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3/22日(水) 「アイス」第5章 ⑮あなたが教えてくれたこと アップん(*´ω`*) 2月28日(火) にゃんこ日和 まちがった使い方を続ける猫 アップん♪  Twitter的なもの 6月13日(月)5月22日(日)「のケモノ、」 第2章 〈5〉 算術と反省 up~♪新ファンタジー 『のケモノ、』 9月6日スタート!第1章 〈ふたりぼっち〉 終了第2章 〈1番目の街-ダヤンダ〉新作長編 『アイス』  第1章〈ロックオン〉 終了 第2章... 3/22日(水) 「アイス」第5章 <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-625.html" target="_blank" title="⑮あなたが教えてくれたこと">⑮あなたが教えてくれたこと</a> アップん(*´ω`*)<br /><br /><br /><img src="http://blog-imgs-1.fc2.com/emoji/2009-08-16/424795.gif" alt="" border="0" style="border:0;" class="emoji"> 2月28日(火) にゃんこ日和 <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-616.html" target="_blank" title="まちがった使い方を続ける猫">まちがった使い方を続ける猫</a> アップん♪<br /><br /> <br /><img src="http://blog-imgs-1.fc2.com/emoji/2010-04-13/511781.gif" alt="" border="0" style="border:0;" class="emoji"> Twitter的なもの <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-603.html" target="_blank" title="6月13日(月)">6月13日(月)</a><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />5月22日(日)<br />「のケモノ、」 第2章 〈5〉 算術と反省 up~♪<br /><br /><br /><br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/img/201509061546520ea.jpg/" target="_blank"><img src="http://blog-imgs-82.fc2.com/o/t/o/otonaasabi/201509061546520eas.jpg" alt="のケモノ、" border="0" width="216" height="240" /></a><br /><br /><span style="color:#009933">新ファンタジー <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-530.html" target="_blank" title="『のケモノ』">『のケモノ、』</a> 9月6日スタート!<br /><br />第1章 〈ふたりぼっち〉 終了<br />第2章 〈1番目の街-ダヤンダ〉<br /><br /><br /></span><br /><br /><br /><br /><br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/img/20150222140849474.jpg/" target="_blank"><img src="http://blog-imgs-75.fc2.com/o/t/o/otonaasabi/20150222140849474.jpg" alt="アイス" border="0" width="100" height="150" /></a><br /><br />新作長編 <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-434.html" target="_blank" title="『アイス』">『アイス』</a> <br /><br /><span style="color:#FF33FF"> 第1章〈ロックオン〉 終了<br /> 第2章〈捕 獲〉   終了<br /> 第3章〈翻 弄〉   終了<br /> 第4章〈氷 点〉   終了 <br /> 第5章〈Second Love〉 不定期になります。ゴメンナサイm(__)m<br /><br /><br /><br /></span><br /><span style="color:#FF0066">★アダルトblogにしたくないので、R18は限定記事にすることお許しください。<br />でも人間を描く小説には、性は不可欠だと思ってマス(●´ω`●)<br />女の子だってえっちで、ロマンティックに気持ちよくなりたいんデス。<br /><br />☆〈R18限定記事〉をお読みいただくには、<br />パスワード(メールフォームからお問合せください)を入力いただくか、<br />別サイト「ムーンライトノベルズ」(入口はこのblog左側)からどうぞ。</span>
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contents

長編     『のケモノ、』 『アイス』 『激しく抱いて傷つけて』 『ピース』 『-KANNO-感脳』 『鍵と雨』短編  『いつか王路さまが』『姫ゴト[北欧の夜は長いから]』 『25時のすうぷ』 『湖曳の月』 『白夜』 『17歳』 モノローグ  ポエム的な?たわごと?  にゃんこ日和   ドSなにゃんこmaoちゃんとの日常   診断メーカーとか 徒然にアップしてる【診断メーカー】【恋愛心理テスト】などの結果コト... <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/img/20140514161818a70.jpg/" target="_blank"><img src="http://blog-imgs-67.fc2.com/o/t/o/otonaasabi/20140514161818a70.jpg" alt="bear05m (300x225)" border="0" width="300" height="225" /></a><br /><br /><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);">長編 <br />    <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-530.html" target="_blank" title="『のケモノ、』">『のケモノ、』</a> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-434.html" target="_blank" title="『アイス』">『アイス』</a> </span><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-307.html" target="_blank" title="『激しく抱いて傷つけて』"><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);">『激しく抱いて傷つけて』</span></a><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);"> </span><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-250.html" target="_blank" title="『ピース』"><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);">『ピース』</span></a><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);"> </span><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-158.html" target="_blank" title="『-KANNO-感脳』"><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);">『-KANNO-感脳』</span></a><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);"> </span><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-43.html" target="_blank" title="『鍵と雨』"><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);">『鍵と雨』</span></a><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);"><br /><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><span style="font-size: medium;"><span style="font-family: 'ヒラギノ角ゴ Pro W3';"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><br /><span style="color: rgb(51, 51, 51);"><span style="font-size: small;">短編 <br /> <a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-486.html" target="_blank" title="『いつか王路さまが』">『いつか王路さまが』</a><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-245.html" target="_blank" title="『姫ゴト[北欧の夜は長いから]"><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);">『姫ゴト[北欧の夜は長いから]』</span></a><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);"> </span><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-234.html" target="_blank" title="『25時のすうぷ』"><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);">『25時のすうぷ』</span></a><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);"> </span><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-27.html" target="_blank" title="『湖曳の月』"><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);">『湖曳の月』</span></a><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);"> </span><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-13.html" target="_blank" title="『白夜』"><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);">『白夜』</span></a><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);"> </span><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-1.html" target="_blank" title="『17歳』"><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);">『17歳』</span></a><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);"><br /> <br /></span><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-82.html" target="_blank" title="モノローグ "><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);">モノローグ </span></a></span><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);"><span style="font-size: small;"><br /></span> ポエム的な?たわごと?  <br /><br /></span><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-83.html" target="_blank" title="にゃんこ日和"><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);">にゃんこ日和</span></a></span></span><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);"><span style="font-size: small;">  <br /> ドSなにゃんこmaoちゃんとの日常  <br /> </span><br /><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-561.html" target="_blank" title="診断メーカーとか">診断メーカーとか</a><br /> 徒然にアップしてる【診断メーカー】【恋愛心理テスト】などの結果<br /><br /></span><a href="http://otonaasabi.blog.fc2.com/blog-entry-224.html" target="_blank" title="コトノハ"><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);">コトノハ</span></a></span><span style="background-color: rgb(255, 255, 255);"><span style="font-size: small;"> <br /> お知らせ、雑記など<br /></span></span></span></span></span></span>
  • Date : 2017-12-30 (Sat)
  • Category : index
625

⑮あなたが教えてくれたこと

「で、今度はこの7パターンをアンケートに協力してくれた人たちと、インスタグラムにあげて不特定多数の人達の、感触を探ろうと思うんです」 企画開発事業部では、いま会議が行われている。 目の前には、並木さんがスタイリストの経験を活かして借り集めてきた洋服が、小物までコーディネートされて並んでいる。「やっぱり、実際に眼にしてみないとファッションて、イメージが伝わりにくいと思うんです」 アンケートの集計結果... <span style="font-size:large;">「で、今度はこの7パターンをアンケートに協力してくれた人たちと、インスタグラムにあげて不特定多数の人達の、感触を探ろうと思うんです」<br /> 企画開発事業部では、いま会議が行われている。<br /> 目の前には、並木さんがスタイリストの経験を活かして借り集めてきた洋服が、小物までコーディネートされて並んでいる。<br />「やっぱり、実際に眼にしてみないとファッションて、イメージが伝わりにくいと思うんです」<br /> アンケートの集計結果にイマイチ曖昧なものを感じたあたしたちは、実際のファッションコーディネートで、今度はアンケートを取ろうとしていた。<br /> 並木さんが創ったコーディテート・パターンは、『オフィス・クール』『オフィス・エレガント』『休日カジュアル』『休日スウィート』『ボーイッシュ』『シンプル』『ロマンティック』の7つだ。<br />「ちなみに『オフィス・クール』と『シンプル』で使っているTブラウスは同じものです。あと『オフィス・エレガント』と『ボーイッシュ』で使っているジャケットも同じもので色違いです」<br /> 並木さんが具体的に見せたいのは、コーディネート次第で着こなしのイメージが変わるということだ。<br />「つまり?」<br /> 浅野さんが、わざと意地悪な表情で確認する。<br />「企画開発事業部の新ブランドが主流として打ち出すのは、着こなしの核となる定番アイテム、それをコーディネートと合わせて提案します」<br />「定番アイテムと言うのは、どこのブランドでも扱っていませんか?どう差別化しますか?」<br /> 専務が、当然と言えば当然の質問をしてきた。<br />「ファスト・ファッションのように廉価な素材や縫製ではなく、かと言って高級ブランドのように高品質の素材でも有名デザイナーのデザインでもない。価格設定的にも、ファスト・ファッションよりワンランク上を狙います」<br /> そう答えた並木さんに、今度は遠慮のない浅野さんがズバリと言う。<br />「それこそ、巷(ちまた)にごまんと溢れてねぇか?」<br />「それは…そうなんですけど。でも、ちょっと違うと言うか…」<br /> 並木さんが言葉を選びながら、一生懸命、説明しようとしている。<br />「上手く説明できないんですけど、流行に流されない流行服というのを狙いたいんです」<br /> 三代目と浅野さんが首を傾げている。上手く伝わらなかったようだ。<br />「つまり、人それぞれ好みはあっても、つい毎日のように手に取ってしまうお気に入りの一枚ってあると思うんです。そんなお気に入りだったり安心できるアイテムを毎年、少しずつ買い足してクローゼットを満たしていけるブランド…みたいな感じなんです」<br /> あたしもあたしなりに一生懸命、並木さんをサポートしようとする。並木さんとあたしの中では、共通認識ができていることなのだけれど、それをうまく説明できない。<br />「う~ん、もっとわかりやすいキーワードとか、キャッチフレーズにしないと、消費者には伝わりにくいですね。またその前にコンペに参加してくれるデザイナーに、ブランド・コンセプトが伝わりにくい」<br /> 三代目のもっともな指摘に、並木さんとあたしは思わず顔を見合わせる。<br /> そうなのだ、ふたりで何度も話し合いを重ねていて、どうしても言葉で表現できなかったのだ。一番痛い、そして不可欠なポイントを三代目に突かれた感じだ。<br />「すみません。あたしたちの思いを表現できる『その一言』が、なかなか思い浮かばなくて」<br />「ふ~ん。じゃあ、リオンと菜乃介の間では、わかっているってことか」<br /> そう言う浅野さんに、並木さんとあたしはこくこく何度も頷く。<br />「ところで、このコーディネートで何をリサーチしたいんです?」<br />「まず最初に同じ服を使っても『エレガント』や『ボーイッシュ』など全く違ったイメージにコーディネートできたり、ONとOFFの両方に活用できるアイテムへの評価を知りたいです。それともう一つは、好きなイメージの統計を取りたいです。それによって狙ったターゲットへ向けた、定番アイテムが見えてくるような気がするんです」<br /> 並木さんが冷房の効いた部屋にもかかわらず、額の汗をハンカチで拭った。それだけ、彼女は真剣だということだ。あたしもぎゅうと握り締めた両掌に、汗を感じている。<br />「なるほど。でもそれだったら、この各イメージのコーディネートは1パターンでは足りないですよね?」<br /> 三代目の表情と顔が、いつもよりビジネスライクになる。<br /> その言葉は、並木さんもあたしも予測していたことだ。<br />「はい。おっしゃる通りです。この方向性で間違いがないなら、各イメージにもう何パターンかコーディネートを加えて、リサーチしたいと思っています」<br /> 三代目が顎に手を当てたまま、並木さんの用意したコーディネートをもう一度じっくり見ている。<br />「それは構いませんが…。何度も言うように、ブランド・コンセプトを明確な言葉で伝えた方がアンケートに協力してくれる方々にもわかりやすいんですけどねぇ」<br /> やはり、そこか。<br />「あ、あの…。な、7年後も好きな服…とか、どうでしょう?」<br /> 今日の会議のために、さんざん悩んでいたフレーズを、あたしは思い切って言ってみた。<br />「7年後ですか…」<br /> ちょっと考えるように言った三代目。<br /> さすがに、7年は長いかな。でもそれくらい愛着を持てる服ってイメージを、伝えたいんだけどな…。<br /> う~んと考え込んだ三代目と、顔を赤くしてもじもじしはじめたあたしを横目で見ながら、浅野さんが訊く。<br />「リオン。女ってさ、買った服、何年ぐらい着るもんなの?」<br />「それは…人によって違うって言うか。ファスト・ファッションは安い分、毎年買ってほしいわけだから、何年も着られたら売上的に困るでしょうし」<br />「だから布地も縫製も質にこだわらず、安価に仕上げていますからね」<br /> 並木さんと三代目の言葉に、ふ~ん、と考え込んだ浅野さんが今度はあたしに訊く。<br />「菜乃介、お前は?一枚の服、どのくらい着てるの?」<br />「う~ん。高かったのに1年でなんとなく着なくなってしまう服もあれば、気がつくと5年も愛用してるシャツもあるんですよねぇ」<br /> その言葉に、並木さんの顔がぱっと輝く。<br />「そう、それだよ。せっかく高い服買っても着なくなるのって、それってなんか自分テイストじゃないってことじゃない?逆に何年も着ているのは、流行が変わっても対応しやすくて、自分らしいコーディネートができる服だったりしない?」<br />「あ、そう言えば、そうかも。今年も新しいシャツを買ったけど、やっぱり自分テイストって言えなくもない。今年流行りのボトムにも、バッチリ合わせやすかったよ」<br /> 並木さんとあたしのやり取りを訊いていた三代目が、うん、と一つ頷いた。<br />「少し、見えてきたようですね、方向性が」<br />「で、何年だよ」<br /> 浅野さんが言う。<br />「だからっ、それは人によっても、洋服によっても違うから。数字には表しにくいんですよ!」<br /> 並木さんが、ぷぅ、とふくれる。<br />「しかし、具体的に表した方が、説得力はありますね」<br /> と三代目。<br />「う~ん、3年?5年?…違うなぁ。あたし、このシャツは3年目だけど、7年も着てる服ってあったかなぁ?あ、あったわ。黒の何でもない形のパンツ」<br />「あとさ、女は体形とか、どのくらいで変わんの?太って着れなくなくなった服だって、あんだろ?」<br /> 浅野さんがあっけらかんと訊くが、こういう会議の場合、タテマエ抜きで本音を話す方が話しが早い。<br />「20代、30代のターゲット年代はダイエットに関心も高いし、体形キープには気を遣っていると思うんですよ。でも子供を産んだり、40代になると体形が変わるって訊きくよね?」<br /> 並木さんが、そう訊いてくる。<br />「うん、でもいまは40代でも年齢を感じさせない綺麗な人が多いし、サブ・ターゲットに充分になる年代だと思うし。やっぱり具体的に数字を出すと、それぞれの年代で違和感があるかも…」<br /> う~ん、とそこで会議は煮詰まってしまった。<br /> なにか、いいところまで行きかけているのに、あとちょっとでシッポが掴めそうなのにつかめない感じが悔しい。<br /><br /> 有さんなら、こんなときどんなアイデアを出すんだろうなぁ。<br /> 有さんに説明するつもりで、あたしは自分なりのイメージを頭の中に思い浮かべた。<br /> いつだってクローゼットの中にあると安心な服ってあるでしょ?<br /> 気がつくと、なんでだか出番が多い服。<br /> 女の子だから、今年流行のデザインや色のファッションは、そりゃあ欲しいよ。<br /> でもね、流行の服に着られるんじゃなくて、自分らしく着こなすために、必要な頼れる服。<br /> そんな服は、女の子にとって、どんな存在なんだろう。<br /> 「菜乃果…」有さんが笑いながら、そう呼んだ気がした。<br /><br />「あ」<br />「どうしました、沢口さん?」<br /> 続いていた沈黙を破ったあたしの間抜けな小声を、三代目が拾ってくれた。<br /> 並木さんと浅野さんの注目も集まって、ちょっと緊張する。<br />「あの、あのですね。来年も好きな服、ってどうでしょう?」<br />「来年も、好きな、服…」<br /> 噛みしめるように、並木さんが繰り返す。<br />「はっきりと年数を言っているわけではないけれど、具体的ではありますね」<br /> 三代目がそう言って、考え込む表情になった。<br />「来年も好きな服かぁ。その次の年も、またその次の年もそう思えたら、続いていくわけだ」<br /> そう言った浅野さんに、並木さんも言う。<br />「なんか、ちゃんと選んだ一着を、ちゃんと愛して着てる感じがする」<br />「そうですね。そう言う考えやライフ・スタイルを持った人に、受け入れられるブランド…。うん、いいじゃないですか」<br /> めずらしく、三代目の声が最後は弾んで聞えたのは気のせいだろうか。<br />「菜乃果、Good job!」<br /> 並木さんが嬉しそうな顔で、右手の親指を立てた。<br /><br /> 有さん、ありがと。<br /> 有さんのこと思い浮かべてたら、そんなフレーズが降りて来たよ。<br /> 来年も、再来年も、その次の年もずっとずっと好きでいること。それは、とても素敵なことだよね。<br /> 洋服でもインテリアでも、きっと出逢いなんだよ。コレだって思える、モノ?<br /> ましてや、それが‘ひと’だったら。<br /> そんな‘ひと’と出逢ってしまったら、もう、どうすることもできないんだ。<br /> そうでしょ? ねぇ、有さん…。<br /></span><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" /></a><br /><br />
  • Date : 2017-03-22 (Wed)
  • Category : アイス
624

⑭浅野兄弟

 例の飲み会以来、浅野さんとあたしたちの間には仲間意識とか信頼感とかが一層強くなり、何でも話せるいい関係性が生まれた。たまぁ~に、お互い遠慮がなさ過ぎることがあるけど、それはまぁご愛嬌と言うことで。 ということで、今日も浅野さんは企画開発事業部の一角で文字通りお茶を濁しているわけだが。並木さんは訳あって、昔取った杵柄というか、スタイリスト時代のスキルを活かしてショップ巡り中だ。「なぁ、菜乃介」「な...  例の飲み会以来、浅野さんとあたしたちの間には仲間意識とか信頼感とかが一層強くなり、何でも話せるいい関係性が生まれた。たまぁ~に、お互い遠慮がなさ過ぎることがあるけど、それはまぁご愛嬌と言うことで。<br /> ということで、今日も浅野さんは企画開発事業部の一角で文字通りお茶を濁しているわけだが。<br />並木さんは訳あって、昔取った杵柄というか、スタイリスト時代のスキルを活かしてショップ巡り中だ。<br />「なぁ、菜乃介」<br />「なんですか、邪魔しないでください」<br /> あたしは、ネットや知り合い関係に取ったアンケートの集計中。<br />「やっぱ、女ってのは影のある男に惹かれる訳?」<br /> 邪魔しないでと言ったあたしの言葉をまるっと無視して、浅野さんが似合わないことを言った。<br />「は?どうしたんですか、いい年して恋煩いですか?」<br />「お前ねぇ、最近リオンに似てきたぞ。前はもう少し、俺に対して優しかったぞ」<br /> あは、それはスミマセンでした。<br /> あたしは心の中で謝って、ぺろ、と舌を出す。<br />「だって。似合わないこと訊くから」<br />「似合わないかなぁ。まぁ、そうだな」<br /> 浅野さんも、へら、と笑って認める。<br />「似合わないのは認めるけど、で、どうなんだよ?」<br />「影のある男、ですか?どうかな、人によるんじゃないですか?」<br />「お前は、どうなんだよ?菜乃介」<br /> え?あたし?あたしは…<br />「う~ん、影があるからって、そこだけに惹かれるとかはないかな」<br /> 正直に答えたその言葉に、浅野さんが驚く。え、なんで?<br />「ホントか!? お前は、影のあるタイプが好きそうだと思ったんだけどなぁ。じゃあ、じゃあさ、直樹の秘密を訊いても、クラ…とかこない?」<br /> はぁ、何言ってるんですか?浅野さん、単細胞ですか?<br /> 失礼な発言は心の中だけにとどめて、あたしは言った。<br />「別に…。そうか、専務もいろいろあったんだな、とは思いますけど。そもそも人って、誰でもいろいろ抱えてるものじゃないですか。ことさら他人に言わないだけで」<br /> まだびっくりしている浅野さんに、こっちの方がびっくりだ。<br />「あの…、女子はそんな単純じゃありませんよ?」<br />「そうなのか!?」<br /> うわぁ~、浅野さん。もしかして、恋愛スキル低すぎ? 人のことは言えないけど。<br /><br />「そうか、くそ、わかってたんだな、あの人。くっ、負けた、賭けに負けた…ぶつぶつ」<br /> 今度は訳のわからないことを言いはじめた浅野さんに、大丈夫か?と思いながら訊く。<br />「誰ですか?あの人って、賭けって、何の賭けですか?」<br />「いや、それはほら。ひ…あ、」<br />「ひ?」<br /> 浅野さんの眼が泳ぐ。<br />「えぇとっ。ひ、ひっ、ひっ…」<br /> ??? どうした、まさかヒキツケでも起こしたか?<br />「ひ、人でなしの、そう、人でなしのだな、先見の明がある…あ、」<br /> 浅野さんがさらに混乱して、今度はがば、と自分の口を両手で押さえつけた。<br /> 先見の明?<br />「ああ、もしかして、借金肩代わりしてくれた人、ですか?」<br /> 浅野さんがまだ両手で口を押えたまま、眼を白黒している。<br /> あの~、窒息する気ですか?<br />「な、なんで、わかった」<br /> いや、だって。わかるでしょ、そんな簡単なこと。<br />「う、ダメだ。バレたら殺すって言われてたんだ。マズイ、絶対マズイ。あ、俺帰るわ」<br /> 頭を抱えるようにして、いきなり立ち上がった浅野さんは、そのままふらふらと入口の方へ歩き出した。<br />「え?あ、浅野さんっ?どうしたんですか、帰るんですか?」<br /> 訳がわからない状態のあたしをそのまま放置して、浅野さんは部屋を出て行った。<br /> いったい、どうしたんだ?<br /> 一瞬ぽっかーんとして後ろ姿を見送ったけど、まぁいいや、とあたしは仕事に戻った。<br /> <br /> そこに今度は。<br />「お疲れさま」<br /> と言って三代目が入って来た。<br />「あ、おかえりなさい、専務。お疲れさまです」<br /> 3日ほど出張続きだったはずの三代目は、相変わらず忙しそうだ。眼の下に疲れの影を認めて、あたしは言った。<br />「あの。アイスコーヒー、いかがですか?」<br /> 梅雨の晴れ間の今日は気温も盛夏かと思うほど高く、額に汗をかいた三代目はほっとした笑顔を見せると言った。<br />「ああ、ありがとう」 <br /> 事業部に備えたばかりの小さな冷蔵庫からアイスコーヒーのパックを出し、氷を入れたコップに注ぐと、ミルクとガムシロップ、ストローを添えて三代目の前に置く。<br /> 三代目は相当疲れているのか、ミルクだけでなくめずらしくガムシロップも入れて、アイスコーヒーをおいしそうに飲んだ。<br />「ところで、兄さんが慌てた様に帰って行ったけど…?」<br /> ああ、会ったんですね。<br /> 最後は挙動不審みたいになった浅野さんを思い出して、あたしはく、と笑った。<br />「?」<br /> 三代目が怪訝そうな表情で、どうしたのと目顔で訊いてくる。<br />「専務。浅野さん、借金全額返済したって本当ですか?」<br /> ああ、と言う風に三代目はちょっと顔を曇らせた。<br />「まったく、兄さんは。ずっと返済が滞っていたかと思ったら、いきなり社長室にやってきて、現金で残額の80万円を置いていった。いきなりどうしたのかと問い詰めた私たちに、昔からの知り合いが都合してくれたって言うんです」<br /> 昔からの知り合い? へぇ、そんな奇特でお金に余裕がある人がいたんだ。なら、なんで最初からその人に借りなかったんだろう。<br />「そんな関係のない、言わば他人に迷惑をかけるくらいなら時間がかかってもいいから身内に返済しなさいと言った社長に、兄さんは返済が必要のない金だと言ったんです」<br />「返済が必要ない? それって、どういう…」<br />「詳しくはどうしても言わなかったけれど、契約金にみたいなものだとか…」<br /> ああ、そう言えばバイトはじめたとか言ってたっけ。でもバイトで、契約金?<br />「またおかしなことに関わっているのではと、社長は大変心配していたんですが、そうでもなさそうで…」<br />「そう、ですか」<br />「なにか、訊いていませんか?」<br /> と言われて、あたしはギクリとした。<br /> 三代目の質問が浅野さんのことだとわかっていても、あの秘密を知ってしまったことが、あたしの態度をどことなくぎこちないものにする。<br />「い、いえ。とくに何も!」<br /> 思わず声に力が入ってしまった。<br /> 三代目が、ちょっと怪訝そうな顔をした。<br /> マズい、あたしボーカーフェイス苦手なんだよぉ。<br /> そのとき事業部のドアが軽くノックされて、綺麗な女性がドアを開けた。<br />「失礼いたします」<br /> その女性はあたしには見向きもせず、三代目を見ると優雅な仕草と声でこう告げた。<br />「専務、社長がお待ちかねですが」<br />「ああ、悪かった。すぐ行く」<br /> そう言うと、三代目は立ち上がった。<br />「コーヒー、ご馳走さま。なかなか君たちと打ち合わせができなくて、申し訳ない」<br /> そう気遣ってくれる三代目に、あたしは言った。<br />「お忙しいのはわかっています。それより、社長がお待ちですから」<br /> ああ、と頷いて、三代目は急ぐように事業部を出て行った。<br /><br /><br /> 浅野さんには、ああ言ったけど。<br /> 人の抱えている影や宿命は、似ているようで根本的に大きく違うのだと思う。<br /> たとえば有さんと、三代目。<br /> 実の両親ではない人達に育てられたという意味では、その境遇は似通っていなくもない。<br /> でも三代目は、知らない人達にいきなり引き取られたわけではない。しかも母親は不幸にも亡くなってはいるけれど、存命な実の父親とともにそれが誰なのか、ちゃんとわかっている。<br /> そして三代目は、待っていてくれる人がいる。幼い頃はきっと母親が、そしていまは愛情を注いで育ててくれた母親兼社長が。三代目は、亡くなってしまった母親を待つ人ではない。母の面影を持つ新しい母に、幼い頃もいまも待たれている人なのだ。<br /> 有さんとは、そこが決定的に違う。<br /><br /> 有さんは、実の両親を知らずに育った。しかもその両親が生きているかも死んでいるかもわからないまま、たった独りで“ 待って”いたのだ。<br /> いつ迎えに来てくれるのか、永遠に迎えになど来てくれないのか、それすらもわからないまま。<br /> でも、有さんはきっと心のどこかで待っていたのだと思う。確たる望みのない状況で幼い子供がひたすら待ち続ける、それはどんなにか切なく空しく狂おしい時間だっただろう。<br /> ただ、ひたすら絵を描きながら。優しいけれど他人のシスターたち、そして同じように孤独を心の奥深くに抱え込んだ子供たちの中で。<br /> やがて迎えに来てくれたのは、実の両親ではなくて、新しい両親になる人達。その家庭に迎え入れられて、有さんは待つことを止めただろうか?<br /> その答えは、あの絵の中にあるような気がした。<br /> 有さんが描いた、後ろ姿の母親の絵。<br /> それが氷川家のお母さんなのか、実の母親なのか、あのとき有さんにもわからなかったのではないだろうか。<br /> 自分が心待ちにしているのは、いまのお母さんの笑顔なのか、本当のお母さんの笑顔なのか。振り向いてほしいのに、振り向いてほしくない、なぜならどちらでも苦しいから。もしいまのお母さんの顔でなければ、自分を引き取って育ててくれた人への義理が立たない。だけど本当のお母さんだとしても、自分はその顔すら知らないのだ。振り向いたその顔が思い描いていた母とは全く別の顔だったら、いや顔のないのっぺらぼうだったら…。<br /> 有さんの葛藤が、いまなら少しはわかる。ううん、実のところはわかったなんておこがましいだけかもしれないけど。<br /><br /> そんなとき、待ち人が現れたら…。<br /> その人との時間を取り戻そうとするのは、当然だ。知りたかったこと、訊きたかったこと、確かめたかったこと、過去と現在を整理しなければ、有さんみたいに頭のいい人だって前には進めない。<br /> 時間が必要なのだ、待った時間と同じくらい、いやそれ以上の密度が濃い時間が。<br /><br /> ねぇ、有さん。<br /> だからあたしも、待とうと思うの。<br /> 待っていることを告げることもできなかった有さんと同じように、ひっそりと誰に告げるのでもなく。<br /> ただ待って、待って、待って、待って。<br /> 逢えない時間を、想いの時間に変えていく。<br /> 答えがない、終わりが見えないからこそ、あたしはそこに期待なんかしない。<br /> ただ、待つだけ。あの日の幼い有さんのように。<br /> 迷子の仔猫のままで。開け放たれた鳥籠から出ることもできずに、隅っこに縮こまる盲目な鳥のように。<br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" /></a><br /><br />
  • Date : 2017-03-19 (Sun)
  • Category : アイス
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⑬専務の秘密

 浅野直樹の名前は、この世に生を受けたときは『片山直樹』だった。 片山直樹の母、彩華(あやか)は直樹が2歳のときに病死した。 直樹の父、片山友利(かたやまゆうり)は浅野興産の社員で、彩華は浅野グループの直系の次女、つまり浅野麗華(あさのれいか)の妹だった。 妻の死後、男手一つで直樹を育てると言った片山友利に、麗華と彩華の父は反対した。片山友利は将来を嘱望された男で(だからこそ浅野家の令嬢である彩華... <span style="font-size:large;"> 浅野直樹の名前は、この世に生を受けたときは『片山直樹』だった。<br /> 片山直樹の母、彩華(あやか)は直樹が2歳のときに病死した。<br /> 直樹の父、片山友利(かたやまゆうり)は浅野興産の社員で、彩華は浅野グループの直系の次女、つまり浅野麗華(あさのれいか)の妹だった。<br /> 妻の死後、男手一つで直樹を育てると言った片山友利に、麗華と彩華の父は反対した。片山友利は将来を嘱望された男で(だからこそ浅野家の令嬢である彩華との結婚に何の障害もなかったのだが)、仕事と育児の両立で持てる能力を疲弊させるにはあまりにも惜しい逸材だった。<br /> それに、まだ2歳と言う幼い子供には、母の愛情と温もりが不可欠だと浅野家の誰もが考えた。<br />「ねぇ、お父様。あたしが直樹の面倒も見るわ」<br /> 5歳の長男がいる麗華が、そう申し出た。<br />「しかし、お前はレイカ・インターナショナルを立ち上げたばかりだろう?」<br />「大丈夫、これまでだって経営に関することは真也(しんや)さんがやってくれたし。あたしの仕事はデザイン部門の管理をすることだから、お手伝いさんやベビーシッターの手を借りれば十分可能よ」<br /> 麗華の夫、浅野真也は婿養子だった。麗華とは大恋愛の末に結婚し、他の浅野家の人材から見れば凡庸の部類に入るが、情と懐の深さは経営面だけでなく相談役としても存在感を示しはじめていた。<br />「直樹、麗華おばちゃん好きでしょ?」<br /> まだあどけない2歳の男の子は、母と仲が良く、似た容姿を持ち、母が亡くなってからいっそう可愛がってくれる麗華が大好きだった。<br />「うん、大好き」<br />「直坊、おじちゃんは好きか?」<br /> 浅野真也が、子供や動物になぜか好かれる温厚な表情をさらに優しく崩して、直樹に訊ねた。<br /> ちょっと小首を傾げて可愛らしく考えた直樹が、やがて言った。<br />「うん、一真お兄ちゃんの次に好き」<br /> それを訊いて、浅野真也は傍らに立っていた、自分の息子に訊いた。<br />「一真。お前、弟を欲しがっていただろう。直樹がなってくれるぞ」<br />「お父さん、違うよ、僕が欲しかったのは子分だよ」<br /> つんと鼻を上げてそう言った一真の手を、小さな手がそっと握った。<br />「一真お兄ちゃん…」<br /> やっと歩きはじめた直樹を可愛がり過ぎて、いつも最後は泣かしてしまう不器用な一真が、きゅっと眉根を寄せた。<br />「なんだよ、直樹。心配するなよ。よし、今日から直樹を僕の子分にしてやるっ!」<br /> それを見た浅野麗華は、片山友利に言った。<br />「友利さん、あなたは浅野グループのために欠かせない人よ。思う存分、その力を発揮して頂戴。直樹は、大事な妹の忘れ形見は、あたしが責任持って育てるわ」<br /> こうして幼い直樹は浅野真也と麗華の養子となり、一真と共に2人の子供として育てられることとなった。<br /> そして現在、片山友利は浅野興産の取締役として、期待以上の仕事をしている。彼はこの5年後に再婚し、2児の父となった。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br /> 浅野さんの話を聞き終えた並木さんとあたしは、三代目の秘密の予想もしなかったシリアスさに、ぽかんとした。<br />「え、いや、これどうリアクションしたら…」<br /> やっと我に返った並木さんが、いまだ戸惑ったままで浅野さんに問う。<br />「は?どういうことだよ、好きにリアクションすればいいだろ?」<br /> 訊いてはいけない秘密を訊いてしまった感ありありのあたしたちと対照的に、浅野さんはいたってフツーだ、むしろ気にしなさすぎる。<br />「あ、あの…ですね。話しの内容が予想以上に重いのと、そんな重大な秘密をあたしたちごときに話しちゃっていいんですか?」<br /> あたしの意見に並木さんも、激しく同意する。<br />「そうですよ。これ、マジ重大な秘密っていうか…。あ、あれ?このこと、レイカ・インターナショナルの正社員の人達は、どのくらい知ってるんですか?」<br /> 並木さんが、大事なことに気づいた。<br />「あ?たぶん俺んちの家族以外、知らないんじゃねぇか?もし知ってたら、直樹に秋波送ってくる女子社員は多少なりとも減るだろうし、それ以前に女は一般的には口軽いから会社中に広まってるだろ」<br /> な、な、な、なんですとぉ~? 浅野さん、なんて秘密を暴露してくれちゃったんですかっ!<br /> 並木さんとあたしは、恐らく同じ考えが浮かんで、思わず顔を見合わせた。<br /> じゃ、じゃあ、この秘密がもしバレたとしたら、漏らした犯人は…。<br />「あ、あたしたちが、まず疑われるってこと?」<br /> ひえ~となって互いの手を握り合ったあたしたちを、浅野さんは涼しい顔で、しかも若干うすら笑いを浮かべて見ている。<br />「うわぁ、訊かなきゃよかったぁ~。なんで話したんですかっ、浅野さんっ!」<br /> 今度は頭を抱えた並木さんに、浅野さんがしれっと言う。<br />「何言ってんだよ、野次馬根性丸出しで訊きたがったのは、お前らだろ」<br /> そ、そうですけど…。<br /> どうしていいかわからない並木さんとあたしは、気を落ち着かせようと、すっかり泡が消えた生ビールを口に運ぶ。<br />「あ、おかわりする?それ、もうマズいだろ」<br /> はい、じゃあ…じゃなくって。<br /> もう、浅野さんてば、なんでそんなに呑気で平然としてられるんですか。<br /><br /> 新しい生ビールが運ばれてきたところで、浅野さんが言った。<br />「大丈夫だよ。だってお前ら、チームだろ?しかも直樹本人が選んだチームだ」<br />「浅野さんだって、そのチームの一員ですよ?」<br /> お酒が弱いはずなのに、2杯目の生ビールを飲んでも全然酔わないことに気づきながら、あたしは言った。<br />「うん、だからさ。直樹が抱えてるいろんなことを理解した上で、チームでいてくれよ」<br />「でも、もし社内にバレたら?」<br /> 並木さんが訊く。<br />「あのさぁ、リオン。秘密ってのは、バレるときはバレるんだ。それに俺たちは、こんなの秘密でも何でもないと思ってる。ただ、こっちからあえて言うまでもないことだって思うから、言わないだけで」<br />「バ、バレてもいいって、専務も社長も思ってるってことですか?」<br /> そう言って、あたしと並木さんは再び顔を見合わせる。<br />「俺らにとって、それはあんまし重要なことじゃないからな。むしろ問題なのは、直樹がいままでいい子過ぎたことだよ」<br />「いい子過ぎた…?」<br />「ああ。あいつには、反抗期らしい反抗期がなかったんだよ」<br /> その言葉に、事実に、並木さんとあたしはギクリとした。<br /> 親子なら、実の子なら、当然あるはずの成長の証とも言える反抗期。多かれ少なかれ誰にもあるであろうそれが、なかったってことは…。<br />「あいつは、いつだって期待に応えようとし過ぎてきた。だから今回の新規事業への執念は、あいつなりの反抗期じゃないかって俺は思うんだ」<br />「だから、社長も許したんでしょうか?」<br /> 恐る恐る聞いたあたしに、浅野さんがふっと笑う。<br />「さぁな、それはどうかわからないな。あの人は、つまり社長は、直樹は本物の優等生だって信じてるからな。実の息子より、100倍頼りにしてるよ」<br />「にしても」<br /> とぼそりと呟いた並木さんが、浅野さんをまじまじ見る。<br /> へ?と若干嬉しそうに見つめ返す浅野さん。<br />「どうして、こっちはこうなっちゃったんですかね?」<br /> その言葉を訊いて、あたしはぶ、とビールを噴きだした。<br />「お、おい、汚ねぇな、菜乃介。ていうか、何だよリオン。その言い草は、酷ぇな」<br />「だって!実の息子がこんなで、養子の次男があんなって…あたしが母親だったら、超ムカつくっ。泣くっ、いや泣くに泣けない!」<br />「こんなって、どんなだよっ。あんなって…酷ぇ…」<br /> もっともな並木さんの意見に軽~くショックを受けている浅野さんに、あたしはつい追い打ちをかけた。<br />「見事な悪役、ヒールっぷりですけど。浅野さん、そこまで崩れなくても」<br />「ぅっ、菜乃介っ、お前まで。悪かったよ、こんなで、ここまで崩れて」<br /> ふいっとそっぽを向いて、ぐぃっと一気にビールを飲む浅野さんを見ながら、並木さんとあたしは噴き出した。<br />「いいんじゃないですかぁ、お兄ちゃん。ダメダメ長男と超優秀次男、バランスは取れてますから」<br /><br /> 並木さんの言葉に、さらに不貞腐れたように頭を掻いた浅野さんだったけど…。<br /> もしかしたら。<br /> 損な役回り、ついつい買って出ちゃったのかも、とあたしは思った。<br />『兄貴はああ見えて、弱者には優しいんです』と言った三代目の声が思い出された。弱者というのは、やっぱり三代目自身のことだったんだろう。<br /> 浅野さんの奇抜な格好やルートから外れた生き方の理由を、三代目は薄々感じていたんだろうか。<br />「ねぇ、浅野さん」<br />「おぅ、なんだよ、菜乃介」<br />「浅野さんは、いまの生き方、後悔してないんですか?」<br /> はぁ?と一瞬、浅野さんが驚いた表情になった。<br />「何言ってんだ、菜乃介?後悔するわけないだろ。俺は自由だ、正直だ。この生き方しかできねぇよ」<br />「そう、ですか」<br /> だけど浅野さんは、ふっと真顔になってつけ加えた。<br />「後悔してるって訳じゃないけどさぁ」<br />「はい」<br />「直樹にさ、押しつけちゃったんじゃないかって思うことはあるよ」<br />「押しつけた?」<br />「ああ。真っ当な生き方、期待に応える生き方。お前は心底それが望みだったのかって、一度くらい訊いてやっても良かったのかなぁって」<br /> なんか…浅野さん、お兄ちゃんじゃん。それに、やっぱいい人じゃん、変人だけど。<br />「もし訊いて、望んだのはこんな生き方じゃないって言われても、浅野さんに専務の代わりなんてできる訳もないんだから、しょうがないんじゃないですかぁ?」<br /> すっかりいろいろ立ち直った並木さんが、きっぱりそう言った。<br /> それに浅野さんは、ぐぅ、と一言唸るとガハハと笑った。<br />「ちぇ。その通りだよ、リオン。だからさ、お前ら、直樹を助けてやってくれよ。がんばって新しい事業、成功させてやってくれよ」<br />「あのですね、忘れてるみたいですけど、浅野さんだってチームの一員なんですからねっ!」<br /> 並木さんが念を押すように、人差し指をピッと立ててわざと厳しい表情で言った。<br />「はいはいはいはい、わかってますよ」<br />「はい、は一回!」<br />「お前ねぇ、リオン。小姑気質なんじゃねぇか?」<br />「誰が小姑ですか!」<br /> 浅野さんがボケて並木さんがツッコむと言う役割分担が、その夜、確定した。よく話し、よく飲み、よく食べ、お互いを信頼できた、とてもいい飲み会だった。<br /></span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" /></a><br /><br />
  • Date : 2017-03-18 (Sat)
  • Category : アイス
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⑫浅野vs並木

「浅野さん、何でいるんですか?」 椅子にふんぞり返ってコーヒーを飲んでいる浅野さんに、並木さんが冷たく言い放った。「っ、おい、リオン。ひでぇな。スタッフとして自覚を持てって、うるさく言ってたのはお前だろ」 不服そうに文句を言う浅野さんに、並木さんは平然と言う。「それは会議とかがあるときの話です。今日は浅野さんの仕事はありませんよ。暇つぶししに来たんなら帰ってください。むしろ、邪魔です」「おまっ、は... <span style="font-size:large;">「浅野さん、何でいるんですか?」<br /> 椅子にふんぞり返ってコーヒーを飲んでいる浅野さんに、並木さんが冷たく言い放った。<br />「っ、おい、リオン。ひでぇな。スタッフとして自覚を持てって、うるさく言ってたのはお前だろ」<br /> 不服そうに文句を言う浅野さんに、並木さんは平然と言う。<br />「それは会議とかがあるときの話です。今日は浅野さんの仕事はありませんよ。暇つぶししに来たんなら帰ってください。むしろ、邪魔です」<br />「おまっ、はっきり言うねぇ」<br /> 身も蓋もない言い方をされたのに、浅野さんはむしろ嬉しそうににやにやしている。並木さんはそんな浅野さんを軽く無視して、コンペ用の企画書づくりに真剣だ。<br />「菜乃介、ひでぇと思わないか?コイツの態度」<br /> 並木さんに無視された浅野さんは、今度はあたしにちょっかいを出す。<br />「え~、まぁ。浅野さんがいま邪魔なのは事実だから、しょうがないんじゃないですか?」<br /> あたしも並木さんに負けずにそう言うと、浅野さんはがくっと頭を落とす。<br />「ったく、お前らは。年長者を尊敬するっていう、日本の美徳はどこへ行った」<br />「そんなの。年寄りだからって、無条件に尊敬なんかできませんよ」<br />「おいっ、リオン。年寄りとは何だよ、年寄りとはっ。俺だって、まだ30代だっ」<br /> 相変わらず並木さんvs浅野さんの掛け合いは、面白い。お互い遠慮がないだけに、吹き出してしまうこともしばしばだ。<br /><br />「ちぇ」<br /> と少し不貞腐れた浅野さんが、ふたり分の新しいコーヒーを淹れて、並木さんとあたしの机に置く。<br />「なぁ、今日終わったら、飲みに行かね?」<br />「ヤです」<br /> 並木さんがパソコンから眼も離さず、浅野さんの提案を一刀両断した。<br />「おいおい、即答すんな。今日もまた残業か?どうせ残業代なんて出ないんだろ?」<br />「残業でなくとも、浅野さんとは飲みに行きません」<br />「なんでだよ、リオン」<br />「時間を無駄にしたくないから?」<br /> 取りつくシマもないくらいの並木さんに、さすがの浅野さんも傷ついたらしい。いい年して、拗ねた。<br />「ちぇ、わかったよ、リオン。もう、お前は誘わねぇよ。なぁ、菜乃介、飲みに行こうよぉ」<br /> 今度は矛先をあたしに向けて、浅野さんは甘えた声を出した。悪いけど逆効果、若干気持ち悪いです、浅野さん。<br />「え~、浅野さんとふたりでですかぁ?」<br />「なんだよ、ふたりじゃ嫌かよ?」<br /> あたしもまた並木さんと同じように、コンピュータの画面を見つめたまま、う~んと考え込んだ。<br />「な、なんだよ。菜乃介、お前までツレねぇなぁ。あ、そうだ。面白い話してやる、直樹の秘密!訊きたくねぇか?」<br /> 浅野さんが眼の前にぶら下げたエサに、なんと並木さんが食いついた。<br />「専務の秘密!?どんな?」<br />「なんだよ、リオン。お前は関係ねぇだろ」<br /> 今度は浅野さんが、並木さんに対して上から目線になる。<br /> 並木さんは、そんな浅野さんからフンッと顔を逸らすと言った。<br />「ど、どーせ。たいした秘密じゃないんでしょ?」<br />「さぁ、どーだかなぁ?な、菜乃介。だから飲みに行こうよ!」<br /> 浅野さんがこれ見よがしにあたしを誘うと、並木さんにドヤ顔を向ける。<br /> ったく、子供みたい。しょうがないなぁ。<br />「ほんとに凄い秘密、なんですか?」<br />「お、おぅっ!」<br />「でも、やっぱり並木さんが行かないなら…」<br /> あたしがそう言って並木さんを見ると、浅野さんはニヤ、と笑って言った。<br />「だとよ、リオン。しょうがねぇから、お前も連れてってやる」<br /> また、上から目線。もう、それで並木さんが「うん」という訳がない。<br />「ふん、あとで菜乃果に訊くから、いいです」<br /> ほら、見ろ。<br />「え~、並木さん。浅野さんとふたりじゃ、ヤだぁ。並木さんも行こうよぉ」<br /> 意地っ張りなふたりに、しょうがないからあたしが折れた。<br /> でも、並木さんはさすが並木さんである。<br />「菜乃果がそう言うなら…。そうだ、奢ってくれるならつき合ってあげてもいいですよ?」<br /> あくまで、しょうがないからつきあってやる的なスタンスを崩さない並木さん。見るからにお金持ちじゃなさそうな浅野さんに、そう言い放った。<br /> まあ、見た目だけじゃなくて、実際、浅野さんには借金があるしなぁと思っていたあたしの耳に、思いがけない台詞が聞えた。<br />「お、いいぜ」<br />「え、マジですか?」<br />「おう、俺、最近バイト代が入るように…あっ!」<br /><br /> バイト代? 軽くスルーしようとして、なぜか気になった。<br /> 浅野さんはフリーとはいえ、本職のカメラマンである。だから撮影の仕事なら、バイトではなく新規の仕事とか発注になるはずだ。それがバイト代って、どういうこと?<br />「浅野さん、なんか悪いことしてませんよね?」<br />「ば、ばか。してねぇよ」<br /> 浅野さんが、慌てたように眼を逸らす。怪しい、絶対怪しい。<br />「ふうん」<br /> なんとなく釈然としないあたしは、さらにこう訊いてみた。<br />「借金は、順調に返してるんですか?」<br /> 借金と訊いて、並木さんが呆れた顔で浅野さんを見やる。<br />「借金?ああ、ばばぁにした、アレか?完済したぜ」<br /> 浅野さんが胸を張る。<br /> なんだって?それは、ますますおかしい。<br /> 2月に契約社員の件で三代目と浅野さんと会ったときには、確か毎月10万の返済が滞りに滞っているという話だったのに…?<br /> それが約半年ほどで、完済できるなんてどう考えてもおかしい。<br />「どうやって?」<br /> と訊いたあたしに、浅野さんが再び薄っすら慌てる。今度は慎重にボーカーフェイスを決め込もうとして、ボロが出た感じだ。<br />「お、俺に先行投資してくれるっていう、先見の明がある人のお蔭で…」<br />「そんな酔狂な人いるんですか?」<br /> 並木さんがもっともなツッコミを入れるから、あたしもこくこくと大きく頷く。<br />「す、酔狂だろうが何だろうが、俺の才能をだな…」<br />「才能…ねぇ」<br /> 並木さんがわざとため息交じりに言って、からかう。<br />「まぁ、捨てる神あれば拾う神ありってことですかね。じゃ、並木さんも行く?」<br /> そう言ったあたしに、並木さんは元気に「うん」と答え、浅野さんはまだ不満そうにごにょごにょ言っていたけど。<br /> その日の終業後、あたしたちは3人で初の飲み会となった。<br /><br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「ここでいいか?」<br /> とーっても大衆的な居酒屋の前で、浅野さんが言った。<br />「えー、高級フレンチじゃないのぉ?せめて、あたしイタリアンが良かったなぁ」<br /> 全く遠慮なく並木さんがそう言って、口を尖らす。<br />「おまっ、リオン。ここ、つまみが旨いんだぞ。おまけに安いし、最高だろ」<br />「はいはい、並木さん。<strong>この</strong>、浅野さんに奢ってもらうんだから、文句言わない」<br /> あたしはそう言って、並木さんの背中を押す。<br />「そうだよ。奢ってもらう身で贅沢言うな」<br />「うそうそ、あたしこういう気を張らない居酒屋、だ~いっ好き!」<br /> 並木さんがそう言って、茶目っ気たっぷりにぺろ、と舌を出す。<br />「なんだ、わかってんじゃねぇか、リオン。」<br /> 今度は本当に嬉しそうな顔になった浅野さんと3人で、店の中へ入った。<br /> <br /> メニューを見て、浅野さんと並木さんが適当におつまみを頼み、あたしたちは生ビールで乾杯した。<br />「くー、うめぇ」<br /> ぐびびっと1/3ほど一気に飲み干した浅野さんが、そう呻(うめ)いた。<br />「ホント、はぁ~生き返るっ!」<br /> 口についた泡を拭った並木さんも、そう言って笑った。<br />「おい、リオン。お前、強そうだな」<br />「まあまあイケる口ですけど。そう言う浅野さんは、どうなんですか?」<br />「俺?底なし」<br /> うわぁ、なんだか始末に負えない予感がするのは気のせいか?<br />「菜乃介、お前はどうなんだ?」<br />「あたしは、あんまし…。どっちかというと弱いです。たぶん、これ一杯で充分」<br />「ええぇ~、マジで?」<br /> 並木さんがものすごく驚いた表情をするけど、その反応にかえって驚くんですけど。<br />「なんだ、つまんないヤツだな」<br />「誘っといて、酷いですよ。でも、お酒のつまみは好きですよ?」<br /> あたしはそう言って、早速お通しの酢の物に箸をつけた。<br />「専務は、どうなの?」<br />「どうって、酒に強いかって意味か?リオン。アイツも強いな、顔色一つ変えないクチだ」<br />「へぇ」<br /> ちょっと感心したように、並木さんが言う。<br />「一度、飲んでみたいなぁ。ねぇ、菜乃果?」<br />「そ、そうだね」<br /> とは言ったものの、緊張しそうだし、かちこちになって悪酔いしそうだ。<br />「で。早速だけど、専務の秘密って?」<br /> 並木さんが興味津々な様子で眼を輝かせると、浅野さんの顔を覗き込んだ。<br />「まぁ、待てよ」<br /> ちょうど生ハムサラダとお刺身の盛り合わせが運ばれてきたのを見ながら、浅野さんがもったいつける。<br />「つまんない秘密だったら、ホント、明日から口ききませんよ」<br /> そう並木さんが宣言するのを横目で見ながら、あたしは生ハムサラダをそれぞれに取り分けた。<br /> そのサラダに、ぶすっとフォークを突き立てながら、浅野さんがにやぁ~と笑った。<br />「この俺様が、がっかりさせるわけないだろ」<br /> そのほかの事ではいろいろガッカリさせ続けている『俺様』が、そう言った。</span><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" /></a><br /><br />
  • Date : 2017-03-15 (Wed)
  • Category : アイス
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⑪仁王立ちの来客

 三代目が加わっての久しぶりのミーティングは、とても充実したものだった。 並木さんは話したくてしかたなかったアイデアを次々と提案して、ふたりで考えたブランド・コンセプトも三代目に興味を持ってもらえた。「方向性が見えてきましたね。ブランド・コンセプトはもう少し揉んで、いくつかのキーワードに落とし込んでみてください。それをもとにデザイン・コンペを行いましょう」 わくわくする。いよいよ動き出した感があっ... <span style="font-size:large;"> 三代目が加わっての久しぶりのミーティングは、とても充実したものだった。<br /> 並木さんは話したくてしかたなかったアイデアを次々と提案して、ふたりで考えたブランド・コンセプトも三代目に興味を持ってもらえた。<br />「方向性が見えてきましたね。ブランド・コンセプトはもう少し揉んで、いくつかのキーワードに落とし込んでみてください。それをもとにデザイン・コンペを行いましょう」<br /> わくわくする。いよいよ動き出した感があって、並木さんの顔も期待感に輝いている。<br /> そんな中、いい意味でも悪い意味でも平常運転なのが浅野さんだ。<br />「あのさぁ、今度からこういうミーティングに、俺いらねぇだろ」<br />「何言ってるんですかっ!浅野さんもスタッフの1人なんですよ、もっと自覚持ってください」<br /> 並木さんにぴしりと怒られて、浅野さんはふくれっ面になる。子供ですか?<br />「だってさぁ、俺、女の服になんか興味ないんだよ」<br />「その興味のないプロジェクトに、なんで加わったんですかっ!」<br />「い、いやぁ。それはさぁ、ほれ…」<br /> 浅野さんは薄笑いをしながら、あたしと三代目を交互に見る。<br /> ん、なに? わからない。<br />「興味はなくても、これから被写体にするものの方向性なりイメージをきちんと把握しておくことは大事です」<br /> 三代目も、きっぱりと釘を刺す。<br />「あ、女の服には興味ないけど、女には興味あるから、俺。いい写真は撮るから、その点は大丈夫」<br /> ふざけたことを言う、ある意味ブレない浅野さんに、並木さんがしれっと言った。<br />「商品カタログは、置き撮りにしよっかなぁ」<br />「なっ、モデルじゃないのかよ、リオン」<br />「だって、カメラマンが下心見え見えで撮影したりしたら、ブランドの品性が地に落ちそうだもん」<br />「おまっ、それはほら。俺だってプロだから、写真はちゃんと撮るよ」<br /> どーだか、とそっぽを向く並木さんと浅野さんの掛け合いに吹き出してしまう。<br />「おい、菜乃介。お前も、何とか言えよ」<br /> 社会人になり浅野さんと一緒に仕事をするようになって、あたしの呼び名は「女子大生」から「新米OL」を経て、「菜乃介」に落ち着いた。<br /> 並木さんは最初からちゃんと名前で呼んだのに、なんであたしは菜乃果ではなく「菜乃介」なのかさっぱりわからない。<br />「はいはい。まぁ、大袈裟ですけど、洋服は女性の生き方みたいなもんですから。浅野さんは、私たちのブランドを選んで着てくれる女性像みたいなものを撮ってくださいよ」<br /> 何気なく言ったつもりなのに、三代目と並木さんが驚いたような眼であたしを見る。<br />「へ?あ、あの…」<br />「菜乃果ってさ」<br />「う、うん」<br />「100回に1ペンくらい、もの凄く真理を言うよね」<br /> 100回に1ペンて…。もの凄く、確率低い気がするんですけど。<br /> 案の定、ぶはっと浅野さんが噴いている。<br />「ああ、もうそろそろ昼だぁ~。俺、帰るから」<br /> 落ち込んだあたしにそう言って、浅野さんは企画開発事業部の部屋を出て行った。<br /><br /> と、思ったのに。<br />「おい、菜乃介。会社の前に仁王立ちしてるオンナが、沢口菜乃果を呼べって言ってるぜ」<br /> だ、誰ですか、それ。 しかも、仁王立ちって…。<br />「なに、痴話的な?」<br /> 並木さんが、心配と好奇心が入り混じった顔で訊いてくる。<br />「まさかぁ。あたしの身辺、浮いた話なぁんにもないもん」<br /> だよね、って自分に確認してみる。うん、有さん以外に男の人の影もないし。びっくりするくらい、きれいさっぱり潔白だ。<br />「だよな」<br /> って、浅野さん。そこ、肯定するとこじゃないでしょ。まぁ、事実だからいいですけど。<br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「り、りこさんっ!?」<br /> 恐る恐る行ってみた会社のビルの真ん前にいたのは、なんと、りこさんだった。しかも腰に両手を当てて、見事な仁王立ち。まるで仁王立ちのお手本のようだ…って、感心している場合ではないが。<br /> ぽかん、としてしまったあたしに、りこさんはずぃと詰め寄ると有無を言わさない感じで詰め寄った。<br />「時間ある? というか、昼休みでしょ?お昼、つきあいなさい」<br /> <br /> 目の前を、りこさんが、ずんずん歩いて行く。<br /> その後ろ姿を追いかけながら、ああ、レイカ・インターナショナルのメイン顧客って、きっとりこさんの様な人達なんだろうなぁと思う。<br /> 隙のないメイクに毛先の流れまでセットアップされた髪、今シーズンとわかるデザインのワンピースに、海外ブランドの靴とバッグ。<br /> 細すぎず、太過ぎず、メリハリのあるボディは、きっとプロの手できちんとケアされている。お金をかける楽しみも成果も知り尽くしている日常、経済的に自立しなくても全然困らない未来。<br /> それを羨ましいかと問われれば、意外にそうでもないのは、いま自分が仕事にやりがいを感じはじめているおかげなのだと思い当った。<br /> そんなことをつらつら考えているあたしの前で、りこさんが突然立ち止まって振り向いた。<br />「ここで、いい?」<br /> いいもなにも。りこさんの口調にも態度にも、逆らうことを許さないものがあって、あたしは素直に頷いた。<br />「はい」<br /><br />✵ ✵ ✵<br /><br />「いらっしゃいませ」<br /> と出迎えた和服の上品な女性に、りこさんは慣れた様子でこう言った。<br />「個室、空いてるかしら」<br /> にこやかに頷いた女性が、どうぞと店の奥へ案内する。<br /> 個室と言ってもゆとりのある部屋へ通されて、あたしはりこさんと向かい合って席に着いた。めっちゃ気圧されながら。<br />「松花堂でいいかしら?」<br /> またしても、りこさんが有無を言わさない感じで問う。メニューもまだ見ていないあたしに、嫌と言う選択肢はなかった。<br />「じゃ、それ二つ。時間があまりないから、急いでほしいの」<br /> りこさんが、あたしの昼休みの時間を気遣ってくれたのはありがたかった。<br /> かしこまりました、と言って下がった女性と入れ替わるように、別の女性がおしぼりとお茶を持ってきてくれた。<br /><br />「時間もないことだし、単刀直入に言うわね」<br /> 時間があったとしても、りこさんならそうするだろう。そう思ったあたしは、こく、と頷いた。<br />「有さんと、別れたって本当なの?」<br /> まさに単刀直入、素晴らしくストレートだ。<br />「別れた、んでしょうか?」<br /> それに対するあたしの答えは、この期に及んでもの凄く曖昧で。<br />「って、あなた。何言ってるの? 別れたって意識ないの?」<br /> りこさんが驚いたように、眼を剥いて畳みかけてくる。<br />「たぶん、別れたんだ、と思います」<br /> 相変わらず、キレの悪い返答のあたしに、りこさんがイライラし出したのがわかる。<br /> だけど、あたしにもわからないのだ。確かに有さんは、待たないでくれと言った。だけど、もう嫌いになったとは言わなかった。あたしも、嫌いじゃない。嫌いどころか、うっかりすると日に何度も思い出してしまうほど大好きだ。<br /> あたしの心の一番深いところに、いまも有さんが居て「菜乃果」という声を訊かないようにするのが難しいくらいなのだ。<br />「たぶんって…あなたねぇ!」<br /> りこさんが、テーブルに拳を握った両手を置く。少し前のめりに強い視線を向けられて、あたしはなんだか申し訳ない気持ちになって来た。<br /> 一瞬、絶句したりこさんが再び口を開こうとしたとき、松花堂弁当が恭しく運ばれてきて、りこさんの勢いを削いだ。<br /><br />「ま、まあ、いいわ。取りあえず食べましょう」<br /> 松花堂弁当の蓋を開けるりこさんに倣って、あたしも艶やかな塗りの蓋をそっと開ける。<br /> 会議が終わる頃には確かにお腹が空いていたはずなのに、綺麗においしそうに可愛らしく整えられたお弁当を見ても、食欲がまったくわかない。<br /> だから少し冷えたお茶を、ずず、と飲んだ。<br />「有さんは、あなたに何て言ったの?」<br /> 綺麗にネイルを施した指で、お箸を上品に扱って、りこさんは炊き合わせの野菜を摘む。<br />「待たないでくれって」<br />「待たないでくれ? 別れてくれ、ではなくて?」<br />「はい」<br /> 何から手をつけていいかわからないまま、行儀悪く迷い箸をした手を止めて、あたしは頷いた。<br /> あのときのことを思い出すと、あのときの有さんの切なそうな苦しそうな顔を思い出すと、息が苦しくなる。いつも理知的で冷たいほど冷静な表情を歪めて、有さんは言ったのだ。 「待たないでくれ」って。あたしはあたしなりに食い下がったと思う。<br /> でも、でも。<br /> 有さんが辛いだけなら、あたしはその辛さをなんとかして、少しでも楽にしたいと思っただけなのだ。<br /> <br />「それは別れてくれってことかって、確認したんでしょう?」<br /> さも、それは当然と言う風に、りこさんが訊く。<br />「い、いえ…」<br />「はぁ?!」<br /> りこさんが綺麗に塗られた口紅が少し落ちた唇を、ぽかんと開けて呆れ切った眼を向ける。<br /> なんだか、居たたまれない。<br />「なんで、確認しないのよ!」<br /> そんなこと、そんなこと、確認なんかしたくない。だってそれを確認してしまったら…。<br /> あたしは有さんが好きで、有さんだけが好きで。有さんの籠の鳥で、だから、籠から出されたら死んでしまうから…。<br /> たとえ鳥籠の扉が間違って開けられても、隅の方にじっとして、小さく小さく身を縮めて、決して自分から出て行くことはしないのだ。そう決めたんだから。<br /><br /> 俯いて黙ってしまったあたしにイライラした様子で、りこさんは続ける。<br />「じゃ、待つとは言ったんでしょう?」<br />「それでも、待たないでくれって…」<br />「それで、はいって答えたの?」<br />「え、えっと。最後は、何も言いませんでし、た…?」<br />「はぁっ?!」<br /> りこさんが再び、目をくわっと見開いて盛大に呆れる。<br /><br /> だって、仕方ない。「待つ」と言い続けたって、有さんを苦しめるだけ。<br /> でも、あたしにはわかっていた。有さんを忘れることなんてできないって。きっとこれから先も、いつまでも、有さんだけがあたしの飼い主、あたしは有さんだけの仔猫。<br /> だから飼い主に捨てられたら、あたしは何処へ行けばいいんだろう。ずっとずっと、飼い主を探して、にゃあにゃあ泣き続けているしかない。にゃあにゃあ泣いて、声が涸れて、彷徨い疲れて、静かに目を閉じるまで。<br /><br /> その後もりこさんは、あたしに核心的な答えを、明確な事実を求めてことごとく失敗し、最後はあきれ果てたまま匙を投げた。 <br /> この単刀直入、ストレートの塊みたいなりこさんが…。<br />「疲れたわ」<br />「スミマセン」<br /> 新しいお茶を持ってこさせたりこさんが、ふぅ、と一つため息をついてそれを飲む。<br /> なんだか、本当に申し訳ない。<br />「あなた、それでいいの?そんな曖昧な状態で」<br /> それに対する答えだけは、明確だった。<br /> 待たないでくれと言われても、待ってしまう。たとえ別れてくれとはっきり告げられても、あたしは忘れない。<br /> 有さんを好きでいること、籠の鳥でいること、捨てられても有さんだけの仔猫でいることは変わらない。変えられないのだ。<br />「有さんが好きです。たぶん、ずっと。それだけは、曖昧じゃないから」<br /> 思わず沈黙したりこさんが、あたしをじっと見る。<br /> だけど、今度はあたしも眼を逸らしたりしない。それだけが、あたしのとって真実だから。<br />「答えを出すことが必要なんじゃなくて、真実が必要なんです」<br /> 何故、そんなことを言ったのかわからない。でも、それは今のあたしの気持ちに一番近いもので。もちろん、りこさんには伝わらなかったけど。<br />「新しい恋、とか、すれば?」<br /> そんなもの。有さんの替わりがいないように、替わりの恋なんていらない。<br />「仕事がありますから、それでいいんです」<br /> りこさんは、心底可哀想なものを見るような眼で、あたしを見た。<br />「あなたがいいなら、別にいいけど」<br /> それから徐(おもむろ)に、ほとんど手をつけていないあたしの眼の前のお弁当に目を移す。<br />「包んでもらう?」<br /> 頭を振ったあたしに、りこさんは「お金はいらない、あたしが誘ったんだから」と言った。<br /> あたしは頭を下げて個室を出て、会計で値段を訊いた。メニューさえ見なかったから、値段がわからないのだ。でも会計の人は、りこさんに言われているからと頑として受け取ってくれなかった。<br /><br /> 仕方なく店の外へ出て、会社へ戻る。<br /> その途中で、涙が滲んできた。<br /> 有さん、いま何してるの?お母さんのお世話をしているの?それとも仕事?絵を描いているとか?その絵は誰の絵?きっときっと…。<br /> 涙くらい流れたって全然構わない、構うもんか。そう思って交差点で立ち止まったとき、道の反対側に三代目が立っているのが見えた。だから、あたしは慌てて頬を伝う涙を拭った。<br /> 信号が変わって、道の途中で三代目とすれ違う。<br />「行ってらっしゃいませ」<br /> どこか取引先へ向かうだろう三代目に、あたしは笑顔でそう言えた、はずだ。<br /> 三代目は、無言で頷いて去って行った。</span><br /><br /><br /><a href="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=357034555" target="_blank"><img src="http://www.alphapolis.co.jp/cont_access.php?citi_cont_id=357034555&size=88" width="88" height="31" /></a><br /><br /><br />
  • Date : 2017-03-12 (Sun)
  • Category : アイス
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