでおいて、キスの理由を教えてくれないなんてことないよね?ちゃんと教えて、答えと言う救いを差し伸べてよ。そうじゃないと、あたし、あたし…。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> だから。<br /> 華やかなイルミネーションを背に、薄闇の中、ぼぅと照らす街灯の下にアイスの姿を認めたとき、あたしはむしろほっとしていた。 <br /> 引き寄せられるように近づいた、いつもと違うあたしにアイスはちょっと怪訝な顔をして、それからふっと笑った。<br />「どうした?」<br /> あたしが黙って頭を振ると、アイスがゆっくりと歩き出す。やっぱり無言で、あたしはその背の高い人と並んで歩いた。<br />「今日は、何が食べたい?」<br /> まるで食事することが約束事みたいに、アイスが訊く。食欲はあの夜からもうずぅっとなくて、今夜も食べたいものなんか思い浮かばなかった。<br />「…何でも」<br /> アイスが歩みを止めて、あたしの顔を覗き込んだ。<br />「今日は、やけに素直だな」<br />「…別に」<br /> また、くす、とアイスが笑う。欲しいのは答え、そんな余裕の笑いなんかじゃない。<br />「温かいものがいいか?」<br /> ロングマフラーをぐるぐる巻きにして、鼻まで埋めたあたしにアイスが訊く。こく、と頷いた。<br />「そんな風に心細そうにマフラーに埋もれていると、まるで迷子の子供みたいだ」<br /> そうだよ、あたしはいま迷子の子供。だから大人のアイスは、ちゃんと救いの道を示してくれるべきなんだ。<br />「鶏すきの旨い店がある」<br /> アイスは、いろんなお店を知っている。大人で、銀座は彼のホームだし。<br />「厚焼き玉子もおいしいぞ」<br /> 厚焼き玉子?ちょっとだけ反応してしまった。だって、お店の玉子焼きって厚焼きでもダシ巻きでも凄くおいしいから。<br />「ちょっと大人向けの品がいい味つけで、子供用みたいに甘くないけどな」<br /> また、くす、と笑うアイス。からかった?相変わらず意地悪だ。<br /><br /> アイスと、しっとりと歴史を重ねた趣き溢れる建物の中へ入る。和服のお姉さんが、いらっしゃいませと迎えてくれた。<br />「個室、空いてる?」<br />「ええ。いつもありがとうございます」<br /> 掘りごたつのある和室に通された。灯りとりの窓から橙色の温かな光が零れて、とても落ち着く。足をそっと下ろすと、床も温かだった。<br /> アイスは自分用にホットウイスキーと、あたし用に温かいお茶を頼んでくれた。<br />「鶏すきのコースで」<br /> 食べたいメニューをもう、アイスは訊かない。任せた方がいいのは、わかりきったことだ。<br /> アイスが言った厚焼き玉子は、ちょっと感動するほどおいしかった。ずっと食欲がなかったのに、しみじみ味わうことができた。それから酢の物や小鉢が出て、メインの鶏すきは〆をうどんにしてくれた。<br />「どうした?いつもはもっと食べてただろ?」<br /> もう、お腹いっぱいで食べられない。ここ数日で、胃が小さくなったみたいだから。そして、食欲消失の原因をつくった張本人が眼の前にいる。<br /> <br /> いつものようにアイスがお会計を済ませて、いつものように送ってくれる。<br /> いつから、こんなことが当たり前になったんだっけ?<br /> そして、アイスはあたしのワンルームマンションの前で言った。<br />「おやすみ」<br /> あっさりと向けられた背中に、あたしは叫んだ。<br />「待って!」<br /> アイスが、立ち止まって振り返る。<br />「教えて…」<br /> アイスが、再びゆっくりと近づいてくる。向かい合って、その背の高い人を見上げる。<br />「何を?」<br /> 眼鏡の下の睫毛が長いのを、あたしは知っている。その奥の眼が、こんなときに限って優しいなんて反則。そして、そして。アイスの唇は、薄くて三日月のように美しい弧を描いていた。<br /> 触れたい…衝動的にそう思って伸ばした右手首を、アイスに掴まれる。<br />「何を教えてほしい?」<br /> キスの訳…。<br /> アイスがあたしの右手首を掴んだまま、じっと見つめるから胸が苦しくなってくる。心臓がばくばく暴れ出して、口から飛び出してしまいそうだ。<br />「なんで…」<br /> 涙が滲んで、視界が曇る。<br />「なんで、キスしたの?」<br /> アイスが驚いたように眼を見開いて、そして手を掴んでいないもう片方であたしの頬の涙を掬った。<br />「わからないのか?」<br /> わからないよ、そう答えようとした唇が震えて声にならない。<br />「もしかして、初めてか?」<br /> 初めてだよ。キスも、こんな意地悪な大人のオトコも。いつも余裕で、自分のペースにあたしを強引に引き込んで、翻弄する。<br /> アイスは、キスの代わりにそっとあたしを抱きしめると、耳元で囁いた。<br />「沢口菜乃果さん。俺のものになりなさい」<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-03-24 (Tue)
  • Category : アイス
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⑳恋人未満たちのクリスマス

たくさんの閲覧、ありがとうございます(*´ω`*)楽しんでいただけてるなら、嬉しい限りデス♪「だからっ。菜乃果ったら、訊いてる?」 突然、知花ちゃんに顔を覗き込まれて、あたしはなんだかぼ~っとする頭のまま、へら、と笑った。「ちょ。やめてよ、気持ち悪い。なんだかヘンだよ、最近の菜乃果」 あれから、あのキスの夜から、あたしは気がつくとあの初めての感触を思い出してしまうのだ。 キスって、唇と唇を合わせるだけだ... <span style="color:#00CC99">たくさんの閲覧、ありがとうございます(*´ω`*)<br />楽しんでいただけてるなら、嬉しい限りデス♪</span><br /><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">「だからっ。菜乃果ったら、訊いてる?」<br /> 突然、知花ちゃんに顔を覗き込まれて、あたしはなんだかぼ~っとする頭のまま、へら、と笑った。<br />「ちょ。やめてよ、気持ち悪い。なんだかヘンだよ、最近の菜乃果」<br /> あれから、あのキスの夜から、あたしは気がつくとあの初めての感触を思い出してしまうのだ。<br /> キスって、唇と唇を合わせるだけだと思っていた。でも、違った。あんな風に、唇を舐めまわすものなんだ。くすぐったいような、痺れるようなあの感覚。それを再びありありと思い出して、あたしは残像と感覚を振り払うように頭を振った。<br />「大丈夫?熱、あるんじゃないの?沢口さん、顔赤い」<br /> 早乙女君が心配そうに、そう言う。<br />「えっ?どれ」<br /> 知花ちゃんが、慌ててあたしのおでこに手を当てる。<br />「う~ん、熱はないみたいだけど。菜乃果、今日はサークルの練習休んで早く帰りな」<br />「大丈夫だよ」<br /> 力なく答えるけど、知花ちゃんはダメダメと首を横に振る。<br /><br />「長倉さんて、面倒見がいいんだね」 <br /> おっと、近藤君。今度は、なんでキミがあたしたちと学食にいる。<br />「そんなことないよ」<br /> 知花ちゃんがそっけなく答えるから、近藤君の笑顔が固まった。<br /> 一緒に食べようと誘った日以来、近藤君は偶然を装っては学食にいるあたしたちの傍をうろつくようになった。こっちから声を掛けないでいると、しばらくうろうろと学食を彷徨(さまよ)い歩いたのち言うのだ。<br />「あの、一緒にいい?」<br /> 嫌、と言うのもかわいそうだから、あたしたちは「どうぞ」と言う。<br /> そうすると凄く嬉しそうに、知花ちゃんの隣に座るのだ。<br />「ところで、乙女はクリスマスどうするの?」<br /> 知花ちゃんがコロッケに豪快にかぶりつきながら、早乙女君に訊く。<br />「う~ん、サークルのみんなでパーティーでもする?」<br /> そう答えた早乙女君は、すっかり立派なダンスサークル部員だ。しつこいけど踊れない、一応、黒一点の。<br />「ねえ、菜乃果。惺君はなんか言ってなかった?」<br /> 知花ちゃんの口から氷川 惺の名前が出た途端、近藤君のテンションがガタ落ちる。<br />「別にぃ。惺だって、自分とこの大学のコたちと何かするんじゃないの?」<br />「また惺君ちに、呼んでくれないかなぁ」<br />「そんな…何度も行ったら迷惑だよ」<br /> そう言う早乙女君に、知花ちゃんがい~っと顔をしかめて見せる。<br /> まぁ、惺だってT大に彼女くらいいたっておかしくない。恰好はともかく顔は結構カッコイイし、優しいし面白いし頭いいし、気さくでつきあいやすい。<br /><br />「あ、あのさ。よかったら教会のクリスマス・パーティーに行かない?」<br /> 近藤君が控え目に提案する。<br />「教会?近藤君、クリスチャンなの?」<br /> 知花ちゃんが横にいる近藤君の方を見て訊いた。近藤君の顔が、心なしかぽっと赤くなって嬉しそうだ。<br /> わかりやすいな、ウインナ君。<br />ちなみに知花ちゃんがあたしといるときは、近藤君のことを『ウインナ君』と呼んでいることを、彼は知らない。もし知ったら、いろんな意味で傷つくだろうケド…。<br />「クリスチャンじゃないけど…」<br /> なんでも近藤君の家の近くには教会があって、彼は幼い頃からそこへよく遊びに行っていたのだそうだ。神父さんは代々、外国人の方でいまは何代目かのイギリス人なのだそうだ。近藤君が英語に興味を持つようになったのは、その神父さんたちの影響だという。<br />「え~っ、そうなの?だから、近藤君てあんなに発音がきれいなんだぁ」<br /> 知花ちゃんが驚きつつ、近藤君の英語力を称賛した。おぅ、嬉しそうだな、近藤君。<br />「そんなことないよ」<br /> いやいや、そんなことあるよ、近藤君。発音だけでなく、近藤君のコミュニケーション力はうちのクラス一だ。ネイティブの先生も、褒めるくらいだからね。<br />「そっかぁ、教会のクリスマスパーティーかぁ。イギリス人の神父さん、いいな」 <br /> 知花ちゃんの関心が一気に高まって、近藤君はますます嬉しそうにしている。<br />「あ、でも、派手なパーティーじゃないよ。どっちかっていうと質素で、清らかで、だけど食べ物なんか持ち寄りでアットホームな感じが凄くいいんだ」<br /> ふぅ~ん、と知花ちゃんが考え込むように顎に手を当てて、近藤君の眼が期待に輝く。<br />「ねぇ、菜乃果、行ってみない?」<br />「うん、いいけど…。早乙女君はどうする?」<br /> 心の中でガッツポーズをしているであろう近藤君と、少し置いてきぼり感のある早乙女君の顔を交互に見ながらあたしは訊いた。<br />「僕は、英語苦手だから」<br /> 経済学部だしね、早乙女君は。<br />「でも、乙女が得意な手づくりのお菓子とか、クリスマスの飾りとか持って行ったら喜ばれるんじゃない?」<br /> 知花ちゃんのひと言で、早乙女君の顔がぱっと明るくなる。<br />「星形のクッキー焼こうかな」<br />「あと、子供たちが喜びそうなフェルトの人形とか動物とか」<br /> 近藤君、ナイス。てか、あくまでも知花ちゃんとのクリスマスを確実にゲットしたいからだな。<br />「じゃ、決まり!」<br /> 知花ちゃんがそう宣言して、あたしたちのクリスマスの予定は決まった。<br /><br /> クリスマス…。<br /> アイスは、野島先生の家へ行くんだろうか。今年はイブもクリスマスも見事に平日で、だから仕事で残業だと言ってたけど。でも23日の祝日は?<br /> 祥子さんの華やかな顔、瑞希さんの儚げで守ってあげたくなるような微笑み、押しの強い野島教授の自信に満ち溢れた姿が次々に浮かんでは消えた。<br />そしてアイスの余裕の表情、眼鏡を直す長い指、その指が緩めたり締めたりしていたあのネクタイ。<br />そして、そして、あの気が遠くなるような、痺れるような蠱惑的(こわくてき)なキス。ファーストキスだった、ウイスキーの残り香がする…。<br /><br />「もう、菜乃果ぁ~。また、ぼぅっとしてるぅ~。もう、ホント今日は授業終わったらさっさと帰りなねっ」<br /> 知花ちゃんの声が再び現実へあたしを引きもどしてくれるまで、揺れる心であたしは幻想の世界を漂っていた。</span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br />
  • Date : 2015-03-23 (Mon)
  • Category : アイス
454

⑲本当のアウェイ

 昨日の土曜日と、本日の日曜日。あたしのお財布には、めずらしく1万円札が一枚入っていた。 そう、予めお店をリサーチしていないからいけないのだ。アウェイをホームにすることはまだ難しいけれど、銀座というアウェイの地に小さなホームをつくればいいのだ。あたしってば、冴えてるぅ~。 あ、これは決してアイスと晩御飯に行きたいということではない。ちゃんと借りは返すという意味だ。 情報誌とネットで、3軒のお店をリ... <br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> 昨日の土曜日と、本日の日曜日。あたしのお財布には、めずらしく1万円札が一枚入っていた。<br /> そう、予めお店をリサーチしていないからいけないのだ。アウェイをホームにすることはまだ難しいけれど、銀座というアウェイの地に小さなホームをつくればいいのだ。あたしってば、冴えてるぅ~。<br /> あ、これは決してアイスと晩御飯に行きたいということではない。ちゃんと借りは返すという意味だ。<br /> 情報誌とネットで、3軒のお店をリストアップした。パスタの種類が豊富な洋食店と、和御膳が楽しめるそんなにお高くない和食のお店、保険で中華バイキングのお店も選んでおいた。和洋中、さぁどんと来いっ!<br /> <br /> 日曜のバイト終わり、いつもの街灯の傍に立っているアイスを見ても、準備万端と思っていたあたしは動揺しなかった。<br />…ある1点に、気づく前までは。<br /> 余裕の表情を意識的につくりつつアイスの方へ歩いて行く途中で、あたしは何か見覚えのあるものを眼にして足を止めた。それを見たアイスが、これ見よがしに手にしたもの。<br /><br /> ネクタイ…あのネクタイだ!<br /><br /> 縦半分が黒で、もう半分にドット柄とストライプ柄が交互にデザインされた、モノトーンなのに華やかでモダンで洗練されたネクタイ…。<br /> 学園祭のステージで、あたしがつけて踊ったあのネクタイ。<br /> ああ、だからあのとき、踊っているあたしに見せつけるように自分のネクタイをわざとらしく触っていたのか。すべて、計算?策略?<br /> <br /> 一気に混乱した感情をどうすることもできない、もう余裕の表情は完全に消えていただろう。途(みち)の途中で唐突に立ち止まったあたしに、憎らしいほど余裕の表情でアイスが近づいてくる。間近で見て、もう間違えようがないことを嫌でも確認させられた。<br />「…なんで」<br />「ん?」<br /> わかっているはずなのに、白々しい笑みのアイスが癪に障る。<br />「それ…ネクタイ」<br />「ああ、これ?貸した相手から、最近却って来た。ちゃんとクリーニングされてね、律儀なことだ」<br /> 躰が震えて、言葉にならない。<br /> 怒りと、混乱と、胸騒ぎに似た何か…。言いようのない不可解な感情が心を支配すると同時に、躰の奥がじゅゎと熱くなった。なに?あたしにいま、何が起こっているの?<br /> アイスは少し身を屈めて、あたしの耳元で囁くように言った。<br />「あのとき、キミの首に巻きついていたネクタイだ。いまは俺の首にある」<br /> 頬がか~っと熱くなる。<br /> それを舐めるようにゆっくりと認めてから、アイスはあたしの手を握った。<br />「さぁ、行こう。とてもおいしい無国籍料理の店を、予約してある」<br /> 無国籍料理…。予約…? だめ、あたし、ちゃんと見つけてあるのに。自分の身の丈にあった、ちゃんとご馳走できるお店。<br />「キミの好きな辛い料理も、スパイシーな料理もある。きっとキミがまだ出逢ったことがない未知の味も。どう、刺激的な夜は好き?」<br /> 動揺して何も言えないまま、あたしはアイスに手を引かれて歩き出す。<br /> この人は狡い、とても大人で、あたしなんかのずっと先を読んでいて、怖い。そう思うのに、魔術をかけられたように抗うことができない。<br /> 何度か会って話して、何故だか食事までして、送ってもらって、なんとなく知った気でいたけど、まったく知らない大人のオトコの顔をした人にあたしは手を引かれて銀座の街を無言で歩いて行った。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> その夜、アイスに連れられて入った無国籍料理の店で、半個室といった感じの席に通された。パーテーションで区切られていて、他のお客さんの顔は見えない、でも店内の喧騒はBGMに交じって聞こえてくる、そんなお店だった。<br />「今日は、飲みたい気分なんだ」<br /> アイスはそう言うと、ウイスキーのロックを注文した。<br />「キミはまだ未成年だから飲めないね。ソフトドリンク、何にする?」<br /> 白いシャツに黒のベストとパンツ姿のカッコいいお兄さんが、メニューを渡してくれた。メニューを見て迷いながら顔を上げると、至近距離でアイスがネクタイの結び目に手をかけて、くぃと緩めるのが見えた。<br /> カーッと顔が熱くなって、慌てて下を向く。翻弄されっぱなしのあたしは、ウエイターのお兄さんが待っているのにドリンク一つ決められない。<br /> 余裕の笑みを浮かべたアイスが、あたしの手からドリンクメニューを取った。<br />「そうだ、この店はノンアルコールのカクテルがあったな」<br /> そう言うアイスに、ウエイターさんは慇懃に頷く。<br />「シャーリ―テンプルを彼女に」<br />「畏まりました」<br /> それからアイスはまたネクタイに手を添えながら、あたしをじっと見ると言った。<br />「食べ物のオーダーは任せてくれる?」<br /> ドリンクすら決められないくらい、完全アウェイのあたしに否定の選択肢は全くなかった。ただただ、慣れた様子でオーダーしていくアイスを呆然と見ていることしかできなかった。<br /><br /> アイスの頼んだウイスキーのロックと、くるくるとしたレモンの皮が可愛くあしらわれたシャーリーテンプルなるものが運ばれてきた。<br /> アイスが、無言であたしのグラスに自分のグラスをかちりと合わせる。そして言った。<br />「アメリカの名子役、シャーリー・テンプルの名前からとったノンアルコールのカクテルだ。子供でも飲める、甘酸っぱい味だそうだ」<br /> 子供?そう、あたしは子供だ。ひと回り以上も違う大人のあなたに、勝てる訳がない。<br /> そのカクテルも、運ばれたきた様々な料理も、その夜のあたしは味わうことなんてできなかった。ノンアルコールのカクテルに酔ってしまったように、ふわふわと身も心も浮遊しているような、とても落ち着かない不思議な感覚。<br /> ううん、酔わせたのはアイスの仕掛けた巧妙な罠、大人の狡猾な策略。<br />「食べないんだね、今日はあまり。いつもと違う、どうしたの?」<br /> そう言いながら、アイスがこれ見よがしに今度はネクタイを締め直す。長い指で、優雅な仕草で、射抜くような視線を投げかけながら。<br /> 本当にアウェイだったのは大人の領域、アイスと言う未知の、得体のしれないオトコの方だった。<br /><br /> その夜、やはり送ってくれたアイスは、マンションの前でいきなりキスをした。いっそう混乱するあたしにお構いなしに、緊張で反応することができない唇を熱い舌が何度もなぞっていく。<br />「おやすみ」<br /> ファーストキスの味は、たぶんアイスが飲んだウイスキー。あたしが初めて知ったお酒の味だった。</span></span><br /><br /><br /><span style="color:#00CC99">前作でカクテルの名前をずぅ~と間違え続けてた<br />前科があります。(*´Д`)<br /><br />良く知らなければ書かなきゃいいのに…<br />て自分でも思いますが、また登場させちゃいました。。。<br />今度はだいじょぶ、たぶん。(*´ω`*)</span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br />
  • Date : 2015-03-22 (Sun)
  • Category : アイス
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⑱ウインナーとくれそん

 学食できつね蕎麦を乗せたトレイを持って、ダンスサークルの仲間が集まるエリアに合流しようとしていたら、近藤君に声を掛けられた。「沢口さん、いつもどのへんに座ってるの?」「あ、あたしはあっち。いつもサークルの仲間がいる方。近藤君は?」「僕、サークルとか入ってないから。いつも空いてる席に、適当に」「今日は?独り?」「うん」 そんな立ち話をしていると、遠くで「菜乃果~」と呼びながら手を振る知花ちゃんが見... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> 学食できつね蕎麦を乗せたトレイを持って、ダンスサークルの仲間が集まるエリアに合流しようとしていたら、近藤君に声を掛けられた。<br />「沢口さん、いつもどのへんに座ってるの?」<br />「あ、あたしはあっち。いつもサークルの仲間がいる方。近藤君は?」<br />「僕、サークルとか入ってないから。いつも空いてる席に、適当に」<br />「今日は?独り?」<br />「うん」<br /> そんな立ち話をしていると、遠くで「菜乃果~」と呼びながら手を振る知花ちゃんが見えた。近藤君も、ちょっと眩しそうに目を細めて知花ちゃんの方を見るから、あたしは思わず言ってしまった。<br />「近藤君も、来る?」<br />「いや、僕は…。だって女子ばっかのサークルでしょ?」<br /> 独りだけ生物学上の男子はいますが、まぁ基本、女子だけですね。<br />「じゃあ、ちょっと離れて座ればいいよ」<br /> そう言うあたしに、近藤君は迷いながらもついてくる。<br /><br /> サークル仲間からちょっとだけ離れた場所にトレイを置いたあたしは、知花ちゃんと早乙女君を手招きした。<br />「あれ?近藤君?」<br /> 知花ちゃんに名前を呼ばれて、近藤君がくすぐったそうな表情になった。へへ、今日はあたし恋のキューピッドです。<br />「あ、早乙女君。あたしたちと同じクラスの近藤君」<br /> 経済学科で当然クラスも違う早乙女君は、英文科の近藤君を知らない。<br />「あ、ども。早乙女です」<br /> ども、と軽く頭を下げた近藤君を、わざと知花ちゃんの隣に座らせる。<br /> 今日は、いつもお母さんの手づくり弁当派の早乙女君が、あたしと知花ちゃんにもって煮物をたくさん持ってきてくれたのだ。だからそれをアテにした知花ちゃんは売店でおにぎりとカップみそ汁を購入し、あたしはお蕎麦にしたのだ。<br />「はい、どうぞ」<br /> と早乙女君が、大きめのタッパーを開けてくれた。<br />「うわぁ~、おいしそうっ!家庭の味なんて久しぶりだぁ~」<br /> そう喜ぶあたしに、知花ちゃんが冷静にツッコむ。<br />「なに言ってんの、こないだ惺君ちで、すんごい豪華な家庭料理食べたじゃん」<br /> 近藤君の顔が微かに引き攣った。<br /> 知花ちゃん、空気読もうよ。<br />「そう言えば、氷川君もウチのお母さんの煮物、大好きだよ」<br /> 早乙女君が、うっとりとした顔で言う。<br />「そうなの?」<br />「うん、高校時代もこんな風に氷川君やみんなのために、お母さんがお惣菜を持たせてくれたから」<br /> どれどれ、と知花ちゃんがタッパーに箸を伸ばす。里芋の煮たのをぱくっと口に入れた。<br />「わ、おいしい」<br />「こんにゃくが、ちゃんとリボンになってるぅ~。いただきま~す」<br /> あたしもわくわくしながら、リボン結びのこんにゃくを口に運んだ。うん、どストライクの薄味で、でも出汁がしみてておいしい。<br /><br />「近藤君?も、どうぞ」<br /> 早乙女君が、優しく勧める。<br />「いや、僕は」<br />「遠慮しないで、味見してみなよ。すんごい、ほっとする味だから」<br /> 知花ちゃんに屈託なく勧められて、近藤君もさつま揚げに箸を伸ばした。<br />「ほんとだ、お袋の味だ」<br /> 近藤君がそう言ったので、早乙女君はさらに嬉しそうな顔になった。<br />「でも、乙女のお弁当もおいしそうだなぁ」<br /> 早乙女君のお弁当は、今日も卵焼きやタコさんウインナーや胡麻和えなんかで彩りもめっちゃきれいだ。<br />「タコさんウインナー、ちょうだい」<br /> 知花ちゃんがふざけて、早乙女君のお弁当にまで箸を伸ばす。<br />「ええ~っ」<br /> 早乙女君が、大げさに驚くのもいつものことだ。それを知らない近藤君が、慌てたように言った。<br />「長倉さん、僕のウインナーをあげるっ」<br /> 今日のA定食はたまたま、から揚げとウインナーだった。<br />「た、タコさんじゃないけど」<br />「え…」<br /> 眼を白黒させる知花ちゃん。<br /> 幸い、『僕のウインナー』がかなりビミョーな発言だったことは誰もツッコマなかった。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 12月最初の土曜日、あたしはいつものようにお昼休憩で街に出た。<br /> お昼を食べる前に今月号のファッション雑誌を買おうと、書店に入る。ぱらぱらとお気に入りの何冊かを立ち読みしていると、あら、という声がした。<br /> 声がする方を見たら、そこにはサナトリウムの妖精がクリーム色のコートを着て立っていた。ほんとに、儚げで綺麗…。<br />「沢口さん…でしたよね?」<br />「野島瑞希さん…」<br /> フルネームで呼ばれたせいか、青白い頬に仄かに赤みが差して、とても綺麗だった。<br />「覚えててくれたのね、名前」<br /> 淡く微笑む瑞希さんに、好感が持てる。<br />「お買い物ですか?」<br />「ええ。クリスマスが近いから、クリスマスメニューの本を探していたの」<br /> でもそう言った彼女の手に、本はなかった。<br />「いいのがなかったんですか?」<br />「ええ。新しい料理にトライしたかったんだけど…」<br /> つくったことのある、またはつくれる料理ばかりだったってことか。<br />「沢口さんは、お昼?終わったのかしら?」<br />「いえ。お昼休憩1時からなので、これからです」<br />「そう」<br /> 瑞希さんが少し寒そうに、微笑んだ。<br />「瑞希さん、お昼は?」<br />「あまり食欲がなくて」<br />「まだ、なんですか?」<br /> 力なく頷く瑞希さんに、あたしは思わず言った。<br />「ちゃんと食べなきゃ、ダメですよ」<br />「でも…。独りでお店に入るのは勇気がいって」<br /> そうか、そうだよな。あたしは結構平気なタイプだけど、その気持ちがわかる程度には女子だ。<br />「あの、よかったら一緒に行きませんか?おいしくてリーズナブルなご飯屋さんがあるんです」<br /> 瑞希さんにリーズナブルは余計だったかもしれないけど、でも彼女の顔がぱっと明るくなった。<br /><br /> 〈くれそん〉は、ちょっと目立たないところにあるけど人気のワンプレートランチのお店だ。1時を過ぎたとはいえ、まだ店内にはお客さんが多い。それでもあたしたちは、窓際の席に座ることができた。<br />「なにがおいしいの?」<br /> 好奇心で眼を輝かせて訊く瑞希さんに、あたしは胸を張って言った。<br />「日替わりワンプレートランチです!」<br /> 五穀米にサラダとお肉やお魚の料理、ドリンクまでついて1000円税込は、女子大生には嬉しいコストパフォーマンスだ。量も女子にはちょうどよくて、幅広い年代の女性たちが来る。その分、男性客は少ないけど、気兼ねせずに女子トークに興じられる。<br />「まぁ、お魚もお肉もついてくるの?」<br /> そう瑞希さんが目を丸くする。<br /> 今日のお魚はホタテのバタ焼きで、お肉はチキンのトマト煮。<br />「そうなんです。これでドリンクがついて1000円て、仕送りの独り暮らしにはめちゃ嬉しいです」<br /> THE庶民なあたしの発言をバカもせず、瑞希さんは優しく言った。<br /><br />「沢口さんは、どちらのご出身なの?」<br />「東京です。でも、父が転勤族なので」<br /> 現在、両親が住んでいる地方都市の名前を言うと、「いいところよね」と瑞希さんが微笑んだ。<br />「行ったこと、あるんですか?」<br /> 無邪気に訊いたあたしは、次の彼女の言葉で思いっきり後悔した。<br />「…療養してたことがあるの」<br /> あ…。<br />「…ごめんなさい」<br />「どうして謝るの?私の方こそ、気を遣わせてごめんなさいね」<br /> 瑞希さんは、女子にはちょうどよくて、あたしにはちょっと足りないくらいの量のランチを少し残したまま、またふんわりと微笑む。その笑顔を見ていたら、なんだか切ない気分になってきた。<br />「大丈夫!」<br />「?」<br />「瑞希さん、ちゃんと食べましょう。食べたら元気になりますから」<br /> 瑞希さんはそれでも食べきれない様子で、自分のランチプレートをしばらく見ていたけど、やがて言った。<br />「沢口さんが羨ましいわ」<br /> 羨ましい?このTHE庶民で何の取柄もないあたしが?<br />「あなたは何でも持っている。友人も、生き生きとした毎日も、健康も、明るさも、思いやりも、未来も。そしてきっと素敵な人との楽しい将来も」<br /> あたしには無いものばかりだわ、と言った瑞希さんの顔が淋し気でたまらなく悲しかった。<br /><br /></span></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br />
  • Date : 2015-03-21 (Sat)
  • Category : アイス
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⑰菜乃果ホイホイ

 おいしい店を知っているというアイスに、ホイホイついて行ったあたしの鼻腔をスパイシーな香りが刺激する。 その本格的ないい匂いは店の外まで漂っていて、あたしは自分のメニュー選択が今日も大きく間違っていたことを早くも痛感した。「こ、ここですか?」「そう、だけど?」 涼しい顔、いや氷の微笑みで言うアイスはやはり意地悪な冷血漢だと確信した。 いま目の前にある店は、明らかに高級なインド料理専門店。店構えから... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> おいしい店を知っているというアイスに、ホイホイついて行ったあたしの鼻腔をスパイシーな香りが刺激する。<br /> その本格的ないい匂いは店の外まで漂っていて、あたしは自分のメニュー選択が今日も大きく間違っていたことを早くも痛感した。<br />「こ、ここですか?」<br />「そう、だけど?」<br /> 涼しい顔、いや氷の微笑みで言うアイスはやはり意地悪な冷血漢だと確信した。<br /> いま目の前にある店は、明らかに高級なインド料理専門店。店構えからして、本場インドの装飾にこだわったゴージャスな雰囲気。<br /> い、いまさらカレーは止めたって言えないよね?ごく普通の喫茶店にしませんか、なんて無理だよね?ホイホイついてきたあたしのバカ、知らない間に捉えられてたゴキブリの気分だ。ゴキブリになったことないけど、一生なりたくなんかないけど、でもっ騙されたぁ~!!!<br /><br /> 心の中でジタバタしているあたしに構わず、アイスはその店の重厚な扉を開けた。<br />「いらっしゃいませぇ」<br /> インド出身と思われる方が、意外に軽~い明るい挨拶で迎えてくれた。<br /> こ、これはもしかしたら4千円で足りるかも。だってカレーだよ? いくら本格的と言ったってカレーだよ?<br /> その淡い期待は、メニューを見た瞬間に打ち砕かれた。<br /> 一番安いカレーが1400円、ほとんどが1600円~1800円。シンプルなナンが400円、チーズナンが600円、飲み物をつけたら税込で4千円超えるよ、確実に。<br />「どうする?コースにしてしまおうか?」<br /> こ、コース!?<br /> カレーは8種類の中から2種類のチョイス制、ナンかライスが選べて、ミニサラダとタンドリーチキン、ドリンクがついて2800円、細かいけど税別。<br />「お得ですよ?」<br /> こちらもインド出身らしきボーイさんがにこやかに言うけれど、あたしの笑顔は引き攣っていたに違いない。お得だけど、お得じゃない…。<br /> でも、おいしそうだぁ…と思ってしまう自分が情けない。<br /> 結局コースにしてしまい、アイスはフィッシュマサラ (魚と玉ねぎのカレー)とサグチキン(ほうれん草とチキンのカレー)、あたしはサグマトン (マトンとほうれん草のカレー)とチキンマトワラ (チキンとなすのカレー)、それぞれナンとコーヒーを頼んだ。<br />「カレーは辛さも5段階から選べるよ」<br /> くく、と笑いながらアイスが言う。<br /> ま、またですか。しかし同じ轍は踏むまい。<br />「先生は、なん辛にするんですか?」<br />「俺はいつも3辛」<br />「じゃあ、あたしも」<br /> へぇ、という顔をアイスがするけど、そんなの関係ない。むしろ問題なのは、明らかに予算オーバーの懐事情だ。情けないけど…ええい、ままよっ。<br /><br />「あ、あの…」<br />「?」<br />「き、今日、あたし、持ち合わせがあんまり…」<br /> 顔から火が出そうだった、恥ずかしくて。そんなあたしに冷水でも浴びせるように、アイスが言う。<br />「いいよ、また今度で」<br /> こ、今度ぉ?て、ことは次回もあるってこと?もう、泣きたい。でも、しょうがない。4千円しか持っていないものは持っていない。<br />「じゃ、じゃあ。ラーメン代とカレー代の分、今度合わせて払わせていただきます」<br /> あたしは観念してそう言った。<br />「いいよ、ラーメン代と普通のカレー代くらいで」<br />「!?」<br /> もしかして、この高級本格カレー専門店のチョイスはわざとっ?あ、悪魔だ。あ…悪魔がドS顔で笑った…。<br /><br /> でも。<br /> 人生3回目の本格インドカレーは、まじでおいしかった。ホット&スパイシーなカレーもだけど、ナンが最高!カリッもちっとしてて、噛めば噛むほど味わい深いこの味はさすがインド料理専門店。石窯で焼いた家庭では決してできない味、もうナンだけでも通ってしまいそう。<br /> 悔しいけど3辛のチョイスも絶妙で、辛いけれどちゃんと2種類のカレーの持ち味が楽しめる。<br />「おいしいです。辛さも…ちょうどよかった」<br /> 素直に負けを認めたあたしに、アイスが眼を細める。<br />「辛いだけだと、味の個性や深みが楽しめないでしょ?」<br /> その通りだ。ラーメンだって辛すぎたから舌も味覚もマヒして、ちゃんと味わえてなかった。でも、好きなんだよなぁ、激辛。<br /><br />「あ、そう言えば」<br /> 考えも行動も子供な自分がなんだか恥ずかしくなって、あたしは話題を変えた。<br />「今日、画廊にオーナーがお見えになりました」<br />「ん?野島教授?」<br />「はい。お嬢さんの瑞希さんも一緒に」<br /> 瑞希さんの名前を訊いて、アイスは一瞬、優しい遠い眼をした。<br />「瑞希か…懐かしいな。彼女、身体が弱かったから。元気にしていた?」<br /> あまり会っていないのだろうか、とあたしは今日見たサナトリウムの妖精みたいな瑞希さんの姿を思い浮かべた。細くて、白くて、儚げで…元気とは言いにくい。<br />「とても細い方でした。顔色は青白かったけど、微笑んでました」<br /> あたしの答えに、アイスは何かを感じたのか、ちょっと驚いた顔をした。<br />「そうか…キミは…」<br />「?」<br />「正直だな。そして、思いやりがある」<br /> いや、なんで?そんなことないけど?<br />「クリスマスは先生と祥子さんに家に来てほしいみたいなこと、オーナーが言ってました。瑞希さんも待っているみたいですよ」<br /> アイスは、今度はちょっと怖い眼になって言う。<br />「前言撤回だ。キミは、俺に対しては思いやりがない」<br /> だからなんで?<br />「キミ、クリスマスはどうするの?また惺たちと集まるの?」<br /> とくにまだ決めていない。<br /> 去年は両親が東京にいたから一緒に祝ったけど、今年は地方都市に転勤になったからあたしは独りだ。惺だって、大学生になって初めてのクリスマス。一緒に祝いたい彼女とか、いないのかな?<br /> 知花ちゃんと乙女は、どうするんだろう?<br />「まだ、決めてないです」<br />「ふうん。また家で祝えば?賑やかになって母が喜ぶ」<br />「先生は?」<br />「平日は仕事で遅くなるから、イブもクリスマスも関係ないな」<br />「そうなんですか」<br />「だからクリスマスに俺が氷川家にいることはないから、安心して楽しめばいい」<br /> アイスが意地悪く笑いながら、あたしの表情を窺った。<br />「そ、そんなにしょっちゅうお邪魔するほど、ずうずうしくないです。たぶんダンスサークルの仲間と…」<br />「クリスマスを一緒に祝う彼氏もいないんだ?」<br /> むかっ。いませんけど、それがなにかっ?<br />「先生みたいにモテませんからっ」<br />「なにムキになってるの?」<br /> 楽しそうにアイスがそうからかうから、いっそうムキになってしまう。<br />「ど、どうせっ、すぐムキになる子供ですからっ」<br />「そのようだ」<br /> く、悔しいっ!<br />「せ、先生はいいですよねっ。りこさんや、瑞希さんや、祥子さん、みんな美人で大人の女性ばかりに好かれて」<br />「幼なじみと、元教え子と、大学時代の先輩だ」<br /> アイスが長い指で、眼鏡をちょっと直した。その大人カッコいい仕草に、不覚にもちょっと見惚れてしまった。<br /><br /> 結局、おいしいインドカレーのコースをまたもご馳走になり、頑固に送って行くと言い張るアイスを断れないまま土曜の夜は終わった。嗚呼、いろいろ情けない…。<br /></span></span><br /><br><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /></br><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br />
  • Date : 2015-03-20 (Fri)
  • Category : アイス
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⑯恩師とお嬢さんとアイス

 11月最後の土曜日、木枯らしの吹く寒い朝だった。 ロングマフラーをぐるぐる巻きにして、ビル風の中を急ぎ足で歩く。銀座駅からそれほど距離はないのに、画廊に着く頃には鼻の頭がすっかり冷えてしまった。 画廊に着くと、いつものようにお掃除をして、11時にオープン。 こんな寒い日の午前中は、きっと訪れる人もいつもより少ないだろうと思っていたのに。オープンして、程なくして扉が開く。 条件反射的に見た入口から、高... <br /> <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">11月最後の土曜日、木枯らしの吹く寒い朝だった。<br /> ロングマフラーをぐるぐる巻きにして、ビル風の中を急ぎ足で歩く。銀座駅からそれほど距離はないのに、画廊に着く頃には鼻の頭がすっかり冷えてしまった。<br /> 画廊に着くと、いつものようにお掃除をして、11時にオープン。<br /> こんな寒い日の午前中は、きっと訪れる人もいつもより少ないだろうと思っていたのに。オープンして、程なくして扉が開く。<br /> 条件反射的に見た入口から、高級そうなファーつきコートを身につけた50代らしき女性が入って来た。髪をきちんとセットし、デキる女のオーラをびんびん放っている、そんな感じの大人の女性。<br /> そしてその後ろから入って来たのは、対照的にとても控え目で大人しそうな20代くらいのお嬢さん。<br />「南雲さんは、もう来てるかしら?」<br /> 開口一番、大人の女性はそう言って、あたしを値踏みするみたいにじろりと見た。<br />「あ、あの…」<br /> 名前を訊くのが憚られるほど、「私を知らないの?」オーラが今度は出ている。<br />「野島です」<br /> あ、はいとあたしは慌てて内線電話をかける。すぐに祥子さんが、事務所から出てきた。<br />「まぁ、オーナー。おはようございます」<br /> お、オーナー? ま、マズイ。どなたさま?的な応対をしてしまった気がする。<br />「新しい人?」<br /> 野島オーナーが、あたしをまたじろりと見るので、飛び上がるように立ち上がった。<br />「沢口菜乃果さんです。次の派遣の方が決まるまで、臨時にアルバイトしてもらっています。J大の1年生なのよね?」<br /> そうにこやかに言う祥子さんを上目づかいで見てから、あたしは野島オーナーに深々とお辞儀をしながら挨拶した。<br />「は、初めまして。沢口菜乃果です」<br /> 顔を上げたら、後ろに控え目に立っているお嬢さんと眼が合った。優しくふわりと笑ってくれたので、少し緊張がほぐれた。<br />「さ、どうぞ。野島先生、瑞希さんも」<br /> そう言って、祥子さんはふたりを事務所へ導いて行った。<br /><br /> 30分ほどして、またふたりが祥子さんと一緒に事務所から姿を現した。<br />「あなた、氷川君の紹介なんですってね。まだ、あの弟は金髪なの?」<br /> 驚いた、オーナーは惺を知っているらしい。<br />「は、はい」<br />「まったく。父親ゆずりのあれたけの頭脳を持っているというのに」<br /> 野島オーナーは、呆れたように頭を振る。<br /> はい、そうですね。あたしも、そう思います。<br />「そうだわ、南雲さん。今度、氷川君、兄の方が画廊に来たら、ウチにもたまには顔を出すように言ってちょうだい。何度言っても、忙しい忙しいばかりで。瑞希だって待っているというのに」<br />「ママ…」<br /> その言葉に、瑞希さんが頬を染めてオーナーのコートの袖を掴む。<br /> どうやらアイスのことも、オーナーとそのお嬢さんと思しき瑞希さんは知っているらしい。<br />「はい、わかりました」<br />「ちゃんと、念を押しておいてね。そうだわ、クリスマスは家でお祝いしましょう。南雲さん、予定がないならあなたもいらっしゃい。いいわね?」<br /> 誘いと言うよりは命令のような口調で、野島オーナーはそう言い残して帰って行った。<br /><br /> オーナーとお嬢さんを見送った祥子さんが、くすくす笑いながら言った。<br />「ごめんなさいね、沢口さん。突然で、驚いたでしょ?」<br />「はい…あ、いいえ!それより、あたし何か失礼なことしなかったでしょうか?」<br /> 祥子さんは余裕の表情で、首を振った。<br />「大丈夫よ、心配しないで。野島オーナーは、私と有の大学時代の恩師なの。いまもG大の美術史の教授よ。有のことは大学時代からとても買っていて、中学生だった瑞希さんの家庭教師を半ば強引に頼んだのよ。有が大学生の間ずっと、瑞希さんが高校1年になるまで勉強を教えてたの」<br /> そうか、それならアイスのことは、惺以上に知っているはずだ。<br />「大人しそうなお嬢さんでしたね」<br /> 母親であるオーナーとは対照的な瑞希さんを思い出しながら、あたしは言った。<br />「ええ。瑞希さんは、昔から身体があまり丈夫じゃないの。だから塾へ行くよりはって、家庭教師にしたらしいわ。有名女子大を卒業したけれど、身体が弱いせいで就職は結局あきらめざるを得なかったの。いまは忙しい母親に代わって、家事を請け負っているらしいけど…。25歳になるのに出会いがないって、オーナーは心配しているの。やっぱり母親よね」<br /> そうなんだ。女子大で家事手伝いじゃ、出会いは少ないだろうなぁ。あんなに優しそうで、可愛らしい人なのにもったいない…。<br />「あらあら、私ったら、喋り過ぎね。ごめんなさいね、沢口さん」<br />「いいえ」<br /> ふ~む。でもクリスマスは、きっとアイスと瑞希さんをくっけよう作戦だな、とあたしは思った。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> その日のバイトが終わって、あたしは祥子さんに挨拶すると画廊を出た。もうクリスマスのイルミネーションが施され、銀座の街はまるで華やかでロマンティックなアートのようだ。<br /> そしてキラキラと純白の光を纏った樹木の下に、アイスが立っていた。<br />「なんで…今日も」<br /> あたしの姿をすぐに見つけたアイスは、幼子にするようにおいでおいでをする。あたしは逃げなかった、だって無駄だって学習したから。<br />「どうしたんですか?」<br /> あたしは背の高いその人を見上げながら訊いた。<br />「送って行く」<br />「結構です。まだ6時だし」<br />「6時だって、もう暗い。それに、あの夜道は心配だ」<br />「毎日、ちゃんと独りで帰ってます」<br /> そう言ってさっさと歩き出したあたしを追いかけてきたアイスは、すぐに並んで歩き出す。<br />「晩御飯は?」<br />「コンビニで買って帰ります」<br />「つくらないの?」<br />「…」<br /> 独り分、つくったっておいしくない。節約になるどころか、材料が無駄になったりすることもあって、あまり自炊はしない。当然、料理のレパートリーも少ない。<br />「あのラーメン、おいしかったね。面白かったし」<br /> くく、とアイスが笑う。<br /> バカにされてる?<br /> でもそこで、あたしは思い出してしまった。ラーメン代を払っていないことを。今度こそ、奢るべき?<br />「あの、ラーメン代払ってませんでした」<br /> アイスはさらに面白そうに笑って、そして言った。<br />「じゃあ、今夜はキミがご馳走してよ」<br /> え、そうきたか。え~と、今日のお財布の中身は確か4千円くらい。この銀座という大人アウェイの地で、あたしが奢れるものってなんだ?店構えだけでは、悲しいかな、どのくらいの価格帯の店なのか判断がつかない。高級店と知らずに入って、払えないという恥さらしな状況は避けたい。<br /><br /> しばし考えて、あたしは閃いた。<br /> そうだ、カレーという手があるじゃないか!<br /> 庶民の味方、カレー。ジャガイモと人参と玉ねぎと、お肉やシーフードが入っている、喫茶店にだってある定番メニュー。お金持ちもそうでない人も、老若男女、日本人なら嫌いな人は、そういないはず。いくら銀座だって、カレー一皿の相場は800円~1200円くらいだろう。<br />「か、カレーでいいですか?」<br />「カレー?」<br />「はい」<br />「キミ、辛いもの好きだねぇ」<br /> そう言ってアイスは、あたしの顔をまじまじと覗き込む。<br />「い、嫌ならハンバーガーとかでもいいです」<br /> 選択肢が限られていて、悲しい。<br />「いや、カレー好きだよ。じゃあ、そうしよう」<br /> やった!<br /> そう思って、心の中でガッツポーズをつくったあたしは、やっぱり学習しないアホだった。<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br />
  • Date : 2015-03-19 (Thu)
  • Category : アイス
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⑮乙女心とおとめ心

『ぶろぐ村』の方のアクセス数がとても増えていて\(◎o◎)/!ビックリしました。読んでくださっている皆様、ありがとうございます(*´ω`*)「ねぇ、知花ちゃん。知花ちゃんはいま、好きな人いるの?」 惺への気持ちを半分気づいていながら、あたしはそう親友に訊いてみた。 う~ん、と今日のAランチを食べながら、知花ちゃんが考え込む。 因みにめずらしく今日は、早乙女君は一緒じゃない。まぁ、そうでなきゃ、こんな話題振れな... <span style="color:#00CC99">『ぶろぐ村』の方のアクセス数がとても増えていて<br />\(◎o◎)/!ビックリしました。<br />読んでくださっている皆様、ありがとうございます(*´ω`*)</span><br /><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">「ねぇ、知花ちゃん。知花ちゃんはいま、好きな人いるの?」<br /> 惺への気持ちを半分気づいていながら、あたしはそう親友に訊いてみた。<br /> う~ん、と今日のAランチを食べながら、知花ちゃんが考え込む。<br /> 因みにめずらしく今日は、早乙女君は一緒じゃない。まぁ、そうでなきゃ、こんな話題振れないんだけど。<br />「…惺…のことは、どう思ってる?」<br /> あたし史上最大限に気を使って訊いたつもりだけど、恋愛偏差値が低すぎて結局まんまの質問になった。<br /><br />「鯵フライ、おいしい?」<br /> 知花ちゃんが、あたしのBランチのメインを見ながら訊く。<br />「う~ん、ちょっと油っぽい。ハンバーグにして、Aランチにして正解かも」<br /> そう答えながらも、あたしは思っていた。<br />話し逸らしたよね、知花ちゃん?やっぱ、言いたくない?<br />「あの日…」<br /> なのに知花ちゃんは、徐(おもむろ)に話し出した。<br />「あの日?」<br />「うん、惺君に送ってもらった日」<br />「ああ、うん」<br /> 知花ちゃんはつけ合わせのポテトサラダを、お箸で突きながら言った。<br />「かなわないなぁって思ったんだ、乙女の一途さに」<br /> え、どういうこと?<br />「乙女は、高校のときから惺君のこと好きだったんだよね?」<br />「うん、たぶん」<br /> 知花ちゃんが考えていることが、よく…わからない。<br />「で、惺君がそっちじゃないこともわかってる…」<br />「う、うん」<br />「つまり報われる可能性なんか、100%ない恋ってことだよね?」<br /> そう、それをふたりとも十二分に知った上で、あの関係性は逆に凄いと思う。<br /><br />「菜乃果、惺君の好きな食べ物ってなにか知ってる?」<br />「えっ?」<br /> 突然そんなこと言われて、あたしは驚いた。<br />「さ、さぁ?」<br /> 高校3年間、そしていまも友達だけど、惺の好きな食べ物なんて気にしたこともなかった。知花ちゃんが、やれやれといった眼であたしを見る。<br />「2番目は、チキンカツだって」<br />「へ、へぇ?」<br />「それもね、ソースじゃなくて辛子とお醤油で食べるのが好きなんだって」<br />「そ、そうなの?」<br />「で、1番目に好きなものは、乙女と惺君の秘密だって」<br /> おいおい、凄い牽制だな、それ、早乙女君。<br /> 険しい顔をしたまま、知花ちゃんが続ける。<br />「苦手な生き物って、何か知ってる?」<br /> え、え? それは好きな食べ物より、ハードルが高い。じぇんじぇん、わかりませんっ。<br /> あたしの答えなんか、最初っから期待していなかったみたいに知花ちゃんが言う。<br />「蜘蛛だって。小さい頃、刺されたんだって。それ覚えていないはずなのに、蜘蛛を見るといまだに条件反射で冷や汗が出るらしい」<br /> そうなんだ…。でも、なんで知花ちゃん、そんな話してるの?<br /><br />「乙女はね、そんな思い出話を、それはそれは楽しそうに惺君としてるの。ふたりの間には恋じゃないけど、なんか友情とも違う温かな理解と信頼があって、なんかかなわないなぁって思っちゃった」<br /> かなわないって、知花ちゃん。知花ちゃんと惺は、まだこれから恋に発展する可能性が…。<br />「女子のあたしが、あたしより遥かに女子力高い男子に負けてんだよっ!」<br /> 知花ちゃんが、がばっと頭を抱えて学食のテーブルに突っ伏す。おっと、危ない。お箸が転がりそうになった。<br />「ち、知花ちゃん。でも、でもね…」<br /> 今度はがばっと顔を上げた知花ちゃんが、真顔で言う。<br />「乙女、本気なんだよ。それに比べたら、あたしなんか…」<br /> 知花ちゃんが、ちょっと悲しそうに笑う。<br />「惺君のこと、いいなって思ってた。それはさ、いままであたしの周りにはいなかったタイプだったし。見た目だって変ってるけどカッコいいし。優しいし、頭いいし。でも、それってなんか好奇心っていうか、男子とつきあうことへの憧れっていうか…」<br /> うん、わかる気がする。つきあってみたいよね、恋人ほしいよね、だって大学生になったんだもの、もうすぐハタチになるんだもの。<br />「でも、乙女は違う。報われなくても、ううん、報われないってわかってるのに、全力で惺君が好きなんだ。その気持ちの前に、あたし、自分の気持ちが本物じゃないって思い知らされたんだ」<br /> 知花ちゃん…。<br /> 切ないな、恋って。 早乙女君の乙女心も、あたしたちのおとめ心も…。<br /><br />「あ、そうだ。菜乃果、知ってる?あの、りこって人、物ごころついたときから、アイスのお嫁さんになるって言い続けてるんだって」<br /> 知花ちゃんがいきなり、話題を変えた。びっくり、一瞬置いてきぼりされそうになった。<br />「え、えっと。そうなの?」<br />「なんか、近くの産婦人科医の長女なんだって。で、アイスと惺君の幼なじみみたいなもの?アイスとは5コ離れてて、惺君の8コ上、つまり27歳」<br /> 送ってもらったときにそこまで訊き出したんだ、凄いリサーチ力だね、知花ちゃん。<br />「惺君を取り上げたのが、あのりこって人の父親なんだって。で、あの人は長女だから、ホントは産婦人科医と結婚して医院を継がなきゃいけなかったらしいんだけど、アイスと結婚したいからって、それを大人しい妹に押しつけたらしいよ。ホント自分勝手なお嬢様っ」<br /> 知花ちゃんが、マジに憤慨しながら言った。まぁ、確かに我慢に見えるけど、でもそれだけ、それこそアイスに“本気”だってことでもある。<br />「だから菜乃果、負けちゃダメっ」<br />「え、え?知花ちゃん、なに言ってるの?」<br />「これはあたしの勘だけど、アイスは菜乃果のこと狙ってる!」<br /> や、やめてよぉ~、そんな怖いこと言わないで。<br />しかも、あの勝気そうなりこさんに勝てる気が1㎜もしない…て、勝負するのか?あたし。 いや、しないだろ。<br />「ち、知花ちゃん、あたし、勝負する気ないから…」<br />「なに、戦う前に敵に背中見せてんのよっ」<br /> だ、だから、敵じゃないし…。あたしじゃ、敵にならないから。恋愛経験なくて、弱っちいし。それにアイスだって、りこさんだって迷惑だろうし。</span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br />
  • Date : 2015-03-18 (Wed)
  • Category : アイス
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⑭恋は一筋縄じゃいかない

 水曜日の2限目は、あたしは授業を取っていない。 1限が終わってお昼までの間を、図書館や近くのコーヒーショップで過ごすのが好きだ。本を読んだり、イヤホンをして音楽を聴きながらぼぅっとするのもいい。たった90分がとても贅沢な時間のように思える。 今日は、コーヒーショップで大好きな作家の文庫本を読むことにした。カウンターでカフェラテのMサイズを頼んで、あたしは2階へ行く。 大学の近くのこのコーヒーショップは... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> 水曜日の2限目は、あたしは授業を取っていない。<br /> 1限が終わってお昼までの間を、図書館や近くのコーヒーショップで過ごすのが好きだ。本を読んだり、イヤホンをして音楽を聴きながらぼぅっとするのもいい。たった90分がとても贅沢な時間のように思える。<br /> 今日は、コーヒーショップで大好きな作家の文庫本を読むことにした。カウンターでカフェラテのMサイズを頼んで、あたしは2階へ行く。<br /> 大学の近くのこのコーヒーショップはいつも混んでいて、今日もカウンターしか空いていない。隣の人と一つ席を空けて座ると、あたしはイヤホンをして文庫本を出した。<br /> 本を読むときは、音楽はかけない。こんなとき、イヤホンは本の世界に集中するための小道具になる。<br /><br />「沢口さん?」<br /> ぽんぽんと軽く肩を叩かれて、あたしは本から顔を上げた。<br />「あ、近藤君」<br /> 同じクラスの近藤理史(さとし)君だった。<br />「呼んだんだけど、聞こえなかったみたいだから」<br /> そう言いながら、あたしの耳のイヤホンを指す。<br />「あ、ごめんね」<br />「ううん、こっちこそ。邪魔した?」<br /> 今度は、あたしが手にしている本を見ながら訊く。<br />「そんなことないよ。よかったら、どうぞ」<br /> 店内は相変わらず混んでいるので、あたしは隣の空いている席を勧めた。<br />「ありがとう」<br /> そう言うと、近藤君は隣の席に座ってコーヒーらしき容器をテーブルに置いた。<br />「沢口さん、休講?」<br />「ううん。あたし、水曜の2限は授業取ってないの。近藤君は?」<br />「うん、僕も。偶然だね」<br /> そう言いながら、近藤君はコーヒーを飲んだ。<br />「でも、この時間、ここで会うのは初めてじゃない?」<br /> すると近藤君は、ちょっと間を置いてから言った。<br />「僕は、何回か見かけたことあるよ。ここで、沢口さんのこと」<br /> そうなんだ…気がつかなかったな。<br />「あたし、いつもぼんやりしてるから」<br /> あははっと笑ったあたしに、近藤君は意外なことを訊いた。<br /><br />「この間の学祭に、氷川 惺、来てなかった?」<br /> え…なんで知ってるの?惺のこと。 だって近藤君は、あたしたちとは違う高校だったのに。<br />「来てたけど…」<br /> あたしの表情から、言いたいことを読んだみたいに近藤君は言った。<br />「高校が違うのに、なんで知ってるの?って顔してる」<br /> うわ、やっぱ、あたしって感情が顔に出やすいんだ。悔しいけど、アイスが言った通りだ。<br />「全国模試」<br /> あ、そうか。<br /> 高校1年のときから全国模試で常に上位だった『氷川 惺』という名前は、他校の生徒でも記憶に残ったことだろう。あたしだって、惺と同じように上位の常連だったもう一人の優等生の名前を、いまでも覚えているくらいだ。でも名前を知っているというのはわかるけど、なんで近藤君は惺の顔まで知ってたんだろう?<br />「なんで、惺の顔まで知ってるの?」<br />「僕さ、上位に名前なんか載らなかったけど、実は英語だけはいつも点数良かったの。でもあるとき同じ塾に通ってる生徒から、氷川 惺は理数系だって訊いて。それからは、密かに英語だけでも彼に勝つことを目標にしてたんだ」<br />「そうなんだ」<br />「うん。勝手に勝負してたわけなんだけど、これがなかなか勝てない。悔しくってさ、いったいどんなヤツなんだろうって気になって」<br />「うん」<br />「同じ塾のキミたちと同じ高校の友達と、校門の前で氷川 惺を待ったことがあったんだ」<br /> へぇ、そんなことがあったんだ。 わざわざ顔を見たいとまで思わせるなんて、さすが惺というか…。でも、実際の惺を見たらきっとびっくりしたろうなぁ。<br /><br />「友達が、アイツだよって指さす方向を見たら、茶髪の不良たちが5~6人つるんで下校してきた。その一番最後に、やけに生っ白い気弱な感じの男子が嬉しそうに従ってた。あれって、いまうちの大学にいる早乙女だよね?」<br /> その通り。そのときから、近藤君は早乙女君のことも知ってたわけか。あたしは肯定するように、近藤君に頷いた。<br />「僕、勝手にクソ真面目なガリ勉男を想像してたから、実際の氷川 惺を見たときは軽くショックだったんだ」<br /> なんか、わかる。 惺って、意表をつくヤツだから。<br />「茶髪で背が高くて、結構カッコよかったから」<br />「うん。ウチの高校、かなり自由な校風だったからね。それと惺は不良とつるんでたんじゃなくて、落第しないように面倒見てたんだけどね」<br /> 近藤君が、苦笑いしながら頷いた。<br />「だから余計に悔しくってさ。勝てねぇ~って思った」<br /> 正直だな、近藤君。あたしはなんだか好感が持てて、笑ってしまった。<br /><br />「ところでさ、氷川 惺って、沢口さんの彼氏?」<br />「えええぇ~っ!」<br /> どうして、そうなる?<br />「違うの?」<br /> あたしはぶんぶん頭を振って、全力で否定した。<br />「まさか、ゲイ?」<br /> 再び激しく否定するあたし。<br />「じゃあ、もしかしてだけど…長倉知花さんの彼氏とか?」<br /> その言い方が、なんだか窺うようで自信なさ気で、あたしはあれ?って思った。<br /> もしかして…近藤君。<br />「違うよ、いまのところは、たぶん」<br /> 知花ちゃんはおそらく惺が気になってるはずだけど、惺は…。<br />「いまのところは…たぶん?」<br />「う、うん。え、え~と、なんて言ったらいいか…。そうだ!いまのところは三角関係で、早乙女君と恋のライバルっていうか……あ¨」<br /> 近藤君の顔に軽く失望の色が浮かんで、あたしは自分の失言を後悔した。<br /> ばかばか、バカ正直なあたし。この、おっちょこちょい!<br /><br /><br />「お、応援するからっ」<br /> 一緒にコーヒーショップを出て、別れ際にそう言ったあたしに、近藤君はちょっとだけ笑って見せてくれた。<br /> ああ、なんで恋って一筋縄じゃいかないんだろ。好きになった人が、必ず振り向いてくれたらいいのに。みんなが好きな人と、すんなりカップルになれたらいいのに。<br /> 彼氏がいた経験がない、あたしが言うことじゃないけど。<br /> 切ない想いや、報われない辛さ、スリリングな駆け引きなんかが、恋と人生を豊かにしてくれることもあるなんて、まだまだ子供のあたしは気づきもしなかった。<br /></span></span><br /><br /><span style="color:#00CC99">「いつまで回り道続けんだよっ」て自分でも思いますが、<br />今日も脇道(ケモノ道?)に入り込んでます(;´Д`)<br />スミマセン。。。<br /></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br />
  • Date : 2015-03-17 (Tue)
  • Category : アイス
448

⑬切ない絵と送りアイス

 温かで豪華でおいしいご馳走を思う存分食べたあたしたちは、食後の緑茶をいただいていた。 なんかちょっとモヨオシてきたあたしは、惺に小声で訊く。「惺、トイレ行ってくる」「あ、1階のはいま、りこちゃんが入ったかも。2階へ行く?」「うん、場所教えて」「案内するよ」 惺と一緒に2階へ行く。氷川家へは来たことがあるけれど、2階へ上がるのは初めてだ。昇る階段の途中に、1階のリビングダイニングに掛けてあったのとは趣...  <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">温かで豪華でおいしいご馳走を思う存分食べたあたしたちは、食後の緑茶をいただいていた。<br /> なんかちょっとモヨオシてきたあたしは、惺に小声で訊く。<br />「惺、トイレ行ってくる」<br />「あ、1階のはいま、りこちゃんが入ったかも。2階へ行く?」<br />「うん、場所教えて」<br />「案内するよ」<br /> 惺と一緒に2階へ行く。氷川家へは来たことがあるけれど、2階へ上がるのは初めてだ。昇る階段の途中に、1階のリビングダイニングに掛けてあったのとは趣きが違う絵があった。<br />「これ…」<br />「ん?ああ、兄貴が書いた絵」<br />「氷川先生が?」<br />「うん、確か中学2年のとき。都の賞取ってるはずだぞ」<br />「ふ~ん」<br />「あ、菜っ葉。トイレはその廊下のつき当り、右側ね。終わるまで、待っててやろうか?」<br /> 惺が悪戯っぽく笑う。<br />「いいよ。子供じゃないから、わかる」<br />「はは、だな」<br /> そう言うと、惺は階段をたんたんたんと軽快に降りて行った。<br /><br /> トイレで用を足し、1階へ戻る階段の途中で、あたしは例の絵をまじまじと眺めた。1階には明らかに画家の作品だとわかる絵が何点か飾られていて、確か惺のお母さんは絵画を鑑賞するのも描くのも好きだと訊いた気がする。<br /> そうだとすると氷川先生が、絵が上手かったり、芸術大卒だったりするのは、お母さんの遺伝子なのかもしれないなぁ、なんて思った。<br /> にしても、何か違和感がある絵だった。その違和感の正体を確かめたくて、あたしはじぃとその絵を見た。<br /> アイスが描いた絵は、母親の後ろ姿だった。おそらくキッチンに立って夕食でもつくっているところだろう、柔らかな色調でほのぼのとしたシチュエーションのはずなのに、なぜか底から沸き上がるような寂寥感を感じてあたしは両腕で自分の躰を抱いた。<br /> この淋しさ、切なさはなんだろう?<br /> 子供が描く母親の絵は、大体正面で笑顔が定番ではないか?でも中学2年は、もう子供ではないのだろうか?かと言って大人とも言えない。<br />  中学2年と言えば13~14歳…おそらく惺が生まれた頃…。<br />  アイスの中に冷徹さとは別の、ひんやりとした孤独を見たような気がして、その絵はあたしの脳裏に刻まれた。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「本当に、ご馳走さまでした」<br /> 氷川家の玄関で、知花ちゃんと早乙女君、あたしの3人は揃ってお母さんに深々と頭を下げた。<br />「また来てくださいね。ウチは息子ばかりだから、女の子が来ると華やいでいいわ。早乙女君も、ずっと惺と仲良くしてくれてたなんて嬉しかった」<br /> 仲良く、という言葉にぽっと頬を赤らめながらも早乙女君が大きく頷く。<br />「じゃ、お母さん。俺、長倉さんと菜っ葉を送って行くから」<br />「ええ、気をつけてね、惺」<br /> そう言ってお母さんは、あたしたちを送り出してくれた。<br /> アイスはもう2階の自室に上がってて見送りなんてしなかったし、アイスが2階へ上がったのを機にりこさんは興味をなくしたように自宅へ帰って行った。ある意味、もの凄くわかりやすくて正直な人だと思った。<br />「ああ、楽しかったぁ」<br />「うん、それに凄くおいしかったね」<br /> 知花ちゃんとあたしは、腕を組みながら並んで歩く。その後ろを惺と早乙女君が、ついてくる。<br />「まず菜っ葉を送ってから、長倉さんって順番かな?な、乙女」<br /> そう言いながら惺は、後ろから走ってくる足音に気がついて振り返った。<br />「あれ?兄貴?」<br /> 街燈に照らされて揺れるその細長いシルエットは、あっという間にあたしたちに追いついた。<br /><br />「惺」<br /> 走って来たのに、さほど息が切れた様子もなく、アイスが弟の名前を呼ぶ。<br />「お前独りで女の子たちを送って行くのは、大変だろ?」<br /> そう言ったアイスを見ながら、早乙女君はどっちにカウントされてるんだろうなぁとあたしは考えていた。送って行く方?送られる方?そのどちらでもない?<br />「兄貴、帰るの?泊まってかないの?」<br />「ああ。明日も仕事だから」<br /> そう言うとアイスは、真っ直ぐにあたしを見てギョッとするようなことを言った。<br />「こっちの子は、俺が送って行く」<br />「えっ」<br /> 驚いたあたしの顔と、アイスの顔を知花ちゃんと早乙女君が交互に見ている。<br />「ああ、そうだね。じゃ、俺は乙女と一緒に長倉さんを送って行くから」<br /> さらっと了承した惺に、あたしは抗議のまなざしを向けた。<br />「ちょ。惺、ヤダ、あたし」<br />「だって、その方が遅くならないし合理的でしょ?菜っ葉、我儘言わない」<br /> わ、我儘なの?あたしの?<br />「ち、知花ちゃ~ん」<br /> そう縋ったけど、知花ちゃんの顔には「あたしはアイスに送ってもらうの無理っ!」と書いてある。<br />「さ、行こう」<br /> アイスが半ば強引に、あたしの肩を抱いた。<br />びくん、と緊張が走り、それが如実に伝わったせいか、アイスに顔を覗き込まれた。か、顔が近い…よ。<br />「じゃ、先行くから、惺」<br />「うん。菜っ葉、じゃあ、またな」<br /> アイスがどんどん長い足で歩いていく。行きがかり上、小走りになりながらついて行く。振り向くと、のんびり歩く3人が手を振っていた。<br /> 7分ほどで駅に着いて、アイスとあたしはすぐに来た電車に乗った。並んで吊革につかまりながら、あたしたちは車内ではひと言も口をきかなかった。<br /><br /> あたしのワンルームマンションがある最寄り駅で降りる。<br />「駅からどれくらい?」<br /> 改札を出ると、初めてアイスが口を開いた。<br />「10分くらいです。だからもう、独りで大丈夫です」<br /> そう言ったあたしの言葉を無視して、アイスが歩き出す。しょうがないので、あたしも黙って隣を歩く。無言の空気が重たい…。<br /> 居たたまれなくなって、あたしはどうでもいいことを話す。<br />「仲、いいんですね」<br />「え?」<br />「あの…りこさんでしたっけ?」<br />「キミの眼は、節穴?」<br /> え…、いきなりめっちゃ失礼な返し。思わず、むっとしてまた黙り込んでしまう。<br /> ぷ、とアイスが笑った気配がした。気分が悪い、ふん、もう口きかないっ。<br />「もしかして、ヤキモチ?」<br /> ななな、なんであたしがっ? ヤキモチって、まるであたしがアイスに気があるみたいなっ…。<br />「ち、違いますっ。そんな訳ないじゃないですかっ」<br />「なんだ」<br /> な、なんだって、どういう意味っ? からかってる? ますますムカついて、顔を背ける。<br />「ぷ。…子供だね」<br /> なっ!<br />「すぐに感情が顔に出る」<br /> わ、悪かったですねっ。 あたしはあなたと違って、鉄面皮でも冷血なボーカーフェイスでもありませんからっ。<br />「ん?」<br /> むす、としたまま返事もしないあたしの頬を、ひんやりした指が突いた。<br />「な、何するんですかっ」<br /> 驚いてアイスを見上げてしまった。<br /> そして思いがけず、優しいまなざしに捕まってしまった。<br /> え…眼鏡の奥の光が、妖しい。まつげ、長いんだ…。<br /> そう、あたしは背が高くて、眼鏡をかけた理知的な人に弱い。大人で、絶対かなわないって思わせてくれる年上の人が憧れ…。でも、でもっ、それは絶対、こんな意地悪で冷たい人なんかじゃなくて…。<br /> や、やだ。あたしったら、なに考えてるんだろう。<br /> 慌てて眼を逸らして下を向いたけど、顔が火照るのが嫌でもわかる。<br /> くすくす、と余裕の笑い声が聞こえて、あたしはいっそう恥ずかしさで死にそうだ。<br />「可愛いね」<br /> なっ! も、もう、ホントに口きかないっ。<br /><br /> やがて、ワンルームマンションの前に着く。<br />「管理人は常駐じゃないの?」<br /> アイスがそう眉をひそめた。<br /> あたしの父は転勤族で、ごくごく一般的な経済状態だ。兄は海外留学中だし、兄妹ふたりの子供はともに学費も生活費もまだまだかかる。これでも大学に通いやすい小綺麗なところを選んでくれた両親に、あたしは感謝している。<br />「ウチは、これで精一杯なんです。先生とこみたいにお金持ちじゃないんです」<br /> その言葉を訊いているのかいないのか、アイスはワンルームマンションの周りを何かを確かめるように歩き回る。<br />「民家はあるけど、大通りからは入った道だし、夜はあまり遅くならない方がいい」<br /> 余計なお世話。そう思ったけれど、口にするとまた子供だと思われかねないと思ったので、あたしはアイスに頭を下げて言った。<br />「送ってくださって、ありがとうございました。お休みなさい」<br /> まだ何か言いたそうにしているアイスを残して、あたしはマンションの小さなエントランスに小走りに駆けこんだ。<br /></span></span><br /><br /><span style="color:#00CC99">送りアイスは、オオカミにはなりませんでした。。。<br />〈じれじれ〉というよりは〈のろのろ〉呑気な展開で、<br />まっことスミマセン(*´ω`*)<br /></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-03-16 (Mon)
  • Category : アイス
447

⑫氷川家訪問

これで第1章の半分くらいです。アイス=有さんの本性(?)が出るのはこの章の後半くらいから~(*´ω`*) 駅で知花ちゃんや早乙女君と合流して、あたしたちは立派な門構えの氷川家へ向かった。 あたしは高校のときに2回ほどお邪魔したことがあるけど、惺と不良仲間のパシリだった早乙女君は学校帰りにしょっちゅう立ち寄っていたらしい。そこで惺は仲間に勉強を教えていて、そのお蔭で赤点落第の危機にあった不良たちもなんとか留... <span style="color:#00CC99">これで第1章の半分くらいです。<br />アイス=有さんの本性(?)が出るのはこの章の後半くらいから~(*´ω`*)</span><br /><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> 駅で知花ちゃんや早乙女君と合流して、あたしたちは立派な門構えの氷川家へ向かった。<br /> あたしは高校のときに2回ほどお邪魔したことがあるけど、惺と不良仲間のパシリだった早乙女君は学校帰りにしょっちゅう立ち寄っていたらしい。そこで惺は仲間に勉強を教えていて、そのお蔭で赤点落第の危機にあった不良たちもなんとか留年せずに済んだのだ。だけど人の面倒を見て自分の勉強もして、学年トップをキープしT大に現役で合格した惺はホント凄いと思う。<br />「勉強教えてると、逆にわかるのよ。どこが引っかけだとか、合理的な解答のコツだとか、よく出る過去問とか」<br />「へぇ、そうなんだ」<br /> と感心する知花ちゃんは、もちろん氷川家訪問は初めてだ。<br /><br /> 樹木と花壇が綺麗に手入れされた庭を通って、洒落た門燈が優しい光を投げかける玄関に向かう。窓から零れる室内の灯りが、独り暮らしで最近家族の温もりに飢えているあたしには、とても温かに見える。<br /><br />「たっだいまぁ~」<br /> 惺が大きな声でそう言って、玄関のドアを開けた。<br />「あら、おかえりなさい。まあま、いらっしゃい、みなさん」<br /> 久しぶりに会う惺のお母さんは、相変わらず優しそうで綺麗だった。上品なスモーキーピンクのセーターとベージュのエプロンが良く似合う。髪は綺麗にアップにして、キラキラ光るコームをしていた。<br />「は、初めまして」<br /> 素敵な教授夫人といった雰囲気のお母さんに、知花ちゃんが緊張しながら挨拶する。<br />「まぁ、ようこそ。早乙女君も久しぶりね。え~と、沢口さんだったかしら?」<br /> 覚えていてくれたことにちょっと感動しながら、あたしたちはお土産のお菓子の包みを差し出す。<br />「まぁ、気を遣わなくてよかったのに」<br /> そう言いながら、お母さんはどうぞどうぞとあたしたちをリビングダイニングへ導いてくれた。<br /> ダイニングルームのテーブルの上には、もう沢山のご馳走が並べられていて、あたしたちは思わず小さな歓声を上げる。<br /> それを訊いたお母さんが、嬉しそうに微笑んだ。<br />「遠慮しないで、沢山食べてね。惺、飲み物は何がいいの?」<br />「え~と、コーラとお茶とアイスミルクティと…」<br /> そう言いながら、惺がお母さんについてキッチンに消えた。<br /> その隙に、あたしたちは行儀悪くテーブルのご馳走を食い入るように見てしまった。<br /> 生ハムとベビーリーフのサラダ、キッシュ、いろんな串揚げ、お豆腐と青梗菜の中華煮、お刺身の盛り合わせ…。<br />「す、凄い…和洋中揃ってる」<br /> 知花ちゃんがごくりと生唾を飲む。<br />「相変わらず豪華…」<br /> と言った早乙女君に、あたしは思わず呟いてしまった。<br />「惺って、いつもこんなご馳走食べてるのかなぁ」<br />「んな訳ないだろ、菜っ葉」<br /> いつの間にか戻ってきていた惺に、頭をぱこんと叩かれる。<br />「まぁ、惺ったら。女の子の頭を叩くものじゃないわ」<br /> お母さんがそう窘(たしな)めたそのとき…。<br /> ピンポンピンポンピンポン、とけたたましくインターホンが鳴った。<br />「誰かしら?」<br /> とインターホンを取ったお母さんが、あらぁと笑って玄関へ向かった。<br /><br />「もう、おばさまっ。有さんが帰ってきたら必ず、りこに連絡してねってお願いしてたのにっ」<br />「はいはい、ごめんなさいね、りこちゃん。今日は、惺のお客様もあったものだから」<br /> 惺のお母さんより先に、ちょっと勝気そうなショートカットの女性がずかずか勝手知ったる様子で入って来た。<br />「あら、惺」<br /> りこと呼ばれたその女性は、惺とあたしたちをじろりと一瞥するとまたお母さんに向かって遠慮なく訊ねる。結構、失礼な態度である。<br />「ねぇ、おばさまぁ。有さんは?どこ?」<br />「2階の自分の部屋よ」<br /> それを訊くなり、りこさんは2階へ向かう。<br />「有さぁ~ん、有さんっ。りこよ、りこ。もう、ショッピングから帰ったら、うちのお母さんが有さん見かけたっていうから飛んできたのぉ~」<br /> 後に残された知花ちゃんと早乙女君とあたしは、しばらく呆然とその姿と声を追っていたけど、はっと我に返った。<br />「せ、惺。アイ…じゃなかった、氷川先生、帰ってきてるの?」<br /> 焦って訊くあたしに、惺は呑気に応える。<br />「お母さん、兄さん、帰ってたの?」<br />「ええ。夕方、急に。久しぶりだったから、嬉しかったわ。でも、できればお父さんが学会で留守のときじゃなければもっとよかったのに」<br /> あたしは一気に不安になって、知花ちゃんの服の袖を引っ張る。<br /> どうしよう…目顔でそう言ったあたしを勇気づけるように知花ちゃんが頷く。<br />「だいじょぶ、菜乃果」<br /> そんなあたしたちにお構いなしに、惺は言った。<br />「さぁ、食べようぜぃ。腹減ったぁ~」<br />「そうね。蟹の炊き込みご飯と、豚汁もあるから遠慮なく食べてね」<br /> ご、豪華だ。思わずきゅるるんと小さくなった自分のお腹を抑えた。<br /><br /> 惺と早乙女君と知花ちゃんと、文字通り遠慮なくめったに食べられないご馳走にがっついていると、2階から再びあの女性の声が降って来た。<br />「だからね、有さん。りこね…」<br /> アイスの腕にぶら下がるように2階から降りてきたりこさんは、あたしたちをまるっと無視してふたりでリビングのソファへ向かう。<br /> 通り過ぎる瞬間にアイスがあたしたちの方を見たので、慌てて立ち上がった知花ちゃんと早乙女君とあたしは、からくり人形みたいなぎこちなさで取りあえずお辞儀をした。<br /> それに軽く頷いたアイスを認めると、りこさんが怪訝そうに訊ねている。<br />「なぁに?あの子たち、有さんも知り合いなの?」<br />「非常勤してる大学の学生だ」<br />「ふ~ん」<br /> 興味なさそうに、それでもりこさんがこちらをちらっと見る。あたしたちは、その彼女にも慌ててお辞儀をした。<br />「有、あなたも夕飯食べるでしょ?りこちゃんは?」<br /> リビングのソファに座ったふたりに、お母さんがそう声を掛けた。<br />「おばさまっ、有さんのは、りこが持っていく」<br />「りこちゃんは?」<br />「う~ん、じゃ、ちょっとだけ」<br /> お母さんは慣れているのか苦笑しながら、大皿にふたりの分を取り分けている。<br /> なに?あのわがまま娘、とでも言いたげに、知花ちゃんがあたしを肘で突く。<br />「はい、りこちゃん、お願いね」<br /> お母さんがりこさんを呼ぶと、飛ぶようにやって来た彼女は当然のように大皿2枚を受け取った。<br />「炊き込みご飯と豚汁は、私が持っていくわね」<br />「はぁ~い。おばさま、りこはご飯も豚汁もいらないわ」<br />「はいはい」<br /> なんつ~、お嬢様然とした態度。さすがのあたしも、あきれ顔になったのを見て惺が面白そうに言う。<br />「りこちゃんは、世界は自分のためにまわっているような人だから。ま、あそこまで自由奔放なお嬢だと逆に気持ちいいっしょ」<br /> かなぁ~?憮然とした表情を元に戻しつつ、あたしには関係ないことだと思い直した。</span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br />
  • Date : 2015-03-15 (Sun)
  • Category : アイス
446

⑪学祭と打ち上げ

 11月最初の土曜日、空は見事に快晴だった。「みんな、がんばってね。衣装でキツいとことか、直すところない?」 朝から早乙女君は、衣装を着けてリハーサルするサークル部員たちのおかん状態だ。「乙女~、そろそろ惺君迎えに行かなくていいの?」 知花ちゃんの言葉に、はっと我に返った早乙女君は慌てて体育館の時計を確認する。「わ、10分前だ。行ってくるね」 今度はいそいそと恋人を迎えに行くメイドさんよろしく、エプロ... <br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br /> 11月最初の土曜日、空は見事に快晴だった。<br />「みんな、がんばってね。衣装でキツいとことか、直すところない?」<br /> 朝から早乙女君は、衣装を着けてリハーサルするサークル部員たちのおかん状態だ。<br />「乙女~、そろそろ惺君迎えに行かなくていいの?」<br /> 知花ちゃんの言葉に、はっと我に返った早乙女君は慌てて体育館の時計を確認する。<br />「わ、10分前だ。行ってくるね」<br /> 今度はいそいそと恋人を迎えに行くメイドさんよろしく、エプロンのぽっけから出した鏡を見る早乙女君。手首に針山つけてるのはわかるけど、なんでふりふりエプロン姿なのかは謎だ。でも、きっと可愛くしたかったんだね、惺のために。なんだか健気だな、早乙女君。<br /> <br /> 同じ曲を踊る6人で帽子を掲げるタイミングを最終確認していると、今日もハジけた金髪パンク少年みたいな惺とエプロン姿の早乙女君が一緒に体育館の入口に姿を現した。<br /> サークル部員や体育館に居た他のクラブの人たちの視線が、ふたりに集中したのは無理もない。すこぶる眼を引くカップルだ。<br /> そんな視線を全く意に介さず、今日も惺はマイペースで近寄ってくる。<br />「おー、菜っ葉。カッコいい。そのネクタイ、似合ってるよ」<br /> 惺がそう言って、あたしのネクタイを軽く引っ張る。<br />「ね、ね、あたしは?似合ってる?」<br /> 知花ちゃんが、コバルトブルーと黒のエロ可愛い衣装でくるりとターンして見せた。<br />「おぉ、エロいね。似合うよ」<br />「早乙女君のエプロン姿も可愛いでしょ?惺」<br /> そうあたしが言うと、早乙女君は惺の隣で顔を真っ赤にしてもじもじしている。<br />「乙女は…」<br /> ごくりと唾を飲み込む早乙女君の肩を、ぱしぱし叩きながら惺が笑う。<br />「うん、可愛いよ」<br /> その言葉にめっちゃ嬉しそうにしている早乙女君が、マジ可愛い。<br /><br />「ところで菜っ葉、緊張してる?」<br /> 惺が、冷たくなっているあたしの頬にかるく触れながら訊く。<br /> そう、あたしは結構な緊張しいだ。大事なときは必ずと言っていいほど、手と頬が冷たくなる。実力テストとか、全国模試とか、やっぱりダンス部だった高校の学祭のときとか。<br />「ほら」<br /> 惺がそう言って差し出したのは、ミルクキャンディだ。甘いものがあまり得意でないあたしでも大好きな、ごくごく普通のミルクキャンディ。高校時代から、緊張する場面とか、落ち込んでいるとき、何でもないときもよく惺がくれたものだ。<br />「菜っ葉、きっと上手く行くから。はい、あ~ん」<br /> そのおまじないのような言葉も、あ~んしてくれる仕草も昔のままで、あたしは安心して、ぱこ、と口を開けた。その中に、惺は慣れた手つきでミルクキャンディを放り込んだ。<br /> 知花ちゃんと早乙女君が、いいなぁ~っていう視線を投げてくるから、あたしは言った。<br />「ね、惺。知花ちゃんと早乙女君にも、おまじないのキャンディ、お願い」<br />「お、そうだな」<br /> 嬉しそうに並んで口を開ける知花ちゃんと早乙女君にも、惺はミルクキャンディを放り込む。<br />「はい、きっと上手く行くよ。あ~ん」<br /><br />「はぁ~い、みんなそろそろスタンバイ、行くよっ」<br /> 部長の声がして、あたしたちは再び緊張した面持ちになる。<br />「じゃ、氷川君と応援してるから。みんな、頑張って」<br /> そう言う早乙女君に大きく頷いて、知花ちゃんとあたしは部長のところへ駆けて行った。<br /><br /> あたしたちダンスサークルのステージは11時と15時の2回だ。他にもダンスのチームやサークルが参加していて、午前と午後で、それぞれ2時間超えの充実した内容になる予定だ。<br /> 1曲目でステージに上がって、意外なほど大勢のお客さんを眼にしたときは足が震えたけど、口の中に残るほの甘いミルクキャンディに力をもらって、あたしは懸命に頑張った。ちょっとしたミスはあったけど、気づかれない程度の失敗にほっとして、最期に全員で踊る曲は目いっぱいハジけることができた。<br /><br /> 午後のステージまでは間があるので、約2時間の食事兼休憩で惺と早乙女君、知花ちゃんの4人でほかの学祭の催し物を見たりしながらお昼を食べた。<br /> 午後のステージの1時間前には、また体育館に集まってリハーサル。<br /> 午後のステージは、午前に1回経験しているからちょっと余裕…のはずだったのに。見つけてしまった、その姿を。<br /> 特設ステージの左側、木立とベンチがあるすぐ横に、ひと際背の高い人。<br /> アイス…だ。<br /> そう思った瞬間に、帽子を戻しかぶるタイミングが遅れた。<br /> あっ。<br /> ちょっと慌てた表情をしたのを、きっと見られた。そう思ったら、アイスの方をもう2度と見ることができなかった。<br /> だけど一瞬確かに目にしてしまった、射抜くような視線。そして、なぜか自分のネクタイをわざとらしく触る長くて綺麗な指。<br /> 嫌なヤツ、なんで見に来るの?もう、あたしの視界とか世界に入ってこないで。なんだか説明のつかない怒りが湧いてきて、午後のステージが終わるまであたしの心は乱れたままだった。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「先週は、お休みして申し訳ありませんでした」<br /> 11月最初の土日は学祭だからと、初めからお休みをもらっていたけど、翌週のバイトであたしはそう祥子さんに謝った。<br />「うふふ、学祭は楽しかった?」<br />「あ、はいっ」<br />「いいなぁ、懐かしいな。若いっていいわね」<br /> そう祥子さんは明るく行って、事務所に消えた。<br /><br /> 土曜日のその日、もうすぐティールームでのバイトが終わろうとする頃、入口のドアが開く気配がした。<br />「いらっしゃいませ」<br /> と言ったあたしに釣られるように入口を見た店長が、固まった。<br /> 店長とあたしの視線の先には、金髪をつんつんに立て膝の抜けた細身のダメージジーンズに真っ赤な革ジャン、首にはどくろ柄のスカーフを巻き両耳ピアスの惺がにっこり笑って立っていた。<br />「よ、菜っ葉」<br />「し、知り合い?」<br /> 思わずあたしの顔をまじまじと見て、そう訊く店長におかしさを堪えながら頷く。<br />「はい、高校の同級生です」<br /> 上品なお客様多いティールームで浮きまくっている惺に、あたしはお水と紙おしぼりを持っていく。<br />「迎えに来た」<br />「うん、あと10分くらいで終わる。なんか、飲む?」<br /> 惺はメニューも見ずに言った。<br />「ここ、コーラないよね?しょうがない、オレンジジュース」<br /> オレンジジュースのオーダーを伝えると、カウンターから山形さんが顔を出して言う。<br />「派手な子だねぇ。なに、沢口さんの彼氏?」<br />「まさか、高校の同級生です。それにああ見えて、IQ140超えてるT大生なんですよ」<br /> へぇ、と惺をもう一度見ると、山形さんは厨房奥に消えた。<br /><br /> 18時ちょうどにティールームでのバイトを終えると、惺と揃って画廊の祥子さんに挨拶に行く。<br />「あら、惺。どうしたの?今日は」<br />「菜っ葉のお迎え」<br />「あら、デート?」<br />「違います、家で学祭の打ち上げすることになって」<br />「あら、いいわね。お料理上手なお母様によろしく言っておいて」<br />「了解です」<br /> それから惺と連れ立って、氷川家のある最寄り駅へ向かう。そこで、知花ちゃんと早乙女君と待ち合わせているのだ。すっかり仲良くなった4人で打ち上げだなんて、うゎぁ、なんか楽しみだなぁ。</span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br />
  • Date : 2015-03-14 (Sat)
  • Category : アイス
445

⑩ネクタイとてるてる坊主

昨日、誤字を教えてくれて方、ありがとうございますメッセージも嬉しかったです(´▽`*) その日の練習が終わって、知花ちゃんと早乙女君とあたしはファミレスに居た。知花ちゃんが衣装のお礼に、早乙女君にご飯を奢ることになったのだ。 因みにサークルの全員が早乙女君のことを「乙女」と呼ぶようになったけど、あたしは高校のときから早乙女君と呼んでいるので慣れた呼び方の方がしっくりくるのだ。「いいよ、長倉さん。みんな... <span style="color:#00CC99">昨日、誤字を教えてくれて方、ありがとうございます<(_ _)><br />メッセージも嬉しかったです(´▽`*)</span><br /><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> その日の練習が終わって、知花ちゃんと早乙女君とあたしはファミレスに居た。知花ちゃんが衣装のお礼に、早乙女君にご飯を奢ることになったのだ。<br /> 因みにサークルの全員が早乙女君のことを「乙女」と呼ぶようになったけど、あたしは高校のときから早乙女君と呼んでいるので慣れた呼び方の方がしっくりくるのだ。<br />「いいよ、長倉さん。みんなの衣装も手伝ったし。それに、いまや晴れてダンスサークルの一員だし。踊れないけど…」<br /> そう恐縮する早乙女君に、知花ちゃんはきっぱり言い放った。<br />「なに言ってんの、約束は約束。あたし、もの凄~く助かったんだから。ほかの子たちにはまた、ジュースとか奢ってもらいなねっ」<br />「遠慮しなくていいと思うよ、早乙女君。ほら、何にする?」<br /> 上目づかいにまだ遠慮している早乙女君に、あたしはメニューを差し出した。<br />「沢口さんと長倉さんは、何にするの?」<br />「う~ん、知花ちゃんは何?」<br /> 知花ちゃんとあたしは、仲良く同じメニューを覗き込む。<br />「あたし、オムライス!」<br />「じゃあ、あたしはきのこスパゲッティ」<br />「じゃあ、僕はマカロニグラタン」<br /> 全員、女子らしいメニューとドリンクバーを頼んで、交代でドリンクを取りに行った。<br /><br />「衣装は、全員がつくるわけじゃないんだね?」<br /> と早乙女君が言う。<br /> そう、踊る曲によって衣装が違うし、既製品で間に合う場合も多い。<br /> あたしは今回、ラッキーなことに衣装づくりがない。2曲のうちの1曲は全員参加のラスト曲で、衣装は白いTシャツと赤いチェックのミニプリーツ、見えてもいいようにスカートの下には黒いミニスパッツ、足元は黒のニーソックス。それに首輪風のチョーカーで、ちょっと小悪魔風が可愛い。Tシャツはベースが白であればデザインは好きなものを選んで良く、知花ちゃんとあたしは色違いのロゴ入りで、肩と裾にはわざとハサミを入れて肌見せにしている。<br /> 知花ちゃんはもう1曲はスロウナンバーだけれど、あたしは典型的なジャズの曲だ。衣装は白いシャツに黒いパンツ、黒の中折れウエスタンハット。<br /> 帽子は踊りの小道具としての役割もあり、これがなかなか難しい。帽子を取るタイミング、かざす位置、持ちかえるスピード、それらが全員揃わないとカッコよく見えないからだ。<br /> それからこの衣装には、ネクタイがいる。それぞれが自由に選んでよく、みんな彼氏から借りたり、親兄弟ので間に合わせたり…。衣装にはお金がかかるので、節約できるところは節約したいのだ。<br />「そう言えば沢口さん、ネクタイはもう用意できた?」<br /> 早乙女君が熱々のマカロニグラタンを、ふうふうしながら訊く。<br />「ううん、まだ」<br />「え~、まだなの?菜乃果」<br />「うん、だって。お父さんのはTHEおやじって感じのばっかしで、嫌だし。頼める彼氏もいないし」<br />「う~ん、ウチのお父さんもネクタイの趣味、ダサいしなぁ」<br /> はぁ、どーしよ。やっぱ買うしかないかなぁ。<br /><br />「あ、あのね。もし、よかったら…」<br /> そう言って、早乙女君がカバンからビニール製の袋を出す。<br /> ?と思いながら受け取って、中を覗くと…。<br />「え、うそ。貸してくれるの?」<br /> 中から取り出したネクタイは、もの凄くお洒落でカッコいいデザインだった。縦半分が真っ黒、もう半分が黒の水玉とストライプが交互になっている、シックだけれどめちゃお洒落でハイセンスなシルクのやつだった。<br />「こ、これ、早乙女君の?」<br />「う、ううん。ちょっと、知り合いに頼んでみたら…」<br /> 早乙女君が何故だか動揺したので、訳アリかな?と思ったあたしはそれ以上追及しないことにした。<br />「こんな素敵なの、しかも高そうなの、ホントに借りていいの?」<br />「うん、もちろん。そのために持ってきたし」<br />「ありがと。ちゃんとクリーニングして返すから」<br />「気に入ってくれたんだ、よかった」<br /> 大感激しながらお礼を言うあたしに、早乙女君も嬉しそうに言ってくれた。<br />「わぁ~、凄いカッコいいじゃん」<br /> 知花ちゃんも手に取ってしげしげ見ている。本当に、それくらいシックでモダンで洗練されたネクタイだった。<br />「よおし、がんばって練習するぞぉ!ねぇ、知花ちゃん」<br />「うん。あとは天気だねっ」<br /> 何気なく言った知花ちゃんの言葉を、早乙女君はちゃんと心に刻んでくれていた。<br /><br /> それから3日後の練習のとき、早乙女君は掌サイズのてるてる坊主をつくってきてくれたのだ。ダンスサークルの全員分、しかもお母さんのお店の端切れでつくったとかで、柄が全部違うのだ。<br />「ありがとー、乙女」<br />「嬉しいっ」<br />「うわ、カワイぃ~っ!」<br /> ダンスサークルのみんなが感激しながら、好きな柄を選んだ。知花ちゃんはオレンジに白の星柄、あたしは黄色とブルーのストライプを選んだ。<br /> 早乙女君、キミはなんていいやつなんだ。<br />「僕、これくらいしかできないから」<br /> 十分だよ、最高のサークル仲間で衣装担当だよ。<br />「よぉ~し、気合入れて練習するよっ!」<br />「いぇ~い!」<br /> 部長の言葉で、みんなが一斉にてるてる坊主を高く掲げた。</span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br />
  • Date : 2015-03-13 (Fri)
  • Category : アイス
444

⑨なんでだろ?

「ライト文芸賞」にエントリーしたとお伝えしましたが、なんでだか応募作として表示されません(>_<)R18だからかなぁ~?ということで、エントリーしていないかもしれません(*´ω`*)←おいっ「えぇえ~、なんでぇ?」 アイスと激辛ラーメンを食べた顛末を訊いた知花ちゃんが、もの凄い呆れ顔で言った。 う、うん。ほんとだよね、なんでそうなったか、あたし自身にもよくわからない。「まさか、眼鏡の弁償は許してくれる気に... <span style="color:#00CC99">「ライト文芸賞」にエントリーしたとお伝えしましたが、<br />なんでだか応募作として表示されません(&gt;_&lt;)<br />R18だからかなぁ~?<br />ということで、エントリーしていないかもしれません(*´ω`*)←おいっ</span><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">「えぇえ~、なんでぇ?」<br /> アイスと激辛ラーメンを食べた顛末を訊いた知花ちゃんが、もの凄い呆れ顔で言った。<br /> う、うん。ほんとだよね、なんでそうなったか、あたし自身にもよくわからない。<br />「まさか、眼鏡の弁償は許してくれる気になったとか?ご飯奢ってもらうだけでOKにしてくれようとしたとか?」<br /> 知花ちゃんの楽観的な希望的観測に、あたしも便乗したいくらいだよ。<br />「でも、結果的に奢ってもらっちゃったわけだし」<br />「なんで、そこ無理やりにでも菜乃果が払わなかったのよ」<br />「だから、鼻水と涙がダブルで出てて、対応してる隙にもうアイスが払ってたんだもの。お店出てから、何度も払いますって言ったのに、いいからいいからって…」<br /> いいもの見せてもらったからと笑われたことは、さすがに言えなかった。<br />「う~ん」<br /> と知花ちゃんが考え込む表情になる。<br /><br />「まさか…」<br />「ま、まさか?」<br />「独りで晩御飯食べるのが、淋しかったとか?」<br /> 30過ぎのいい大人が、どんな淋しん坊だよ。<br />「それならあたしじゃなくて、ミスG大誘うでしょ。先輩だし、知り合いだし、もしかしたら彼女かもしれないし」<br />「そうなのっ?」<br />「うん、画廊に祥子さん訊ねてきたとき、ふたりしてラブラブな感じだった」<br /> あたしは、そのときのふたりのお似合いの後ろ姿を思い浮かべながら言った。<br />「ふ~ん。じゃあ、万が一の可能性も消えたってことか」<br />「万が一の可能性?」<br />「うん、もしかしたらアイスが菜乃果のこと気に入ったとか」<br /> ぶっ、とあたしは飲みかけのミルクティを吹き出してしまった。<br />「き、汚いよ、菜乃果」<br /> だって、知花ちゃんがびっくりするようなこと言うから…。<br />「でも、その可能性はかなり低いでしょう。だってあの氷川君の素敵で大人なお兄さんと、13も違う子供の沢口さんじゃ、なんか釣り合わない…」<br /> 余計なこと言うね、早乙女君。…て、キミ、なんで今日もいる?<br />「なんで今日もいんのよ、乙女っ!それにアンタに関係ないでしょっ。まぁ、あたしも菜乃果と氷川先生じゃ、ちょっととは思うけど…」<br /> そこ、同意すんのかい、知花ちゃん。<br /><br />「痛っ!」<br /> 早乙女君にいつもの剣幕で食って掛かっていた知花ちゃんが突然、右手の人差し指を口に入れた。<br />「どうした、知花ちゃん?刺さった?」<br /> 顔をしかめたままこくこくと頷くところを見ると、どうやら縫い針で指を刺しちゃったらしい。<br />「大丈夫、長倉さん?そう言えば、さっきから何つくってるの?」<br /> 早乙女君が、心配そうに知花ちゃんの顔を覗き込みながら訊いた。まだ指をくわえたままの知花ちゃんの代わりに、あたしが教えてあげた。<br />「学祭のステージで着る衣装」<br />「へえ」<br /> と早乙女君の顔が輝く。<br /> 知花ちゃんがいまつくっているのは、スロウナンバー用の衣装だ。コバルトブルーのノースリーブの上衣に、オーガンジーを重ねた黒のロングスカート。身頃と同じラメ入りコバルトブルーの指なし長手袋の二の腕部分と、襟元には黒のファーがあしらわれて凄く素敵な衣装なのだ。<br /> この衣装を着て、知花ちゃんが踊るのを想像しただけでため息が出そうになるほど素敵だ。<br />「後ろのジッパー、なんで手縫いしてるの?」<br /> 指の血が止まったらしい知花ちゃんが作業を再開したのを見て、早乙女君が怪訝そうに訊く。<br />「だってウチ、ミシンないし。先輩に頼むわけにいかないし」<br />「でも手縫いじゃ、大変でしょ?それに、なんだか外れそうだし…」<br /> 知花ちゃんの荒い縫い目を見ながら、早乙女君が言う。<br />「余計なお世話っ。それに乙女には関係ないでしょっ」<br /> 不器用な縫い方を指摘された知花ちゃんが、むくれた顔でそっぽを向く。<br /><br />「あの。僕…ミシンかけてきてあげようか?」<br />「え?」<br />「さ、早乙女君、ミシン使えるの?」<br /> 驚いた、早乙女君たら、そこまで女子力高いの?<br />「う、うん。実は…」<br /> なんと、早乙女君のお母さんは洋裁、編み物、パッチワークやレース編みなどの手芸全般が得意なのだそうだ。<br /> 趣味が高じて、自宅をリフォームした際に小さな手芸用品のお店を併設したのだそうだ。それが思いの外、人気でいまでは手芸教室を頼まれて開講するほど繁盛しているらしい。<br />「僕もね、小さいときから母さんと一緒にいろいろつくるのが好きだったんだ」<br /> 頬を染めながらそう恥ずかしそうに告白する早乙女君は、明らかにあたしと知花ちゃんの女子力を軽く凌駕(りょうが)している。<br /> 早乙女君にはお姉さんがいるのだけど、そちらは真逆でスポーツ万能の竹を割ったような性格。お父さんは姉弟が逆だったらと嘆くらしいけど、お母さんは両方の個性を認めて惜しみない愛情を注いでくれてるらしい。うん、いいお母さんだね。<br />「ホントに、いいの?」<br /> 衣装を心持ち差し出しながら、そう訊く知花ちゃん。<br />「うん。任せて」<br /> にっこりと胸を張る早乙女君と、ほっとした笑顔を浮かべる知花ちゃん。ふたりの間に友情が芽生えた瞬間だった、たぶん。<br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「乙女~、こっちもお願いっ」<br />「ちょっと、あたしが先。ねぇ、乙女、ここなんだけど…」<br />「どれどれ、見せて。ああ、ギャザーはこう寄せて…」<br /> なんでやねん。<br /> 学食にはだいたい各サークルが集まるそれぞれのエリアがあるんだけど、4限終わりのいま、ダンスサークルのみんなが衣装に悪戦苦闘している輪の中心になんと早乙女君がいる。<br /> きっかけはもちろん、知花ちゃんの衣装を完璧に仕上げたのをみんなが目の当たりにしたことだ。それからたった1週間で、早乙女君はダンスサークルお抱えの衣装担当となった。<br />「はい、乙女。キミを正式にダンスサークルの一員と認めます!」<br /> 部長の一言で、踊れないダンスサークル部員が誕生した。しかも女子だけの中に、もしかしたら女子力は1番じゃないかと思える黒1点。<br /> よ、よかったんだよね?早乙女君。<br />「はいはい、衣装はそろそろ片づけて!練習、するよっ」<br />「はぁ~い!」<br /> 部員たちがわらわらと、つくりかけの衣装を片づけて立ち上がる。<br />「あ。それ、僕がやっといてあげる」<br />「まじ?ありがと、乙女っ」<br /> 部員の一人の衣装を受け取ると、早乙女君が優しく微笑んでみせた。</span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br />
  • Date : 2015-03-12 (Thu)
  • Category : アイス
443

⑧激辛ラーメンはナメちゃ駄目

調子に乗って、「ライト文芸賞」なるものに応募してみました(*´ω`*)4月末までに10万字クリアが選考条件のひとつです。ダイジョブかいな…え、えへっ(;´∀`)「じゃ、お先に失礼します」 ティールームから画廊の事務所に顔を出し、あたしは祥子さんにバイト上がりの挨拶をした。「お疲れさま、また来週もよろしくね」「お疲れさま」 受付の真野さんにもそう言われて、あたしは画廊のドアを開けて夜の銀座の街へ出た。 画廊のある... <span style="color:#00CC99">調子に乗って、「ライト文芸賞」なるものに応募してみました(*´ω`*)<br />4月末までに10万字クリアが選考条件のひとつです。<br />ダイジョブかいな…え、えへっ(;´∀`)</span><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br />「じゃ、お先に失礼します」<br /> ティールームから画廊の事務所に顔を出し、あたしは祥子さんにバイト上がりの挨拶をした。<br />「お疲れさま、また来週もよろしくね」<br />「お疲れさま」<br /> 受付の真野さんにもそう言われて、あたしは画廊のドアを開けて夜の銀座の街へ出た。<br /> 画廊のある小径(こみち)から大通りに出るちょっと手前の街灯の下に、背の高いシルエットがぼぅと浮かんでいるのが見えた。<br /><br /> え…アイス?<br /> 思わず径を引き返そうとしたあたしに、小走りに近づく足音。<br />「なんで、逃げるの?」<br />「なんで、追いかけてくるんですか?」<br />「逃げるからだ」<br />「追いかけてくるからですっ」<br /> 負けずに言い張るあたしの前に回ると、アイスは腕組みして見下ろしてくる。<br />「ちょっと、つきあって」<br />「ヤです」<br /> 即答した。でも怖くて、アイスの顔は見られない。<br />「キミは、俺に借りがあるはずだ」<br />「ですから返そうと、いま頑張ってバイトしてます」<br /> 頭上で、また「ぷっ」と笑う声がする。なんだ、案外よく笑うんじゃん。<br />「キミ、変わってるね」<br />「普通です」<br />「ま、いいや。食事、つきあって」<br /> <br />&#160; え?借りがあるから奢れと?ちょ、ちょっと待って。<br /> あたしは慌てて昼に見たお財布の中身を思い出した。確か、千円札3枚くらいしか入っていなかったはず。どーしよ、高いレストランとか連れてかれて、高いメニュー頼まれたら。3千円しか持っていないなんてバレるの恥ずかしいし。<br /> 焦ったあたしは、飛んで火にいる夏の虫発言 (…秋だけど)をしてしまったことに気づかなかった。<br />「ラ、ラーメンくらいならっ」<br />「ラーメン?好きなの?」<br /> 嫌いではない、だけどそれ以前のフトコロ事情である。<br />「じゃ、穴場を教えてあげる」<br /> いや、ふつーのラーメン屋でいいですっ、早い・安い・近いでお願いしますっ、と叫びたかったけどラーメンに落ち着いたことでヨシとした。<br /> アイスと並んで銀座の街を歩く。午前中に見た祥子さんとアイスのお似合いカップルとは似ても似つかない、不釣り合いな姿が脳裏に浮かんだ。明らかに洗練された大人と子供の女子大生、身長差だってきっと30㎝くらいはありそうだ。<br />「あ、ごめん。俺、歩くの速いってよく言われるんだ」<br /> アイスが、小走り気味になっているあたしに気づいたのか、そう言った。<br />「大丈夫です、あたしの足が短いだけです」<br /> ぷっ、とまた笑うアイス。ホント、失礼なヤツ。<br /><br />「ここ」<br /> アイスが指さした先には、まだ7時前だというのに15人ほどが並んでいた。<br /> 店の前まで行って、あたしは〈激辛とんこつ〉の幟(のぼり)に内心、狂喜した。<br /> とんこつ、しかも激辛!嬉しい、どっちも大好物、期待しちゃうじゃないかっ。<br />「待つけど、いい?」<br />「並んでるのは、おいしいからですよねっ」<br /> さっきまでと打って変わって前向きになったあたしをアイスが面白そうに眺めているけど、そんなの関係ないっ。ここで止めるなんて、ダメよダメダメぇ~である。<br /><br /> わくわくしながら順番を待って、いい匂いのする店内に入った。<br /> カウンターだけ、20人座れるか座れないかの店、ますますいい感じだ。<br />「何にする?」<br /> それはもう、とーぜん!<br />「激辛とんこつで」<br /> きっぱり言い切ったあたしに、アイスが訊く。<br />「なん辛?」<br /> へ? おお、これはっ!辛さが1~20まであって選べるシステム、さらに理想的!<br />「あの、初めてですけど、なん辛くらいがおススメですか?」<br /> お水のコップを出してくれたお兄さんに、身を乗り出して訊く。<br />「う~ん、女の子だから、最初は5辛くらいがおススメかな?」<br />「う~ん、6辛くらい、いけるかな?」<br /> 悩むあたしに、お兄さんが嬉しい提案。<br />「じゃ、5辛にして、大丈夫だったら辛みを足してあげるよ」<br />「え、いいんですか!」<br />「うん。彼女、可愛いから特別サービス」<br /> うわぁ~い、やった!喜ぶあたしの隣で、アイスの冷たい声がした。<br />「俺は、3辛で」<br /> チキンだな、3辛なんて。男なら、限界にチャレンジしてみろっ!<br />そう思いながら、勝ち誇った眼で横に座ったアイスをちら見する。<br />「?」<br /> い、いえ。なんでもありませんっ。へへへ、楽しみぃ~。<br /> あたしの前に結構な唐辛子色のラーメンが置かれた。うわ、思ってたよりスープが赤いけど、たぶん大丈夫。<br /> アイスの前には、赤ととんこつの白のバランスが絶妙のスープのラーメン。<br /> ずる、と最初にレンゲでスープをすくって飲んでみる。う、お、おいしーっ!ずるずるずずっと、続けざまにスープを飲む。それから麺をちゅるんと啜った。<br />「どう?彼女」<br /> 夢中でラーメンを堪能しているあたしに、さっきのお兄さんが訊く。<br />「おいしいですっ!」<br />「おお、ありがとー。辛さは大丈夫?」<br />「全然、大丈夫ですっ」<br />「ははは、じゃ辛み足す?」<br />「はいっ、お願いします」<br /> お兄さんが小さじで一つ、辛みを足してくれた。どう?と目顔で訊くのに、あたしは調子に乗って、あと一さじお願いする。<br /> そして、それがマズかった。激辛ラーメンは、一気に超絶激辛ラーメンに変化した。<br /><br />「うっ、くっ」<br /> 涙と鼻水まみれになり、大汗かいているあたしを、アイスがおかしそうに何度も見る。見られているのは気づいているけど、口の中はひーひー熱いし、涙だか汗だかわからなくなって非常事態で顔を上げられないし言葉も出ない。カウンターに置いてあったボックスティッシュをアイスが差し出してくれる。カッコなんかつけてられないから、ティッシュを取って、鼻をかんだ。う…情けないとこ、見られちゃった。<br />「ごめんね~、あの一さじ、3辛ぶんくらいあったのよ」<br /> お兄さんが申し訳なさそうに言うけど、もう遅い。調子に乗った自分が悪いし。<br /> 合計11辛の初心者レベルではない辛さのラーメンを、あたしは5回鼻をかんでやっと平らげた。<br /> 涙もティッシュで拭いていたら、アイスがお金を払っているのが見えた。<br />「あ…あたひが…」<br /> 口の中がひりひりして、うまくしゃべれない。<br /> 取りあえずお店に出てから払おうと、アイスの後追って外に出た。<br />「あ、あたひが払いまひゅ」<br />「ん?なに?」<br />「やから…あたひが…」<br /> アイスの躰が、突然2つ折りになった。どうやら、お腹を抱えて笑いを堪えているらしい。<br /> ヒロイ…じゃなくて、ヒドイ。。。。<br />「くっ。面白いもの見せてもらったから、ラーメン代はいいよ」<br /> あたひは…いや、もういいや…あたしは見世物かいっ!</span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a><br /><br />
  • Date : 2015-03-11 (Wed)
  • Category : アイス
442

⑦アイスとミスG大

「どうだった、新しいバイトは?」 学食でAランチを食べながら、知花ちゃんが訊く。「うん。画廊もティールームも、お客さんそんなに多くなくて、余裕余裕」「ふうん。よかったね」「うん。あ、でも土曜日の午後はティールームにアイスが来た」「えっ!何しに?」 何しにって、ティールームですから…。「こ、コーヒー飲んでったケド?」「菜乃果がバイトしてること、惺君に訊いたのかな?」 まあ、兄弟だから、そう言う話が出て... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">「どうだった、新しいバイトは?」<br /> 学食でAランチを食べながら、知花ちゃんが訊く。<br />「うん。画廊もティールームも、お客さんそんなに多くなくて、余裕余裕」<br />「ふうん。よかったね」<br />「うん。あ、でも土曜日の午後はティールームにアイスが来た」<br />「えっ!何しに?」<br /> 何しにって、ティールームですから…。<br />「こ、コーヒー飲んでったケド?」<br />「菜乃果がバイトしてること、惺君に訊いたのかな?」<br /> まあ、兄弟だから、そう言う話が出てもおかしくない。<br /><br />「せ、惺君って。長倉さん、いつからそんな親しくなったのっ。僕ですら、まだ氷川君って呼んでるのにっ」<br /> 早乙女君、なんでキミ、今日もあたしたちと学食にいる?<br />「なによ、アンタ。だって氷川君だと、アイスの顔が浮かんでヤなんだもの」<br />「で、でもっ!」<br /> まだ食い下がる早乙女君を、まるっと無視して知花ちゃんは言う。<br />「まさか、菜乃果がちゃんとバイトしてるか監視しに来たわけじゃないよね?」<br />「まさかぁ~。偶然かもよ」<br />「そんな偶然、そうそうないって。これは惺君に確認した方がいいかも」<br />「なにを?」<br />「なんでアイスが、菜乃果のバイト先知ってて、しかもやって来たのか」<br />「え~、いいよ」<br />「良くないっ。呼び出そう、惺君」<br /> ん?知花ちゃん、なんだか意気込んでるし顔が赤いよ。もしかして惺に会いたい?それ、口実?<br />「な、なんで長倉さんが氷川君呼び出すの?長倉さんは関係ないじゃない」<br /> 早乙女君が、思いっきり不服そうに知花ちゃんに抗議する。<br />「うるさい。アンタこそ関係ないでしょ!」<br /> 睨む知花ちゃんと、それに必死で対抗する早乙女君。もしかして、このふたりは恋のライバルか?<br />「菜乃果、ほら、惺君にメールして」<br />「な、なんで長倉さんが…」<br />「うるさいよ、乙女」<br /> あ~あ、知花ちゃん。今度は早乙女君を乙女呼ばわり…。涙目にならないでね、早乙女君。<br /> <br /><br />✵ ✵ ✵<br /> <br /> 惺の大学がある駅前のバーガーショップにいる。惺と、知花ちゃんと、早乙女君とあたしの4人で。なんか最近、この組み合わせ多くない?<br />「ああ、だって祥子さんは、兄貴の大学の1コ先輩だもん」<br /> 惺がしれっと、初めて訊く事実を口にした。<br /> それ、最初から教えといておいてよ。そしたら、いくら割が良くってもバイトなんかしなかったのに。はぁ~。<br />「えぇええええ~っ」<br /> ほらほら、知花ちゃんと早乙女君が驚いてるじゃん。<br />「あと、祥子さんはミスG大だったから」<br /> それは納得。だって、すんごい綺麗だもの。<br />「も、もしかして、アイスの元カノとか?」<br /> 身を乗り出して訊く知花ちゃんに、惺は興味なさそうにポテトをつまむ。<br />「さぁ。兄貴が大学のとき、ウチに遊びに来るメンバーの一人だったけど。俺、また小学生だったから、そのへんよくわかんないや。菜っ葉、ポテト食う?」<br /> なんか上手くはぐらかしている感を残しながら、惺があたしにポテトを差し出す。受け取ろうとすると、いったん引いて口元に持ってきたから、餌付けされる雛よろしくぱくっと惺の手からポテトを食べた。<br /> 何気なくした行為だったけど、一瞬、知花ちゃんと早乙女君の表情が同時に固まった。<br />あ¨…。<br />「ち、知花ちゃんと早乙女君にもあげなよ、惺」<br />「うん、どうぞ」<br /> 惺がポテトの入った紙袋を、ふたりに差し出す。違うんだなぁ、わかってやってるでしょ、惺?<br /> 知花ちゃんと早乙女君が、顔を見合わせながら首を振った。惺にあ~んして欲しかったんだよね、ふたりとも。<br /><br />「じゃ、これからもアイスは画廊やティールームに来る可能性があるってこと?」<br /> ジトッとした空気を変えようと、あたしは話題も変えた。<br />「どうかなぁ?兄貴に訊いてみる?」<br /> いや、いい。やぶ蛇な気がする。<br />「そんなこと訊くより、来ないでって釘刺しといて!わざわざ監視するみたいに来なくても、菜乃果はちゃんと壊した眼鏡のためにバイトしてるって言っておいてよ」<br /> 知花ちゃんが、強気に言う。<br />「で、でもさ、それは氷川先生の自由なわけだし」<br /> 早乙女君がもっともなことを言うけど、できればあたしは来てほしくない。<br />「なんか、兄貴、警戒されてるんだなぁ」<br /> そう惺は、他人事みたいに笑った。<br />「いいよ、わざわざ波風立てるようなこと言わなくても。どうせ、バイトは今年いっぱいのの約束だし」<br />「いいの?菜乃果」<br />「うん。それより、知花ちゃん。学祭のステージの方が、気になるよ」<br /> そう言ったあたしに、惺が訊く。<br /><br />「そっちの大学、学祭っていつ?」<br />「11月最初の土日だよ。惺君の大学は?」<br /> 何気に惺君と言った知花ちゃんに、早乙女君が抗議の視線を送る。<br />「同じだ」<br />「ひ、氷川君。何かやるの?」<br />「学祭で?いや。俺、サークルとか入ってないし。菜っ葉たちはステージって、踊るの?」<br />「うん、あたしも知花ちゃんも2曲ずつ踊る」<br />「へぇ、見に行こうかな」<br />「じゃ、僕が案内するよ、氷川君」<br /> 早乙女君の顔がパッと輝いた。まるで彼氏を迎える、彼女みたいだ。<br />「おう、乙女。頼むよ」<br />「てことは、惺君、ホントに見に来るの?」<br />「うん」<br /> 無邪気に頷いた惺に、知花ちゃんの眼も輝く。あぁあ、これは練習にますます気合入りそうだなぁ、とあたしは思った。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> バイト2週目の土曜日、アイスはティールームに現れなかった。<br /> 惺ったら、釘刺してくれたのかな。それとも先週のは、ホントに偶然?もともと銀座(ここ)は、勤務先があるアイスのテリトリーだ。あたしが後からバイトに来ただけ、自意識過剰だったのかもしれない。<br /> そんなあたしのホッと感は、翌日、早速裏切られることになるのだけれど。<br /><br />「いらっしゃ…」<br />11時にオープンしてすぐに、入口のドアが開く音がして振り向いたあたしは途中で固まった。<br />「…いませ?」<br /> 無表情でそんな言葉を拾うアイスが憎らしい。<br />「ぷっ」<br /> と、また横を向いて笑いを堪えるから、ホント性格悪いと思ってしまう。<br /> 無言でむすっとした表情を隠しもしないあたしに、アイスは言った。<br />「祥子、いや南雲さんはもう来てる?」<br /> あたしは黙って受話器を取ると、事務所の内線番号を押した。<br />「祥子さん、画廊の方に氷川先生がいらしてます」<br />「すぐ行くわね」<br /> 心なしか弾んだ祥子さんの声が、受話器から聞えた。<br /> そして本当にすぐに、祥子さんは事務所から出てきた。<br />「有、おはよう。なぁに、今日も休日出勤?」<br /> その言葉を訊いて、アイスがここを訪れるのはいつものことなのだと知った。ホント、あたしったら自意識過剰だったんだ。恥ずかしいな、なんだか。<br />「うん。でもその前に、絵と祥子の顔が見たくなった」<br /> そう言いながら、アイスはちら、とあたしを見る。<br /> わかりましたよ、ラブラブなんですね。でも、アイスがそんな歯の浮くようなセリフを言ったことにはビックリしたけど。<br /> くすくすくす、と祥子さんが笑いながら言う。<br />「なによ、その下手くそなジョーク」<br /> 照れたように頭を掻くアイスの腕を取って、祥子さんは画廊の中へと連れていく。<br />「ちょっとね、面白い無名の画家が持ってきた絵があるの」<br /> 壁に掛けられた絵を観ながら、ふたりは何か楽しそうに話しているけど、画廊という場所柄もあって声を抑えているから内容は聞えない。<br /> だけど背が高くて大人カジュアルなスタイルのアイスと、ミスG大だけあるスレンダーで素敵オーラに包まれている祥子さんの後ろ姿はとても絵になる。これが大人な恋人たちのお洒落な休日デートです、みたいな雰囲気がバンバン出ている。<br /> アイスと祥子さんはしばらく絵を鑑賞した後、仲良く事務所に消えた。<br /><br /> やがて独りだけ事務所から出てきたアイスは、受付のあたしを再びちら、と見ると軽く右手を上げて出て行った。<br />「ありがとうございました」<br /> その余裕の背中に、あたしはそう挨拶をした。<br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" /></a>
  • Date : 2015-03-10 (Tue)
  • Category : アイス
441

⑥バイト面接と初日

「あー、ココ、ココ」 惺が紹介してくれた割のいいバイトは、銀座の画廊でのお仕事だった。土日の10時から18時まで。オープン前のお掃除と受付係、隣接するティールームのお手伝いが主な仕事だそうだ。「土日、潰れちゃうけど大丈夫?」「うん、非常事態だもん。ありがたいよ」 紹介者として一緒に行ってれると言う惺と、木曜の夕方、あたしは簡単な面接のために画廊へ向かっていた。「でも、よくこんなお洒落なバイトの口、惺知... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">「あー、ココ、ココ」<br /> 惺が紹介してくれた割のいいバイトは、銀座の画廊でのお仕事だった。土日の10時から18時まで。オープン前のお掃除と受付係、隣接するティールームのお手伝いが主な仕事だそうだ。<br />「土日、潰れちゃうけど大丈夫?」<br />「うん、非常事態だもん。ありがたいよ」<br /> 紹介者として一緒に行ってれると言う惺と、木曜の夕方、あたしは簡単な面接のために画廊へ向かっていた。<br />「でも、よくこんなお洒落なバイトの口、惺知ってたね」<br />「うん。画廊を任されてる祥子さん、ちょっとした知り合いなんだ」<br /> ちょっとしたって、どんな?ちょっと気になったけれど、惺のことだ、どんなツテがあっても不思議じゃない。それに背に腹は代えられない。<br /><br /> 惺に続いて、ステンドグラスがはめ込まれた艶のある木製のドアから中へ入る。<br />「こんにちは、祥子さん」<br />「あら、惺君」<br /> 受付に座っていた美しい女性が、華やかな笑顔をこちらに向けた。<br />幾何学模様のシックなワンピースに軽やかなジャケットを纏い、ゆるくウエーブのかかったセミロングの髪を軽く揺らして、その人はこう挨拶した。<br />「初めまして、南雲祥子です」<br /> 慌ててあたしも自己紹介をする。<br />「は、初めまして。沢口菜乃果です」<br />「菜乃果、履歴書持ってきた?」<br /> 惺にそう言われてカバンから履歴書を出すと、祥子さんが笑顔でそれを受け取る。そして、さらりと眼を通すと言った。<br />「わかったわ。じゃあ、今度の土日からお願いできる?」<br /> え、も、もう?ちらっと眼を通しただけで、合格?<br />「はやっ!」<br /> さすがにそう突っ込む惺に、祥子さんは悪戯っぽく目配せした。<br />「あら、だって。訳ありの紹介でしょ?」<br /> その言い方がなんだか意味深な気がして、あたしは惺を不安な眼で見上げてしまった。惺は、大丈夫だよ、と眼で答えてくれたけど、心の中にわだかまりが生まれる。<br /> そんなあたしに、祥子さんは大人な笑顔を再び向けると、こう言った。<br />「一つだけ、注意点。パンツは禁止、出来れば品のいいスカートスタイルがいいわ。まだ大学生だから、高級品を身に着けろとは言わないけれど。場所柄、上質のお客様が多いから。ね?」<br />「はい。気をつけます」<br /> 雇ってもらえたことに精いっぱいの感謝を込めて、あたしはそう言うと深々とお辞儀した。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 初バイトとなる土曜日の朝、あたしは膝丈の紺色のスカートに白いブラウス、ベージュのカーディガンを羽織って、祥子さんの出したただ一つの条件に沿うよう心掛けた。背中まである、もともと色素が薄い栗色の天然ウェーブヘアは後ろで一つにまとめ、白いリボンを結んだ。<br />「これで、少しは品良く見えるかなぁ」<br /> 姿見で自分の姿を何度もチェックしながら、自分の顔に緊張の色を認める。ちょっと不安だけどこれが女子大生の精一杯だ。<br />「よしっ」<br /> と気合を入れると、あたしは独り暮らしのワンルームマンションを出た。<br /><br /> 10時5分前に、画廊に着いた。<br /> ちょうど出勤してくる祥子さんの姿が向こうから見えて、あたしは今日も上品な大人のファッションに身を包んだその人にお辞儀をした。<br />「おはよう。ごめんね、待たせちゃった?」<br />「いえ、いま来たばかりです」<br />「そう?でもこれからは10時過ぎくらいでいいわよ。私が遅れることもあるから」<br /> 祥子さんはにこやかにそう言うと、入口の鍵を開けた。それから、あたしの恰好をチェックするように軽く見ると明るい声で言った。<br />「うん、いいわね。とくにこの白のリボンが清楚でいいわ。髪は染めてパーマをかけてるの?」<br /> これまでの人生で何度も聞かれてきた質問に、あたしは何度も答えてきたことを言った。<br />「いえ、髪の色はもともとなんです。ウエーブも天然です」<br />「あら、そう。そう言えば、眼も少し栗色ね」<br /> そうなのだ。この栗色の眼と髪のせいで、あたしはときどき「外国の血が混じっているのか?」と訊かれることがあった。顔立ちはハーフには見えないから、「クオーター?」と訊かれることも。<br /> 中学のときは母親が、娘が髪を染めてもパーマをかけてもいないことを証明する書類を出させられた。それでも周りから誤解されることがあって、せめてもの抵抗でずっとショートヘアにしていた。<br /> 高校は自由な進学校だったので、初めて髪をロングにした。先生は何も言わなかったし、友達は「パーマもヘアマニキュアもなしで、それっていいなぁ」と逆に羨ましがってくれた。<br /> 金髪に染めている娘(こ)もいたし、鼻ピーの男子もいた。学年トップの惺だって、茶髪に両耳ピアスだったから、高校に入ってやっとあたしは伸び伸び深呼吸することができた。<br /><br />「じゃ、お掃除からはじめましょうか」<br /> 祥子さんがそう言って、画廊の掃除の仕方を教えてくれた。オープンは11時なので、祥子さんのいる事務室も掃除する余裕があって喜ばれた。<br /> オープン後は受付に座って、訪れてくれたお客様に静かな声で「いらっしゃませ」と言う。そしてマナーに反しないように鑑賞してくれているかを、さり気なくチェック。休日の午前中はお客様も少ない。ときどき自分の絵を売り込みに来る人もいるから、そんなときは内線で祥子さんに知らせるように言われた。<br /> 13時になると、契約社員の真野麻美さんが来て、そこでお昼交代になる。14時からは隣接するティールームでお手伝い。<br /> こじんまりしたティールームで、メニューはブレンドとアメリカン、ミルクティとレモンティ、オレンジジュース、それに3種類から選べるケーキセット、野菜サンドとハムサンドと超シンプル。<br /> 調理の山形浩二さんと、店長兼ウエイターの西田護さんとあたしという、これまたシンプルなスタッフ構成。<br />「じゃ、これつけて」<br /> と店長に渡された真っ白なエプロンは、ロングで裾と脇にフリルがついていて清楚で可愛くてとても気に入った。<br /> こちらもお客様はさほど多くなく、まったりと15時を過ぎた頃、ティールルームの入口が開く音がした。<br />「いらっしゃませ」<br /> と振り向いたあたしの眼に飛び込んできたのは、背の高い男の人。<br /><br /> げ、アイス…なんで?<br /> アイスは驚いているあたしを一瞥すると、窓際のテーブルに座った。しょうがないので、お水と紙おしぼりを持って、注文を取りに行く。<br />「コーヒー」<br />「ブレンドでよろしいですか」<br /> 無言で頷くアイス。<br /> 生憎、ここにはブルーマウンテンもキリマンジャロもありませんよーと、心の中で舌を出す。<br /> アイスは鞄から文庫本を出すと、読み出した。ちょっと手を添えて直した眼鏡は、今日はめずらしくべっ甲だった。いつもの細いフレームと違って、ちょっと冷たい印象がやわらいでいる気がする。細身のジーンズに白いシャツ、クリーム色のジャケットでさわやかな休日スタイルだ。<br /> コーヒーを持っていく。<br />「お待たせしました」<br /> アイスは本から眼を上げないまま、言った。<br />「ありがとう」<br /> いえいえ、どういたしまして。今日は休日出勤の帰りですか?ここのバイトのことは惺から訊いたんでしょうか?<br /> 心の中でアイスの背中にそう訊きいて、あたしはカウンターに戻った。<br /><br />「ありがとうございます」<br /> レジで店長が、お会計をするアイスにそうお礼を言っている。<br /> アイスはコーヒー代380円を払うと、もう一度あたしをちらっと見て、帰っていった。<br /> ちゃんとバイトしてますよー、あたしが壊した眼鏡を弁償するために。</span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a>
  • Date : 2015-03-09 (Mon)
  • Category : アイス
440

⑤アウェイじゃ勝てない

昨日「ムーン」で長編初の日間ランキング20位になりました。嬉しいです(*´ω`*) がむばりますねん(´▽`*) 綺麗にお化粧したウエイトレスさんに促されて、窓辺の席に着きアイスと向かい合う。 アイスが無言で、革張りのメニューをあたしの方へ差し出した。緊張と恐縮のせいもあって、こっちも無言で受け取るとページを開く。 ブラジル、モカ、キリマンジャロ…コーヒーだけでもいろんな種類があって、げっ、どれも800円以上!?... <span style="color:#00CC99">昨日「ムーン」で長編初の日間ランキング20位になりました。<br />嬉しいです(*´ω`*) がむばりますねん(´▽`*)</span><br /><br /><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> 綺麗にお化粧したウエイトレスさんに促されて、窓辺の席に着きアイスと向かい合う。<br /> アイスが無言で、革張りのメニューをあたしの方へ差し出した。緊張と恐縮のせいもあって、こっちも無言で受け取るとページを開く。<br /> ブラジル、モカ、キリマンジャロ…コーヒーだけでもいろんな種類があって、げっ、どれも800円以上!?た、高い。慌てて次のページをめくると、写真つきの可愛らしいスウィーツが並んでいる。見ている分にはとっても可愛いけど、こちらもコーヒーに負けず高い。<br />セルフサービスのコーヒーショップやファストフードの店に慣れているあたしには、完全に場違い、超アウェイ。<br /><br />「決まった?」<br /> メニューをガン見して眼を泳がせていると、アイスが口を開いた。<br />「え、え…と。先生は?」<br /> こういう場合は、目上の人に合わせるといい、と訊いた気がする。<br />「俺は、グァテマラ」<br /> はぁ、やっぱ銘柄こだわりますか。ブレンドやアメリカンじゃないのね。じゃ、じゃあ、あたしは分相応ということで…。<br />「ミルクティで」<br />「スウィーツは?」<br />「結構です」<br />「女の子は、甘いもの、好きなんじゃないの?」<br />「いえ、そんなステレオタイプばかりとは限りませんから」<br /> 大人な店の雰囲気と、至近距離で突き刺さるアイスの氷点下の視線に負けまいと、つい言わずもがなのことを言ってしまった。ど、どうしよっ。<br />「なるほど」<br /> そう言ったアイスの感情のない声に、思考が読み取れない。ま、まずい、怒らせちゃったかな?<br /> 動揺を必死に隠しながら、かちこちになっているあたしにお構いなしに、アイスは化粧バッチリのお姉さんに向かって優雅に右手を上げた。<br /> 指、長くて綺麗だな。なのに関節がしっかりしてて、男っぽくて、あたし好み。…って、おいおい見惚れてどうする、あたし。<br /> アイスがふたり分のオーダーをしてくれた後は、再び沈黙。気まずい…。<br /><br /> そうだ、まず謝らないと。<br /> そう思ったあたしは、今度は素直に謝罪の言葉を口にした。<br />「あの。この間は本当に済みませんでした。いくら1限に遅れそうだからって、ぶつかった相手にちゃんと謝りもしないで。おまけに、眼鏡壊れたって知らなくて…」<br /> アイスが眼鏡を人差し指で直しながら、あたしをじっと見た。<br />「それ、新しい眼鏡ですよね?こ、壊れた眼鏡は、どうなったんでしょう?」<br />「修理に出そうと思ったけれど、もう大分使ったヤツだし。でも気に入ってたものだから、そのまま取ってある。それに眼鏡は趣味でコレクションもしてるから」<br /> アイスがこんなに長く話すのを初めて訊いた。まぁ、授業を取ってないから、これまで話す機会もなかったんだけど。<br /> 弁償します、と言おうとしたところで、ウエイトレスさんがオーダーしたものを運んできた。なんだかタイミングを逸して、また下を向く。<br /><br /> アイスがコーヒーカップを口に運んだのを見て、あたしもおずおずとミルクティーを飲む。高いだけあって、香りが豊かでちゃんと紅茶の味がしてとてもおいしい。ティーバッグでは決して出ない味だ。<br />「あの」<br /> また、あたしは勇気を振り絞って、アイスを見る。<br /> 何?とでも言うようにちょっと首を傾げるアイス。不覚にも、セクシーだな、なんて思ってしまった。今日のあたし、ホントにおかしい。<br />「弁償します、壊れた眼鏡の代金」<br />「いいよ」<br />「よくないです。幾らだったんでしょう?」<br />「だから、もう大分使った眼鏡だから」<br />「でも、気に入ってたんですよね?」<br /> だって、さっきそう言ったじゃない。<br /> 謝罪に来たはずなのに、なんだか言い方が強情になっていることにあたしは気づかなかった。<br />「そういう意味で言ったんじゃない」<br /> アイスが突き放すようにそう言って、またコーヒーを飲む。<br />「でも」<br />「キミ、沢口さんだっけ。まだ、親の脛かじりの身でしょ?」<br />「そうですけど」<br />「それにまだ、学生で未成年だ」<br /> だ、だから?<br />「謝ってくれれば十分だ。故意にしたことじゃないんだから、気にしなくていい」<br />「そんな訳には」<br /><br /> アイスが思い出したように、カバンから何かを出してテーブルの上に置いた。目の前にすっと押し出されたそれは、あたしのカードケースだった。<br />「これ、あのときの落とし物」<br />「あ、ありがとうございます」<br />「</span></span><span lang="EN-US" style="font-size:11.0pt;font-family:<br />&quot;AR P丸ゴシック体M&quot;;mso-hansi-font-family:Century;mso-hansi-theme-font:minor-latin;<br />mso-bidi-font-family:&quot;Times New Roman&quot;;mso-bidi-theme-font:minor-bidi;<br />mso-ansi-language:EN-US;mso-fareast-language:JA;mso-bidi-language:AR-SA"><ruby><rp>(</rp><rt style="font-size:5.5pt;layout-grid-mode:line"></rt></ruby></span><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">誠意を持って、謝ってくれたみたいだから返します」<br /> 誠意を持って、の言い方に棘がある感じがして、あたしは顔がほてるのを感じた。<br />「本当に、申し訳ないって思ってます。本当です。申し訳ありませんでした」<br />「わかった」<br />「幾らでしょう?脛かじりでもバイトくらいしています」<br /> あたしは、まだ意固地に食い下がった。<br /> そんなあたしを、子供扱いするようにアイスは言った。<br />「そのネイル代とか、洋服とか、友達と遊んだりとかで、お金はいくらあっても足りない年頃でしょ?」<br /> 可愛くできてもの凄く気に入っている今日のネイルをしげしげと見ながら、アイスはそう言った。なんだか、子ども扱いされてバカにされているような気がした。<br /><br />「じゃあ、いまかけている眼鏡はどこのブランドですか?」<br /> インターネットで調べれば、そのブランドのフレームの値段ぐらいわかるはず。そう思ってあたしは、訊き方を変えた。<br /> ふぅ、とアイスが呆れたようにため息をついた。<br />「沢口さん」<br />「はい」<br />「ところでさ。1限は無事に間に合ったの?」<br /> そうからかうように訊かれて、あたしの頬はますます熱くなった。<br />「ん?」<br /> 明らかに狼狽えているあたしに、アイスは答えを促す。<br />「きゅ、休講でしたっ」<br />「ぷっ」<br /> い、いま笑った?このアイスが!?<br /> アイスは慌てて横を向いて、笑ったことを誤魔化そうとしている。<br /> 悪かったですね、必死こいて走って、人に激突して、眼鏡まで壊したのに休講でしたよ。あたしはなんだか、自分が情けなくなった。<br /> 不貞腐れたように俯いてしまったあたしに、アイスが言った。<br />「笑って悪かった。バカにしたわけじゃないから、怒らないで」<br />「じゃあ、ホントにブランドの名前だけでも教えてください」 <br />しょうがないな、という顔をしながらアイスが教えてくれたブランド名をあたしは脳裏に刻んだ。それプラス、レンズ代。どのくらいになるかわからないけど、絶対弁償しようと心に決めた。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「イタリアの高級ブランドだったぁ~。うわぁ~、知花ちゃん、どうしよっ」<br /> アイスが教えてくれたブランドをネット検索したあたしは、青くなった。似たようなフレームが、5万円台でラインナップされていた。<br />「フレームだけで5万超えかぁ。レンズも入れたら、幾らぐらい?」<br />「わかんないょぉ~」<br /> あたしは頭を抱えた。<br />「でも、弁償するって啖呵切っちゃったんだよね?」<br /> 啖呵は切っちゃいないよ、早乙女君。てか、なんでキミは今日も当然のようにあたしたちと学食にいるの?<br /> そんな早乙女君に、知花ちゃんが噛みつく。<br />「ちょっと、なんでアンタ今日もいるのっ?それに、菜乃果を置いて氷川君と消えたっていうじゃないの。この裏切り者っ、アンタのせいだからねっ」<br />「え、え?」<br /> 知花ちゃんの剣幕に、早乙女君は狼狽えている。<br />「バイト、一時的に増やさないとダメかなぁ。学祭のステージで着る衣装代なんかもあるし。このままじゃ、弁償できないよ」<br /> あたしは力なく、項垂れた。<br />「でも近頃、バイト探すのも大変じゃない?不景気で割のいいバイト、少ないし。フリーターさんの方が時間が自由だから、シフトも組みやすいって言われるし…」<br /> そういう知花ちゃんに、あたしは大きく頷いた。<br />「ねえ、早乙女君。アンタ裏切ったお詫びに、いいバイト紹介しなよ」<br /> 知花ちゃんが早乙女君に無茶振りする。<br />「あ、あの。そのことなんだけど…」<br />「なに!?アテあんの?」<br /> 身を乗り出す知花ちゃんの隣で、あたしも縋るように早乙女君を見る。<br />「ひ、氷川君がね…」</span></span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" alt="" /></a>
  • Date : 2015-03-08 (Sun)
  • Category : アイス
439

➃運命の土曜日

今日から、「ムーンライトノベルズ」のほうでも同時掲載となりま~す! あ、でもエロはまだ当分ありません (´▽`*) 10月の土曜日の銀座は、思い思いの秋のおしゃれを楽しむ大人の男女で賑わっていた。海外の有名ブランドが建ち並ぶエリアは、あたしたち女子大生はめったに来ない場所。同じ銀座でももう少しメインストリートから離れた、ファッションビルが集まる一角の方が落ち着く。それだってOL仕様の雰囲気は、あたしたちに... <span style="color:#00CC66">今日から、「ムーンライトノベルズ」のほうでも<br />同時掲載となりま~す! あ、でもエロはまだ当分ありません (´▽`*)<br /></span><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"> 10月の土曜日の銀座は、思い思いの秋のおしゃれを楽しむ大人の男女で賑わっていた。<br />海外の有名ブランドが建ち並ぶエリアは、あたしたち女子大生はめったに来ない場所。同じ銀座でももう少しメインストリートから離れた、ファッションビルが集まる一角の方が落ち着く。それだってOL仕様の雰囲気は、あたしたちには敷居がまだちょびっと高い。<br /><br /> 最初はあたしを守る気満々だった知花ちゃんは、数日前から風邪気味だった。もうすぐ11月の学園祭で、あたしたちダンスサークルのメンバーはステージを披露することになっていた。幼い頃からモダンバレエを習っている知花ちゃんは1年生といえどもスロウナンバーの主力メンバー。大事を取って、今日は休んでもらうことにした。<br />「でも、菜乃果独りじゃ心配。ケホッ。やっぱりついて行くよ。ゲホゲホ」<br />「ダメダメ、学祭の練習はこれから数週間が勝負だよ。早く風邪、治さなきゃ」<br />「あの、僕も行くから。氷川君と僕で、沢口さんを守るから」<br /> 早乙女君も、そう言って知花ちゃんを押し留める。<br />「ひ、氷川君はともかく、早乙女君じゃあ…余計心配」<br />「そ、そんなっ」<br /><br /> ともあれ知花ちゃんに全然信頼されなかった早乙女君と惺とあたしの場違いな3人は、メインストリートから少し離れた指定の洋菓子店を目指す。<br />「なんか、隠れ家的老舗洋菓子店なんだって。パティシエが海外で賞取ってるらしいよ」<br /> 呑気な惺がそんなことを言う。<br />「へ、へぇ。可愛いスウィーツとかあるのかな?」<br /> 期待と幸せに潤む眼で、早乙女君が惺を見上げる。因みに惺は181㎝もあって、170㎝の早乙女君とはバランスがいい。なんだかふたりのデートについてきているお邪魔虫な気分なのは、気のせいだろうか。<br /> 蔦の絡まる瀟洒な洋館の前で、惺が足を止めた。<br />「あ、ココみたいだ」<br />「うわぁ、素敵なお店。た、楽しみだね、氷川君♡」<br />「あれ、乙女。甘いもの好きなの?」<br />「ひ、氷川君となら甘いものでも辛いものでも」<br /> 縋りつかんばかりに見つめてくる早乙女君に苦笑いしながら、惺はあたしに訊ねる。<br />「菜っ葉は、甘いもの苦手だったよな?」<br />「うん。あたしはむしろ、おかきと日本茶派」<br />「渋いね、女子大生のくせに。でも、兄貴と好みは合うかも」<br /> げ、前言撤回。あんな鉄面皮と嗜好なんか合ってたまるか。<br />「あ、でもビターチョコとロイヤルミルクティーは好きだよ」<br />「そうだったな」<br /> 頷く惺に、早乙女君が訊ねる。<br />「な、なんで沢口さんの好み、知ってるの?」<br />「ん?俺、記憶力いいから」<br /> まあね、IQ140超えだし。でも早乙女君の確認したかったのはソコじゃないと思うよ、頭いいからはぐらかしたんだろうけど。<br />「早乙女君、あたしと惺は昔から、姉弟(きょうだい)ハグする仲なんだ。知ってるでしょ?」<br />「そ、そうだったね」<br /> 早乙女君が納得顔になる、よかった。<br /> 蛇足だけれど、5月生まれのあたしと7月生まれの惺では、あたしの方が数ヵ月お姉さんだ。<br /><br /> そんなこんなしていると、惺が突然、遠くから歩いてくる背の高い人を見つけて言った。<br />「あ、兄貴だ」<br /> その声に、一気にあたしは緊張して惺の腕を思わず掴む。<br />「ん?大丈夫だって、菜っ葉」<br /> 背の高いアイスは足も長く、その細長いシルエットはあっという間に近くまでやってきた。休日出勤のせいか、大学で見るよりもっと洗練された上質なファッションで、大人の街に当たり前のように溶け込んでいる。<br /> 無言で軽く頭を下げたその人は、背が高いと思っていた惺よりもさらに背が高かった。<br />「待たせたか?」<br /> 初めて間近で訊いたアイスの声は、低音で大人の男っぽくてなんだかドキリとした。<br />「いや、待ったの5分くらい」<br /> そう言う惺と、兄弟なのに背が高いこと以外はあまり似ていないのが不思議な感じがした。年が離れているせいだろうか。<br />「じゃ、乙女。俺らは行くぞ」<br />「えっ?」<br /> 早乙女君が驚いてそう言って、もっと驚いたあたしは口をパクパクしたまま固まった。<br /> い、行くって、何言ってるの?惺。<br />「じゃ、兄貴。よろしく」<br />「え、で、でも。沢口さん独りにしたら、長倉さんに…」<br /> そうだ、よく言った、早乙女君。あたしを独りにしたら、知花ちゃんがおそらくふたりをブッ飛ばす。<br />「乙女、いいから。俺とデートだろ?」<br /> その一言で早乙女君は頬をぱっと染め、大きく頷いた。あたしを売ったな、ふたりとも。<br /><br />「ちょ、ちょっと待って…」<br /> 往生際の悪い売られた女子大生を置いて、惺と早乙女君はさっさと歩き出してしまった。<br />早乙女君なんか、スキップしてるよ、スキップ。久しぶりに見たよ、スキップ。しかも一応男子の。<br /> ったく、裏切り者ぉ~。一生、恨んでやる、ふたりともっ!<br /> 拳を握って遠ざかるふたりの背中を睨むあたしの頭上後方で、厚みのある低い声がした。<br />「じゃあ、入ろうか」<br /> がっくりと肩を落として、あたしは覚悟を決めた。<br /><br /><br /></span></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" /></a>
  • Date : 2015-03-07 (Sat)
  • Category : アイス
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③ぎょぎょ魚!の作戦会議

「あのさ、兄貴、ぶつかったときに眼鏡が壊れたんだって」「げっ!」 そう言えば、見上げたとき、いつもしている眼鏡がなかったような…。一瞬だったからよく覚えていないけど。「そ、それで…?」 焦るあたしに代わって、知花ちゃんも前のめりに訊く。「もしかして、べ、弁償しろとか?」 うわ、どーしよう。なんかアイスって、いつもカッコいいこだわったフレームの眼鏡かけてたような気が…。「あの眼鏡、1万円ポッキリ、じゃな... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br />「あのさ、兄貴、ぶつかったときに眼鏡が壊れたんだって」<br />「げっ!」<br /> そう言えば、見上げたとき、いつもしている眼鏡がなかったような…。一瞬だったからよく覚えていないけど。<br />「そ、それで…?」<br /> 焦るあたしに代わって、知花ちゃんも前のめりに訊く。<br />「もしかして、べ、弁償しろとか?」<br /> うわ、どーしよう。なんかアイスって、いつもカッコいいこだわったフレームの眼鏡かけてたような気が…。<br />「あの眼鏡、1万円ポッキリ、じゃないよね、当然」<br /> 僅かに期待を込めて訊くあたしに、惺はきっぱり首を振って言った。<br />「んなわけないだろ。だって兄貴、眼鏡にはこだわってるもん。たぶん海外の有名ブランド。あ、もしかしたらオーダー品かも」<br /> えええええ~!!!マジですか!?<br /> もう声にならず、眼を白黒させ、口をパクパクするあたしを、惺はさらに面白そうに見る。<br />「菜っ葉、金魚みたい。あははっ、面白い顔っ」<br /> あたしは全然、面白くないんですけどっ!<br />「い、幾らくらいする眼鏡なの?」<br />「さぁ?自分で訊いてみれば?」<br /> ぎょぎょぎょぎょ魚!!!そ、それは直接対決しろと!?<br />「と、とにかく、謝るのが先決だよね?ね、ね?」<br /> 知花ちゃんが助け舟を出してくれた。<br />「そうだねっ。あたし、謝りに行く。惺、お願い。惺も一緒についてきて?」<br />「う~ん、他ならぬ菜っ葉の頼みだからなぁ…」<br />「お、お願いっ」<br />「お願いしますっ」<br /> 知花ちゃんがあたしに続いて、頭を下げて惺に頼んでくれた。さすが、親友!ありがとう、恩に着るよっ。<br /><br />「ああ、そう言えば。そんときにカードケース、返すって兄貴言ってた」<br /> ん?<br /> これは謝りに行くということが、すでに前提?決定事項だったということ…???<br /> 知花ちゃんの顔にも浮かんでいる疑問符を確認しながら、あたしたちは不安気に手を取り合った。<br /><br /> そこに。<br />「あ、会えたんだねっ?」<br /> いたく控え目に声を掛けてきたのは、早乙女 哲(さおとめ てつ)。あたしと惺と同じ高校で、いまは同じ大学に通う同級生。でも別の高校だった知花ちゃんは、大学での彼の存在を知らない。<br />「お~、乙女。ありがとありがと。お蔭で菜っ葉のこと、すぐに見つけられたよ」<br /> そう明るい声を上げた惺に、早乙女君は嬉しそうに頬を染めた。<br /> そう。<br /> 早乙女君の高校時代からのニックネームは“おとめ”。哲と言う男らしい名前に反して、色白華奢で雰囲気も女の子っぽい彼は、自分がそっちであることを態度で明らかにカミングアウトしていた。<br /> そのせいで一時期は苛められていたけれど、彼を苛める不良たちとも仲がいい惺のお蔭で、いつの間にか愛されるパシリの地位を確立することができた。<br /> 元々は頭がいいから進学校へ入学し、並み居る優秀なクラスメートたちの中で少しずつ落ちこぼれていった不良たちを、惺は決してバカにしなかった。むしろ彼らと同じような格好をし、たむろし、彼らを赤点落第の危機から救ってやっていた。<br /> そんな惺と不良たちから愛ある小突きをくらい、昼休みには必ず買出しに走らされる早乙女君は、パシリ役をしながらとてもとても幸せそうだった。<br /> たぶん、早乙女君は惺と同じT大を密かに目指していたと思う。でも、どう足掻いても無理だった。でも、まさか別の大学に進学したいまも、パシリやってるってこと?<br /><br />「乙女がさ、教えてくれたんだ。菜っ葉はダンスサークルの練習がない火曜と木曜は、大体いつも4限終わりで帰るって」<br />「えええ~、そうだったの?」<br /> 驚くあたしに、知花ちゃんが警戒心を剥き出しにする。<br />「ス、ストーカーはこっち!?」<br />「ス、ストーカー…って、誰が誰の?」<br /> 早乙女君が、顔と名前は知っているあたしと、まったく知らないであろう知花ちゃんの顔を若干不服そうに覗きながら訊く。<br />「違うよ、乙女はいまでも俺のパシリ」<br /> 惺のその言葉を訊いて、早乙女君は頬を紅潮させ、眼をうるうるさせ、めっちゃ嬉しそうな顔をする。<br /> 早乙女君、その表情、明らかに恋する乙女だよ。<br />「パシリ…」<br /> 状況がイマイチ呑み込めていない知花ちゃんと、突っ立ったままの早乙女君のために、あたしはこう提案した。<br />「あ、あの、よかったら、座らない?一緒にお茶でも」<br /> 気を利かせたあたしの顔を、女神でも見るような眼で早乙女君が見つめ返してきた。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> あたしが激突したせいで眼鏡が壊れたアイスに、謝りに行く日は土曜日の午後3時に決まった。場所は、アイスが勤めている広告会社がある銀座。<br /> それを伝えにウチの大学にわざわざ寄ってくれた惺と、知花ちゃんと、なぜか早乙女君まで加わって事前の作戦会議をしている。<br /><br />「やっぱ、大学じゃない方がいいでしょ?菜っ葉も兄貴も、知ってる人に見られていろいろ勘ぐられるの嫌だろうし」<br /> そう提案して交渉してくれたのは、惺だ。<br />「兄貴、忙しいから会社がある銀座まで、悪いけど来てくれないかって言ってるんだ。その日は土曜日だけど休日出勤するらしいから」<br /> まあ、悪いのはあたしだし、銀座に出向くくらい当然だ。でも、独りでアイスに対峙する勇気は…。<br />「ねぇ、知花ちゃん、惺も一緒に来てよぉ。お願いっ」<br />「うん、わかった。親友のピンチだものね、つき添うよ」<br /> 知花ちゃんは頼もしく、そう請け負ってくれた。<br />「え~、俺も?」<br /> 惺は、なんだか乗り気じゃない。<br />「お願い~!だって弁償しなきゃいけないし、1回で払える額じゃなかったら分割にしなきゃいけないし。惺が証人になってくれると助かるぅ~」<br />「兄貴は、別に弁償してほしいなんて思ってないみたいだぞ。ただ、ケジメとして謝ってもらえばそれでいいって」<br /> ホントかなぁ、だって海外の有名ブランドの“お気に”の眼鏡なんでしょ?それで許されたら、かえって後が怖い…。<br /> 不安な顔で知花ちゃんを見ると、知花ちゃんも同じく半信半疑の顔をしている。<br /><br />「あ、そうだ。乙女も行く?」<br />「え♡ いいの?氷川君」<br />「おう、お前も来いっ」<br />「きゃ。氷川君と初めてのデート、しかも銀座でっ!?」<br /> い、いや。デートちゃうし。目的忘れんな、早乙女君。<br /> 嬉しそうにラブラブ光線送りまくりの早乙女君に、知花ちゃんが釘を刺す。<br />「てか、なんでアンタ、ここにいるの?」<br />「えっ」<br />「アンタ、関係ないじゃない」<br />「ぼ、僕は氷川君の…」<br /> ぎろりと睨む知花ちゃんと、慌てて惺を縋るように見る早乙女君が対照的だ。<br />「まぁまぁ、味方は多い方がいいでしょ?」<br /> そう惺は取り成すけど、敵はアンタの兄貴でしょ。 <br />うん?敵?敵、なのかな?<br /><br />「まぁ、菜っ葉。あんまりシリアスになんな。あぁ見えて、兄貴、意外と優しいし」<br /> 全っ然、信じられない。だって笑顔なんて一度もみたことがない、むしろ氷点下の視線注いでくる、あのアイスだよ?<br /> そんなあたしの不安は、後日バッチリ的中することとなったのだ。</span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" /></a><br />
  • Date : 2015-03-06 (Fri)
  • Category : アイス
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➁IQ140超の元同級生

今回の長編は、blog先行掲載です。「ムーン」には、4話目から同時掲載の予定です(*´ω`*)「菜っ葉ぁ~、見ぃ~っけ!」 ダンス・サークルの活動がない木曜日、知花ちゃんと一緒に帰ろうと校門へ向かう先に、金髪をつんつんに立てた氷川 惺(ひかわ せい)がいた。 黒の革パンにジャラジャラ鎖をつけて真っ赤なベロを出したアニメキャラクターのTシャツ、迷彩柄のジャケットで、もしもギターケースを抱えていたら立派にパンク・... <span style="color:#00CC99">今回の長編は、blog先行掲載です。<br />「ムーン」には、4話目から同時掲載の予定です(*´ω`*)</span><br /><br /><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><br />「菜っ葉ぁ~、見ぃ~っけ!」<br /> ダンス・サークルの活動がない木曜日、知花ちゃんと一緒に帰ろうと校門へ向かう先に、金髪をつんつんに立てた氷川 惺(ひかわ せい)がいた。<br /><br /> 黒の革パンにジャラジャラ鎖をつけて真っ赤なベロを出したアニメキャラクターのTシャツ、迷彩柄のジャケットで、もしもギターケースを抱えていたら立派にパンク・ミュージシャンに見えたと思う。<br /><br />「だ、誰?」<br /> 当然訊くよね、知花ちゃん。あたしだったら、もっと眉をひそめて非難がましい眼を向けて訊くけど、ちょっと天然なところがある知花ちゃんはむしろ好奇心いっぱいだ。<br /> うちの大学にはあまりいないタイプの、いや、渋谷・原宿にいたって充分目立つだろうって思う惺を、みんなが振り返って見ている。もちろん本人は、そんな好奇の視線や胡散臭そうな一瞥をまったく気にしていないんだけど。<br /><br />「うん、高校の同級生。いま、T大の1年」<br />「ま、マジで?」<br /><br /> この一見、金髪パンク不良少年に見える惺は、なんとIQが140を超えている。彼の通うT大の学生の平均がIQ120、140を超えると天才と呼ばれるらしい。<br /> あたしたちが通っていた高校は進学校に分類されるレベルで、あたしと惺は1年のとき同じクラスだった。2年次からはそれぞれ進路と成績に合わせてクラス分けされ、あたしは文系、惺は理数系の特進クラス。<br /> 進学校とはいえ自由な校風だったから、惺は高校時代から茶髪つんつんパンクヘアに両耳ピアスだったけれど、先生たちは何も言わなかった。<br /> だって1年次から卒業までずぅ~っと学年トップ、全国模試でも常に上位、性格は素直で思いやりとユーモアがあり、おまけに父親はK大で物理学を教える教授だ。<br /><br />「うわぁ~、惺、久しぶり~。にしても、バージョンアップしたねぇ~」<br /> 茶髪から金髪になり、制服から派手な私服になって、いっそう超個性的になった元同級生にあたしはそう挨拶した。<br /> 1年のときしか同じクラスじゃなかったけれど、あたしと惺はなぜか気が合った。だから惺が嬉しそうに大股で近寄ってきてハグしても、ただただ懐かしく嬉しかった。<br /> だけど知花ちゃんが眼を真ん丸にして驚いているから、あたしは惺の背中をぱふぱふ叩いて、ハグの腕から抜け出した。<br />「で、な~んでいるの?うちの大学」<br />「菜っ葉探し」<br /> 遅ればせながらつけ加えると、“菜っ葉”というのは高校時代から惺だけが呼ぶ、あたしのニックネーム?みたいなもの。<br />「結構、学生いるのによく見つけたねぇ」<br />「うん、菜っ葉の匂いがしたから。ウ~、ワンワンッ」<br />「もう、ウソばっか。でも、なんで探しに来たの?」<br /> それが本題だ、と言わんばかりに惺はにっこり笑った。<br /> あ…なんだか、ヤな予感…。<br /><br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /><br /> 大学の近くのカフェにいる、惺と知花ちゃんとあたしの3人で。<br /><br />「はい、これ落とし物」<br />「うわぁ~、なくしたネイルチップだっ!」<br /> 惺がカフェのテーブルにぽん、と置いたのはまさにあの日、あたしが落としてなくしたはずのネイルチップだった。<br />「きゃ、ホントかわいい!」<br /> 知花ちゃんがビニール袋に入ったネイルを手に取る。<br />「そうでしょ、そうでしょ。知花ちゃんなら絶対そう言ってくれると思ってたんだぁ~。やっぱ2パック買っておいてよかったぁ。ね、ね、絶対“おそろ”にしようねっ」<br />「うんっ、菜乃果、ありがとう!」<br /> 知花ちゃんが感動に眼を潤ませながら頷くので、あたしも知花ちゃんの手を取って大きく頷いた。<br /><br />「あのさぁ、菜っ葉。感動する前に、なんか訊くことあんでしょ?」<br /> うるうるで手を取り合うあたしたちに、呆れ顔で惺がそう言う。<br />「あ、そうだ。なんで惺が、これ持ってるの?」<br /> そう訊いたあたしの背中を、知花ちゃんが笑いながら叩く。<br />「やだ、菜乃果。そりゃあ、拾ったからに決まってるでしょ」<br />「あ、そっか。でも、なんで惺が拾ったの?」<br /> 知花ちゃんが小首を傾げてちょっと考える。<br />「も、もしかして。菜乃果のストーカー!?ウチの大学にも、つけて来たっ!?」<br />「ええぇっ!!!」<br /> <br />「はあぁ~」<br /> 惺が盛大にため息をついた。<br />「あほ、菜っ葉。ほんっと、相変わらず。おまけに友達のキミ、もしかしてボケ担当?」<br /> 初対面のオトコにボケ担当かと訊かれた知花ちゃんは、たちまちふくれっ面になる。<br />「し、失礼だよ、惺」<br />「てか、なんで菜っ葉の落とし物だとわかったか、気にならないの?」<br />「え…やっぱ、ストーカーしてた?」<br /> 惺がテーブルを、ぱしんと叩いて言った。<br />「なわけないだろっ!」<br />「だ、だよね」<br />「あのさ、菜っ葉、もう一つ落としてない?」<br /> 惺が呆れ顔のまま訊ねた。<br />「え、えっと。カードケース?」<br />「そう。その中に沢口菜乃果って名前が書いてある、ポイントカードがあったんだ」<br />「あ、そっかぁ」<br /> な~んだ、そうかと納得するあたしに、惺がまた頭を抱える。<br />「あ、そっかぁって…それで終わり?どこで誰が拾ったかわかってんの?」<br />「そ、それは…。あたしが落としたところで、惺が…」<br />「怒るぞ、菜っ葉。俺、禅問答してるわけじゃないんだけど」<br /> そう、惺は言うけど。<br /> あたしが落としたのは、たぶん、おそらくあの図書館を曲がった角で、そこで拾ったのは…。<br />「菜っ葉、お前、誰かに激突しなかった?」<br />「う…」<br /> やっぱ、そうか。激突…そんな激しくぶつかったのか、あたし。よく倒れなかったなぁ、アイス。で、でも、なんでそれを惺が?<br />「菜っ葉、俺の苗字は?」<br />「え?氷川…?え、え…あれ?」<br />「氷川 有、お前んとこの非常勤講師は、俺の兄貴」<br /> 思わずぽかんと口を開けて惺を見てしまったあたしの代わりに、知花ちゃんが周りのお客さんやウエイトレスさんが注目するような素っ頓狂な声を上げた。<br />「えええええ~っ、ま、マジっすかぁ?」<br /><br />「惺、一人っ子じゃなかったの?」<br />「うん」<br />「だって高校のとき、みんなで惺の家に遊びに行っても、お兄さんなんていなかったじゃな~い」<br />「兄貴はもう、独り暮らししてたから。俺と兄貴、13コ違うから」<br />「ってことは、あたしたちとアイス…い、いや氷川先生も13歳違うってこと?」<br /> 知花ちゃんが、ようやく会話に再び仲間入りしてきた。<br />「アイス?」<br /> 惺が、知花ちゃんの言い直す前の言葉を拾った。<br />「あ、い、いや…」<br />「ふ~ん、兄貴、ココの大学ではそう呼ばれてるんだ」<br /> 惺がにやにやしながら、あたしと知花ちゃんの顔を交互に見る。<br />「い、いや。ただのニックネームだから。ほら、高校のときだって、先生にいろいろ陰でニックネーム付けてたでしょ?」<br /> なんだか焦るあたしたちを、惺はさらに面白そうに眺める。<br />「まぁ、氷川だからアイスってのはわかるけど。でも、それだけじゃないよね?やっぱ冷たい印象だから?」<br />「い、いやっ、そういうわけでは…」<br />「兄貴が知ったら、ショック受けるかもしれないぞぉ~」<br />「そ、それは是非とも内密に…」<br /> 知花ちゃんとふたりで両手を合わせて、惺に頼み込む。<br /> ぶつかっただけでも恨まれていそうなのに、ヘンなあだ名までつけられていると知ったら激怒されそうだ。コワい、コワい。<br /><br />「そ、それより、さ」<br /> 目の前に手を差し出すあたしに、惺は怪訝な顔をする。<br />「なに?」<br />「あ、いや、ほら。カードケース」<br /> ネイルチップだけでなく、カードケースも返してもらおうと、あたしは当然のように手をずぃと惺の前に差し出す。<br />「いま、持ってない」<br />「え、忘れてきちゃったの?」<br /> がっかりするあたしに、惺が悪魔の一言を言い放った。<br /><br /><br /></span></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" /></a>
  • Date : 2015-03-05 (Thu)
  • Category : アイス
436

①12星座中11位の朝

「うわぁ~、やばいやばいやばい~」 あたし、沢口菜乃果(さわぐち なのか)は朝からめちゃ焦ってた。 今日の1限の授業は必修科目。しかも出席に厳しくて、試験もできないと容赦なく落とすという評判の先生。先輩からは、落とすと2年目が大変だよぉ~って釘差されてたのに。「あ、あと7分っ!」 腕時計で時間を確認して、さらにダッシュして図書館の角を曲がった……ら。「きゃあぁっ!」 盛大にぶつかって、転んだ。 い、痛い... <br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「うわぁ~、やばいやばいやばい~」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> あたし、沢口菜乃果(さわぐち なのか)は朝からめちゃ焦ってた。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 今日の1限の授業は必修科目。しかも出席に厳しくて、試験もできないと容赦なく落とすという評判の先生。先輩からは、落とすと2年目が大変だよぉ~って釘差されてたのに。</font><br /><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「あ、あと7分っ!」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 腕時計で時間を確認して、さらにダッシュして図書館の角を曲がった……ら。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「きゃあぁっ!」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 盛大にぶつかって、転んだ。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> い、痛い…。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 咄嗟に地面についた右手が、痛い。たぶん擦り剥けたな。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 涙目で見上げたそこには、さらにやばいことに背の高い人が、あたしを冷たーい眼で見降ろしていた。</font><br /><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> う、うゎっ…アイス…だ。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 氷川 有(ひかわ ゆう)、うちの大学の非常勤講師。本職は一流広告会社のアートディレクターとかで、一般教養の『広告的発想論』っていう講義を担当している。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 氷川という苗字と全然笑わないクールな外見から、ついたニックネームはアイス。授業では無表情で、ぼそっとジョークなのかそうでないのかわからないことを言うらしいけど、あたしはその授業を取っていないから詳しいことはわからない。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 意外に、女子学生にまあまあ人気。長身で細身、ちょっと骨ばった感じで大人のオトコって雰囲気。頭が良さそうで、たぶん高学歴、高収入。ファッションだって仕事柄からか、さり気ないのにセンスがいい。だけど、多くの女子が好きな優しいタイプでは決してない、…気がする。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> もっと意外なことに、一部の男子学生に人気。好きな仕事で成功してて、飄々としたスタンスに憧れるんだとか。厳しいけど、ユニークな解答は評価してくれるところもカッコいいらしい。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> </font><br /><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> …て、そんなことどーでもよくって。</font><br /><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「うわ、ごめんなさい、ごめんなさい。あ、申し訳ありませんでしたっ!」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> あたしは慌ててバッグから零れた財布や教科書、ノートなんかを拾って戻すと、立ち上がった。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「あ、あの。急いでるので、1限遅刻しそうで、あの、出席厳しい先生で、試験もバンバン落とすって評判で…」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 慌てて要領の得ない謝罪なんだか言い訳なんだかわからないことを言っている間も、アイスはいつも以上に無表情で冷ややかな眼であたしを見つめているだけだった。</font><br /><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> お、怒ってる?</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> なんとか、言えば?</font><br /><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> あたしはもう一度、ぺこりとアイスに深く頭を下げると、3号館4階406教室へ向かって駆け出した。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> のに…。2階へ向かう階段の途中で、無情にも1限開始のチャイムが鳴った。</font><br /><br /><br /><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">✵ ✵ ✵</font><br /><br /><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「もう、菜乃果ったらラッキー!」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> そう言ったのは、同じクラスで同じダンス部の長倉知花(ながくら ちか)、親友の知花ちゃんだ。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「はぁ、休講だって知ってたら、あんなに焦んなかったのにぃ」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 朝から走り疲れたあたしは、知花ちゃんと学食でミルクティを飲んでいた。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「だけど、アイスとぶつかるなんて、まじアン・ラッキー!」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「もうっ、知花ちゃんたら、他人事(ひとごと)ぉ~」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 無表情だったけれど、だからこそ余計に怖いアイスの顔を思い浮かべて、あたしは頭を抱えた。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「恨みに思われてたら、どうしょう?」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「大丈夫だよ」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「そ、そぉ?」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 自信たっぷりにそう言い切った知花ちゃんに、あたしは両手を胸の前で組んで縋った。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「うん、たぶん菜乃果のことなんて知らないから。こんだけ学生いるし、授業取ってないし」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 大丈夫の根拠は、ソコかい。キャンパス内でばったり会って、嫌味言われないとも限らないじゃん。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「はぁ~」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> がっくりと頭を垂れて、あたしはあったかいミルクティのペットボトルを両手で包んだ。</font><br /><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「それはそうと、菜乃果。すっごい可愛いネイルチップ見つけたんでしょ?」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「あ、そうそう!」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> その話題で一気にテンションが上がったあたしは、大きめショルダーバッグの中をごそごそし出した。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 週末に原宿で偶然見つけた可愛いネイルチップ、知花ちゃんと”おそろ”にしようと思って2パック買ったんだ。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> え?うそ…ない?</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 焦ってごそごそ探すあたしを覗き込みながら、知花ちゃんが言う。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「どした?菜乃果」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「ない…落としたかも」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「どこで?」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> どこだろう?  </font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> ……あっ!</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「あのとき…だ」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「?」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「アイスにぶつかったとき」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「え~」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> ほかにもなくなっているモノは?と知花ちゃんに訊かれて、今更ながらあたしはバッグの中を確認した。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「お財布は?」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「うん、それはある…けど。…あっ!」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「な、なにっ?」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> カードケースがなくなっていた。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「銀行のカードや、クレジットカード入ってた?」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 知花ちゃんも焦り顔になって、そう訊く。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「ううん、それはお財布の中。でも、ポイントカードが…」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> お気に入りの洋服屋さんや雑貨のお店、よく行くファッションビルからドーナツ屋さんに至るまで、たくさんあってお財布に納まりきらないポイントカードを入れていたカードケースだ。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「ああん、ポイント結構溜まってたのにぃ~」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「キャッシュカードがなくなったわけじゃないから、まだ良かったじゃない」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 知花ちゃんがそう慰めてくれた。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「でも、“お気に”のカードケースだったのにぃ」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「アイスとぶつかったところに、落ちてるかも。探しに行こうよ、2限までまだ時間あるし」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「そうだね!」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> </font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> アイスとぶつかった図書館の角付近を、知花ちゃんと散々探したけどカードケースもネイルチップも見つからなかった。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「がっくし」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「ね、もしかしたら学生課かなんかに落とし物として届けられてるかも」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「そ、そうかな?」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「取りあえず、行くだけ行って訊いてみよ?」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 知花ちゃんはそう言って学生課までつきあってくれたけど、それらしい落とし物は届けられていなかった。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「もうっ、つくづくツイてないなぁ。あたし、今日厄日かなぁ?」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 肩を落としたあたしに、知花ちゃんが申し訳なさそうにスマホの星占いを見せた。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> 今日の星座ランキング、双子座は12星座中11位。</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「あ¨~~~」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3">「さ、最下位じゃなくて、まだよかったじゃん、ね?」</font><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> そう励ましてくれた知花ちゃんは水瓶座で7位。これまたビミョー。</font><br /><br /><font face="ヒラギノ角ゴ Pro W3" size="3"> だけど、そんなあたしの落とし物は後日、思わぬ相手から思わぬ方法で届けられることになったのだ。</font><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" /></a><br />
  • Date : 2015-03-04 (Wed)
  • Category : アイス
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プロローグ

本日より、新長編スタート!〈プロローグ〉と第1章 1話目アップしています(*´ω`*)初めての〈大人の恋〉は、落ちるものじゃあなくて。 落とされるものだった。 深くほの暗い水中で、 足のつかない浮遊感が怖い。 底が見えない不安に足掻いてしまう。 たとえそれが無駄だとわかっていても。 やがて。 見上げた先から、一筋の光の糸がすぅっと垂らされてきて。 何処へ繋がるのか、誰が垂らしたかもわからない糸に、 19歳のあ... <span style="color:#00CC99">本日より、新長編スタート!<br />〈プロローグ〉と第1章 1話目アップしています(*´ω`*)</span><br /><br /><br /><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><span style="font-size: medium;">初めての〈大人の恋〉は、落ちるものじゃあなくて。<br /> 落とされるものだった。<br /> <br /> <br /> 深くほの暗い水中で、<br /> 足のつかない浮遊感が怖い。<br /> 底が見えない不安に足掻いてしまう。<br /> たとえそれが無駄だとわかっていても。<br /> <br /> <br /> やがて。<br /> 見上げた先から、一筋の光の糸がすぅっと垂らされてきて。<br /> <br /> <br /> 何処へ繋がるのか、誰が垂らしたかもわからない糸に、<br /> 19歳のあたしは、<br /> 引き寄せられるように両手を伸ばした。<br /> やがてそれが自分を縛る枷になるとも知らずに。<br /> <br /> ✵ ✵ ✵</span></span><br />
  • Date : 2015-03-04 (Wed)
  • Category : アイス
434

ア イ ス

「や…ぁ…」冷たい? ううん、熱い?ね、知ってる? それとも、あたしがヘンなの?目隠しされて、氷で素肌をなぞられると、一瞬わからなくなる。酷く冷たいものを当てられたのか、それとも熱い何かなのか。氷川 有(ひかわ ゆう)、別名アイス。煉瓦の校舎を曲がった先で、あたしにlock onした彼は、冷たい仮面の下に 熱い独占欲を隠すオトコだった。〈プロローグ〉プロローグ第1章 ロックオン➀12星座中11位の朝 ➁IQ140超の元... 「や…ぁ…」<br />冷たい? ううん、熱い?<br /><br />ね、知ってる? それとも、あたしがヘンなの?<br /><br />目隠しされて、氷で素肌をなぞられると、一瞬わからなくなる。<br />酷く冷たいものを当てられたのか、それとも熱い何かなのか。<br /><br />氷川 有(ひかわ ゆう)、別名アイス。<br /><br />煉瓦の校舎を曲がった先で、あたしにlock onした彼は、<br />冷たい仮面の下に 熱い独占欲を隠すオトコだった。<br /><br /><br /><br />〈プロローグ〉<br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-435.html" target="_blank" title="プロローグ">プロローグ</a><br /><br />第1章 ロックオン<br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-436.html" target="_blank" title="➀12星座中11位の朝">➀12星座中11位の朝</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-437.html" target="_blank" title="➁IQ140超の元同級生">➁IQ140超の元同級生</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-438.html" target="_blank" title="ぎょぎょ魚!の作戦会議">③ぎょぎょ魚!の作戦会議</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-439.html" target="_blank" title="➃運命の土曜日">➃運命の土曜日</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-440.html" target="_blank" title="⑤アウェイじゃ勝てない"><br />⑤アウェイじゃ勝てない</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-441.html" target="_blank" title="⑥バイト面接と初日">⑥バイト面接と初日</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-442.html" target="_blank" title="アイスとミスG大">⑦アイスとミスG大</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-443.html" target="_blank" title="⑧激辛ラーメンはナメちゃ駄目">⑧激辛ラーメンはナメちゃ駄目</a><br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-444.html" target="_blank" title="なんでだろ?">⑨なんでだろ?</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-445.html" target="_blank" title="⑩ネクタイとてるてる坊主">⑩ネクタイとてるてる坊主</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-446.html" target="_blank" title="⑪学祭と打ち上げ">⑪学祭と打ち上げ</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-447.html" target="_blank" title="⑫氷川家訪問">⑫氷川家訪問</a> <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-448.html" target="_blank" title="⑬切ない絵と送りアイス">⑬切ない絵と送りアイス</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-449.html" target="_blank" title="⑭恋は一筋縄じゃいかない">⑭恋は一筋縄じゃいかない</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-450.html" target="_blank" title="⑮乙女心とおとめ心">⑮乙女心とおとめ心</a> <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-451.html" target="_blank" title="⑯恩師とお嬢さんとアイス">⑯恩師とお嬢さんとアイス</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-452.html" target="_blank" title="⑰菜乃果ホイホイ">⑰菜乃果ホイホイ</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-453.html" target="_blank" title="⑱ウインナーとくれそん">⑱ウインナーとくれそん</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-454.html" target="_blank" title="本当のアウェイ">⑲本当のアウェイ</a> <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-455.html" target="_blank" title="⑳恋人未満たちのクリスマス">⑳恋人未満たちのクリスマス</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-456.html" target="_blank" title="㉑キスの理由">㉑キスの理由</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-457.html" target="_blank" title="雨の夜の答え">㉒雨の夜の答え</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-458.html" target="_blank" title="㉓これでいいんだ">㉓これでいいんだ</a> <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-459.html" target="_blank" title="㉔ステーションホテル">㉔ステーションホテル</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-460.html" target="_blank" title="㉕媚薬と悪魔">㉕媚薬と悪魔</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-461.html" target="_blank" title="㉖午後の陽射しの中で">㉖午後の陽射しの中で</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-462.html" target="_blank" title="㉗ロストヴァージンのその後で">㉗ロストヴァージンのその後で</a> <br /><br />第2章 捕獲<br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-463.html" target="_blank" title="➀調教されてる?">➀調教されてる?</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-464.html" target="_blank" title="➁イヤらしい顔を見せて">➁イヤらしい顔を見せて</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-465.html" target="_blank" title="③たくさん、たくさん">③たくさん、たくさん</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-466.html" target="_blank" title="➃料理上手な彼">➃料理上手な彼</a> <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-467.html" target="_blank" title="⑤涙のバレンタイン ⅰ">⑤涙のバレンタイン 1</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-468.html" target="_blank" title="⑥涙のバレンタイン 2">⑥涙のバレンタイン 2</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-469.html" target="_blank" title="⑦涙のバレンタイン 3">⑦涙のバレンタイン 3</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-470.html" target="_blank" title="⑧涙のバレンタイン 4">⑧涙のバレンタイン 4</a> <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-471.html" target="_blank" title="⑨拘束のはじまり">⑨拘束のはじまり</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-472.html" target="_blank" title="⑩激しさとせつなさの狭間">⑩激しさとせつなさの狭間</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-473.html" target="_blank" title="⑪女子ピロートーク">⑪女子ピロートーク</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-474.html" target="_blank" title="⑫それぞれの恋">⑫それぞれの恋</a> <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-475.html" target="_blank" title="⑬ホワイトデーの暗雲">⑬ホワイトデーの暗雲</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-476.html" target="_blank" title="⑭有さんなんか大っ嫌い">⑭有さんなんか大っ嫌い</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-477.html" target="_blank" title="⑮いろいろ胸ふくらむ春">⑮いろいろ胸ふくらむ春</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-478.html" target="_blank" title="⑯甘い不安">⑯甘い不安</a> <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-479.html" target="_blank" title="⑰別荘地の鳥">⑰別荘地の鳥</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-480.html" target="_blank" title="⑱夜の来訪者">⑱夜の来訪者</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-481.html" target="_blank" title="⑲紅い星">⑲紅い星</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-482.html" target="_blank" title="⑳脱走とご主人様">⑳脱走とご主人様</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-483.html" target="_blank" title="㉑隠れ家レストランの夜">㉑隠れ家レストランの夜</a><br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-484.html" target="_blank" title="㉒ライムライト">㉒ライムライト</a><br /><br />第3章 翻弄 <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-485.html" target="_blank" title="➀蛇に睨まれたピエロ">➀蛇に睨まれたピエロ</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-491.html" target="_blank" title="➁不信とミルクキャンディー">➁不信とミルクキャンディー</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-493.html" target="_blank" title="③心を裏切る躰">③心を裏切る躰</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-495.html" target="_blank" title="➃豪 雨">➃豪 雨</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-496.html" target="_blank" title="⑤鬼ごっこと指切り">⑤鬼ごっこと指切り</a><br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-497.html" target="_blank" title="⑥過去との対峙">⑥過去との対峙</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-498.html" target="_blank" title="⑦本当の痛み">⑦本当の痛み</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-499.html" target="_blank" title="⑧大人と過保護">⑧大人と過保護</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-500.html" target="_blank" title="⑨彼の掌の上">⑨彼の掌の上</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-501.html" target="_blank" title="⑩エッチと死">⑩エッチと死</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-503.html" target="_blank" title="⑪夏休みのはじまり">⑪夏休みのはじまり</a><br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-504.html" target="_blank" title="⑫真夏の白昼夢">⑫真夏の白昼夢</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-505.html" target="_blank" title="⑬紐P">⑬紐P</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-507.html" target="_blank" title="⑭日常の中の非日常">⑭日常の中の非日常</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-509.html" target="_blank" title="⑮バトル">⑮バトル</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-511.html" target="_blank" title="⑯ファイアフライ">⑯ファイアフライ</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-512.html" target="_blank" title="⑰有さんの仔猫">⑰有さんの仔猫</a><br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-513.html" target="_blank" title="⑱パーティは大人の世界">⑱パーティは大人の世界</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-514.html" target="_blank" title="⑲浮いてるふたり">⑲浮いてるふたり</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-515.html" target="_blank" title="⑳慌てるふたり">⑳慌てるふたり</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-516.html" target="_blank" title="㉑涙の味の現実">㉑涙の味の現実</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-517.html" target="_blank" title="㉒浴衣と金魚と花火">㉒浴衣と金魚と花火</a> <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-518.html" target="_blank" title="㉓個性も花火も繚乱">㉓個性も花火も繚乱</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-519.html" target="_blank" title="㉔大輪の幻">㉔大輪の幻</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-520.html" target="_blank" title="㉕幻は縛れない">㉕幻は縛れない</a> <br /><br />第4章 氷点<br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-522.html" target="_blank" title="➀惺の彼女事件">➀惺の彼女事件</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-523.html" target="_blank" title="➁衣装選びは慎重に">➁衣装選びは慎重に ⅰ</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-524.html" target="_blank" title="③衣装選びは慎重に ⅱ">③衣装選びは慎重に ⅱ</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-529.html" target="_blank" title="➃困惑の果て">➃困惑の果て</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-535.html" target="_blank" title="⑤ハッピー・バースディ">⑤ハッピー・バースディ</a> <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-538.html" target="_blank" title="⑥片見月">⑥片見月</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-540.html" target="_blank" title="⑦暗 雲">⑦暗 雲</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-545.html" target="_blank" title="⑧クリスマスのお願い">⑧クリスマスのお願い</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-548.html" target="_blank" title="⑨うさぎと豹">⑨うさぎと豹</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-550.html" target="_blank" title="⑩眼を閉じて躰を開いて">⑩眼を閉じて躰を開いて</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-573.html" target="_blank" title="⑪名前も知らない三代目">⑪名前も知らない三代目</a> <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-575.html" target="_blank" title="⑫ささやかな共通点">⑫ささやかな共通点</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-576.html" target="_blank" title="⑬贅沢と等身大">⑬贅沢と等身大</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-577.html" target="_blank" title="⑭移ろいゆく季節">⑭移ろいゆく季節</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-578.html" target="_blank" title="⑮初めてのはじまり">⑮初めてのはじまり</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-579.html" target="_blank" title="⑯忘れられないこと、とか">⑯忘れられないこと、とか</a> <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-580.html" target="_blank" title="⑰100万回の">⑰100万回の</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-581.html" target="_blank" title="⑱オフィス街での再会">⑱オフィス街での再会</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-582.html" target="_blank" title="⑲びっくりの四者会談">⑲びっくりの四者会談</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-583.html" target="_blank" title="⑳ちょ、ちょっと待って">⑳ちょ、ちょっと待って</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-584.html" target="_blank" title="㉑棚からぼた餅">㉑棚からぼた餅</a> <br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-585.html" target="_blank" title="㉒あたしたちのこれからって?">㉒あたしたちのこれからって?</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-587.html" target="_blank" title="㉓宿 命">㉓宿 命</a><br /><br />第5章 Second Love<br />➀<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-588.html" target="_blank" title="有さんの両親">有さんの両親</a> ➁<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-593.html" target="_blank" title="有さんの決意と…">有さんの決意と…</a> ③<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-594.html" target="_blank" title="あたしの勇気">あたしの勇気</a> ④<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-602.html" target="_blank" title="④キャンバスと白い布">キャンバスと白い布</a> ⑤<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-605.html" target="_blank" title="ベール越しの世界">ベール越しの世界</a> <br />⑥<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-607.html" target="_blank" title="漫才のような再会">漫才のような再会</a> ⑦<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-617.html" target="_blank" title="あなたの存在">あなたの存在</a> ⑧<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-618.html" target="_blank" title="初出社、初会議">初出社、初会議</a> ⑨<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-619.html" target="_blank" title="いいチーム">いいチーム</a> ⑩<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-620.html" target="_blank" title="三代目とサボテン">三代目とサボテン</a><br />⑪<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-621.html" target="_blank" title="仁王立ちの来客">仁王立ちの来客</a> ⑫<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-622.html" target="_blank" title="浅野vs並木">浅野vs並木</a> ⑬<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-623.html" target="_blank" title="専務の秘密">専務の秘密</a> ⑭<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-624.html" target="_blank" title="浅野兄弟">浅野兄弟</a> ⑮<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-625.html" target="_blank" title="あなたが教えてくれたこと">あなたが教えてくれたこと</a><br />⑯<br /><br /><p></p><div></div> <div>&#160;</div>
  • Date : 2015-03-01 (Sun)
  • Category : アイス
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