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第3章 キミが居た場所〈ⅰ〉

 屈伸運動をし、両足のアキレス腱を伸ばすと、柊は早朝でまだ気温の上がっていない五月晴れの空の下へ走り出した。 市内を流れる水路のせせらぎに心洗われながら、繁華街とは逆の城址公園を目指す。途中には灯里や繭里とともに通った中学校もある、懐かしいルートだ。新緑の街路樹が朝陽を受けて、青空と眩しいほどのコントラストを描いている。 ゴールデンウィークの後半、7歳上の兄、奏(そう)の結婚式に出席するために、柊... <span style="font-size:large;"> 屈伸運動をし、両足のアキレス腱を伸ばすと、柊は早朝でまだ気温の上がっていない五月晴れの空の下へ走り出した。<br /> 市内を流れる水路のせせらぎに心洗われながら、繁華街とは逆の城址公園を目指す。途中には灯里や繭里とともに通った中学校もある、懐かしいルートだ。新緑の街路樹が朝陽を受けて、青空と眩しいほどのコントラストを描いている。<br /> ゴールデンウィークの後半、7歳上の兄、奏(そう)の結婚式に出席するために、柊は帰省していた。奏は今年31歳になる県庁職員で、義姉となる咲は2つ下の保育士だ。堅実で明るい夫婦になるんだろうな、と結婚式に出席して柊は思った。<br /><br /> 平凡な幸せが一番なのに。<br /> なぜ、灯里はこんなにも辛い人生を強いられるのだろう。<br /> 想うのは、故郷に帰ってきても、いや幼い頃から共に過ごした故郷だからこそ、ずっと見つめてきた灯里のことだ。<br /><br /> 斜め向かいに住む、小さな可愛らしい姉妹を知ったのは幾つのときだっただろう。<br /> 気がつけば、いつも一緒に遊んでいた。年の離れた兄を持つ柊にとっては、灯里と繭里がむしろ兄弟姉妹のようにとても身近な存在だった。<br /> 最初の鮮明な記憶があるのは、柊と繭里が5歳、灯里は小学校に上がった頃だ。ランドセル姿の灯里がお姉さんに見えて、小学校から帰ってくるのを繭里とふたりで楽しみに待っていた気がする。<br /> 灯里が帰ってくると、近所の同年代の子供達と鬼ごっこや隠れんぼをして遊んだ。<br /> 小学生時代の灯里は背が高い方で、足がとても早かった。灯里と同級生の男の子でも、鬼ごっこではなかなか灯里を捕まえられなかったから、2つ下でまだ5歳の柊にはいっそう手強い相手だった。<br /> その日は散々走って、これが最後にしようと言った鬼ごっこで、柊が鬼になった。<br /><br /> 柊が最初に狙いを定めたのは、繭里だ。繭里は、すらりと手足の長い灯里と対照的に小さくて、ふっくらと女の子らしく足が遅かった。動作もおっとりしているから、最初に標的にされやすいのだ。目の前を懸命にパタパタと走る繭里に、柊はすぐに追いついた。<br />「繭里ちゃん、捕~かまえたっ」<br /> そう言って伸ばした柊の手を必死でかわそうと身を捩った繭里が、その拍子に躓(つまず)いて転んだ。<br />「あっ」<br /> 大丈夫?と柊が言うより早く、灯里が文字通り風のように疾走してきた。<br />「繭里ちゃん、大丈夫?」<br /> 自分が捕まるのも厭わずに駆け寄って、灯里は繭里を助け起こした。<br />「お姉ちゃん」<br /> 繭里が灯里に助け起こされて、嬉しそうにえくぼを浮かべて笑う。膝小僧がちょっと汚れていたけれど、血は出ていない。それを確認した灯里も、ほっとしたように笑顔になった。<br /><br />「ああ、よかった」<br />「うん、でも繭里、捕まっちゃった」<br />「うん、あたしも」<br /> そう言って自分の方を見た灯里に、柊は言った。<br />「灯里ちゃんは、まだ捕まえてないから。もう一度、逃げていいよ」<br />「でも、そうしたらあたし、なかなか捕まんないよ」<br /> そう灯里が言ったけれど、柊はその頃から片鱗を覗かさていた頑固さで言った。<br />「大丈夫。僕、灯里ちゃんを絶対捕まえてみせるから」<br /> だけど灯里は柊の手を取って、おどけながら言ったのだ。<br />「あ~あ、捕まっちゃった」<br /> 柊は、その灯里の優しさが少し不満だった。<br /> 僕は、ちゃんと捕まえられるのに。灯里ちゃんを、正々堂々と捕まえたいのに。<br /> そんな柊の気持ちを知らない灯里は、大きな声で叫んだ。<br />「みんな~、今度はあたしが鬼だよぉ。捕まえちゃうぞぉ~!」<br /> そしてまた風のように軽やかに駆け出すと、他の子供たちをあっという間に次々と捕まえていった。<br /> いまなら、と柊は思う。<br /> 僕は捕まえるよ。灯里を正々堂々と、そして決して逃がさない。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> ゴールデンウィーク後半の初日、3日はダンススタジオの発表会だった。子供から大人まで、バレエからジャズダンス、ヒップホップ、ソウル、ブレイクダンスなど多彩なクラスが出演し、これまでの練習の成果を競っていた。<br /> シンジのクラスからは3曲、そのうちの1曲はやはりカオルが主役だった。後の2曲のうち1曲は、メインダンサーの5人の中に、シンジはあの女子大生のうちの一人を抜擢していた。<br />「なんで、一人だけ?」<br />「ま、見ててみな。ほかの2人がどうするか」<br /> 発表会までは相変わらず3人いつも一緒だったが、その関係性がなんとなくギクシャクしはじめているのを灯里は感じていた。<br /> 今回も灯里は、発表会に出なかった。出たのは大学時代の2回だけ。カオルに散々誘われたが、集中練習にあまり参加できないこともあって、やはり断った。無心に踊るのは楽しい、でもスポットライトは少し苦手だから。<br /> 発表会の最後は講師たちのダンスもあって、同じストリート系の2人と組んだシンジのダンスが圧巻だった。スタンデイングオベーションをする他の観客と共に、灯里は惜しみない拍手を贈った。<br /><br /> 発表会会場から出て、夕暮れどきの5月の街を歩きながら、故郷へ帰っている柊のことを思った。<br /> 結婚するという柊の兄は、年が離れているせいかあまり交流した記憶がない。でも最後に見かけたのは奏が大学生のときで、柊と同じくとても背が高かい人だった。顔も似てはいたが、どちらかといえば父親似で男っぽく、母親似の柊の方が中性的だと思う。<br /> <br /> そう言えば、柊と繭里と3人で捨て犬を拾ったのは、こんな瑞々しい初夏のことだったと灯里は思い出した。たまたま一緒になった小学校からの帰り道、「近道をしよう」という灯里の提案で本当は禁止されているお屋敷街の裏道を通った。雑木林の傍を通り過ぎようとしたとき、か細く弱々しく鳴く動物の声を訊いた。<br />「何?」<br />「犬かなぁ?」<br /> 柊と灯里がそう言って雑木林の中へ入ろうとすると、繭里が怖々言った。<br />「怖い動物じゃないよね?」<br />「じゃ、繭里はそこで待ってて」<br /> そう言う灯里に、繭里は頭を振った。<br />「独りで待ってるの、怖い。一緒に行く」<br /> そんな繭里の手を引いて、灯里と柊は雑木林へ入っていった。進むにつれ、そのか弱い声はそれでも大きくなる。湿った雑草を分け行った木の根元に小さなダンボールが置いてあって、3人は恐る恐る中を覗いた。<br /><br />「子犬だっ」<br /> 繭里が嬉しそうな声を上げる。<br />「可愛いっ」<br /> 情けなさそうに3人を見上げながら震える、茶色の塊に灯里も言った。<br />「可哀想に、雑種かなぁ?」<br /> ダンボールの傍に柊がしゃがみこんで、子犬の頭を撫でた。キイュ~イと可愛い声でまた鳴く。<br />「どうする?」<br /> 柊の隣に灯里もしゃがみこんで訊ねる。<br />「どうするって…どうしよう?」<br />「飼いたい!」<br /> 無邪気に提案する繭里に、灯里は言った。<br />「ウチじゃ無理。お祖母様が許さないよ」<br /> <br /> お客様に飲食を提供する料亭を営んでいるために、祖母のリツは犬猫はもとよりウサギや小鳥、亀など全てのペットを飼うことを禁じていた。その決定は絶対で、幼い孫達がどんなに頼んでも、首を縦に振ってはくれなかった。繭里にいたっては立場的に、リツを怖いお祖母様と思っているので、絶対的存在を匂わしただけで首を竦めてしまった。<br />「柊ちゃん」<br /> 繭里がお願いのポーズを取って、可愛く首を傾げる。灯里もそれに習って、柊を見つめる。<br />「え~っ!」<br /> 仲の良い、大好きな幼なじみの姉妹にお願いされて、柊は思わずそう言って頭を抱えた。<br /></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a><br />
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第2章 彷徨う魂たち〈ⅸ〉

「北川さん?」 療養病院を出ようとした灯里は、一人の男性に呼び止められた。「あ、三宅課長」 それは灯里が証券会社に勤めていた頃、別の部署で課長を勤めていた三宅雅彦だった。「奇遇だねぇ、お見舞い?」「はい、祖母の。課長は?」 何気なく訊ね返した灯里は、一瞬曇った三宅の顔に、触れられたくないことを訊いてしまったのだと思った。「私は…」「あ、ごめんなさい。プライベートなことですよね」 すぐにそう言った灯... <span style="font-size:large;">「北川さん?」<br /> 療養病院を出ようとした灯里は、一人の男性に呼び止められた。<br />「あ、三宅課長」<br /> それは灯里が証券会社に勤めていた頃、別の部署で課長を勤めていた三宅雅彦だった。<br />「奇遇だねぇ、お見舞い?」<br />「はい、祖母の。課長は?」<br /> 何気なく訊ね返した灯里は、一瞬曇った三宅の顔に、触れられたくないことを訊いてしまったのだと思った。<br />「私は…」<br />「あ、ごめんなさい。プライベートなことですよね」<br /> すぐにそう言った灯里に、三宅は疲れた微笑みを見せながら言った。<br />「いや、いいんだ。私は、妻の見舞いだ」<br /> 三宅課長は37歳、仕事ができ、部下からの信頼も厚いが、あまり社内の人間とお酒などのつきあいを好まないと訊いたことがある。<br /> 背が高く、スマートで、顔立ちも整っているので、女子社員からの人気も高かった。<br />「でも飲み会に誘っても、決して来ないのよ。何でかしら?」<br /> 更衣室で、先輩社員がそう話しているのを訊いたこともある。<br /><br />「奥様、ですか」<br />「うん。北川さんは、わざわざ東京から?」<br />「はい。私、出身がこっちなんです」<br />「そう。実は妻の実家も、こっちでね」<br /> そうなんですか、と灯里は頷いた。<br />「ところで北川さん、帰りはタクシー?」<br />「いえ、いつもバスです」<br />「そう。待ち時間が大変でしょう。よかったら、一緒に乗っていく?タクシー」<br /> この長期療養病院は寝たきりや介護が必要な入院患者が多く、必然的に通常の病院よりも立地条件が悪い。病院自体は清潔で看護体制が行き届いているので、待機患者がいるほどだが、通う家族は不便を強いられる。そのため次第に足が遠のく家族もいると訊く。<br /><br />「お願いします」<br /> バス停まで10分ほど歩かなければならないし、バスの本数自体も少ないので、灯里は素直にそう言った。<br /> 慣れた様子で、携帯からタクシー会社に電話した三宅は言った。<br />「5分ほどで来るそうだよ」<br />「ありがとうございます。助かりました」<br /> やがてやってきたタクシーに乗り、駅まで25分ほどで着いた。バスよりはやはり早い。<br /> 「半分払わせてください」という灯里に、「独りでも同じだから」と三宅は笑った。<br /> 駅からは特急に乗り、途中で新幹線に乗り換えて東京まで約4時間。月1回通うのでも、なかなか大変だ。三宅はいったいどれくらいの頻度で通っているのだろう、と灯里は思った。<br /> 新幹線に乗って、灯里は三宅の分もコーヒーを買った。<br />「タクシーのお礼には、程遠いですけど」<br /> そう言う灯里に、鷹揚に微笑みながら三宅が言った。<br />「北川さんは、若いのに律儀だね。夏目老人が、気に入る訳だ」<br />「ご存知だったんですか?」<br />「うん。北川さんが辞めてから、ちょっと噂に訊いた」<br />「夏目さんにご迷惑をかけたんじゃ」<br /> 灯里は心配になった。<br />「大丈夫だよ。羨ましいと思う者はいても、夏目老人に面と向かってそれを言える者などいない。言ったところで、どこ吹く風の方だから」<br /> そう言われて、灯里はほっとした。<br />「新しい職場は、楽しい?」<br />「はい」<br /> 少し控え目に、でも素直に灯里は言った。<br />「そう、それはよかった」<br /><br /> 車窓に流れる景色を見ながら、三宅と灯里はしばらく黙ってコーヒーを飲んだ。<br />「お祖母さん、入院して何年?」<br /> 窓の景色に眼をやりながら、三宅がそう訊く。<br />「6年です」<br />「そう」<br /> それから三宅は、コーヒーをひと口飲むとさらりと言った。<br />「私は、5年だ。北川さんの方が、先輩だね」<br /> 5年だって十分長い。しかも祖父や祖母ではなく、妻なのだ。<br /> 奥様はお幾つなんだろう、と思っても訊くことができない。<br />「北川さんは、不思議な人だ」<br />「不思議な人?」<br /> 唐突に三宅にそう言われて、灯里は戸惑った。<br />「うん。夏目老人の件でもそう思ったけど、人を動かす力を持っている気がする」<br />「そんな…買い被り過ぎです」<br /> 思わず照れ笑いしてしまった灯里に、三宅が真剣な眼を向けた。<br />「妻のことを、話してもいいだろうか?」<br />「え」<br />「急に、誰かに訊いてもらいたくなった。いや、誰かじゃないな。北川さんになら、話したいと思った」<br /> そして新幹線が東京駅に着くまで、三宅は妻がなぜ長期療養病院に入院することになったかを、静かに語り続けた。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「週末は会えない」<br /> そう言った灯里を思わず問い詰めてしまったことを、柊は後悔していた。<br /><br /> 金曜の夜、ダンスのレッスンだとかで遅く帰ってきた灯里を、柊はマンションの前で待っていた。<br />「ストーカーみたいなこと止めて」<br /> 灯里にそう言われて、情けないのと同時に腹が立った。<br /><br /> あの夜、あれだけふたりで躰を重ね合ったのに。せつなさと幸福が綯い交ぜになった快楽の波間に一緒に溺れ、疲れ果てた子供のように抱き合って眠ったと思ったのは僕だけなのか?じゃあ、僕はいったいキミのなんなんだ。<br /> 心の中で、当然のようにそう灯里を非難するほど、柊はもう彼女のことしか考えられなかった。<br /><br />「僕は、ストーカーから灯里を守ったつもりだけど」<br /> 不満そうに訴える柊に、灯里はため息をつきながら言った。<br />「予定があるの」<br />「どんな?」<br />「日曜日は、お料理教室」<br />「土曜日は?」<br />「出かけるの」<br />「どこへ?」<br /> 食い下がる柊を、灯里は呆れたように見つめる。<br />「どこへだっていいでしょう?」<br /> よくなんかない。出かけるって独りでか?それとも、別の男…。<br />「教えられないことなの?」<br /> 教えられないことだ。祖母の見舞いのために毎月、帰郷していることは父以外に知られてはならない。<br />「そうよ」<br />「なぜ?」<br /> 執拗な柊に灯里が唖然とした表情をして、それが柊の気持ちを傷つける。<br />「柊ちゃん、いいかげんにして」<br />「灯里、部屋へ入れて」<br />「ダメよ」<br />「どうして?」<br />「だって」<br /> 灯里は怖い。ほんの少しでいいから想い出をつくる、それだけでいいと思っていたはずが、これまで知らなかった快楽を知ってしまった。しかも毎回、新たな快楽へ引きずり込もうとするのは、灯里が6年間苦しんでも諦められなかった幼なじみなのだ。<br /> このままでは、離れられなくなる。この関係を続けて行っても未来がないことに、灯里は再び絶望しはじめていた。<br /> 柊が、言い放つ。<br />「灯里は言ったよね、激しく抱いて傷つけてって。あれは僕を利用しただけなの?それならそれで構わない。ただし、利用するなら、最後まで利用し続けろよ」<br /> 滅茶苦茶な論理だと、柊にはわかっていた。でもそれでも、柊は灯里を求めずにいられない。もう知ってしまったから。灯里が自分にとって、心も躰も特別な女だということを。<br />「明日は早いの」<br /> とうとう灯里が諦めたように言う。<br />「わかった、無茶はしないよ。約束する」<br /><br /> そう言ったのに。<br /> 灯里がイク姿をもっと見たくて、自分の手で灯里をもっともっと狂わせたくて、柊はつい試してしまった、いろいろと。もう「男に二言はない」と言ったアレンを責める資格は、柊にはない。<br /> 別な意味で灯里が泣いて、「もうダメ。許して」と言うまで、柊は止めることができなかった。そして初めて柊は、やりすぎたと灯里に謝罪した。<br /> くたりと力が抜けた灯里が「いいの、わかってくれたなら」とやっとのことで言う。<br /><br /> 翌朝、早く起きてどこかへ出かける灯里を見送って、柊は自分のアパートへ戻った。そして謝罪した訳をすっぽり忘れ去ったように、再び研究に励んだ。<br /> 繰り返すが、もともと研究熱心な性格で突き詰めなければ気が済まない。ただ今度の研究対象が、灯里と快楽というだけのこと。<br /></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a><br />
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第2章 彷徨う魂たち〈ⅷ〉

「柊、学食行く?」 実験用の器具を洗い終え、収納棚に整理し終わった星奈が言った。「あ、悪い、星奈。僕、今日は約束があって」「そう?じゃ、私はお昼行ってくるね」 どんな約束かなんて訊きもしない、あっけらかんとした星奈の性格が好ましい。「今日のAランチはなんだろ」 そう期待に満ちた声で言いながら、星奈は実験研究室から出て行った。 それを見送った柊は、おもむろに小さな紙製の手提げ袋を持って部屋から出た。... <span style="font-size:large;">「柊、学食行く?」<br /> 実験用の器具を洗い終え、収納棚に整理し終わった星奈が言った。<br />「あ、悪い、星奈。僕、今日は約束があって」<br />「そう?じゃ、私はお昼行ってくるね」<br /> どんな約束かなんて訊きもしない、あっけらかんとした星奈の性格が好ましい。<br />「今日のAランチはなんだろ」<br /> そう期待に満ちた声で言いながら、星奈は実験研究室から出て行った。<br /> それを見送った柊は、おもむろに小さな紙製の手提げ袋を持って部屋から出た。向かう先は、中庭だ。 <br /> 数名の学生に混じって、空いたベンチに腰をかけると柊は空を見上げた。今日が天気でよかった。途中の自販機で買ったペットボトルのお茶を一口飲む。それから、紙袋からハンカチで包まれたお弁当を取り出した。<br /><br /> 昨日は灯里の家へ泊まった。何回か躰を重ねるうちに、ふたりとも寝落ちしてしまったからだ。今朝、柊よりも早く起きた灯里は朝食とお弁当を用意してくれた。<br /> 弁当なんて、高校以来だ。ハンカチを解き、弁当箱の蓋を開ける。<br /> きれいに形づくられた卵焼き、ウインナーはちゃんとタコさんになっていて微笑ましい。ブロッコリーの緑が綺麗なサラダ、つやつやとしたレンコンのきんぴら、菜の花の胡麻和えが春を添えている。小梅が乗ったご飯に箸をつけると、間に海苔を挟んだ2段ののり弁になっていた。<br /> 旨い、そして幸せだ。きっと灯里もいま頃、この同じ弁当を食べているだろう。<br /> 柊が思いがけない幸福を噛み締めていると、背後から嫌な声がした。<br /><br />「へぇ、旨そうじゃん。どうしたんだよ、その弁当?」<br /> アレンだ、振り向かなくともわかる。<br />「学食へ行ったらさ、めずらしく星奈が一人で飯食ってるから、柊はどうしたって訊いたんだ」<br /> そう言うと、ベンチをその長い両足で挟むようにして、柊の隣にどかっと座る。<br />「絶交はどうなったんだ?」<br /> アレンの顔を見ないようにして、柊は弁当を食べ続ける。アレンはそれには答えずに柊に訊ねる。<br />「用があるんじゃなかったのか?もう済んだのか?」<br />「ああ、済んだ」<br /> 柊も意地になって答える。<br />「ああ、そう。なら、その弁当持って学食へ来りゃよかったのに」<br /> 明らかに面白がっているアレンに、柊は腹が立った。<br />「アレン…」<br />「星奈には黙っててやるよ」<br />「ほんとか?」<br /> それでやっとアレンの顔を、柊は見た。<br />「ああ。その代わり、その卵焼き1つ、くれ」<br /> そう言うが早いか、アレンはひょいと卵焼きを摘まみ上げた。<br />灯里がつくった弁当をアレンに食われるのは気に入らなかったが、背に腹は変えられない。揶揄われるのは、アレン一人で十分だ。<br />「へぇ、旨いじゃん」<br /> ひと口で食べたアレンが、指を舐めながら言う。<br />「て、ことはさ。まさか、泊まった訳?」<br /> 鋭い。だけど、なぜそこで朝渡されたと思わずに、泊まったと思うんだ。<br />「アレン、本当に星奈には…」<br />「わかってるよ。男に二言はない。さ、卵焼き1つじゃ足りないから、俺はがっつりBランチでも食うよ。今日は白身魚のフライだったな、星奈ががっついてた」<br /> そう言って立ち上がったアレンを見送って、柊は再び弁当に向かった。今度こそ誰も邪魔するな、この幸せな時間をと念じながら。<br /><br /> 弁当を見えないように紙袋に再び入れて、柊は実験研究室に戻った。<br /> 昼休みはまだ終わっていないというのに、星奈がもうコンピュータの前で実験データを入力している。<br />「熱心だね」<br /> 柊は、そう星奈に声をかけた。<br />「う~ん?」<br /> と言った星奈が、コンピュータの画面を見ながら訊ねた。<br />「お弁当おいしかったぁ?夜通し運動した翌日はお腹がすくから、余計おいしいよねぇ」<br /> 運動って、何だ。夜通しなんて、してない。明け方近くまでだ、ってそんなことはいまはどうでもよくて。なぜ、そんなことまでわかるんだ。弁当一つで。<br /> しかも何気に、星奈がアレンに似てきている気がするのも癪に障る。<br /><br /> おい、アレン。僕は今後一生、お前の「男に二言はない」は信じないぞ。灯里がつくった、俺の卵焼きを返せ!<br /> アレンの舌を出した楽しそうな顔が、柊の脳裏に浮かんだ。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 週末、灯里は実家のある駅からバスで40分ほど離れた、長期療養病院にいた。<br />脳梗塞で祖母のリツが倒れたのは、灯里が高校3年の秋。それからリツは意識が一度も戻らず、この病院に入院してもう6年が経つ。実家へは一度も帰らない灯里が、毎月必ず、この療養病院を訪れていることを知っているのは父だけだ。リツと折り合いが悪かった繭里の母は滅多に来ないし、繭里も勝哉と料亭のことで頭が一杯で祖母のことまで気が回らないらしい。時折訪ねているらしい父は、仕事が休みの平日に来ているらしく、休日に訪れる灯里と会うことはない。<br /> 流動食の管が繋がれ、もうすっかり枯れ枝のようになってしまったリツを見るのは辛い。気丈で厳しく、いつも女将としての姿勢を崩さないリツは灯里の母親替わりだったからだ。<br /> お茶やお花の心得があって芯の強い灯里の母、織江を気に入って次男の一史(ひとし)とお見合い結婚させたのは他でもないリツだ。女将として経営全般を取り仕切るリツの決定は当時絶対で、長男の一行(かずゆき)より次男の一史に継がせることを言い渡しても、反対するものは一人もいなかったそうだ。<br /> 板前としての才能も、経営者としての才覚もないことを自覚していた一行は、進んで厳格なリツの元を離れ、いまでは自由気ままなサラリーマン生活だ。<br /> 万事につけて強引なリツのやり方が綻びはじめたのは、温厚で優しい父がどうしても諦めきれなかった繭里の母、万祐子との関係を続けているのを知ったときだ。<br /> リツは織江が知る前になんとか別れさせようと試みたらしいが、従順だと思っていた一史が頑として聞き入れない。そのうちに万祐子が妊娠してしまい、とうとう灯里の母である織江はたった独りの娘を置いて『北賀楼』を去った。<br /> しかしリツの思惑の最大の綻びは、自分ではなかったかと灯里は思う。<br /> 幼い頃から『北賀楼』の後継者としてリツに厳しく、その一方で手塩にかけるようにして育てられてきた自分が、その恩を仇で、いや最大の裏切りで返してしまったような気がしてならないのだ。<br /> リツが脳梗塞で倒れたのをいいことに、東京の大学を受験し合格、さっさと『北賀楼』と故郷を捨てて上京してしまったと誹(そし)られても、灯里には返す言葉がない。挙句の果てには、勝哉との許婚の解消を父に頼んだ。そして起きてしまったあの忌まわしい出来事。それはリツからの灯里への罰だと、いまでは信じ込むようになった。<br /> 自分は幸せになってはいけない、リツの見舞いに訪れるたびに灯里はそう思う。幸せになっては、リツに合す顔がない。脳裏に浮かぶ愛おしい柊の顔を掻き消すように、灯里は常となっている謝罪を今日も繰り返した。<br />「ごめんなさい、お祖母様、ごめんなさい。あたしは自分勝手な娘です。でも許しを請うことはしません。お祖母様に決して許されないことが、あたしの贖罪だから。決して幸せを願わず、自分の想いを最後はちゃんと葬ることが、あたしにできる最後の恩返しです」<br /> 柊ちゃんとは必ず終わりにします…想像するだけで身を切られるような思いに捕らわれながらも、灯里は毅然とリツの顔を見つめた。<br /></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a>
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第2章 彷徨う魂たち〈ⅶ〉

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第2章 彷徨う魂たち〈ⅵ〉

 強くなりたい、強くなりたい、強くなりたい。サンドバッグに右ストレートを埋めるように突き出しながら、柊はその思いも激しくぶつけた。強くなりたいという気持ちが執拗に膨れ上がったのは、あれがキッカケだったのかもしれない。今でも明確に脳裏に浮かぶ、勝哉の姿、その表情、あの言葉。大人で強そうで、自信たっぷりに「私の許婚の灯里お嬢さん」と言った勝哉。中学生だった柊は、その全てに衝撃を受けた。僕は、子供だ。弱... <span style="font-size:large;"> <br />強くなりたい、強くなりたい、強くなりたい。<br />サンドバッグに右ストレートを埋めるように突き出しながら、柊はその思いも激しくぶつけた。<br />強くなりたいという気持ちが執拗に膨れ上がったのは、あれがキッカケだったのかもしれない。<br />今でも明確に脳裏に浮かぶ、勝哉の姿、その表情、あの言葉。<br />大人で強そうで、自信たっぷりに「私の許婚の灯里お嬢さん」と言った勝哉。中学生だった柊は、その全てに衝撃を受けた。<br />僕は、子供だ。弱い。灯里を好きだと想う気持ちだけでは、どうにもならないのだ。悔しかった。この悔しさをどこへぶつければいい。<br />目の前の目標は、進学校への合格だ。それから灯里と同じく、東京の大学を目指して、そこで好きな科学を学び、それを活かせる会社に就職する。そして、灯里と…。<br />思い描いた未来は、そこで途絶えた。僕に、灯里との未来はないんだ。<br />がっくりと項垂れたあの日の自分に、言ってやりたい。<br />手を伸ばせば、灯里はいま触れられる距離にいる。抱きしめることだってできるんだと。<br /><br />あの白くやわらかく、瑞々しい弾力を持った素晴らしい肌。裸で、その肌を感じたとき、それだけで柊はどうにかなりそうだった。吸いつくようにしっとりと滑らかで、離れたくない。抱きしめているだけで、快感が躰を駆け巡る。灯里のナカへ入ったら、どうなってしまうのだろう?僕は気が狂ってしまうのではないか?<br />柊だって、経験がないわけじゃない。でも、これまでのどんな女の子とも灯里は違っていた。いや、柊の想いの違いがそう感じさせていたのかもしれないが。<br /> 貪るように、無我夢中で、必死に、なりふり構わず、抱いてしまった。灯里が感じていたかなんて、わからなかった。細かな状況が記憶から飛んでいる。余裕など全くなかった自分が、いまは情けない。<br />「激しく抱いて傷つけて」と灯里は言ったけど、そう言われたからではなく、ただもう嵐のように過ぎた時間だったというのが偽らざる実感だ。<br /> だけど今夜は、灯里を昇りつめさせたい。感じたときの灯里がどんな表情になるのか、どんな声で啼くのか、どんな風に身悶えるのか。灯里の全てを手に入れて、引き出し、味わい尽くしたい。<br /> こんな想いになったのは初めてだ。でも、その欲望にもう抗わない。ちゃんと余裕を持って、研究して。 <br /> もともと研究熱心な性格の柊である。そして現代、研究材料には事欠かない。実践というハードルはあるが、それを確実に越えようという頑固な意思もある。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 大量にかいた汗をシャワーで流そうと、柊はロッカールームへ入っていった。<br /> 一つしかないシャワールームから、ちょうどアレンが腰にバスタオルを巻いて出てきたところだった。<br />「おお、お疲れ」<br /> そう言ってアレンは、自分の荷物を入れたロッカーの前に向かう。その背中を何気なく見ていた柊の眼の前で、アレンの腰に巻かれていたバスタオルがずり落ちた。<br /> 慌ててそれを拾うアレンが、らしくない。彼なら素っ裸で前が見えたって、意に介さないくらいの図太い神経の持ち主だ。しかしさらにらしくないことに、アレンはゆっくり窺(うかが)うように柊の方へ振り返ろうとした。<br /> その瞬間、柊はさっとシャワールームに入った。動揺を隠すように急いでコックを捻り、勢いよくシャワーを出す。<br /><br /> 僕は、いま、何を見た?<br /><br /> それはほんの数秒だったはずだ。しかし、その通常ではない光景を凝視してしまった。柊の脳裏にいま見たばかりの残像が焼きついている。<br /> 最初は、麻疹(はしか)か何かの跡かと思った。しかし尻の全面に、その部分だけを狙ったように無数につけられた跡。そう、それは意図的につけられたものだ。<br /> 煙草?確信を持って浮かんだ答えにゾッとして、柊はそれを振り払うかのようにシャワーを浴び続けた。<br /><br /><br />「飯、食ってく?」<br /> シャワーを浴びて着替え、帰ろうとする柊にアレンが訊いた。<br />「いや。用事があるんだ」<br />「Miss幼なじみか?」<br /> そう悪戯っぽく眼を光らせたアレンは、いつもの彼だった。<br />きっと自分が見たとは、思っていないのだろう。良かった、と柊は思った。<br />「関係ないだろ」<br /> 柊も、いつも通りに返せた。<br />「頑固だな」<br />「よく言われるよ」<br />「ま。納得いくまで、突き進めよ」<br />「当然だ」<br /> じゃあな、と言ってアレンは先にジムを出て行った。<br /> 陽気で、男女を問わず気さくにつき合う超イケメン、バイリンガルのハーフ、口は悪いが気のいいヤツ。そんな陽の部分しか感じさせないアレンの陰の部分に、柊は今日初めて触れた気がした。<br /><br /> 誰にだって、人に話せない秘密やトラウマがある。灯里のそれは、一体なんなのだろう。詮索するつもりはない。ただ、灯里がもう大丈夫と言うまで、柊はつき合う覚悟だ。<br /> ジムの近くでハンバーガーを食べ、柊は灯里のマンションへと向かった。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 昨日、カオルの家に泊まる羽目になった灯里は、今日は仕事が終わると早めに帰宅した。<br /> 同じ服だとマズイからと、カオルに貸してもらったブラウスは、やっぱりカオル・テイストで灯里にはいまいち似合っていない。気はバッチリ合うのに洋服の趣味は違うんだな、となんだか可笑しくなる。<br />灯里はまず、バスに入浴剤を入れてお湯を溜めた。ゆっくりと入浴して、部屋着に着替えると習慣になっているストレッチをする。<br />それから、おもむろに冷蔵庫を覗く。何、食べようかな。常備菜のレンコンのきんぴらは明日のお弁当用に取っておきたいし、ほかにも副菜をつくっておかなくちゃ。<br />しばし考えて、灯里はお弁当にも入れられるブロッコリーのサラダと菜の花の胡麻和え、夕食用にアスパラの豚肉巻き、冷奴を用意した。後は炊きたてのご飯と、茗荷とナスのお味噌汁。<br /> 夕食を食べ終え、ほうじ茶を飲んでいるとチャイムが鳴った。<br /> 一応マンションとなってはいるが、来客を確認できるインターホンはない。灯里は玄関のドアスコープを覗いた。<br />「灯里」<br /> 柊の姿を確認すると同時に、そう声が聞こえた。<br /> 柊ちゃん…。意外だった。柊がわざわざ訪ねてくるなんて。そう思いながら、灯里はドアを開けた。</span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a><br />
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穴があったら…

 そろそろ、『パソコンぶっ壊れ事件』の顛末をお知らせしないといかんなぁ、と思いまして…(●´ω`●)✵ ✵ ✵5月の連休を前にした金曜日の朝、いつものようにブロ友さん巡りをして、あははとか呑気に笑っていたら、唐突につぷん、とパソコンの画面が暗くなりました。あ、あれ?焦って再起動など試みますが、うぃいん とか言うくせにちっとも画面が明るくなりません。修理依頼センターの開始時刻を待って、電話したのは言うまで... &#160;<span style="font-size: small;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';">そろそろ、『パソコンぶっ壊れ事件』の顛末を<br /><br />お知らせしないといかんなぁ、と思いまして…(●´ω`●)<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />5月の連休を前にした金曜日の朝、いつものようにブロ友さん巡りをして、<br /><br />あははとか呑気に笑っていたら、唐突に<br /><br />つぷん、とパソコンの画面が暗くなりました。<br /><br />あ、あれ?<br /><br />焦って再起動など試みますが、うぃいん とか言うくせに<br /><br />ちっとも画面が明るくなりません。<br /><br />修理依頼センターの開始時刻を待って、電話したのは言うまでもありません。<br /><br />電話に出たお姉さんの指示に従っていろいろ試みますが、状況は変わらず<br /><br />「うーん、これはハードディスクが壊れている可能性が大かも…」<br /><br />とお姉さんが悲しそうに言いました。<br /><br />でも、そのときはまだそれほど焦っていなかったんです。<br /><br />「やっぱ、こういう場合に備えて外付けディスクに<br /><br />自動保存しといてよかったぜ、偉いぜ私。やべ、遅刻」とか思って仕事行きました。<br /><br />で、帰って古いけど残しておいたノートパソコンに外付けディスクを<br /><br />つないで…あ、あれ?自動保存されてない(゚Д゚;)(゚Д゚;)…(◎_◎;)<br /><br /><br />2日間、泣きました。幸いに?週末だったので。<br /><br />半日、好きなひとに八つ当たりし、思い切り甘えまくり<br /><br />慰め倒してもらい、何気に満足しました。 ←<span style="color:#999999"><s>エロい、</s></span>エラい迷惑。<br /><br /><br />で、思いました。<br /><br />これはやっぱり、書き直せってことなんだと。 ←やっぱりって、なんだ?<br /><br /><img src="http://blog-imgs-1.fc2.com/emoji/2007-08-26/154040.gif" alt="" border="0" style="border:0;" class="emoji">「打たれ弱くてすぐにピーピー泣く癖に、立ち直りはやいょねぇ(・.・;)」<br /><br /><br /><br />じ、実は、新作の『激しく抱いて傷つけて』ですが…<br /><br />第1章が…あまり気に入っていなくて…。<br /><br />でも、書き直す勇気が持てなくて…その影響を引きずりながら<br /><br />次の章を書き進めていたんです。<br /><br />その怠慢と気弱さを、ガツンと殴られた気分でした。<br /><br /><br />プロローグ以外、全体的に8割くらい書き直したところで、<br /><br />修理依頼センターのお姉さんから電話がありました。<br /><br />「ハードディスクは大丈夫でした!液晶部分のみの交換となります(^ω^)」<br /><br />ぬ、ぬぬ、ぬぅわんだとぉ~?<br /><br />あああ、心配してくださってる皆様に合す顔がないっ。<br /><br />穴があったら、<span style="color:#999999"><s>入れてほし…ぢゃなく、</s></span>入りたい!と痛切に思いました。<br /><br /><img src="http://blog-imgs-1.fc2.com/emoji/2007-08-26/154040.gif" alt="" border="0" style="border:0;" class="emoji">「それじゃ、反省してる感が伝わらないでしょ?いい加減にしなさい!」<br /><br />はい。 m(__)m<br /><br />で、でもですね、パソコンが戻ってくるまでは不安でしたのょ?<br /><br />そんで、戻ってきたパソコンで消えていなかった第1章をもう一度読み直し、<br /><br />やっぱ書き直しが必要だったとあらためて思いました。<br /><br />それに続く第2章も手直しし、ほっと一息ついたところで、<br /><br />なぜだかど~んとテンションが落ちました。<br /><br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/img/2013101709015529e.jpg/" target="_blank"><img src="http://blog-imgs-61.fc2.com/o/t/o/otonaasabi/2013101709015529e.jpg" alt="のびー" border="0" width="262" height="147" /></a><br />「だり~のょ、やる気でないのよ。ほっといて」<br />↑ こんな感じ? 注)友情出演 maoちゃん<br /><br />人間て、不思議です。<br /><br />やべ~、この感じ、まぢやばい(-_-;)<br /><br />このまま書けなくなるかと思いました。<br /><br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/img/201310161454016d9.jpg/" target="_blank"><img src="http://blog-imgs-61.fc2.com/o/t/o/otonaasabi/201310161454016d9.jpg" alt="ガン見" border="0" width="114" height="126" /></a><br />「なに言ってんのょ、ただの言い訳でしょ?」<br /><br />え…(*´з`) い、いや、そんなことない。<br /><br /><br />で、これはもう、自分で自分のお尻に火をつけるしかないっ!<br /><br />と強硬見切り発車したわけです。<br /><br />いまは必死で書いてます。<br /><br />ご心配おかけして本当に申し訳ありませんでしたm(__)m<br /><br /><br />どうか、呆れて見捨てず、呆れてもいいので見捨てずにおつきあいください。 <br /><br />この長編、なんか展開暗いのも許してくださ~い!<br /><br />できる限り頑張りますので(*´ω`*) いろいろ恥ぢかしい…凹<br /><br /><a href="http://www.dff.jp" target="_blank"><img src="http://bnr.dff.jp/pix/dffbanner200909_03_171x70.gif" alt="クリックで救える命がある。" width="171" height="70" border="0"></a><br /><br /><br /><br />
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第2章 彷徨う魂たち〈ⅴ〉

 終電を過ぎても、灯里は帰ってこなかった。 マンションの前と灯里の部屋の前を、4時間も往復し続けた柊は、とうとう諦めた。自分のアパートまで2駅、走って帰れる距離だ。朝のランニングを、夜中にしたと思えば同じこと。 ふと眼を向けると、灯里のマンションの隣りに建設中のアパートはもう外観が出来上がっていた。 再び、懐かしい記憶が蘇る。あの頃、『北賀楼』の斜め向かいにある2階の自分の部屋から見た、見つめ続け... <span style="font-size:large;"> 終電を過ぎても、灯里は帰ってこなかった。<br /> マンションの前と灯里の部屋の前を、4時間も往復し続けた柊は、とうとう諦めた。自分のアパートまで2駅、走って帰れる距離だ。朝のランニングを、夜中にしたと思えば同じこと。<br /> ふと眼を向けると、灯里のマンションの隣りに建設中のアパートはもう外観が出来上がっていた。<br /><br /> 再び、懐かしい記憶が蘇る。あの頃、『北賀楼』の斜め向かいにある2階の自分の部屋から見た、見つめ続けたたくさんの灯里の姿。<br /> 毎朝、セーラー服姿で出かける灯里。新体操の練習で、夜遅く帰ってくる灯里。休日は、可愛らしい私服で外出する姿に、もしや彼氏でもできたのではと落ち着かない気分にさせられた。<br /> そして。<br /> 思い出したくない記憶もある。新体操の練習で遅くなった灯里を送ってきた、高校の先輩らしき男。その男が送ってもらった礼を言って勝手口に入ろうとした灯里を、呼び止めた。<br />「何ですか?先輩」<br /> という灯里の声を、柊は明りを消した部屋の細く開けた窓から訊いた。<br />「うん」<br /> 先輩と呼ばれた男は、少し躊躇しているようだった。<br /> そのとき勝手口から、一人の板前が出てきた。成川勝哉だった。<br />「あ、おかえりなさい。灯里お嬢さん」<br />「た、ただいま」<br /> 成川勝哉は昔やんちゃをしていたと噂のある男で、引き締まった肉体と鋭い眼光を持った、比較的いい男だった。その大人で強そうな男は、高校生をひと睨みして言い放ったのだ。<br />「私の許婚である灯里お嬢さんを送ってくださったようで。ありがとうございました。でももう、お帰りいただいて結構です」<br /> 雷に打たれたように、その先輩は瞬間硬直した様子だったが、すぐにこう言って踵を返した。<br />「失礼しましたっ」<br /> 他に言いようがなかったのだろう。<br /> 勝哉の口から初めて訊いた「許婚」という言葉…。既に知っていた事実を改めて聞かされた柊でさえ、暗闇の中で硬直していたのだから。  <br /><br /> 灯里、キミが心に想うのはあの勝哉なのか?もう、繭里と結婚してしまった。<br /> 何があったのかわからないけど、キミはいまもあの勝哉のことが忘れられないのか?だから、あんな悲しそうな眼で僕に言ったのか?<br />「激しく抱いて傷つけて」<br /> 灯里、今夜キミは、別の男にその言葉を言っていないよね?<br /> キミを激しく抱いて傷つけるのは、僕だから。僕以外にいないから。どうか、その役割を僕から奪わないでくれ。そしてキミと同じくらい、僕にも血を流させてくれ。頼むよ、灯里。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 翌朝、教務課に灯里の姿を見つけて、柊はほっとした。<br /> 純粋に、ただただ心配だったから。<br /> でも灯里、今日は帰ってくるよね?今晩は、僕の灯里だよね?<br /><br />「何、ぼーっとしてんのよ」<br />柊は、アランと星奈と一緒に今日も学食でランチを食べていた。喧嘩していたはずのアランと星奈は、またいつものふたりに戻っていて、そんなことももうすっかり日常茶飯事だ。<br />「いや、ちょっと寝不足だから」<br /> そう言った柊に、アランが食いついた。<br />「寝不足?なんでだよ?それ、あのMissアバ…おっと失礼。幼なじみに関係あんの?」<br /> 明らかに面白がっているアレンを見ながら、柊は思った。<br /> 別の意味でだけど、当たってる。<br />「なんで柊の寝不足が、幼なじみと関係あるのよ」<br /> 星奈が怪訝な顔でそう訊く。<br />「あれ、星奈。お前わかんないの?察しが悪いなぁ。やっぱ処女って、男女間のもろもろに疎いんだなぁ」<br /> アランの言葉に、星奈がキッと気色ばんだ。再び雲行きが怪しくなって、本当にこのふたりは懲りないなと柊は思う。<br />「し、失礼なこと言わないでっ。名誉毀損で訴えるわよ、このえろタイガー!」<br />「へぇ。名誉毀損て、事実に反することを言われた場合だろ?」<br /> アランの憎らしいほどの態度に、星奈の怒りは沸点に達したようだ。顔を真っ赤にして、アランを睨みつける。<br />「そ、そんなことわかんないでしょ、アンタに」<br /> あぁあ、星奈。それじゃ、認めたようなもんだ、と柊は思った。<br />「ばぁか。わかるんだよ、それくらい。なんなら俺が、手伝ってやろうか?処女卒業の」<br />「卒業もできなかったアンタに、そんなことしてもらったら、院生の名が廃(すた)るっ!余計なお世話っ」<br />「名が廃るって…じゃ、柊ならいいのかよ?」<br /> 焦った星奈の滅茶苦茶な論理に、アランが堪え切れずに吹き出し、つい柊までつられて吹いてしまった。<br /> とうとう星奈が、Bランチのトレイを持って立ち上がった。もちろん、今日もきっちり完食済みなのは言うまでもない。<br />「えろタイガー、無期限で絶交!柊は、今日一日話しかけないでっ」<br /> そう言い捨てると、さっさと下膳コーナーへと歩いて行った。<br /><br /> くくく、とお腹をかかえて笑うアレンに、とばっちりを食らった柊は呆れながら言った。<br />「お前、なんで星奈にはいつもそうなんだ?」<br />「え?だって、揶揄うとめちゃくちゃ面白いじゃん、アイツ」<br /> 涙まで溜めて、笑っている。<br />「やり過ぎだよ。今回は、マジ怒らせたぞ」<br />「大丈夫だよ。星奈は、怒っても怒り続けることができない気のいいヤツだ」<br />「それはそうだけど。星奈だって女子なんだから、デリカシーを持てよ」<br />「俺は、ちゃんと女子として扱ってるよ。女子じゃなきゃ、処女なんて卒業できないしな」<br /> そういうことではないんだと思いながら、柊はそれ以上、アレンに無駄な忠告をするのを諦めた。<br /><br />「それより、お前は自分のこと心配しろ」<br /> アレンが突然、真顔になって言う。<br />「なんだよ、急に」<br />「Missアバスレ、じゃなかった。Miss幼なじみな、昨日の夜、男と一緒だったぞ」 <br /> そのひと言で、柊の血相が変わった。<br /> あぁあ、わかりやすすぎるんだよ、とアレンはいっそう心配になる。<br />「どこで、誰と?なんでお前が知ってるんだ」<br /> 心の中で再び、嘆息しながらアレンは言った。<br />「俺のバイト先のバーに来たんだ。ダンサーの男と」<br />「ダンサーって…どんな男だ、何時までバーにいたんだ。灯里は酔ってたか?」<br /> アレンが呆れたような顔で、普段は生真面目で冷静な友人を見たが、柊にはそんな悪友の気持ちなどどうでもよかった。<br />「Miss幼なじみは、それほど酔ってはいなかったな。むしろ酔ってたのは、友達の女のダンサーの方だったな」<br /> え? 柊は一瞬、訳がわからなくなった。そして、その気持ちを柊の表情から正確に読み取ったアレンは続けた。<br />「2人で来てたなんて、言ったか?女2人と男1人の3人でいたんだよ」<br /> やられた、と柊は心の底で地団駄を踏んだ。<br />「最初に、それを言えよ」<br /> 悔しさを滲ませながらも安心した様子の親友に、今度はアレンが不安になった。<br />「あの娘、危険な匂いがする。柊、気をつけろ」<br />「いいんだ」<br />「いいんだって、どういう意味だ」<br />「灯里は、純粋で傷つきやすくて、僕の支えを必要としている」<br /> その言葉に、アレンがめずらしくマジに反論した。<br />「不純でしたたかで、お前を利用して笑ってるんじゃないのかっ?」<br /> そんなアレンを、憐れむような眼で柊は見た。<br />「灯里はそんな女じゃない。幼なじみの僕が、彼女を幼い頃から見てきた僕が、一番よく知っている」<br />「人は、変わるだろう」<br /> アレンは食い下がった。<br />「変わらない。灯里はどんなことがあっても、灯里のままだ」<br /> 頑固にそう言い切る柊に、お手上げだと言わんばかりにアレンは両手を上げた。</span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a>
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第2章 彷徨う魂たち〈ⅳ〉

 電話を終えたらしいカオルと一緒に、シンジが入ってきた。「ワリぃ、待たせて。やっと、あいつらから解放されたよ」 シンジが来たタイミングで、灯里たちはテーブル席へ移動した。「ねぇねぇ、シンジ。アレンと、あのバーテンダーさんと灯里、知り合いだったんだよ」 早速、カオルが報告している。「知り合い、どんな?」 驚きつつ、ぶっきらぼうに訊くシンジに灯里は答えた。「知り合いってほどじゃないの。いま働いている大... <span style="font-size:large;"> 電話を終えたらしいカオルと一緒に、シンジが入ってきた。<br />「ワリぃ、待たせて。やっと、あいつらから解放されたよ」<br /> シンジが来たタイミングで、灯里たちはテーブル席へ移動した。<br />「ねぇねぇ、シンジ。アレンと、あのバーテンダーさんと灯里、知り合いだったんだよ」<br /> 早速、カオルが報告している。<br />「知り合い、どんな?」<br /> 驚きつつ、ぶっきらぼうに訊くシンジに灯里は答えた。<br />「知り合いってほどじゃないの。いま働いている大学の学生さん」<br />「灯里ったら、それだけじゃないじゃん。灯里の幼なじみの友達って言ってたじゃん、アレン」<br /> カオルは宣言通り、もうすっかりアレンと呼び捨てする気安さだ。<br />「幼なじみ?」<br />「うん、その幼なじみと大学で偶然、再会したらしいよ」<br /> 正確に言うと、再会したのは男に絡まれていたのを助けてもらった夜だけど、と灯里は思う。<br />「ドラマチックでしょ?」<br /> とカオル。<br />「ドラマチックな話なのか?」<br /> そう訊ねるシンジに、灯里は興味なさそうなフリをして言った。<br />「全然」<br /><br /> そこへ注文を取りに来たアレンが言う。<br />「お飲み物は?」<br />「カンパリソーダ」<br /> シンジが憮然とした表情で、アレンを見ながら言った。そのシンジの視線に、アレンの眼も心なし険しくなる。<br />「初対面で、何に睨みあってるのぉ?」<br /> カオルが男たちの間で手をひらひらさせながら言った。そのカオルにアレンは笑顔を見せると、今度は灯里を見てぼそっと言う。<br />「なるほどね」<br />「なるほどって、どういう意味だ」<br /> シンジが相変わらず憮然とした表情で訊くのを、今度は灯里が笑顔で遮った。<br />「なんでもないよ。シンジ、食べ物は?」<br /> まだ胡散臭そうにアレンを見るシンジに代わって、カオルが答える。<br />「オニオンサラダとムール貝のワイン蒸しがいいなぁ。灯里は?」<br />「シンジは、何がいい?」<br />「灯里が好きなものでいいよ」<br />「パスタとビザだったら、どっちがいい?」<br /> そう訊ねる灯里に、カオルが答える。<br />「パスタ!」<br />「じゃあ、ピザ。マルゲリータ」<br />「なによぉ、シンジ」<br /> カオルがむくれる。その表情が可愛くて笑ってしまう。<br /> アレンも思わずにこりとして、オーダーを繰り返して確認すると去っていった。<br /> <br /> アレンが去ると、カオルが訊いた。<br />「ね、なんかあったの?あたしがいない間に、アレンと」<br />「別に」<br />「にしては感じ悪かったな、アイツ」<br /> まだ少しこだわりながら、それでもシンジはその場の雰囲気を変えるように明るく言った。<br />「気にすんな、灯里」<br />「え、あたし?大丈夫、全然気にしてない」<br /> アレンの誤解は、本当に灯里にとってどうでもいいことだった。それより気になるのは、さっき蹴られたカオルの足だ。<br />「それより、カオル。足、大丈夫?」<br />「おお、そうだ。大丈夫だったか?」<br /> やっぱりシンジも見ていたのだと、灯里は思った。<br />「痛かったよぉ。あんにゃろ、ワザと蹴りやがって」<br />「見せてみろよ」<br /> シンジがカオルの足を心配そうに見ながら言う。<br />「ん」<br /> と素直にレギンスを捲りあげたカオルの細い足が、早くも紫色になっていた。<br />「ひでえな」<br />「骨とか、大丈夫だよね?」<br /> 灯里も心配になって、カオルの足にそっと触れる。<br />「まあ、腫れてはいないみたいだから、骨は大丈夫だろ。しっかし、無茶すんなぁ、近頃の女子大生は」<br /><br /> カンパリソーダが運ばれてきたので、3人はあらためて乾杯をする。<br />「でもさ、なんでこんなこと?」<br /> そう訊ねる灯里に、カオルが答えた。<br />「目障りだったんじゃないのぉ、あたしが。だって廊下ですれ違うとき、わざわざ聞こえるように話してたもん、あの3人」<br />「なんて?」<br />「『なんかシンジ狙い?』『やだぁ、オバさんのくせに?』『ちょっとばかし上手いと思ってる?』だって。アホかって思った」<br />「嫉妬だな」<br />「バッカじゃないの。そりゃ、あの3人だって上手いと思うけど、それでカオルに嫉妬したり陰険なことするのは間違ってる」<br /> 憤慨してそう言う灯里に、シンジは言った。<br />「上手いって言ったって、カオルとじゃ雲泥の差だ。あの3人、大学でダンス・サークルらしいんだけど、その中で上手くたって井の中の蛙だよ。まず、踊りが荒い、自己流すぎる。基礎がきっちりしてるカオルや灯里の踊りを見て、悔しかったんだろうな。だからって、性格悪いよ」<br />「カオルはともかく、あたしは基礎なんて全然」<br />「やだ、灯里。次はあんただよ、気をつけないと」<br />「まさか」<br />「いや、カオルの言うとおりだ。あの3人がときどき睨むようにして見てたの、カオルだけじゃないぞ。さっきだって『なんでシンジ先生は、あのオバ…じゃなかった、お姉さんたちと仲いいんですかぁ』だってさ」<br />「オバさんて、3歳くらいしか違わないじゃん!」<br />「いや、カオル。ムカつくの、そこじゃないし。それにあたしは6つくらい上だろうから、オバさんて言われてもしょうがないか」<br />「お前ら、ふたりとも、食いつくのはそこじゃないだろ」<br /> サラダとムール貝が運ばれてきた。<br />「わ、ありがとうぉ。いい匂い、おいしそうだよ、灯里」<br />「訊けよ、カオル」<br /> そう言うシンジに、カオルはフォークに指したムール貝を差し出す。<br />「あ~ん」<br /> シンジがそれをぱくりと食べて、あち、と言った。<br /><br />「でも、シンジがもう一つの理由かもね」<br /> カオルが急にマジな顔になって言った。<br />「俺?」<br />「うん。シンジ狙いは、むしろ彼女たちじゃないの?」<br />「それ、ないだろ。3人いるし、ヘタしたら仲間割れになるだろ」<br />「恋愛じゃなくて…ほら、もうすぐ発表会だから」<br />「ああ。眼をかけてほしいってこと?」<br /> カオルの言葉に、灯里はすぐにピンときた。<br /> つまりはシンジのクラスから、トップダンサー扱いで出たいってことなのだ。<br />「なんだよ、そっちかよ」<br /> 明らかに落胆したシンジに、今度はカオルと灯里が突っ込む番だった。<br />「あれぇ、シンジ、凹んでるぅ?」<br />「もしかして、あわよくばって期待してた?」<br />「ば、バカ。してねえーよ」<br /> ピザを持ってきてくれたアレンに、カオルと灯里はまたジントニックを頼んだ。<br />「カオル、こないだみたいに飲み過ぎんなよ。もう、送らないぞ」<br />「了解~っ!」<br /><br /> 女子大生たちのことを除けば、楽しい夜だった。<br /> カオルはやっぱり飲みすぎて、途中から潰れて、小さなテーブルに器用に突っ伏して寝ている。<br />「でも、シンジ。あたしたち、あんまり一緒に飲みに行かない方がいいかもよ」<br />「気にすんなよ」<br />「あの3人だけじゃなくて、ほかの生徒だってどう思ってるかホントのところはわからないなって、今日あらためて思ったもん」<br />「発表会が終わるまでは、控えとくか」<br />「うん。カオルは残念がるだろうけど」<br />「お前は?」<br /> シンジが冗談めかして訊いてくる。<br />「もちろん、残念だよ。そんなことでって思うけど。シンジだって、講師の立場があるし」<br />「心配してくれてんの?」<br />「心配だよ、シンジも、カオルも」<br /> カオルも…か、とシンジが呟きながら頭を掻いた。<br /><br />「ところで」<br />「うん」<br />「こいつ、どうする?」<br /> 今日も予想通り潰れてしまったカオルを、シンジと灯里は兄と姉のような気持ちで見つめた。<br />「今日は、あたしが送っていく。あんなことがあった後だし、シンジじゃない方がいいよ」<br />「悪いな」<br />「悪いのは、この酔っぱらいだから」<br />「だな」<br /> 会計を済ませ、ふにゃふにゃしているカオルを無理やり起こすと、シンジに見送られて灯里はカオルを連れてタクシーに乗った。<br />「じゃな、気をつけて」<br />「うん、シンジ、また」<br />「ふぇ~い、シンジぃ~。おやすみぃ~」<br /> 自由奔放な酔っぱらいをなだめるように胸に抱きかかえて、灯里はドライバーに行き先を告げた。<br /> そして「灯里がいてくれないと両親に説教される」というカオルの懇願に負けて、灯里は結局その夜、カオルの家に泊まることになってしまった。<br /> 柊が、灯里のマンションの前でずっと待っていたとも知らずに。<br /></span>
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第2章 彷徨う魂たち〈ⅲ〉

「うわぁ、いた!」 バーの扉が開くと、カオルは嬉しそうな第一声を上げた。その声に顔を上げた金髪のバーテンダーが、にっこり微笑む。「いらっしゃませ」 カオルの後ろから続いて店内に入った灯里は、思わず「あ」と小さく言って固まった。「ん?どしたの、灯里」 そう言ったカオルの眼に、灯里と同じように眼を見開いているバーテンダーの顔が映った。「もしかして…ふたり、知り合い?」「知り合いって言うか…」 言葉に詰ま... <span style="font-size:large;">「うわぁ、いた!」<br /> バーの扉が開くと、カオルは嬉しそうな第一声を上げた。その声に顔を上げた金髪のバーテンダーが、にっこり微笑む。<br />「いらっしゃませ」<br /> カオルの後ろから続いて店内に入った灯里は、思わず「あ」と小さく言って固まった。<br />「ん?どしたの、灯里」<br /> そう言ったカオルの眼に、灯里と同じように眼を見開いているバーテンダーの顔が映った。<br />「もしかして…ふたり、知り合い?」<br />「知り合いって言うか…」<br /> 言葉に詰まった灯里に替わって、青い眼のバーテンダーが言う。<br />「俺、彼女の幼なじみの友達。で、そいつと同じ大学に通う、大学5年生」<br />「大学って、もしかして…」<br /> そう訊く勘のいいカオルに、灯里は答えた。<br />「う、うん。あたしの新しい就職先」<br />「なに、なに、それ。聞いてないぃ~!幼なじみって、それもしかして彼氏?だから転職したのぉ?」<br />「か、彼氏じゃないよ。偶然、再会したの、6年ぶりに」<br /> 興奮するカオルに、灯里はそうおずおずと説明した。<br />「えー、偶然て、なんかドラマチックぅ~。ねぇ、アレン…さん?」<br /> カオルがバーテンダーに同意を求める。<br />「あれ?俺の名前、知ってたの?」<br />「うん!こないだ来たとき、今日いないバーテンダーの人に訊いた。こないだ、いなかったでしょ~。めちゃ、残念だったぁ。あ、アレンて呼んでいいよね?あれ?大学5年生て、もしかして留年?」<br /> 話がころころ変わる屈託ないカオルに、アレンは陽気に笑うと言った。<br />「あはは、キミ面白いね。名前は?」<br />「芦名カオル。こっちは北川灯里。あ、知ってるか…」<br /> アレンは、ふさふさの金髪を揺らしながら頭を振った。<br />「いや、フルネームは知らなかったよ。俺は谷川アレン、オーストラリアと日本のハーフ。卒業できなかった、出来の悪い留年組」<br />「やっぱ、ハーフかぁ。どおりで日本語上手いと思った。それから卒業なんてしないほうがいいよぉ、社会なんて面白くないことばっか」<br /> カオルはもう、幼なじみの一件は忘れてくれたようで、灯里は正直ほっとした。<br />「あはは、キミは十分楽しそうに生きてるように見えるけどね。ところで、何飲む?」<br />「あ」<br /> アレンに訊かれて、カオルはまだなにも注文していないことに気づいたらしい。<br />「え~と、カクテルは怖いから。なんだっけ?灯里、こないだ頼んだやつ」<br />「ジントニック?」<br />「うん、それ。灯里もそれでいい?」<br /> 頷くとアレンが言った。<br />「じゃ、ジントニック2つね」<br />「あ、後で友達ひとり来る。そしたらテーブルに移動していい?」<br />「いいよ。つまみは?」<br />「う~ん、取りあえずぅ、ごぼうスティック!こないだ、おいしかったし」<br />「了解」<br /> カオルはアレンと、すぐに打ち解けてまるで常連客のような親しさだ。その奔放な明るさが羨ましい、と灯里は思う。<br /> ジントニックで乾杯したところで、カオルの携帯がマナーモードで着信を知らせた。<br />「あ。ごめん、ちょっと出るね」<br /> ジントニックを一口飲んで、カオルはバーの入口から外へ出た。自由に見えて、ちゃんとマナーは守るところもカオルらしい。<br />歯科医の父親と、自宅でピアノを教えているという母親は躾に厳しかったらしい。医大の歯学部に通っている弟がいて、カオルによると<br />「弟が優秀でよかったよぉ~。子供がふたりとも医者継がないんじゃ、親が可愛そうだもんね」<br /> だそうだが、そう言うカオルだって歯科技工士という資格と技術を持っているのだから、親孝行だ。<br /><br /> カオルが店外に出て行って、独りになった灯里に、ごぼうスティックを出しながらアレンが言った。<br />「柊は、遊び相手には向かないぜ」<br />「え?」<br />「幼なじみならわかってると思うけど。真面目で、めずらしいくらいピュアな男だ」<br />「なんで、そんなこと言うの?」<br />「だって、Missアバスレなんでしょ?もっともそう言ったら、柊は怒ったけど」<br /> アレンの碧眼が、探るような色を帯びている。<br />「心配しないで。ただの幼なじみだから」<br />「俺が心配してるのは、キミじゃない。柊の方だ」<br /><br /> 事実、あの夜のように怜悧にキレた柊は、これまで見たことがないとアレンは思っていた。この娘(こ)が教務課にいると告げたときの、あんなに余裕がない柊も。このままだと、この娘に翻弄されかねない。そんな危惧を抱くほど、この娘に関して柊は柊らしくない。<br />しかも、この娘は清純そうに見えて、なにかとんでもない蠱惑的(こわくてき)な光彩を放っている。明と暗、冷たさと熱が表裏一体となっているようなこの雰囲気は、いったいどこからくるのか。もし本当にアバズレなら、女に免疫が少ない柊が傷つくのは火を見るより明らかだとアレンは思っていた。<br /><br /><br /> 誤解されているみたいだ。でも、その誤解はむしろ訂正しない方がいいのかもしれない、と灯里は思った。<br />柊ちゃんはあたしの本心を知ったら、決してこんな関係を続けてはくれない。<br />あのとき、何かを振り切るみたいにキスしてくれた。よほど、あたしが情けなく見えたんだろうな。同情?優しいから、最後まで拒めなかった?<br />でも嬉しかった、信じられなかった。愛しい人のぬくもりがこんなに温かな想いを与えてくれるなんて、たとえそこに心がなくてもあの瞬間、あたしは確かに幸せだった。<br />あの夢のような事実の前に、柊ちゃんの優しさの訳なんて考えても仕方のないこと。だって柊ちゃんは、一緒の未来を望んではいけない相手。望んだって、かなわない未来だ。<br />わかってる、あたしは忘れてない、忘れられない。あの日、中学生だった柊ちゃんに「汚らわしい」って言われたこと。ショックだった。許婚がいるというだけで「汚らわしい」と言った柊ちゃんにとって、いまのあたしは気まぐれで一度くらいなら抱いてやってもいい女くらいの価値しかない。<br />不相応な希望なんか、抱(いだ)かない。だけど、あと、もう少しだけ、ただ幼なじみとして昔のように傍にいられるだけでいいから。1年、ううん、半年でも3ヶ月でもいい。そうしたら今度こそ、私は消えるから。柊ちゃんの前から永遠に。<br />だから、神様、どうかその勇気をください。<br />あと少しでいいから、柊ちゃんとの想い出をください。<br /><br /> 灯里は揶揄(からか)い挑むような視線をアレンに向けて、言った。<br />「友達思いなのね。じゃあ、あたしのただの幼なじみに、ちゃんと報告しておいて。これからあたしの男ト・モ・ダ・チが来るから、ダンサーのね」<br /></span>
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第2章 彷徨う魂たち〈ⅱ〉

「ワンツースリーフォー、ダウン、ダウン、ステップ…」 ハイテンポな曲の合間に、シンジの声が響く。 一番広い第1レッスン室だけど、いつもシンジのクラスは超人気で満杯状態。今日も40人を優に超える男女がひしめき合って踊っている。 その中で、素人とは思えない頭抜けたカッコよさで他を凌駕しているのがカオルだ。 技術的に上手いのはもちろん、自分の世界をきっちり持っていて、それをバツグンの感性と魅力的な容姿で表... <span style="font-size:large;">「ワンツースリーフォー、ダウン、ダウン、ステップ…」<br /> ハイテンポな曲の合間に、シンジの声が響く。<br /> 一番広い第1レッスン室だけど、いつもシンジのクラスは超人気で満杯状態。今日も40人を優に超える男女がひしめき合って踊っている。<br /> その中で、素人とは思えない頭抜けたカッコよさで他を凌駕しているのがカオルだ。<br /> 技術的に上手いのはもちろん、自分の世界をきっちり持っていて、それをバツグンの感性と魅力的な容姿で表現できる。<br /><br /> 初めてカオルの踊りを見たとき、この娘(こ)の基礎(ベース)はなんだろうと灯里は興味を持った。何度か顔を合わすうちに眼で挨拶を交わすようになり、それから2ヶ月ほど経った頃、レッスン終わりに灯里はカオルに声をかけられた。<br />「ねえ。あんた、何かやってた?」<br /> とっても抽象的な問いだけど、何かというのがもちろんクスリとかそんなアブナイものではなくて、基礎(ベース)に関することだと灯里にはすぐわかった。<br />「中高、新体操。そっちは?」<br />そう答える灯里に、カオルは表情豊かな笑顔を見せて唸った。<br />「そうきたか。新体操かぁ、だから躰めちゃ柔らかいのに筋力とバネがあるんだぁ。新体操とは予想外。でもナットク納得!」<br /> 無邪気に笑顔で頷くカオルに、灯里はもう一度訊いた。<br />「で、そっちは?」<br />「あたし?」<br />「うん」<br />「あたしは…バレエ」<br /> カオルがぺろ、と舌を出しながら首を竦(すく)めた。<br />「まじ?」<br />「うん、よく言われる」<br /> また、ぺろと舌を出す。<br />「まったく、予測外なのはそっちじゃん」<br />「だよね」<br /> とカオルが笑った。<br /><br /> 基礎にバレエがある娘は、それがわかることが多い。とくにカオルくらい上手ければ尚更で、まず特長的なのは姿勢の良さと訓練からくる視線の取り方、首筋の何とも言えないすらりとした美しさだ。そしてバランスが良く、ピルエットなどのターン系が正確でブレない、体幹の引き上げが完璧。その一方でストリート系ではダウンやブレイク、ロックなどが苦手だったり、体を崩せないのが弱点になることもある。<br /> ところがカオルは。<br /> 古典的なジャズもニュースタイルのダンスも、ヒップホップもブレイクダンスも、その天性の勘の良さで見事に踊りこなすのだ。弱点がこれだけ見当たらない娘も、めずらしい。<br />「バレエ、どれくらいやってたの?」<br /> それに答える代わりに、カオルは非の打ち所がないバレリーナの3回転ピルエットをして見せた。一瞬にしてバレリーナの雰囲気を纏ったカオルに、灯里は眼を見張った。<br />「なにそれ、完璧バレリーナじゃん」<br />「で、そっちは?」<br /> と訊くカオルに、灯里はバックブリッジから足を蹴り上げての優雅な回転で答えた。<br />「お~、凄ぉ~!」<br /> 起き上がった灯里に、カオルが屈託のない笑顔でそう言った瞬間、ふたりは親友になっていた。この娘、好きだ。気が合う。同時に抱いた思いは、いまも変わらない。<br /><br /> そんなことを思い出しながら、灯里はカオルの左斜め後ろで踊っていた。<br /> カオルはいつものように圧倒的なオーラを放っていて、同じようにレッスンを受けて踊っている生徒の眼がカオルを追う。追う理由は2通りあって、1つは憧れの眼差し、もう1つは振りつけのカンニングだ。<br /> 今日の振りつけの踊りが終盤に近づいて、いっそう激しく複雑なステップになったとき、カオルの右隣で踊っていた娘(こ)の左足が、彼女の右足を蹴ったように見えた。ほんの一瞬、気づかない程度だったけれど、カオルの動きが止まったから、割りに強い当たりだったのだろう。何事もなかったかのようにカオルはそのまま踊り続けて、最後の決めポーズも惚れ惚れするほどカッコよかった。<br /><br /> だけど、灯里は見てしまった。<br /> カオルの斜め後ろで踊っていただけに、それはとてもよく見えた。カオルを蹴った娘(こ)は明らかにワザとだった。その前後にカオルの表情をうかがって、カオルが少しも動じないのに舌打ちをしたのもその証拠だ。最近、レッスンで顔を見かけるようになった女子大生3人組のうちの一人だ。<br /> シンジと眼が合った。灯里が眼で訴えると、シンジが頷いたから、彼も見ていたのだろう。<br />「しっかし、今日も混んでるなぁ。みんな狭くて、思い切り踊れないだろ。よっし、2グループに分けるぞぉ。みんな、広いフロアで思う存分、踊りやがれぇ~!」<br /> そう言うとシンジは、カオルとその娘の間に右手を差し出して、そこから2グループに分けた。<br /><br /><br />「足、大丈夫?」<br /> レッスンが終わって、灯里はすぐにカオルにそう声をかけた。<br />「ふん、あれしき」<br />「てことは、わかってるんだね、ワザとだってこと?」<br />「当たり前」<br />「シンジもわかってたよ」<br />「だろうね」<br /> カオルは表情を変えずにそう言うと、スタジオの隅を見た。<br /> さっきの娘を含めた3人組が、きゃあきゃあ言いながらシンジを取り囲んでいる。<br />「あの娘たちが来ないうちに、シャワー浴びちゃお」<br /> そう言うカオルと、灯里は急いでシャワールームへ行った。<br /><br /><br /> エレベータの前で、カオルと灯里の携帯が鳴った。<br />「シンジからメールだ」<br /> ふたり揃ってメールを確認すると、こうメッセージがあった。<br />『先、行ってて。女子大生たちをまいてから行く』<br /> 今日もレッスン後に、あのバーへ行く約束をしていた。<br />「じゃ、先行きますか。ったく、あいつら」<br /> そう言うカオルと、灯里はエレベータに乗った。<br /></span>
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第2章 彷徨う魂たち〈ⅰ〉

「ビッグニュースって?」 柊は、アレンの表情を注視しながら慎重に訊ねた。明らかに、何か企んでいるような表情だったからだ。 警戒心いっぱいの柊を、面白そうに見るとアレンは言った。「Miss アバズレが、いた」「…それ、灯里のことか?」「ああ、灯里っていうのか、あの助けた女は。そう、そのMiss 灯里 アバズレだ」 名前を教えてもアバズレを繰り返すアレンに腹が立ったが、柊は堪えて訊いた。「どこにいたって言うんだ?... <span style="font-size:large;">「ビッグニュースって?」<br /> 柊は、アレンの表情を注視しながら慎重に訊ねた。明らかに、何か企んでいるような表情だったからだ。<br /> 警戒心いっぱいの柊を、面白そうに見るとアレンは言った。<br />「Miss アバズレが、いた」<br />「…それ、灯里のことか?」<br />「ああ、灯里っていうのか、あの助けた女は。そう、そのMiss 灯里 アバズレだ」<br /> 名前を教えてもアバズレを繰り返すアレンに腹が立ったが、柊は堪えて訊いた。<br />「どこにいたって言うんだ?」<br />「教務課」<br />「え?」<br /> なぜ? 何の目的で? <br />柊は一瞬、アレンが誰かと見間違えたのかと思った。しかしそんな柊の気持ちを読むかのように、面白そうに続けた。<br />「だから。Missア・バ・ズ・レが、ウチの大学の教務課にいるんだよ。職員のネームホルダーぶら下げて」<br /> 柊は食べかけのカレーの器を持って唐突に立ち上がると、それを下膳コーナーへ置き、そのまま急ぐように大学の事務棟へ向かった。<br />「おいおい、こっちは完食しないのかよ」<br /> 柊を見送ったアレンは、そう呆れながら言って吹き出した。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 柊は、焦っていた。なぜなのか、わからないままに。<br /> あの夜、灯里は引っ越したばかりだといった。でも、この大学の事務で働くなんてことは、ひと言も言わなかった。まあ、訊きたいことが多すぎて、大学を卒業してからどんな仕事をしていたかすら訊きもしなかったけど。それに訊きたかったことすら、半分も訊けないままに、ただ夢中で躰を重ねただけだったのだけれど。<br /> そして、翌朝。ベッドの一番近くに脱ぎ捨てられた柊のシャツを素肌に纏った灯里は、これまで見てきた中で、最も美しく最も淋しげだった。<br /><br /> <br />教務課や学生課など大学の事務は、図書館や講堂がある第2校舎3号館にある。廊下に面した側はガラス張りで、職員の姿が見えるようになっている。<br /> 天井から教務課のプレートが下げられた一角を柊は見渡したが、灯里の姿を見つけることはできなかった。ちょうど昼休みということもあり、フロアにいる職員の数は通常より少ない。<br /> 柊は3号館の2階へ向かった。ここには主に教職員が利用することが多い、カフェテリアがある。学食より値段が少し高めでメニューの品数が少ないため、学生の利用度は低いが、その分、教職員が食事や休憩をするのによく利用している。メニューの品を注文せずにお弁当を食べるのも自由な場所らしく、今日もお弁当を広げている女子職員の姿があった。<br /><br /> 中に入らずに入口から、柊は灯里の姿を探した。そして本当に、灯里は教職員のネームホルダーを首から下げて、2人の男性職員とともに昼ご飯を食べていた。<br /> 灯里と40代と思われる男性職員はお弁当を、30代と思われる男性職員はミートソースを食べている。<br /> なんで、男と一緒なんだ。女子同士で食べるだろ、普通。柊は、まずそれが気に入らなかった。<br /> それから、こんな大事なことを…そうだ、こんなもの凄く大事なことを言わなかった灯里に腹が立った。<br /> 昼休みがもうすぐ終わる。実験研究室に戻らなければ。今夜、灯里のマンションへ行こう、そう柊は心に決めてカフェテリアを後にした。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> カフェテリアの入口にちらりと見えた柊の姿を、灯里は目の端で捉えていた。<br /> やっと気づいたんだ、4月の新学期がはじまってから、もう2週間も経つというのに。まるで近くにいる鬼にドキドキしながら、隠れんぼしているような気分で、灯里はこの約2週間を過ごした。<br /> 慌ててカフェまでやってきた様子だったから、きっと誰かに訊いたのだろう。だとしたら、あの夜、柊と一緒にいた青い眼の男の人だ。彼もこの大学の学生だったんだな、と灯里は思った。<br /><br /><br /> 灯里がこの大学の求人を知ったのは、偶然だった。<br /> 大学を卒業して就職した証券会社で、灯里は来店窓口業務を担当していた。新人でまだあまり金融知識が豊富とは言えない灯里をなぜか気に入って、通ってくるご老人がいた。来店すればすぐに上司である課長自らが対応することから、かなりの上客のはずなのだが、手続きの待ち時間の間に必ず灯里を呼んで世間話をする。<br /> ある日、夏目というそのご老人に、小声で囁かれた。<br />「北川さん。この仕事あまり興味を持ってないようだけど、ほかになにかやりたい仕事はないの?」<br /> 就職難の時代に、中堅とは言えこの証券会社に就職できたのはラッキーだった。けれども働きはじめてすぐに金融はもとより投資や財テク、いやお金そのものにあまり興味がないことに気づかされた。それを見抜かれていたのが、情けなかった。<br />「いえ。とくにやりたいことはありませんし、会社にも満足しています」<br /> ご老人が、すぅと眼を細めた。心の中を読まれたようで、灯里は赤くなった。<br />「私の知り合いが理事をしている大学があるんだが」<br /> とさらに声を潜めて、ご老人は言った。<br />「いま、事務員を募集している。契約社員だからボーナスは出ないが、2年勤めて勤務態度が良ければ正社員に押してあげることができるよ」<br /> なぜ、そんな提案をされるのかわからなかった。<br />「え。でも…」<br />「T大学、考えてみなさい。来週、また来る」<br /> そう言ってご老人は帰っていった。<br /> <br /> T大学。<br /> それは父から訊いていた、柊が入学した大学だった。<br /> でも、もしあたしがその大学の事務員になることができたとしても、柊ちゃんはちょうど卒業してしまっている。すれ違い…。<br /> それでも、と灯里は思った。<br /> 興味が持てない仕事を続けるよりは、彼が4年間を過ごした空間にこの身を置いてみたい。彼がいた時間を思いながら、キャンパスの空気を深呼吸してみたい。<br /> 灰色だった世界が、急に色彩を持ちはじめたのを灯里は感じた。<br /><br /> 翌週、来店したご老人に「お願いします」と灯里は頭を下げた。<br />「そうか、必ず決まるから安心しておいで」<br /> そう顔を綻ばすご老人に、灯里は訊ねた。<br />「なぜ、そんなに良くしてくださるんですか?」<br /> ご老人は、にっこりとして言った。<br />「北川さんは唯一、私をお札だと思わずに、ただの老人だと思って茶飲み話につきあってくれた」<br />「そんな…お客様に私、そんな失礼な態度を?」<br /> おや、とご老人は意外そうに灯里を見た。<br />「嬉しかったと言ってるんだよ。楽しかった。これはそのお礼だ。老人の気まぐれだと思ってくれていい。しかし、これからも肩書きや財力なんかじゃなく、ありのままのその人を見るんだよ。その綺麗な心根を大事にね」<br /> はい、と灯里は深々と頭を下げた。心の底から感謝をした。<br /><br /><br /> 正式に採用が決まって、灯里は引越し先を探した。現在の住まいが職場まで少し遠かったからと、心機一転したかったからだ。 <br /> 転職したことを父に伝えようとした電話で、逆に意外なことを伝えられた。<br /> 柊が、そのまま大学の修士課程に進んだと。<br />灯里は、転職の件を父に伝えるのを止めた。どこで働こうが、父にとっては同じこと。<br /> でも運命が、柊と灯里の意思とは無関係に動き出したのを恐ろしい程に感じた。<br /><br /> 灯里は決心した。<br /> 柊ちゃんに逢おう。そして、最後の想い出をつくろう。柊ちゃんが受け入れてくれるかわからないけど。その想い出さえあれば、あたしはきっと生きていける。<br /></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a>
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第1章 最悪の再会〈ⅷ〉

 ベッドサイドの小さなライトだけの薄暗闇に眼が慣れるより先に、真珠色にぼうっと浮かび上がる灯里の小さな胸の膨らみに柊は息を飲んだ。そっと掌を乗せるとちょうど白桃のような大きさで、滑らかでぷるりとした弾力が押し返してきた。 性急すぎるとはわかっていたが、その頂きを口に含むとすぐさま灯里の秘処に手を伸ばす。案の定そこは、灯里の硬直気味の躰と同じように、まだ固く閉じたままだった。 僕では、キミは心を開い... <span style="font-size: medium;"><span style="font-family: Arial;"> ベッドサイドの小さなライトだけの薄暗闇に眼が慣れるより先に、真珠色にぼうっと浮かび上がる灯里の小さな胸の膨らみに柊は息を飲んだ。そっと掌を乗せるとちょうど白桃のような大きさで、滑らかでぷるりとした弾力が押し返してきた。<br /> 性急すぎるとはわかっていたが、その頂きを口に含むとすぐさま灯里の秘処に手を伸ばす。案の定そこは、灯里の硬直気味の躰と同じように、まだ固く閉じたままだった。<br /><br /> 僕では、キミは心を開いてくれないの?<br /><br /> 柊にも多少の経験はあったが、豊富というほどではないし、自信があるわけでもない。だからいっそう、初めて抱く愛おしい躰に頭が真っ白になった。無我夢中で愛撫を続け、ひっそりと動かない灯里をかき抱く。胸から鎖骨へ、首筋から耳朶へ、そして頬へと口づけて、柊は灯里が泣いていることに気がついた。<br /><br /> なぜ、泣くの? そんなに僕が嫌?<br /> それとも結ばれなかった誰かを、忘れられない誰かを想って、キミは泣くの?<br /> キミがいまでも心に想うのは、あの勝哉なのか?<br /> 繭里と結婚してしまった、キミの許婚だった…。<br /><br /> 口づけと愛撫が止まってしまった柊を、灯里はぞっとするほど悲しい目で見つめた。そして、言った。<br />「止めないで、お願い」<br /><br /> 灯里、幼いころから僕はキミの願いはなんだって叶えようとしてきた。だけど、いまのそれは本心なの?本当にいいの?<br /><br /> 灯里が意を決したような眼差しを向けて、さらに言った。<br />「お願い、柊ちゃん。激しく抱いて傷つけて」<br /><br /> それはスイッチだった。柊の何かを壊し、何かに火をつける、とても危険な。だけどそれを押してしまったことに、押されてしまったことに、ふたりは気づかない。<br /> 柊はいっそう激しく、せつなく、己の激情と苦悩を灯里にぶつけた。<br /><br /> 灯里は泣いていた。頬を伝う涙以上に、胸の奥が軋みながら泣いている。たった一度だけしかその行為を知らない躰は、快感の何たるかを当然知る由もない。ただ、ずっと心に秘めてきた愛しい人に抱かれる幸せと苦しみが、交互に寄せては去っていく波のようだ。<br /><br /><br /> 許して、柊ちゃん。<br /> こんな穢れたあたしを抱かせてしまって。<br /> ごめんね、柊ちゃん。<br /> 初めてをあげられなくて。<br /> 柊ちゃんだけの、灯里になれなくて。<br /> あのとき、中学生だった柊ちゃんが言った言葉を<br /> あたしは忘れない、忘れられなかった。<br /> 「汚らわしい」<br /> それはきっと、あたし許婚がいるって知ってしまったからだよね?<br /> だけど、いまのあたしはそのときよりも<br /> ずっとずっと汚れている。<br /> それなのに拒めなかった、あなたの手を、キスを。<br /> たった一度だけでいい。<br /> それ以上は望まないから。<br /> 今夜だけ、想い出がほしい。<br /> 神様、それも許されない我儘でしょうか?<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 窓を伝う雨は灯里の涙のようだ、と柊は思う。<br /> あの夜、訳もわからず、ただ夢中で激情をぶつけるように灯里を抱いてしまった。<br /> 甘い悔恨と、まるで夢現(ゆめうつつ)のように蘇る記憶は、それでも柊を不思議に満たしていた。<br /> 各々がそれぞれの研究に没頭している共同実験研究室は静かで、春の雨が心地よいBGMとなって流れている。<br /><br />「学食、行こっ?」<br /> 今日も星奈は、元気に柊をランチに誘う。あまり食欲のない柊にお構いなく、「お腹すいた~」と組んだ両手を天井に突き上げ伸びをする。<br /> 彼女の元気は周りを明るくする。柊も笑って、一緒に学食へ向かった。<br /><br />「ねぇ、夏休みの産学協同プロジェクト、もう申し込んだ?」<br /> 今日はミートボールのAランチをおいしそうに食べながら、星奈が訊く。<br /> それは夏休みに3週間、某企業の筑波にある研究所に泊まり込みで行う研究実験で、それに申し込むということは、もうすぐスタートする産学共同プロジェクトに参加表明することでもある。<br />「星奈は企業就職、めざしてるの?」<br />「うーん、本当のこと言うと大学に残って研究したいけど、いつまでも親の脛(すね)齧ってるわけにもいかないし。柊は、どうするの?」<br />「僕も、実は迷ってる。修士課程の2年が終わって博士課程に進んでも、結局企業を選ぶなら、早く就職したほうがいいのかな、とかね」<br />「そうだよねぇ」<br /> <br /> 柊と星奈が将来の話を真剣にしていると、将来のことなど考えてもいないような呑気な声がした。<br />「よぉ、俺も混ぜろよ」<br /> Aランチを乗せたトレイを持ったアレンが眼の前にどっかと座った途端、星奈の表情が俄然厳しくなった。<br />「ちょっと、えろタイガー!こないだはよくも、ろくでもないこと調べろなんて言ってくれたわねっ」<br />「ん?なんだっけ」<br /> アレンが明らかにわかっているのに、しらばっくれている。<br />「だからっ、あれよ!」<br />「あれって?」<br />「もうっ、しらばっくれるのもいい加減にしなさいよ。パイズリのことに決まってるでしょ!」<br /> せ、星奈、そんな大きな声で。しかもここ、学食だし、と柊は焦った。<br /> 案の定、近くにいた何人かの学生が驚いたような視線を星奈に向けてきて、それに気づいたアレンはいまにも吹き出しそうだ。<br />「星奈、しーっ」<br /> 慌てて制する柊に、星奈もやっと自分の失態に気づいたようだ。そしてとうとう堪え切れなくなって爆笑しているアレンをきっと睨むと、何を思ったか星奈はいきなりもの凄い勢いで残っているAランチを食べはじめた。<br />「え、星奈?」<br /> どうしたんだ、やけ食いか?と思って柊とアレンが見ている中、星奈はAランチを完食すると、お茶をごくりとひと口飲んだ。そしてきれいにたいらげたAランチのプレートを持つとすっくと立ち上がり、無言のまま下膳コーナーへ堂々と歩き去った。<br /> その姿を呆然と見送っていたアレンが、再び大爆笑している。<br />「柊、見たか?さすが、星奈だ。Aランチ、見事に完食してから去ってったよ。あはは、最高だな!」<br /> まったく、アレンは。そう呆れている柊に、アレンが突然ニヤリとすると言った。<br />「ところで柊、ビッグニュースだ」<br />「ビッグニュース?」<br /> 真顔で頷くアレンに、柊は嫌な予感がした、なぜだかもの凄く。<br /></span></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a>
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第1章 最悪の再会〈ⅶ〉

 灯里はまだ帰ってきていなかった。 郵便受けで灯里の部屋の番号を確認して、502号室の呼び鈴を押したけれど応答がなかった。しかたなく柊は、再び1階まで降り、マンションの入口を出た。 どうしても、灯里に訊きたいことがあった。でもそれは口実で、本当はただ逢いたいだけなのかもしれないと思う。 灯里が消えた理由や、これまでどうして生きてきたかを訊ねたところで、簡単には話せないことはわかっている。話せるくらいな... <span style="font-size:large;"> 灯里はまだ帰ってきていなかった。<br /> 郵便受けで灯里の部屋の番号を確認して、502号室の呼び鈴を押したけれど応答がなかった。しかたなく柊は、再び1階まで降り、マンションの入口を出た。<br /><br /> どうしても、灯里に訊きたいことがあった。でもそれは口実で、本当はただ逢いたいだけなのかもしれないと思う。<br /> 灯里が消えた理由や、これまでどうして生きてきたかを訊ねたところで、簡単には話せないことはわかっている。話せるくらいなら、姿を消したりすることはなかっただろうから。<br /> それより、もっと建設的な、前向きな…。これからどうしたいのか、とか…。<br /><br />いや、ただ僕は、いま僕にできることはないかを訊きたい。<br />そして、灯里のためならなんだってするつもりだってことを伝えたい。<br />だって、それこそ6年という月日を経て、僕らが再び出逢えた理由だと思うから。<br />そうだろ? 違うかい、灯里?<br /> <br /> マンションの前をうろうろしながら、柊はまとまらない思考をなんとかまとめようとしていた。<br />「こんな遅くまで、どこへ行ってるんだ」<br /> 灯里の仕事すら知らない柊は、今日が特別遅いのか、いつもそうなのかすらわからない。<br /> とうとう落ち着きなくうろつくのを止めて、建設中のアパートの外階段に腰を下ろした。暗闇の中で、街灯が『入居者募集』の表示板を浮かび上がらせている。<br /> ふいに、デジャブの感覚が起こる。<br /> そうだ、幼い頃、僕たちはこのくらいの近さで暮らしていたんだったと柊は思い出した。柊の家は『北賀楼』の斜め向かいにあり、家族や従業員が出入りする通用口は、2階の柊の部屋の窓からとてもよく見えたのだった。<br />「おかえり」<br /> 新体操の練習で遅く帰ってくる灯里に、そう声をかけたことも何度もあった。「ただいま」と言って月明かりの下、柊を見上げる灯里のなんと可愛かったことか。<br /><br /><br />「柊…ちゃん?」<br /> 甘酸っぱい回想に浸っている柊の耳に、ふいに現実の愛おしい声が聞こえた。<br />「灯里…」<br /> セーラー服の少女ではなく、大人の女人になった灯里が眼の前にいて、柊は訳もわからず顔が火照るのを感じた。そんな柊の動揺に気づくこともなく、灯里は冷たく言った。<br />「何してるの?」<br /> 何してるのって、キミを待っていたんじゃないか。<br />「遅かったね、灯里」<br />「そう?」<br /> と灯里は気だるそうに、腕時計を見た。<br />「心配したよ、この間みたいに変な男に…」<br /> そう言って近づいた灯里の躰から、アルコールの匂いがした。<br />「酔ってるの?」<br />「そうよ、だから?」<br /> 強がる灯里に、どうしてなんだと柊は思う。なにがキミを、そんな風に頑なにさせるんだ。<br />「誰と飲んできたの?」<br /> 優しい眼差しで訊ねる柊が、灯里をせつない気持ちにさせる。<br />「誰とだって…」<br /> いいでしょ?と言いかけて灯里は言い換えた。<br />「男とよ」<br /> それは嘘じゃない、だってシンジだっていたものと灯里は心の中で言い訳する。<br />「そう」<br /> 柊の眼が悲しげに曇って、灯里はいたたまれなくなる。<br /><br /> 誰とだっていいじゃない、そんなの柊ちゃんに関係ないでしょ?<br />なのに何故、そんな眼で見るの?<br />幼なじみがすっかり変わってしまったのが、そんなに悲しい?<br />いいの、放っておいて。<br />アバズレだって思っていてくれたほうが、あたしは気が楽なんだから。<br /><br /> まるで自分自身に言い訊かせるように、灯里はそう思った。心がちくりと痛むのを感じながら。<br />「じゃ、おやすみ」<br /> そう言って逃げるように去ろうとする灯里の腕を、柊が掴んだ。<br />「なに?」<br /> 驚いて見上げる視線の先に、柊の苦しげな瞳があった。<br /> 懐かしい、愛おしい眼だった。正面からまともに見るのは6年ぶり以上で、灯里は金縛りにあったように視線が外せない。胸の鼓動が早くなるのは、決して酔いのせいではない。<br /><br /> 灯里、そんなに怖がらないで。僕はただ、キミが心配なんだ。<br /> キミのその淋しげな瞳、全然らしくない態度。<br /> その理由が僕にはわからない。それが苦しくて、悲しいんだ。<br /> ねぇ灯里。僕はもう、あの頃の子供の僕じゃない。<br /> キミを男として守って上げられるくらいには、大人になったんだ。<br /> そう、僕はもう大人の男になったんだよ。<br /> <br /> 見上げる柊の眼が熱を帯びはじめる。それに呼応するように、灯里は胸の奥が熱くなる。どちらからともなく、吸い寄せられるように唇が近づいた。<br /> カタカタと震える灯里の唇に、そっと自身のそれを重ねる。夜の外気はいっそう冷え込んできたというのに、お互いの唇は驚くほど熱かった。<br /> 灯里の唇をゆっくりと覆って、全体を舐めまわすと、灯里の躰がぴくりと反応する。でもその唇は硬く閉ざされていて、硬直した躰と同じくらいぎこちない。<br /> 初めての愛しい人とのキス、やがてそれは互いの脳を妖しく痺れさせた。暗闇が次第にふたりを大胆にさせていって、貪るように求めはじめた柊を、灯里の唇は無心に受け止める。<br /><br /> もう、どうなってもいい。<br /> 互いの心の声が、聞こえたような気がした。<br /></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a><br />
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線香花火

  子供の頃。 ママに浴衣を着せてもらっていった夏祭。 水ヨーヨーが大好きで、いつもおねだりしてた。 最期に小さな火の玉がぽとんと落ちる 線香花火も好きだった。 大人になって。 あのひとのせいで着崩れた浴衣をなおしながら これって水ヨーヨーがしぼんだ後に似てるなって ふと思った。 線香花火は 大人になると禁じられた遊びだってこと あの頃のママは教えてくれなかったね。... <div style="text-align: center"><span style="font-size: x-small"><span style="font-family: ヒラギノ角ゴ Pro W3"><br /><br /><a target="_blank" href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/img/201308041107376ec.jpg/"><img border="0" alt="線香花火" width="316" height="237" src="http://blog-imgs-61.fc2.com/o/t/o/otonaasabi/201308041107376ec.jpg" /></a>&#160; <br /></span></span><span style="color: #993300"><span style="font-size: x-small"><span style="font-family: ヒラギノ角ゴ Pro W3"><br /></span></span><span style="font-size: small"><span style="font-family: ヒラギノ角ゴ Pro W3">子供の頃。 <br /><br />ママに浴衣を着せてもらっていった夏祭。 <br /><br />水ヨーヨーが大好きで、いつもおねだりしてた。 <br /><br />最期に小さな火の玉がぽとんと落ちる <br /><br />線香花火も好きだった。 <br /><br /><br />大人になって。 <br /><br />あのひとのせいで着崩れた浴衣をなおしながら <br /><br />これって水ヨーヨーがしぼんだ後に似てるなって <br /><br />ふと思った。 <br /><br />線香花火は <br /><br />大人になると禁じられた遊びだってこと <br /><br />あの頃のママは教えてくれなかったね。 <br /><br /></span></span></span></div><span style="color: #993300"><span style="font-size: small"><span style="font-family: ヒラギノ角ゴ Pro W3"><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /></span><br /></span><br /></span>
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第1章 最悪の再会〈ⅵ〉

 「だから、魔性の女なんだって」  酔いで目元を赤くしたカオリが、バンザイをしながら言う。その手を下げさせながら、シンジが言った。 「わかった、わかった」 「魔性の女なんて、言われたことないよ」  灯里は困ったような顔で、カオリとシンジを交互に見る。 「だってあの男、合コンで灯里狙いだった男…」 「お前ら、合コンなんてしたの?いつの間に?」  そう訊くシンジを無視して、カオルは灯里に詰め寄るよ... &#160;<span style="font-size: 11pt; line-height: 25pt;">「だから、魔性の女なんだって」</span> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 酔いで目元を赤くしたカオリが、バンザイをしながら言う。その手を下げさせながら、シンジが言った。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「わかった、わかった」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「魔性の女なんて、言われたことないよ」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 灯里は困ったような顔で、カオリとシンジを交互に見る。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「だってあの男、合コンで灯里狙いだった男…」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「お前ら、合コンなんてしたの?いつの間に?」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> そう訊くシンジを無視して、カオルは灯里に詰め寄るように言う。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「あの男の友達ってヤツに、しつこく灯里のメアド訊かれたよぉ」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「ごめん」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「で、お前、教えたのかよ?」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> カオルが今度はシンジの腕を、ばしばし叩きながら言う。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「だって。その友達ってヤツが結構イケメンだったんだもの」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「カオル。お前、友達売ったのかよ」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> そう言うシンジに、灯里が思わず苦笑する。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「友達売るって…シンジ。大袈裟、あはは」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「悪かった、ゴメンね、灯里。ホント大丈夫だったの?あのストーカー男」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「ス、ストーカーぁ?」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 今度は、シンジが素っ頓狂な声を上げた。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「ストーカーじゃないよ。ちょっと、しつこかったけど」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「まだ、しつこくされてんのか?」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> シンジが心配そうに訊く。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「ううん。もう、大丈夫だと思う」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;">&#160;</div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> あの夜、しつこくつきまとっていた男を、繰り出した拳で触れもせずに撃退してくれた柊のことを灯里は思い出した。子供の頃から頭が良かったが運動神経も良い方で、中学の時はバスケ部だった柊。進学校だった高校時代は、受験勉強に集中するため部活はしていなかったけれど、それでも朝ジョギングをする姿を見かけたりしていた。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> その柊がいまはボクシングだなんて…でもひたむきにサンドバッグを狙う姿は柊らしく、灯里には容易に想像できた。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;">&#160;</div> <div align="left" style="text-indent: 11pt; line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">幼い頃から知っている柊の逞しくなった姿を思い浮かべている灯里に、シンジが言った。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「なんかあったら、俺に言えよ」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> そう真顔で心配するシンジに、カオルが言う。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「ほらっ、ほらね。シンジだって灯里のこと心配するでしょ?だから、魔性の女なのっ」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「あー、わかった、わかった。カオル、もう酒は止めとけ」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「大丈夫っ!」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> そう拗ねたようにカオルは言ったけれど、シンジはバーテンダーに手を挙げて、3人分の水を頼んでくれた。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「ほら、カオル。水飲んで」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「う、うん。ありがと」</span></div> <div align="left" style="text-indent: 11pt; line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">結局、素直にシンジが差し出したグラスを受け取るカオルを見て、灯里は我儘も言うけど可愛い娘(こ)だなと思う。</span></div> <div align="left" style="text-indent: 11pt; line-height: 25pt;">&#160;</div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> ビスタチオの殻を剥いて口に放り込みながら、シンジが訊いた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「ところで、引越しの方はもう片づいたの?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「うん、やっと、何とか」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「新しい仕事、はじまったばかりだろ?どう?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「うん、証券会社と違って、なんていうか穏やかっていうか余裕がある気がする」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「ふ~ん、カッコいい人とかいる?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> そう訊くカオルにシンジが突っ込む。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「カオルは、二言目にはそれだな」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「だって、あたしなんか職場が実家の歯医者だよ。出会いがめちゃめちゃ、少ないんだから。就職先、間違えたよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「なに、贅沢言ってるんだ。食いっぱぐれなくて羨ましいよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「あたしは、才能で生きていけるシンジのほうが羨ましいなぁ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「俺なんて、フリーターみたいなもんだから。安定してるほうが絶対いいよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「そうかなぁ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「あたしだって、2年間は契約社員みたいなもん。ボーナスなんてないんだから」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> と灯里も言う。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「じゃあさぁ、なんでお給料もボーナスもいい証券会社、辞めちゃったの?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> うん、と曖昧に灯里は笑う。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「もしかして、不倫とか?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「おい、カオル」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> とシンジがたしなめるが、悪気のないカオルは無邪気に続ける。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「だってぇ、証券会社とか銀行とか、そういうのありそうじゃない?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「残念ながら、そういう色っぽい理由じゃないよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 灯里は苦笑しながら言った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> もっと別な理由。でも、言えないことなんだ。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> ごめんね、カオル。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> これが最後の想い出づくりになるからなんて、恥ずかしくてとても言えない。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「ま、取り合えず、灯里の新しい人生に乾杯しようぜ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> そうシンジが取り成すように言う。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「うん。あ、じゃあ、あたしジントニックおかわり!」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「おいおい、カオル」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「じゃ、あたしも!」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 結局シンジが、3人それぞれのドリンクを追加注文してくれる。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「じゃ、あたらめて乾杯だな」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「うん、でもあたしだけじゃなくて、3人の未来と友情に乾杯したいな」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> そういう灯里に、シンジとカオルが頷いた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「じゃあ、俺たちの未来と友情に!」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「かんぱ~い!」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 3人はそれぞれのグラスと声を合わせた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;"> やがて、今夜も酔っぱらって、テーブルに突っ伏して寝てしまったカオルを見ながらシンジが言った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">「あ~あ、やっぱ潰れたか。最後のジントニックが効いたな」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">「でも絡むわけじゃないし、基本楽しいお酒だし、可愛いよ、カオルは」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">「まあな」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;"> カオルが寝てしまうと、さっきまでの賑やかな雰囲気が消えて、急に夜が深まったような気がした。平日のダイニングバーはお客がそれほど多くなく、カウンターには独りで飲んでいる男性客、テーブルには数組の男女が大人の雰囲気でグラスを傾けている。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">「なあ、灯里。ダンススタジオ、辞めないよな」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">「辞めないよ、どうして?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">「前は、会社の帰り路線だったろ?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;"> 確かにいまは路線が違うし、現在の職場とは逆方向だ。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">「でも、そんなに遠くないし」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;"> シンジが、少し考え込むような表情を見せた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">「遅くなると、例のストーカー、大丈夫か?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">「大丈夫だよ、きっともう、つきまとわないと思う」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;"> 柊が二度と近づくなと、釘を刺してくれたし。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">「ほんとは、送って行きたいんだけど」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;"> とシンジは、潰れたカオルを見て言う。そして再び灯里を見つめた眼に、想いが溢れているのを灯里は気づかないフリをした。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">「あたしなら大丈夫。それより悪いけど、カオルをお願い」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">「しょうがないな」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;"> 灯里が眼を逸らしたことにため息を漏らしながら、シンジはそれでも笑顔をつくった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">「ほら、カオル。起きて、もう帰るよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;"> やわらかな子猫のように幸せそうに眠りこけているカオルを、灯里は姉のように揺さぶった。</span></div><div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;"><br /></span></div><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a>
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第1章 最悪の再会〈ⅴ〉

 「灯里、このあと予定ある?軽く飲んでかない?」  ダンスでかいた汗を流し、シャワールームから出ると、鏡の前で化粧をしていた芦名カオル(あしなかおる)がそう声をかけた。  このスタジオに通うようになって約4年、ほぼ同じ頃に通いはじめたカオルと、灯里はすぐに仲良くなった。灯里より3つ年下の22歳、実家の〈あしなデンタルクリニック〉に勤める歯科技工士だ。 「いいよ」 「うゎあ、良かったぁ。実はね、すっ... &#160;<span style="font-size: 11pt; line-height: 25pt;">「灯里、このあと予定ある?軽く飲んでかない?」</span> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> ダンスでかいた汗を流し、シャワールームから出ると、鏡の前で化粧をしていた芦名カオル(あしなかおる)がそう声をかけた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> このスタジオに通うようになって約4年、ほぼ同じ頃に通いはじめたカオルと、灯里はすぐに仲良くなった。灯里より3つ年下の22歳、実家の〈あしなデンタルクリニック〉に勤める歯科技工士だ。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「いいよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「うゎあ、良かったぁ。実はね、すっごいイケメンがいるバー、見つけちゃったの」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 背中まであるマーメイドアッシュのゆるふわ髪をかきあげながら、カオルが鏡越しにウインクしてきた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「へえ、どんなイケメン?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「うふぅ、ナイショ。見たらわかるよ、もう、モデル並みにカッコいいんだから」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「そりゃ、楽しみね」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「あ、でも好きになっちゃダメだょお、灯里」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 自分より少し短い、それでもふわりと肩を越す灯里の栗色のセミロングを梳きながらカオルが言った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「大丈夫、応援するから」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「ホントぉ?でも、灯里って案外、魔性の女だからなぁ。心配」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 化粧をしながら、今度は灯里が鏡越しにカオルに訊く番だった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「魔性の女?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「うん」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 思わず灯里は破顔する。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「やだ、やめてよ。ウケる。魔性どころか、モテない歴25年よ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「え~、そうかなぁ。自分で気づかないのは罪だよぉ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 灯里の後ろで、そうカオルが口を尖らせているのが鏡に映る。それにさらに笑って、灯里はメイクを終えて立ち上がった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「お待たせ、行こ?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 157㎝のカオルと156㎝の灯里は、体型も揃って華奢で双子のように雰囲気が似ている。そんな親友と腕を組み合うようにして、更衣室を出た。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> エレベーターを待っていると、ふたりはダンス・インストラクターに呼び止められた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「よ、お疲れっ。どっか行くの?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> そう声をかけてきたのは加藤慎二、24歳。ニューヨーク帰りのヒップホップ系ダンサー、スタジオでは講師名〈シンジ〉と登録している。かなり明るめの茶髪をつんつんに立たせたヘアスタイル、172cmと少し小柄だけれど、キレのいいダンスと創造性の高い最先端の振り付けで生徒には抜群の人気がある。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「灯里と飲みに行こうかと思って。シンジも行く?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> カオルがまるで友達のように、気安く呼び捨てにする。最初こそ灯里は先生と呼んでいたが、仲良くなるにつれて、カオルにつられるようにスタジオの外では「シンジ」と呼べるようになった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「おう、行く行く」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「なんか、イケメンのバーテンダーがいるバーらしいよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> そういう灯里に、シンジは途端、不機嫌な顔になる。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「なんだ。それじゃ、俺、ジャマ?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「そんなことないよぉ。シンジだって、喋んなきゃ十分イケメンだよぉ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「カオル、お前。喋んなきゃっていうのは余計だろ。しかも一番年下のくせに、なんで一番エラそうなんだよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 賑やかなふたりと、灯里は揃って夜の街へ出た。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 目指すバーは、大通りから一本入ったところに隠れ家的にひっそりとネオンを光らせていた。クラシックな趣がある雑居ビルの地下1回、狭い階段を降りると、〈mole~モゥル〉の洒落た看板が見えた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「mole?へ、もぐら?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> とシンジが言う。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「え、モゥルってもぐらって意味なの?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> カオルが驚いたように訊く。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「なんだ、お前。知らないで来てたのか?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「だって、まだ3回目だもん」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「回数関係ないだろ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「ふんだ。ちょっとばかし知ってると思って」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「おう、ニューヨーク帰りを馬鹿にするな!」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 相変わらず、ああ言えばこう言うふたりを促して、灯里たちは店内に入った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> カウンターには蝶ネクタイをした初老のバーテンダー、30代くらいの顔色の悪い男性がテーブル席の客へ、カクテルを運んでいる姿が見えた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「イケメンて、あれ?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> その男性を目で追うようにしながら、小さな声でシンジがカオルに訊いた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「違うよ、あんなんじゃない」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 声を潜めて失礼な発言をするカオルについて、右奥の小さなテーブル席に向かい、足の長いスツールに腰掛けた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「なんか、今日はいないみたいだなぁ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> そう残念そうに呟いて、カオルはメニュ-を手に取る。それを乱暴にシンジに突き出すと言った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「何にする?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「俺、ちょっと腹減ってるんだけど?灯里は?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「うん、少し」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 食べ物のオーダーはシンジに任せて、灯里はジントニックを選んだ。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「カクテルって甘いのに、アルコール度高くて無理」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「あたしも、じゃ、ジントニック」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> とカオルが言う。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「俺はシンガポールスリング。チーズ&クラッカーとピスタチオ、あとペペロンチーノも頼んでいい?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「あ、いいね」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> しばらくしてやってきた顔色の悪い男性に、シンジが全員の分をオーダーしてくれた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「残念だったね、いないなんて」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 灯里がそう言うと、少し不機嫌なカオルにシンジが言う。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「お前、シフトくらい確認しとけよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「だって、最初来たときは水曜日にいたもの」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「どんな人なの?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> そう訊く灯里に、カオルは嬉しそうに答える。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「金髪で、青い目の外国人よ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「へ~、ナニジンだよ?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「知らない。あ、でも日本語話してた」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「じゃ、訊けるだろ。ナニジンかぐらい」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「う~ん、凄ぉく自然な日本語だったから、ハーフかもね」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 飲み物が運ばれてきた。訊けよ、という風にシンジがカオルを突く。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> やめてよ、と眼で睨みつけたカオルに替わって灯里は訊ねた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「今日は、いないんですか?あの、金髪の…」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 顔色の悪い男は、無愛想に灯里を見て言った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「ああ、アレン?今日は、シフト交代してもらった」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「いつもは、水曜日なんですか?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「水、金、土。アンタもアイツ狙い?最近、そういう女の客が多くてさ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 言外に、やってられない感を滲ませて言う男に、灯里は謝った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「ごめんなさい。そういう訳じゃないんですけど」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「ま。儲かってオーナーは満足だろうけどね」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> と初老のバーテンダーを見やった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 男が去ると、カオルは目を輝かせて灯里の左腕に自分の両腕を巻きつけた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「うわぁ、ありがと、灯里。やっぱり、灯里だわぁ。頼りになるっ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「じゃ、今日はいつものように3人で飲みますか」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> シンジがそう言って、3人は機嫌よくグラスを合わせた。</span></div><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a>
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かくれんぼ

  「もういいかい」 「まぁだだよ」 「もういいかい」 「し…」 大人のかくれんぼには ときどき鬼がふたりいる。... <div style="text-align: center"><span style="font-size: small"><span style="font-family: ヒラギノ角ゴ Pro W3"><a target="_blank" href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/img/201308201947021e2.jpg/"><img border="0" alt="路地裏ねこ" width="244" height="165" src="http://blog-imgs-61.fc2.com/o/t/o/otonaasabi/201308201947021e2.jpg" /></a>&#160; <br /></span></span></div><span style="font-size: small"><span style="font-family: ヒラギノ角ゴ Pro W3"><br /><br /><br /></span></span><div style="text-align: center"><span style="color: #800080"><span style="font-size: small"><span style="font-family: ヒラギノ角ゴ Pro W3"><br />「もういいかい」 <br /><br />「まぁだだよ」 <br /><br />「もういいかい」 <br /><br />「し…」 <br /><br /><br /><br />大人のかくれんぼには <br /><br /></span></span></span></div><div style="text-align: center"><span style="color: #800080">ときどき鬼がふたりいる。</span></div><div style="text-align: center"><span style="color: #800080"><span style="font-size: small"><span style="font-family: ヒラギノ角ゴ Pro W3"><br /></span></span></span><span style="color: #800080"><span style="font-size: small"><span style="font-family: ヒラギノ角ゴ Pro W3"><br /><br /></span></span></span></div>
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第1章 最悪の再会〈ⅳ〉

 「柊、学食行かない?」  柊と同じく、この4月から大学院の修士課程で学びはじめた今井星奈(いまいせな)が言う。 「ああ、もう昼か」  理学部の共同実験研究室で、ほかの院生たちと一緒に実験に没頭していた柊は、壁に掛けられた時計を確認した。 「うん、いいよ」  大学時代から仲の良かった星奈と並んで、実験研究室を出る。  173cmもある星奈は181㎝の柊と並んでも引けを取らず、女性としては背が高い方だ。... &#160;<span style="font-size: 11pt; line-height: 25pt;">「柊、学食行かない?」</span> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 柊と同じく、この4月から大学院の修士課程で学びはじめた今井星奈(いまいせな)が言う。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「ああ、もう昼か」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 理学部の共同実験研究室で、ほかの院生たちと一緒に実験に没頭していた柊は、壁に掛けられた時計を確認した。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「うん、いいよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 大学時代から仲の良かった星奈と並んで、実験研究室を出る。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 173cmもある星奈は181㎝の柊と並んでも引けを取らず、女性としては背が高い方だ。引けを取らないのは背だけではなく、頭脳の方もかなり優秀で女性がもともと少ない理学部の中でも一目置かれる存在だ。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 肩より少し長めのストレートな黒髪を無造作にゴムで一つにまとめ、化粧っ気もなければ男っ気もない。さっぱりした裏表のない性格は友人としてつき合いやすく、かなり天然のところも一緒にいて飽きない。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「今日のAランチ何かな?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 学食のAランチは主に肉系のメニューで、星奈のお気に入りだ。因みにBランチは魚系、このほかに日替わりの丼物とスパゲッティ、カレー、ラーメン、うどん、そばがあり、売店では弁当やサンドイッチ、おにぎりやスナック菓子なども売っている。飲み物は自販機に一通り揃っている。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「やった、生姜焼きだ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 入口に表示されたメニューを、眼を輝かせて確認した星奈が嬉しそうに言った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 新学期がはじまったばかりで混み合っている学食で、星奈と向き合って柊は月見そばをすすっていた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「そんなんで、足りんの?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> いつものように大サイズのご飯を生姜焼きと一緒においしそうにかき込みながら、星奈が訊く。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「うん。星奈こそあまり食うと、午後眠くな…」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> そう言いかけた柊の言葉が、背後からの大声で遮られた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「おぉ~、将来の日本を背負って立つ若者たち、俺も混ぜろよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 振り返らなくてもわかる、アレンだ。案の定、本日の日替わりメニュー親子丼のトレイをテーブルに置くと、柊の隣りにアレンはどっかと腰を下ろした。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「やっぱ、卒業できなかったんだ、アレン」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 早速、星奈が容赦ない言葉を浴びせかける。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;&lt;br &gt;&lt;/div&gt;line-height:25.0pt;&lt;br /&gt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">もともと星奈や柊と同級生のアレンは、留年して現在は大学5年生ということになる。因みに彼は法学部で、理学部の柊と悪友になったきっかけは大学1年のときからともに通っていたボクシングジムだ。星奈と柊はたまたま同じクラスで、3人はなぜかウマが合い、学食で会えば一緒にランチをすることが多くなった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「卒業できなかった訳じゃなくて、卒業しなかったんだ。俺のファンの後輩たちを落胆させないためにもね」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> その言葉があながち嘘でない証拠に、学食にいた女子たちの視線がアレンに集まる。それも仕方のないことで、オーストラリアと日本のハーフらしい彫りの深い整った顔、ゆるいウェーブの金髪ロン毛、碧眼の絵に描いたようなイケメン。明るくてユーモアがあり、男女を問わず気さくにつき合う気のいいやつだ。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「ものは言いようね。あんたのファンはいいけど、こんなチャラチャラした息子に学費を出している親はさぞかし落胆してるんじゃないの?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 星奈は遠慮も容赦もない。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「そんなことはない、人生には回り道も必要だってこと、うちの親はちゃんとわかってるさ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「無駄な回り道もあるけどね」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 負けてはいない星奈に、アレンが面白そうに反論する。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「日本人は、本当に無駄が嫌いだよなぁ。その無駄が世紀の大発見につながることもあることを、そろそろ理解したほうがいい。星奈だって研究者の端くれだろ、余裕も遊びもないと発想が貧困になるぞ?それに人生は所詮、大いなる無駄使いさ。何世紀ものときを超えていまなお輝く一流の芸術家たちを見てみろよ、彼らの人生にいかに回り道や無駄が多かったかを」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 熱弁をふるうアレンに、冷たい一瞥を投げて星奈は言う。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「さすが、一流の芸術家を父に持つ人の言うことは違うわね。でもアレン、あんたの場合はマジ、単なる無駄使いだったってことが何世紀も経たなくたってすぐにわかるわよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> アレンの父親は、世界的オーケストラに所属するオーボエ奏者だ。母親は元チェロ奏者でふたりの出会いは同じオーケストラの団員としてだったらしい。もっとも現在は離婚しており、アレンは18歳になったのを機に日本国籍を取得し谷川姓となり、妹のエレンはオーストラリア国籍でゴズウェルを名乗っているのだそうだ。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「無駄使いというなら、星奈、お前のその無駄に大きい胸はいつになったら有効活用されるんだ?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「なっ…」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> ニヤニヤしながら本格的に揶揄(からか)いだしたアレンの言葉に、星奈は真っ赤になって反応する。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「なんなら、俺が有効活用してやろうか?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「余計なお世話っ。このえろタイガー!」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> タイガーと呼ばれる由縁である長めでふさふさの金髪をかき上げながら、アレンは少しも堪(こた)えた様子はない。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「あのな、星奈。えろいってのは、俺にとっては褒め言葉だから」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> もうっと、星奈の怒りはますます大きくなる。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「柊、柊からもなんか言ってやってよっ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「ぼ、僕?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> いきなり振られた柊は、当惑する。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「星奈、それこそ無駄だって。柊はいま、Missアバズレのことで頭がいっぱいだ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> お、おいアレン、いきなり何を言うんだ、と柊は焦った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「Missアバズレって?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 星奈がきょとんとした顔になって訊く。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「さあ?Missアバズレが品行方正な柊にとってどういう存在か、俺も詳しくは知らないんだけどさ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 今度はアレンの標的が自分に移ったのを、柊は知った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「お、幼なじみだよ、ただの。偶然会ったんだ、6年ぶりに」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「ただの幼なじみって雰囲気じゃなったぜ?しかもアバズレって言われるだけあって、妙に女としてオーラがある。特別に色っぽいってわけじゃないし、</span><span style="font-size:11.0pt;MS 明朝&quot;;">ボンキュッボンのボディでもないのに…」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;MS 明朝&quot;;">「やめろよ、アレン」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;MS 明朝&quot;;"> 灯里のことをそんな風に見られるのは、相手が悪友のアレンでも、いやどんな男だって柊には我慢ならない。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「へぇ、どんなオーラ?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> もっと訊きたそうにする星奈を、再びアレンが揶揄う。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「人のオーラはどうでもいいから、星奈。問題はお前だよ。もう少し女としての自覚がないと、一生処女のままだぞ?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「しょ、処女って…バ、バカ、なに言うのよ、このえろタイガーっ!」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 再び星奈が慌てながら、怒る。それを気にもせず、アレンがさらにとんでもないことをサラッとかました。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「せっかく、いいもの、じゃなかった素晴らしい素質を持ってるのにもったいない。パイズリとかしたら、凄い才能を発揮しそうな逸材だ、星奈は」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「パ、パイズリ?…て、何?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> あ~あ、星奈、そこ訊いちゃダメだ、と柊は思ったが遅かった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 思う壺だったアレンは、くくくと笑いを堪える。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「あのなぁ、星奈。パイズリくらい知らないと、一流の研究者になれないぞ。いまはネットの時代だ、検索すればすぐに出てくる」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「わ、わかった、調べてみる」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> マジに答える星奈をにやりと見て、アレンが言った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「じゃ、またな。俺、午後はバイトだ。生活費くらい自分でなんとかしないと」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「バイトだけじゃなくて、授業も真面目に出るのよ。今年こそ、ちゃんと卒業しなさいよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「OK!」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> そう言って去っていくアレンに、星奈は手を振って見送った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「あのさ、星奈」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「なに?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「ネット検索は、実験研究室のコンピュータではしない方がいい」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「なんで?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 無邪気にそう訊く星奈は、本当にド天然だが可愛いと柊は思う。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「いや、調べればわかるから。だけど、マジで自宅に帰ってからにしたほうがいいよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「ふうん?…わかった」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> まったくアレンは…。灯里のことだってこれ以上、揶揄いのネタを提供しないようにしなきゃ、と柊は肝に銘じた。</span></div><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a><br /><br />
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第1章 最悪の再会〈ⅲ〉

 北川灯里は、小京都と称される地方都市に代々続く老舗料亭『北賀楼(ほくがろう)』の長女として生まれた。料亭の女将で灯里の祖母に当たるリツは、灯里の父で次男の一史(ひとし)の料理の才能を早くから見抜き、板前として厳しい修行を強いた。リツの命令は絶対で、万事につけ非常に厳しい人だったため、長男の一行(かずゆき)はこれ幸いと次男に重荷を押しつけて気楽なサラリーマンの道を選んだ。    自らが後継者と... <div><div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 北川灯里は、小京都と称される地方都市に代々続く老舗料亭『北賀楼(ほくがろう)』の長女として生まれた。料亭の女将で灯里の祖母に当たるリツは、灯里の父で次男の一史(ひとし)の料理の才能を早くから見抜き、板前として厳しい修行を強いた。リツの命令は絶対で、万事につけ非常に厳しい人だったため、長男の一行(かずゆき)はこれ幸いと次男に重荷を押しつけて気楽なサラリーマンの道を選んだ。</span></div> <div style="line-height: 25pt;">&#160;</div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 自らが後継者と決めた一史の結婚相手に、お茶やお花、着付けのたしなみがあり芯の強い織江を選んだのもリツだった。しかし一史には、かねてから好きな女性がいた。苦労知らずのお嬢様でふんわりと女らしい万祐子と、一史は灯里が生まれてからも切れることができなかった。リツの眼を盗んでずるずると関係を続けているうちに、万祐子が妊娠してしまった。</span></div> <div style="line-height: 25pt;">&#160;</div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 怒り心頭のリツに、穏やかで従順な一史が初めて頑なに抵抗した。そんな夫を見て、身を引くことをリツに申し出たのは織江だった。</span></div> <div style="line-height: 25pt; text-indent: 11pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">夫の愛が自分にないことは、結婚当初からわかっていたから。それでも心を通わすことができるのではと努力してきたが、灯里が生まれてもなお、秘かに万祐子を想う夫は自分以上に可哀想だと思った。人の心だけは、努力でどうこうできるものではない、ましてや力ずくでなど。間違った選択を軌道修正し、それぞれが幸福への道を歩む機会はいまだと織江は思ったのだ。</span></div> <div style="line-height: 25pt;">&#160;</div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「一史さんと万祐子さんは愛し合っています。それに生まれてくる子供に罪はありません。どうかふたりを夫婦と認めてやってください」</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「お前は、灯里は、どうするんだい?」</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> そう訊くリツに、織江は「連れて行く」と答えた。</span></div> <div style="line-height: 25pt;">&#160;</div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「それは許しません。『北賀楼』の次の後継者は灯里です。私が責任を持って、それにふさわしい娘に育て上げます。それに織江、あなたはまだ若い。私が見込んだあなたほどの女なら、これからいくらでも良縁があるでしょう。そのときに灯里がいたのでは、いろいろと難しいことが起こるでしょう。灯里は置いて行きなさい」</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 『北賀楼』のことをまず第一に考え、自分の判断に絶対の自信を持つリツには、親子の情も男女の機微も所詮、甘ったるいデザートでしかなかった。リツにとって生きる糧は『北賀楼』が未来永劫に続くことであり、その人生にとってデザートなどなくても困らないものだった。</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> それでも灯里を連れて行くと言い張る織江に、リツは言った。</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「灯里を連れて行くのなら、万祐子との結婚も認めません。生まれてくる子は父親のいない子として生きていけばいい。ですが灯里は『北賀楼』の後継者で、私の孫です。必ずこの私が、幸せにして見せます」</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 脅しとも宣告とも言える身勝手な理論で、とうとうリツは織江に認めさせた。一史が土下座して頼んだことも一因だったが。</span></div> <div style="line-height: 25pt;">&#160;</div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> こうして灯里はリツを母親代わりに料亭と廊下続きの『母屋』で、2つ違いの異母姉妹の繭里は父母の愛情に育まれて『離れ』と呼ばれる同じ敷地内の家で、それぞれの人生を歩むこととなった。</span></div> <div style="line-height: 25pt;">&#160;</div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> そして柊は、地元でも有数の歴史と格式を誇る『北賀楼』の斜め向かいに住む、ふたりの異母姉妹の幼なじみだった。柊には7つ年上の兄がいたが、年が離れているせいかあまり一緒に遊んだ記憶がない。むしろ2つ上の灯里と同い年の繭里の方が、兄弟姉妹のようだった。</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 物心ついたときから3人はいつも一緒だった。子供だった柊には北川家の複雑な事情などわからなかったが、灯里は本当の妹のように繭里をいつも気にかけ可愛がっていたし、繭里はそんな姉を心から信頼し甘えていた。</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 子供の頃から思慮深く賢かった柊は、そんなふたりにとって何でも話せる幼なじみであり、願いを一生懸命叶えてくれようとする頼もしい存在でもあった。</span></div> <div style="line-height: 25pt;">&#160;</div> <div style="line-height: 25pt;">&#160;</div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;MS 明朝&quot;,&quot;serif&quot;;MS 明朝&quot;;">✵ ✵ ✵</span></div> <div style="line-height: 25pt;">&#160;</div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「灯里は、どんな花が好きなの?」</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 中学に入ってセーラー服姿が眩しく見える灯里に、柊はそう訊いたことがあった。</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「カラー」</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> そのとき灯里は、少しも迷わずにそう答えた。</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> カラー? </span></div> <div style="line-height: 25pt; text-indent: 11pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">小学生だった柊は、カラーがどんな花なのか知らなかった。</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 小学校の図書館で、柊は花図鑑のページを繰った。そして見つけたカラーの花は、どきどきするほど灯里のイメージそのままだった。</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 花というのはたくさんの花弁を持ち華やかで可愛らしいものという、これまで柊が抱いていた観念をカラーの花はあっさりと裏切った。</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> およそ花らしくない形ですらりと伸びた白い花弁は、心ない進入を拒絶するかのように凛と潔く、すくっと瑞々しい緑の茎もその意志の強さを支えているかのようだ。</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 花言葉は『純潔、乙女のしとやかさ、情熱(色つきのもの)』、それは灯里に合っているようでもありまったく違う感じもした。柊がカラーの花から受けた印象はむしろ『神秘、気品』で、それなら灯里にぴったりだと思った。</span></div> <div style="line-height: 25pt;">&#160;</div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「繭里は、たとえるならどんな花だろう?」</span></div> <div style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 好奇心からさらに花図鑑のページを繰った柊は、まさに繭里のイメージにぴったりの花を見つけた。</span></div> <div style="line-height: 25pt; text-indent: 11pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">それはポピーだった。こちらは丸みのあるやわらかな花弁を持つ、まさに花らしい花。赤や黄色、白、オレンジと色とりどりに咲き乱れる様子も、表情がくるくると変わる愛くるしい繭里を思わせる。</span></div> <div style="line-height: 25pt; text-indent: 11pt;"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">花言葉は『七色の恋、なぐさめ、忘却』。恋は繭里によく似合う、だけどなぐさめや忘却はむしろ女の子らしい繭里が与えられるもののような気がした。</span></div> <div style="line-height: 25pt; text-indent: 11pt;">&#160;</div> <div style="text-indent: 11pt;"><span style="line-height: 25pt; font-size: 11pt;">とにもかくにも見た目も性格も、持って生まれた宿命すらも異なるこの異母姉妹と、柊は多くの時間と思い出を共有しながら大きくなった。<br /><br /></span><span style="text-indent: 11pt; font-size: 15px; line-height: 33.33333206176758px;">&lt;<br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a> <br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a><br />
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第1章 最悪の再会〈ⅱ〉

「変わってない」  灯里と別れて帰る道すがら、柊はそう呟いた。    灯里、キミはちっとも変わっていないんだね。  キミがどんなに蓮っ葉に装ったって、悪女ぶってアバズレだなんて言ったって、本心じゃないことは僕には手に取るようにわかる。だってキミは伏せ眼がちで、長い睫毛が震えていたじゃないか。その眼の奥の色は不安げで、あんなにも悲しそうに揺らいでいたじゃないか。僕たちがどれだけ長い時間を、幼なじ... <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「変わってない」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 灯里と別れて帰る道すがら、柊はそう呟いた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 灯里、キミはちっとも変わっていないんだね。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> キミがどんなに蓮っ葉に装ったって、悪女ぶってアバズレだなんて言ったって、本心じゃないことは僕には手に取るようにわかる。だってキミは伏せ眼がちで、長い睫毛が震えていたじゃないか。その眼の奥の色は不安げで、あんなにも悲しそうに揺らいでいたじゃないか。僕たちがどれだけ長い時間を、幼なじみとして過ごしてきたと思ってるの?</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> まだ幼かったあの頃、2つ年上のキミは僕より背が高くて、すらりと手足が長く、駆けっこがとても速かった。いつだって風のように走り抜けていくキミは、誰にも捕まらなかったよね。灯里、気がつけば僕はキミの背中ばかり追いかけていた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 中学になって新体操部に入ったキミは、そのしなやかで繊細な演技で競技場の妖精と秘かに噂されていた。凛として可憐で触れることすら憚られる真っ白な存在に、「汚らわしい」想いを抱いてしまった自分を、あのとき僕は許せなかった。だからキミに少し距離を置いてしまったけれど、そんな僕にキミはそれでも戸惑いながら精一杯の笑顔を向けてくれた。灯里、それが僕にとってどれだけ救いだったか。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> そしてキミに大人が勝手に決めた許婚がいると知ってからも、僕は諦めることなんてできなくて。ずっとずっと心の中に秘め続けてきた大切な人、一番近くで見つめ続けてきた灯里。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> やがて東京の大学に合格して遠くに行ってしまったキミは、それきり故郷に帰ってくることはなくなって消息不明になってしまった。それは許婚だったはずの勝哉という板前が、キミの異母姉妹の繭里と結婚することになったことと何か関係があるの?あの許婚は周りが勝手に決めたのではなく、もしかしてキミは彼のことが本当に好きだったの?</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">&#160;わからない、わからないよ、灯里。何故なんだ。キミの消息は誰もわからないと繭里は言った。実際、キミの家族や友人や恩師や、誰に訊いても消息を知る人はいなかった。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">キミを追いかけるように、僕も東京の大学に無事進学することができて、僕はキミを探したんだよ。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">キミの大学に何度足を運んだことか、でも偶然に出会うことはできなくて。大学に幼なじみを探していると問合せたこともあったけれど、個人情報だからと教えてもらえなくて、代わりに僕の連絡先を伝えることはできると言われて、僕はずっと期待して待っていたんだ。でも、キミは連絡をくれなかったね。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">最後には、灯里はこの同じ東京の空の下にいる、そう思うことにした。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">だけど灯里、とうとう逢えたんだね。やっと、6年もかかって。僕はもう、キミを逃がしはしない。僕たちはまた、新しくはじまるんだ。そうだよね、灯里。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;MS 明朝&quot;,&quot;serif&quot;;MS 明朝&quot;">✵ ✵ ✵</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「変わってない」</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">柊と別れ、独りマンションの部屋へ入ると、灯里は呟いた。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">部屋には、まだ開けていない段ボールが何個か積まれていて、今週末で片づけきらないと灯里は思う。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">もう逢わないと、逢えないと思っていた幼なじみ。ただ、この同じ東京の空の下に柊ちゃんがいると思うだけでいいと思ってきたのに。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">でも偶然に偶然が重なって、柊ちゃんとまた同じ時間を過ごせるかもしれないと思ったとき、信じられないほどに胸が高鳴った。逢いたい、と心の底から思った。その再会のときが、こんなに早く来るなんて予想していなかったけれど。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">照れ屋で、無口で、県内トップの進学校に通うくらい秀才で、心がきれいでひたむきで、いつもあたしや繭里の願いを叶えようとしてくれた優しい柊ちゃん。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">お祖母様が地元の短大進学しか許さないと言って許婚を決めてしまってからも、諦めないで東京の大学に行くことだけを考えて頑張ってきた。いつかお祖母様があたしの気持ちをわかって、許してくれる日が来ることだけを願って。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> それは別の形で、悲しい形で叶ったけれど。そしてもう、あたしは昔のあたしじゃなくて、柊ちゃんにこの想いを告げることは生涯ないと思うけれど、それでも逢いたかった。ほんのひとときでいい、許される間だけでいい、もう一度、幼なじみに帰って柊ちゃんと話したかった、笑い合いたかった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="margin-right:-18.2pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;"> そしてその短くてもキラキラした思い出さえあれば、あたしはこれからも独りで生きていける。だから勇気を出して、柊ちゃんに逢うことに決めた。こんな穢(けが)れたあたしでも、幼なじみとしてなら傍にいていいよね?</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> ねぇ、柊ちゃん、あたしたちはこれからも逢う。今日はそのはじまりに過ぎないんだよ。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 春まだ浅い3月、幼なじみのふたりは同じ夜空を見上げていた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 柊は暗い夜道を、それでも一筋の希望を抱いて歩きながら。灯里は、引越したばかりの新しい部屋の窓辺で、不安と期待に震える躰を自身の両腕で抱きしめながら。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 星のない夜空に、細い月がそれでもくっきりと浮かんでいる。その冴え冴えとした月の満ち欠けを、これからどれだけ長い間、一緒に見ることができるのか。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 柊は永遠にと願い、灯里はその儚い時間を渇望しながらも恐れた。ふたりの運命の第2章は、まだはじまったばかりだった。<br /><br /></span></div><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a><br />
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第1章 最悪の再会〈ⅰ〉

「お疲れ、柊。ハンバーガーでも食ってく?」  ボクシングジムをともに出ながら、そう言って肩を叩いてきたのは同じ大学に通う谷川アレンだ。オーストラリア人の父親と日本人の母親を持つハーフ、バイリンガルで金髪、碧眼。188cmもある長身に外国人の血を引く骨格のしっかりした体型、181㎝あってもどちらかといえば細身な柊と並ぶと一周り大きく感じるほどだ。 「うん、今日はだいぶ遅くなったし、腹も減った」    ア... <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「お疲れ、柊。ハンバーガーでも食ってく?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> ボクシングジムをともに出ながら、そう言って肩を叩いてきたのは同じ大学に通う谷川アレンだ。オーストラリア人の父親と日本人の母親を持つハーフ、バイリンガルで金髪、碧眼。188cmもある長身に外国人の血を引く骨格のしっかりした体型、181㎝あってもどちらかといえば細身な柊と並ぶと一周り大きく感じるほどだ。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「うん、今日はだいぶ遅くなったし、腹も減った」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> アレンと連れ立って駅に続く道に出る。あたりはすっかり暗くなり、3月初めとはいえ今夜は少し肌寒い。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「近道していこうぜ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> アレンはそう言って、古い喫茶店や閉店後の本屋が並ぶ道から細い路地に入った。人通りが少なく、薄暗い街灯がぽつんと暗闇を照らす空き地の横を通ったとき、なにか言い合う男女の声が聞えてきた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「ん?なんだろ、痴話喧嘩?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「カップルの揉め事だろ、首突っ込むなよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 暗闇の先に2つの影がくっついたり離れたりしていて、どうやら男の方が抵抗する女の腕を掴み、強引に引っ張っているようだった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「大丈夫かな?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「痴漢には見えないし、知り合い同士みたいだから放っとけよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 立ち止まるアレンに、柊がそう忠告したときだった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 女の声が切羽詰ったように、大きくなった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「や、いい加減にしてっ。離して」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「いいじゃないか、灯里。俺の気持ち、わかってるだろ?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> その瞬間、柊の足がぴたりと止まった。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> あかり? …灯里?</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「?どうした、柊」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 怪訝そうにアレンが訊くのと、柊がそのふたりへと踵(きびす)を返すのがほぼ同時だった。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> すぐに追ってきたアレンの眼の前で、柊は男の腕を掴んで捩じ上げていた。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;">&#160;</div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「痛ってぇ。なんだよ、お前!」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> いきなり腕を捩じ上げられて、男が吠えた。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 柊はゆっくりと女の顔を確認すると、男の腕をあっさり離した。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「邪魔すんなよ」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> いきり立つ男に、アレンが言う。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「彼女、嫌がってるよ」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「うるせえ、関係ないだろっ」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 男が再び、女の腕を取ろうとした瞬間、柊が彼女を背にふたりの間に入った。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「てめ、やる気か?」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 柊がトレーニングウエアやグローブが入ったバッグを、静かに地面に置いた。そして腰を低くすると、両手を体の前に構えてスパークリングの体勢を取った。一瞬、男は呆然としたが、すぐに応戦の構えを取る。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「やめとけよ。こいつ、こう見えてもプロボクサーだから。しかも大人しそうに見えて、キレたらやばい危険なやつだ」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> アレンが面白そうに楽しんでいる口調で、そう嘘をついた。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 男が、まさか、という表情をした瞬間、柊の右手が前へ突き出された。そして、ピタ、と男の眼の前で止まった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「あと、3㎝だ」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">柊が低く、冷静な声で呟いた。それは激昂するより、遥かに有効に男を縮み上がらせた。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「わ、わかったよ」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 男が応戦の構えを解いて、狼狽えながら言う。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 柊は男を見据えたまま、後ろの女に訊く。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「この男は、キミのなに?」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「ストーカーよ」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> ひでぇな、と男が呻く。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「2度と彼女の前に現れないって誓え」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> そう言う柊に、舌打ちしながら男は言った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「女の前だからって、カッコつけやがって。だけどこの女は、お前らが助けたつもりのこの女は、アバズレだっ。男を手玉に取るビッチなんだよ」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 捨て台詞を吐いて走り去っていく男を、アレンは手を振って見送った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「キミを手玉に取ったアバズレさんは、確かに預かったよー。帰り、気をつけてー」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> さて、とアレンが後ろを振り向くと、残された彼女が呆然と柊を見つめていた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「柊ちゃん…」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「…灯里」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「えええぇ~、お前ら、知り合いだったの!?」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 幼い頃からずっと大切に想い続けてきた灯里との6年ぶりの再会、それは柊にとって最悪のものだった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="margin-left:22.5pt;text-indent:-22.5pt;line-height:<br />25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">*</span>&#160;<span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">* *</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 送らなくていいから、と言い張る灯里を半ば強引に送りながら、柊はアレンと別れて駅と反対方向へ歩いていた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> いったい、何から訊いたらいいのだろう?</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> どうして突然、姿を消したのか。キミの許婚だった勝哉と、なぜ異母姉妹の繭里が結婚することになったんだ。あれから6年間、一度も故郷に帰ってこなくなったのはそれが理由なのか?いままで、キミは何をしていたんだ。そしていま何故、アバズレなんて呼ばれることになってるんだ。あんなに清純で妖精のように美しいと噂されていたキミが。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">混乱する思考を整理できないほどに、灯里との再会は突然だった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> しかもこの駅に住んでいたのなら、よくいままで会わなかったものだと柊は思う。ボクシングジムがあるこの駅には、大学院生になるいままで4年間も通い続けていたというのに。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 訊きたいことを何一つ訊けないまま、10分ほどで灯里が住んでいるというマンションの前まで来てしまった。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 柊は周辺の環境をざっと観察する。駅からは商店街を通るが夜遅いと閉店したあとだし、周りは住宅街で人通りが多いとは言えない。隣にアパートらしきものが建設中で、灯里のマンションは入口がオートロックではなく管理人も常駐しておらず、セキュリティが甘い。エレベーターにも、外部からの進入が自由だ。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> エレベーターの前で、灯里は言った。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「送ってくれてありがとう」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「ちょっと、待って」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 柊はそう言うと、灯里が乗ったエレベーターの扉が閉まるのを止める。</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">「言うことは、それだけ?」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"> 灯里が、小首を傾げる。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「なに?あがってお茶でも飲んでく?って言うべきかしら。それとも、お礼にあたしと寝てく?とでも」</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 柊は絶句した。そんな柊に灯里はさらに、ひどい言葉を投げつけた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;">「そんな驚いた顔しなくても。あの男が言ったでしょ?あたしはア・バ・ズ・レだって、男を平気で手玉に取るビッチだって」</span></div> <div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;">唖然とする柊の眼の前で、エレベーターが閉まった。</span></div><div align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;"><br /></span></div><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><br /><a 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激しく抱いて傷つけて〈プロローグ〉

 野々村柊(ののむらしゅう)の腕をするりと抜けた北川灯里(きたがわあかり)は、ベッドサイドに脱ぎ捨ててあった彼の白いシャツを無造作に素肌に纏(まと)った。  プラチナ色のやわらかな朝の光線が、窓辺に佇む灯里のほっそりとしたシルエットをシャツ越しに美しく浮かび上がらせている。  華奢な肩から滑らかな背中へと流れる栗色の髪は緩くウェーブがかかったセミロングで、細くくびれたウエストから小振りだけれど官能... <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 野々村柊(ののむらしゅう)の腕をするりと抜けた北川灯里(きたがわあかり)は、ベッドサイドに脱ぎ捨ててあった彼の白いシャツを無造作に素肌に纏(まと)った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> プラチナ色のやわらかな朝の光線が、窓辺に佇む灯里のほっそりとしたシルエットをシャツ越しに美しく浮かび上がらせている。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 華奢な肩から滑らかな背中へと流れる栗色の髪は緩くウェーブがかかったセミロングで、細くくびれたウエストから小振りだけれど官能的な丸みを帯びたヒップまでのラインは滑らかな陶器の人形を思わせる。シャツから伸びた足はまっすぐで、昔から灯里は手足が長く駆けっこ速かったことを柊は思い出した。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> きれいだ、と柊は思った。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> そして昨晩からこの手で、自らの肌で、全身で感じた灯里の素晴らしい素肌をあらめて思い出した。真珠色に輝く灯里の裸体はしっとりと吸いつくようで、抱きしめると細いのに魅力的な弾力を持っていた。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 何度でも、何度でも、僕はキミを抱く。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> キミがそれを望むなら。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> たとえキミの心がこの腕からすり抜けても、</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> その躰はこの刹那、僕だけのものだから。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 誰を想ってキミは泣くの?</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 僕に抱かれるたび、キミの心が傷つくなら</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 僕はともに血の涙を流そう。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> だってそれが僕にできる唯一のことだから。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> いっそ心に蓋をしてしまおう。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">自分の想いが溢れ出ないように、</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> キミが僕の本心を決して覗けないように。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> だから安心して、</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 好きでもない男に抱かれるマリオネットになっていて。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> そして人形のキミを抱く</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 可哀想な男を嘲笑うといい。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> いや、心の底から憎んでくれ。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> できることなら、一生忘れられないくらい激しく。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> せめてキミの記憶の中だけにでも、僕を生き続けさせてくれ。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 何度でも、何度でも、僕はキミを抱く。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> キミが望むように、それ以上に。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:11.0pt;Times New Roman&quot;;"> 決して止めない、止めることなどできないんだ。</span></div> <div style="line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">僕は忘れないよ、灯里。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">あの日キミは泣きながら、僕の魂を鷲掴みにしたんだ。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;Times New Roman&quot;">そのひと言で。</span></div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none">&#160;</div> <div style="text-indent:11.0pt;line-height:25.0pt;text-autospace:none"><span style="font-size:<br />11.0pt;Times New Roman&quot;;">「激しく抱いて傷つけて」</span></div><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a><br /><br /><a href="http://novel.blogmura.com/"><img src="http://novel.blogmura.com/img/originalimg/0000040770.jpg" width="142" height="47" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログへ" /></a><br /><a href="http://novel.blogmura.com/">にほんブログ村</a><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />
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激しく抱いて傷つけて

  あらすじ老舗料亭の娘・灯里(あかり)に幼い頃から恋心を抱く柊(しゅう)。しかし灯里には、勝哉という祖母が決めた許嫁の板前がいた。その灯里が高校卒業を機に、突然消える。そして勝哉と結婚して料亭を継いだのは、異母姉妹の繭里(まゆり)だった。それから6年の歳月を経て偶然再会した灯里は、かつての純粋で無垢な美少女ではなくなっていた。灯里を抱くたびに傷つく柊、柊に抱かれるたびに壊れていく灯里。そんなふ... <div style="text-align: center"><a target="_blank" href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/img/20140412063145bbf.jpg/"><br /><br /><br /><img border="0" alt="激しく" style="height: 294px; width: 253px" src="http://blog-imgs-67.fc2.com/o/t/o/otonaasabi/20140412063145bbf.jpg" /></a>&#160; </div><div style="text-align: left"><span style="font-size: small"><span style="font-family: ヒラギノ角ゴ Pro W3"><br />あらすじ<br /><br /></span></span><span style="font-family: AR丸ゴシック体M; font-size: 11pt; line-height: 25pt;">老舗料亭の娘・灯里(あかり)に幼い頃から恋心を抱く柊(しゅう)。しかし灯里には、勝哉という祖母が決めた許嫁の板前がいた。その灯里が高校卒業を機に、突然消える。そして勝哉と結婚して料亭を継いだのは、異母姉妹の繭里(まゆり)だった。それから</span><span lang="EN-US" style="font-family: AR丸ゴシック体M; font-size: 11pt; line-height: 25pt;">6</span><span style="font-family: AR丸ゴシック体M; font-size: 11pt; line-height: 25pt;">年の歳月を経て偶然再会した灯里は、かつての純粋で無垢な美少女ではなくなっていた。灯里を抱くたびに傷つく柊、柊に抱かれるたびに壊れていく灯里。そんなふたりに、幸せな未来は?</span></div><p class="MsoNormal" align="left" style="line-height: 25pt;"><span style="font-size:11.0pt;font-family:AR丸ゴシック体M"><span lang="EN-US"><o:p></o:p></span></span></p><div style="text-align: left"><span style="font-size: small"><span style="font-family: ヒラギノ角ゴ Pro W3"><a id="fck_paste_padding"><br /></a><br /> <br /><br />[登場人物] <br />☆<a href="&lt;a href=&quot;http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-308.html&quot; target=&quot;_blank&quot; title=&quot;①&quot;&gt;①&lt;/a&gt;" target="_blank" title="登場人物紹介①">登場人物紹介①</a> ☆<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-309.html" target="_blank" title="②">②</a> ☆<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-310.html" target="_blank" title="③">③</a> ☆<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-311.html" target="_blank" title="④">④</a> ☆<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-312.html" target="_blank" title="趣向を変えて…">趣向を変えて…</a> ☆<br /><br />[コンテンツ]<br />★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-314.html" target="_blank" title="プロローグ">プロローグ</a> <br />★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-315.html" target="_blank" title="第1章 最悪の再会〈ⅰ〉">第1章 最悪の再会〈ⅰ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-316.html" target="_blank" title="第1章 最悪の再会〈ⅱ〉">〈ⅱ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-318.html" target="_blank" title="最悪の再会〈ⅲ〉">〈ⅲ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-319.html" target="_blank" title="〈ⅳ〉">〈ⅳ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-320.html" target="_blank" title="〈ⅴ〉">〈ⅴ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-321.html" target="_blank" title="〈ⅵ〉">〈ⅵ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-322.html" target="_blank" title="〈ⅶ〉">〈ⅶ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-323.html" target="_blank" title="〈ⅷ〉">〈ⅷ〉</a><br /></span></span></div>★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-324.html" target="_blank" title="第2章 彷徨う魂たち〈ⅰ〉">第2章 彷徨う魂たち〈ⅰ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-325.html" target="_blank" title="〈ⅱ〉">〈ⅱ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-326.html" target="_blank" title="〈ⅲ〉">〈ⅲ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-327.html" target="_blank" title="〈ⅳ〉">〈ⅳ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-328.html" target="_blank" title="〈ⅴ〉">〈ⅴ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-329.html" target="_blank" title="〈ⅵ〉">〈ⅵ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-330.html" target="_blank" title="〈ⅶ〉">〈ⅶ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-331.html" target="_blank" title="〈ⅷ〉">〈ⅷ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-332.html" target="_blank" title="〈ⅸ〉">〈ⅸ〉</a><br />★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-333.html" target="_blank" title="第3章 キミが居た場所〈ⅰ〉">第3章 キミが居た場所〈ⅰ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-334.html" target="_blank" title="〈ⅱ〉">〈ⅱ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-335.html" target="_blank" title="〈ⅲ〉">〈ⅲ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-336.html" target="_blank" title="〈ⅳ〉">〈ⅳ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-337.html" target="_blank" title="〈ⅴ〉">〈ⅴ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-338.html" target="_blank" title="〈ⅵ〉">〈ⅵ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-339.html" target="_blank" title="〈ⅶ〉">〈ⅶ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-340.html" target="_blank" title="〈ⅷ〉">〈ⅷ〉</a><br />★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-341.html" target="_blank" title="第4章 秘 密〈ⅰ〉">第4章 秘 密〈ⅰ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-342.html" target="_blank" title="〈ⅱ〉">〈ⅱ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-343.html" target="_blank" title="〈ⅲ〉">〈ⅲ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-344.html" target="_blank" title="〈ⅳ〉">〈ⅳ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-345.html" target="_blank" title="〈ⅴ〉">〈ⅴ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-346.html" target="_blank" title="〈ⅵ〉">〈ⅵ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-347.html" target="_blank" title="〈ⅶ〉">〈ⅶ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-348.html" target="_blank" title="〈ⅷ〉">〈ⅷ〉</a><br />★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-349.html" target="_blank" title="第5章 浅き夢〈ⅰ〉">第5章 浅き夢〈ⅰ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-350.html" target="_blank" title="〈ⅱ〉">〈ⅱ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-351.html" target="_blank" title="〈ⅲ〉">〈ⅲ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-352.html" target="_blank" title="〈ⅳ〉">〈ⅳ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-353.html" target="_blank" title="〈ⅴ〉">〈ⅴ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-354.html" target="_blank" title="〈ⅵ〉">〈ⅵ〉</a> <br />★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-355.html" target="_blank" title="第6章 遠 雷〈ⅰ〉">第6章 遠 雷〈ⅰ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-356.html" target="_blank" title="〈ⅱ〉">〈ⅱ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-357.html" target="_blank" title="〈ⅲ〉">〈ⅲ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-358.html" target="_blank" title="〈ⅳ〉">〈ⅳ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-359.html" target="_blank" title="〈ⅴ〉">〈ⅴ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-360.html" target="_blank" title="〈ⅵ〉">〈ⅵ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-361.html" target="_blank" title="〈ⅶ〉">〈ⅶ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-362.html" target="_blank" title="〈ⅷ〉">〈ⅷ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-363.html" target="_blank" title="〈ⅸ〉">〈ⅸ〉</a><br />★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-364.html" target="_blank" title="第7章 かけ違えるボタン〈ⅰ〉">第7章 かけ違えるボタン〈ⅰ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-365.html" target="_blank" title="〈ⅱ〉">〈ⅱ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-366.html" target="_blank" title="〈ⅲ〉">〈ⅲ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-367.html" target="_blank" title="〈ⅳ〉">〈ⅳ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-368.html" target="_blank" title="〈ⅴ〉">〈ⅴ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-369.html" target="_blank" title="〈ⅵ〉">〈ⅵ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-370.html" target="_blank" title="〈ⅶ〉">〈ⅶ〉</a> <br />                    ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-371.html" target="_blank" title="〈ⅷ〉">〈ⅷ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-372.html" target="_blank" title="〈ⅸ〉">〈ⅸ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-373.html" target="_blank" title="〈ⅹ〉">〈ⅹ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-374.html" target="_blank" title="〈ⅺ〉">〈ⅺ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-375.html" target="_blank" title="〈ⅻ〉">〈ⅻ〉</a><br />★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-378.html" target="_blank" title="第8章 秋色吐息〈ⅰ〉">第8章 秋色吐息〈ⅰ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-379.html" target="_blank" title="〈ⅱ〉">〈ⅱ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-380.html" target="_blank" title="〈ⅲ〉">〈ⅲ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-381.html" target="_blank" title="〈ⅳ〉">〈ⅳ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-382.html" target="_blank" title="〈ⅴ〉">〈ⅴ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-383.html" target="_blank" title="〈ⅵ〉">〈ⅵ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-384.html" target="_blank" title="〈ⅶ〉">〈ⅶ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-385.html" target="_blank" title="〈ⅷ〉">〈ⅷ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-386.html" target="_blank" title="〈ⅸ〉">〈ⅸ〉</a><br />★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-387.html" target="_blank" title="第9章 逆 流">第9章 逆 流〈ⅰ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-388.html" target="_blank" title="〈ⅱ〉">〈ⅱ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-389.html" target="_blank" title="〈ⅲ〉">〈ⅲ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-390.html" target="_blank" title="〈ⅳ〉">〈ⅳ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-391.html" target="_blank" title="〈ⅴ〉">〈ⅴ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-392.html" target="_blank" title="〈ⅵ〉">〈ⅵ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-393.html" target="_blank" title="〈ⅶ〉">〈ⅶ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-394.html" target="_blank" title="〈ⅸ〉">〈ⅷ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-395.html" target="_blank" title="〈ⅸ〉">〈ⅸ〉</a><br />★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-396.html" target="_blank" title="第10章 別離〈ⅰ〉">第10章 別離〈ⅰ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-397.html" target="_blank" title="〈ⅱ〉">〈ⅱ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-398.html" target="_blank" title="〈ⅲ〉">〈ⅲ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-399.html" target="_blank" title="〈ⅳ〉">〈ⅳ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-400.html" target="_blank" title="〈ⅴ〉">〈ⅴ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-401.html" target="_blank" title="〈ⅵ〉">〈ⅵ〉</a><br />★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-402.html" target="_blank" title="第11章 手 紙〈ⅰ〉">第11章 手 紙〈ⅰ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-403.html" target="_blank" title="〈ⅱ〉">〈ⅱ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-405.html" target="_blank" title="〈ⅲ〉">〈ⅲ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-406.html" target="_blank" title="〈ⅳ〉">〈ⅳ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-407.html" target="_blank" title="〈ⅴ〉">〈ⅴ〉</a><br />★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-408.html" target="_blank" title="第12章 永遠の追いかけっこ〈ⅰ〉">第12章 永遠の追いかけっこ〈ⅰ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-409.html" target="_blank" title="〈ⅱ〉">〈ⅱ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-410.html" target="_blank" title="〈ⅲ〉">〈ⅲ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-411.html" target="_blank" title="〈ⅳ〉">〈ⅳ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-412.html" target="_blank" title="〈ⅴ〉">〈ⅴ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-413.html" target="_blank" title="〈ⅵ〉">〈ⅵ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-414.html" target="_blank" title="〈ⅶ〉">〈ⅶ〉</a><br />★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-415.html" target="_blank" title="番外編 〈週末デート〉">番外編 〈週末デート〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-416.html" target="_blank" title="〈お祖父様のビョーキ〉">〈お祖父様のビョーキ〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-421.html" target="_blank" title="〈由紀子様の憂鬱〉">〈由紀子様の憂鬱〉</a> ★<a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-423.html" target="_blank" title="〈小さな命〉">〈小さな命〉</a><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=315029478" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=315029478&size=88" width="88" height="31" border="0"></a>
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